魔法少女リリカルなのはStrikerS もう一人のストライカー   作:藤月沙月

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05:星と雷

「問題の貨物車両、速度70を維持! 依然進行中です!」

「重要貨物室への突破は、まだされてないようですが……」

「時間の問題か……」

 

 アルトとルキノの報告を聞いて、グリフィスが呟いた。同時にアラートが再び鳴り響く。

 

「アルト、ルキノ、広域スキャン! サーチャー空へ!」

 

 シャーリーが叫び、モニターが切り替わった。

 

「ガジェット反応!? 空から!?」

「航空型、現地観測隊を捕捉!」

 

 

 

 

 

「グリフィス、こっちは今パーキングに到着。車停めて現場に向かうから、飛行許可お願い」

 

 パーキングの坂を下降しながら、フェイトは言った。

 

『了解! 市街地個人飛行、承認します!』

「うん!」

 

 

 

 

 そして、それとほぼ同時刻。

 

「ヴァイス君、私も出るよ。フェイト隊長と深琴と、三人で空を押さえる!」

「うっす、なのはさん! お願いします!」

《Main Hatch Open.》

 

 操縦桿を握るヴァイス陸曹にそう声をかけたなのはさんは、一足先に開放されたハッチへ向かった。

 

「じゃ、ちょっと出てくるけど、みんなも頑張ってずばっとやっつけちゃお!」

 

 なのはさんの声は、明るい。これが経験の差、というやつだろうか。

 

 正直言うと、今更私は怖くなっている。今から戦場に出るという事実と、そこで自分の技が通じるかという不安、そしてみんなの足を引っ張らないかと恐れている。それはキャロも同様らしかった。……優しい子だから、きっと余計に。

 

「じゃあ、深琴。いつもの訓練通り、深琴らしい戦い方で大丈夫だよ。私やフェイト隊長もいるから、心配しないで」

「はい!」

 

 私の返事に頷いて、なのはさんはハッチを駆け降りた。その体を桜色の光が包んだ次の瞬間には、なのはさんは白い防護服を纏っていた。そして臆することなく空へ向かっていく。

 その姿を見届けて、私は首にかけていたクリスタルを外し、紐を右の手首に巻きつけるようにした。いつでも降りられるように、ハッチへと歩を進める。

 

『初戦闘だからってびびるんじゃねーぞ』

 

 通信回線の向こうから、ヴァイス陸曹がそう言った。

 

『お前は新人の中でただ一人、シングルAランクの空戦魔導師だ。心配いらねえ。思いっきり暴れてこい!』

「はい!」

 

 開かれたハッチの向こうには、青い空が広がっている。高々度飛行は何度もやってきたが、戦闘行為は初めてだ。怖くて体が震える。だけど逃げるわけにはいかない。

 淡紅色のクリスタルを握る手に、力を込める。私は一人で戦うんじゃない。なのはさんも、フェイトさんもいる。地上にはみんながいるし、一緒に戦う相棒もいる。

 だから――!

 

「ロングアーチ04、秋月深琴、行きます!」

 

 一気にハッチを駆け、飛び降りる。空へ出た体は、重力に従って落ちていく。右手を胸元に持っていき、さらに力を込めた。

 

「行くよ、ローゼンクランツ」

《Stanby ready.》

「セットアップ!」

《Set up.》

 

 淡紅色の輝きが、私の体を包み込む。纏っていた制服は弾けるように消え、魔力で構成された防護服を纏っていく。靴下、靴、黒のインナーと白を基調としたジャケットとスカート、腰のベルトと装甲――。全てを装着し、黒と淡紅色のショートソード型に変形したデバイスを手に、魔力を足に集中させる。見上げた空に、何十機もの航空型ガジェットが飛んでいた。

 

《Load Cartridge.》

 

 柄の部分に装着されたマガジンが二回回転し、12発の誘導弾を生成する。

 

《Accel Shooter.》

 

 自動詠唱。誘導弾が全て空を舞うガジェットへ向かい、その体に風穴を開けていく。しかし喜ぶのもつかの間、後方に新たなガジェットが回り込んだ。

 

(しまった、間に合わない――!)

