テンプレ…まじで?(リメイクしてみた) ※現在このすば!編    作:onekou

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どうもonekouでございます。

先週は失礼しました。
それではどうぞ!!


『stage56:酒を以て池と為し、肉を縣けて林と為す』

 

 

 

 

「・・・・・・妲己、だって?」

 

 妲己と名乗った美女を前に、俺は警戒を強める。

 いつでも動けるように、実体は無いが確かに手の中にある超電磁砲をいつでも放てるように、相手の一挙手一投足に集中する。

 

 妲己、その名は俺でも知ってる名前だ。

 初めて聞いたのはとある漫画に出てきた時。

 それ以外にも、何度となく触れる機会はあった。

 そしてその全てで、彼女の名は“悪女”として語られていた。

 妲己は王に取り入り、王は妲己の命じるままに妲己と共に悪逆非道・贅沢三昧を行ったとされている。

 王は、元々は名高い名君主であったそうだ。

 だが、そんな彼の人生は妲己と出会い全てが変わる。

 そんな彼女を一言で言い表すのならば“傾国”。

 

 『傾国の美女』『酒池肉林』といった言葉を産みだすに至った妖女だ。

 

「極東の小国であるとはいえ妾の事は知っておる様じゃのぅ」

 

 くつくつと怪しく笑う妲己は、とても楽しげだ。

 その彼女の言葉で、ある事に気付いた。

 

「日本語・・・・・・、聖杯システムはそこまで機能しているのか」

 

「何とも便利なものよなぁ。聖杯とは」

 

 何処からともなく扇子を取り出して口元を隠し怪しく笑う妲己。

 その際の言葉すらも、日本語であった。

 そして“聖杯”というものを知っている。

 それはつまり、聖杯によるサーヴァント召喚機能が嫌なことに正常に(・・・)働いているという証左でもある。

 

 当然ながら、妲己とは古代中国における伝承の中で登場する人物だ。

 そもそも現代日本語の存在など知る筈もない。

 だがそれを知っているという事は、聖杯からのバックアップを受けているという事。

 本来の聖杯にはそんな機能はないが、俺が持っているのは冬木の聖杯だ。

 冬木の聖杯は御三家によって自分たちに都合が良い様にある程度工夫されており、令呪というサーヴァントを縛り付ける物もこの一部。その中にはサーヴァントとのコミュニケーションを円滑にするために現代知識を与えるという機能もある。

 だから、俺の中の聖杯はご丁寧にも聖杯としての役目を全うしているという訳だ。

 

 そんなことを忌々しく思っていると、妲己は徐に手を開いては閉じて何かを確認し始めた。

 

「ふむ、本来の妾として現界出来たのではないのは業腹だが、これはこれで楽しめそうじゃのぅ」

 

「どういう意味?」

 

 皮肉気にそう口にした妲己に、思わず俺はそんな言葉を出した。

 すると妲己はニヤリと笑い、ご丁寧にも答えてくれた。

 

「何、簡単な話じゃ。妾は妲己ではあるが純粋な妲己ではあらぬ。妾という妲己を基に、汝の聖杯を通して異世界の妲己の一部を此の身に降ろしておるからのぅ」

 

 その言葉に、俺は思わず目を見開いた。

  

 確かに俺が持つ聖杯は、Fate世界におけるイリヤの中に埋め込まれていた物を摘出して流用したものだ。

 それをあの決戦の際に泥ごと俺は喰った。

 中身を使ったとはいえ、俺自身が中身を産みだせるのだから聖杯はある意味機能し続けているも同義ではある。

 だが、幾らなんでもそう上手くいくものだろうか?

 いやそれ以前に、俺を通して異世界の妲己の一部を呼んだとしても何故そんなことに?

 それに、どうやら彼女は“受肉”している。

 本来の召喚では当然そんなことはあり得ない。

 通常の・・・・・・って言って良いかはさておき、聖杯を経由して呼ばれた英霊は高密度の魔力によって肉体を得てはいるがそれは仮初の物でしかない。

 俺の様に元々の肉体のまま呼ばれているのならまだしも、魔力で出来た器を更に魔力で現代に縛り付けることでやっと存在を保てるようになる筈なのだ。

 しかし妲己は受肉をしている。

 “ありないなんてことはありえない”なんて台詞があるが、ありえてほしくなかった事象だ。

 しかも、だ。

 彼女は神性を得ている(・・・・・・・)

 太公望ならまだしも、彼女が神性を得るような逸話は無い筈。

 なら、この感じる神気とでもいうべき力の波動はFate世界から流れ出た物だろうか?

