魔法少女リリカルなのはStrikerS もう一人のストライカー   作:藤月沙月

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12:集え、星の輝き

 一帯を覆いつくす炎はほぼ消火され、残るは一人だけ取り残されている人命救助と、放火犯・マリアージュの殲滅のみ。

 

(目的が分かりやすいというのは、いい事ではあるんだが……)

 

 管制モニターに映し出される状況を見て、ディバインはその青い瞳を細めた。倒しても倒しても、際限なく増殖を続けるマリアージュの数は、容疑者――ルネッサ・マグナスが自白した稼動数を大幅に上回っている。既に彼女と今は亡きトレディア・グラーゼにはマリアージュの「操主」としての役割は失われており、覚醒を果たした冥王・イクスヴェリアにはそれらの機能が全て削除されているらしい。先程デバイスを通じて送られてきたデータから推測すれば、現在のイクスヴェリアには「マリアージュコアの生成能力」すらも失われ、生存能力以外の戦闘能力も皆無に等しい状態だ。

 

(なら、イクスの代替は……マリアージュの母体が何処かにいる……)

 

 だが、闇雲に探しても意味は無い。その上こちらは貴重な戦力であるスバルと深琴、両名と通信が取れない状況だ。幸いローゼンクランツとアルカディア、この二機は製作の都合上データ共有のためのリンクシステムが組み込まれている。それを遡って反応位置の確認やデータの送受信は可能だが、そこに通信機能は設けられていない。

 と、管制モニターの右端下――映像通信を知らせるアイコンが点滅していた。

 

『アーウィング執務官。ティアナです』

「どうした?」

『さっき、アルトさんから周辺探索の結果が届きました。地上で確認されたマリアージュは、現在迎撃している分で全部だそうです』

 

 添付されたデータに目を通して、ディバインは肩を竦める。

 

「残りは20機か。働き蜂の群れに隠れているか……あるいは、サーチャーに引っかからない地下に隠れているか、だな」

『そう思います。……私は地上から、スバル達の救援に向かいます』

「了解した。気をつけろよ」

『はいっ!』

 

 モニターが閉じ、周囲は補給を終えた隊員達が再出動を急ぐ音で包まれた。

 

(結局、最後はエースに頼らざるを得ない……か)

 

 PT事件、闇の書事件、JS事件――そして今回も、最も危険で過酷な現場は年若いエース達が受け持つことになる。だが、泣き言は言っていられない。丑三つ時に差し掛かった空は、より深い闇色に包まれた。

 

 

 

 ◇

 

 

(スバルの反応がロストしたのは地下。来た道で帰れないなら……)

 

 ディバインとの通信を終えたティアナは、思考を止めることなく走り続けていた。訓練校から機動六課を卒業するまで、ずっと一緒にコンビを組んできた彼女だからこそ分かる。この状況でスバルならどう動くか。

 ――そして、『スバルなら絶対に諦めない』ことを。

 

「ティアナー!」

「ウェンディ!? 人命検索は?」

 

 声に振り返ると、固有装備であるライディングボードに乗ったウェンディが傍に移動している所だった。

 

「反応された人員は全部助けたっス。……ただ、スバルの反応が出たり消えたりで……生命反応は三つあったし、脱出しようと動いてはいるみたいなんスけど……」

「うん。それは間違いない」

 

 足を止めて頷いたティアナは、クロスミラージュに送られてきた地図をウェンディに見せる。

 

「これ見て。この地図。スバルと深琴の反応位置と、火災情報、崩落予想位置。……これでスバルが何を考えるか、どこに行くかの予想はつけられる」

「マジっスか!?」

「マジで。ウェンディ、付き合ってくれる?」

「おうっス!」

 

 

 

 ◇

 

 

「駄目です、この先も行き止まり……」

「大丈夫! 想定内です」

 

