テンプレ…まじで?(リメイクしてみた) ※現在このすば!編    作:onekou

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どうもonekouでございます。

記念すべき第100話目! 
どうぞ!!


『stage46:バーサーカーが死んだ!』

 

 

 

 全員の息を飲む音が重なる。

 そして誰もが続けての声を出せずに居た。

 

 皆が目をやる方は、何と言い表せば良いか分からない状況となっていた。

 まず目に入るのは辺りを覆う黒い霧。全てを飲み込み死へと誘う魔の霧だ。

 そしてそこへ、上半身を飲み込ませる形で身体を突っ込んでいる少女。コウジュだ。

 

 不慮の事故によりこうなったが、あまりにも唐突だったために未だ誰もが思考を停止してしまっていた。

 何せ、事前に聞いていた説明が本当であるならば、目の前で霧へと頭を突っ込んでいる少女は死んだという事になるからだ。

 指を入れれば指が削げ落ちる。

 ならば頭を霧へと入れればどうなるか。

 そんなもの考えるまでも無いだろう。

 しかし考える。考えてしまう。

 つい先ほどまで共にあり、目の前で話していた少女は恐らく……。

 

 ウゾりと、視界の中で動くものがあった。

 それを見て、皆は希望を持ち始める。

 何故ならそれは彼女の一部だから。彼女が動かしていたものだから。

 大丈夫だったのだろうか、そう思いながら注視する。

 動くもの……泥は、ウゾウゾと蠢く。コウジュ自身の身体は動かず、泥だけが。

 その泥は、次第に統率された動きへと変わり、意志ある基に動き始めた。

 泥はコウジュの足元から溢れるように出ていた訳だが、それはそのままに、泥はコウジュの身体の足へ纏わりつく様に覆い、そのままズルズルと伊丹達の方へと引き摺り出した。

 

 ズルり、ズルり、とコウジュの身体が霧から離されていく。

 そして出てきたコウジュの身体は――――、

 

「ひっ」

 

「これぇ、大丈夫かしらぁ。消滅してはいないみたいだけどぉ……」

 

 テュカが思わず口元を押さえて悲鳴を漏らす。

 続けるロゥリィは引き攣った声を出した。

 

 ゆっくりと霧より出てきたコウジュの身体、それは見るに堪えないものだ。

 手を投げ出すようにして頭から霧へと飛び込んだ結果、胸部より上は既に存在しないのだ。

 だが、血は出ていなかった。

 伊丹達が居る場所からは断面が正反対なので見ることは叶わないが、普通ならば辺りを染める程に血が流れるはずだ。

 しかし見た限りそれは無い。

 短くない間霧の中に居た訳だからその中で全てが流れ出たとも考えられるが、残る身体には血の気が残っている。

 

 ただ、それを見て伊丹やテュカは安堵の息を漏らした。現状だけを見るなら少女の命が散った凄惨な場であるが、だ。

 コウジュの能力を知る者は目の前の状態を見て顔を顰めはするが、血の気もあり泥が動くのを見て大丈夫だろうと思い直したのだ。

 何せコウジュだ。どうせ生きてる。

 酷いようである意味信頼でもあるその評価が彼らの心を持ちなおさせた。

 ただ、炎龍戦を見た訳でも無くコウジュの能力も知らない教授陣やマスコミ陣は目の前の現実に今更ながら慌てるしかなかった。栗林妹に関しては気を失う始末だ。

 

「し、死んだ…っ!? こ、これ大丈夫なのかよ!!?」

 

「え、あー、いや多分……」

 

「何を馬鹿なこと言ってるんだ!? 明らかに死んでるじゃないか!!!」

 

 教授の一人が驚愕の声を上げる。

 しかしそれに対して、伊丹は曖昧な返事をするだけだ。

 声を荒げた教授はそんな伊丹を見て信じられない物を見たように驚き、更に声を荒げる。

 とはいえ伊丹もどう説明したものか困った。

 前にも死んだけど生き返ったから大丈夫とは当然言えない。言ったところで多段狂人扱いが待っているだけだ。

 さてどうしたものかと伊丹が悩む。

 だが、その必要性が無くなった。

 

