テンプレ…まじで?(リメイクしてみた) ※現在このすば!編 作:onekou
密かに最低一週間に一話記録を狙ってたんですがギリギリになってしまった…orz
お待ちいただいていた方には申し訳ないです。
兎も角滑り込み! どうぞ!
自分で開けた穴を抜け、テラスに出る。
テラスの端に立ち、追いかけてくるであろうバーサーカーを名乗る少女を待つ。
あのバーサーカーは圧倒的に私より強い。
あれがチートというものなのだろうか。
反則的な能力が大安売りだ。
神殺しをなしたというだけはある。
だが…、勝機はある。
前回と今回戦って分かったことなのだが、あの子は英雄でありながら恐らく対人戦闘の経験が少ない。
あの子の動きはあまりにも不自然だったのだ。
先ほどカラドボルグを射った時もそうだ。
あの近距離で射ったにもかかわらず、あの子はとっさにあの馬鹿でかい武器で防いでいた。
だが、あの子が見せるスピードと体の小ささがあれば空中とはいえ本来なら避けられたはずだ。
さらに言えば、私の正体を知っていて、更に私が何をしようとしたか気づいている様子だった。
なのに、その対応がお粗末すぎる。
予め知っているのにやることは全て反射的なもののように思える。
前回剣を交えた際もおかしな点があった。
私やセイバーと打ち合ってはいたが、あの子の武器の軌道に洗練した動きはあまり見られなかった。
技のキレや物理的な重さはある。なのに年月や積み重ねた深さがほとんど感じられない。
完全にスペックにモノを言わせて、反射神経や筋力で押し切る形だった。
まるで、自身の能力を把握しきれていないような……。
そして最後に、あの子は私を殺そうとしていない。
いや、確かにあの子の攻撃は私を殺そうとする軌道を描いてはいるが、当たりそうになると刃が鈍る。
これも無意識なのだろうか。
そういえばイリヤもだ。
あれだけこちらを殺すようなことをほのめかしておいて、この間に比べて本気で殺そうとしているようには感じられない。
私の衛宮士郎としての記憶の中で、聖杯戦争時代のイリヤと言っていることはほとんど変わらないのに…だ。
何かを企んでいるのは確実。
全力を出せばこちらは一溜りもないのに、遊ぶかのように出し惜しみする姿に何も感じない筈がない。
だが、今それを考えている余裕はない。
お粗末でありながらも、スペックが高いからそれを補えている現状。
剣筋を予測するのではなく、見てから回避しているそのやり方は獣を思わせる彼女に合っていると言えば合っているのだろうか。
やはり規格外。
だが、悪いがそこをつかせてもらおう。
単純なフェイントではそれごと食いつぶされてしまうだろうが、ならばそれすらも引っかけとしようじゃないか。
素直に過ぎるその動きは、君の力となることもあれば、それが仇にもなるということを教えてやろう。
あの様な小さい子に対して使うのは忍びないが私の切り札を切り、全力で行く。
せいぜい手を抜け、それだけ時間は稼げる。
思考の最中に居ると、上空から気配を感じた。
「流星!! ブラボー脚ぅぅ!!!」
その場から飛び、回避すると、今まさに自分がいた所を蹴りの体勢でバーサーカーが迫る。
落下速度も加え、先程までは無かった翼で加速したのであろうその速さは脅威だ。
だが、あれだけ大声で場所を教えてくれれば避けることは容易い。
後方へ跳び下がる。
するとそのまま、彼女はテラスの床に突き刺さった。
「うわっは!? 今の避けちゃうか!」
「あれだけ派手に登場すれば当然だ!」
「そう、かい!!」
バーサーカーは背中の羽を一振りして地面に叩き付け、その反動で抜け出す。