 一方、地下。スバルの先導で脱出を図る私達は苦戦していた。火災と崩落は続き、脱出経路はない。天井を砲撃で破壊するということも考えたが、位置によっては地上側が危険だし、更に崩落を呼ぶ可能性だってある。……まあ高密度の魔力は発射した途端から減衰して、目標に届く時には威力がやや下がるものだ。地上から地下を撃ち抜くのと、地下から地上へはまたプロセスが異なってくる。

 けれど、スバルは唯一、ここの地図を完璧に記憶していた。ならば正規の道でなくとも、私達が地上に向かえる場所――スバルが道を作れるコースを導き出す事は簡単。

 

(スバルならそう考える。なら、狙っている場所も大体は予想がつく……)

 

 そしてスバルが足を止めたのは、吹き抜けのホールだった。

 

「ここも……他より天井は高いですがまだずいぶん……」

「いいんです。ここからなら行ける……イクス、ちょっと待っててくださいね」

 

 言って、中央まで移動したスバルは構える。空色の魔方陣が輝いた。

 

「スバル……まさか、天井を砲撃で!?」

「はい!」

「無理です! マリアージュの砲撃で、もうボロボロなのに……」

 

 その証拠に、スバルの体の機械部分から悲鳴が上がっている。

 

「待って、スバル! 砲撃は私が……っ!?」

 

 言い終わる寸前に、私はイクスを強く抱えこんで身を捻って地面に倒れこんだ。転がり衝撃を殺して身を起こすと、私が立っていた場所――それも背中から心臓を突き刺せる位置に、刀の切っ先が向けられている。

 

「深琴!」

「……外しましたか」

 

 軍靴の行進にも似た足音と、機械染みた声。バイザーで覆われた顔と、身に纏うボディスーツ――マリアージュが、そこにいた。

 

「……危ないことするのね。私が避けてなかったら、あなた達の王様も死んでたのに」

 

 そう。イクスを抱えていた私を刺すということは、同時にイクスの命も危険に晒されるということだ。にも関わらず、このマリアージュに躊躇した様子は見られない。息も絶え絶えに、私は愚痴るように呟いていた。

 

「構いません。……もう、イクスヴェリアは必要ない」

 

 言うだけ言ったマリアージュは、私目掛けて突撃する。立ち上がった私は逃げ回り、スバルの近くに向かった。そのままバリアを展開し、刀を受け止める。

 

「イクス、あのマリアージュは……」

「……いいえ。あれは、私が知っているマリアージュとは違います」

 

 スバルの腕に抱かれて、イクスは小さく呟いた。

 

「あの子は……恐らく、マリアージュを素体にして生み出された、マリアージュによく似た別の個体です。先程スバルが倒した子達とは違います」

「そうです。私はマリアージュであって、マリアージュではありません」

 

 言い放ったマリアージュが、バリアを叩き壊そうと刀を振るう。尚もマリアージュは続けた。

 

「あなたのデータを基に、操主・トレディアより生み出された、マリアージュの母胎。自ら戦場に赴き、操主亡き後はその権限を継承する。不完全な……失敗作であるイクスヴェリア(あなた)とは違います」

「……失敗作、ね……」

 

 何の定義を以って、失敗作とするのだろうか。自分が生み出した娘達と協力者に等しく愛情を注いだジェイル・スカリエッティなら、「そんなものあるはずないだろう」と笑い飛ばすだろうか。愛娘の喪失を埋めようとプロジェクト「F.A.T.E」に手を染めたプレシア・テスタロッサなら「愛娘(アリシア)以外の全て」と答えるだろうか。秋月家の復興に全てを賭けた祖父なら、「素養を持たない者全て」と吐き捨てるのだろうか――いずれにしても、今この場に、私の問いに答えてくれる人はいない。

 

「……イクス、不完全なその身を呪うことはありません。それら全て、私が取り込んで差し上げます」

 

 ――不完全な命は、生きることすら許されないのだろうか。

 マリアージュの言葉を聞いた瞬間、私の中で何かが弾けた。

 