 泥によって引きづり出されたコウジュを、光が包み込む。

 優しく淡い光だ。

 それはコウジュを包み、そして失われていた部分を補うように形取る。

 そして光は次第に消えて行き―――、

 

 

「うわ、びっくりした!!?」

 

 

 ガバりと、コウジュが唐突に身を起こす。

 

「あれ、どうしたの?」

 

 身を突然起こしたコウジュの身体に誰もが驚いていると、自分を見ながら誰もが驚きに口を開いて止まっているのを見てコウジュは首を傾げた。

 

「どうしたのじゃねーよ! びっくりするだろうが!!」

 

「あははー、ごめんごめん」

 

 キョトンとするコウジュに、一足先に驚きから思考を再開した伊丹が抗議の声を上げるが、どこ吹く風と受け流すコウジュ。

 そんなコウジュを見て伊丹は一瞬疑問を持つが、気のせいかと思考を流す。

 

「いやいやー、どうもお騒がせしたみたいで。コウジュ、ただ今死の淵から戻ってまいりました!」

 

 剽軽なしぐさでそう言いながらコウジュが伊丹達の方へと近づく。

 そんなコウジュへとテュカが飛びつき抱き付いた。

 コウジュは体格に似合わずしっかりとテュカを抱きとめる。

 続けてレレイやロゥリィ、第三偵察隊のメンバーも近寄り、驚いた、焦らせるな、とコウジュを囲ってぐしゃぐしゃと撫でまわす。

 そこからはいつもの和気藹々とした雰囲気へと戻った。

 

 ただ、教授陣はそうもいかず、今の状況に戸惑っていた。

 

「どうなっているんだ……。明らかに死んでいたのに……」

 

「と、トリックだ!」

 

「で、どういうことなのかね?」

 

 教授達は各々が自分の推論を言い合い混乱の最中だ。

 しかしその中で唯一人冷静であった養鳴教授は静かに伊丹へと質問する。

 伊丹はそんな養鳴教授に頬を掻きながら苦笑する。

 

「命のストック……って言えばいいのでしょうか。あいつは死んでもその次があるんですよ。公表されてはいませんが」

 

「ふむなるほどな。つまり一度は死んだが甦った訳じゃな」

 

「……」

 

 養鳴が顎鬚を揉みながらふむふむと伊丹の言葉を噛み砕く。

 しかし伊丹はそんな養鳴をキョトンとした表情で見ていた。

 養鳴はそんな伊丹を訝しみながら口を開く。

 

「なんじゃ? 大層不思議な顔をしておるが」

 

「いえ失礼しました。ただ、あまりにも容易く受け入れるのだなと。あ、他意は無いですよ?」

 

 軽く頭を下げて謝る伊丹。

 そしてそのまま、恐る恐る何故そんな顔をしたのかを説明した。

 言いはしたものの怒るかなぁと内心で思った伊丹。

 だが養鳴はそれを見て、むしろ破顔した。

 

「カカッ、わかっておるわい。その辺の科学者なら信じんだろうが、目の前で起こった現象を否定する訳には行かんよ。むしろ目の前の不可思議を解明してこその科学者じゃろうよ」

 

「そんなもんですか……」

 

「そんなもんじゃよ」

 

 言われてみれば、何かを解明していくのが科学者なのだから、否定はせずに解明することこそが大事なのは確かだ。

 ただ、養鳴教授の後ろでこんなの絶対おかしいよと言わんばかりに現実を否定している残りの教授を見れば、目の前の養鳴教授が別枠なんだろうなと思わざるを得ない伊丹。

 

「ところで解明したいからあの嬢ちゃん連れて帰っていいかの?」

 

「駄目です」

 

「そうか」

 

