魔法少女リリカルなのはStrikerS もう一人のストライカー   作:藤月沙月

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特別編
Report01:秋月深琴のある1日


「そういえば、深琴って普段何してるの?」

 

 勤務後のお風呂上り、いつも通りフォワード5人で休憩室を占拠していた時だった。隊員達の進路が確定したとか話していたとき、スバルが言った。

 スバルの言葉に、ティアナは「確かに」とジュース片手に私を見る。

 

「深琴の一日って、想像できないのよねー。オフィスの時とか特に」

「一日って言われても……大体みんなと一緒だよ?」

 

 訓練して、ご飯食べて、オフィスで事務処理こなして……特別変わったこと、していないんだけど。

 

「でも、ロングアーチの普段の仕事って……僕、あんまり思い浮かばないです」

「私もあんまり……」

「キュクー」

 

 エリオとキャロの言葉に頷くように、フリードが鳴いた。

 

《Shall I explain from me,buddy?『私から説明しましょうか?』》

「そうだねえ……ってちょっと待って。何か嫌な予感がするのは私の気のせい?」

 

 宝石部分を発光させて尋ねた愛機にツッコミを入れる。しかし愛機はそれに答えることなくさらに宝石部分を発光させた。

 

《First of all--『最初は……』》

 

 

 

 ◇

 

 

 11月も終わりに近づいた頃の、朝4時きっかり。ベッドの片隅に置いていた目覚まし時計が鳴り出した。それと同時に窓にかけられたプリーツスクリーンが一斉に開く。窓の外はまだ暗く、日の出まで時間があった。中でも異彩を放つのは、ベッドの上でもぞもぞと動き出す毛布の山。その中から右腕を伸ばして、私は鳴り続ける目覚まし時計を止めた。ついでにもう一つタイマーをかけていたデジタルタイプの時計のスイッチも止めておく。

 それを確認して、私は躊躇い無く毛布から抜け出した。それと同時に、時計の横にかけられていた私のデバイス・ローゼンクランツが声をかける。

 

《Good morning,buddy.》

「……おはよー……」

 

 支給された冬用のシャツと、自前で持ち込んだ黒色の丈が短いスパッツ。その姿で体を伸ばして、やや覚束ない足取りで室内の洗面台へと向かう。冷水で目を完全に覚まし、訓練で使用するものとは別のジャージを着込んだ。部屋に戻ってローゼンクランツを首にかけ、小さい冷蔵庫から取り出したゼリータイプの栄養補助食品を手に取る。

 

「今日も一日晴れ、か……」

 

 手にしたパックの蓋を開け、口に含みながら本日の天気や気温を確認する。爽やかな林檎の味が口いっぱいに広がるが、補助食品特有の味もまた同時に広がり、私は思わず表情を歪めた。しかし飲み込めない味ではないと一気に嚥下する。必要なのは活動を維持するための栄養素で、時間もかからないのだから味は二の次三の次。

 ――本日は一日中晴れているが、風は冷たく、体感温度は低いようだ。

 

《Cautions are required so that the body may not be cooled.『体を冷やさないよう、注意が必要ですね』》

「だね。温度設定とか気をつけなきゃ」

 

 空になったパックをゴミ箱に入れ、時計を確認する。時間は午前4時15分。ちょうどいい時間だ。部屋の施錠をし、そのまま寮の玄関で靴を履き替える。冷気を孕んだ風に辟易しながらも外に出て、念入りに柔軟をし、ランニングを行った。

 毎朝30分かけて寮の外周と隊舎から寮へ繋がる道を走る。10歳までの6年間入院していたせいで、必然的に体力が無く、持久力も無い。長時間の戦闘ではスタミナ切れを起こすこともある。そのため戦闘中は一挙手一投足のエネルギーを膨大な魔力で補うという暴挙に出るほどだ。魔法を学び始めてからの「癖」となってしまったそれを、何とかして矯正しようと習慣にしているのが朝のランニングだった。お陰でここ4年間は特別病気をすることもなく、健康そのもので過ごしている。

