テンプレ…まじで?(リメイクしてみた) ※現在このすば!編    作:onekou

32 / 162
どうもonekouでございます。

お待たせいたしました。
今回はアサシン戦でございます。

あ、途中で一か所だけAAを使った表現をしております。
以前に使わないようご指摘を頂いていたのですが、どうしてもこれは使いたかったので入れさせていただきました。
苦手な方には申し訳ないです。

では、どうぞ。


『stage30:全部全てスリッとまるっとゴリッとお見通しだ!』

 

  

 風呂場からそそくさと撤退した俺は、先程のことを改めて思い出し少し考えに耽っていた。 

 

 まったくコウジュは…。

 何故か彼女はことあるごとに俺を弄ろうとする。

 たらしだとかむっつりだとか、不名誉なことを捨て台詞のように言われたのは今日だけで何回有っただろうか。甚だ遺憾である。

 イリヤと揃って天真爛漫で、何か悪巧みを思いついた時の表情なんかを見ると本当の姉妹じゃないのかと思いたくなる。容姿も似てるし。

 でもあれでサーヴァントとその主なんだもんなぁ。

 そういえば、サーヴァントを召喚する際は何かしらの接点が無いと召喚できないそうだけど、異世界の英雄だっていうコウジュをイリヤはどうやって召喚したんだろうか?

 接点…、容姿とか性格? …分からん。

 これもまた考えても仕方ないことか。

 とりあえず、なんとか俺の扱いを改めてもらえないだろうか?

 

 ……無理だろうなぁ。

 

 

 

 

 

「ちょっと士郎!! 聞いてるの!!?」

 

「うお?! ご、ごめん!」

 

 やってしまった…。

 今は遠坂に教えてもらってるっていうのに、考え事をしてしまっていた。

 

「まったくもう…。もう一度言うけど、投影魔術というのは実在する美術品とか名剣とかを自身の魔力でイメージとして再現するの。けど、人間のイメージなんて所詮は穴だらけだから本物通りになんて複製できない半端な魔術なのよ。しかも魔力の消費だけは大きいの」

 

 改めて思考を遠坂の話へと傾ける。

 そうして思い出すのはコウジュとの一戦だ。

 あの時も、確かに魔力がごっそりと持って行かれた上、最初は容易く壊れてたっけ。

 

「エクスカリバーなんていう聖剣のカテゴリーの中で頂点を投影しようものなら、魔力が足りないどころか投影しきる前に回路や脳が焼き切れて死んでもおかしくない。つまり、士郎のキャパシティーを軽く超えているはずなの」

 

「けど、俺は一瞬とはいえ成功してた…」

 

 正確にはエクスカリバーではないそうだが、それでも高ランクなのは変わりない。

 

「そう、そこがおかしいの。バーサーカー…、コウジュが回復してしまったから本当の所は分からないけど、でも、1度は既に成功しているわ。

ひょっとして、士郎にはアーサー王に対する並々ならない繋がり、縁があるのかしら……」

 

 縁か繋がり? 俺とセイバーの……?

 俺が思いつく中には無いな。

 先程はコウジュとイリヤの事を考えたが、改めて言われれば俺はどうしてセイバーを召喚することが出来たのだろうか?

 召喚陣は予めあの土蔵に書かれていたみたいなんだが、どこにも召喚する際の媒介は見つけられなかった。

 つまりは何かしらの繋がりは在る筈。さすがに偶々ということは無いだろう。

 

 熟考する俺に、遠坂は溜息を一つ。

 

「今の時点では何も分からない…か。とりあえず言っておくけど、投影魔術の多用はしないようにしなさい。あれだけの事が出来るんだもの、分かってないだけで代償が無いとも限らない」

 

「けど、コウジュはどんどん使えって…」

 

「あの子が? ……一体、あの子は何か知ってるのかしら? いえ、いまさら何を知っていても驚かないけど…」

 

 た、たしかに…。

 今の俺の中でのイメージは何でもできる、だ。

 昼間に見せてもらった宝具たちだけで世界征服できるんじゃないか…?

