魔法少女リリカルなのはStrikerS もう一人のストライカー   作:藤月沙月

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06:進展

 遊ぼう、と笑っていたあの少年を思い出す。実際遊ばれているように私の攻撃は通用しなくて、いいように振り回されて。それが何よりも悔しかった。そして何より、愛機とよく似た彼のデバイスが気になった。

 彼に勝ちたい。そのために、私は何をすればいいのだろう。そのために、私は何ができるのだろう。その答えを一分一秒でも早く知るために、今日もまた、訓練漬けの一日が始まる。

 

 

 

 機動六課、陸戦訓練場。本日よりフォワード陣はそれぞれ自分のポジションに合わせた個人訓練に入っている。フロントアタッカーのスバルはヴィータ副隊長と。センターガードのティアナはなのはさんと。ガードウィング、フルバックのエリオとキャロはフェイトさんと。そして名ばかりウィンドバックの私は――。

 

「どうも。聖王教会騎士団所属の騎士、渡辺零(わたなべれい)だ」

 

 待機服に身を包んだ少年――じゃない、青年・渡辺零さんはそう簡潔に自己紹介した。なのはさん、フェイトさん、八神部隊長とは顔見知りで同い年だとか。嘘だっ! と思わず叫びそうになるほどそうは見えない。服装とかも加えたら私と同い年でも通用しそうだ。

 そんな零さんだが、どうやら武器は日本刀らしい。今は右肩に袋に入れた状態で包んでいるが、まるで騎士というより侍といった感じだ。外見が日本人らしい黒髪黒目なこともあるのだろう。ちなみにご先祖が地球出身とのことだ。

 

「訓練内容だが、メインは魔法の切り替えの高速化と、攻防・回避の切り替えを重点的に行う予定だ。しかし何にせよ時間がないから、一部は仮想戦闘データで代用する。ちなみになのはとレイジングハートお手製だ。さっきやってみたが、結構きついぞ」

 

 冗談抜きにな、と語る零さんの目から輝きが消えた。トラウマでも植えつけられたんだろうか。

 

「まあ今日は初めての個人訓練だから、そこまで飛ばしはしない。午前中はそうだな……現時点で使える魔法を、一回全て見せてもらえるか?」

「それだけでいいんですか?」

 

 他のみんなは早速スパルタ訓練を受けてるんだけど。一方零さんは「あいつらはな」と苦笑している。

 

「そもそもお前はライトニング同様実戦経験が前回の出動だけだ。ルールなしの戦闘は、な」

 

 確かに、彼の言うとおりだ。私が経験してきたのは、インターミドルやランク試験など「一定のルールに則った」戦闘である。それはかなり大きい。なぜならこれからの戦闘は「殺し合い」にも発展するのだから。

 

「まあお前の実力なら十分耐えうるがな。だが一度自分を見返してみるのも悪くないぞ」

「はい……」

 

 まあひとまずやってみるしかないだろう。呼吸を整えて、私はロゼットを握りしめた。

 

 

 

 

「なるほどな……」

 

 開始から一時間ほどで、私は覚えている限りの魔法を全て出し切った。まだ練習中の魔法も見てもらったが、零さん曰く「やめろお前はまだ14だ頼むから早まるなむしろ俺泣いちゃう」と以下エンドレスで止められたのでしばらくは使わないことにした。

 

「よし、一応データ解析して、次の訓練からいくつか実際に使って試してみるか」

「よろしくお願いします!」

「ああ。後はそうだな……一応なのはから、飛行に関しても言われてるんだが」

 

 なのはさん曰く、現在私は陸戦フォーメーション訓練中、そしてB+ランクに限定されている状態なので現時点で空戦教導は危険+時間が取れないということだ。

 

「まあそれも午後に回すか。残り時間はそうだな……」

 

 僅かに宙へと視線を遣って数秒、零さんは刀を構える。同時に騎士甲冑を展開した。

 

「ちょうどいい。残り一時間、全力で来い」

 

 その言葉に頷いて、私も防護服を展開する。零さんから放たれる威圧感を感じ取り、嫌な汗が背中を流れた。けれどそれも一瞬のこと。ロゼットの第一形態――ショートソードを両手に構え直し、私は呼吸を整える。