 

「ゴールっ」

 

 午前4時45分。息切れすることなく予定通りランニングを終えて、始めと同じように念入りにクールダウンをする。5分間かけてじっくり体を柔軟させた後は、深呼吸をして瞳を閉じた。仮想戦闘データを用いた回避訓練に入る。

 

《Pattern-E018,start.》

 

 ローゼンクランツのアナウンスと同時に、私の心象世界に仮面を着けた影にも似た仮想敵が登場する。彼らの攻撃一つ一つを回避し反撃すること、そしてそれを実際に体感することで限りなく実戦に近い経験を積む事が出来た。ちなみに朝の自主訓練で使用するのは陸戦データ、仕事の合間に使用しているのは空戦データと使い分けている。

 

「――っ」

 

 仮想敵との距離を感じ取り、攻撃を回避。同時に自分の反撃圏内に入った敵には容赦なく拳を撃ち込み、蹴り飛ばす。それを繰り返すこと20分、ようやく仮想敵が全滅した。

 

《Pattern-E018 clear.continued?》

「ううん。止めとく」

 

 息を吐いて、目を開く。体全体が汗ばんでいた。心象世界で行われる戦闘をイメージし続けることもそうだが、その世界で自分と自分以外の存在の動きを継続しながら体を動かすというのは非常に困難である。

 

(……でも、なのはさんは9歳の頃にはやってたんだよね……)

 

 同郷の出身であり、出会ってから今まで目をかけてくれた高町なのは(エースオブエース)は9歳の頃に偶然魔法と出会い、事件に巻き込まれた当時からこの訓練を行っていたと聞く。もちろん戦闘スタイルが異なるため厳密には同じ訓練では無いのだが。

 

「……シャワー、浴びよう……」

 

 深い溜息を吐いて部屋に戻った私は、そのままシャワーの準備を整える。ちょうどいい温度に設定されたお湯を全身に浴びながら、本日の予定を表示させた。

 

(今日は午前中が訓練なんだよね。午後はオフィスだから……)

 

 脳内で予定を立てながら、シャワーヘッドに手をかざす。機械が反応して水流を止めたことを確認すると、私は洗面所に繋がる扉を開けて、用意していたタオルで体を拭いた。次に纏うのは訓練用の冬用ジャージである。白い長袖のシャツと、紺色のズボン。腰のポーチには応急手当のセットとスピードローダーに嵌めこんだカートリッジが収納されている。時間は朝の5時20分。早朝訓練は6時からなので、若干の余裕があった。

 固形タイプの栄養補助食品を食べながら、私は通信モニターを開いて夜のうちに届いたメールの確認をする。届いていたメールは二通。一通は卒業した士官学校の友人からの他愛ないもので、もう一通は実母である秋月遥から。正月休みについて、申請が降りるなら帰って来なさいという誘いだった。

 

(もう申請してるよ……っと)

 

 来週になれば年末年始の特別シフトが公表される予定であるという旨を加えて、メールを送信予約に入れる。設定時間は朝の10時だ。

 食べ終わった補助食品の袋をゴミ箱に放り、歯磨きをすれば時間は5時半。ローゼンクランツを携えて玄関に降りると、ちょうどいいタイミングで機動六課前線フォワード――スターズ分隊のスバル・ナカジマとティアナ・ランスター、ライトニング分隊のエリオ・モンディアルとキャロ・ル・ルシエ、飛竜フリードリヒが降りてくるところだった。

 

「今日もやるぞぉー!」

 

 スバルの掛け声に、ティアナを除いた三人分の拳と声が上がった。

 

 

 ◇

 

 