そしてその勢いを殺さず、こちらへと迫った。
「次はこいつだ! 干将莫耶!」
「なに!?」
バーサーカーが私に手を振りかぶりながら手の中に呼んだものは白と黒の夫婦剣“干将・莫耶”。
「はっはぁ!! 比べ合いと行こうじゃないか!!」
「っ…」
そして、それを受ける私の中にある物も“干将・莫耶”。
どちらも遜色のない、否、全く同じに見える双剣だ。
なぜ彼女がそれを持っているのだろうか。疑問は潰えない。
しかし考えている暇はない。
先程は技術が拙いとは言ったが侮って良い相手ではない。
逆を言えば、スペックでその欠点を覆えているということでもある。
「何故それを君が持っているのかな!!」
「気が向きゃぁ教えるさ!!」
斬り下ろし、勢いを殺さずに体側の剣でさらに斬り下ろし、身体のバネを生かし切り上げ、そのまま体を回転させての横薙ぎ。
前回もそうだったが、彼女はその体の小ささを生かしてか、身体そのものを回転させて連続させた動きを主体とした攻撃を得意としているだろう。
普通であるなら隙が大きい。
身体を回転させるということは、視界も常にこちらを見ている訳ではない。
だが、恐ろしく早い。
そしてその一撃一撃に恐ろしいほどの力が乗っている。
「っ!?」
類い稀な怪力ばかりを警戒していたが、あの“干将・莫耶”はそれだけではなかったらしい。
私が持つ物と遜色無いのに内包するものは全く別と言うことか。
「やっと効きはじめたか。対魔力はそんなに高くなかったはずだけど、やっぱサーヴァント相手じゃ効きが悪いなぁ…っと!!」
冷静に考察しながら彼女の猛攻を捌いていると腕に違和感を感じ始めた。
氷だ。
彼女と交わした刃、その触れた部分が徐々にだが凍り始めていた。
そして金属製故にその冷たさが手にまで届き、若干の運動阻害を齎し始めている。
「厄介な」
「そういう強化をしたもんでね!!」
段々と重くなっていく彼女の攻撃。
正しくは自らの腕と言うべきか。
どちらにせよこの状況はマズい。
「あははっ、こういうのは苦手かい!!」
「生憎と氷像になる趣味は無くてね!!」
しかしながら彼女はその脱出方法を示してくれた。
防戦一方も趣味ではないのでね!
「ふっ!!!」
横薙ぎの一撃を反らした瞬間に、一度干将・莫耶を破棄。
だがすぐさまもう一度“干将・莫耶”を投影する。
「マジかよ!?」
「馴染みある武器だからな、比較的やりやすかったよ」
私がしたのは、彼女が持っている“干将・莫耶”の投影だ。
当然凍結効果もある。
投影して改めて思うのは、不思議なことに彼女が持つそれと私の中に登録されているそれはほぼ同じものだった。
唯一違うのがもたらす効果位だろうか。
原典と似ているのではなく
だが、そんなことは後回しだ。
おかげでこの短時間で投影に至れた。
そして、これの厄介さは既に彼女自身が示してくれている。
「厄介な!」
「だからそう言っただろう?」
互いの腕が少しずつ凍っていく。
我慢比べ。
しかし先に限界に来たのはバーサーカーだった。
どうやら担い手であっても、耐性はそれほど高くないようだ。
「うるぁっ!」
「ソレは悪手だ!」
時折混ぜられていた足刀。
それを私の胴に向けて放ってきたが、私は軽く刃を添えるようにして彼女の足の力を反らした。それも膝関節部を狙ってだ。
恐ろしく早く恐ろしく重かろうと、来ることが分かっていれば対処はし易い!
「げ…」
「女の子が言うべきセリフではないな!」
狙ってやったのは私だが、片足の動きを阻害された彼女はバランスを崩し倒れ込む。
無事な腕を使って飛び起きようとするが、その数瞬がアレば私には充分!!
