テンプレ…まじで?(リメイクしてみた) ※現在このすば!編    作:onekou

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どうもonekouでございます。

最近定番になってきている遅刻ですが、そろそろ是正したいところ。
一先ずは、どうぞ。


『stage23:我は汝、汝は我』

 

 正解とそう告げた彼女は顔を下げ、前髪に隠れたその表情を読ませてはくれない。

 暫くの沈黙。

 そして、唯一見ることのできる口が静かに動く。

 

 

「そう、そこまで分かってしまったのね」

 

 

 俺が彼女の正体を言い当てたからか彼女の声は、何処までも平坦だった。

 まずったか?

 そう考えるも、このまま何も言わないのも意味の無いことだと、俺は努めて明るく振る舞う。

 

「まぁずっと考えてはいたのさ。助けてもらった恩もあるしね」

 

 俺の言葉に、アンジュちゃんは顔を上げた。

 漸く彼女の表情が見える。

 しかし、その表情は嬉しくもありながら悲しみを秘めたモノであり、泣きそうな表情であった。

 

 どうしたのか、と思わず聞きそうになる。

 だがそれよりも先に彼女はフルフルと少し顔を振った後に再びこちらを見て笑った。 

 

「そのうち『我は影、真なる我』とか言いながら登場するつもりだったのに、詰まらないじゃないの」

 

「アンジュちゃんがもう一人の自分だったなら嬉しくて仕方ないんだけど」

 

「・・・・・・そ、そう」

 

 俺の言葉に目線を細めながらこっちを見た後、反らされる。

 うーむ、この選択肢は違ったかな?

 でも実際そう思うわけだし、嘘で取り繕うのも何か違う気がする。

 おっと、今度は口を尖らせてこっちを睨みだした。

 その様はとても可愛らしいのだが、ここで嫌われては困る。

 あ、そういえば姿自体は同じだからこれだと自画自賛になっちまうか。

 しかし、実際に気安い口調で雰囲気も柔らかく、どことなく他人のような気がしない彼女に敵意は感じない。

 

 だが、このタイミングだ。

 明らかに俺の行動を阻害しに来たのだけは歴然としている。

 どういう思惑でなのかは分からないが、それが彼女にとっては不都合なのであろう。

 そして問題はそこだ。

 一体何が彼女にとって不都合なのか、だ。

 今まで彼女は俺にとっての救いの手であった。

 前の世界でも、彼女が裏でも表でもあれこれしてくれたからこそ、あの世界を救うことができた。

 恐らく、俺の知らないところでも某かはしてくれていたはずだ。

 先輩も、何やら彼女について知っている様子だったし。

 

 でも、だからこそ彼女と敵対するのは回避したい。

 俺は彼女に勝つことは不可能に近いのだから。

 

「それで、このタイミングで出てきたってことは、アンジュちゃんの目的は聖杯の泥ってことで良いんだよな?」

 

「ええそうよ。これをあなたに渡すわけにはいかないの」

 

 アンジュちゃんは、既に元通りになっているお腹を、ゆっくりと指で撫でる。

 ちょっとその撫で方は勘弁してほしい。

 普段の俺と違って挑発的な目だし何だか触り方がえっちぃので、自分のR指定ものを見ているような何とも言えない気分になる。

 

「っ!」

 

 アンジュちゃんは突如、お腹を触っていた手を後ろへと回しキィっと俺を睨む。

 

 おうふ、ひょっとして心の中読めてる?