《Form Zwei. Protection.》

 

 左手のショートソードが腕輪型へと変形し、淡紅色の盾を発生させガジェットのミサイルを消滅させる。同時に先ほどの誘導弾がガジェットを撃墜した。

 

「ローゼンクランツ……あなた、もしかしなくてもかなりすごい?」

《No.Those present is the magic which you had memorized.I only chose the optimal thing from them.Therefore, not some I have very. 『いいえ。これらは全て、あなたが記憶していた魔法です。私はその中から最適なものを選び出したにすぎない。ですから、私はすごくなんかありません』》

 

 そう、このデバイスは自分を評価する。

 

《All are your ability , Master.『全てあなたの実力です、マスター』》

「そっか……でもちょっと、違うかも」

 

 息を吐いて、私はローゼンクランツを見た。

 

「魔法は私が覚えてる。でも、それを選んでくれたのはあなた。……きっと、どちらかが欠けても戦えないの。それとね、私、『マスター』って呼ばれるのは苦手なんだ。まだまだ未熟者だから。だから……」

《It is even if I call it a "Buddy"? 『でしたら、相棒とお呼びしても?』》

「そうしてくれる? 私も、あなたを『ロゼット』って呼んでも?」

《Of course.『勿論です』》

 

 答えて、ローゼンクランツ、改めロゼットは次の目標を探し出す。

 

「行くよ、ロゼット!」

《All right,buddy!『了解です、相棒!』》

 

 ちょうどその時、降下ポイントから青色とオレンジ、黄色とピンク――四色の光が煌めいていた。そして未だ止まることを知らない貨物列車の屋根に着地する。

 スターズの二人はなのはさんの、ライトニングの二人はフェイトさんの、それぞれの分隊隊長の防護服をイメージして作られているらしい。その点、私のものは若干異なっている。

 リイン曹長――というよりは八神部隊長や他の守護騎士達――の防護服に似たデザイン。黒のインナーと上着、スカート部分の装甲は八神部隊長のそれ。スカートのデザイン自体はヴィータ副隊長のそれに一番近い。色合いは白と魔力光と同じ淡紅色。

 

『深琴の場合、機動性ももちろんだけど、ある程度の出力も必要だからね』

 

 とは、なのはさん。スターズスタイルは高出力で重装甲、ライトニングスタイルは軽量かつ高機動にチューンされているらしい。私の場合はロングアーチスタイルと呼ばれる、魔力制御と放出に重点を置いた防護服……ということだ。ロングアーチ――そしてデザイン基となった副隊長達の防護服は八神部隊長がデザインを考えたと聞いたことがある。その上彼らは優れた『騎士』だ。そんな人達の防護服を纏えるなんて、と心が震える。

 

『まあ、ジャケットの詳しい説明はまた後日ってことで』

『第二編隊来るよ!』

「はい!」

 

 ショートソード型に切り替えたロゼットを両手に構えて、私は更に高く飛翔した。

 

 

 

 ◇

 

 

「ふうん……」

 

 ステルスに身を包み、少年が呟いた。モニター越しには空と陸、二手に分かれて空間を制圧しつつある魔導師達が未だ交戦中。しかし用意された『玩具』の殆どは、既に撃破されていた。

 

「で、僕はどうすればいいわけ?」

『そうだな……空の魔導師と遊んでやってくれないか?』

 

 モニターの向こうで、白衣の男は言った。次いで、双剣を携えた魔導師の映像を拡大させる。

 

『できれば、彼女と。あれの確保は後回しでいい』

「りょーかい」

 

 間延びした声で答え、少年はモニターを閉じた。同時にその足元に、深紅色をしたミッドチルダ式の魔法陣が浮かぶ。

 

「さて、行こうか。『アインザッツ』」

 

 少年が両手に携えた、二振りのショートソードが無言で応えた。

 

 

 

 ◇

 

 

 

『スターズF、4両目で合流。ライトニングF、10両目で戦闘中』

『スターズ1、ライトニング1、ロングアーチ04、制空権獲得』

『ガジェット二型、散開開始』

 

 ロングアーチの現状報告を聞きながら、私はリニアレールに目を遣った。先ほど降下したスバル達はそれぞれレリック確保のために動き始めている。制空権を獲得した私たちは残りのガジェットを三方向に分かれて殲滅しつつ、いつでも地上に援護できるよう動いていた。

 

 ここまでは比較的順調――のはずだった。

 

《Buddy!》

 

 警告を発し、ロゼットは自動でプロテクションを発動させる。

 

「あれ、気づかれちゃった」

 

 盾に噛まれ、刃は届かない。しかしそれでも乱入者は笑っていた。漆黒の髪に、血のように赤い瞳。纏う防護服は闇そのものの漆黒。そしてその手には、ロゼットによく似たショートソード。

 

 少年は笑みを深める。同時に深紅色の誘導弾が背後に回り込んだ。それを回避して、私たちは距離をとる。

 

「ちょっとの間、遊んでくれる?」

「――っ、ふざけないで!」

 

 誘導弾を撃ち落とし、今度はこちらから切りかかった。何なんだ、彼は。いきなり攻撃してきて、「遊ぼう」だって? 訳がわからない。

 

「怖い顔。せっかくの可愛い顔が台無しだよ」

「るっさい!」

 

 本来なら喜ぶべきところだろうけど、今はそんな場合じゃない。急いで誰かと合流しないと――!

