テンプレ…まじで?(リメイクしてみた) ※現在このすば!編    作:onekou

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どうもonekouでございます。

気付いたら寝落ち(寝坊?)してました。
なのでこの時間の投稿です。

遅れて申し訳ないorz


『stage58:立川の安アパート(風呂なし・ペット禁止)に住んでる二柱みたいな・・・・・・』

「ほう、虎と言うには些か華やかさに欠けるが、中々に壮大な姿ではないか」

 

 妲己がそう言いながら見上げる蟲獣が、ついにゲートから抜け出てその全てを見せた。

 

 ぬるりと、ゲートに罅を入れながらも這い出てきた姿を端的に言うと、百足が一番近いだろうか。

 ただ、百足と例えただけで実際には更に(おぞま)ましい代物だ。

 

 胴体が長く、節ごとに足がある。そこは百足のようだ。

 だが、足の全てがカマキリの鎌の様になっており、背中側には無数の触手が生えていてうねっている。

 しかも触手には棘々とした突起物が付いており、その先端には捕食を目的とした口が付いている。

 腹側は虫類によく見られる甲殻だ。

 ただし、その甲殻は見るからに金属の様な光沢を放っており生半な強度ではないのが見て取れる。

 そんな胴体が長く続き、その一番前、頭の部分には蜘蛛の様な8つの目がある。

 その目はまるで人間のような目になっており、ぎょろりぎょろりとそれぞれが他方を見ている。

 その少し下には牙を剥く巨大な口が在る。

 ギザギザとした牙はまるでサメを思い立たせる凶悪なもので、噛みつかれれば一溜りもないだろう。

 

 そんな百足もどきの化け物、何よりも悍ましいのがその大きさだ。

 

 胴体の太さで言えば、ゲートをギリギリ通れるほどもある為直径で5メートル以上もあるだろうか、足鎌もそれぞれが巨大な為に、地面からの高さは10メートルは越えるだろう。

 背中から生える触手は伸縮する様で、2,3メートルの物もあれば地面に届きそうなほどの物までいろいろだ。

 そんな悍ましい胴が続くに続いて、全長は50メートル以上はあるだろうか。

 

 そんな百足もどきは、胴体上部を持ち上げて咆哮を上げる。

 それは哺乳類のものとは違って、やけに甲高く、ギチギチとした音も混ざっておりとにかく耳障りなものだった。

 

 しかしその百足もどきは、妲己の血を媒介にした『桃源郷・酒池肉林』によって支配下に置かれているようで咆哮を上げはするが行動を起こしてはいない。

 そのことに少し安堵しつつも、コウジュは次の出方を考える。

 

 コウジュ達が居るのは変わらず銀座のど真ん中だ。

 ゲートに関してはその直前に蟲獣が居座っているが、当然その周囲やコウジュと妲己を中心としたその周りにも何百人と人が居る。

 周囲の建物にも、人は居る。

 比較的会場に近い建物に居る人間はほとんどが自衛隊や警察関係者ではあるが、だからといってその状況をコウジュが無視できる訳もない。

 そして、恐らくそのほとんどが妲己の支配下にある。

 建物の中ならば空調の関係で大丈夫な人も居るかもしれないが、人間は肌でも呼吸している(・・・・・・・・・)。無事ではないと考えた方が無難だろう。

 そんな中でもし巨体を誇る蟲獣が暴れれば被害は目に見えている。

 ただ移動するだけでも、巨体故の重量で押し潰されるだろう。

 ではどうするか。

 

 改めてコウジュは蟲獣を見る。

 正しく言えば、その背中から生えている触手だ。

 それには見覚えがあった。

 

 触手の形状からコウジュが思い出すのは、ゲートを開く実験を山奥でした際に、そのお試しゲートから出てきた悍ましい存在。棘付きの触手で、その先端に捕食用の口があり、ヌラヌラとテカりながらコウジュの腕をもぎ取った触手だ。

 ただ、サイズが明らかに変わっていた。

 形状は完全に同じだ。コウジュは自身の腕に巻き付く触手を体感すらしているため見間違いは無い。

 しかしそれが今では一回りどころかコウジュの胴体程の太さになっている。

 以前の細さでコウジュの自動防御を突き抜けるほどの力を持っていたことを考えると、今の太さでは身体ごと引きちぎられてもおかしくは無いように思えた。

 そんな物が、蟲獣の背中部分から何本も生えている。

 

 コウジュはその触手に捕まった自分をつい想像してしまう。

 しかしすぐ様頭を振ってその思考を破棄する。

 そして思考を反らすために次に考えたのが、何故あの触手がこうなったか、だ。

 

「成長期・・・なわけないよな・・・・・・」

 

 妲己が命じないために唸り声を上げはするが動かない蟲獣を見ながら吐き捨てるようにそう呟くコウジュ。

 

 考えられるのは、同じ種ではあるが別個体である場合だ。

 それならば、以前に見た奴が幼生体でしかなかったと結論付けることが出来る。

 しかしそうではないと、コウジュの勘が告げていた。

 臭うのだ。目の前の蟲獣から自分と同じ匂いが。

 コウジュは思う。恐らくこいつこそが自身の腕をもぎ取った奴なのだと。

 そして、その戦利品をこいつは喰ったのだろう。

 

 それを理解したところで、あの蟲獣が何故これほどまでに大きくなったのかにも理解がいった。

 身近に居たではないか、恐るべき急変を果たした存在が二人(・・)。紅と蒼の龍が。

 つまり、原因はコウジュの泥だ。

 

 あの時、コウジュは触手に掴まれた腕そのものを切り離すことで魔の手から逃れた。

 その際に切り離された側の腕は簡易ゲートの向こうに消えたが、そのまま触手―――の本体である蟲獣―――が食ったのだろう。

 しかし後続としてさらに触手は来た。

 それをコウジュは咄嗟に泥で押し流した。

 それをこの蟲獣は摂取し、何かを願ったのだろう。

 双子龍は人に成れる力を願った。

 では蟲獣は?