「
干将莫耶を投げ、更に投影し投擲。
「ノーー!!?」
「
凍結が解除されたバーサーカーだが、計4本の剣たちに翻弄されこちらへと近づけていない。
「
そう詠唱しながら、新たに投影。
剣の強化、並びに刻まれた詩を読み、技へと昇華させる。
「―――
夫婦剣の引かれあうという性質はバーサーカーから投影したものにも適応されているようで、彼女は凍結効果を持った夫婦剣の対応に掛かり切りになっている。
そこへ、翼のように広がり大剣と化した剣で斬り掛かる。
オーバーエッジ。
私が編み出した一つの答えだ。その身で味わえ。
「くあっ!?」
「悪く思うな!」
獲った。そう思った。
だが、この瞬間してはいけない油断を刹那とはいえしてしまったのだろう。
獲物を狩る瞬間が一番油断しているとは誰が言ったのだろうか。
「なんて、ね?」
「これもか! くっ!!」
締めの二振り、それを避けられるだけでなく、地面に置かれた何かによって身体が凍り始める。
恐らく地雷か。
ただし爆発するのではなく、捕縛を目的とした氷結効果をもたらす物。
すぐさま飛び退いたが、手足をやられてしまった。
こんなものまで持っているのかこの子は。
「悪いね。防御は並みなんで避けさせてもらったよ。まぁ弱い攻撃はレジストしちゃうから、最後のさえ気を付けてればよかったんだよねぇ。ま、その防御力も上がってるっちゃ上がってるんだけどさ」
「態々教えてくれるのは勝者の余裕かね?」
「いやいや、ただ口が滑っただけさね」
何が嬉しいのか、笑みを漏らしながらこちらへと近づいてくるバーサーカー。
「さすがだねアーチャー。最後のやつは全身を凍らせるはずだったのに避けちゃうなんてさ。というかあんな風になっちゃうんだね途中で避けちゃうと。ふむふむ」
「知らずに使ったのかね…」
「あはは、他にもいっぱいあるんだけどさ。使う場所が無くって」
「なるほど、
「お褒めに預かり? 恐悦至極だよ」
行動を阻害され、片膝を着きながら居る私の目の前まで来たバーサーカー。
彼女は徐に私へと手を伸ばし、持ち上げた。
成人男性の平均以上の体重はあると思うんだが、軽々か。恐れ入る。
現実逃避気味そんなことを考えてしまう自分に些か苦笑してしまうが、すぐに現実へと意識がもどされた。
「さて、下に行こうか」
持ち上げるのはいいが、バーサーカーの身長は正直に言って低い。少女と言うよりは幼女と言って良いレベルだ。
だから私を持ち上げても引きずってしまっている。
待て、その状態で下へ行こうとするんじゃない!!
「ぐ! がぁ!!」
「あ、ごめん!!」
まともに顔面や足をぶつけられてしまった。
謝る声が聞こえた気がするが、今はそれどころじゃない。
頭が軽度の脳震盪を起こしているのか、意識がふわりと揺らいでしまっている。
まずは体制を立て直さなければいけない。
バーサーカーは私を地面に降ろして離れた感覚を幽かに感じる。
下には降りてきたということだろう。
何をするのかは分からんが、ゆっくりとしてくれ。
幸いにも意識もそうだが、凍った部分の感覚や阻害されていた動作も徐々に戻ってきている。
もう少しだ。
「ごめんなさい未来の士郎。私たちの計画のためにはあなたにここで1度死んでもらう必要があるのよ」
「そうだな。最低限の目的は遂げれそうだし、欲張るのはいけないよな。だから、ごめん」
未だ戻らない視界の中、悔恨の念を含んだ声がイリヤとバーサーカーから聞こえた。
何だ。どういうことだ。
一度?
もう少し。あともう少しで回復するという所で、どちらかが近づいてきた。
そして、私の胸に何かを押し付ける感覚。
揺れる視界の中で見えたのは…カード?
