テンプレ…まじで?(リメイクしてみた) ※現在このすば!編    作:onekou

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どうもonekouでございます。

前回はお休みしてしまい申し訳有りません。
その穴埋めというわけではないですが、今回はいつもの倍以上の量となっております。

楽しんで頂ければ幸いです。

ではどうぞ。


『stage19:プリズマ☆コスモス』

 

 

 

 

 イリヤとセイバーが戦闘を開始して既に1時間が経過していた。

 そしていつしか戦いの場は移り変わり近くの公園まで移動している。

 

 

 

「予想外に厄介ですね・・・・・・」

 

「あら、お褒めに与り光栄だわ」

 

 樹に背を預けながらセイバーはそう口にした。

 それにイリヤが軽く返す。

 その声を聞き、セイバーはその場所へと駆けた。

 しかしそこにはもう、イリヤは居ない。

 

 誘われた。

 そうセイバーは認識するも、既に遅い。

 

 この公園は新都における憩いの場として機能する緑豊かな公園だ。

 冬木市は中心を海まで流れる未遠川を境界線に近代的に発展した『新都』と古くからの街並みを残す『深山町』とに分かれている。

 先程まで彼女らが居たのは、新都側の冬木市ハイアットホテルの真下。

 そこは駅からも程近く、冬木で最も高いセンタービルや新都開発に伴って建築されたオフィス街がある。

 そんな中にも自然を残すために作られたのがこの公園だ。

 公園と言っても遊具の類いは少なく、どちらかというと遊歩道としての意味合いが強い。

 そういった背景もあってか、この公園はちょっとした人工林がある。

 

 戦いの最中でそれを見つけたセイバーは、幾本もの銀糸を振るうイリヤの手を封じるためにその中へと入った。

 そしてその目論見は成功であり失敗であった。

 確かにイリヤが振るう銀糸は樹ですら切裂くが、やはりそれなりの質量を切り裂くには時間が掛かる様で、ほんの数瞬でも隙が出来ればセイバーなら避けられる。

 更に言えば樹を切断すると唯でさえ見晴らしがよくないのに、土埃などで視界が塞がれ、しかし空間は出来るため、接近を許したくないイリヤには悪手であった。

 だが、イリヤもそれを悟ってからは戦法を変えてきた。

 

「・・・・・・ふぅ」

 

 セイバーは一度息を吐き出し、精神を再度集中させる。

 イリヤが戦法を変えてからは極度に集中を強いられているため、戦場ではあるが一呼吸が必要となってきていた。

 そしてそれこそが、セイバーがここへイリヤを招き入れたことの失敗である理由に関わる。

 “(トラップ)”。

 言葉にすれば単純な物だが、この林の中でイリヤが仕掛けるソレは確実にセイバーへと牙を剥いていた。

 

 背中を預けていた樹から離れ、剣を構えつつセイバーは再び歩き出す。

 警戒は怠らない。

 辺りは静かなもので、この公園自体が眠りについているかのような錯覚さえセイバーは覚えた。 

 しかしその中へと確実に仕込まれた殺意がある。

 

「っ・・・・・・」

 

 セイバーは一度歩みを止めて、目を細める。

 すると薄らと見える物があった。

 脛の高さで横に一文字、背景に同化するように薄らと線の様なものが見えた。

 当然それは罠だ。

 そこから目を離さずに腰をかがめ、地面に片手を下ろす。

 そして指先の感覚頼りに石を拾い、それを見える線・・・・・・鋼糸へと向けて投げ――――

 

 

 ―――たが鋼糸へと当たらず、その手前に落ちた。

 

 

 そのことに眉を顰めるが、その瞬間セイバーへと嫌な予感が走り、直感の言うままに後方へと飛び退った。

 そしてそれとほぼ同時に、石が落ちたあたりがガキンと甲高い音と共に氷漬けになり氷塊が出来上がる。

 さらに追い打ちで、鋼糸で出来た剣がその氷塊へと幾本も迫った。

 もしも気付かずに歩を進めていたならば、鋼糸のみに気を取られていたならば、今目の前の氷塊に包まれ串刺しになっていたのはセイバーだったかもしれない。

 

「・・・・・・やはり」

 

 冷静にそう口にしたセイバーは、再び歩を進めた。

 鋼糸を狙っていたが無意識に直感が働き、その手前の地面へと石を落してしまった・・・・・・等と頭の中で誰にとも使わない言い訳をし、セイバーはイリヤの場所を探る。

 

 しかし、先程からセイバーの歩みはそれほど進んでいなかった。

 その理由は当然、この林に仕掛けられた罠の所為である。

 地面、木々の間、空中と、屋外にも拘らずイリヤが仕掛けたトラップは数多の手段でセイバーを襲う。

 それもただの罠ではなく、巧妙に人間の心理をついた物ばかりだ。

 ただ剣を交わすのではなく、こういったものをあまり好まないセイバーとしては、その巧妙な手段に予想以上に精神を削られていた。

 

「やり辛いにも程がありますね」

 

 思わず零れたその言葉。

 誰かに対して言ったものでは無かったが、それへと返答が帰って来た。

 

「魔術師本来の陣地構築は苦手だけれど、こういう戦略的なものは比較的好きなのよね」

 

