私が精神科に通いながら気持ちの整理をつけるために書いた文章です。
読む必要はありません。

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この話は童貞の妄想です


初恋

これから書くお話は、私の完全なる妄想です。嘘っぱちの作り話です。

「またあの女に見張られている気がするんだ」

 私の友人の「彼」はそう言ってきた。困り切った顔で、私に助けを求めてきたのだ。

「あの女」とはどの女なのか、誰なのかは知らない。私は「彼女」に会ったことすらないのだ。「彼女」の存在は友人の「彼」からされる話でのみ知っている。だから「彼女」が本当に存在する女性なのか、「彼」の頭の中だけに存在する空想の産物であり、実在しない人なのか、私は知らないし、知りたいとは思わない。私は「彼」の話をひとまずは聞いてみることにした。それが「彼」の親友である私にできる数少ないことだから。

「彼」と「彼女」の初めての出会いは、小学生6年の初めまでさかのぼる。父親が夢のマイホームを購入した都合で、「彼」は5年生の途中から隣町の小学校から転校してきた。

「彼」はもともと明るい性格で、声が大きく、空気が読めない欠点があったが、休み時間は積極的にクラスメイトとドッジボールに興じるような活発な少年だった。

 問題が起こったのは6年生に学年が上がった時らしい、なぜかクラスの皆からいじめになったのだ、今振り返っても何が原因かはわからない。皆が彼を馬鹿にし、「彼」が嫌がることを率先していやっていた。いじめの主犯格は二人、男子生徒と女子生徒だった。

 「彼」にとっては悪夢のような日々だった。朝の下駄箱前では「よう! 生ごみの塊!」と酷いあいさつをされ、男子生徒たちからは日常的に繰り返される暴力、女子生徒たちからは机に軽く手が当たっただけで、「うわっ!! 最悪!!」と言われ、消しゴムを床に落とせば、まるでカーリングのように皆でその消しゴムを蹴飛ばし、教室の隅に追いやる。そんな日々が続いたという。

 ゆっくりと彼は壊れ、狂っていった。自分の髪の毛を引き抜いては口に運ぶ。そんな奇行を日常的に繰り返すようになった。親にはなかなか相談できなかった。彼は頑固な性格で我慢強く、いじめに負けたくはなかったからだという。

 そんなつらい日々にほんの少し、救いが訪れた、同級生だった女子生徒「彼女」である。その子は他の生徒と違い、彼にまともに接してくれた。机を合わせ授業を受けてくれた。「すみません」そう言いながら、笑顔で机をくっつけてくる「彼女」に「彼」が恋心を抱くのは、至極自然な気持ちの動きだった。つらい日々の中に生まれた「初恋」だった。

 結局彼は、「彼女」に思いを伝えることは出来なかった。自分の気持ちをしまい込んだまま、卒業を迎えた。「彼女」は私立中学に進学したため、公立中学に進学する彼とはそれっきり。でもそれでいいのだ。思春期の美しい思い出の中で「彼女」は美しい笑顔を彼に向ける。世界一美しく魅力的な女性だった。自分には釣り合わない。だから永遠に高嶺の花でいいのだと、彼は笑った。ここでこの話が終わりならどんなにいいだろうと、私は思う。だが終わりではないのだ。残念ながら。

 

 

 

 彼に異変が起きたのは、社会人として働きだした。彼が少年から青年になった時のことだ。転職活動を終え、新しい企業から内定をもらい、年明けから新しい環境で新しい生活をはじめようとしているとき、ふとあることを言い出した。「彼女」が俺に会いたがっているそんなことを言うのだ。そんなドラマのような話はあるはずがない。転職活動がうまく言ったおかげで、彼は舞い上がっていたのだろう。父親との関係がうまくいかず、ストレスを抱えていたのも原因かもしれない。

 彼は狂ってしまった。大声を出し、奇行に走り、悪目立ちするような行動を繰り返した。ついにはテレビの向こう側の芸能人が自分に話しかけているとか、家に盗聴器が仕掛けられているとか、言い始めていたのだ。とうとう自分の部屋のものを家の前の道路にばらまき、警察に保護された。精神科医の診断では統合失調症と診断された。

 彼は隔離病棟に収容され、家族にも会えず、何もかも失った。就職先の企業からは内定を取り消され、自信もすっかりすっかり失われ、精神病院に無気力に通う日々が続いた。

 そんな時に彼は言った。「彼女に会った」とまた就活を始めるために、買い物に出かけていた帰りに、彼は横断歩道で信号待ちをしていた。ふと横を見ると、小柄の女性がそわそわしながら、なんだかおびえた様子で、信号を待っていた。「彼女」だ。直感的に思った。あえて無視した。SNSに一言、「呆れた」とつぶやく。また精神病棟に隔離されるのはごめんなのだ。だから「彼女」が会いに来たと思ったが、うれしくは思えず、「いまさら何をしに来たのか」とあきれ果てたのだ。

 新しい就職先を決め、人生をもとに戻すには三年かかった、自分を助けるのはいつだって自分だ、他人の手を借りることはあっても、自力で立ち上がり、歩き出さなければならない。彼は自分で立ち上がり、また歩みだした。しかし彼は私に相談してきた。また「彼女」が目の前に現れるのだと。

 「彼女」は通勤途中の電車に現れるというのだ、座席に座って居眠りをしていると、目の前に小柄な女性が現れる。驚いて目を合わせようとすると、プイッと顔をそらすのだ。直感的に「彼女」だとわかるのだという。

 無論、彼が見た「彼女」は皆通りすがりの赤の他人である。彼には、目の前に現れる若くて、きれいな女性は皆「彼女」に見えてしまうのだ。

 私はこう話した。

「無視できているのならそれでいいじゃないか、君は普通に働き、普通に生活している。それでいいじゃないか」と、「彼女」の存在など忘れてしまえと。

「そうですね、彼女は思い出の中でじっとさせておきます」

 彼はそう笑いながら診察室を後にしている、快方に向かっているがまだ心配だ。

「叶うならば、あの人と普通に話したい。あなたのことが好きでしたと伝えたい。初恋にさよならを言って、新しく歩き出したい」

 そう思うたびに胸が痛くなる。この痛みが消える日は、来るのだろうか。

 




おしまい

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