「そうです」

 

 ただ、自分に素直なだけだったようだ。

 

 さておき、一通り撫でまわされたコウジュはテュカ達を窘めて、伊丹の方へと近寄ってきた。

 養鳴教授は、そんなコウジュを見て、聞きたいことも終わったしとあっさり持ち場へと戻り残りの調査へと教授陣を連れて戻った。

 第三偵察隊やテュカ達もそちらへついていくことにした。

 そうしてコウジュと伊丹の二人になると、コウジュはぺこりと頭を下げる。

 

「ごめんなさいっす。驚かせちゃったみたいで」

 

「いや、そいつは構わないけど。でも心臓に悪いのは確かだな。胸から上が無くなってたし」

 

 炎龍の時とは違い、事前情報として命のストックというものを知っていた伊丹には多少なり余裕があった。

 言った通りに見た目からして心臓に悪いのは確かだが、死なないと分かっていればまだ落ち着くことが出来る。

 それでも突然目の前で胸から上を知り合いが無くせば驚くのは変わらないが。

 

 そんなこともあって、今回は軽口を返すことが出来た伊丹。

 だがそれを聞いてコウジュはニヤリと笑う。

 

「おおぅ、ってことは服が肌蹴て見えてたり? ほら、こんな感じに……」

 

 言いながら、胸元のインナーを下げて行くコウジュ。

 そんなコウジュの頭をペシりと帽子越しにはたく。

 

「見てねぇよ! ってか見えねぇよあの角度じゃ!!」

 

「痛っ。でもそっかー、残念だ。梨紗さんにチクろうと思ったのに」

 

「チクるとか今日日(きょうび)聞かねぇんだが……」

 

 そこでふと、また伊丹は違和感を覚えた。

 それが何かは分からないが、いつもと違う違和感。

 思わず、伊丹は話しを止めて考える。

 そんな伊丹を首を傾げながら不思議そうにコウジュが見る。

 伊丹は慌てて何でも無いとコウジュに良い、考えるのを止めた。

 気のせいだろうと、思いながら。

 

「それで、今日の調査はそろそろ終わりっすか?」

 

「ああ、そのつもりだ」

 

「良かった良かった。さすがにお腹が減ったんですよねー。アレやると燃費が悪くて仕方ない……」

 

「何か言ったか?」

 

「いいや、こっちの話っすよー」

 

 ボソリと最後を呟いたコウジュに聞き返す伊丹だが、何が楽しいのかニコニコしながら何でも無いというコウジュ。

 本人がそう言うなら別に良いかと、伊丹も置いておくことにした。

 

 気を取り直して、伊丹は歩きはじめる。コウジュもそれに続く。

 

 伊丹が進行方向を見れば、優秀な部下たちが既に撤収作業を開始していた。

 それを見て伊丹はやっぱ俺要らねぇなぁなどと内心で零す。

 

 そんなことを伊丹が思っていると、隣でクスクスと笑う声が聞こえた。

 そちらへ目をやれば、コウジュが口元を押さえながら笑っていた。

 伊丹はコウジュへとジト目を向ける。

 

「いやいや悪気はないんですよ。ただ、自己評価が低いなぁと」

 

「実際偶々が続いてここに居るだけの男だよ? 俺ってば」

 

「そんなことはないと思うんだけどなぁ」

 

「そうかねぇ」

 

「そうなんすよ。そうでもなきゃ、あの子もそこまであなたに惹かれないよ」

 

「あの子って?」

 

「内緒っす」

 

「おいおい、そんな気になる言い方しておいてそれは無いだろうに」

 

「くふふ、その辺は当人たちの問題っすから。私は何も言わないよ。さ、早く行こう先輩。向こうで皆待ってるっすよ」

 

 言いながら走り始めるコウジュ。

 それに、やれやれと苦笑しながら伊丹も続く。

 今日も今日とてコウジュには驚かされてばかりだと、伊丹は何とも言えない気分になった。

 