 背後から聞こえたその声に、セイバーはすぐさま振り向いた。

 そこには、木々の間、空中へと静かに立つイリヤの姿があった。

 セイバーは浮遊魔術かと考えるがすぐに違うと分かる。

 魔術であるならばそれを成り立たせるための魔力が感じられる筈なのだ。

 そこで目を凝らせば、イリヤの立つ場所に極細の鋼糸があるのが見えた。

 イリヤは魔術を使うのではなく、ただの技術を以てして鋼糸の上に立っているのだ。

 見えぬほどに細い鋼糸の上に立つなど、そう易々と出来る芸当では当然ない。

 厄介だ、とセイバーは改めて考える。

 魔術師であるならば懐に入り切り捨てればいい。

 しかしイリヤの場合、魔術に頼り切りというわけではなくあくまでも手段の一つと捉えて行使している。

 経験に裏打ちされた確かな技術がそこにはあった。

 そして厄介なのが、その魔術ではない技術による攻撃だ。

 セイバーにとって面と向かっての近接戦ならば得意分野であるが、こういった遭遇戦というのは苦手でなくとも二の足は踏んでしまう。

 そんな中で、魔力すら感じられない攻撃というのは厄介極まりない。

 先程セイバーが運よく発動させて難を逃れた凍らせるトラップもそうだ。

 アレはコウジュからイリヤが貰ったものなのだが、あれも魔力が感じられなかった為、セイバーの認識の外であった。

 更に言えば、先程から森の中とはいえ容易くセイバーの捕捉を逃れ続けた移動法、それも鋼糸を見て見当が付いた。

 そしてそのセイバーの予想は当たっていた。

 鋼糸を利用した移動法、鋼糸を引き寄せたりそのまま足場として利用したりとすることで、イリヤは暗殺者の如く移動していた。

 それもまた、生半な修練で到達できるものではない。

 全ては、イリヤが彼女(・・)に恩を返す為であり、少しでも手伝うための物。

 だからイリヤは躊躇わない。

 魔術だろうと近代兵器だろうと使える物は使い、ただ後悔だけはしないようにする為の準備を行ってきた。

 イリヤは、彼女の前で諦める姿を見せたくなかったからだ。

 

 

 

 

「インストール」

 

 

 

 イリヤは静かに呟く。

 それに伴っての大きな変化は無い。

 ただ、イリヤの服装が変わった。

 先程までの紅い外套を羽織ったものではなく、どこか神聖さを感じさせる羽衣を纏ったような姿であった。

 だがそれを、セイバーはそのまま受け取ることは出来なかった。

 むしろ、それだけ目の前のイリヤが格段に脅威度を上げていることに内心驚愕する。

 とはいえそれを表に出す訳もなく、静かにその正体について言及した。

 

「魔術兵装・・・・・・ですか・・・」

 

「ええ、天の(ドレス)というものを改造したものよ。あなた相手に手加減なんてしていられないしね」

 

 そう言いながら、イリヤは地へと降り立った。

 そしてセイバーへと、余裕のある笑みを向ける。

 

 イリヤの姿は純白のドレスと日本の巫女服が混ざったような見慣れない服装へと変わっていた。

 しかしそれが伊達や酔狂で着ているものではないのは対面すればすぐにでも分かることであった。

 正確にはそれを着ているイリヤの存在感が数割増しとなっているのだ。

 

 天の衣、それは本来であれば聖杯としての機能を組み込まれたホムンクルスを、更に完成系(聖杯)へと近づけるための外部装置である魔術兵装だ。

 アインツベルンに伝えられてきたもので、純白のドレスであるがその材質は黄金であり、魂を支配するとされる指輪を組み込み、聖杯に焼べるサーヴァントの魂を導く機能も備えられている。

 しかしその扱いには慎重を要し、人間が触れば忽ち唯の黄金へと姿を変えてしまう。

 アインツベルンではそれを扱う為のホムンクルスを別に用意して対処していたが、そうしてでも扱う必要があり、アインツベルンの悲願成就には欠かせない物である。

 そしてこれを、小聖杯である存在が着ることで、本命の大聖杯の制御が可能となる。

 

 当然それは聖杯が完成した暁の話であって、例えば聖杯戦争が行われていない時に着たところで意味はない。

 意味はないが、意味があるようにしたのが今のイリヤが着るモノだ。

 

「陣地作成!!」

 

 イリヤがそう叫ぶと同時、彼女は自身とセイバーを囲うようにして銀糸を周囲へ飛ばした。

 セイバーはその様子に、いつ何が来ても良い様にと剣を持つ手を握りしめる。

 この隙にイリヤを狙うことも考えたが、周囲に飛ばされた銀糸以上に、イリヤに近づくことを直感スキルが警鐘を鳴らしていた。

 何を行っているのか、みるみるうちにイリヤの存在感が増す。

 まるで湧き出る泉の様に、止まる気配さえなくその厚みを増していく。

 それを感じ、直感スキルは同時に今すぐイリヤを斬らなければいけないと声ならぬ声を上げていた。

 数瞬の黙考。

 そしてセイバーは準備が整う前に斬ることを選んだ。

 

 地を一息に蹴り、自身にとっての最大の初速を得て近づく。

 既に剣は振り上げられている。 

 目標は目前だ。

 後はこれを振り下ろすだけ。

 

 だが―――、

 

「馬鹿な!?」

 

「ふふ、聖剣で斬れなくなったのが不思議かしら?」

 

 セイバーから驚愕の声が上がり、イリヤはそれに笑みを返す。

 ギチギチと音が鳴るほどにセイバーは剣へと力を込めるが、斬れる気配はない。

 剣として編まれてすらいない数本の銀糸、それがイリヤの両指の間に幾本かあり、その心許ない銀糸がセイバーの剣をしっかりと受け止めているのだ。

 セイバーは更に、内包する魔力を放出する形で剣に込める。

 しかしそれも、セイバーが行うと同時にイリヤから吹き出た魔力が銀糸とイリヤを無理矢理に強化して無意味となる。

 

 セイバーはこの鍔競り合いに意味はないと剣で弾きながら後方へと下がる。

 

「Aランク・・・・・・いえ、それ以上の魔力放出です。そんな物を続けていては直ぐに魔力が枯渇してしまう」

 