 機動六課前線フォワードの訓練時間は、普通の隊員達とは異なる。

 まず最初に行われる早朝訓練。朝6時から7時30分までの1時間半行われるそれをこなすと、8時30分までの休憩がある。休憩と言う名目ではあるが、実質朝食を取る時間だ。

 そして8時30分。大部分の隊員達の始業開始に合わせて、午前の訓練が開始される。訓練レベルが上がった今では最初に個人スキルを磨き、11時から昼休憩までの残り時間いっぱいを使った模擬戦が行われていた。

 もちろん、今日も。

 

「さて。そろそろ模擬戦に入ろうと思うんだけど……みんな、大丈夫?」

 

 防護服を纏い、手に愛機・レイジングハートを携えてスターズ分隊隊長兼戦技教導官であるなのはさんは私たちに問いかける。今日の模擬戦はなのはさん対フォワード5人。数では圧倒的にこちらが有利に見えるが、実際そんなわけはない。

 スバルとエリオがツートップでなのはさんに向かっていく。ティアナは指揮と射撃、幻術を駆使してキャロと共に前線のサポート。私は後衛への攻撃を捌きつつクロスからミドルレンジで遊撃し、必要とあれば後衛の補助に参加する。

 結果は――。

 

「後もうちょっとだったねえ」

 

 最後のスバルとエリオによるフォーメーションが見破られ、敗北。遠くで響く、お昼休みを告げるチャイムに気が抜ける。

 

「今日はみんな、午後はオフィス待機だからね。疲れてるとは思うけど、頑張ろう」

「はいっ!」

「それじゃあ、今日の訓練はお仕舞いです。お疲れ様」

「お疲れ様でした!」

 

 一糸乱れぬ挨拶をして、フォワード陣は一旦寮まで戻った。私も共用のシャワールームで汗を流し、六課の隊員制服に着替える。

 

「来週から12月だよ。早いねえ」

「そんな実感無いけど、早いものよね。ここも後四ヶ月かあ……」

「ですねえ……」

 

 山盛りのスパゲッティを分けながら、そんな話をする。ミッドチルダには「クリスマス」という概念が存在しないが、大体24日や25日くらいに皆で集まって、今年一年に感謝と来年に対する祈願を行うのが一般的らしい。とはいえその中身は日本式のクリスマスと変わりない。違いを挙げるなら、「クリスマス商戦」なるものが存在しないことや、「サンタクロースがプレゼントを配りにこない」点だ。まあ後者は地球でも伝承扱いだけども。

 

「じゃあ、悪い子にはプレゼントは無いんですか?」

「一説ではね。まあ由来になった逸話と今のサンタクロースは大分違うけど」

 

 入院中はその時期になるとそわそわする多くの子供達と接していたが、翌朝がっかりした彼らの顔を思い出す。寝たふりをして待っていたが、実際枕元へプレゼントを置いてくれていたのは夜勤の看護師さんだったらしい。そして彼らは大人の階段を上るらしい。

 ちなみに悪い子の元を訪れる「黒いサンタクロース」という人物がプレゼントの代わりにベッドの周りに豚の臓物をぶちまけたりするという話もあるが――エリオとキャロには必要もない知識だし、何より純粋な二人の顔を見ていると心が痛む。そんないらない知識は、心の中にそっと仕舞う事にした。

 

 

 

 ◇

 

 

 午後13時30分。一時間のお昼休みを終えた私は、ロングアーチスタッフが詰めるオフィスにいた。前線フォワードを兼ねる私は、他のスタッフと違って事務処理関係の資格を持っていない。士官学校でその系統の講義を受けただけで、実務経験もあるわけが無い。

 なのでオフィス待機での仕事は報告書の作成と、検索魔法を使用した紙媒体の資料検索や器具の運搬がメインだ。余った時間はリイン曹長やアルト、ルキノに専門職の勉強を教えてもらっている。とはいえ本格的なものではなく、知識として。魔導師である私にできることは、いつだって戦うことだけだ。

 