 

「ま、いいわ。ひとまずはこちら側に不利になる事はしなさそうだし、案外うっかりみたいだし、何というか大丈夫な気がするわ」

 

 遠坂がそれを言うのか――いえ、何でもないですはい。なので睨まないでください。

 

 さておき、どっちにしても俺も大丈夫だとは思っている。

 セイバーも言っていたが、殺す能力なら十分に持っているがただ楽しんでいる節がある、とか…。

 

 楽観的かもしれないが最悪な事態にはならないだろう。

 

「ねぇ、士郎。昼間はコウジュも一緒に訓練したのよね?」

 

「ああ。中々に充実した一日だったよ」

 

「ふ~ん。で、どんなことしたの?」

 

「宝具を使った実験? みたいのとか、魔術を使った効果を見たりとか、あ、そういやこんなのもらった」

 

 前ももらったカード。

 絵柄は違うが、絶対に倒したい敵が現れた時に助けてくれるって言って渡されたものだ。

 

 書かれているのは、真力『エクスキャリバー』という文字と、セイバーが持つのとは違い、あまり剣らしくない形をした儀式剣を思わせる黄金の剣の絵。

 

「何なの? えっと、真りょk「うわっ!! 読んだらダメだってば!!」わ、分かったわよ…」 

 

 横から覗き込む遠坂から思わずカードを守るように抱き込む。

 前に俺を助けてくれた(らしい)カードをもらった時は読むなと言われたが、今回は読むべき時に読めと言われた。一回きりの使い捨てらしい。

 それからもう1つ言われたのが、これはあくまで最終手段で、自分の力が足りないって思った時に、これともう一本剣があると真価を発揮するらしい…。

 よくわからなかったんだが、『その時になったらわかる…はず…』と言われた。

 

 ……とりあえず持ち歩くように位はしておこう。

 

 

 

 

「あ、ねぇ士郎。今更なんだけどあんたってエクスカリバーがどういうものか知ってる?」

 

「エクスカリバーって言ったら、アーサー王の代名詞だろ? 斬れないものはなく、刃こぼれもしない名剣だって…」

 

「まぁそんなとこだと思ったわ。あのね、本当に重要なのは剣ではなく、鞘の方なのよ」

 

 鞘? そういえばコウジュも鞘がどうとか言ってたような…。

 気のせいか?

 

「鞘を身につけている限りアーサー王は血を流すことはない。つまり不死身なのよ」

 

 それはすごいな…。

 セイバーの剣技に宝具、そこに不死身の力があれば向かう所敵なしじゃないか。

 

 ……あれ? 

 

「なぁ、ならどうしてアーサー王は死んだんだ?」

 

「っ……、そうだった…。伝説じゃ、エクスカリバーの鞘は盗まれたんだ…」

 

 うっかりか…。

 うん、でも慣れてきた。

 

「なら意味無いじゃないか…。どうしてそんなこと気にしたんだ?」

 

「う、うるさいわね! 鞘もあったら無敵だなーって思っただけじゃない私だってたまには間違える事あるわよ…」

 

「たまにか?」

 

「なによっ?」

 

 何でも無いです…。

 そう言いながら顔を逸らすことしか俺には出来なかった。

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

「どうした娘。その程度か?」

 

「こんの!!」

 

 はい、現在戦闘中です。

 名乗られて、名乗り返そうとしたら拒否られて、でも、コウジュの名前知られてもどうってことないと付け加えた上で名乗り返して……。

 そしていつの間にか斬りあってます。

 

 ってか、そんなことより!!

 

 流される! 力任せが通じない!! そんでもって動きにくい!!

 何で階段であんなに優雅に動けんだよ!! こんちくしょー!!