 魔力放出とは文字通り、瞬間的に魔力放出をする事によって身体能力や武器の性能を向上させることだ。

 それはさながらジェット噴射のようなものであり、瞬発力は計り知れない。

 実際にスキルとしてそれを持つセイバーは、見た目は小柄な少女であるにも拘らずこのスキルがある事で彼の大英雄ヘラクレスとも真正面から剣を交わすことが可能となる。

 しかしそれをAランクで持つセイバーを以てしてもイリヤの防御を貫くことはできなかった。

 

 その理由もまた、イリヤの魔力放出によるものであった。

 

 それを看破したセイバーは、自身もそのスキルを持っているからこそそれに気づけた。

 だが気づけたとはいえ不可解で仕方がなかった。

 何故なら、魔力放出というものは本来燃費が悪い物なのだ。

 それをセイバーが実戦レベルで扱えているのは、元来の魔力内包量とそれを効率的に状況に合わせて運用できる類い稀なセンスを持っているからに他ならない。

 魔力放出スキルというのは、バケツに貯められた水を少しずつ運用するのではなく、思い切り傾けて中身を一気に流れ出させるスキルでしかないのだ。

 だから、魔力の総容量が変わらない以上、魔力放出を続けるというのは愚行であり、死期を速めるだけに過ぎないのだ。

 しかし、イリヤはセイバーが切り掛かる際もその後も蛇口から勢いよく水を垂れ流すように魔力放出を続けていた。

 いや、今もそれは続いている。

 なのにそれが枯渇する様子は全く見えなかった。

 

 そう思って零れた疑問であったが、丁寧にもイリヤは答えた。

 

「普通ならね。けれど、そうでないのは分かるわよね?」

 

「嫌なことによく分かります。溢れ出る泉の如く魔力が溢れている。それも衰える様子を見せない程の」

 

「ええ、今の私に魔力の枯渇というものは無いの。それがコレ(・・)が起こす奇跡」

 

 イリヤは、言うと同時にセイバーへと駆けだした。

 横に出された両の手には、銀糸で編まれた2本のレイピアがある。

 見るからに聖剣と打ち合うには心許ない細さだ。

 だがセイバーは油断など出来ようはずも無かった。

 その見た目に反して、レイピアからは目に見えそうなほど濃厚な魔力が滲みだしているからだ。

 

「はぁっ!!!!」

 

「っせやぁ!!!!」

 

 先程までよりも尚の事キャスターらしい様相となったイリヤもまた、その見た目に反して驚くほどの速さでセイバーへと肉薄した。

 

 イリヤが右のレイピアを突き出す。

 それをセイバーが下から打ち上げる形で弾こうと逆袈裟に剣を振り上げる。

 

「ぐぅっ!?」

 

 しかし、その細身の剣は岩に向かって斬り掛かったかの如く重い物であった。

 正確には、それだけイリヤが魔力放出によって圧倒的な怪力を生み出しているということだろう。

 力を籠めるという過程すら必要とせず、ただ威力としてその剣撃を生み出していた。

 

 セイバーは予想を超えるその重たさに、魔力放出によって瞬間的に腕の力を増やしイリヤの突きを弾く。

 だがイリヤが持つレイピアは2本。

 既に左の一撃が振り上げる形で迫っていた。

 

 セイバーは冷静に、迫るレイピアを避けるために一歩踏み出す。

 レイピアとは本来斬ることには向いていない。

 それはレイピアが刺突用の片手剣であることと、その細身の刀身故に斬る為に薙ぐということに向いていないからだ。

 とはいえ今のイリヤは継続的な魔力放出によって身体能力が驚くほど向上している。

 セイバーはそのままを良しとせず、柄頭でレイピアを持つイリヤの手を打った。

 

「っつぅ!?」

 

「はっ!!!」

 

 セイバーはイリヤの手を打った勢いのままに身体ごと回転させることで剣を振るい、イリヤの首へと横一閃。

 だがイリヤもそれをそう易々と受けたりはしない。

 イリヤがニヤリと笑みを浮かべる。

 それが視界に入り嫌な予感がセイバーへと走る。

 だが既に、剣は振るわれてしまっている。

 

「チェック」

 

 イリヤが静かにそう告げる。

 瞬間、セイバーの剣がイリヤの首に届く寸前で止まった。

 セイバーが見ればその糸はイリヤが持っていた両の手のレイピアへと伸びている。

 

 セイバーが弾いたはずのレイピア、それが解けて更にセイバーの見えぬ聖剣を腕ごと絡めとる。 

 セイバーはすぐさま剣を引き抜こうとするも、魔力による重度の強化が行われている銀糸は千切れる様子を見せない。

 当然その隙を逃すわけもなく、イリヤは自身の周囲に銀糸剣を多数産みだした。

 そしてそれが、射出される。

 

 

風王鉄槌(ストライク・エア)!」

 

 

 瞬間、吹き荒れる風。

 局地的な嵐と言えなくもないその暴風は、セイバーの聖剣を隠す第二の鞘だ。

 超圧縮された風を剣に纏わせることで光の屈折率を操り刀身をみえなくしていた。

 その一部を解放し、迫るイリヤを自分ごと暴風で叩き付けた。

 

 吹き飛ばされるイリヤとセイバー。

 しかしそこは英雄、危なげなく二人は地へと降り立つ。

 

「っ・・・・・・。ふぅ、流石に痛いわね・・・・・・」

 

「それほどの強化、そして先程の戦法。貴方は死ぬつもりなのですか?」

 

 地に足を付け体勢を立て直したイリヤは、眉根を寄せながらそう口にした。

 そしてそんな彼女を見て、セイバーは声を掛けずにはいられなかった。

 