 いやまぁ当然と言えば当然なのかね。この身体の本来の持ち主であろう彼女なのだろうから。

 

「別に心の中を読んでいる訳ではないわ」

 

「っ!?」

 

「あの子も言っていたけれど、貴方の表情は読みやすいのよ」

 

 あの子、というと思い当たるのは社畜女神様だ。

 顔面ガバガバだなんて良い顔であの時は言われてしまったが、アンジュちゃんからしても俺はそうだという事なのだろうか。

 隠し事が苦手な自覚はあるが、そこまで表情に出ているとは思いたくないものだ。

 しかし実際、内心を読み取られてしまっている。

 何かの能力の場合は俺が覚えてしまうらしいから、恐らくは純粋な技術ということだろう。

 でもだからこそ厄介極まりない。

 

 とはいえ、こちらとしては事を荒立てるつもりは無かったので別に読まれても構いはしない。

 

「とりあえず、この穢れた聖杯をあなたに渡すわけにはいかないのよ」

 

 俺が自身で納得したところで、アンジュちゃんがそう告げ直す。

 だが、それだけは聞くわけにはいかない。

 彼女は確かに俺にとって恩人だ。

 彼女の手助けが有ったからこそ成し遂げることができたものも多い。

 今回のこれについても、きっと理由があるのだとは思う。

 それでも、ここまで来て引く訳にはいかない。

 

「それは、どうして?」

 

 一先ず大事なのはそこだ。

 それを聞かずしては始まらない。

 

 アンジュちゃんが悲し気に目を伏せながら口を開く。

 

「これはまだ、貴方には早いわ」

 

「早い?」

 

「ええ。これは知っての通り悪意の塊よ。GATEの世界で浴びた感情どころではなく、唯ひたすらに悪意を撒き散らすこの世界の闇。前とは違ってその悪意の全てがあなたに牙を剥く」

 

「それは・・・・・・、わかってるさ」

 

 GATEの世界・・・・・・というのは、恐らく前の世界の事なのだろう。

 原作が有ったのかどうかは俺に知る由もない。

 そもそもそんな物はどうでも良いことだ。

 あの世界で俺は確かに生きた。

 俺にとってはそれで良い。

 

 今問題なのは『この世全ての悪』だ。

 

 俺は、Fateの原作知識だけでなく幾度となく近くに存在を感じる機会が有った。

 自身に取り込む際には敢えて暴走状態になるなどして対応したが、見るだけであのやばさは感じることができた。

 そしてその性質を取り込むことには成功している。

 いや、正確には偶然の賜物でしかない。 

 けれどその濃縮されたエネルギーの塊は、願いを叶える媒体としては優秀に過ぎる。

 それら全てが自身に牙を剥くと考えるとゾッとする。

 だが、穢れていたとしてもそれは願いの塊だ。

 負の方向への願いであったとしても、それはきっと越えるべき壁で在り、そして俺はそれを使って願いを叶えたい。 

 早い、ということはいつかは出来るのかもしれない。

 でも、今ここでやらなければ意味が無い。

 その為にこの世界へと来たのだ。

 その為に俺はここでサーヴァントとして皆を降してきた。

 なのにここで諦めては、全てが水泡に帰す。

 だから、諦めない。

 

 そんな思いを込めて彼女を見るも、アンジュちゃんは悲しげにこちらを見る。

 

「いいえ、貴方は分かっていないわ。神として信仰を自覚した貴方だからこそ、まだこれを飲むには早い。貴方の身体は他者からの“願い”に敏感になってしまっている。それにあなたは性格上、共感しやすい。染められやすいのよ」

 

「だけどいくら何でも悪意に染まる訳は―――」

 

「世界には、純粋な悪意もあるの」

 

「・・・・・・っ」

 

