魔法少女リリカルなのはStrikerS もう一人のストライカー   作:藤月沙月

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Report06:2月某日、機動六課にて(中編)

 機動六課敷地内の海上に設置された、訓練スペース。廃棄都市区画をイメージしたビル郡で、私とレックス・フォレスターは対峙していた。時刻は午後1時ちょうど。お互い身に纏うのは管理局制服だ。その周辺には誰もいない――至る所に設置されたモニターで、リアルタイム映像を送っているから。六課の皆や関係者各位は、海岸辺りで待機している。流れ弾とか危ないし。

 今回の模擬戦の制限時間は1時間。リミッターだの何だのあるので、細かいルールはDSAAの試合ルールに則る形になった。非殺傷設定とクラッシュエミュレート設定を併用し、ライフ制。公式試合用タグで管理される数値は3000で開始される。ちなみにこの数値は『インターミドル・チャンピオンシップ』では用いられるタイプではなく、各ポジションに応じて設定されている。今回適用するのは、フロントアタッカーのものだ。またこの場合残りライフが100未満になると行動不能になりその時点で敗北になるのだが、今回は適用させないことにしている。ラウンドの設定やセコンドの設定も面倒だし――何よりお互い、自分が負けるとは思っていないから。

 

『二人とも、準備はいい?』

「はい」

「問題ありません、なのはさん」

 

 私達の間に現れたモニターを通じて、なのはさんが呼びかける。返事の声は、固い。深呼吸して、はやる気持ちを抑える。

 

『どんなに辛くても、やめなかった努力の時間は絶対に自分を裏切らない。それだけは忘れないで』

 

 ゆりかごが浮上して、地上本部が狙われて――別々に行動する事になった私達に、なのはさんがかけてくれた言葉を思い出す。これまでの訓練は何だったのかと考えさせられたハイレベルの教導に、付いて行くだけでやっとだった自分。けれど皆で一緒に頑張ってこれた。そして自分の意思で考え、導き出したその結果を、後悔するつもりは無い。

 

《Stand by ready.Set up.》

 

 お互いの魔力光が場を包み込む。次の瞬間にはそれぞれの防護服を纏っていた。士官学校時代とは異なる、オリジナルのもの。レックスが纏うのは白い長袖の上着に黒のインナー、それとズボン。腕と足には騎士服によく付属する金属鎧が設定されていた。その手にはライフリングを施された長銃――マスケット銃と言うのだろうか――が二丁、握られている。

 一方の私の防護服は、いつものロングアーチスタイルではない。黒いワンピースにも似た上衣と、ベルトで留められたミニスカート。髪は白いリボンで結い上げるような形だ。両腕にはフォルム・ツヴァイのロゼットが装着されている。

 

「薄い装甲だな。舐めてんのか?」

「別に、そういうつもりは無いですけど」

 

 この、新しく設定し直したバーストフォームは、以前のものとはデザインからして異なっていた。とはいえ隊長陣やレイジングハート、バルディッシュの協力もあって、調整の殆どは終わっている。後は実戦を繰り返し、データを確認するだけだ。

 そう内心で吐き捨て、私は再び彼と対峙する。シグナルが浮かび上がった。

 

(3、2、1……!)

 

 赤色のシグナルが青色に変化する。開始のブザーが鳴り響いた。

 

 

 ◇

 

 

「はい、そんなわけで始まりましたこの模擬戦。開始直後から接近戦ですねー」

「っていうか今、深琴ちゃんほぼ素手で銃身殴りに行きましたよ!? あの子大丈夫なの!?」

 訓練スペースを離れた道沿い。シミュレーションスペースのデータ情報、模擬戦中の二人の魔導師に関するデータ、そしてリアルタイム映像が集められたその場所には、いつの間にか実況席なるものが設営されていた。関係者達がお茶を手に見守る中、マイクを握り締めているのは藤原楓・咲夜姉妹である。管理局制服の上に技術部の白衣、その左腕には楓の「実況」、咲夜の「解説」という腕章が安全ピンで留められていた。

 

「いやいやいや、何で姉さん達がいるんだよ。そこからおかしいだろ」

「話聞いてすぐに半休取ったんだって」

 

 手伝いを申し出たティアナとキャロと一緒に、そして執事という職業柄お茶の用意に勤しんでいた零の呟きに、満面の笑みを浮かべた彼方が説明する。双子の弟の言葉に零は頷いたが、次の瞬間には急須を持つ手を止めた。

 

「……何でお前もいるんだよ」

「何となく?」

 