 今セイバーと交わした剣の数、その実3合。

 たったの3合だ。

 だがその3合ですら、イリヤの身体は見るからにボロボロとなっていた。

 しかもそれは表面的なものではなく、内的要因によるものだと見て取れた。

 不思議なことに衣服への損傷は全く無い。

 だがそれに反して、身体の内出血痕や外傷があまりに多い。

 今のイリヤはセイバーが攻撃した場所以外にも内出血痕が出来ており、口の端からは血が流れ出ているのだ。動きからしても、見えぬ以上のダメージを受けているのは明白であった。

 つまりは魔術礼装にイリヤの身体が追い付いていなかったということ。

 更にそこへ、自分ごとセイバーを銀糸剣で囲み貫こうとした戦術。

 それ自体はセイバーの風王鉄槌により吹き散らされはしたが、それでも身体の各部へ掠った銀糸剣は主を切り裂き、切傷が出来ていた。

 

 問題はそれらを厭うこともせずに、更に一歩踏み出してくるイリヤの在り方だ。

 生存を最優先とせず、目的の為に自身の安全を二の次にし、力づくで勝利を優先しようとする考え。

 戦士にとっては時にはリスクを取って勝利へと向かう気概も必要であろう。

 しかし今のイリヤの戦法は、そもそもが自身の身体への影響を考慮してはいないものだ。

 そしてこの在り方には見覚えがあり、そして身にも染みて(・・・・・・)知っている。

 

「・・・・・・別に、そんなつもりはないわ。だって、私は勝つつもりだもの」

 

 セイバーの問いに、イリヤは息を切らせながらも軽く返しながら魔術を行使する。 

 正確には魔術というには語弊があるものだ。

 魔力を無理やりに“回復”という答えに沿う様に使用しているだけ。

 しかしそれでも効果は歴然、見えていなかったものを含めてイリヤの身体にあったダメージは掻き消えた。

 

 それを見て、セイバーは嫌な予想が当たってしまったと苦虫を噛み潰したような表情をする。 

 自身の身体を度外視した戦法、それはつまり、無視しても良い理由があるということに他ならない。

 

 とはいえそれは、例えそうであっても容易に取ろうと思える手段ではない筈なのだ。

 治ると分かっていても、生きている以上は自身が死に近づくことを容易く許容できるものではない。

 死なないのだとしても死にたくなるほどの痛みが消える訳ではないのだ。

 それを行えるのは、乗り越えるだけの目的や硬い意志があって初めて行えるもの。

 “肉を切らせて骨を断つ”という諺もあるが、これは所謂カウンタ―的な意味合いだ。

 しかし、これでは、死を忌避する人としての在り方を掛け金にするようなもの。

 

 それを知っているセイバーは、イリヤへと問うた。

 

 

「魔力放出に回復、強化、どれもが一級品です。ですがあなたのその使い方は死を顧みない亡者の在り方だ」

 

「・・・・・・」

 

「失礼しました。別に貶している訳ではないのです」

 

 セイバーの言葉にイリヤが目を鋭くしたのを見てすかさず訂正する。

 実際にセイバーはその在り方を否定したわけではない。

 むしろセイバー自身が驚異的な再生能力というものに並々ならぬ縁がある。

 だが、いやだからこそ、自らその在り方へと進むイリヤが気になってしまった。

 

 セイバーは王であった。

 人ではなく、王であろうとした。

 だからこそ、自身にどれだけの痛みや疲労がのしかかろうとも、“鞘”のお蔭で歳も取らず不死となることを許容し、それを利用して最前線に立った。

 そうでもしなければ、王としてブリテンを守り続けることが出来ないと考えたからだ。

 だがイリヤは違う。

 イリヤは以前にセイバーの前で自身の願いを叶えるために第4次聖杯戦争へ参加したと言っていた。

 願いの重さが等というつもりはない。

 唯の疑問だ。

 なぜそれほどまでに“人”としての在り方すら犠牲にして願いを叶えようとするのか。

 それがセイバーにはわからなかった。

 イリヤの口ぶりからして、何かを背負うような責任感や義務感からそうしているわけでは無さそうだ。

 ならば何のために?

 

 そこまでは流石にセイバーも口にはしなかった。

 しかしイリヤにはそんな疑問が見て取れたのだろう。

 静かに話し出した。

 

「・・・・・・確かにこれ(・・)は使うべきじゃないって言われているわ。理論的には負けることは無くなるもの。そういう風に作ったから。この魔術兵装(ドレス)は私の本質を、小聖杯としての機能を底上げして聖杯としての在り方を固定するもの。元より人から外れるのは分かってる」

 

「小聖杯・・・・・・切嗣の言っていた通りなのですね」

 

 セイバーが切嗣から取引を持ちかけられた際、それについても聞いていた。

 アインツベルン陣営が行っている非道な行い、アイリやイリヤの正体、そして聖杯を得る方法。

 しかしだからこそ余計に疑問であった。

 イリヤの言葉が本当であるならば、前線へと出てくるメリットが無いのだ。

 穴倉を決め込み、漁夫の利を狙い、最悪コウジュさえ戦闘をしていれば聖杯を得ることができる。

 セイバーが切嗣から聞いたように、聖杯に焼べられる敗退した英霊自体が聖杯を満たすと言うならば、それこそ形振り構わず勝利を目指すならば積極的に聖杯戦争へと介入する利点が少なすぎる。

 だがそうではないのは、今目の前に居るイリヤが証明してくれている。

 

「そう、切嗣からそこまで聞いているのね。それは喜ばしいわ。でもだからこそ疑問が出来たという顔よね」

 

「ええ。貴方がこうまでして前線へと出てくる理由が分からない」

 