 だが何故?

 

 俺がそんな疑問を持った事に妲己は気づいたのか、楽しげに笑いながら説明を続ける。

 

「そもそも照魔鏡とは魔の正体を明かす鏡ではなく、魔を封じる鏡じゃ。ほれ、鏡に映るのは別世界の存在だと言われたりするじゃろう? それを利用して、魔を鏡に映し、映った魔を切り取り封じるのが照魔鏡本来の使い方での。魂の薄い人間程度ならほれ此の通りじゃ」

 

 言いながら妲己は自身の手にある銅鏡をこちらへと見せてきた。

 そこには、驚愕の表情を浮かべたままの董主席が映し出されている。

 

「妾を此処に封じ込めたのは知っての通り太公望じゃ。あやつに切り取られた妾の一部がこの銅鏡に入って居った」

 

 忌々しそうにそう言い放つ妲己からは、波となって見えそうなほどの怒気を感じる。

 しかしそれをふっと消失させ、すぐに先程までと同じ妖艶な笑みを浮かべた。

 

「故に、この男が成したのは、銅鏡の中の妾を基にしての召喚じゃ。妾を軸に、お主の世界から妲己を肉付けした状態じゃ。お主も気付いておるのであろう? 妾が受肉していることを、そして神性を得ていることを」

 

「ああ、それが気になって仕方が無かったよ。神性は恐らくだが異世界の妲己から流れ込んだ分だと予想できる。だけど、受肉の理由がわからない。俺の様に元から居たのならば兎も角―――、」

 

 そこまで言って、とある可能性に気付いた。

 

「―――なるほど。あんたは居た訳だ。鏡の中でずっと。何千年も」

 

 俺のその言葉に、妲己は口が裂けんばかりに笑みを深める。

 

「その通り、その通りじゃよ。くふふふ、中々に賢しいのぅ。太公望が照魔鏡の中に封じたのは妾の肉体そのものじゃよ。魂のほとんどは封じ切られなんだ千年狐狸精と共に飛び去ったはずじゃ」

 

 そこまで言うと、今度は妲己の表情が消えて能面の様になった。

 相貌が整っている所為で余計に気味悪く感じるほどだ。

 そのまま妲己は続ける。

 

「なればこそ、腹立たしい。今の妾を形作るのは遥か過去から持ち得た身体と僅かな魂と、消し去ることが出来なかった激情、それ以外は妾ではない妾だ。自身が自身でない感覚がこれほどまでに腹立たしいとは思わなんだ。同じ妲己を冠する物とはいえ、妾は妾だけのものだ。まぁ向こうの妾も同じことを思っているようだがな。

だが、だがしかしだ。

故にこそ妾はさらに先へと行くことが出来る。全ての悦楽を、快楽を、享楽を得られぬままに没したこの憤怒を晴らすことが出来る」

 

 途中からは恍惚とした表情でそう宣う妲己。

 艶があり、悦びをその顔に表している。

 

 しかしそんな妲己も、しばらくすれば元の笑みへと戻った。

 

「しかし、この男も阿呆なことよのぅ」

 

 そう言いながら妲己は手の中の鑑をくるくると器用に指先で回す。

 

「あんたを召喚した主じゃないか。そんな扱いで良いのかよ」

 

「何を勘違いしておるか知らぬが、此奴が召喚したのではなく妾が召喚させたのじゃよ」

 

 くるくるくるくると、鏡を回す妲己。

 その雑な扱い方は、鏡に対してそれほど重要性を感じていない様子だ。

 

 それにしても、董主席に召喚させたってのはどういうことだ?

