ソロプレイヤー、ナザリックに挑む   作:No_46

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余りにも早い決断

 白銀の薄い繭が包み込む目の前のゲートに足が止まる。

 

 逡巡。

 

 無理にでも突き破り、強化された統べる者をワールドチャンピオン総勢で止めるか。

 

 そんな考えが頭をよぎるも、私は思い出していた。

 原作にて、法国の神は八欲王に殺されている。

 

(本当にそうだったかはわからないけど。

 攻撃してきたし殺さないと止まらないのか……?)

 

 だがその逡巡から生まれた隙を統べる者は見逃すわけがない。

 

 背後で危機感知スキルが迫り来る統べる者の位置を脳裏に映し出す。

 

 異常な加速、恐らく魔法を発動したのだろう。

 視界の端に割り込む鋭い刃は致命的なダメージを示す深い赤色だ。

 追いついた勢いのまま戦鎌は私の首を取りに来る。

 

(敏捷の上がり幅エグすぎ、〈加速《ヘイスト》〉と〈上位敏捷力増大《グレーター・デクスタリティ》〉使ったっぽいけど。

 魔法使えるぐらい回復したと考えた方がよさそう)

 

 鞘を割り込ませ攻撃を防ぐも嫌らしく鎌が引かれた先には統べる者。

 ついでのように鎌がうねれば、またしても腕が引っかかる。

 

「いったいなぁもう!」

 

 そう言いつつも私は刀を抜き戦鎌に接した皮膚を削ぎ落とす。

 

 抜き払われる刃は一瞬で納刀までを終える。

 既に手首まで浸食していたスキル【接続《コネクト》】は攻撃を受けた事で滑り落ちるように剥がれた。

 現実化によって自傷ダメージが発生し、凶悪さが増していることと、ゲート前や身体の周囲へ張り巡らせている分かたれた白銀。

 更に言えば、大鎌という武器種との相性も良い。

 大鎌が不人気な理由の一つに、内に刃が仕込まれているため至近距離まで接近しなければならず、自らも攻撃を受ける可能性が高いことも上げられるが、それらが【接続《コネクト》】というコピースキルにより利点へと昇華されている。

 

(ゲーム時代とほぼ別もんだわこれ……

 自由度と操作性が高すぎる……!)

 

 現実化とユグドラシル時代のセーフティが消えた事による拡張性の向上。

 焦りは私の視野を狭める、だが戦闘思考は研ぎ澄まされたままだ。

 欲望スキルと精神系無効が異様に混じり合った状態で、私の中に存在している。

 欲望に身を任せれば、亜人の街で起こしたやらかしがまたしても起きるだろう。

 

(もうPKでスキル解除させた後に長文ネキか誰か呼んで拘束するしかなくない? 

 そもそもゲートを覆ってるスキルも攻撃当てたら無効化できないの……? 

 いや身体にくっついてるのは攻撃で剥がれるけどそれ以外だと吸収されて特定属性以外は動き止められなかった気がする)

 

 思考を遮るように振り回される戦鎌、ギリギリ当たらないかと思えば先端の槍が身体を切り裂く。

 

 すぐに再生し、付与されるデバフも自傷で容易に解除できる程度。

 だとしても神経がすり減り私の思考も中断される。

 

 戦闘思考に傾き、もはや話し合いのアイディアも浮かばない理由はそれだけではなかった。

 

 じくじくとした疼きと、ご馳走を前にお預けされているような、痒いところの周辺を掻かれるような寸止め感。

 目の前の相手に刀を抜けないもどかしさが際限なく高まり始めている。

 目の前のこいつにスキルを放ち、一刀両断したらどれだけすっきりするだろうか。

 

 欲望を理性で抑えるように、刀を強く握りしめる。

 斬殺欲求が限界に近い事は明らかだ。

 

(マジで逃げないとアカンか……?)