「確かに、この聖杯戦争で勝たなくても聖杯は手に入る。だけどそれでは意味が無いの。聖杯があっても、それを満たすだけの魔力を供給できようとも、私達が勝って終わらせなければ意味が無いのよ」

 

 決意を込めた瞳でそう口にするイリヤ。

 しかしそれは、セイバーにとっておかしな話であった。

 切嗣から聞かされた聖杯戦争の正体。そのどちらにも該当しないのだ。

 

 聖杯戦争の正体には、表向きのものであり実質的には副次効果でしかないものと、聖杯戦争というものを御三家が組み上げた本来の理由がある。

 表向きの聖杯戦争は、自分以外の6騎を蹴落とし聖杯に焼べ、その捧げられた英霊の魂という豊潤な燃料(魔力)で願いを叶えるというもの。

 この場合はおおよそ全ての願いを叶えるほどの魔力が聖杯の中に満ちるというだけで、実質的には伝承上の聖杯そのものではないため、不可能も存在する。

 そしてその裏にある本当の存在理由は、残ったマスターが自身のサーヴァントすらも聖杯に捧げ、その捧げられたサーヴァントたちを一気に解放することで「 」への穴を開き、それを固定することで至るという魔術師の本懐を満たすだけの理由。

 

 そう、どちらも結局的な目的は聖杯なのだ。

 聖杯をどう使うかの問題でしかない。

 しかしイリヤの言う通りであるならば、聖杯は既にイリヤ達の手元に在る。

 聖杯問答の際、コウジュは自身の目的を『過去の改竄』『生き返らせたい人が居る』と口にしていた。

 しかしこの場合であっても、聖杯を使えば良いだけの話だ。

 聖杯を使って過去へ遡ってきたとした場合、その過去への到来だけで聖杯を失ってしまったならばまだわかる。

 この時代に助けたい人物が居るというならば、確かに関わる必要もあるだろう。

 だが、過去に遡った上に、更に新たな聖杯が自身のもとに在るというのに、聖杯を失ってしまうリスクを無視してでも前へと出る必要性は考えられない。

 これではまるで、"勝つこと”そのものが目的であるかのようだ。

 

 その予想はセイバーの直感的思考の末のものであった。

 しかしセイバーはその可能性を思考から省いてしまう。

 何せそれでは"手段"と"結果”が逆になってしまう。

 聖杯戦争はあくまでも"勝利”することで"聖杯”を得るためのものなのだ。

 "勝利"するために”聖杯”を使うなど矛盾も甚だしい。

 

 だが、それこそが正解なのであった。

 

「ごめんなさいセイバー。これ以上は今の(・・)あなたには言えないわ。真に聖杯を求めるあなたにはね。けれどあえて言うならば、勝利すると言う事実が私たちは欲しいの。その為にはこの身体を使い潰すのだって厭わない」

 

 イリヤは口にはしなかったが、実のところ聖杯を完成させるだけならばいつでもできる。

 小聖杯はイリヤの中に在り、大聖杯すら在処を知っている。中身となる魔力ならコウジュが用意することができる。

 だがそうではない。

 それだけでは意味が無いのだ。

 コウジュ達がやらなければいけないのは、目的の為に達成しなければいけないのは、2回目の第4次聖杯戦争(・・・・・・・・・・・)に勝って(・・・・)聖杯を手に入れる(・・・・・・・・)こと。

 

 その為にイリヤは天の衣を改造したコレを使用している。

 それは一つの覚悟だ。

 今の身体が偽りの物だと言うのもあるが、感じる痛みは本物であり、その記憶は残り続ける。

 それでもイリヤは自身が好きなあの子(・・・)の為に、そして自らの為にも、『願い』を叶えると決めたのだ。

 下手をすれば人類悪と成り得るかもしれない。守護者が排除しに来るかもしれない。

 それでも、叶えたかった。

 彼女が用意してくれたハッピーエンドを見たいと思ってしまった。

 だから、多少の痛みなどくれてやる。

 だから、有り余る魔力に圧迫されようとも自身における最強の兵装を使う。

 だから、コウジュから使わない方が良いと言われた最後の一手を、使う。

 

 元々はイリヤの生存能力を向上させるための兵装でしかなかった。 

 しかし、魔女メディアと共に作り出したそのドレスは、想定以上に強力になってしまった。

 魔力がある限り、その装者をどのような状況であっても生かし続けてしまう。

 本人が望まぬ限り、ほぼ死ぬことが無くなるのだ。

 流石に兵装諸共に消し飛ばされてしまえばどうしようもないが、そうはならない様にイリヤ自身の戦闘能力も上がっている。

 こう言ってしまえばむしろ使うべき兵装に聞こえるが、普段から使うにはデメリットが大きすぎる。

 これは、使えば使っただけ装者へと牙すら剥き、そしてそれを治したうえで力を与え生かし続ける欠陥品と言っても良いのだ。

 人間の身体では流れ込む魔力量に耐えられず魔術回路はズタズタになり、けれどその魔力がすぐさま癒すため破壊と回復を続ける。

 その度に走る激痛はそう耐えられたものではない。

 故にコウジュとメディアは出来る限り使わない方が良いと言い渡した。

 今に関して言えば、人形を基にした仮初の肉体であり、サーヴァントとして顕現しているため魔力に対する親和性は上がっている。

 それでも、走る激痛はそう耐えられたものではない。

 

 そんな天の衣・改を、イリヤは今まさに纏っている。

 

 

「これは、疑似的にあの子の在り方を模したものよ。圧倒的な魔力で強化・防御・治癒を行う魔術兵装。そこに無限とも言える魔力を供給する魔術礼装。そしてそれらの受け皿となり得る聖杯。それら全てを運用するこの術式。それこそが私のとっておき。私が望まない限り、只管に私を生かし続け、強化し続ける。だから、あなたが亡者というのも分からないではないわ。死んでいるからこそ死を恐れない亡者と死ぬことが無いから死を恐れない私。確かに似た様なものよね・・・・・・。けれど―――」