どこかで見た覚えのあるそれが、私の中へ消えていく。
「今…何をした? …それに…計画……?」
「その内わかるさ。スヴァル!」
近づいてきていたのはバーサーカーだったのか。
彼女は私の問いに答えず、その手の中に再びあの巨大の斧を呼び出した。
それをゆっくりと振りかぶり、苦々しい顔で、私へと振り下ろそうとしている。
ああ、だが―――
「これで終いだ…」
―――間に合った。
「こちらの敗北は動かないだろうが、終わらせるのは手間だぞ。バーサーカー」
一瞬の隙を突き、横へと飛び退くことができた。
意識が完全に回復したのもあるが、やはり面と向かって命を奪うことに抵抗があるようだな。
根は優しいのだろう。
甘いともいうかもしれない。
だが、それでも、私は私であるために、成そう。
「まだそんなに動けたのか、耐久力がすごいな」
「切り札をまだ切っていないものでね」
そう、私は私の全てを未だ出し切っていない。
先を見るのならば使わずに置きたかったのだがな。
現状、次は無いようだ。
ならば、この身の全てを以て相対しよう。
何の変哲もない短剣をいくつか投影し、それを投げる。
狙いはこの場を照らす照明。
それらは願い違わず、辺りを暗闇に染めてくれた。
すぐさまその場から移動すると、破砕音。
バーサーカーが寸前まで私が居た所を攻撃したのだろう。
だが、見失ったのか追撃は無い。
幸いにも、私が明けた穴から見える空も雲が掛かっている。
やるならば今だろう。
「
唱えるは自己暗示にも近い詠唱。
自分の、自分の為だけの、意味あるもの。
「
「どうやら、月の女神の加護は貰えなかったようね。コウジュ!」
「おうさ!」
不意に明るくなった。
恐らく雲間から月が出てきてしまったのだろう。
だがイリヤ、月の女神は確かに私に微笑んでくれていたよ。
「
詠唱は終わった。
そして同時に、辺りに炎が満ちていく。
しかし、その炎は私たちの身を焼きはせず、辺りを炎で満たし、世界を塗りつぶしていく。
やがて炎が消え、変革した景色を映し出した。
辺りは先ほどまでに居た城の中ではなく、無数の剣が地面に刺さり、歯車が宙に浮かび、赤銅の空が満たす世界に変わっていた。
これこそが私の世界。
これこそが私の生きる意味。
これこそが私そのものだ。
「固有…結界…」
「そう、固有結界。私の切り札だよ」
イリヤは信じられないものを見たといったように、驚きを隠せずに居る。
固有結界。別名リアリティ・マーブル。
魔術師の世界で、目標とされる魔法に1番近く、最大級の奥義であり、同時に禁忌ともされる魔術。
魔術の到達点の一つとされ、使い手の心象風景を形にして現実を塗りつぶし、世界その物を作りかえる
改めてバーサーカーを見据える。
彼女はどうしたわけか顔を俯かせ、その表情が見えない。
だが、やることは変わらない。
「御覧の通り、君が挑むのは無限の剣。剣戟の極致だ。全身全霊を以て君を打倒しよう」
私の宣言に、何故か、彼女が笑った気がした。
◆◆◆
ああ、この瞬間を待っていた。
カチリ、と頭の中で何かが解かれた音がする。
どういうものかを、感覚的に学ぶ。
理解…とまではいかない。
ただ、
けどそれで良い。それが欲しかった。
これで、第二の目的も果たすことができた。
「どういうことかな?」
「ん?」
戦いにより高揚している所に、思うように行った喜びが重なって、こんな気持ち初めて! もう何も怖くない。
ってな感じにテンション上げている所にアーチャーが訝しげな表情で質問してきた。
「やけに嬉しそうだ」
「あー、まぁそうかな」
やっべ、そんなに嬉しそうにしてたかな。
流石に俺が何を以てそうなってるかは分からんだろうが、最後の締めを失敗したらどうしようもないから気を引き締めよう。そうしよう。
とりあえず、本気を出していくためにも一つ確認することにしよう。
「イリヤ!」
アーチャーから目を離さずにイリヤへと声を掛ける。
アーチャーも又、こちらを静観している。
たぶん、こちらの出方を伺っているのだろう。
原作バーサーカーの様な存在も居る訳だし、少しでも俺へとダメージを残すためにも俺がどうするのか見てるって感じかな。
戦闘のアマチュアが何言ってるんだって思うかもしれんが、そう感じるんだ。
これも獣の本能ってことかな。
何故かそれすらも楽しく感じてる俺が分かったのか、はぁ…と後方から溜息の後にイリヤが口を開いた。
「分かってるわ。ちゃんと付けてる」
「一応巻き込まんようにはするけど注意な」
「はいはい。負けたら承知しないわよ」