 太陰大極図というものがある。

 陰陽太極図や陰陽魚とも称されるそれは、白黒の勾玉が合わさったものと言えば想像もつきやすいだろう。

 その太陰大極図には様々な説があるが、基本的には世界の在り方を表すものだという。

 そして、その中には人の在り方を示す説もある。

 白い勾玉の中には黒点が、黒い勾玉の中には白点が。

 それらをして“陰中の陽”“陽中の陰”と言い、極めれば転じてしまうということなのだそうだ。

 よくある話だ。

 餓死寸前の子どもが、生きるために食料を盗んだとする。それを悪と断ずるか否か。

 これは極端な話だろうが、しかし、生きるために誰かを殺さなければならないなんて言うのは身近でなくとも決して無くなりはしなかった事実であろう。

 泥の中に在る悪意が全てそうではないと思う。

 しかし、あの泥は“この世全ての悪”に染まっている。

 アンジュちゃんの言い分からすれば純粋な悪意もまた、含まれているのだろう。

 それを前に俺はどうするのか。

 きっと、俺はその悪意に幾らかの共感をしてしまうだろう。

 あくまでも俺の価値観は現代社会で培われたものだ。

 様々な経験をしたとしても、そこは消しようがない。

 だから、悲劇から来る悪意を断じることはできないだろう。

 

「アンジュちゃんは、純粋な悪意に俺が飲まれそうだって判断したのか?」

 

「ええ、貴方は優しすぎる。それは美徳でもあるけれど、転じて悪徳となる場合もある」

 

 アンジュちゃんの言いたいそれは、痛い程に分かっていた。

 いつだったか麻婆神父に偽善だと言われたが、要は優柔不断なだけだ。

 救わないという選択肢が怖いというのもある。

 だけど、救いたいという感情に嘘は無い。

 救えるだけの力を持っておいて救わないのは俺には我慢できなかった。

 

「だけど、俺は在り方を変えるつもりはないよ。だってそうしなきゃ俺じゃなくなる。自分に嘘はつきたくない」

 

 アンジュちゃんの言葉には俺を心配する声色が備わっていた。

 でもやはり俺はこの在り方を止めることはできない。

 そんな思いで言った言葉だったが、アンジュちゃんは今度は慈しむような瞳をこちらへと向けてきた。

 というよりは憧憬、だろうか。

 “目は口程に物を言う”とは言うが、彼女もまた中々に感情が豊かなようだ。

 その割には今まで俺の前に直接出てくることは少なかったが、それにもまた事情があるのだろう。

 どんな理由があって自身の身体を他人に委ねているのか。

 そして今になって出てきたのか。

 それを聞くためにもいつかは対面する必要があると考えていた。

 少々予定が崩れはしたが、それが今なのだろう。

 

 そう思ったのだが、彼女は再び悲しげに瞳を伏せた後、きっとこちらを睨み、同時にこちらへと右の掌を向けた。

 それを見て、俺は直感的に身体を横へと倒すように飛びのいた。

 

「“炎熱操作”」

 

「っ!?」

 

 ゴォっという音とともにレーザーの様な眩い光がすぐ横を通り抜けた。

 “炎熱操作”という言葉が聞こえたが、アレはまさか光ではなく圧縮された炎か何かだというのだろうか。

 実際に横を通り抜けたそれから感じた熱量は、触れなくとも身を焼き焦がした。

 それもすぐに修復されるが、未だジクジクと焼けた場所に違和感を感じる。

 そしてよく見れば、俺以外の“俺”は全て跡形もなく消えていた。

 一瞬だ。

 一瞬でその全てが消し飛んだ。

 本来であれば消し飛ばされても復活するのだが、それも無い。

 どうやら炎熱操作というだけではなく、それ以外の何かもしているようだ。

 ということはつまり、俺自身もそれを受けてしまえば復活できる保証はないということだ。

 その事実に、思わず冷や汗が出る。

 

「あなたの気を変えるのは難しそうだわ。だから、実力行使に移らせてもらうわね」

 

「待って!? ちょっと待った!! 俺は争うつもりなんて―――」

 

「待たない。“風力操作”」

 

 俺は再び横っ飛びに避ける。

 しかし、予想を遥かに超えて見えない何か(・・)は俺へと迫り、避けきれずに俺の腕へと裂傷を生み出す。

 

「風力・・・・・・ってことは風か。風の刃、かな」

 

「御名答。テンプレートな攻撃だろうけど、基本だけあって避けにくいでしょう?」

 