 

 イリヤは自嘲するようにそう口にする。

 先程セイバーが亡者のようだと口にした際、セイバー自身が言ったように貶している訳ではないと分かっていても、コウジュの在り方が否定されたようで嫌だった。

 でもイリヤだって分かっている。

 それは何処まで行っても狂戦士の在り方だ。

 まともな感性ではそうは在れない。

 そんなことは長年傍に居たイリヤには分かっている。

 それでも、本来なら踏み止まるところを踏み出し、最後には掴み取ってしまうようなそんな生き方に、魅せられてしまったのだ。

 死ぬことを産まれた時から定められ、何の希望も無く生きていたイリヤからしてみれば、これほど鮮烈な物も無かった。

 

 そんな思いを、イリヤは形にする。

 

 

 

「―――だけれど偶には、私だってあの子みたいにただ我武者羅に夢を追いかけたい!!!!」

 

 

 

 イリヤがそう口にしたと同時、身体の周りに幾本もの銀糸によって編まれた剣が舞う様に顕現する。

 

「行って!!」

 

 イリヤの号に合わせてそれらはセイバーへと剣先を向け、射出された。

 

「っはぁ!!」

 

 セイバーはそれらを巧みに捌き、しかし先ほどの様に絡めとられてはかなわない為、細心の注意をしつつ斬るのではなく受け流すように弾いていく。

 そのあまりの物量に、セイバーも近づけない。

 先程までとは違い、イリヤの身の内から溢れ出る魔力に比例して、剣弾の量も増えている。

 しかも弾いた剣弾は、周囲の木に突き刺さるどころか大木とまではいかなくともそれなりに太い幹を物ともせず切断していく。

 その威力に、セイバーは思わず冷や汗を掻く。

 

「まだまだよ!! エッジブレイザー!!!!」

 

 イリヤがその両手(・・)に対ギルガメッシュ戦で用いた長銃(ライフル)を召喚する。

 長い銃身に、更にその銃口下には巨大な銃剣が備え付けられたライフル。

 本来ならば両手で運用しなければ銃口がぶれて仕方がない。

 だが、今のイリヤは強化によってその程度の重量は無視できる。

 無理矢理な強化に激痛が走るが、それも続けて発動する治癒ですぐさま消え去る。

 

 それを確認すると同時に、イリヤは両の引き金を引く。

 

「っ!!?」

 

 直感に従い、セイバーは反らすこともせず身を反らしてエッジブレイザーより射出された剣を避けた。

 直後、セイバーの後方で切断音が幾つも重なり、次いで木々が倒れ始めた。

 その威力に、つい口が引きつる。

 

「ふふ、言ったでしょう“陣地作成”だって。本来の魔術師みたいに工房を作るのは苦手だけれど、私は聖杯だからその場所が私にとっての陣地になるの。私こそが大地から吸い上げる魔力の受け皿なんだもの。だから、弾は無限よ!!」

 

 言うや否や、イリヤは再び引き金を引いた。

 しかもそれだけでなく、イリヤの周囲には銀糸剣が浮かび上がるなりすぐさま射出されていく。

 

 セイバーは一旦迎撃を止めて、周囲の木の陰に隠れるようにして回避を選択する。

 当然ながら樹ではイリヤの剣弾を防ぎきれず、セイバーが寸前まで居た樹は無残にも切断され、斬り倒されていく。

 

「貴方までバーサーカーにならずとも良いだろうに!!」

 

「あら、案外悪くないものよ?」

 

 思わずセイバーがそう吐き捨てるが、イリヤからすればコウジュみたいだと言われているようでそれほど悪い気はしなかった。

 そしてそう言い合う間にも、イリヤの周囲の樹は伐採されていく。

 

 気づけば、イリヤを中心にちょっとした広場が出来上がっていた。

 倒された木々も倒れきる前からイリヤの剣弾によって細かく剪断され、切断され、まるで嵐が過ぎ去った後の様になっている。

 

「随分と見晴らしがよくなってしまったわね」

 

 少しやり過ぎかしら、とイリヤは思うも、どうせ聖堂教会・・・・・・今回に至っては言峰親子が割を食うだけだろうしと無視することにした。

 

 

「っぜぁ!!」

 

「言ったでしょう。陣地だって」

 

「くっ!?」

 

 イリヤが言葉を零している間にも後方から迫っていたセイバーがイリヤへと唐竹に剣を下ろさんとする。

 しかしイリヤは振り向くことなく、手に持つエッジブレイザーを頭の上に掲げ、それを防いだ。

 ビキリとイリヤの腕が異音を発する。

 それに合わせてイリヤが痛みを堪えるために眉を顰める。

 それに気付いたセイバーは、剣に込めていた力を一瞬抜いた。

 

「っと・・・・・・?」

 

「ぜやぁっ!!」

 

 力が余ってしまったイリヤは勢い余って手をエクスカリバーごと上へと持ち上げ、そのまま少し体勢が崩れる。

 セイバーはイリヤの体勢が崩れたのを見て、一度剣を引いて再度横腹へと剣を薙ぐ。

 

「防いで!」

 

 イリヤの周囲を漂っていた銀糸がイリヤのドレスへと巻き付く。

 しかし構わない、とセイバーは力の限り振り切った。

 

「はぁっ!!!!」

 

「んぐぅううううう!!?」

 