 紙コップに注がれたコーヒー、緑茶、紅茶、キャラメルミルクが湯気を立てる。それをこの場に集まる全員が受け取ったことを確認した咲夜が、マイクを手になのはに近づいた。ちなみに「この場に集まっている「全員」というのはなのは、フェイト、はやてと深琴を除いた前線フォワードメンバー、シャーリー、シャマル、ヴァイス、士官学校61期生、零、ディバイン、藤月彼方、藤原姉妹、霜月秋葉、フェアクレールト、そして秋月静真という総勢22名の関係者である。他、機動六課メンバーはそれぞれオフィスのモニターから、この模擬戦を見守っていた。

 

「高町教導官、深琴ちゃんの立ち上がりをどう見ますか?」

「そうですね……いつも通り、問題ないと思います」

 

 咲夜にマイクを向けられ、なのはは口を開いた。

 

「ですが、二人が戦うのはフォレスター二尉が卒業してからは今日が初めてです――専用のデバイスと防護服で戦うのも同じくですので、相手の出方を窺っている感じがします」

「というと……やはりお互い、警戒はしていると?」

「なのは隊長の言う通りやね」

 

 なのはの言葉に頷いたはやてに、咲夜はマイクを向ける。

 

「八神部隊長。と、言いますと?」

「深琴や61期生の話によると、フォレスター二尉は炎熱変換持ちの近代ベルカ式。ですがデバイスの形状は見ての通り、マスケット銃。近代ベルカ式とミッドチルダ式の相性が良いのは周知の事実とは言え、あの見た目やと砲撃特化……そこまで言わずとも、『砲撃戦もこなせるかも』と判断するかもしれない。最初に深琴が銃身を殴りに行ったのもそこら辺の確認やと思われます」

「深琴が今まで戦ってきたのは特定の能力に特化したタイプや、自分やフェアの様にポジションに囚われないタイプの魔導師が殆どで、ある意味両極端ですから。やりにくいというのはあると思います」

 

 はやてに続いて、フェイトが言った。「ありがとうございます」と三人に笑った咲夜は、思い出したように実況席に座る楓に振り返る。

 

「そういえばね、模擬戦前に深琴ちゃんと話したんだけど」

「はいはいー?」

「今回の模擬戦について言ってたんだけど、『一度勝ってるからって、油断するつもりはない』って」

「おー。ちなみにフォレスター二尉は『徹底的にぶちのめす』とコメント残してますねー。ブーメランにならなければいいんだけども」

「……というか、何か実況・解説共に公平性を感じないんですけど」

 

 風に身を震わせながら、秋葉が呟く様に言った。紙コップを握り締めて、指を温める。

 

「仕方ないんじゃねえの? 言い分は分からなくも無いけど、うちはコネだ何だで評価されてるわけじゃねえし。少なくとも深琴があそこまで暴言を吐くなんざ、六課が始まってから今まで無かったわけだしな」

「……まあ深琴には、それしか道が無かったわけですから。目標達成のために打ち込む姿勢は、見ていて危なっかしいけど……今黙り込んでる関係者は大体そう思ってるはずだし」

「あ、なるほど」

 

 ヴァイス、そしてシャーリーの言葉に頷いて、秋葉は模擬戦開始から不安そうにモニターを見つめ黙り込んでいる秋月静真、ディバイン・アーウィング両名を見た。モニターの向こうではレックスが変換した炎を銃身に纏わせ、深琴へ至近距離から攻撃したところである。背後からのそれを深琴はバリアで逸らしたが、衝撃により100のダメージを受けた。開始して最初のダメージは、深琴が負うことになる。ああ、と残念そうな声が上がった。そして、同時に。

 

「……そういえば、何で深琴がロングアーチなんだ?」

「……は?」

 

 零の言葉に、場が騒然となった。「え、今更? 今更それ聞くの?」との声も聞こえてくる。

 

「いや、階級同様何かあるんだろとは思ったんだが……疑問に思ったのって、俺だけ?」

「兄さんだけだと思うよ。っていうか静真君やフェア君以外は大体予想ついてると思うけど?」

「それ以前に、もっと早く疑問に思うべきじゃないか?」

 

 彼方とディバインから「可哀想なものを見る」視線を送られて、零は呻いた。彼の様子を見ていた楓が「んー……」と自身の顎に手を添える。

 

「あ、でも改めて思えば疑問かも。八神部隊長、お聞きしても?」

「はい。もちろんです」

 

 にっこりと笑みを浮かべるはやてに、咲夜からマイクが渡された。

 

「最初に明確にしておきたいのは、我々ロングアーチは確かに後方支援隊として後方業務を全般に請け負っていますが、同時に機動六課の司令部でもある、ということです。深琴の場合『ロングアーチスタッフ』とは言っても、『後方支援隊』としてのロングアーチではなく『機動六課司令部』のロングアーチに所属していると考えてください」