 言葉を交わしながら回復を図る。

 メイト系を使うような急激な回復とはいかないが、それでも不老不死の方の力が俺を修復していく。

 

 だが、彼女は当然のごとくそれを許してはくれないようだ。

 

「したくは無いけれど、仕方がないわ。あなたの意識を失わせて暫くは私がコントロールを得る。その間に処理するとしましょう」

 

 そう、悲し気な表情のまま何処か諦めた様な口調で言うアンジュちゃん。

 そしてそのまま、今度は左手もこちらへと向ける。

 

「“星光収集”“砲撃化”“並列生成”」

 

 その言葉の羅列だけで嫌な予感どころではない危機感が俺を襲う。

 すぐさま俺は地を思い切り蹴り、同時に龍翼を出して飛び立つ。

 アンジュちゃんは追ってくる気配はない。

 しかし、チラリと彼女の方を見て口が引きつった。

 見れば、彼女の周囲にはいくつもの巨大な光球が浮かんでいたのだ。

 当然の様に桜色をしたそれは、今か今かと言わんばかりに脈動している。

 

 

 

「“発射”」

 

 

 

 視界が桜色の光で埋め尽くされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

「これなら・・・・・・」

 

 今まさに視界を埋め尽くすほどの極光を放ったアンジュは、そう言いながら安堵の息を漏らす。

 この無差別範囲攻撃ならば幾ら素早いとはいえ避けきれないだろうと。

 自身は別の力で守ったとはいえ、自身ごと周囲をまるごと吹き飛ばすというのはそれなりに消耗する。

 特に今は久しぶりに“力”を使った上に、能力上何かを消費する訳ではないが精神をすり減らす。

 別に自身の身体を傷付け辛い訳ではない。

 ただこれ以上彼女・・・・・・いや彼を傷つけたくは無かったのだ。

 それはこんなもの(・・・・・)に巻き込んでしまった後悔もある。

 

 そう、彼女は後悔をしていた。

 こんな事ならばもっと早くに彼女を止めていればよかったと。

 そもそもが彼を選ばなければよかったと。

 でもそうはいかない事情が確かにあった。

 そして押し付けざるを得ないようにしたのは彼女自身の責だ。

 

 ならばこの後悔は今更だ、とアンジュは思いながら首を振る。

 

 一先ずの問題は“この世全ての悪(アンリマユ)”だ。

 彼女にとってこの悪意は自身と同じくらいに嫌悪の象徴であった。

 アンリマユそのものに何かされたというわけではない。

 彼女は、“ヒトの悪意”というもの自体を憎んでいた。

 そしてそれを彼に呑ませる訳にはいかない、そう思っていた。

 

 だが、そう簡単にはいかなかったようだ。

 

 

「・・・・・・普段なら嬉しい事だけど、今この段階ではあなたのその咄嗟の突破力は厄介ね。まさか斬る(・・)とは」

 

「っはぁ、はぁ、はぁ・・・・・・。全く以て、ギリギリだったけどね・・・・・・」

 

 アンジュが睨んだ方向、そこには流石に全てを避けきれなかったのか、身体から煙を発たせつつも致命傷には至っていないコウジュが居た。

 そしてその両手で、眼前に大剣を構えていた。

 剣の名は、エリュシオーヌ。

 星を斬るとされる剣だ。

 だから星の光(・・・)も斬れると考え、コウジュは振るった。

 

 ただ、思いついたのが寸前だったため、余波まではどうすることも出来なかった。

 それでも中々良い思い付きだったとコウジュは自画自賛したくなるも、アンジュはそんな余裕を与えなかった。

 

「ならこうよ。“星光収集”“術式固定”“掌握”―――」

 

「っ!? ゼロシフト―――」

 