 吹き飛んでいくイリヤ。

 流石に尋常ではない痛みなのか、表情が苦汁に染まる。

 痛みのあまり気が飛びそうになる。

 だがその痛みの所為ですぐさま意識が起き上がらさせられる。

 しかし気を失っている場合ではない。

 すぐさま治癒を行う。

 一応、刃はイリヤのドレスを切り裂くことは無かった。

 だがセイバーはそのまま魔力放出までしてイリヤの胴へと剣を叩き付けたようで、肋骨、内臓、脊椎までもが完全に砕かれていた。

 それも治癒によって治っていく。

 ただし、急激な再生に伴い、死にたくなるほどの痛みを発生させながらだ。

 

 治癒を完了させたとき、随分と飛ばされたようで切り払われた木々のその先の木が目前に迫っていた。

 イリヤは身を翻し、樹の側面へと着地するように足を付けた。

 

 そこへセイバーが迫る。

 

 

「終わりです!」

 

「させないわ!!」

 

 剣を横に構え、既に迫っていたセイバー。

 だがそれはイリヤも知覚していた。

 

 イリヤはエッジブレイザーを片方セイバーへと投げつける。

 セイバーはそれを軽く身を反ることで避けた。

 それでも刹那といえど時間は稼げた。

 イリヤは迎撃するために、足場にしていた樹を思い切り蹴り、セイバーへと飛ぶ。

 

剣よ(ゲーデン)!!」

 

 飛びながらもイリヤは残るエッジブレイザーをセイバーへと向け、引き金を引いた。

 既に間近であったため、流石のセイバーも慌ててスライディングするように身を屈めて避ける。

 その上を行くようにイリヤの身体が宙を滑る。

 だがそのまま過ぎ去ることはせず、イリヤはエッジブレイザーを地へと突きたてる様に、真下のセイバーめがけて振り下ろした。

 

「この!!!」

 

「っ!!」

 

 セイバーはそれを見て、腕を地に叩き付けて横飛びに転がるようにして避ける。

 イリヤはセイバーに避けられた加減で地に刺さったエッジブレイザーがブレーキとなって急制動が掛けられ、地へと降り立った。

 そしてそのままエッジブレイザーを起点に身体を回してセイバーへと身体を向け、勢いのままに地面から抜いて地を蹴る。

 

 飛ぶようにして起きるセイバー。

 その時には既にイリヤはエッジブレイザーを横薙ぎに振るっていた。

 流石に避けられない間合いであった。

 体制も崩れているため、鍔競合うにも踏ん張ることは出来ないだろう。

 

「これで私の勝ちよ!!」

 

 イリヤが勝利を確信した声を上げる。

 

 それを見るやセイバーは―――、

 

 

 

 

 

 

 

 剣を持たぬ手を、前へと突きだした。

 

 

 

 

 

 

 

全て遠き理想郷(アヴァロン)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん、っぐ、そっか、やっぱり持ってたか・・・・・・コホッ・・・・」

 

 聖剣に腹を貫かれたイリヤは、口から溢れ出る血を堪えきれず、セイバーの肩口に掛けてしまう。

 今、イリヤはセイバーに貫かれるままに、もたれ掛かるように身体を預けていた。

 セイバーのエクスカリバーは、イリヤの腹を突き破り、更には背骨を両断して背へと刃を出していた。

 英霊とてその骨子は人だ。

 幾ら回復力に優れていても、背骨が断ち切られればそこから下へと続くはずの神経系も絶たれ、立つことさえできなくなる。

 気合でどうこうできる問題じゃなかった。

 そう身体は出来ているのだ。 

 

 セイバーはそれを狙ってやったわけではない。

 しかし、身体を貫かれれば流石に動きを封じることができると思いそうした。

 

 全て遠き理想郷(アヴァロン)、それは失われたはずの騎士王の鞘。

 持ち主に不老不死と無限の治癒能力をもたらす宝具。

 そして一度真名解放をすれば、妖精郷に使用者を隔離してあらゆる攻撃・能力・交信を遮断する。

 実質的なこの世界最強の守りである。

 

 それを、セイバーはイリヤに貫かれる瞬間に展開した。

 

「切嗣は、これを基に私を召喚したそうです」

 

 イリヤを繋ぎ止めながら、悔恨するような表情でそう口にした。

 

 そう、この鞘は本来であれば伝承通りに盗み出され、セイバーは持っていない筈であった。

 しかし巡り巡って、この世に名高き騎士王を召喚する為の触媒としてアインツベルン家に渡ったそれを使って切嗣はセイバーを召喚()んだ。

 そしてそれはセイバーに伝えないままに、鞘自体は切嗣が隠していた。

 隠していた場所は、アイリスフィールの体内だ。

 ただ、それはアイリスフィールを物として扱い、只の隠し場所として利用したわけではない。

 聖杯の鞘を持つ物は、騎士王が近くに居ればセイバーの魔力に反応して癒しを齎す。

 聖杯の器としては勿論、アイリスフィールを守るための手段として、持ち主に返さずアイリスフィールの中へと隠していた。

 

 だが、コウジュ達の画策により敵サーヴァントは減り、更に言えば本来アイリスフィールへと流れ込みその魂を圧迫し傷つけるはずであったサーヴァント達の魂や還元された魔力は、アイリスフィールへと流れ込まずにどこか(・・・)へと流れ込んでいた。

 そこで切嗣は考えた。

 取引の材料として、切嗣は鞘と、勝つための手段をセイバーへと持ち掛けた。

 そしてその見返りに、切嗣は―――――

 

 

「よくやった、セイバー」

 

「マスター・・・・・・」

 

「・・・・・・切、嗣」

 

 二人が声のした方を見れば、そこには走ってきたのであろう切嗣が、息を切らせてそこに居た。

 

「ふ、ふふ・・・・・・息、切れてるじゃない・・・。煙草の、所為じゃない・・・・・・?」

 