 微笑する零さんに彼――フェアクレールトの顔が過るが、そんな思考を振り払う。強くなるんだ、と。そして二度目があればその時は、最悪でも一撃を返すのだと言い聞かせて。

 

「――行きますっ!」

 

 

 ◇

 

 

「いやー、やってますなぁー」

 

 陸戦訓練場付近で、シグナムと肩を並べてモニターを見つめていたヴァイスはそう口を開いた。開かれた五枚のモニターには新人フォワードの個人訓練の様子が映し出されている。

 ヴィータの指導のもと防御魔法の出力強化を行うスバル。

 フェイトの指導のもと回避トレーニングを行うエリオとキャロ。

 なのはの指導のもとインターセプトトレーニングを行うティアナ。

 

「初出動がいい刺激になったようだな」

「いいっすねえ。若い連中は」

「若いだけあって成長も早い。まだしばらくの間は危なっかしいだろうがな」

「……つか、一組だけ全力戦闘入ってるように見えるのは俺の気のせいっすかね」

「いや、『ほぼ』全力戦闘だ。――とはいっても、それは深琴だけだがな」

 

 そう訂正して、シグナムは問題の一組――秋月深琴と渡辺零の戦闘を見た。訓練場では彼女たちが使用している場所だけ爆煙の上りが違っている。

 

「シグナム姐さんは、参加しないんで?」

「私は古い騎士だからな」

 

 そう答えたシグナムは、自嘲の笑みを浮かべて肩を竦めた。

 

「ま、それ以前に私は人にものを教えるという柄ではない。戦法など、『届く距離まで近づいて斬れ』ぐらいしか言えん」

「すげえ奥義ではあるんすけど……」

 

 乾いた笑い声を上げて、ヴァイスは訓練場を見やった。

 

「確かに、連中にはまだちーっと早いっすね」

 

 

 ◇

 

 

「はーい、じゃあ午前の訓練終了ー」

 

 なのはさんの号令に、集まった私たちはほぼ同時に地面に座り込んだ。口を利く余裕も残ってない。

 

「はい、お疲れ。個別スキルに入るとちょっときついでしょ?」

「ちょっと、というか……」

「その、かなり……」

 

 ティアナとエリオが息も絶え絶えに言う。

 

「フェイト隊長は忙しいから、そうしょっちゅう付き合えねーけど」

 

 言って、ヴィータ副隊長はデバイス・グラーフアイゼンの切っ先を向けた。

 

「あたしは当分、お前らに付き合ってやっからな」

「俺もな。って言っても、基本的に深琴か前衛のどっちかになると思うが」

 

 言って、零さんは「つーか俺らだけ『個別スキル(笑)』だったんだが」と呟いた。それは午後に回すって言ったのはあなただ。

 

「それから、ライトニングの二人は特にだけど……スターズの二人も、もちろん深琴もまだまだ体が成長してる最中なんだから、くれぐれも無茶はしないように」

「じゃ、お昼にしよっか?」

「「はいっ!」」

 

 なのはさんのその一言に、思わずテンションが上がった。

 

 

 さて、どこの世界だろうと食事中は会話も弾むものだろう。それは私たち機動六課フォワードも例外ではない。

 スバルのお父さん、ゲンヤ・ナカジマ三等陸佐。そしてお姉さんのギンガ・ナカジマ捜査官。ナカジマ家の話題を発端とし、本日の昼食時の会話は出身や部隊員の繋がりについてになった。主に隊長陣――部隊長、なのはさんが生まれ、フェイトさんが一時期その世界で暮らしていた第97管理外世界<地球>について。どうやらスバルのご先祖もそこの出身らしい。そして話は一旦エリオに移り、その悲惨な出身――本局の特別保護施設育ちだということ――をあまりにも明るく彼は話して。

 

(……っていうか話をしている間に山盛りのスパゲッティがみるみる内に消えていくって……)

 

 絶対おかしい、と私は内心で強く言い切った。

 機動六課の食堂は広く、綺麗で、味もよく量もあるという非常に便利な施設である。特に魔力の迅速な補給には糖質・炭水化物・たんぱく質をバランスよく配置した食事が不可欠であり、健康体の維持のために各種ビタミンやミネラルも必須となるため、若く伸び盛りな魔導師の食事量は常人のそれを上回ることがほとんどだ。もちろん私もその一人……でいたかった。

 