 

 

「ふっ! せいっ!! とりゃ! はぁ!!」

 

 斬り下ろしからの流れの四連撃。

 気分はマーべラ〇コンビネーション。

 だけどそんなものは容易く避けられる。

 というか相性が悪すぎる。

 

 そもそも、俺も小次郎も持っているのは似たような長刀だが、俺は西洋式の叩き割る様に大剣を振るっているのに対し、向こうは余分な力は刀で受け流しその隙に太刀を入れるといった戦い方だ。

 こちらが剛に対し向こうは柔。不利過ぎる。

 致命傷は受けていない。

 受けていないがそれだけだ。

 恐らく向こうは本気じゃない。遊ばれているんだろう。

 

「そら、どうした!」

 

「ちっ」

 

 首を狙った小次郎の一閃。

 それをコクイントウを盾にすることで防ぐ。

 その程度は分かっているのだろう。すぐさま次の場所へと振るわれる物干し竿。

 それをまた、コクイントウを盾にして防ぐ。

 しかし、武器の強度に頼っているから防げているだけで、普通の刀なら既にそれごと俺は斬られているだろうな。

 

「っるぁ!!」

 

「ふむ」

 

 今度はこちらから力任せの斬り上げ。

 それを小次郎は冷静に、剣先でコクイントウを微妙に反らすことで避ける。

 が、それは想定済みだ。

 俺の剣を反らすために小次郎もまた剣先を上に向けている。

 だからそのまま俺は一歩踏み込み、柄頭ごと突き込む。

 

 しかしそれも横にずれることで避けられる。

 

 確かステータスで言えばアサシン(小次郎)の方が敏捷は上だったか。そして技量も当然上だ。だが逆に紙装甲だったはず…。

 なら何とか一発あてりゃぁこっちの勝ちだ!!

 

 突き込んだ柄頭は、避けられはしたが小次郎は避けるために重心を後ろへと下げている。

 俺は柄から手を離し、突き込むために乗り出していた勢いを利用してそのまま前転する要領で手を地につけ足払いを仕掛ける。

 

「ほう」

 

 そう言葉では感嘆の声を上げながらも、軽々と飛び上り避けられた。

 

 あんた侍だろう!?

 軽業師みたいに避けないでくれますかねぇ!?

 

 対する俺は階段なんてスペースに余裕のない場所で無茶な動きをしたから体勢を崩し、ゴロゴロと数段階段を転げ落ちる。

 だがすぐさま手で無理矢理回転を止め、腕をバネにして飛び起きる。

 プニプニの身体になったとはいえサーヴァントでもあるこの身体だから普通よりは少なくなっている痛みを堪え、体勢を立て直す。

 勿論泣いてない。泣いて無いッたら泣いてない。

 

「やっぱり、技じゃ到底追いつけないな」

 

「いやいや、それなりに胆は冷えた」

 

「笑みを絶やさずによく言うよ」

 

「なに、ただ楽しくてな」

 

 そんな会話をしながら、手放していたコクイントウを一度消し、そして呼び出すことで手元に戻す。

 

「このままじゃ、やっぱ勝てないか。侍に刀で勝負を挑むのはやっぱ割に合わねぇや」

 

「なればどうする? あきらめるか?」

 

「何を言うやらうさぎさん。そんなわけないじゃんよ。予定通り押し通らせてもらうぜ?」

 

 そもそも刀を握ってはいても俺は結局刀を扱うことはできていない。

 他の武器に関してもそうだが、筋力と動体視力に物を言わせてトリッキーな動きで翻弄しながらの攻撃が現状では一番合っている。

 態々相手の土俵で戦いを挑んだのは、見て、そして味わう為だったんだがこれ以上は命にかかわりそうだ。生き返るけど。

 それに、このままじゃアレを使ってもらえなさそうだ。

 

 だからまぁ、今度は自分自身の戦い方をさせて貰おう。

 

 さーて、常に思い浮かべるのは最強の自分…はちょっと危ないので(火力的意味で)、このチートボディの身体能力を信じて押してダメなら引いてみろじゃないけど、技量でダメならスピードで勝負だ。

 当てるために必要なのは技量か速度。

 だが技量は経験が物を言うものだ。今の俺では瞬時に得ることなどできない。

 だから速度で以てあなたを打倒させてもらうよ。

 見本はあの校庭で見たランサーのしなやかな、そしてどこか獣を思わせる動き、速度。

 この身はビースト。

 身体(ハード)のスペックも十分。

 なら後は思い込み(ソフト)の問題だ。

 

「ふい……。さて、行くよ?」

 

「空気が変わったな。面白い」

 

「っ!!!!」

 

 階段がダメなら、周りを囲む木々を使う! それでもダメなら重力など無視すればいい!!