 途切れ途切れに、イリヤがそう口にする。

 それを見て、切嗣もまた悔やむように目を細めた。

 しかしこれは彼が望んで作り上げた状況だ。

 

 “イリヤのとどめだけは僕にさせてほしい”

 

 それを切嗣は取引の材料にしたのだ。

 そしてその最後を自身の手で行う為に、切嗣は駆けつけた。

 

 イリヤは、事ここに至っては抵抗する気はないのか、只穏やかに笑みを浮かべていた。

 そんなイリヤへと切嗣は静かに近づく。

 

「僕の、勝ちだ」

 

「・・・・・・。はぁ、まったく、考え得る限り、一番嫌な手を持って来たわね・・・・・・」

 

「大人は、ズルいものだからね」

 

 切嗣は、イリヤの背後へと回り、背中側からイリヤの心臓の辺りへと手を置いた。

 

「聖杯を抜けば、イリヤはこのまま還ることになるんだね?」

 

「ええ、流石にそれが無ければ私は霊基を保てないわ。私の切り札は、結局そこ頼りだもの」

 

 その言葉を聞き、切嗣は暫く逡巡する。

 事ここに至っても、切嗣は踏み切れなかった。

 犠牲にするのが妻から娘に変わっただけだ。

 最愛の存在をその手に掛けるのには変わらない。

 それどころか、目の前のイリヤは未来のイリヤで、ifの存在でしかないのかもしれないのだ。

 それでも、切嗣は、優しすぎる魔術師殺しは、躊躇わずにはいられなかった。

 

「マスター・・・・・・」

 

「・・・・・・分かっている!」

 

 セイバーも、そんな切嗣へと心配気に声を掛けた。

 子の命を奪わなければならない複雑な感情はセイバーとて分かるつもりだ。

 セイバーの場合は、自身の感情よりも王としての責務を優先したために、踏みだせた。

 しかし彼は、何処まで行っても親だったのだ。

 それをここに至って、セイバーは理解した。

 あの雪の世界の中で、目の前のイリヤとは違うイリヤと楽し気に遊ぶ彼が、本物だったのだ。

 

 そんなセイバーへと、心中で渦巻く複雑な感情をぶつける様に声を荒げてしまう。

 唯の八つ当たりだ。

 最後の一手を踏み出せない自分こそが、悪いのだ。

 この状況は自分から持ち掛けた取引の結果じゃないか。

 せめて以後は自分の手で、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱり、切嗣は私の知ってる切嗣だった」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ!?」

 

 突如、イリヤが言葉を発した。

 そしてその瞬間、切嗣の手の甲に、丁度令呪が存在する場所に鋭い痛みが走った。

 

 切嗣がすぐさま目を向ければ、そこには歪な形をした刃を持つ、短剣が刺さっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)、悪いけれど、私の勝ちよ」

 

 

 

 

 




いかがだったでしょうか?

今回は割と真面目なお話でした。
ちょっとセイバーさんがポンコツしてるような場所もあったと思いますが、キノセイデス。

あ、イリヤの最終決戦仕様に関してですが、FGOネタ込みになってしまいますが、サブタイのプリズマコスモスで検索していただけたらイメージが付くと思います。そしてそれを大人状態のイリヤに着せるイメージです。
ついでに“天の衣、FGO”も&検索していただければ、本来の天の衣を着たアイリママが出てくると思いますので、イメージの材料にして頂ければと思います。
“天の衣”自体は原作SNでも登場するのですが、えらい事になっているのはFGOからですかねw

それはさておき、今回のお話に至ってお時間を頂きありがとうございました。
色々考えつつやっていたのですが、諸事情もありましたがやはりここは力を入れておきたかったため、こういった形とさせていただきました。
その分長くなってしまいましたが、ご満足頂けていると幸いです。

そういえば、前話での感想で特地に関しての説明が欲しいと頂いていたのですが、もう少々お待ちください。
次話にはその辺りと、コウジュ達がしようとしたことの顛末などを入れたいと思います。
つまり、次が最終戦・・・・・・になると思います。

そして重ねてで申し訳ないのですが、次話も一週間あけての投稿にさせていただきたいと思います。ごめんなさい。
Fate/Zero編終幕に向けて、もう暫く温かい目で見て頂ければ幸いです。

それでは皆様、またよろしくお願い致します!
ではでは!!!


P.S.
次のFGOイベントは何やらぐだぐだ明治維新だとか。
姿が公開されたあの鯖の正体は一体誰なんでしょうね。
各地でなされている予想を見るのがとても楽しいですw

それにしても、あの茶々とかいう子、どこぞのアイドルでマスターに出てくる伊織ん二しか見えないのは私だけでしょうか・・・・・・。
いやきっと最近くぎゅ声聞いたからですよね、ええ・・・。


P.S.2
PSO2では新しいアプデで嬉しくなりつつも、その裏で起こっている事に少しばかり悲しくなりますね・・・。
まぁ個人的には製作者の意向を全く無視してしまうのは流石に駄目だろうとは思いますが、規約でどうのって言われてしまえば、反論し辛いですよね。感情は別ですが。

ただし、胸に関しての発言、それだけは許せん!!
自由を!!
紛う事なき自由を!!
壁(常識)に支配された世界なんてまっぴらだ!!(ステマ

あとビーストはよ!!!!


P.S.3
そういえばFate恒例のエイプリールフール企画、今回も泣かせに来てましたね・・・。
しかもあのクオリティで1日限定だなんて・・・。
しかし、竹箒日記に上げられていたあの短くも強い感情が籠った一文を呼んでしまえば何も言えなくなりますね・・・・・・。
うわあああああああ、ろまぁぁぁん!!!!!;;

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