 そこでふと、再びの違和感を覚えた。 

 今日も今日とて、とは思ったが、何かが違うのだ。

 何か。何が違う。

 それもコウジュが復活してからの事だ。

 つまりはコウジュに違和感。

 そこまで考えて、伊丹はコウジュの何に違和感を覚えたのかと改めて考えて――――、

 

 

 

「私? あいつ私って言ったか?」

 

 

 そう、コウジュの一人称は“俺”だった。

 しかし確かに先程のコウジュは自身を“私”と言った。

 それに気づいた伊丹はそれを口にした。

 

 してしまった。

 

 

 

 

 

「気付くの早いなぁ。英雄殿よ」

 

 

 

 

 

 

 三日月の様に口を開き、赤い朱い口腔を見せながら笑うコウジュが、伊丹を見ていた。

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

「お前、一条か……?」

 

「おや、そこまで分かってるとはね」

 

 俺の問いに、後輩は、いや、一条はクスクスと笑いながら答える。

 

「でも、どーして分かったのかな? “私”っていうだけじゃ違和感覚える程度だと思うんだけど」

 

「それ一個ならな。けど幾つも違和感はあった」

 

「へぇ、中々目敏いんだね」

 

 足を止めた俺達は、言葉を交わしながらも少しの距離があった。

 後輩の味方だという一条、しかし、何かを間違えばこいつは容易く俺達へも牙を剥く。そんな気がするのだ。

 しかし一条はそんな俺の内心が分かっているように、俺を見ながら嘲るように笑みを浮かべる。

 後輩の顔には似つかわしくない、嫌な表情だ。

 

 一条は、その表情のまま再び口を開く。

 

「ちなみに聞いても良いかな?」

 

「簡単だよ。あいつが誰かに心配を掛けてしまったと気づいた時はもっと泣きそうな顔をする」

 

「あれま、そんなところでか」

 

「それに、あいつは自分の服を肌蹴たりしない。自分に関する下ネタは苦手だからなぁ」

 

「悪ふざけが過ぎたかな。で、それだけ?」

 

「いいや」

 

 幾つも上げられる、感じた違和感。

 一個一個は大したことは無いかもしれない。

 でもこれだけ数が出揃えば疑念は確信へと変わる。

 そこへ一人称が違うとくれば当然の結果だ。

 

 そして何よりも、

 

「お前の仕草はどうも艶がある。正直言って仕草に色っぽさがあるんだよ。けど、あいつの仕草は普段は粗野なんだよ。ぶっちゃけあざといの」

 

 俺の言葉にポカンと口を開ける一条。

 しかしすぐに口元を押さえ、笑い始めた。

 

「ぷ、く、くふふふ、そんなところで、見分けるとか、くく、あなた結構馬鹿なのねっ、ふふふ」

 

 堪えきれない様子で笑う一条。

 それは先程までの嘲笑うのとは違い、少女然とした笑い方だった。

 そして仕舞いには、笑い過ぎてむせる。

 

「ああ、おかしい。こんなに笑ったのは久しぶりよ。ふふ」

 

「酷い言い様だな……。というか地が出てるぞ」

 

「おっと」

 

 俺の言葉に、帽子を下げて顔を隠す一条。 

 再び帽子を上げた時には元の嘲るような表情に戻っていた。

 

「さっきまでの方が良いと俺は思うんだがな」

 

「ひょっとして私まで口説こうってわけかしら? これだから男は」

 

「男に何の恨みがあるんだよお前……」

 

 言い捨てるように言う一条に、俺は思わず口が引きつるのを感じた。

 とはいえそうしていても話は進まないので、俺はすぐさま話をすることにした。

 

「それで、何でお前が後輩の中に居るんだ?」

 

「その問いは正確じゃないなー。けど、お前の疑問にあえて答えるなら、あの子が眠っているから代わりに私が出てきたってところかな」

 

「……ってことは」

 