 

 今までの説明からすれば、妲己は鏡の中に封じられていた筈だ。

 照魔鏡に切り取られた妲己の一部、それが今目の前に居る妲己の根幹。

 しかし、その状態でありながらも彼女は董主席を操って見せたという。

 そんなことが可能なのだろうか。

 

「妾には元々人を酔わせ、蕩けさせ、理性を薄くさせる力が在った」

 

 俺が考える姿を見て何を思ったのか、微笑んだ妲己はそう切り出した。

 

「妾に近づく者はその全てが欲望を抑えられなくなるのじゃよ。鏡の中では当然使えなんだが、長い時の中で封印も緩んでおったのじゃろうな。玉を用いた剣から漏れ出た魔力を上手く吸いだし、薄まっていた意識が戻った妾はこの阿呆を操る程度の事は出来るようになったのじゃ。あの剣を扱うには特殊な才能が必要なようでその程度しかできなんだが、そこまでできれば十二分。後は生贄を捧げさせ続ければそれなりに妾の力の範囲も広げることが出来る」

 

 玉でできた・・・・・・宝石剣のことか。

 この地球はマナが薄いから今までは朽ちて行くだけであった鏡とその中に居た妲己だったけど、豊潤なマナがチャージされてる宝石剣が近寄ったことで妲己が目覚めたって訳か。

 しかし、その程度で人一人操作できるほどの力を示すってのは反則(チート)級だな。俺が言えたことじゃないだろうが。

 妲己といえば酒池肉林で有名だが、なるほど、この世界では人の理性を操りそれを成してたのか。

 都合3つ目のこの世界でも今までの世界とあまり変わらない逸話を残していたはずだが、ここでは特地側と同じく異能を持った人が過去には居た訳だ。

 特地とは違いこっちではマナが薄いし、何かしらの要因で薄くなるに合わせて廃れていったのか、それとも異能が廃れたが故にマナが薄くなったのか、その辺りは分からないが、薄くならななければこんな人が何人も居たかもしれないと考えれば薄れて正解だったかもしれないな。

 いや、科学か異能かの違いでしかないか。

 才能か技術か、正解なんてものは無いだろう。

 結局は使う者次第じゃないか。

 そして伝説の通りならこの人はかなりまずい。相性も悪い。

 単純な戦闘能力なら負ける気はないが、異能を持っているという事は彼女は千年九尾狐狸精の方の妲己の可能性がある。

 それがFate世界からの流入によるものかは分からないが、確かに彼女からは獣臭が微かにする。

 そして神性もあるようだ。

 今の所は俺に対して精神系の攻撃をしかけてきてはいないのか、それとも、先程の言通りなら近付くだけで狂うはずだけど何ともないのなら俺の防御が弾くことが出来ているのだろうか。

 何にせよ、これはもう早めに対処するべきだろう。

 何せ彼女はアヴェンジャーと自身のクラスを呼称した。

 アヴェンジャー・・・・・・つまりは復讐者。

 彼女の最後と性格面を考えれば誰に復讐するかと聞かれれば人類すべてと言ってもおかしくは無い。

 酒池肉林というのも、語源は一種の拷問だという。

 それほどに伝説の彼女は残忍なことでも有名だ。

 目の前の彼女は妖艶の一言だが、時折見える残酷さが恐ろしい。

 

 さて、では彼女をどう対処するかと俺は考える。

 そんな中妲己はというと、妲己をどうするかと考える俺に気付きもしないのか言葉を続けていた。

 

「くふふ、此奴の浅い欲望は操りやすかったのぅ。鈍化させた思考に、妾を解放させる方法を太公望を呼び出す方法だと諭してやれば喜々として行動したぞ。とはいえ不老不死とはありきたりではあるが分からんでもないがの。錬丹術にも長けたという伝説がある太公望ならば不死の妙薬を持っていても不思議ではない。

 しかし幾ら銅鏡があるとはいえ(えん)(ゆかり)も無い太公望を(あくた)にも劣るこの男が召喚できるわけがなかろうにのぅ。

 まぁ、その御陰で此奴はただ妾を解放するだけでなく、サーヴァントとして太公望を召喚しようとした。その結果がこれじゃ。御陰で妾の力は宝具へと昇華した」

 

 そこまで言った妲己は、機嫌良さ気に笑みを浮かべると鏡をポイと横へ放る。

 すると鏡は彼女の周囲を漂う様に浮かび上がる。

 その様はやはり鏡自体に重要性を感じていない様だった。

 手慰みに弄っていた。その程度だ。

 いや、そうか。

 彼女自身が言っていたように照魔鏡自体は彼女の宝具じゃないんだ。

 彼女はあそこに封じられていたけど、そもそも照魔鏡は太公望が用いた物。

 そして適正さえあれば、使うだけなら他者でも可能というわけか。

 恐らく、幾つかの宝具にも見られるように魔力を込めることで術式が起動するタイプ。

 使いこなすことは出来なくても使用は可能という感じか。

 

 しかし、だ。

 ということは、彼女が言うように彼女の力を表す宝具が別に―――、

 

 

 ―――まさか!?