「はあ……」

「で、六課は元々レリック事件及び聖王教会の『予言』の対策のために設立された部隊です。事件の展開によってはフォワード隊や交代部隊はもちろん、ヴァイス君やザフィーラを含めたロングアーチに籍を置く魔導師や騎士に出動命令を出さななりません。そうなった場合司令部に残ってるのは非魔導師の子達だけ」

 

 紙コップに残る緑茶を一口飲み、はやては続ける。

 

「例え防衛システムがあるとしても、司令部も守らなあかん。戦力的にも前線にはフォワード部隊と交代部隊が出るやろうから、ロングアーチ隊の魔導師が残る事になる。……けど、そうなった場合にある問題が発生する」

「相手勢力の迎撃に回せる最前衛がいないな」

 

 溜息混じりに呟かれたディバインの言葉に、藤原姉妹が納得したように手を叩いた。

 

「そういうことや。ザフィーラも最前衛やけど、攻撃より防御の方が得意やし……ともかく、ポジション問わずに行動できてそれだけの魔法を使いこなす。やから深琴はフォワード部隊と言うよりは、司令部が保有する独自戦力って形なんよ」

「でも、深琴は実戦の経験が殆ど無い。だから普段は前線フォワードと一緒に行動して経験を積んで、何かあったら司令部の防衛に回るって約束だったの」

「……だから六課が襲撃された時に、本人に意思決定させたわけだな。隊舎までの先行が許可されたのも同じ理由か」

「そうゆうこと」

 

 はやての言葉になのはが注釈を入れ、いつぞやの出来事を思い出したディバインが確認する。全ての疑問が片付いたらしい零は、深い溜息を吐いた。

 

「……このちび狸が……」

「あはは、零。聞こえとるでー」

「というか小さいとか、あなたも人のこと言えないと思いますけど」

 

 地を這うような声で放った言葉が、秋葉の呟きによってそのまま零自身の心に深いダメージを与えた。

 

「……まあ後理由を挙げるとしたら、もう二つは考えてたけどな」

「まだあるのかよ……」

「当然や。深琴本人の希望進路の事もあるし、元とは言ってもあの子は士官学校卒のキャリア組やからな。フォワードとは言え司令部に置く事で指揮の勉強もできるやろうし、学校側も納得できる。執務官補佐に必須の事務処理能力を鍛えることも、前線管制についても学ぶこともできるしな」

 

 そこまでの理由を用意していたが、それだけの成果を彼女に残せたかと問われれば否である。

 そしてこの直後、モニターから轟音が響いた。魔力砲撃に吹き飛ばされた深琴は、足首に生成された翼を器用に転換してビルの屋上に着地する。

 

「……深琴の残りライフは1000ちょうど。クラッシュエミュレートは全身の軽度打撲と左腕火傷。ボディ蓄積ダメージが10%なのが、まだ救い……」

「でも、一方的にやられて……」

 

 モニターが拡大され、深琴を映し出した。肩で息をし、汗を拭うその姿。鋭い視線の先にはレックスが映されているのだろう。

 

「……負けないよ、深琴は」

 

 モニターを見つめて、フェアが口を開いた。その声と言葉に目を丸くして、ルーチェは疑惑の目で彼を見る。そんな彼女の様子に、フェアは首を傾げた。その温度差を疑問に思ったエリオはモニターに視線を向け、その目を丸くする。その反応に驚いたスバルが、小さく呟いた。

 

「深琴……笑ってる……?」

 

 

 ◇

 

 

 砲撃に煽られた体勢を整え、私は手近なビルの屋上に着地する。幸いにもアウトレンジまで退避することが出来た。全身に鈍い痛みが広がり、炎の直撃を受け火傷を負った左腕も見た目は何とも無い。上手くバリアを発動できたこともあってか、実際のダメージは低かった。

 

《Want to avoid further damage.『これ以上のダメージは避けたいですね』》

「同感」

 

 とはいえ微妙に違いがあるとはいえベルカ式同士、戦闘距離は限られているし射程はほぼ同じ。厄介にもあちらは自身の魔力でデバイスを複製、同時展開可能という特殊技能持ちだ。近づけば物理、遠ざかればマスケット銃による射砲撃。銃を破壊しても複製される――厄介な相手ではある。

 だが、自然と口角が上がった。

 

「でも大体分かった。試したい対処法も見つけたしね」

《Good to hear.『それは良かったです』》

「うん。……行くよ、相棒」

《All right,buddy.》

 

 淡紅色のベルカ式魔方陣が展開され、輝きを増す。屋上から飛び立つと同時に、愛機が宝石を輝かせた。

 

《Mode select--"RF6",stand by.》

 

 

 ◇

 

 

 アウトレンジまで逃げた深琴の姿を目で追いかけながら、レックスはその手に携えるマスケット銃を握る力を込めた。開始直前の二丁以外にも、地表ギリギリに八丁を含めた合計十丁のマスケット銃が、いつでも使用できるようになっている。レックスのライフは開始以降減っておらず、そもそもダメージを負っていないのだからクラッシュエミュレートもない。

 

(これなら、勝てる……!)