なんか呆れたような声に釈然としない思いもあるが、まぁ今は置いておこう。
さておきイリヤに確認したのはとあるプレゼントをちゃんと付けているかどうか確認するためだ。
というのも、アーチャーの固有結界『無限の剣製』へとイリヤが俺と共に飲み込まれるのは想定内。
だけどイリヤの存在は俺にとって弱点になる。
イリヤに何かされそうになったら俺はどうしても彼女を守る方向で確実に動いてしまう。
そこであるものをプレゼントしたわけだ。
テテテッテテー! ブルーリングー!(だみ声
『ブルーリング』とは、盾の種類に分類されるものだ。
見た目はただの薄青い透明な腕輪だが、大盾としての性能を持っている。
ゲーム内では仲間と一緒に付けたらその人数に合わせて防御力が上がるっていう代物なんだが、俺とイリヤだけでつけていてもあまり意味が無いので、本家メイド部隊の方々にも付けてもらっている。
ゲームと違って装備者人数に上限なんてないからかなりチートな具合に。
メイドさんに渡してあるのは劣化コピーだからすぐに壊れると思うけど、パスは通ってるからイリヤはかなり防御力が上がってるわけだ。
これでイリヤは大丈夫だ。
「さーてアーチャー。お待たせしたね」
「そのままずっとゆっくりしてもらっても構わないが?」
「あー、最初の目的は足止めだったか」
すっかり忘れていた。
けどまぁ今更関係ないさ。
「あんたを倒して空間を飛んだら良いだけの話だな」
「チートめ…」
「じゃぁ俺を倒すためのヒントだ。俺の命のストックは一個だ。そうすれば俺はサーヴァントではなくなる」
「それを信じろと?」
「信じる信じないは自由だけどさ。でも、ヘラクレスに比べれば希望が持てるっしょ?」
「……」
「何か言って!?」
「……頑張るとしよう」
「う、うん…」
ヘラクレスよりは俺の方が倒しやすくはあると思うんだけどなぁ。
俺はスケドを無限に持ってはいるが、それとは別に聖杯戦争への参加権が設定されていることが実は初期の方で分かった。
それが一度の戦闘で2回死ぬこと。
たぶんこれは、ゲームでスケドを持てるのが一個だったことからきてると思う。
だから自前の命+スケド一個分で2回の死亡。
13回殺さないといけない原作バーサーカーに比べれば楽勝だよね!
「とりあえずやろうか。まずは、節子おばさんのフライパン! 来い!」
俺の手に巨大な、1m位はあるフライパンが現れる。
◆◆◆
誰だ、節子おばさん。
いや、そんなことを考えている場合じゃないな。
以前のネギもそうだが、アレな見た目でも彼女の出す物は全て確かに宝具として成り立っている。
どうやってそこに神秘が生まれたのかは不明だが、いくつか見て宝具だと私は認識した。
今バーサーカーが持っているフライパンもそうだ。
料理には使いそうにないサイズではあるが、確かにあれはフライパンなのに剣なのだ。
「ターンオーバー!!」
それをバーサーカーは私へと叩き付けようと振りかぶる。
それを受けるため手にしていた剣を上げる。が、そこで嫌な予感がして、後方へと飛び退く。
先ほどからのことが脳裏をよぎったのだ。
ダァン! ダァン! ダァァン!!
1撃2撃、自身すらも空中で1回転しての合計3連撃の打ち下ろし。
見た目だけで言えば可愛いものだが、その威力は、目の前にある結果はやはり納得しがたい。
今のでもクレーターが……。
もしも自分が受けていたらと思うと、背筋が凍る。
そして何故か、想像の中の自分がデフォルメされたように縮んでいるのだ。
否定できないことが恐ろしい。
このバーサーカーならやりかねないのだ。
「さて次だ! 武器変更、節子おばさんの料理セット!!」
一旦フライパンが消えて、出てきたのはまたしても同じフライパン…と、お玉?
出てきたお玉も1mはある。
何でそんなものを作ったんだ節子おばさん。
あれだろうか、相手を料理するとか?
駄目だ。どうしても思考がズレてしまう。
それに、理解しがたいがあれらを剣として認識してしまう自分が嫌になってくる。
少しずつ溜まっていく心の疲労を狙っていたのだとしたらもう賞賛に値するよ。
ただ、こちらもやられてばかりでは居られない。
確かにバーサーカーは空間を跳躍する技術があるのだろう。
それがある以上、足止めなど気休め程度にしかならないのかもしれない。
だとしても、一分一秒でも時間を稼ぎ、凜達の元へこの子達が行くのを遅らせることが今の私の使命だ。
気に食わないが、
一先ず、今度は何かをされる前にこちらから行かせてもらおう!