 コウジュが見る限り、碌な物では無いのは簡単に予測できる。

 捕食器官が増え、胃に限界があるのか怪しい大きさ、狩る事に特化した脚。

 見るからに“食欲”を優先した姿だ。

 

「ああ、くそったれめ。これも自業自得って訳か・・・・・・。蟲だけど、何かを願えるだけの知能があるとはな」

 

 直後の彼是(アレコレ)でコウジュはすっかり失念していたが、ここに来てのしっぺ返しに頬が引きつるのを自覚する。

 これではまるで某狩人×狩人漫画の様ではないかとも苦笑する。

 人を喰らう虫を退治していく部分があるのだが、そこでは主人公が自身の能力()を使って虫を退治しようとするも中途半端になってしまい命を奪いきることが出来ず、逆にその取り逃がした虫が念に触れたことで念に目覚め蟲側の戦力が強化されてしまうのだ。

 

 

「ふむ、ある程度は向こうまで行き渡ったか。さて次じゃ」

 

「マジかよ・・・・・・」

 

 コウジュを見るだけであった妲己が、扇を閉じてそう口にする。

 見れば、一番初めに出てきた蟲獣の後ろから、小さい蟲の様な物がわらわらと出てきた。

 小さいと言っても、最初のやつに比べてと言うだけで、一番小さいやつでも子犬サイズだ。

 見た目は蜘蛛の様であるが、毒々しい色をしており小さいと侮ってい良い物ではなさそうだ。

 更に言えば、烏ほどの羽を持ち空を飛ぶものまで居る。

 それは蜻蛉と蚊を併せ持ったような見た目だが、尾の部分に蜂のような針を持っている。

 

 そういった大小様々な蟲が出てくるや否や、妲己を守るように囲い、コウジュへとギチギチと威嚇音の様な物を上げている。 

 妲己はそれらを見ながら満足そうに微笑む。

 見るだけならば見惚れそうになる笑顔だ。

 しかし、その周囲に居る者達や先程までの言動を知っているためより醜悪に見えるだけであった。

 

 当然、妲己もそれは分かっていた。

 分かった上で、先程からその様子を全世界に向けて魅了したカメラマンを使って放送していた(・・・・・・)

 蟲を魅了しながらもカメラマンを使ってその様子をずっと放送していたのだ。

 

「よし、これにて準備は整ったのぅ」

 

 妲己は、笑みを浮かべた。

 傾国と言う名にふさわしい、歪んだ笑みを。

 

 そして、手に持つ扇をコウジュへと向けた。

 

現世(うつしよ)にて新たな酒池肉林の始まりじゃ」

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

「ほれほれほれほれぇっ! どうしたそれでも同族かぁっ!?」

 

「ぐぅっ!?」

 

 近くに居た蚊蜻蛉型の小蟲獣に身体を掠められながらも、何とか裏拳を叩きこんで粉砕する。

 しかしすでに目線は次に近い蟲獣へと向いている。 

 そうしながら、俺は悪態を付く様に妲己へと返した。

 

「まだまだ蟲共は居るぞ。次はそっちじゃ!」

 

「やらせるか!!!」

 

 妲己の近くに居た小蟲獣が動かない見物客の一人へと襲い掛かる。

 それを、右手にセットしたレールガンで打ち抜くことで、弾き飛ばす(・・・・・)

 すると弾き飛ばされた小蟲獣は、その勢いのままビルの壁へとぶつかり、体液を撒き散らした。

 同時にじゅぅっと、物が溶ける音が微かに響く。

 

 先程からこれの繰り返しだ。

 この応酬が始まり、既に何十分と経っている。

 

 どうやらこの蟲獣たちの体液は酸性の毒液らしく、少し掛かるだけでも身体は溶けだし、その傷口から毒にやられて死に至る。

 弾き飛ばすしかないのはそれが理由だ。

 幸いにも、俺自身は酸に多少肌が焼けるが毒は効かず、武器ならば溶けはしない。

 ただ、それは俺自身に関してだけだ。

 既に、見物人が何十人も毒にやられて死んでしまっている。

 

 そう、既に何人もの死人が出ている。

 しかも妲己の魅了は強烈な痛みの前では解けるのか、それとも蟲獣たちの操作にリソースを裂いているからか、蟲獣の体液が掛かり死に瀕した人達は苦悶の表情で、俺の目の前で死んだ。

 最初の1回、たったの1回だ。

 それ以降は何とか小蟲獣の体液が人々に掛からない様に出来ている。掛かったとしても、すぐに回復して何とか出来ている。

 しかし、そのたったの1回で、俺が粉砕してしまった結果何人もの死者が出てしまった。

 出してしまった。

 だがそのことに悔いている時間は無かった。

 次から次へと、休む暇もなく小蟲獣は向かってくる。

 それは俺にだけでなく、今の様に人形の様になってしまっている見物人たちの方へも向かっていく。

 

 そして最悪なのが、小蟲獣の侵攻を阻止できているのは妲己が少数ずつしかこっちへと向かわせてきていないからだ。

 妲己の周囲には、まだまだ数えるのも嫌になるくらいの蟲獣たちが居る。

 馬鹿みたいにでかいのは最初の一匹だけだ。

 だが、小蟲獣に関しては、その限りではない。

 今もまだ、ゲートの向こうから列を成して来ている。

 

「っるぁああ!!! っはぁ、はぁ、ふぅ・・・、何が、目的なんだよお前」

 