 ゲームスキルの中には明らかに重力を無視した、空中でステップを踏んで何度も斬りかかるような技もある。

 双小剣のスキル『レンガチュウジンショウ』とか顕著だ。

 それを元に自身のイメージを強める。

 虚空瞬動。

 某セクハラ魔法教師物語に出てきた、文字通り虚空を使って瞬時に動く技術。

 魔力を収束させる術はいくつか身に着けた。

 それを足場にするため一瞬だけ足元に作り出し、それを足場にまた飛ぶ。

 

 とにかく、俺は跳んで跳んでトンデ―――。

 

 

「ほう、速いな。だが…その程度か?」

 

「っく。ま、まだまだ!!」

 

 自分は獣! 自分は獣!!

 

「これならどうだ!!」

 

 跳ぶ――いや、跳ねるように四方八方から小次郎に斬りかかる。

 正直自分もこのスピードに振り回されてる感はあるが、少しづつダメージが通り始めているのが手の感触で分かる。

 

 自分は獣だ!!

 

 

 

 

 

 (「`・ω・)「ガオー!!!

 

 

 

 

「これほどとは…っ! …面白い!!」

 

 …?

 受け流すのをやめて避けに徹してる? でもなんで…?

 いや、そんなことより今こそ大ダメージを!!

 

 そう思い、俺は木を蹴りつけ大きく斬りかかるために飛びかかる。

 

 だが――、

 

「秘剣…燕返しっ!!!」

 

「っ!!?」

 

 予想外のタイミング!? くそっ、回避! …は無理!!

 なら大人しくこれを(・・・)受けるとするか!!

 

「ぐうぅぅっ!!」

 

 血を流しながら後ろに吹き飛ぶ俺。

 そして地面にぶつかり、止まる。

 オートガード何それ美味しいの? と言わんばかりに斬りつけられたが、この身体自身の防御力のおかげかまだ体は五体満足だ。

 流石にすべてを受けることは出来ないから、致命傷を避けるために首を獲る一閃上にコクイントウを放り投げて全身は腕を交叉してガード。同時に後ろへと飛んだ。

 確か原作でも階段である故に小次郎の踏み込みが足りないんだっけか。

 恐らく俺の時も、階段という場所と溜めが少なかったのだろう。

 おかげで何とか生きている。

 とはいえ何とか生きているだけで両腕の感覚は無いし、思いっきり後方へ跳んだ御陰でまた階段をごろごろと落ちて軽く脳震盪を起こしている。

 

「本来であるなら泣き別れる筈であったが…、まだ生きているとはな」

 

「んぐっ! この程度で、驚かれても…困るぜ? 道具『完全回復トリメイト』…」

 

 揺れる頭に喝を入れながら、念のために胸元に仕込んでいたカードを口で取りだしそのまま宣言する。

 本来ならボトル状になっている中身を飲まなければならないが、念のためカード化してあったから宣言すれば発動し、身体を光がつつみながら回復する。

 やがて光が消え去り、俺の身体は一気に元の状態まで回復する。

 

「いよっと、まったくもって痛いったらありゃしねぇ。正直泣きそうだぜ。現在進行形で幻肢痛みたいな感じに斬られた所がずきずきしてるんですが?」

 

「……喧嘩を売ってきたのはそちらであろう?」

 

「……そうでした…ごめんなさい」

 

 なんかジト目で見られている気がするが気のせいだろう。

 

「それで、まだ通る気はあるのか? 少しは楽しめたが、まだ発展途上といったところ。その回復力に驚きはするが、…正直どうでも良い。来るならば斬り伏せるのみよ」

 

 正直な話、今すぐ帰って炬燵にでも潜ってみかんを食べながらのんびりとしたいよ。

 だがしかし、そうは問屋が下ろさんのですよ。

 俺には目標がある。

 その為には集めないといけないものがある。

 ここでの目標は二つ。

 一つは集まった。

 あと一つはまだ先だ。

 

 だから、押しとおる。

 

「秘剣燕返し、すごい技だね」

 

 言いながら、再びコクイントウを先程の要領で手元へと戻す。

 