 

 そう考えながらも決断がつかない。

 

 同時に来るはずだった長文ネキの遅れ、対話もできない統べる者、なぜか開いたままのゲート。

 不可解な要素が多すぎる。

 決断の遅れは、統べる者に利していく。

 

「〈浮遊大機雷《ドリフティング・マスターマイン》〉」

 

 目の前にふわりと浮き上がった点滅する光球。

 起動の兆候を待たず私は即座に抜刀、発動する前に切り捨てたことで魔力がほどかれるように消える。

 

(ノックバック付きの魔法使ったならワールドサバイバーのスキルは知ってるってことだよなぁ。

 今更ってのもあるし舐めプかな? 

 違うなら私のスキルで魔法斬って消せることは忘れてる? 

 スキル内容全部ネットに貼られてたから知ってるだろうに)

 

 脳裏に思い浮かぶワールドサバイバースキルの効果の一つ。

 目玉でもあるデバフ反転。

 ノックバック状態を反転させた結果、より近付く効果へ変化させる事はユグドラシルの衰退期に周知の事実となっていた。

 

 同時に戦う場合の活用方法も。

 

 爆発によるノックバックは、反転され肉薄を許すことになる。

 魔法職にとって、距離を近づけることは致命的であったが、近接格闘の上級者であり【接続《コネクト》】によるデバフも可能な統べる者には当てはまらない。

 あえて接近させても戦闘行動を継続可能なレベル帯のプレイヤーが何人居るかという話ではあるが、数少ない一人として噂されていたプレイヤーが目の前にいる。

 

 しかし

 

(魔法戦士なのにへたっぴすぎぃ~!!! 

 魔法回復したとしてもほぼ意味ないでしょ。

 この程度じゃなかった気がするんだけど)

 

 鎌からの攻撃を弾きながらも疑問は解決しない。

 

「〈焼夷(ナパーム)〉〈龍雷(ドラゴン・ライトニング)〉」

 

 唱えられた魔法により地面から炎が吹き出し、龍を象る雷が迫る。

 私は雷を一刀のもとに切り伏せると同時に飛び退こうとするが、統べる者は予想していたかのごとく待避位置で待ち構えていた。

 

「チッ」

 

 舌打ちしつつ鞘で攻撃を受け止めたまま刀を抜き、地下から噴出する炎を切り裂く。

 ゴッズアイテムの指輪で炎への絶対耐性を持ってはいるが、エフェクトによる視界不良は無効化できない。

 統べる者を視界に捕らえ続けるべきと判断した理由は、行動が確認できなくなることを嫌った為だ。

 

 魔法職相手に準備期間を与えることは最大の愚策。

 それは、魔法による手数の多さと、詠唱時間、そして何を用意しているのかが不明である事から来るもの。視界が塞がれた状態で無詠唱化がなされた武器強化系の魔法を使われれば、対処難易度は格段に上がる。

 

 だが両腕を自ら塞いでしまったのは大きなミスだ。

 

「〈魔法最強化(マキシマイズマジック)〉〈現断(リアリティ・スラッシュ)〉」

 

 文字通り目の前で次元が裂けた。

 鞘から抜いた状態の刀では、切って消すことは間に合わない。

 しかし一発ならば耐えられる、【次元断層《ワールド・ディスロケーション》】を使うまでもない。

 その判断で私は攻撃をそのまま受けたが、視界が暗転する。

 

(は!? 現断に盲目化なんて無かったでしょ!? 

 そもそも無効化してるのに……物理的に目ん玉斬られたから!?)

 

 未だにユグドラシル気分でいた私は、擬似的な盲目化(ブラインドネス)を食らったことで焦り危機感知に集中するも、攻撃は来ていない。

 それどころか私を炎の中へ押し込んでいた戦鎌の重みも離れた。

 

(は?やっぱり舐めプ?)

 

 攻撃に備え素早く納刀し身構えるも攻撃は来ない。

 

 既に戦闘中、私が反撃をしていないとはいえ、統べる者は戦鎌からの攻撃を行いながら間隙を縫って魔法を扱えている。

 ユグドラシル時代では魔法戦士としての技量は連合の大会メンバーをも追い返したレベルであった。

 

 だというのに反撃しない私を未だ倒せていない違和感。

 そして先ほどの魔法を用いた戦い方だ。

 

(こいつ……魔法使うのに慣れてきたというより、思い出し始めてるのか? 