 斬って体液を撒き散らすわけにもいかないため、既にルゥカは消している。

 そのため今は遠距離ならレールガンで弾き、近距離ならばセイクリッドダスター(甲拳系武器)で蟲獣を凍らせることで対応していた。

 今もそれで向かってきていた蟲を止めることが出来たため、隙をついて質問する。

 

「ふむ?」

 

「さっきから同じことの繰り返しだ。俺が蟲を倒し続けているだけ。それが楽しいのか?」

 

 俺が妲己へと向かえば蟲が見物人たちのもとへと行く。

 蟲を纏めて倒そうとすれば、蟲達が拡散して逃げる。そしてそのまま近くに居る人達を襲おうとする。

 とりあえず、俺が中央で蟲達と大人しく戦っていれば、妲己は一気に攻め落とそうとはしてこなかった。

 だが、幾らなんでもこれだけの時間続けるというのは妲己の性格的に飽きしてしまいそうなものだ。

 絶対に何かある。

 そう思っての質問だった。

 

「いや別にそうでもないがのぅ」

 

「・・・・・・じゃぁ何でだ。既に何人も死んでしまった。まだ続けるのかよ」

 

 そんな俺の言葉に、妲己は一瞬キョトンとした表情をした。

 しかしすぐに、くすくすと笑い始めた。

 

「まさか、まさかまさか、本当に気付いておらんかったのか? 目の前の事に必死で気づかなかったのかのぅ?」

 

「・・・・・・何が、言いたい」

 

 俺の言葉に妲己は、笑いを何とか堪えるようにして返してきた。

 

「先程から言っておるではないか、同族だと。今の妾はサーヴァントでもある。故に、今もこうしてこの状況が映像として垂れ流され続ける限り妾の知名度は上がっていく。サーヴァントの強さの一因として知名度も挙げられるんじゃろう? 今時はいんたーねっつとかいうので妾について調べることもできるようじゃし、便利な世の中になったものよなぁ」

 

「なっ・・・・・・」

 

 そう、だ。

 確かにサーヴァントにはそういった設定が在った。

 肉体があり、能力の制限は精神次第な俺には関係ないものであったが、原作からの設定として確かにそれはある。

 

「当然、それだけでは無い。というより、こちらに関しては既に気付いていると思ったのじゃが、見込み違いで合ったかのぅ」

 

 首を傾げながらそう言う妲己。

 それを疑問に思っていると、妲己は徐に自身が着る服へと手を伸ばした。

 

 そして、裾を持ち上げた。

 

「何、を・・・・・・っ!?」

 

「漸く4本か。先は長いのぅ」

 

 持ち上げられた裾の中から出てきたものを見て、俺は驚愕を露わにする。

 

 そこには、黄金の毛並みを持つ狐の尾が在った。

 数は妲己が言うように4本。

 それが腰の辺りから前へ伸ばされている。

 

「4尾・・・・・・」

 

「当然じゃよ。妾は狐の妖じゃからのぅ」

 

 妲己が着る服は腰辺りからゆるく膨らんでいるからそこに隠れていたのだろう。

 しかしよく見てみれば、その一本一本から多大な力を感じ取ることが出来た。

 

 妲己はその一本を手に取り、俺へと見せつけるように前へ出した。

 

「妾もお主も、肉体を持ってはいるが神霊の類いじゃ。本来ならばサーヴァントとしては成り立たぬ。そもそも、求める物の無い場所に何故英霊が来る。つまり、それが出来たのは元々妾達がここに居たからに過ぎぬ」

 

 言われてみればそうだ。

 本来であれば魔術師でもないのに召喚できる訳がない。

 聖杯があり、詠唱を知っていたとしても、それだけで英霊の主とはなれない。

 

 それでも俺達が契約に成功したのは、そもそも俺達がそこに居たからだったんだ。

 そこに、聖杯やパス代わりとなる垂れ流しのマナが揃う状況。

 そして何よりも、俺は誰かの役に立ちたいと思っていた。妲己は再び現世に戻りたいと願っていた。

 それを聖杯が汲み取ったのか、外堀が完全に埋まった結果サーヴァント契約と言う形に落ち着いたのかは分からないが、それが故にこうなったのか。

 

「これでもしも妾たちに肉体が無かったのならば、(マスター)はすぐさまに干物になっておったであろうな。偶然とは面白いモノよのぅ」

 

 それも確かだろう。

 英霊が現界し続けるには、その体を構成する魔力を維持し続ける必要がある。

 様々な方法でそれを補う方法は当然あるし、原作でも語られているが、当然ながらそれを行えるだけの知識と技術が必要となる。

 しかし俺達に関しては器となる肉体がある。

 妲己に関しては何故か足りない部分をFate世界からある程度引っ張って来たようだが、それもそういう形で願いを叶えようとした結果、穴埋めとして持って来ただけなのかもしれない。

 

 そのことが解り、少しスッキリするが聞きたかった事はそれではない。

 はぐらかされてる様でどうも気に喰わなかった。

 

「気に喰わないが、謎が一つ解けたよ。だけど、それがどうしたってのさ」

 

 思わずそんな感情が言葉に乗ってしまうが、妲己は意にも介さず笑みを浮かべ続ける。

 

「ふふ、そう急くでないわ。問題はここからじゃ。

妾達はその様に肉体がある故に現界し続けることが出来る。しかしそれは現界し続けることが出来るだけ。それでは何の意味も無いではないか。ただそこに在るだけの(せい)など、畜生にも劣る営みよ。だからこそ、力を使う為に補充する必要があるじゃろう?」

 

「それが、知名度だってのか?」

 

「くふふ、それは力の強度に関連するだけじゃ。器の中身には関係ない」

 

 器の中身?