「最初はただ、空を自由に飛ぶ燕を斬るだけのつもりであった。だが、奴らは素早い。燕は大気の流れを感じ取り飛ぶ方向を変える。ならば逃げ道を囲えば良い。壱の太刀で燕を襲い、避ける燕を弐の太刀で囲う。そして最後の一閃で斬り裂く。そうすることでやっと斬る事が出来る」

 

「えらく簡単に言ってくれるけどさ、そんな簡単なものじゃなかろうに。あんたが言ったようにするだけなら、さっきのスピードが出てた俺ならここまでダメージは受けないって。その技の真髄は速さを通り越して、3つの太刀筋が同時にその場にある事」

 

「ほう、そこまで見られていたか」

 

 ごめんなさい正直言うと、しっかり見えたわけじゃ無くぼんやりと程度です。原作知識が無かったらわからなんだ。

 確か…。

 

「多重次元屈折現象、またはキシュア・ゼルレッチだったな。さっすがは佐々木小次郎。そこに痺れる憧れるってね…」

 

 コクイントウを顔の高さまで持ってきて、小次郎に背を向ける形で構える。

 俺がしているのは、先程小次郎がした燕返しの構えだ。

 そう、ラーニング。

 それを使って俺はあの技を覚えた。

 

 

「けど、残念ながらごちになります」

 

 その瞬間辺りの気温が下がったかのように寒く感じる。

 小次郎の殺気が俺に刺さる。

 だが、伊達や酔狂でそんなことをしてるわけじゃねぇ。

 

「娘…何のつもりだ…?」

 

「秘剣燕返しをやるつもり」

 

 俺は当然と言ったように返す。

 それに何かを感じたのか、小次郎は笑みを浮かべた後に改めてこちらへと鋭い視線を向けた。

 

「そうか……、ならばっ!!」

 

 小次郎もまた燕返しの構えを取る。

 

「やってみるがいい!!」

 

「あぁ!!」

 

 踏み出すのは同時、向かい合い正反対の軌道を描きながらも同じように振るわれていく刃。

 

 

「秘剣! 燕返し!!」

 

「ひけん、つばめがえしっ!!」

 

 一の太刀で頭上から股下までを断つ縦軸に―――。

 二の太刀は一の太刀を回避する対象の逃げ道を塞ぐ円の軌跡を描き―――。

 そして三の太刀で左右への離脱を阻む払いを―――。

 

 ラーニングっていう能力は便利だけど不便だ。

 1度受ければ覚えられるが、理解はできてない。

 繰り返して取っ掛かりを掴めば話は別だが、一回目ではどうしようもない。

 だから、本能のままに叩き込む。

 

「どうだ!!」

 

 甲高い音が一つ、辺りへと響く。

 そして、互いに弾かれた俺たちはその勢いのままに距離を取った。

 ふむ、互いに3つとなった刃が同時に衝突したために一つに聞こえたが、確かに軌道は3つあった。

 できた。俺にもできたっ。

 

「…まさしく、燕返し。よもや、そこまで完全に使われるとはな。しかしそれだけでは、勝てぬぞ?」

 

 そのとーり、ザッツライ…。

 嬉しくて舞い上がっていた心が急降下する。

 小次郎の言う通り、現状では出来たからなんだというのかってレベルでしかない。

 

「ま、そうですよねー。まったく同じ技じゃ、勝てるわけないですよねぇ…」

 

 ラーニングのデメリット、覚えたものは覚えた時点のものをそのまま覚える。

 つまり応用が利かない。

 本家本元の小次郎ならば、ある程度違う軌道を描きながらも燕返しを打てるのだろう。そして俺が放つのは小次郎の知っている軌道でしかない。

 

 けどまぁ膠着状態、かな?

 

 今ので小次郎にも相応のダメージを与えることはできた。

 対する俺は回復したおかげでまだまだいける。それどころか、何故かさっきから力があふれるんだよな。

 とは言え小次郎の恐るべき技量の前では、ただ速いだけでは燕返しの餌食になることが分かった。

 やっぱり経験不足が俺には痛い。

 

 さて、どうするべきか…。

 ここいらで次の段階に入りたいんだが――、

 

 

 

 

「そろそろ良いかしら?」

 

 虚空から、突然女性の声が響いた。

 念のため周囲を警戒していると、小次郎と俺が居る間の空間歪み、中から黒と紫で構成されたローブで顔の下半分以外すべてを隠した女性がそこに居た。

 あんたはスキマ妖怪か!!