 アンジュの言葉にコウジュは幾度目かになる戦慄を覚え、すかさず対処できそうなものをピックアップし、両の手にツミキリ・ヒョウリを呼び出す。

 アンジュが使おうとしているのは恐らく、コウジュが考えはしたが使用までに時間がかかるのと、扱いきれないと判断したそのあまりの威力故にお蔵入りしたモノだと考え付いた。

 それをアンジュはまさかの数瞬で発動にまでこぎつけようとしていた。

 アレ(・・)が発動すれば速度なんてものは意味が無い。

 発動と同時にコウジュは消し飛ぶことになる。

 

「――“星光魔王”」

 

「――レディ!!」

 

 どちらが言うか早いか、二人ともがその場から姿を消す。

 しかし次の瞬間には、二人の位置は逆転しており、遅れてバンと大きな音が駆け抜けた。 

 そして辺りにはオゾン臭のような、独特の焼けた臭いが漂う。

 

「光速での移動、まさかホントに成功させるだなんて」

 

「そういうあなたこそ、ゼロシフトにしては線の移動ではないわよね」

 

 二人の言葉は互いが互いの成したことを理解した上でのものだった。

 

 アンジュが行ったモノは、嘗てコウジュがキャスターの神殿で実験した結果得た、不完全な筈の(・・・・・・)技の完成系だ。

 コウジュが『星光魔王』と名付けた合体技で、光を取り込むことで光となり、そしてそこに自身の速さをプラスすることで光より早く、つまりは時間を置き去りに移動するという無茶苦茶な考えの下で行った実験の成果だ。

 とはいえこの実験に関しては、コウジュの能力が故に“時間を置き去りにして移動する”という目的自体には成功していた。

 ただ、詠唱に時間がかかるのと、速いというレベルではない速さに認識が追いつかないから予めコースを決める必要があり、更にはかなり疲れるという欠点があった。

 しかしコウジュが見る限り、その欠点はアンジュには無かった。

 

 対してコウジュが使ったのは最近多用している移動法だ。

 前の世界の対妲己事件で産みだした移動法・・・・・・の劣化番だ。

 前者は創造の能力を前面に押し出していた時なので“その場に居た”という結果を生み出す方法での移動だが、後者は空間の切り取りと貼り付けだ。

 瞬間移動をモノにするために、神獣化していなくとも使えるようにと頭を捻ってどうにか完成させた能力。

 今までは空間を斬り裂いてその中を通っていたが、それではタイムラグが出来てしまうのと、自分以外も裂け目に潜ることができるという欠点があった。

 ちなみに一定確率で殺してしまう方に関しては何度も使用したことによって無くすことが出来ている。

 しかし、その数瞬が未だ以てリスクとして存在していた。

 そこで思いついたのがツミキリ・ヒョウリでの斬り取りと貼り付けだ。

 空間ごと切り裂いて入れ替える。それならば開けてから潜るというタイムロスがなくなる。

 そしてイメージの補完としてあの時使った“ゼロシフト”というものの元ネタを思い浮かべながら使用しているのだ。

 故に瞬間移動とはいえ線で移動する元ネタとは違ってきているが、かなりの有用性があった。

 ただし欠点も当然存在する。

 視界内でなければ移動できないのと、自分の居る位置と移動した後の状態を明確に想像しながらでなければならないため精神を大きく疲弊させるため多用できないこと。

 ただ、こういった咄嗟の際の移動には役立っていた。

 

 それはさておき、事ここに至ってコウジュはアンジュの使っている能力に想像がついた。

 どれもこれもがどこかで体感(・・)したものだからだ。

 炎熱操作はドラゴンブレス。

 風力操作は炎龍の飛翔術式。

 星光収集は言わずもがな、それを取り込むのもまた、身を以てコウジュは体験している。

 そう、それらは全てコウジュが嘗て喰らったもの。

 つまりはコウジュの中に存在する力。

 