「二重人格とか、安直の事は言わないでほしいわ。ま、説明する義理は無いから言わないけど」

 

「言わないのかよ」

 

「ええ、言う義理は無いもの」

 

 冷たい目をしながら、一条はそう言った。

 仲の良い存在からそんな目で見られるのは、中身が違うと分かっていても中々に堪える。

 そう思った俺は話を変えることにした。

 

「そういえば、何で後輩は前みたいにすぐ起きないんだ? 見た感じ身体は治ってるみたいだけど」

 

「ああ、それは単純に死因に関する情報が膨大過ぎるからよ。するならもう少し経験を積んでからにすればよかったのに」

 

「あの時は泥が嫌がった結果、後輩が突っ込んだように見えたんだが?」

 

「……」

 

「目を反らすなよ」

 

 すっと、私は悪くないとでも言わんばかりに何事も無い様に目を背けた一条。

 思わずジト目を向けると、慌てたようにこちらへと目線を戻した。

 

「だ、だって、あの子と違って今の私にはアレは食べきれないものっ。仕方ないのよっ。文句ある!?」

 

「い、いや、無いけどさ……」

 

 一条が声を荒げるに合わせて影が蠢き膨らみ始めたのですぐさま俺は否定した。

 そして、またしても話題転換へと走る。

 

「それで、後輩はいつ目覚めるんだ?」

 

「あら、私が居るのはそんなに不満?」

 

「違うよ。純粋に心配なだけ」

 

 俺の言葉の何が不満だったのか、一条は俺を睨み始めた。

 

「な、何だよ……」

 

「いいえ別に何もないわ。何もありませんとも」

 

 断じて何もないという表情では無い。

 無いが、藪を突いて蛇を出すつもりもない。

 

 しかし、俺の意に反して一条は内情を溢した

 

「ただ、愛されてるなって思っただけよ。愛は大事なんだから……」

 

 寂しげに聞こえた一条の声。 

 それに対して俺は咄嗟に何も出てこなかった。

 何かを言おうとして、でも口に出してはいけないような、そんな曖昧でもどかしい感じ。

 何かを言ってあげるべきなのに、何を言えば良いか分からない。

 口を開いては閉じ、それを幾度か俺は繰り返す。

 

 結局俺が何かを言う前に、一条は冷たい目へと戻った。

 

「ああそうそう、あなたには言っておかなければならないことがあったのよ」

 

「……なんだ?」

 

 先の事もありすぐには返事を返せなかったが、何とか口に出すことが出来た。

 そんな俺を一条は一瞬訝しむように見たが、すぐに続けた。

 

「これからのことよ」

 

「これから?」

 

「ええ。ほら、あの3流女神が言ってたでしょう? あの子には目指すべきものが無いって。でもそれは間違いよ。正確には、この子はもう持ってる。だけど自覚していないだけ」

 

「え、そうなのか?」

 

「そうよ。ただ、形も力もあるけど、思いがない。ああしたいなこうしたいなとは思っているけれど、それを成すだけの状況が無い」

 

「状況……。でも、そんなものそうそう出てくる訳がないだろう?」

 

「本当に?」

 

 そう言われ、俺はすぐに答えられなかった。

 門が開いてからこっち、何もかもが波乱万丈だったと言って良い。

 確かに最近は比較的落ち着いては居る。

 落ち着いてはいるが、これが嵐の前の静けさに思えてならなかったのは事実だ。

 

「あと少し、あと少しなのよ。あと少しであの子は至ることが出来る」

 

「至る?」

 

「ええ。そしてその為の舞台も……」

 

 恍惚と、一条が笑みを浮かべる。

 何よりも嬉しそうに、それだけが楽しみなように。

 しかしそれに対して俺は嫌な予感を覚えた。

 

「まさかお前が用意するとかいうんじゃないだろうな……?」

 

 そう口にした俺を、睨み殺さんばかりの目で一条は見る。

 