 

 いやいやそんなことより、これはいいタイミング。

 

「こちらまで出向くとは珍しいな、キャスター」

 

 小次郎が訝しみながら声を掛ける。

 その声に振り向くことなく、キャスターは答える。

 

「その子に興味があってね」

 

 興味とな? はて?

 

 はっ!! ま、まさか…。

 確かキャスターは少女趣味…だったはず。俺狙われてる!? 貞操の危機!!?

 

 すかさず俺は後ろへと後退していく。

 

「こらそこ!! 今失礼なこと考えなかったかしら!!?」

 

 キャスターが突っ込みを入れてくる。

 

「さらっと心を読むな!!」

 

 心を読むとは…、スキマ妖怪ではなくさとりんだったか。

 しかもナイスなタイミングとツッコミ…。

 さすがは古き魔女。

 っと、これは禁句なんだっけか。

 

「さておき、そっちから出向いてくれるとはね。正直手間が省けた」

 

「それはよかった。お客様ですから、しっかりと御持て成しをしようと思ってきたのよ。元バーサーカー」

 

「あらら、やっぱり見てたんだ」

 

「ほう、お前が今回のバーサーカーであったのか」

 

「そういや、さっきは言わなかったね。改めまして、元バーサーカーのコウジュだ。取引をしに来た」

 

 

 

 

 

「それで、あなたは何の取引を?」

 

 今はさっきの階段ではなく、神殿(おそらくこれが、キャスターのスキル陣地構築で作られたものだろう)に招かれた。

 小次郎はというと、その後ろで寡黙に立っている。

 

 よし、何パターンか考えた内で一番良い邂逅だ。

 これなら目的が達成できる。

 

 一先ずは、こちから取引材料を出そうか。

 

「聖杯戦争からの解放、そして新たな人生に興味はないか?」

 

「!!?」

 

「とある方法で(まぁ原作知識からだが)あんたが別に聖杯そのものに興味を持ってるわけじゃない事は知ってるんだ。簡単にあんたの願いを言うと―――」

 

 

 俺が溜める言葉に、キャスターがこちらへと視線を鋭くする。

 何を言われるのかと警戒しているのだろう。

 だがキャスターよ。

 俺に関わったのが運の尽きだ。

 

 こっからは俺のターン!!!

 

 

 

 

 

「ぶっちゃけ葛木宗一郎と平和にいちゃいちゃすることだろ?」

 

 

 

「ぶっちゃけすぎよ!! って、そ、そそ、それが願いなわけないでしょ!!?」

 

「キャスターよ、それだけ動揺しては答えを言っているようなものだ」

 

 小次郎のクールなツッコミ。

 新しいジャンルだな、おい。

 

「だ、だから!! 違うって言ってるでしょ!!」

 

 顔を真っ赤にしながら(フードから覗いてる部分だけで十分に分かる)、手をワタワタ振り回しながら否定してくるキャスター。

 何この可愛い生き物…。

 サーヴァントってこんな萌えキャラばっかだったっけ?

 ライダーはあれになったし、セイバーも素だとあれだし、アーチャーもあんなのになったし、キャスターはこうか。

 

 どうしてこうなった…(目反らし

 

「はいはい、でもいいのかにゃあ~? 認めてしまえば葛木宗一郎との甘~い、甘~~いめくるめくラブラブ生活が待ってるんだぜ?」

 

「ら、ラブラブ生活……」

 

 俺はキャスターに近づき、耳元で囁く。

 キャスターの後ろでよくある効果の様に雷がピシャーンってなるのが幻視できてしまう。

 というか、今の俺はかなりあくどい笑い方をしてるんじゃなかろうか?

 まぁでも、キャスターの後ろで小次郎が笑いをこらえようとして結局吹き出しているくらいだし、良いよね?