「でも、それ言ったら深琴は……深琴、それだけで足りるの?」

「え、あ……うん……」

 

 スバルから話を振られた私は小さく頷く。お皿に大盛りのスバルとエリオ、並盛りだけどお代わり何度めだろうティアナとキャロが目を見開いている。そんな私はメインのスパゲッティ並盛り一杯とパン、サラダ、スープ、ジュースだ。別に体重とかそういうのを気にしているのではなくて(訓練で全部消費されるから脂肪として残らない、が正しい)。

 

「でも、ちゃんと食べなきゃもたないよ?」

「そうなんだけど、ね……昔から食欲薄いんだよね、私。食べようと思えば一応食べれるんだけど……ずっと、入院してたし……」

 

 その一言に、同席していたスバル、ティア、エリオ、キャロ、シャーリー、零さんの表情が固まった。

 

「入院って……病気か、何か?」

「話すと結構長くなっちゃうんだけど……」

 

 けれど、全員の目が私に集中している。これはちゃんと話しておかないと後々面倒そうだ。

 

「私が地球――っていっても、八神部隊長やなのはさんの出身地からずっと西の方なんだけどね。そこで暮らしてた頃はずっと、入院してたの。魔法技術の無い向こうでは原因不明だったんだけど、こっちで言うなら、俗に言う『魔力性疾患』で」

 

 管理外世界の例に洩れず、地球には魔法文化も、次元航行手段も無い。けれど魔力は確かに存在し、ジュエルシードや闇の書――夜天の書などのロストロギアが流れついたことだってある。そして八神部隊長やなのはさん、私や伯父、今は隠遁生活を送っているらしいギル・グレアム元提督のように管理局に入局するほどの魔導師が生まれることも極稀だが存在する。

 けれど私は地球の魔力素と適合できず、自身の魔力を維持することができなかった。……いや、一時期は出来ていたのだ。――ロストロギアが、地球に流れ着くまでは。ずっと東の方で発見された『ジュエルシード』、そして『闇の書』の魔力干渉を受けては発作を繰り返し、10歳になる年まで入院。ある時訪れた伯父・秋月英史(あきづきえいし)に事実を告げられて、彼とその妻に引き取られ、今に至る。

 しかし幼少時からの経験か、リンカーコアによる魔力素の結合効率は高く、食事以外――主に睡眠で十分補えた。逆に食事だとあっという間に必要分が結合されてしまうため、過剰供給により処理落ちするという欠点がある。まあそれ以前から食欲旺盛というわけではなかった。

 そして入院中は精神的にも参っていたため、「生命活動を維持するために食べる」という行為を億劫に感じていた。ぶっちゃけると心がほとんど死んでいた。

 今になって思えばバカみたいだと思うが当時は周囲――主に魔法を忌み嫌った家族や兄への罪悪感でいっぱいで、幼いなりにも苦しんでいたのだ――とでも言っておく。ちなみに今になっては本当にバカみたいだ。うん、本当に。

 そう締めくくって顔を上げると――お通夜状態だった。

 

「あの……ごめん」

「ううん、気にしないで。っていうか私もあんまり気にしてないし、今の方がずっと楽しいから」

「そうか。……でもしっかり飯は食え。ほれ」

「え、ちょ、あの、零さん、勘弁してください。パスタはこの半分ぐらいで……」

「駄目だ。食事も立派なトレーニングだからな。計画に追加する」

 

 トングでスパゲッティの山を私の皿へ移しながら、零さんが非情な宣告をする。鬼か、この人は。

 

「何だったら菓子でもいいぞ。和菓子だろうが洋菓子だろうが作れるしな。何がいい?」

「『料理できる男性』って最近の流行か何かですか?」

「必要に迫られたら男だってするさ。まあ俺の場合は9割が趣味だが」

「何で零さん騎士やってるんですか!?」

 

 9割が趣味って、それもう殆ど自主的ですよね。思わず突っ込みを入れると、この空気に耐え切れなくなったティアナが小さく噴出した。そして笑いは伝播し、気づけば私も声を上げて笑っていた。

 正直言うと、今の状況はかつての私が夢見ていたものである。学校に通って、友達を作って、目標を見つけて、いつかは働いて。それが地球で言う普通と、ミッドチルダで言う普通が違うだけ。でも、それでよかった。