 そう疑問に思うと、妲己はまたしてもそんな俺を見てクスクスと笑う。

 

「くっふふふふ、はははははははははっ。やはり知らんのじゃなぁっ。それほどまでの力を持っているのに、いやそれほどの力を持っているからこそ、使う必要が無かったのか? それとも意識しないようにして来たのか? あぁ、どちらにしろ傲慢なことじゃな。それほどまでに信仰を得ている(・・・・・・・)というのに」

 

「しん・・・こう・・・・・・?」

 

「そう信仰じゃよ。人々からの願い。人々の感情。向けられた想い。それを向けられるからこその“神霊”であろうよ。力を持つから神なのではない。感情を向けられてこその神じゃよ。

 

ほれ、そんなにも想われている(・・・・・・)ではないか」

 

 

「っ!!!!?」

 

 

 妲己の言葉を聞いた瞬間、自身の身体を付き抜けていく何かに気付く。

 正確には入って来るもの、だ。

 

 

 

 

『タスケテ』

『ドウシテワタシガ』

『シニタクナイ』

『イヤダイヤダイヤダイヤダ』

『ハヤクアイツヲコロシテ』

『ハヤクシロ』

『ハヤクタスケロ』

『ハヤクハヤクハヤク』

『コロセ』

『コロセヨ』

『ハヤクタスケテ』

『コロセ』『コロセ』『コロセ』『コロセ』『コロセ』『コロセ』『コロセ』『コロセ』『コロセ』『コロセ』『コロセ』『コロセ』『コロセ』『コロセ』『コロセ』『コロセ』『コロセ』『コロセ』『コロセ』『コロセ』『コロセ』『コロセ』『コロセ』『コロセ』『コロセ』『コロセ』『コロセ』『コロセ』『コロセ』『コロセ』『コロセ』『コロセ』『コロセ』『コロセ』『コロセ』『コロセ』『コロセ』『コロセ』『コロセ』『コロセ』『コロセ』『コロセ』

『ハヤク』『ハヤク』『ハヤク』『ハヤク』『ハヤク』『ハヤク』『ハヤク』『ハヤク』『ハヤク』『ハヤク』『ハヤク』『ハヤク』『ハヤク』『ハヤク』『ハヤク』『ハヤク』『ハヤク』『ハヤク』『ハヤク』『ハヤク』『ハヤク』『ハヤク』『ハヤク』『ハヤク』『ハヤク』『ハヤク』『ハヤク』『ハヤク』『ハヤク』『ハヤク』『ハヤク』

 

 

 

 

 

 

 

 

『『『『コロセッ!!!!!!』』』』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んぐぅっ!?」

 

 

 

 流れ込む感情(信仰)に、俺は身体を折って地面に手を付く。

 大きく息を吐き出しながら、心を落ち着かせる。

 視界の端に見える毛先が黒く染まっていくのが見える。

 それを、無理矢理抑えていく。

 大丈夫。俺自身の感情じゃない。

 問題ない。俺が望んでるのはハッピーエンドだ。

 だから大丈夫だ。

 ハッピーエンドはみんなが望むものだ。

 大多数が望むはずのものだ。

 だから、大丈夫。

 

 

 

 大丈夫の、筈なのに―――――。

 

 

 

 

「くふふふふふ、どうじゃ。心地よいじゃろう?」

 

「んぅ、くぁぅ、こ、これの、どこがっ!!」 

 

 感情が荒れ狂う。

 無理矢理身体が狂化の方向に引っ張られていく。

 身体が外側から蝕まれて行くような、凌辱されて行くような、気持ち悪い感覚。

 視界に映る髪は既にそのほとんどが黒くなっている。

 そして、その黒くなった髪はどんどんと伸びていく。

 既に身長は越えた。

 それは留まることを知らず、ついには俺を中心とした池の様になってしまう。

 

 よく見ればそれは、泥だ。 

 聖杯の泥。

 それも、あの時見た汚染された物。

 見た目は俺が良く使うものと同じだ。

 だが、見るからに悪感情を掻きたてるその様相は、呪われた聖杯の泥に他ならない。

 

「ふむふむ、これでもまだ堕ちぬか。防壁? それとも無意識の拒絶? まぁどちらにせよ良い姿になったではないか」

 

「堕・・・ち・・・・・・?」

 

「そうじゃよ。言ったではないか神は感情(信仰)を向けられてこその神であると。お主に流れて込んでいるのではないか? 妾を殺せと言う人々の感情が。無遠慮にも悪意に満ちた想いがお主の中に流れ込んでいるであろう?」

 

 悪意に満ちた想い。

 確かにそうだ。

 少しでも気を抜けば全てが染まってしまいそうな、自身が無くなってしまいそうなほどの殺意。

 いや、これはもはや呪いだ。

 妲己を殺せという感情(呪い)が俺の中へと入り込んできているのだ。

 

「んぅっ、こんな・・・、うんっ、もののっ・・・・・・ために・・・?」

 

「こんなもの、か。しかし、それなくして神は神足り得ぬ。妾もお主も肉体がある。故に必ずしも必要ではない。必要ではないが、一定以上の人の感情はこれほどまでに膨大な力と化す。

妾にも流れておるぞ。死ねだの消えろだのとな」

 

 俺でさえこれなのに、なぜ妲己は平然とした表情をしているのだろうか。

 妲己の場合、彼女の言葉が正しいなら俺どころではない直接的な悪意を向けられてるはずだ。

 それなのになぜ無事なのだろうか?

 

「ふむ、不思議かの?」

 

 言葉にするのも辛い状態だが、妲己は俺の表情を見て読み取ったようだ。

 

「それは単純に性質の違いじゃな。年季と言って良いかもしれぬがのぅ。ほれ、神にも2種類あるじゃろう?」

 

 神には2種類ある?