「これでもくらっておけ!!」
近づくのは危険と感じ、今度は離れたところから攻撃する。
自身の周りにある剣をバーサーカーに向かって何本も投げつけていく。
「数が多すぎるんだけど!? くっ、エルロン家奥義!! 死者の目覚め!!」
そういってバーサーカーはフライパンにお玉を叩きつけ───
ガンガンガンガンッ…!!!!
「何っ…!?」
慌てて耳を塞ぐ。
また非常識なことをやってくれたものだな。
発生した音の壁によって、私が放った剣達を弾くとは…。
音が衝撃波となっているのか、バーサーカーを起点に大地すらも捲れ上がっている。
それほどの濃密な音。
確かに死者すら目覚めそうだ。
恐るべきはエルロン家か…。
というか、バーサーカーの家名はエルロンだったのか?
いや、バーサーカーのことだ。どこかで覚えたとか言いそうだ。
…!?
まさか、節子おばさんの家名がエルロン!?
「何だその技は…。相変わらずの君の不条理さには冷や汗が止まらないよ」
「あはは、誉め言葉として受け取っておくよ。っつか頭が痛ぇ…。この技は封印だな」
自分も食らってしまったようで、微妙にふらついている。
あと、離れたところにいるイリヤがきゅ〜っと目を回しているのだが……、いいのか?
「遠距離戦は負けるの必至だし、近距離戦も誘われるときついか…」
自滅攻撃から持ち直したバーサーカーは、そう呟きながらフライパンとお玉をその手から消した。
「君に遠距離戦を苦手と言われては、アーチャーとしては泣きたくなるんだがね」
初回の戦闘で放ったあの炎槍は死を覚悟するほどだった。
あれほど的確に私を狙えるのに遠距離戦を苦手とは笑えてくるよ。
「あれは裏技を使ってるからね。ぶっちゃけ初見殺しだからこそできる技なのさ。本来の俺の種族は射撃が下手なんだよ」
そう言いながらバーサーカーが手を上に掲げる。
そしてだから、と続け―――
「来いよロリポップ! そろそろ終いと行こう!」
その手に出てきたのは、巨大でカラフルな棒付き飴。
私の解析ではなぜかアレは斧と出ている。
そして、やはりあれも宝具……。
不条理だ。
だが、終わりにすると言っている以上終わりにする気なのだろう。
「アンガ・ジャブロッガ!!」
斧(飴)を肩に担いで力を溜め、飛び上がり振り下ろしてきた。
隙だらけ。
だが近づくのは恐らく危険。
余裕をもって回避するべきだな。
そう判断していつも以上に大きく回避する。
しかしそれすらも予測していたのだろうか。
彼女はにやりと笑い、避けたにもかかわらずそのまま地へ打ち付けた。
「言ったろ、終わらすってさぁ!!」
「…そういうことか!」
直後に地が爆発、大音量と共に打ち付けた場所を中心に辺りを吹き飛ばす。
余分に避けていて正解だったな。
これだけ離れていても散弾のごとく飛んでくる石に手一杯だ。
至近で受けた時の威力は想像もしたくない。
「まだまだぁああああああ!!」
「くっ!?」
連続して振り下ろされる斧(飴)。
見た目に反してその強大な威力は私の身を徐々に追いつめる。
2回、3回と振り下ろされる斧は、その度に大地を掘り返し、その爪跡を残していく。
そして回数を重ねるごとに、何故か彼女の動きが鋭くなっていく。
なんだそれは。この状況で学習しているとでも言うのか…。何がヘラクレスより容易いだ。
隙あらば倒せるかと思ったが、どうやら私はここまでのようだな。
もうそろそろ捌き切れなくなるだろう。
だが、その命。一つ分位は貰っていくぞ!!