 しかし当然といえば当然だった。

 コウジュが今まさに使っている身体は、もともとアンジュの物だと分かったところだ。

 コウジュ以上に上手く使えて当然といえば当然であろう。

 ただ、それだけでは説明の付かない部分がある。

 そもそもの話、こんな風に攻撃して来ずに、元々の持ち主だというならば所有権を奪えば良いと思うのだ。 

 でもそれをしては来ていない。

 ということはきっとできない理由がある。

 

 そう考え、少しばかり疲弊した様子のアンジュちゃんへと声を掛ける。

 

「アンジュちゃんは、この身体の本来の持ち主ってことで良いんだよね?」

 

「ええそうよ。実際にあなたより上手く力を使えているでしょう」

 

「けど、それなら何で直接身体の所有権を奪おうとしないんだ? 俺の意識が無い所で身体を操ったりしていたんでしょ?」

 

 そう言った瞬間に、アンジュから鋭い殺気が飛んだ。

 感覚と事前の言葉を考えれば誰に対するものかはコウジュも分かったので苦笑する。

 

「・・・・・・あいつ、言ったのね」

 

「というよりは状況証拠から聞きだした感じかな。だから先輩を責めないで」

 

 やはりというべきか、アンジュの殺気の矛先は伊丹であった。

 その為、ついつい窘める様にそう口にする。 

 するとアンジュは面白くないような顔をするも、溜息を吐いて殺気を解いた。

 

「むぅ・・・・・・。まぁ良いわ。とりあえずさっきの答えは“出来ないから”よ。その身体を準備したのは私ではないもの。そしてその身体とあなたを結び付けたのもまた私ではない。だから、それを解くことはできないの」

 

「誰かが、用意した?」

 

 そういえばと、コウジュは改めてこの世界へと渡る前に女神と会話した内容を思い出す。

 その時に女神はこう言っていた。

 『その方というのが、あなたのチート能力に関連する方なのですよ。貴方の身体を用意したのもその方です』と。

 つまりはコウジュが使用している能力・身体とコウジュの中身である“樹里 庵”を結びつけた誰かが存在するということだ。

 そしてその人(?)に対してはアンジュちゃんも力が通用しないようだ。

 

「本来ならその程度は出来ないこともないのだけれど、今の私ではそれは無理なの」

 

「ってことは、その用意した相手をアンジュちゃんは当然知っている訳だ」

 

「勿論よ、姉だもの」

 

「お姉さんだったのか。・・・・・・・って、え!?」

 

 一瞬流しそうになったが、コウジュは思わず驚きの声を上げる。

 そして様々な思考がコウジュの中を走る。 

 コウジュが思い出す女神との会話では、女神の上司のようなものに当たる存在がコウジュに身体を用意したという話だった。

 つまりはアンジュは結構な重役もしくは血筋に当たる可能性があった。

 そう考えればあの時、アンジュの攻撃に対して女神が敬語を使っていたのにもコウジュは得心が言った。

 更に言えばコウジュのチートを用意したというその存在は、それをできるだけの能力があるということだ。

 

「私に姉が居て不思議かしら?」

 

「いや不思議というか、何と言うか、ごめん混乱してる・・・・・・」

 

「まぁそれも仕方ないわね。それに姉と言っても双子の様なものよ。正確には3つ子だったのだけれど」

 

「うわぁお、また新しい情報・・・・・・」

 

 コウジュは思わず遠い目をしてしまう。

 事情を聞こうと思っていたコウジュではあるが、あまりにも怒涛の新情報達に眩暈がしてしまう。

 

 しかしそこで、ふと気づいたことがあった。

 

「3つ子だった(・・・)?」

 

 そうコウジュが口にした瞬間、アンジュは苦虫を口にしたような表情となる。

 それは正しく核心に触れてしまったということだろう。 

 コウジュとて普段なら触れようとしない部分であったが、怒涛の展開もありつい口にしてしまったのだ。

 

「・・・・・・そうよ、私たちは3つ子だった。でも今では一人居ない」

 

 懺悔するように、嘆くように、アンジュは話す。

 

「それこそが私の罪、そしてあなたを止める理由でもある」

 

「アンジュちゃんの、罪?」

 

 コウジュの言葉に、アンジュは静かに頷き、その後悔の中身を口にした。

 

 

 

 

 

 

 

「私はね、世界を救いたくて救いたくて、そして最後には、兄を喰べたの」

 

 

 

 

 

 涙を流しながら、そうアンジュは告げた。

 

 

 




いかがだったでしょうか?