 種類なんてあったのか―――?

 

 

 ――――いや、ある。確かにある。

 

 神話の中で神に対して語られる存在。

 神の敵対者、そして人類の敵、ただ悪を撒き散らす災害。

 

「邪神、か・・・・・・」

 

「くふ、その通り。故に妾は悪意を集める。元々妾は悪意を向けられてばかりの性質じゃ。妾が神性を得てもそうにしかなれぬ。まぁ、そうなる(・・・・)つもりしか元々無いがのぅ。ただ、魅了の力ばかりが強く出てしまった故にこのような害虫に頼らなくてはならぬのが業腹かの。幸いにもこの気色悪い姿が余計に人感情を湧き立たせ効率は良くなった様じゃが」

 

 そう言いながら艶やかに笑う妲己。

 しかし、人の信仰というものを自覚した今ならわかる。

 先程まで感じていた以上に妲己の周囲には悍ましいものが渦巻いている。

 それは、見えないだけで呪われた聖杯の泥と同じようなモノに見えた。

 つまり、今俺の髪が変化しているものと同じような・・・・・・。

 

「正しき信仰を得られたならば神は本来の神足り得る。しかし、悪感情を向けられたならば神は堕ちる。それが悪神や邪神となる。遥か昔から存在した神がこの星に居ないのも恐らくその辺りが原因ではないかのぅ。向けられる感情が足りなくなったか、それとも向けられる悪意に耐えられなくなったか。まぁ、推測じゃがな」

 

「つまり俺も、邪神に成りかけてるってことかよ・・・・・・」

 

 漸く感情の奔流に対して何とか心を保てるようになってきたため、立ち上がりながらそう俺は口にする。

 重くなった髪が煩わしい。

 だがそんなことを考えられる程度には余裕が出始めている。

 

「・・・・・・ふむ、やはり防壁か。身体は堕ちているのに本質が堕ちぬか」

 

 俺の方を見て、何やらそう呟く妲己。

 防壁? 

 本質が堕ちない?

 

「まぁ良いわ。それならそれで面白い。神でありながら(・・・・・・・)願望器としての(・・・・・・・)性質を持ちながら人の思いを叶えぬ(・・・・・・・・・・・・・・・・)その有り様(・・・・・)には純粋に興味がある」

 

 何を言って・・・・・・?

 

 

 

「他者の願いも叶えず、自身の願いも叶えず、お主は一体誰の願いを叶えておるのかのぅ?」

 

 

 

 

 妲己の言葉に俺は、頭をガツンと殴られたような衝撃を得て、何とか保てていた意識がブラックアウトしていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『こ、ここは・・・・・・?』

 

 気づくと、俺はコウジュとなった際に居た、最初の宇宙のような空間に浮いていた。

 何故か服も着ずに。

 慌てて胸と下に手を伸ばす。

 だが、いつの間にか胸を咄嗟に隠そうとしてしまうようになった自分に落ち込む。

 とはいえ堂々と隠さずに居るのも気持ち良い物では無い。

 いや気持ちよくなっちゃダメなんだけどね。

 

 いやそれよりも、だ。

 ここはどこだろう。

 というか、なんでこんな所に?

 俺はなんか結構ピンチな状態になっていたような?

 

 そんな疑問を持って頭を傾げていると、突然肩をトントンと叩かれた。

 

『いらっしゃい、漸く会えたわね』

 

『ひぁっ!!!!!?』

 

 突然なホラー体験に心臓が止まりそうになりながらも、慌てて振り向く。

 

 そこには色違いの俺みたいな幼女が居た。

 正確にはKoujuの色違いだろうか。

 眼の色は同じ紅。

 だけどそれ以外の全てが真っ黒だった。

 肌に関しては浅黒いと言った程度だが、俺が白黒なら彼女は完全に黒って感じか。

 あとの違いと言えば、こっちは何故か服を着ている。

 

『はぁ~い』

 

 そんな幼女が、フレンドリーに俺へと手をフリフリしながら話しかけてきている。

 それに思わず振り返す。

 すると幼女は何が嬉しいのか、可愛らしく笑う。

 守りたい、この笑顔。

 って、そうじゃない。

 この状況は何なのかってのが最優先だ。

 

『だ、誰さ・・・・・・?』

 

 あまりに訳の分からない状況に思わず変な語尾が付いたが仕方ない。

 しかしそんな俺の質問に対して、黒幼女は首を傾げて考え出す

 

『えぇっと、いち・・・じゃなくて、こ・・・・・・でもなくて、こう、光、対すれば・・・・・・あ、そうだアンジュ。貴方にはアンジュと呼んで欲しいかな。もう一人のボク的なサムシングだと思って貰えればいいわよ』

 

 黒幼女もといアンジュちゃん。

 どうやら彼女はもう一人の俺らしい。

 いやそれなんてATM? もとい王様?

 けど俺はパズルを完成させた覚えもないし怪しげなアイテム・・・・・・はいっぱい持ってるけど、今までアンジュちゃんみたいな存在には会ったことが無い。

 

 あれ、でも待てよ。

 そういや最近活発化してる存在が居たな。

 しかも今いち・・・って言いかけてたし。

 ひょっとして―――、

 

『―――えっと、一条祭りさん?』

 

『アンジュ』

 

『いやでもさっきいち・・・って言いかけてたような』

 

『アンジュ』

 

『けど』

 

『アンジュ』

 

『はい、アンジュサンデスネ』

 

『よろしい』

 

 何この有無を言わせぬ幼女。怖い。可愛いけど。

 

『ふふ、可愛いだなんてそんな』

 

 ああ、この子もナチュラルに人の心を読む系なのね。

 俺が口に出していない言葉なのに、本当にうれしそうにアンジュちゃんは頬を染めながら笑う。

 もうなんかそれだけで全てが許せる気がするよ。

 でも何でそんなことが出来るんだろう?