「……浸っているというのに随分と無粋ね、お前。ああでもそう思われるのも不愉快だしあえて答えましょう。否であると」

 

「そう……か……」

 

 不思議と、嘘ではないと感じて安堵を俺は得る。

 しかし、安堵したままでも居られない。

 なにせ、逆に言えば一条が起こさなくとも事態はコウジュが覚悟を得るための何かへと推移していくというわけだ。

 結局何かは起こってしまう。

 

 今度はその内容について聞こうと、再び一条へと話しかけようとするも、それより先に一条が口を開いた。

 

「先にも言ったけど、私が言う義理は無いわ」

 

「っ……」

 

 軽くそう言う一条に、俺は思わず腹立たしさを感じて声を荒げそうになる。

 それを何とか抑えて、口を開いた。

 

「……だが、何かは起こるんだろう? 後輩の力で以てしても覚悟が必要な何かが……」

 

「それを言ってあなた達が対処してしまうと、舞台が歪んでしまうわ」

 

「だが!」

 

 つまりは、舞台の為には犠牲が出るかもしれないとしても準備は許さないという事だ。

 その犠牲が何かは分からない。

 土地か、もっと概念的なものなのか、それとも直接的に多人数の命に関わるのか。

 けどそれを知ろうにも一条は教えてはくれない。

 超常の存在だろう眼の前の少女が一度牙を剥けば俺なんてものは一瞬で灰燼へと化す。故に噛みつくというのも論外だ。

 

 そんな風にもどかしく思っていると、一条ははぁっと一つ溜息をついた。

 

「……駄目ね。もう限界かしら。後はよろしく」

 

「え、どういうことだ!? まだ聞きたいことが―――」

 

 唐突にそう言いながら欠伸をする一条。

 口元を上品に隠してはいるが、その姿はどうにも眠たそうだ。

 しかし俺にはまだ聞きたいことがある。

 だから詰め寄るが、一条はふらりと体を揺すり、俺の方へとそのまま体を預けた。

 

「だ、大丈夫かっ?」

 

 慌てて抱きかかえる。

 しかし一条の目は今にも閉じられそうで、身体に入っていた力も次第に抜けて行くのを感じる。

 俺は落とさない様に抱え直し、もう一度一条の顔を見ると既に目は閉じられていた。

 

 だが幽かに、寝言の様に、彼女は最後に言い残した。

 

 

 

 

「あの子、を、信じなさい……」

 

 

 




いかがだったでしょうか?

もう少しと言いつつ調査のシーンが続いてしまった…orz
でもまぁこれで一旦終わりです。
ついつい一条を書いていると楽しくてここまで伸びてしまいました。
ぶっちゃけこういう暗躍キャラ大好きなんです。上手く書けてるかはさておいて!!(涙目
さておき、どうにも不穏な言葉を残して眠ってしまった一条。
今後どうなるのでしょうかね!
一応次回からが最終章に入っていく予定ですが、自分でもどうなるやら。
というのも、前書きでも書いたように実は今話で第100話。100話ですよ100話。自分でもいつの間にって感じですがw
なので、何かした方が良いかなと思ったりしてます。ちょっとした区切りにも良いし。
いや、まだ予定は未定なのですが、リアルが許すならしたいなと思っています(普通100話目に持ってくるだろうとかは言ってはいけない
よく有る所で言うと、短編でしょうか?
何かあるかな…。
パッと思いつくのでは、ウサミミ王女のその後とか、リメイク前に書いた短編のどれかをリメイクして晒すか、後は新たに流行の何かを書くか……。
まぁそんなわけで、ひょっとすると100話突破記念的なものがある……かもしれません。

まぁそんなわけで、次回もまたお楽しみいただければと思います! ではでは!!



P.S.
PSO2の大和戦、別ゲーだけど楽しいですねw
あと、落ちる武器が一々イケメンすぎますwww
まぁ私の所に落ちるとは限りませんが……。
シート枠増設はよ!!(バンバン

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