 

 

「些か気付くのが遅かった様じゃのぅ」

 

 妲己がニヤリと扇子の向こうで笑うのが分かった。

 それと同時、ある事に気付き周りに視線を向けた。

 

「なんだ・・・・・・これ・・・・・・」

 

「我が力、いや、お主に合わせれば宝具と言うべきか。名は『桃源郷・酒池肉林』。効果の程はこれ此の通り。非力な我に相応しいものじゃよ。意味も無く無為に話すわけも無かろうて」

 

 周囲に居た観衆を含め、スタッフや警備の人間までもが虚ろな目をしていた。

 彼ら彼女らは、ピクリとも動かずにこちらを囲って見ている。

 しかしその瞳に俺達が映っているようには思えない。

 表情は無く、ただそこに立っているだけだ。

 その姿はホラー映画に出てくるゾンビの様で、今にも走って襲い掛かられそうな程に寒気のする光景だった。

 

「何で・・・・・・? 宝具は発動していないのにっ」

 

 妲己が宝具を発動した気配は無かった。

 しかし、今まさに俺以外の誰もが起きてはいるが意識が無い状態となっている。

 

 俺はそこである事を思い出す。

 この場には、あの人も来ているという事を。

 

『先輩!!』

 

 しかし、呼びかけに対して返ってくるはずの言葉は胸元の隠しスピーカーから出てはこない。

 俺は再度呼びかける。

 だが、スピーカーからは何も帰ってこなかった。

 どうやら妲己の宝具とやらの効果に飲まれて周りの人と同じようになったらしい。

 

 そんな俺の様子に妲己は気づいたのか、興味深げに口元を歪める。

 

「ふむ、その焦り様は近くに主でも居たのかのぅ? くっくっく、それは面白いな。其れは男か? 女か?」

 

「・・・・・・何でそんなことを聞くんだよ。それに言うわけがないだろう」

 

 俺は誤魔化すようにそう言うが、彼女にはお見通しなようで笑みを深める。

 

「くくっ、余程大事にしておると見える。ならばこういった余興はどうじゃ?」

 

 妲己は俺の反応が面白くて仕方が無いのか、満面の笑みでそう言う。

 その笑みは傾国と言われるに相応しく美しい。

 純粋なのだ。言い伝えに反してその笑みが。

 何も知らぬ子どもが浮かべる物の様に、思わずまた見たいと感じてしまう程のもの。

 だが、その美しい笑みとは真逆に、底知れぬ禍々しさを感じた。

 純粋が故の残酷さ。

 それを極限まで強めたのが彼女なのかもしれない。

 

 そんな彼女は次に、手に持つ扇子をパチリと閉じる。

 

「ほれ」

 

 合わせて、周囲からザっと一斉に動く音が響く。

 続いてシュルシュルと、衣擦れの音が幾つも重なったかの様な音が響く。

 

「なっ!?」

 

 突如として始まった光景に、俺は目を疑った。

 その場に居る人達皆が服を脱ぎ始めたのだ。

 男女も老いも若きも関係なく、皆が皆、その衣服を脱ぎ始めた。

 

「この中の誰がお主の(あるじ)かのぅ?」

 

 しばらくすれば、全員が裸になってしまった。

 しかし、誰もが平然と、いや、表情の無いまま立ち尽くしている。

 異様に過ぎる光景だ。

 

「どういうつもりだ!! これに何の意味がある!!」

 

「意味? 面白いではないかこの状況は」

 

「あんた何言って・・・・・・」

 

 俺の追及に、何を当然なことをとでもいう風に妲己は返す。 

 そのあまりにも憮然とした態度に、逆に俺は飲まれる。

 

「そういえばまだ言っておらなんだなぁ妾の宝具の効果については」

 

 そう言った後、妲己は扇子を再び広げて舞う様にくるりと回った。

 すると、辺りを満たす甘い桃の香りが強くなった。

 その匂いは、どこか頭を蕩けさせるような気さえするほど甘美で、嗅ぎ続けていたくなるほどのものだった。

 それはまるで酒を飲んで思考が緩んでいくように、気持ちよく溶けていくような感覚だ。

 そんな蕩ける様な匂いに一瞬思考が解けるが、ハッと我に返る。

 

 まさかこれが・・・・・・!?