 

『だって私はあなただもの。それぐらいは容易いわ。ましてやここはあなたの中。肉体的な壁なんて無いわ』

 

『え? ここって俺の中なの?』

 

『そうよ。ついでに言えば、外ではほんの刹那の出来事になる筈よ。ここには時間なんて存在しないもの』

 

『其れなんて精神と時の部屋?』

 

『ここは別に居過ぎても問題は無いけれどね。時間という概念が干渉できないだけだから』

 

 よくわからんがなんかすごいのは分かった。

 

『そういえば、服は着ないの? 自身に似た姿の子が裸なのは少しばかり恥ずかしいのだけれど』

 

『うぉおっ!?』

 

 そういえば素っ裸だった!

 けど服とかどうすればいいんだよ!?

 どこにも服とか無いんですけど!!!?

 

『服を着ている自身を思い浮かべるだけよ。服を念じるだけでも出てくるけど』

 

 念じる?

 お、着られた。

 

 ついでに、調子に乗ってテーブルに椅子、お茶セットなんかも念じてみる。

 どれも出てきた。 

 すげぇ・・・・・・。

 一応元の男の姿を念じてみる。

 しかしそれは出来なかった。

 解せぬ。

 

 とりあえず俺は出した席に着く。

 アンジュちゃんも同じように席に着いた。

 

『便利だなこの空間』

 

『正確には一つの世界かしらね。貴方の世界』

 

『俺の世界?』

 

 その言葉に、俺は周囲を見る。

 

 そこは変わらずの宇宙の様な場所だ。

 ような、というだけで、実際に宇宙に行ったことがある訳じゃないから実際には違うのかもしれない。

 

『そうよ。例えばほら、あそこを見て』

 

『え、何であれがここに・・・・・・』

 

 アンジュちゃんが指し示す方向、そちらを見るとそこにはとても見覚えのあるモノが浮いていた。

 

 細長い宇宙戦艦の艦首部分に煌びやかな自転車の車輪みたいなものが装着されている巨大な物体。

 それはPSPo2において、よく見る姿だ。

 

 正式名称、リゾート型コロニー『クラッド6』。

 PSPo2の、始まりの場所だ。

 

『一応名前はクラッド6とするけど、当然ながらゲームのアレとは別物だよ? アレはあなたが所有するマイルームの外枠だもの』

 

『マジで!?』

 

『マジマジ』

 

 マイルームって物理的に俺の部屋だったんだ。

 つまりそんな所に俺は色んな人を招いていたのか。

 むしろ、アレがマイルームの外側だと言うならば、現在進行形であそこにはガチムチさん達がいっぱい居るわけだよな?

 包容力在りすぎだろ俺。

 

 しかし、そうなると疑問が一つ産まれる。

 

『あれ? でもそうなるとマイルームに俺が入った場合、どういうことになるの? 俺の中にマイルームが在って、でも俺がそのマイルームの中に入る訳でしょう? どういうこと・・・・・・?』

 

『あ、ストップストップ!!』

 

 アンジュちゃんが何故か止めに入る。

 しかしその瞬間、地震が起こった。

 ここに地面は無いみたいだから空間震ってのが正しいのかね?

 

 そんな風に思考がそれると、その揺れも収まった。

 

『あやふやなままの方がいい事もこの世にはあるの。だから考えるの禁止ね』

 

『えぇ、理不尽な』

 

『仕方ないわ。それよりも話を戻すわね』

 

 アンジュちゃんはコホンと可愛らしく咳払いする。

 

『ここがあなたの世界だってのは理解してもらえたと思うけど、問題はどうしてここにあなたが居るかってこと』

 

『あ、そうだよそれ! 今更だけど、俺かなりピンチになってた気がするんだけど!?』

 

 思い出すのはこの場に来る寸前の状況。

 妲己に良い様に踊らされていた、そんな状態。

 

 だから俺は焦る。

 ここから出ても一瞬しか経っていないという事だが、だからといって外の状況が改善されている訳ではない。

 

 しかし、そんな俺に対してアンジュちゃんは笑みを消して真っすぐな目で見てくる。

 

『本当に・・・・・・?』

 

 ・・・・・・え?

 俺は一瞬、どうしてアンジュちゃんがそんな風に言うのかが分からなかった。

 

『あの状況は本当にあなたにとってのピンチだった?』

 

 ピンチだ。ピンチだった。

 周囲の人間は皆が人質状態だ。

 しかもどれだけその人質が居るかもわからず、妲己の指示次第で瞬時に自殺させることも出来れば敵として行動させることもできる。

 それだけじゃない。

 恐るべき巨体を持つほどの成長した大型蟲獣。

 害しか齎さない体液を持つ数多くの小型蟲獣。

 そんな物に囲まれている状況。

 加えて言えば、俺自身のコンディションも最悪にさせられた。

 

 これがピンチ以外の何者だと言うのか。

 

『どうしてそれがピンチなの?』

 

『ど、どうしてってそれはっ! それは・・・・・・』

 

 思わず声を荒げる。

 先程から同じ調子でアンジュちゃんは“どうして?”と繰り返す。

 それに対して反発した言葉を告げようとした。

 しかし、出来なかった。

 俺の声は消沈していく。

 ピンチである理由は分かっていた。

 

 

 ―――それは、俺の我が儘が由縁だ。

 

 周囲の人質を助けたい。誰も殺したくない。死んでほしくない。

 そんな俺の願いが原因だ。

 つまり、自分で自分の選択肢を狭めている。

 

 例えば、形振り構わず妲己を殺すとする。

 恐らく可能だろう。

 見る限り、本人も言っていたが、彼女は“魅了”と言う手段にそのスペックのほとんどを持っていかれている。

 俺の全力で迫るなり、空間ごと斬り取るなりすれば、彼女の命を奪うことは可能だ。

 しかしそれを俺は選ばなかった。

 一度は確かに彼女の首を落とした。

 でも再び失敗すればどうなる?