今回結局長くなったからまた途中で切る感じに・・・。
うーん、お待たせしている所に更に長くなっているのでどうしたものか。
あともう少しと言いつつ終わらない詐欺、どこぞの連載漫画でもありましたが、そろそろいい加減にしないと怒られてしまいますね;;

さておき、それでもかなりの核心に触れることができてきました。
神様転生系のSSで神様が最初しか出てこないなぁというのが多かったのでやってみたのですが、辟易させてしまっているでしょうか?
しかしあと少しで終わります。
あと少し詐欺になっていますが、あと少しでこのSSの核心を書き終えます。
後は権能を使って色々させたいだけの人生です。
なのでもう少しお付き合いをば!!


ではでは、また次話でもお会い出来れば幸いです。
皆様に祝福のあらんことを!(挨拶



P.S.
最近再びファンアート・・・・・・と言うと少し違うのですが、ファンの方が描き手様にお願いして描いてもらったというイラストを頂きました。
その描き手様にも許可を得ているということで、ご紹介させて頂きます。
何故か、な・ぜ・か、R18なverも頂きましたが、まぁ、R18コウジュの元凶な方です。
コウジュを愛してくれているという意味でもあるのと思いますので、嬉しいのは嬉しいのですけどねw

さておき、イラストの方です。



【挿絵表示】




【挿絵表示】




ふむ、とりあえずオーダーした方の趣味が繁栄されているようですが、とりあえずどうしてこうなった・・・orz
いやまぁ可愛いのですけどね!
可愛いのですけど、いやホントどうしてそうなったw

この絵を描いて下さった方は“茶釜”様と言うそうです。
某イラスト総合サイトで検索すると、幾人か同名の方がいらっしゃいますが、画風から特定は出来ました。
其の方曰く、『商売に使ったり、自作ってことにしなければ、基本的に書いた絵は自由』『(描き上げる=手の離れた子供、何処に嫁に行こうとその子の人生…その子の自由』ということなのだそうで、ここで紹介させていただきました。
そしてこの絵は直接のやり取りで頂いたものだそうで、サイト自体では見られないようです。
なので、ここで申し訳ないのですが、茶釜様ありがとうございました。
ただ、流石にR18な方は乗せられないのでお許しください<(_ _)>

そして、名前は流石に伏せますがオーダーしてくださった読者様もありがとうございました。
でもR18ものはほどほどにw


P.S.2
FGOのイベがまさかの羅生門復刻!
酒呑童子ちゃんも復刻とのことで、思わず宝具を重ねたくて回してしまいました。
やはり耳に来る(良い意味で)だ・・・。
うん、大好きです。
とはいえ流石に5にする勇気は持てなかったです・・・。
あと、イバラギンちゃんイジメが皆さま前回からの礼装もあり捗っているそうですがいかがですか?
私も頼光ママで天網恢恢しながらいっぱい苛めています(*´ω`*)



P.S.3
最近絶対に見るようにしているアニメ、エロマンガ先生と、Re:CREATORS。
全く真逆な作風ですが、どちらも大好きです。
皆さまは今、どんなアニメを見てらっしゃるのでしょうか。
アニメが沢山やっている時代になりましたしある程度は厳選しないといけない様になってきていますし、時間が無いとさらに絞らないといけずなので、おススメ教えて頂けると嬉しいです(*'ω'*)

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