 

 思わずにやけそうになる頬をおさえる。接近戦では銃身に炎を纏わせた打撃、射撃戦には対応できる射砲撃魔法が設定済みだ。深琴は強敵だが、その射程は自分と殆ど変わらない。確かに彼女には出力リミッターが設定されているが、それを敗北した理由にすることは無いだろう。

 だが、とレックスは歯噛みした。

 昔の彼女は、笑わなかった。表情を変えることなく淡々と過ごしていたと言うのに、今はどうだ。絆だの不確定要素に夢見て、笑い、毎日を過ごしている。その結果が今だ。その事実が腹立たしい。

 

(秋月。俺が憧れたのは、昔のお前だ。その強さも、何もかも……)

 

 昔の彼女は笑わなかった。表情を変えることなく淡々と過ごし、言葉少なにただひたすら戦うために力を磨いていた。それが自分なのだと、疑うこと一つしなかった。故にその強さには、一点の曇りすらなかったのだと言える。

 何度目かの突撃に瞳を伏せ、レックスは手にしたマスケット銃を薙いだ。力強い一閃に、深琴は苦悶の表情を浮かべる。

 

「今のお前は、本当のお前何かじゃない」

「それを決めるのは私です。あなたではありません」

 

 声が響いたのは、上空。同時に目の前にいたはずの深琴は音も無く消え、上空に姿を現した。

 

 

 ◇

 

 

『今のお前は、本当のお前何かじゃない』

『それを決めるのは私です。あなたではありません』

 

 銃身の薙ぎ払い。その直撃を受け苦悶の表情を浮かべる深琴の姿がかき消された。同時に上空から声は響き、声の主はその姿を現した。

 

「今のは、幻術……? もしかして、ティアさんの……」

「フェイク・シルエットにオプティックハイド……」

『先輩はご存じないでしょうけど』

 

 上空に向けられた砲撃を回避して、モニターの向こうで深琴は微笑んだ。そして立ち止まった深琴は、渦を巻く様なバリアを展開し、マスケット銃による砲撃を阻害する。

 

「ホイールプロテクションまで!?」

 

 機動六課で自分たちが覚え、鍛えられた魔法。各自の特性やポジションに合わせたそれらを難なく発動させる深琴の姿に、前線フォワード陣は呆然としていた。開いた口が塞がらない。

 

『六課の隊員や関係者、協力者の皆さんって揃いも揃ってスペシャリストなんですよね。そんな人達が協力したら強いに決まってます。そんでもって皆さん優しいので、私みたいな半端者でもちゃんと戦えるようにしてくれました』

 

 加速して距離を詰め、右の拳を突き出す。銃身に受け止められた拳は、同時に生まれた衝撃波に電流を纏わせた。

 

「今度は変換!?」

「『半端者』の定義が行方不明ですね……」

 

 シャマルが悲鳴混じりの声を上げ、アスカが申し訳なさそうな声で言う。レックスに対して500のダメージと感電のクラッシュエミュレート判定が出た。残り時間は、30分を切る。

 

「でも、だったら何で深琴はいつもこの技を使わないんだろう……」

 

 何度も一緒に戦ったフォワードメンバーが首を傾げた。いつもリミッターがかけられているとは言え、深琴はその性格からして手を抜くという事を嫌う。練習中だったとか等意見が飛び交う中で、なのはが小さく首を横に振った。

 

「多分、『使わない』んじゃなくて『使えない』んだと思う。ロゼットがフォルム・ツヴァイでなければ、成立しないんじゃないかな」

「『かな』って……何も聞いていないのかよ」

「……うん。何も聞いてないし、初めて見たよ」

 

 なのはの疑問系の口調に、零は眉を顰める。その視線をディバインに転じた。

 

「俺が知るわけないだろう。全員に黙ってたんじゃないか?」

「……そやね。こうして機会がなければ、使わへんかったかもしれんし」

 

 表情を緩めることなく、はやてとディバインはモニターを見つめる。その向こうでは追撃の手を緩めず、レックスのライフを2000まで削った深琴が口を開いていた。

 

『……なので負けるわけにはいきませんし、だったらついでに条件をつけることにしたんです』

『条件……?』

『はい』

 

 呼吸を整えると同時に、淡紅色のベルカ式魔方陣が輝く。次の行動に対処できるよう身構えたレックスの足元にも同様に、群青色の魔方陣が展開された。

 

『六課で教わって、学んで、知った魔法……過去の私が使えなかった魔法で、勝つんだって』

 

 得意げな、声が響いた。  

 

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