 現状で言えば彼女は状況を楽しむように動いているが、俺の下手な行動で彼女が気分を害して人質の全てに手を出すかもしれない。

 

 そんな想像が、俺の選択肢を奪っていた。

 

 それは、分かっている。

 分かってはいるが――、

 

『――――誰かを犠牲にした選択肢を俺は選べない』

 

『ええ、そうでしょうね』

 

『大事な1を守るために残りの9を捨てると決めた奴が居た。困っている全てを助けたいという正義の味方を目指す奴が居た。そんな人達と共に居て、俺は誰かを切り捨てる選択肢を取らないと決めた』

 

『確かにそうだったわね。でも、その所為で全ての人間が死ぬかもしれないわよ?』

 

『それはっ! ・・・・・・そうだけど』

 

『力なき正義は無力であり、正義なき力は圧制である・・・・・・だったかしら? じゃあ、力を持っているのに行使しない正義って何かしら?』

 

『・・・・・・それが、俺だって?』

 

 アンジュちゃんの言葉に、思わずムッとして返してしまう。

 そんな俺に、彼女は毅然とした態度で返してくる、

 

『いいえ、私は何となく思ったことを口にしただけ。引っかかる節でもあった?』

 

『・・・・・・』

 

 言葉を返せずに居る俺に、アンジュちゃんは困った表情をする。

 

『はぁ、嫌われたくはないのだけれど、敢えて言うわ。どうして願わなかったの?』

 

 彼女は何故か泣きそうな顔に成り、そして諦めたように一つ溜息を吐くとそう告げてきた。

 

『・・・・・・願い?』

 

『そう、願い。貴方の本質。願いを叶える力。それをあなたは持っている筈でしょう?』

 

『取り込んだ聖杯の事?』

 

『いいえ違うわ。あなたが最初に得た力よ』

 

『“幻想を現実に変える力”か』

 

『そう、それよ』

 

 幻想を現実に変える力。

 思ったことを現実にする力。

 貰った能力の中でも群を抜いてチートな力だ。

 しかし、その副作用とでも言うべきデメリットもまた凶悪の一言だ。

 思ったことを現実にする。それは良い。

 だが、マイナス面で考えたことすらも現実にしてしまう。

 

『そう、チートと言える能力よね。不正な方法で利益を得る方法、それがチート』

 

 そうだ。

 本来あるべきルールを無視した行為。

 それがチートだ。

 

『だからほとんど使わないのね? スペックダウンして、物理的な効果に限定してしか使えないようにまでして』

 

 アンジュちゃんの言葉に、俺は絞り出すように声を出す。

 

『・・・・・・そうだよ。俺の思ったこと次第で世界に効果を及ぼすなんて力、出来る限り使わない方が良いに決まってる。それ以外にも貰った能力があるんだ。それも十分反則級だけど、及ぼす効果はまだ調整できる』

 

 言うなればいつ爆発するか分からない爆弾のような物だ。

 そう思ってること自体が駄目なのかもしれないが、実際そうなのだから仕方が無い。

 割り切ってその全てを使えてしまえればいいのだが、俺は妥協することでしか使えなかった。

 

 そんな俺に対して、アンジュちゃんは首を振った。

 

『嘘はいけないわ』

 

『な、にを・・・・・・?』

 

『恐らく無意識だったんでしょうけど、それはあなたが願いを叶えない理由じゃない』

 

 そう断言され、俺は俯きがちだった目線を思わず挙げてアンジュちゃんを改めて見る。

 そんな俺に関係なく、アンジュちゃんは留まることなく続けた。

 

『あなたが能力を使わない本当の理由は周囲の人間を思ったように作り替えたくないから。創作物ではないれっきとした生きた人間だけど、あなたはそれを思う様に書き換えることが出来てしまう。それが怖かったのでしょう?』

 

『それって同じ意味じゃ・・・・・・』

 

『いいえ違うわ。使えないから使わないでおくのと、使えるけど怖いからおいておくのとでは全く意味が違う』

 

 その言葉に、俺はズキリと胸が痛むのを自覚する。

 

 そう、そうだ。

 本気でハッピーエンドを目指すのなら、能力でハッピーエンドを想像すれば良い。

 それですべて終わる。

 それこそハッピーエンドだ。

 外側から抑え込まれて形作られた終わりだとしても、幸せに終わったことには変わらない。

 でもそうはしたくなかった。

 だってそれは、人を人とは思わず、ただの創作物として扱う行為のような気がしたからだ。

 そんなこと、Fate世界で数十年過ごしてしまうと、生きた彼らと共に過ごしてしまうと出来なかった。

 確かに俺は神を目指すことになっているのかもしれない。

 でも、それは俺を家族と呼んでくれた皆を、彼女の存在を否定するような気がしてしまうのだ。

 

 たぶん俺は、いつの間にかそう考えていた・・・。

 

 

『難しく考え過ぎよ。脳筋なのに』

 

『・・・・・・いきなりシリアスブレイカーは止めてくれませんかねぇ』

 

『いいえ関係ないわ。だって、あなたの私だもの。何を言っても構わないわ』

 

 その言い方だと、アンジュちゃんは俺のものに成っちゃうわけだけど、多分そのままの意味じゃないよな?