『魔導師はいい身分よね。いつだって評価されて、昇進だって早いんだから』

『あたし達裏方がいなかったら何にもできないのに』

『生意気だよねー』

 

 ――いつだったか、士官学校技術学部の生徒に言われたことがある。魔導学部と合同で授業をしていた時だっただろうか――今となっては彼女達の顔も名前も思い出せないが、その言葉は私に向けられたものだということは覚えていた。

 

『……じゃあ、あなた達は自分の仕事をしながら戦えるの?』

 

 そして純粋な興味から、私は彼女たちに問いかけたのを思い出す。別に私はバックヤードの仕事を下に見ていないし、どちらかというと興味さえあった。出来ることなら勉強したかったが、1日24時間という制約は誰にでも平等で。睡眠時間を削ればよかったのかも知れないが、体力の限界まで訓練を必要とされる当時には到底無理な話だった。

 けれどきっと、彼女達はそうではないのだろう。そう思っていた。ちなみに返事は無く、ただの屍のように黙り込んでいたっけ。

 それでも今はこうして、時間の合間を縫って皆が色んな事を教えてくれる。リイン曹長は前線管制、グリフィスは交通通信、シャーリーはメカニックや将来の執務官補として必要な事務や渉外を。アルトはヴァイス陸曹と一緒にヘリについて色々話してくれるし、ルキノは艦船操舵についてマニアックな知識を聞かせてくれる。……前にフェイトさんが「深琴がそっちの道に目覚めないといいけど……」と言っていたけど、どういうことなんだろう。

 

 

 

 ◇

 

 

 午後18時30分。通常勤務体制に移行した機動六課は、これから交代部隊の夜間勤務となる。報告書と申し送り事項を提出してからは自由時間だ。食堂で夕食を取り、大浴場でまったりと寛げる。この後に休憩所でお菓子をつまむのは最早日常茶飯事だ。

 

「……っていうか、今じゃない! それは!」

「そうだよ? みんなと殆ど変わらないでしょ?」

 

 ツッコミを入れるティアナに、私は首を傾げる。スバルが「確かに変わらないといえばそうだけど……」と困惑していた。

 

「でも、朝4時起きって……」

「辛くないんですか?」

「あんまり、かな。夜も早いし……あ、最近は布団から出れなくなりそうになってるけど」

 

 寒いし、かといって暖房をつけたら起きられない。これから寒くなるのだから対策を考えないと……と首を捻ると、全員が苦笑いを浮かべていた。

 それから、午後19時40分。お茶会も終わり、歯磨きを終わらせた私は自室のベッドに横になる。就寝前のメールの確認だ。現時点で覚えている魔法の各種プログラムをより最適化させるべく書き換えを考えていると、ローゼンクランツがメール受信を告げる。

 

「ルーチェから……?」

 

 差出人は士官学校からの友人であるルーチェ・バイオレット。中身は同窓会の誘いだった。

 

『61期生だけじゃなくて、60期生の先輩や先生達も出席する予定です。忙しいとは思うけど、なるべく顔を出してくれると嬉しいな』

 

 指定の日時は、12月29日。年末にして休日だが、その日は予定では海鳴市の実家に帰省する日だ。それも夕方から夜間なので、出発する時間帯である。特別シフトにもよるが、参加できそうに無い。

 

『ごめん。実家(地球)に帰省優先にしてるから無理』

 

 あとまだ来月のシフト出てないから分からないよ――と付け加えて返信し、部屋の電気を消して毛布に包まった。

 

(同窓会かあ……)

 

 そちらも参加したいが、10年振りに家族揃って正月を迎えたいし――何よりクラスメート以外も参加すると言うことは気が引ける。他のクラスや学部には仲が良くなかった人たちもいるし……と考えながら、睡魔の波に引き込まれた私は、そっと眼を瞑って夢の世界に旅立った。

 この出来事が後にそれなりの禍根を残すことを知らぬまま。

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