 

「ほう、この強さでも取り込めぬか。さすがは同族じゃのう。しかし分かったであろう? 我が宝具は人を惑わし操る宝具。以前までは生来の異能でしかなかったが、今では確固たる力を持つに至ってしまった。異世界の妾は一体どれほどの力を持つのやら。妬ましいのぅ。しかしそれが故に妾も至ることが出来たのだから何と評すれば良いのやら。ただ、これは常時発動型が故に加減が出来ぬでのぅ。妾が召喚されると同時にここいら一帯は我が支配下にある」

 

 くつくつと笑いながら言うその内容に、俺は歯がゆい思いしか出てこない。

 召喚と同時に感じたあの甘い匂いの時点で始まっていた訳だ。

 解除法は・・・・・・、難しいか。

 抵抗(レジスト)出来ているが故に喰らうこと(ラーニング)が出来ていない。

 かと言って喰らてしまえば人形行きか。厄介な。

 

「・・・・・・つまり、魅了か。効果対象になる条件は匂いを嗅ぐことか?」

 

「正確には体内に入れた時点で、じゃのぅ」

 

 最悪の宝具だ。

 相性が悪すぎる。

 千年狸精由縁の幻術の類いかと思えば、直接的な精神感応系とか、最悪に過ぎる。

 

 例えば俺には状態異常を直す魔法(テクニック)がある。

 だが、それはその瞬間を治すだけだし、原因となるものを打ち消すもの出ない以上は次の瞬間にまた魅了状態となるだろう。

 メギバースで辺り一帯の生命力を吸い取るという方法も、俺の発動範囲より外に魅了されている人が居たらアウトだし、それを想定して範囲を広げ過ぎると生命力を吸い上げる力が強くなりすぎる。

 それ以前に、気絶した程度で操れなくなるとは考えにくい。

 唯一方法があるとすれば、目の前の美女を悟られるよりも早く殺すしかない。

 そう。

 

 命を奪うしか、ない。

 

 

「なんじゃ、来ぬのか? ほれ、妾を殺せば全ては終わりじゃぞ?」

 

 手を広げて微笑む妲己。

 どうやら俺の内心は全て見透かされているようだ。

 

 その妲己を見ながら、俺は右手の超電磁砲を切り替え、キャリガインルゥカを呼び出し手に持つ。

 そして俺は足に力を込めて、瞬動術擬きで妲己までの距離を一瞬で詰める。。

 

「くふふ、そう、それで良い」

 

 近寄った俺は、ルゥカを彼女の首へと掛けた状態で止まった。

 ツゥと、血が滴る。

 だが彼女は動かない。動じない。

 目線は俺の刃筋を確かに追っていたのに、だ。

 それどころか彼女は、ソレの何に興奮したのか、恍惚とした表情を浮かべる。

 

「ああ、久しく感じなかった生きている証じゃ。懐かしいのぅ。さぁほれ、もう少し引くだけで妾の首は飛ぶぞ」

 

「・・・・・・」

 

 彼女は言いながら、自らルゥカの刃へと首を推し進める。

 当然、それに合わせて血の量は増える。

 鼻を擽る血の臭いに、俺は思わず顔を歪める。

 獣の本能が反応しているのか、血の臭いに合わせて身体が、感情が、自身の全てが熱くなっていくのを感じる。

 簡潔に言えば興奮しているのだ。

 こんな状況でも起こるそれに嫌になりながら、しかし血そのものにはそれほどの忌避感を覚えなくなった自分に嫌になりながらも助かっている自分に内心で苦笑する。

 それが故に、この状況でも何とか冷静でいられるからだ。

 

 何故妲己はこのような行動をする?

