魔法少女リリカルなのはStrikerS もう一人のストライカー 作:藤月沙月
「模擬戦って……ちょっと、それどういうこと!?」
ルーチェが叫び、食堂の円形テーブルを叩いた。幸い食堂に集まっているのは、先程の騒ぎを知っている六課の隊員達。ヴィヴィオがこの場にいなくて良かったと、私は心の底から思った。
「……でも、言い出したのはあの人だし……」
「それはそうだけど……でもあの人、空戦で、炎熱変換持ちだし……ダブルAランクだし……」
セレナの言葉に、ルーチェは小さい声で訴える。確かに六課の運用に際してランクリミッターをかけられ、出力はB+ランク程度の私には厳しいかもしれないけども。……それでも格上の相手との戦い方は六課で学んできたし、JS事件では何度も実戦を経験している。メカニック陣には賭けにならないと文句を言われたが。
「まあいいんじゃないか。この際きっちり決着つけたほうが、お互いのためだろうし」
「だな。幸い、許可はあっさり出たんだし」
レオンとアスカ、二人の言う通りで模擬戦許可は簡単に出た。
もちろん条件もいくつかある。当然魔法は全て非殺傷設定だ。私はハンデとして出力リミッター維持とカートリッジ使用禁止。……それでもリンカーコアのリミッターは解除されているから、気にはならない。
「っていうか……気に入らないなら放っておいてくれたらいいのにね」
士官学校時代から続く攻防を思い返して、私は言った。
聞いた話だと、彼が私を嫌う第一の理由が「年齢」らしい。何でも私が入学するまでは、彼が「クロノ提督に次いで最年少士官候補生」だったとか。一つしか変わらないのに、それすらも気に食わないらしい。気に食わないから難癖つけてきて、私がやり返す、と。
正直、無視してくれたほうがありがたく思った。好かれていない……それもお互い歩み寄ろうとすら思っていない相手と必要以上に接するわけがない。
昔読んだ本にあった、『”好き”の反対は”嫌い”ではなく”無関心”』という言葉。それを実践すればこじれるし、かといって接触すればぐちぐち言われるし……。
「何がしたいんだろうね。あの人は……」
『えー、何でー? 僕が最初に言ったよね?』
モニターの向こうで、コートに身を包んだフェアが頬を膨らませた。模擬戦についてメールを入れた直後に通信を入れてきたのである。
「ごめんね、フェア。ただどうしてもその人とは決着を付けておきたくて……」
『……まあ先に僕と戦ったら、後が続かないのも納得だけどさ……』
横から飛んできた拳を後方にステップして回避する。直後、すぐに距離を詰めて相手の――零さんの腹部に一撃を決める――が、黒色の盾に阻止された。
「悪くは無いな。でも……!」
「っ!」
桜色の誘導弾が、私の周辺から一斉射撃を開始する。魔力弾の特性を見分け、体全体を使って回避。再び零さんが攻撃してくるので、それに対応……と。
『っていうか、準備運動激しいよね!?』
「これくらいやらないと、体温まらないからね」
「見てるこっちの心臓に悪いよ……」
フェアの突っ込みに笑って応じてると、フェイトさんが胸を撫で下ろしている。
「じゃあ次はインターセプトトレーニング、行くよ」
「はい! お願いします!」
なのはさんの号令に合わせて、様々な特性を持たせた桜色の魔力弾が生成される。それらを全て見極めて対応した弾丸を生成し命中させると言う訓練だ。最初のうちはティアナと一緒に受けてたっけ。
《buddy.》
「行くよ、ロゼット!」
フォルム・ツヴァイ、腕輪型に変形していた愛機・ローゼンクランツは応答と同時に弾丸を生成した。カートリッジ使用禁止のため、このフォルムが一番使いやすい。
「あ、そうだ。深琴、新しいバーストフォームの調整も忘れずにね」
「はい!」
「調整? 早くないか?」
なのはさんの呼びかけに頷いて、調整データ収集用のプログラムを展開する。その光景に零さんが首を傾げていた。
「まあね。でも私やフェイトちゃん……隊長陣皆と深琴達で決めたから、大丈夫だよ」
「いや、俺は心配してないけどさ」
休憩に入った零さんが、小さく呟いた。
『でも、深琴。その先輩とかの模擬戦が終わったら、次こそは僕の番だからね?』
「うん。それはちゃんと約束する」
『……うん。約束』
にっこりと微笑んで、フェアは通信を切った。
◇
「ねえ、あの話聞いた?」
「聞いた聞いた」
秋月深琴と出向研修中の局員が模擬戦を行う――サンルームでの騒ぎから1時間もしない間に、その話は機動六課全体に広がっていた。相手は士官学校時代の先輩で因縁があるとか無いとか、そんな所まで広まっている。