 いやなんでウットリした表情してるのあなた。

 

『・・・・・・コホン、それに想いを形にするあなたがいつまでもグチグチ考えていると、それこそバッドエンドに成りそうじゃない? シリアルの塊みたいなあなたなのだから、さっさと暗いのは蹴飛ばして前に進まなきゃ』

 

 えぇぇ、いやまぁ確かに考えてばっかなのは性に合わないけど、でもそれって根本的な解決策じゃないよね?

 

『だから考え過ぎなのよ。人が神に願うのは、現実的には不可能だからでしょう? けどあなたはそれを現実にしてしまえる。ただそれだけじゃない』

 

『いやそれだけって言われても・・・・・・』

 

 だからってそう簡単に割り切れる物じゃないってば。

 

『割り切る必要がどこにあるのよ。貴方は感情の無いシステムじゃないわ。神を目指すかもしれないけれど、悩んじゃ駄目ってルールは無い』

 

『いやいやいやいや、神様なんだから悩んでちゃ駄目でしょう。悩んでる神様を誰が信仰するのさ』

 

『そんなこと言い出したら他の神話の神はどうなるのよ。結構はっちゃけてるわよ?』

 

 確かにそうですけどもね!?

 北欧神話に始まり各神話それそれが好きにしてる感はありますけどね!?

 いやまぁだからこそ神様ぽい気もするけど・・・・・・。

 

 ・・・・・・んん?

 よく考えれば神様ってそんな感じなのか?

 思う様に力を使って、その結果神として崇められた存在も少なくはない。

 

『そういう事よ。あなたはただ願いを叶えるだけのシステムじゃない。叶えたい願いも、助けたい人も好きなように選べばいい。全部救いたいならば救えば良い。喰って(受け身で)ばかりいる必要は無いの。偶には攻め(想像し)なきゃ!』

 

 今なんか滅茶苦茶な副音声が在ったような気がしたけど、気の所為かな。

 でも、うん、何かスッキリした。

 最近はなんか小さく纏まってた気がする。

 いやまぁ小さいかどうかは微妙に物議を醸し出す気はするけど、でもそれはサーヴァントとしての枠組みの中での活動だ。

 よくよく考えれば、神が神たる所以っていう“想像”に関しては腰が引けてばかりだった。

 まぁ、失敗すると自分で決めながら造っても良い物が出来ないのも上達しないのも当然か。

 だけど、今なら何だかいけそうな気がする。 

 

 あ、でも外の俺は絶賛ピンチなんですよねぇ・・・・・・。

 それだけが心配だ。

 

『どこぞの魔女が言っていたでしょう? あなたはルールが違うと。そしてルールを変えることが出来ると』

 

『いやまぁキャスターさんは確かにそう言っていたけど』

 

『変えちゃえ変えちゃえー』

 

『良いんだそんなノリで!?』

 

『俺がルールだくらいの気持ちで行けば良いのよ。貴方は神を目指すように言われたけども、神のルールに縛られる必要は無いの。あ、流石に悪神に堕ちられると困るけどね?』

 

 そう茶目っ気を含みながら笑うアンジュちゃん。

 思わず俺もつられて笑ってしまう。

 

『っと、そろそろ時間ね』

 

『時間って・・・・・・』

 

 ここに時間と言う概念は存在しないと言っていたのに、アンジュちゃんはそんなことを言いだした。

 しかし、それについて質問しきる前に、自身の異常について感じとる。

 身体が徐々に透け始めたのだ。

 

『ここを維持していたのは私なんだけど、ちょっと力を使い過ぎたわ。私が限界なのよ』

 

 突如眠そうに欠伸をしながらそう告げてきたアンジュちゃん。

 眼もうつらうつらしてきている。

 結構限界なようだ。

 

『だ、大丈夫なのか!?』

 

『だいじょうぶ。ダイジョゥブ・・・・・・。少し休眠してまた力を貯めればいいだけだから・・・・・・。ちょっと色々手を回していたから余計疲れたみたい』

 

『色々って・・・・・・』

 

『まぁ、色々よ。その内分かるわ。はぁあぁぁー・・・・・・、駄目ね。限界だわ』

 

 そうアンジュちゃんが言うや否や、俺も不思議な眠気に襲われる。

 そして目の前がドンドンと真っ暗になり――――、

 

 

 

 

 

 

『貴方は失敗しないでね。見守ってるから・・・・・・』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 再びの、意識が覚醒していく感覚。

 

 

「ぬ、気配が変わった・・・・・・? どういうことじゃ・・・・・・?」

 

 目覚めた意識で拾うことが出来た声は、随分久しぶりに聞く気もするがまさしく妲己の声だ。

 ああ、俺は戻ってきた。

 これで、借りを返せる。

 

 俺は、地についていた手を離し、立ち上がる。

 そこに、さきほどまでの気怠さは無かった。

 

「な、何じゃ!? この一瞬で一体何がっ!?」

 

 俺の変わりように、慌てる妲己。

 先程までは怪しげな威圧感を出していたような気がするが、今となってはそれも俺が思い描いてしまっていた恐怖感でしかないのかもしれない。

 

 とりあえず、だ。

 答えは簡単だよ妲己。

 

 テメェは俺を本気にさせた。

 

 だから、こっからはお前さんが言ってたように、神としての力を使わせてもらうよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「必殺ガチシリーズ、WOG(ワールドオブガーディアン)

 

 

 

 

 

 

 




いかがだったでしょうか?

とりあえず、なんか色々ふっきれた感じの内容になっている気はしますが、まぁ深夜テンションで残り完成させた所為だと思って頂けると嬉しいです。
でもはっちゃけてる方がやっぱりコウジュらしいかな、なんて(目反らし

まぁでもこれでやっと、妲己を好き放題できます(やったぜ

それではまた次話で!


P.S.
何か書くつもりだったのですが何を書くつもりだったのか思い出せないので、また思い出したら追記しているかもしれません。


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