 周囲を支配下に置き、俺は孤立無援状態だ。

 俺が人質によって手が限られてしまっているのはどうせ気付かれている。

 人質を上手く使えば、俺をどうすることもできるはずだ。

 ならばブラフか?

 殺させていると見せかけて、俺には殺せないと踏んでの芝居か?

 

 ぐるぐると、そんな思考が頭の中を駆け巡る。

 考えることが出来てしまうのも問題か。

 俺の手は止まってしまった。

 

 そんな俺へと、妲己は呆れた表情を向ける。

 

「ああ、やはり汝はその類い(・・・・)か」

 

 そう言った妲己に俺が疑問を感じるよりも早く、妲己は行動に移した。

 

「殺せ」

 

 妲己がそう告げると同時、周囲に居た人々が隣に居るものと向き合い、驚くことに互いの首へと手を掛けた。

 そして、その手には見るからに力が入っていく。

 ミチミチと、俺の耳に届いてしまう肉や骨を絞める音。

 しかし、それをする誰もが表情には何も浮かべていない。

 

 

 それを見て、俺は、自身に生まれる激情のままにルゥカを、振るった。

 

 

 

「っ!!!!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

「何? 連合諸王国軍からの使者だと?」

 

「はい。エルベ藩王国を始めとした幾つかの国から、“アレは連合諸王国ではない”という言葉と共にこの地へと先程訪れました」

 

 アルヌスにおける自衛隊駐屯地、その一室でそんな言葉から話が始まった。

 言葉の主は、狭間陸将と幹部の一人だ。

 

「しかしそれならばイタリカに居る奴らは何者だ?」

 

「使者によれば、それぞれの国における主戦派だとか」

 

 その言葉に、狭間は眉を寄せた。

 

「つまりこれは体の良い厄介払いという訳か」

 

「恐らくですが」

 

 体の良い厄介払い、つまり使者が言うのは“あれは我々の国でも扱いに困るものだ”と言いたいわけだ。

 そしてこのタイミングでそんな言葉を持った使者を送ってきたという事は、我々の国の人間ではあるが、我々自身は争いたくないと言っている訳だ。

 

 そのことに気付いた狭間は、呆れと同時に少し安堵もする。 

 何せ、帝国と諸王国との仲が途絶えた訳ではなくなったのだ。敵が減った、そのこと自体に感じる安堵だ。

 確かにその国の人間である以上、多少のいざこざは起こるだろう。

 しかし早い段階で国がイタリカを鎮圧した面々を切り捨ててくれたのならば、少なくとも国そのもの(・・・・・)を敵に回さなくて済む。

 

「やはり、国としては帝国を含む我々に対して敵対するのは避けたか」

 

「どうやらその様ですな。使者が売り込んできておりました。“エルベ藩王国国王が甘言に踊らされる者を主戦派だけに抑えた”と」

 

「ほう、自身の地位に厭わずそうまでする王か。それともただ売り込みたいだけか・・・・・・?」

 

 この状況で自身を売るのは、逆を言えば自身が国の全てを抑えることのできない無能だと喧伝するのと同じだ。

 それが出来るのは、国へ被害が来ない様に出来る王か、そこまで頭が回らず一先ずの弁解をしただけの王かのどちらかだと狭間は考えた。

 そして前者であるなら、上手くこの状況を自国の膿出しに利用した可能性もあると考える。

 それであるならば少々業腹だが、その辺りに対応するのは自身の管轄から外れすぎると思考を閉じる。

 

 どちらにしろ、狭間がすることは変わらないからだ。

 

「これは好機だ。予定通り第一戦闘団はアルヌスへ帰投。同時に空挺部隊をイタリカ周辺へ出撃させ気付かせない位置で待機。夜明けとともにイタリカを急襲する。」

 

「了解!」

 

 狭間の言葉に、幹部の男は敬礼と共に了承の言葉を口にする。

 そしてすぐさま踵を返し、男は駆け足で退出した。

 

 今回、狭間が直接内線を使って命令を下さなかったのは異なる命令系統を使った際の相手の反応を見るためだった。

 