 最初の浮遊機雷より今のナパームとかは巧かったし。

 今まで魔法使わなかったのは舐めプじゃなくて忘れてたから!?)

 

 そう考えれば最初に〈飛行(フライ)〉を使いながらも降り立ってからは使わなくなったことや最初はスキルばかりを用いていた理由にも辻褄が合う。

 

(でも魔法無詠唱化《サイレントマジック》つけてないし、魔法戦の基礎は思い出しきれてない。

 最初はそもそも魔法使ってなかったし今まさに思い出してる最中っぽいが、だとしても急ぎすぎでしょ。

 最初使ってなかった魔法を今使い始めるとか隙生まれやすくない? 

 反撃しようと思えばこっちもできるってのに、何か長引くと不味いことでも……)

 

 反転リジェネで視界は炎を見れる程度にまで戻り、ナパームの効果時間も切れたのか炎が晴れるる。

 炎が吹き出していた数瞬の間に、あまりにも大量注ぎ込まれた情報。

 更に統べる者は強くなるという予想はつくが、解決策は見当たらない。

 

 開いた視界に捕らえられた統べる者は、戦鎌を解き放っていた。

 今まで以上に早い上からの振り下ろし、【死線読み】が示す威力は今までのものと変化していない。

 

 魔法が同時に放たれないか観察しながらも攻撃に合わせ刀で弾こうとする。

 

(……舐めプじゃなかったなら、何で視界塞いでた時は攻撃しかけてこなかったんだ?)

 

 生まれた疑問は、戦鎌と刀が接した瞬間に氷解した。

 

 ガキンッ!! と今までよりもひときわ大きな音が鳴り響く。

 接した瞬間、感じたのは片腕では耐えられないほどの重量と勢い。

 

(あ、コレ無理だ)

 

 腕が重さで震え、弾こうとした刀が下げられる。

 戦鎌の振り抜きを防ぐなら、刃が横向きに広がっている関係上、根元の柄か狭い刃で止めなければ抜かれる。

 更にいうならば統べる者の戦鎌は三日月刃、とっかかりの無い滑らかな刃を止めるのは難しい。

 弾くことへ意識を集中し、滑らせるように鎌を反らし弾かなければ、傷は更に増えていただろう。

 

 弾けなかった今、迫る刃を防ぐ手立てはない。

 

 

 だがそれは───

 

 

「【至刀:独閃】」

 

 スキルを縛っていた場合の話だ。

 

 下げられたことで納刀位置に近付いた刀を一瞬で抜き、戦鎌へ解き放つ。

 スキルを用いた事による神速の抜刀は重さを増し加速した大鎌すら弾き返す。

 

「やば……使っちゃったよ。

 ダメージ入って……ないなヨシッ! 

 最悪死んでも殺しに来てるしセーフだよね?」

 

(あっぶね~思わず使っちゃったけど、ユグドラシルの時みたいに腕少し巻き込んでたから大ダメージで即死とかはなさそうだな……よかった)

 

 統べる者は弾かれた事実も私の言葉も気にかけず、攻撃を重ね続けた。

 大道芸のように身体を周りでぐるぐると回転を加速させ、刃を解き放つ。

 その攻撃威力は相も変わらず最初より重くなっていた。

 

(なんのバフだよ……

 エフェクト見えないんだよなぁ、傷が深くなってるって訳でもない。

【死線読み】で色変化がないって事はダメージ量増加かとかでも無い。

 受けてる感じマジで重くなってるだけ……〈重量増加《インクリース・ウェイト》〉か? 

 だとしたら動かしにくくなると思うんだが、攻撃に使うなんてよく思いついたな。

 さっきよりめっちゃ回してるのは遠心力で威力上げるためか?)

 

 背後に回した持ち替えや回転させることでの遠心力の増加、合間に挟まる魔法攻撃。

 

 私はできる限り距離を置き、攻撃を弾きながら避ける事へ注力する。

 その中で明確に防ぎきれない威力だけを回転数から予測し独閃でたたき返す。

 

(私の攻撃スキル使ってるのに武器を落とせないんだけど……! 