 ここにいることが幸せだと、胸を張って言える。今はまだ、それだけでよかった。

 

 

 

 

 

「はーい、それじゃあ夜の訓練おしまーい」

 

 うん、幸せではあるんだけどさ。そう思いながらも、私はへたり込んでいた。太陽はとっくのうちに沈み、ミッドチルダには夜の帳が落ちている。スターズ、ライトニングはなのはさんとヴィータ副隊長。私は相変わらず零さんと個人スキル教導だ。

 

「「ありがとうございましたぁ……」」

 

 ほら、声に力がこもってない。朝から晩までみっちり訓練。幸せではあるんだけど、しんどいものはしんどい。

 

「「お疲れさまでしたぁ……」」

「はーい」

「ちゃんと寝ろよー」

 

 そう声をかけてくれたのは、ヴィータ副隊長だ。

 寮への道を歩く同僚たちも、私と似たり寄ったりで。それでも弱音が聞こえないのもまた似たり寄ったり。昨日より今日、今日より明日。ほんの僅かでもいいから前に進んでいると信じて。

 

「頑張ろうね、ロゼット」

《Yes.buddy》

 

 

 

 ◇

 

 

 時同じくして、第97管理外世界<地球>極東地区日本・海鳴市。夜空に包まれたその大地で、蒼氷色の魔力弾が弾けた。しかしぷよぷよ動くスライムにも似た何かは無傷だった。それを確認した少女は、舌打ちを響かせる。手にした杖を構え直すと、スライムはぴょこぴょこ動いて戦闘区域から逃げ出した。目視とあらかじめ散布していたセンサーから反応が消えたことを確認して、杖を下す。

 少女が身に纏うのは、黒いロングジャケットとプリーツの入ったミニスカート。アレンジが加えられていることを除けば、遠い異世界の魔導師が着用している防護服にもよく似ている。しかし本来なら着用者のサイズに合わせられているはずの丈が合っていない。

 

「相変わらずすげえな、『魔導師』って」

「……………」

 

 暗がりから姿を現した男は、素直に称賛した。聖祥大付属高校の男子制服に身を包む彼に視線を遣り、無言を貫いた少女は、防護服を解除する。光が弾けた時、少女が身に纏っていたのは聖祥大学付属高校の女子制服だった。少女の燃えるように赤い髪が風に揺れる。視線を少年と合わせることなく、少女は口を開いた。

 

「……そうでもないです」

 

 言いながらも、少女は空間モニターに指を走らせる。

 

「少なくとも、あなたの妹に比べたら」

「……そうかい。俺としたらずいぶんうらやましいけど」

 

 現れた別のモニターに、一人の少女が映った。肩より少し長い、濡烏を思わせる髪。そして同色の瞳というこの国特有の外見をした少女――秋月深琴が。

 それを見た少年――秋月静真(あきづきしずま)の表情が曇る。それに気づいているのかいないのか、少女は別の写真を出した。陸士部隊の制服を身に纏う、ツインテールの少女を。

 ――ティアナ・ランスター。親友がこの世に遺した、忘れ形見。恐らく自分をもっとも恨んでいるであろう彼女の姿を見て、少女は瞳を伏せた。この子も、ここへ来ると言うのか。

 

「……おい、秋葉(あきは)、顔色悪いぞ。大丈夫か?」

「……平気です」

 

 静真にそう答え、少女――霜月秋葉(しもつきあきは)はモニターを閉じた。

 

「よっしゃ、帰るか!」

「なんでそんな元気なんですか……っていうか先輩、自分の家に帰ってくださいよ」

「晩飯何にすっかなー。野菜とかあったし、鍋しようぜ、鍋」

「もうすぐ梅雨の時期に鍋ってどうかと思いますよ、季節感的に。っていうか人の話聞いてください」

「いや、待て。確か素がなかったな。今ならスーパーにもぎり間に合うしキムチにするか塩ちゃんこにするか、値段的にトマトやカレーに挑戦してみるか……秋葉、どれがいい?」

「明らか自分の好みですよね。それと後者二つは勘弁してください。個人的には塩ちゃんこがいいです」

 

 肩を竦めてツッコミを入れていた秋葉が応える。

 

 

 そしてこの日から一週間も経たないうちに、時空管理局古代遺失物管理部より「機動六課」が出張任務に来ることになるとは知らぬまま。

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