《Barrier Burst.》

 

 バリア表面の魔力を集束して爆発させ、マリアージュを刀ごと吹き飛ばす。音を立てて破壊された刀をマリアージュは見遣った。スバルとイクスに向けて新たにバリアを展開して、私は愛機を見る。

 

「エクセリオンモードで、一撃で終わらせる。……やれるね? ロゼット」

《No problem.》

 

 右腕を振るうと同時に、ロゼットはエクセリオンモードを展開した。黒く袖の無いワンピースにも似た上衣と、銀色のベルトで留められた黒のスカート。露わになった足を覆う装甲は靴以外は無く、腕には指貫のグローブがあるだけだ。腰に届く髪は白いリボンでツインテールの様に結い上げられている。以前のデザインとは大幅に異なるこれは、JS事件後から六課卒業前までに調整に調整を重ねた、最適な形だ。防御は最低限に止め、余った魔力は攻撃と速度に転化。それでも自分の体を傷つける魔力を制御できるように、と――シャーリーやリイン曹長、なのはさん、フェイトさん、レイジングハート、バルディッシュが一緒に考えてくれた。

 ちなみにデザインは偶然にもアルティス家の騎士服に酷似しており、後に零さんから「お前、本当に何も知らなかったんだな」と呆れられたものである。

 

「……左腕、戦槍。再構築」

《Load cartridge.》

 

 刀を再構築するマリアージュとほぼ同じタイミングで、日本刀を模したエクセリオンモードのフォルム・フィーアがカートリッジをロードした。そして一気に距離を詰める。

 

「……無駄な抵抗です。あなた一人で、私に敵うはずがありません」

「勝手に決め付けないでもらえる? 私、そういうの大っ嫌いだから」

 

 努力も何もしないまま、できないと決め付けて諦める――昔の私とそっくりな言葉は、大嫌いだ。お陰で仕官学校時代は敵も作ったが、気にならなかった。何も出来ないままで終わりたくない。出来ないことばかりだった過去に戻るつもりはなかった。

 だから、終わりにするんだと。

 

《Chain Bind.》

 

 淡紅色の鎖がマリアージュを拘束する。抜け出そうと躍起になるこのマリアージュにはどうやら、自爆機能はないらしい。しかしその腕力はいとも簡単に腕の拘束を破っていた。カートリッジを三発ロードして、再度距離を詰める。マリアージュの両腕とロゼットの刃が鍔競り合った。

 

「一閃必倒!」

「っ……」

 

 装甲に覆われた刀身が展開し、淡紅色の魔力刃を輝かせる。足元には同色の古代ベルカ式の魔方陣が展開し、輝きを増した。

 戦闘をろくにしていないこの空間に漂う残存魔力は心許ない。集束したそれをカートリッジに込められていた魔力で、威力を爆発的に引き上げる。耐え切れずに砕けた左腕に、マリアージュは動揺を見せた。

 

「戦槍、再構築……!」

「――『桜華一閃』!」

 

 膨れ上がった淡紅色の魔力が爆発し、その衝撃をマリアージュへと伝播させる。耐え切れなかったマリアージュはそのまま爆発し、フロア一帯を揺るがした。

 

「深琴、大丈夫!?」

「……問題ないよ。大丈夫」

 

 粉々に破壊されたマリアージュを一瞥して、私はスバルの元に戻る。装甲を戻したロゼットが、同時に残存魔力を排出させた。バリアを解除すると、イクスがじっと私を見ていることに気づく。

 

「そのお姿……あなたはもしかして、アルティスの……?」

「ええ。一応、クオン・アルティスの末裔です」

「やっぱり……彼は、生きていたんですね……」

 

 嬉しいような悲しいような、複雑な表情でイクスは呟いた。兄と民を異世界へ逃がし、クオンが海鳴市まで漂着することになった原因は、ガレア王国の侵攻にある。

 とはいえ、それに関して恨みがあるわけではない。そもそもの目的は事件解決と彼女の保護なわけで、それはクオンの遺志と合致する。

 ……だから、なんて言えば彼女は安心するのだろうか。頭を抱えたと同時に、今まで反応が無かったモニターが開かれた。

 