 

「そう…ラブラブ生活。朝起こしに行ったり、手料理を振舞ったり、正に新婚生活。行ってきますのチューとかしちゃったりなんかしたりして。キャー」

 

「ちゅ、チュー…? せ、接吻のことよね…? 私が…、宗一郎様と…?」

 

 ごくりと、キャスターが唾を飲む。

 

「そ~んでもって、あ~んなことやこ~んなことが……」

 

「あ、あんなことやこんなこ…と……」

 

 どこぞの軍師のようにあわわはわわと言いながら悩んでるキャスター。

 

「ほら、楽になっちまえよ。認めてしまえって。俺の事見てたんなら、聖杯からの解放だけじゃなく、受肉も出来る事も分かってるんだろ? イチャイチャラブラブしたいんだろ? ほらほらさあさあ。楽になっちまえって。ちょっと頷くだけで、そこにはふたっりきりのあまーい生活が待ってるぜぃ?」

 

 俺は最後に、一気に畳みかけた。

 俺の言葉に覚悟を決めたのか、力を抜くキャスター。

 これはもう勝ち確定ですわ。

 キャスターまじちょろ。

 

「………です」

 

「何? 聞こえなかったよ?」

 

「イチャイチャラブラブの新婚生活がしたいですって言ったのよ!!! 何か文句あるかしら!!?」

 

「ふ、ふふん、やっと素直になったか」

 

 自分で煽っておきながら、最後の剣幕に内心ビビりながら勝った事を喜ぶ。

 勝ったよイリヤ。この戦い、我々の勝利だ!!

 

「それで? 対価は?」

 

 何だか吹っ切れた感があるキャスターは頬を染め、明後日の方向を見ながら聞いてくる。

 原因は俺とはいえ、もう何も言うまい。

 

「そんな難しいこっちゃないよ。ちょっと俺の手伝いをしてもらうのと、お芝居をしてもらおうかと思ってね」

 

「内容を言いなさい?」

 

「話せば長くなるんで簡単に言うけど、とある姉妹を腐った虫爺から救うための手伝いと演技。ついでにとある少年のレベルアップをしたいんだ」

 

「姉妹…」

 

「あんたが知ってる事を俺は知ってるんだぜ? 聖杯の器として目星付けてただろ?」

 

「…ええそうよ知ってるわ。まったく、反則の塊よ。あなたのその情報能力」

 

「いや、それほどでも…」

 

「褒めてないわよ! まあいいわ。ひとまず契約成立ってことね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 そのあと、キャスターに原作通りのことを芝居してもらうことをお願いした。

 

 実はイリヤにも芝居の事は前もって話してあるので、時を見て士郎達に情報提供と言う名の意識誘導をしてくれるはずだ。

 

 途中で葛木氏も来ての話し合いになったんだが、怖い。マジ怖いよあの人。

 何て言えばいいのかね……。

 どんなボケをかましても無反応に『そうか…』で済まされてしまうし、しかも寡黙だけど静かなオーラを感じて圧迫感がある。なんていうか、何もしてないのに生活指導の先生に呼ばれて眼の前にしたような感覚? いや実際先生だっけか。

 うーん、デカい壁の前に立っているような感じ?

 あーもう良く分からん。

 

 とにかく、キャスター勢は揃ったんでスケープドールカード(ちゃんと何も弄ってないやつ)を渡しといた。

 あ、小次郎は拒否られたよ。

 刹那を楽しむのに無用の長物だとかなんとか。

 あんたは蓮たんか!

 

 ま、まぁ、俺としてはそれが佐々木小次郎としての幸せなら何も言うまい。

 

 そんなわけで、俺の今日の目的は終了ってことで、帰って寝るとしよう。

 続きはまた明日ってことで!

 




いかがだったでしょうか?

というか誰ですか『アサシンが食べられる(意味深』とか言っちゃうのは!! そんなわけないじゃないですか!!

TS転生者がそんなことになる訳無いじゃないですかやだなぁ(目反らし


P.S.
感想を頂いたことで初めて知ったのですが、何やら少しの間ランキング入りさせていただいていたとか。
それもこれも皆様のおかげですありがとうございます。
今後も皆様に楽しんで頂くために亀更新ながら頑張りたいと思いますので、よろしくお願いします。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。