 先程、連合諸王国の膿出しに呆れを感じた彼だが、それはある意味自嘲も含んだものだったりする。

 それは自衛隊内に存在する事が分かった裏切り者、膿をいるのがどこも同じだと分かったことに対するものだ。

 一応、自衛隊内に関して一人は既に見つかっている。

 特地へと赴任するに辺り家族が居るという情報が無い筈の人間が選出されているのだが、どこで漏れたのかその家族が人質に取られて已む無く中国側の言いなりになった日本特地間の搬入物資管理を務める隊員だ。

 今は独房で隔離されているが、狭間は彼だけではないと踏んでいる。

 それが故の幾つかの命令系統を使っての指令だ。

 

 そういったこともあり、今回はどうなるだろうかと狭間が思っていると、内線が着信を示すコール音を響かせた。

 

 狭間はそれを一瞥し、ゆっくりと受話器を手に取った。

 そして口を開く。

 

「狭間だ」

 

「り、陸将っ!」

 

 そう告げるが、受話器の向こうの人間はよほど慌てて連絡を寄越したのか、息が荒らかった。

 しかしそれも数瞬の事で、息を整えた受話器の向こうの隊員は、捲し立てるように驚きの言葉を吐いた。

 

 

 

「陸将!! イタリカを占拠していた奴らが鎮圧されたとの報告が!!」

 

 

 

 その言葉に狭間は、最近癖になりつつあるこめかみを揉む動作を思わずしてしまった。




いかがだったでしょうか?

まず、先週は失礼しました。
今まで大体は一週間以内で出せていたのですが、ついに無理でした・・・orz
実習生やら色々重なった結果、中々筆が進まず・・・・・・。
不定期更新のタグもメッセで要らないんじゃない的な言葉を頂いていたので外したのですが、その直後にこれとは申し訳ない。
途中までは一応書けてたのですが、あまりにも中途半端なのでもう一週遅らさせて頂きました・・・。
お待ちいただいていた方にはホント申し訳ないです。
遅筆でごめんなさい。


さておき! 妲己召喚からのお話だったのですが、いかがだったでしょうか?
思っていたとのと違うと仰る方も多数いらっしゃるかもしれませんが、こんな感じになりました。
あ、妲己はオリジナルサーヴァントです。
幾つか原作ネタを臭わせる部分も入れていますが、妲己そのものは原作に出てきていないのでオリジナルになります。
そして妲己がボソッと言っていたように妲己自身は貧弱設定です。
しかしその能力は凶悪の一言。
匂いを嗅ぐだけでアウトです。
というか息をして体内に入ってもアウトです。
ちなみに、桃の匂いに関しては伝承を基にしています。なんでも香水代わりに桃の花から抽出していた物を常に使っていたのだとか。
そのあたりから桃源郷を連想して、桃源郷について調べるとその内容が良い感じにマッチングしてそうなのでそのまま採用しました。
百花繚乱と悩んだのですが、百を“もも”と繋げているだけなのと、酒呑童子の千紫万紅と意味重なっちゃうので止めました。

そんな妲己さんですが、まさかの初戦敗退()
いやぁ、これでラスボス戦終了ですかね!
イタリカの方も召喚された誰かの所為もあって鎮圧されたようですし、あっけなく終了かな(目反らし


さてさて、それでは色々中途半端な終わり方ではありますが、また次回をお待ちいただければと思います。
ではでは!!


P.S.
呼符10連で乳上きた!!
でも脱がせる時間が無い・・・・・・orz


P.S.2
癒しの為にガチャだけやってたんですけど、運よくグラブルで水着ナルメアさんをお迎えすることが出来ました。
しかしなんであの位置に刀があるんだろうか・・・・・・。

あと、クムユちゃんが来てくれません・・・。
課金するしかないのか・・・。
水風船なクムユちゃん(意味深 が欲しいです(直球


P.S.3
もうすぐテイルズ新作ですね!
今回はどうなるんだろうか・・・・・・。
というかやる時間あるかな(死んだ目

P.S.4
実は照魔鏡ではなく神獣鏡を使う話も考えたのですが、あまり膨らまなかったので没にしました。
いや、神獣鏡(シェンショウジン)でCV.井口さんなネタを挟みたかったんですよね。
フォニックゲインで変身する的なw

まぁ、董主席が変身して誰が得するんだって話ですが・・・。

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