「もうちょい!!」
「悪いがその前に!! その命の片方は貰い受けていくぞバーサーカー!!」
◆◆◆
「この全てをかわせるか? 行け!!」
アーチャーが告げた瞬間、辺りに刺さっていた剣達が一斉に宙に浮かび、俺に向かって飛んでくる。
「ちっ、ついに来たって訳か!!」
咄嗟にロリポップを振り回し、叩き落とすも間に合わない。
数が圧倒的すぎる。
やっぱこいつは厳しかったか…。
「これなら少しはダメージが通った…か…? 反射的に動いた所でこの量だ。当たるはず…」
「あぁ、当たってるよ。全部、ぐフッ…」
痛いイタイいたい……。
頭がおかしくなりそうだ。
初めての死ぬ程の痛みが、俺の中を駆け巡る。
テンプレものでよく不老不死になる奴がいるが、最初は皆こんなものなんだろうか?
自分が自分であることをやめたくなるこの感覚を、この儀式を、通過するのだろうか。
確かになりふり構わずチートを使えばさっきの剣群は防ぐことができただろう。
けど、俺も不老不死になったそうだし、1度は死んでおいた方がいざという時に良いかなと思った次第です。
それに、俺の身体能力とビーストとしての力がどこまで行けるかも気になっていた。
チート便りだと、俺自身の成長につながらなさそうだし。
いわば実験ですたい。
でもその御陰で、いくら身体能力が高くてもやっぱり中の経験が少ないとダメだってのは分かった。
それにしても、うあ~、ウニになった気分ってのはこういうものなのか。
メダカ箱の超絶生徒会長の元に居るツンデレ気味な庶務(男)――まぁ善吉君のことなんだけど――の気持ちが分かったよ。
こっちの方がエグイけどね。
刺さって無いとこ探すほうが難しいぜよ。
そうこうしている間に、身体が光に包まれ、剣もなくなり身体が元の状態に戻る。
「ふぃ、痛かった。痛いのはもう勘弁願いたいぜ」
「これで一回とはな…」
満身創痍。
そう言い表すのが的確な程にボロボロなアーチャー。
いや犯人俺だけども。
でも俺も大概ボロボロだから許してほしい。
ボロボロだった、か。
今の俺は考えるかぎり最高の状態に持ってこれている。
完全回復し、ゲームとは違い戦意は潰えず最高にハイな状態。
「クク、少しは勝てるかと淡い期待を抱いていたが意味はなかったな。まぁ良い、十分に時間は稼げた」
そうこちらに良いつつ、仁王立ちになる。
恐らく、念話でも来たのだろう。
それがどういった内容なのかは分からないが、十分に距離は取ったから隙を見て逃げて来いってとこかな?
だけど逃げれる状態じゃないから覚悟を決めたとか?
まぁどちらにしろここで仕留めさせてもらうよ。
◆◆◆
空気が変わった。
バーサーカーから立ち上っていた高揚するような雰囲気が極限まで高められていく。
そして上気するように頬を染め、明らかに今までの楽しむような姿とは別の、何か。
赤い瞳が私を見ている。
紅く、朱く、赫い、獣のごとく瞳孔の割れた瞳。
そして、彼女の身体は光を放ちながら姿を変えていった。
ああ、私は勘違いをしていたらしい。
獣のごとく…ではなく、獣そのものだったのか。
そしてこれが、本当の狂戦士たる所以。
その姿は青き大猫。今の彼女を言い表すならばそれが正しいだろう。
徐々に近づく彼女。
だが、私にはそれがひどくゆっくりとしたものに感じる。
これが死の直前に感じるというあれか。
全力は尽くした。使命は遂げた。ただ、目的は果たせなかったか。
しかしそれも仕方がない。
あとは凜がこの聖杯戦争を生き残ってくれるように願うだけか。
いつしかバーサーカーは目の前に居る。そしてその腕を振り上げ―――
『またね』
――また?
振り下ろされる巨大な獣の腕。
そこで私の意識は途絶えた。
いかがだったでしょうか?
ちょっと色々悪戦苦闘した今回。
表現方法とか、入れたいネタとかの所為で纏まりが無いかもしれませんが、真剣にネタをやるシリアル空間に巻き込むことができていたら幸いです。
どこかでクスリと笑ってもらうことはできまでしたでしょうか?
まぁさておき、これでアーチャー戦終了。
ではではまた次回!
P.S.
マガツのドロップしぶいですサカーイ…(´・ω・`)