『スバル、深琴! 聞こえてたら返事して!』

「ティア!」

『見つけた。……もう大丈夫。映像通信、ちゃんと見えてる?』

 

 モニターの向こうに映るティアはほっと息を吐いて、確認する。

 

『それとさっきの揺れなんだけど……』

「あ、ごめん。それ私。マリアージュの母胎と交戦して、破壊したせい」

 

 後で詳しい報告を上げるし、今は簡単なもので済ませたい。

 

『なるほどね……その子が、イクス?』

「うん。そっちは地上?」

『あんたたちの真上よ。七フロア分』

 

 どうやらティアも、スバルの行動を予想して動いていたようだ。一緒に行動していたらしいウェンディが「ほんとにいた!」と驚いているし。

 ……七フロア分、か。カートリッジには余裕があるし、その位ならなんとか……。

 しかし、私の心配は杞憂に終わった。モニターの向こうで、ティアがクロスミラージュを構える。

 

『今から、天井を抜いて道を作る。そしたらイクスを連れて、上がって来られるわね?』

「うん!」

『え、でも……ティアナが壁抜きって……』

 

 頷いたスバルとは反対に、ウェンディは首を傾げた。

 そう。ティア個人の魔力容量は大きくない。魔力量が少ないということは、ほぼイコールで火力に乏しいということだ。……だからといって魔力量が大きければ大きいほど強いのか、と言えばそうではない。大魔力と高速運用・並列処理は衝突することが普通で、制御は困難を極める。機動六課の八神はやて部隊長や私の直属の上司であるアーウィング執務官はこのタイプで、また適性から後方で指揮と補助を受け持つことがほとんどだ。

 もちろん、大容量の魔力を持ちながらでも最前線での活動は可能である。しかしデバイスや自身での緻密な制御が必要とされるし、高度なマルチタスクを要求されることから滅多にいない。一応こちらには私が該当するが――スバルやシグナムさんの様に最前衛で戦えるかと問われれば、否だ。

 よく「将来的には単純魔力はSS以上で、砲撃も難なく使えて最前衛でバカスカ戦える」とか夢見る学生がいるが……実際そうなれる魔導師や騎士は、はっきり言おう。存在しない。俗に言う妄想の産物だ。でなければ人造魔導師は全員このタイプで作られるはずだし。

 と、そんな話は横に置いて。

 確かにティアの魔力容量は大きくない。だからこそ彼女は、砲撃魔法を使用することが殆ど無いのだ。魔力容量は遺伝や幼少期の訓練が大きく影響するから、改めて鍛えるのは至難の技だ。

 だが、集束魔法ならその話は別だ。なぜなら集束魔法に必要な魔力は、周囲の残存魔力。それが薄ければ薄いほど威力は落ちるが、高い集束技術を持つ魔導師なら――カートリッジと合わせても、壁抜きは可能になる。

 そしてティアにその技術を叩き込んだのは、戦技教導隊のエースオブエース――高町なのは教導官だ。

 

「光の粒が集まって……まるで星みたいに……あれは、集束砲?」

 

 モニター越しに映るその光に、イクスは目を細める。

 

「何故でしょう……あの茜色の星達は、破壊の光なのに……綺麗です」

「……うん。私も、そう思います」

 

 着弾の衝撃に備えて、バリアの内側で待機するスバルが頷いた。

 そしてクロスミラージュのサードモード――ブレイザーモードの銃口に、茜色の星が宿る。音声トリガーによる最終セーフティを解除して、その星の輝きは七フロアの床を撃ち抜いた。

 ぽっかりと開けられた穴から見えたのは、疲労困憊ながらも笑顔を見せる親友と。

 ――夜空に浮かぶ、満天の星空だった。

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