既にメカニック陣は集まって「どちらが勝つか」等一頻り盛り上がっていた。とはいえ「深琴の勝利は揺るがないだろうから、賭けにならない」と愚痴が零れていたが、それはまた別の話。
そ知らぬ顔で隊員達の会話に耳を傾けていたレックスは、唇を噛んだ。
六課の隊員達は、誰一人深琴の勝利を疑っていない。敗北はありえない、あったとしてもそれはリミッターやその後に控えている別の模擬戦に備えるからだと、高を括っている。
(これだからあいつは生意気なんだよ……)
当然深琴が信頼を勝ち取る程の努力をしていることは、レックスも知っているし認めてもいる。しかし戦う前から敗北を決め付けられることは気分が悪い。
士官学校時代から、彼女はそうだった。優秀で真面目な彼女は教官達の覚えもいい。与えられた課題をそつなくこなしカリキュラムを進める彼女を誰もが賞賛し、評価する。けれど彼女が蹴落とした時点で、その相手は負け組の扱いを受けた。
『秋月ならこの程度、何とも無い』
『まだ12歳の秋月が余裕でこなしているというのに』
『この程度のことが、何故出来ない』
彼らなりの叱咤激励だとは知りつつも、レックス達はその言葉を信じきることができなかった。なりふり構わずかかっていった結果が、文句なしの敗北となれば尚更である。
けれどかつては、ここまで気にならなかった。それは深琴本人の態度。口数少なく、与えられたことだけを淡々とこなすその姿勢は、60期生の誰もが認めている。
しかし今はどうだ。他人に甘えて、笑って、自由気ままに生きるその姿は認めるには程遠い。自分以外の60期生でも文句のひとつは言いたくなるだろう。
何よりこれまでの時間は、自分も鍛錬に費やしていたのだ。これまで以上に彼女といい勝負ができるだろう。状況次第では勝つことも、不可能ではない。
(……そうだ。俺は勝つんだ……!)
息を吐き、拳を握っては解く。冬の風に運ばれた枯葉が、同時に炎を上げた。
「今度こそ、俺が勝つ」
首を洗って待っていろ、と呟いて。
◇
「それで、ここが静真さんのお部屋です」
「はい」
「中の物は自由に使ってもらって構いませんし、足りない物とかあれば遠慮なく言ってくださいです」
「遠慮なくって言われても……」
机とベッドを始め、一人で使うには少々広い部屋。簡易キッチンやシャワーまでも完備と言う至れり尽くせりの環境に、秋月静真は慄いた。その上到着してからと言うもの、自分は関係者達にいたく気に入られているらしい。先程も進学に必要な法的後見人について、はやて、なのは、フェイトがそれぞれ「自分が」と声を上げてくれたのだ。
もちろん美女に囲まれ、取り合いをされるという事は男の夢でもある。悪い気分ではないのだが、その根底には「深琴の家族だから」という思いがあると思えば少々複雑だ。
「ここまでしてもらって、申し訳ないくらいですよ……」
「そんな、気にしないでほしいです。六課の皆は元からフレンドリーなんで」
「そうですよー」
案内してくれたリインフォースⅡとスバルが、笑う。
「……やっぱり、気になりますよね? 妹さんが模擬戦なんて」
「まあ、少しは。売られた喧嘩は買う性格ではあるんですが」
まさかあそこまでだとは。そう呟いて、静真は荷物を置いた。
「ですよね。皆も驚いてたし」
「いつも妹が迷惑かけて、すいません」
「そんな、迷惑なんて。むしろ私の方が年上なのにかけっぱなしっていうか」
鞄を開き、持ってきた荷物をあるべき場所に置く。
(母さんがこの事知ったら、気絶するかもな)
そんなことを、静真は考えた。4年前の出来事を完全に和解した母は、これまで以上に妹を溺愛するようになった。……かつては褒めることすらろくに出来なかったことを考えれば、しょうがないのかもしれないが。
「お母さん、心配しそうですね」
「……それは思う」
正月休みに家族会議に挙げられたのは、今後について。これからは出来る限り家族一緒に、と考える様になった母親が言っていた。出来ることなら、自分達も一緒に向こうの世界に行きたいと。それから家族一緒に暮らしていきたいと。
けれど、秋月の家はそれなりの知名度と役目を担い、長い歴史がある家でもある。それら全てを放り出してしまっていいのか、と言われれば誰一人母の言葉に頷く事が出来なかった。
「……『家族』って、難しいな……」
「……そうですね。私も、そう思います」
静真の呟きに、スバルが頷いた。