 

「あ、駄目だよ。言ったよね? 遊ぼうって」

 

 距離を取ろうと離れた瞬間、少年が切りかかって距離を詰めてくる。そのまま流されるように、私となのはさん、フェイトさんとの距離が離れていく。

 

「ね、遊ぼうよ。あんな機械よりも僕と遊んだ方が楽しいと思うけど」

「どっちもお断りよ……!」

「そう言わずに、さ!」

 

 重い斬撃を繰り出す彼と、防戦一方の私。何が楽しいのか、少年はずっと笑顔のままだ。

 

「僕はフェアクレールト・ナハト。よろしくね。秋月深琴さん」

 

 なんで私の名前を、と聞く余裕もなかった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

「ロングアーチ04、アンノウンと交戦!」

「ライトニングF、依然新型ガジェットと交戦中!」

 

 モニターの向こうには防戦一方の深琴とエリオ、キャロの姿が映し出されていた。そしてシャーリーは先ほどフェアクレールトと名乗った少年のデバイスの映像を拡大させる。

 

「何あれ……あのデバイス、ローゼンクランツとそっくり……どうして……」

「シャーリー……今は考えても仕方あらへん」

 

 今の深琴では、フェアクレールトと名乗った少年には敵わない。力の差は歴然だ。現に今も、なのはやフェイトが援護できないよう距離を離し、また攻撃しようものなら彼女が盾になるように位置を換えていた。その上散開したガジェット二型がなのはとフェイトを妨害する。

 

「ライトニング4、飛び降り!?」

 

 アルトの報告に、指令室は一瞬だけ静まった。モニターには新型の攻撃で落下したエリオと、彼を追うように飛び降りたキャロの姿があった。

 

「あの二人……あんな高高度でのリカバリーなんて……!」

「……いや、あれでええ」

「あ、そっか!」

 

 はやての言葉に、シャーリーが声を上げる。次の瞬間、ピンク色の魔力光が爆発した。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 キャロの魔力光が、爆発したかの様に強くきらめき、消えた。そしてそこには白銀の竜。その余波は私とフェアクレールトの剣戟をも一瞬止めるほど。

 

「あれって……フリード?」

 

 白銀の体に、赤い瞳。そしてその背に乗るキャロとエリオの姿――普段のサイズからは想像もつかない。そしてキャロがエリオと槍型デバイス・ストラーダにブースト魔法を二重に掛け、新型のガジェットへ向かっていく。その姿は『竜の加護を受けた巫女』と『竜を従えた騎士』のように見えた。

 

「へー、竜召喚かあ……ルールーとどっちが凄いんだろ。ねえ?」

「知らない……っていうかルールーって誰!?」

 

 とか言いながらもフェアクレールと私は再び、今度はお互いに距離を詰める。誘導弾による牽制も、彼には――彼とそのデバイスには効果が無い。まるでこちらの手の内を知っているかのような――。

 

「深琴!」

 

 フェイトさんの声が響き、同時に金色の魔力砲がフェアクレールトへと向かう。しかしフェアクレールトはそれも難なく避けた。そして私とフェイトさんは、彼を挟みこむ。

 

「殺人未遂と公務執行妨害の現行犯で、あなたを逮捕します」

「んー、それは困るなあ。逮捕されちゃったら、深琴と遊べなくなっちゃうし」

 

 フェイトさんの言葉を聞いているのかいないのか、フェアクレールトは笑っていた。

 

「じゃあまたね、深琴。今度はもっとゆっくり遊べたらいいな」

「まだ言うか……って待ちなさい!」

 

 周囲に爆煙が広がり、フェアクレールトの姿を隠す。風で煙が消え去った時、彼の姿はなかった。

 

「何だったのよ……」

 

 いきなり攻撃されて、反撃一つろくに入れられなかった。

 そして何より、彼のデバイス。一度も応答する様子はなかったけど、あの形はロゼットに非常によく似ていた。悔しさに唇を噛み締めていると、なのはさんからの通信が入る。

 

『スターズ1よりライトニング1、ロングアーチ04。スバルとティアナがレリックを確保したよ。そっちは大丈夫?』

「うん。アンノウンは逃がしちゃったけど、深琴も怪我はないみたいだし」

「あ、はい! 大丈夫です!」

 

 同時に開いたモニターには、厳重に封印をかけたレリックをスバルとティアナが運んでいるところが映し出されている。

 

『これからスターズは中央のラボまでレリックを護送するね。ライトニングは現場待機。深琴、ライトニングの補佐を頼んでいいかな?』

「は、はい!」

 

 応え、私は急いで地上へと向かう。眼下の白竜の背で、エリオとキャロは笑っていた。

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