魔法少女リリカルなのはStrikerS もう一人のストライカー 作:藤月沙月
第97管理外世界<地球>。私が10歳までの月日を過ごした世界で、けれど心に残る思い出もない世界。ミッドチルダに来て間もない頃、それとなく伯父に言われたが、帰りたいとは思わなかった。帰る必要も感じていなかった。来た瞬間はともかく、今となればなんの感傷もない。
だから今、その連絡を聞いて一番驚いている。
「派遣任務、ですか?」
「そや。状況が状況やから、フォワード陣、各分隊の隊長、副隊長も一緒や」
「もちろん、私たちもですよー!」
オフィスで作業中、八神部隊長、リイン曹長に声を掛けられた私は、デスクに送られたファイルを開く。
――詳細不明のロストロギアを確認。場所、第97管理外世界<地球>極東・日本、海鳴市。
「二時間後には出発予定や。きりが良いところで終わらして、準備頼むな」
「はい」
第97管理外世界<地球>極東・日本。その世界を懐かしむ同郷者と、話を聞く同僚と。その中でただ一人、私は唇を噛み締めていた。
私の様子に気づいた同僚は後に語る。『まるで、今にも泣きそうだった』と。
◇
「第97管理外世界。文化レベルB……」
「魔法文化無し、次元移動手段無し……って、魔法文化無いの!?」
「無いよー。うちのお父さんも魔力ゼロだし」
フォワード陣がそれぞれ情報収集のため、現地情報をモニターに映す。
「何でそんな世界から、なのはさんや八神部隊長みたいなオーバーSランク魔導師が……」
その疑問をティアナが口にした途端、八神部隊長は笑った。
「突然変異、というか……たまたま、な感じかな」
「私もはやて隊長も、魔法と出会ったのは偶然だしね」
「な」
「「へえー……」」
と、同僚たちの視線が私に移る。海鳴市ではないとはいえ、私も地球出身の魔導師。
「元々『秋月』はそういう家だし……。うちはスバルのお父さんとは反対で、移住してきた魔導師が先祖らしいし。私や伯父の前にも何人か、魔導師みたいな人はいたから」
そう答えて、会話を打ち切った。嘘はついていないし、何よりこれ以上は話したくなかった。少なくとも話してしまうと、みんなは気を使うだろう。――私が、実の親に捨てられたなんて。
声が、過ぎる。
『私は、あれの母親になった覚えはありません』
はっきりとした拒絶の目。そして言葉。
『あなたなんか、生まなければよかった』
寄るところがある八神部隊長と副隊長を見送って、私たちは転送ポートに入った。
(まあでも、大丈夫か)
海鳴市には秋月の実家はあるけれど、実家嫌いのあの人は――あの人たちは寄りつかないから。だからきっと大丈夫。私のことを知る人は、いない。最初からないのだから、寂しいはずもない。
というより、本来私は、あちらの世界では「異端」なのだ。それが恐れられ、嫌われるのはなんら不自然なことではない。例え『秋月』がその異端を崇拝する家系であっても、それとあの人達は無関係だ。だから、母さんは悪くない。
(悪いのは、私だ……)
母さんの期待に応えられず、その上母さんが望まない力を持って生まれてしまった、私が。褒められたいと思わない。「お帰りなさい」の一言だっていらない。それでも、ほんの僅かでいいから、同じ血を引く人間として認めてもらえたら。
それだけでいい、と私は瞳を閉じた。