 武器に【接続《コネクト》】付いてるからこのまま弾いてるとコピーされるぞ……!? 

 何回かわからないのが面倒くさいんだよ! 

 いや、ワンチャン武器破壊があるか? 

 ……攻撃に合わせると耐久性はどんどん減る……

 流石に威力を比べれば統べる者の戦鎌が先に壊れるだろうし、そもそもワールドアイテムの武器種だから破壊不能って訳じゃなくても耐久性は高い方だしなぁ。

 ……まとわりついてる【接続《コネクト》】に攻撃判定吸われてたり、バフとか自動修復とかされてないって前提だけど……

 こんな攻撃してくるって事は耐久無視できるの!? 

 もう訳わかんないんだけど!!!!!)

 

 私がスキルを用いて攻撃を弾くということはスキルコピーが行われるということ。

 現状の統べる者が用いている威力では私を殺しきることはできないだろうが、私の独閃ならば一撃必殺の範囲に入る。

 何より攻撃の起こりが早い、早すぎて自分でも止められないぐらいだ。

 放たれた一瞬で防ぐ手段は同じ独閃を撃つか、次元断層ぐらいしかないが、反応できるかは賭けになる。

 

 しかもそれだけではない、刃を抜いたことで斬殺欲求が更に湧き上がった。

 

「なんなんだよお前さぁ! 殺意高過ぎだろだろぶっ殺すぞ!」

 

 苛つき、腕ももう切り落としてしまいたい欲望を必死で押さえながらも思わず口から罵声が飛び出す。

 斬撃が伸びる一刀遼断などの大技なら武器を引き剥がせるかもしれないが、周囲の建物に人がいるかもしれない関係上つかえない。

 じりじりと詰め将棋のように選択肢を狭められ続ける状況に苛立ちと焦りが募っていた。

 

 しかしそれは私だけではなく、統べる者も最初の時よりも明確に焦りが見える。

 何十年も扱ってきたような戦鎌の攻撃が魔法より面倒なのは明白だが、扱いに慣れてきたのか〈現断《リアリティ・スラッシュ》〉や無詠唱化された〈浮遊大機雷《ドリフティング・マスターマイン》〉などで厭らしく生み出した隙に【接続《コネクト》】や槍系、鎌系スキルの一撃。

 

 それらの魔法やスキルを後先考えない勢いで連発している。

 

 私のリジェネ耐久に埒が明かないと判断したのか、それでも私が攻撃していないのだからもっと余裕を持って対応した方がメリットが大きいはずだ。

 私を殺せない事以外で何かあるのか……

 

 何度目かの攻撃回避の直後、地面が揺れた。

 闇が晴れ、傾いた建物が元に戻る。

 床もいつの間にか整った石造りに戻っていた。

 

【世界改変《ワールド・クリエイション》】の効果時間切れだ。

 

「焦ってた理由それ? 

 今んところテレポつかえるぐらいしか解除の利点が無いんだけど」

 

 首をかしげながらも攻撃を反らし、打ち返す。

 

「ご無事ですか! スルシャーナ様!!!」

 

 そんなとき、私の脳裏に現れた幾らかの紅い敵対反応。

 

 ほとんどは問題が無い、道を駆けてくる何人かの戦士や建物の上から弓で私を狙うNPCらしき異形種と人間、その装備から致命的となるようなものは存在せず、危機感知スキルに反応するレベルの者も数える程度のNPCのみ。

 だが一つだけ、私が出てきた〈転移門《ゲート》〉から現れた腕、その掌に集まる呪詛のオーラは、私に致命傷を与えるレベルの深紅色だ。

 やってくる人間たちは巻き込まれない、私と統べる者だけを狙い撃ちにする絶妙な位置。

 

「【真髄:一刀遼断】」

 

 攻撃するも、既に置かれていたらしき【次元断層《ワールド・ディスロケーション》】で阻まれる、止められない。

 

「来るな!!!!」

 

 そうスルシャーナが叫び返すと同時、圧縮された圧倒的な破壊エネルギーが放たれた。




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