テンプレ…まじで?(リメイクしてみた) ※現在このすば!編    作:onekou

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どうもonekouでございます。

本日も地雷原へいらっしゃいませ! 
ちなみに今回は気づけば2話分くらいの文字数となっております。
容量・用法にお気を付けくださいませ!(錯乱


例の紐とかπ/とか女神さま可愛すぎるんじゃぁ!!(狂化


『stage40:本来の意味で壁ドンしたい。突き抜けちゃうだろうけど』

 

 

 

 腹が立つ…。

 セイバーに対してじゃない。自分自身にだ…。

 

 セイバーをあの大橋に一方的に置いて帰ってきた俺は自身の部屋にふてくされるように仰向けに寝転がる。

 自分の思いを、セイバーに今を生きて欲しいって事を言って、けど、セイバーから言い返されて…。コウジュが言わないでほしいって言ってた言葉まで使って…。

 思わずセイバーに叩かれた頬を軽く触る。

 未だ熱を持つ頬が無駄に自己主張している。

 

「何をしてるんだろ…俺は…」

 

 などと自嘲せずにはいられず、部屋に響く自身の声でまた嫌になる。

 暗い部屋で天井を眺める。

 今日は楽しかった。

 セイバーも多分楽しんでくれた。

 その日常が、どうして当たり前の物じゃないんだろう。

 全ては聖杯戦争のせいだろうか?

 でもセイバーと出会えたのも、今この家がにぎやかになっているのもその聖杯戦争の御陰ともいえる。

 何が間違っていて、何が正解なんだろう。

 

 そんな風に自問自答していると、トントンと小気味よくこの部屋へと近づく足音が聞こえてきた。

 誰だろう?

 

「おかえり」

 

 戸の向こう側から、透き通った声が届く。

 

「コウジュ…か。ただいま」

 

「入っても良いか…?」

 

「あ、ああ」

 

 了承するが、顔にもみじがあるため顔を隠すように二の腕を乗せる。

 

「んじゃ、失礼するぜ」

 

 戸が開く音と共にコウジュが入ってくる。

 

「えーっと、あーうん、そのーだな」

 

 コウジュは何かを言おうとしてはすぐにやめてを繰り返して、中々二の句が出てこない。

 どうしたのかと顔を覆っていた腕を少しだけ上げて声が聞こえていた方を見る。

 

「「あ…」」

 

 予想外に近くに居たコウジュと目が合う。

 

「っ!?」

 

 と、同時に俺は目にしてはいけないもの見てしてしまい慌てて腕を再び下ろす。

 

 その…なんだ…、えっとだな…俺は寝転がっているわけで…コウジュは背が低いとはいえ、ミニスカートなわけで……。

 簡単に言うと、俺は障子戸の方に頭を向けて仰向けになっていた。それも戸の近くで。

 その状態で俺は乗せていた手を除けた。

 つまり、中を見てしまいました。ごめんなさい…。

 

「…? あっ!! てめぇ!!」

 

 俺の態度からどういうことか気付いたのか中に入ってきてドゲシっと俺の脚を蹴ってくる。

 既に夜と言って良い時間ではあるのだが、障子紙を通して入ってくる月の光があるからか結構部屋の中は明るい。おかげでしっかりと見えてしまったわけで…。

 

「ごめんなさい…」

 

 ホントにごめんなさい…。

 

「…まぁいいや」

 

 コウジュの声音がいつもと同じ緩いものになった。

 どうやら許してくれたようだがまた手を上げたら大変な事になる気がするので、実際には出来ないが内心ではいつまでも土下座をしています。ホントに、はい。

 

「いいって、不可抗力ってのもあるだろうし、まぁさすがに恥ずかしくはあったが…、ちっ、多分今顔赤いな…。よし顔を上げるな。そのままでいろ。オーケイ?」

 

「お、おーけい…」

 

「はぁ…。それで、士郎はこんな所で何をしてんだ?」

 

「何って…」

 

 溜息をつきながら、トサリと軽い音がコウジュの方からした。

 どうやら中に入ってきて近くに座っているようだ。

 

 さておき何と答えればいいのか。

 セイバーと喧嘩して、セイバーを置いて自分だけ帰ってきて、ふてくされて寝てる?

 改めて考えるとどうしようもない事をしている。

 喧嘩したにしてももう少しあっただろう、俺。

 

「うーんと、俺って口下手だから間接的にというか、オブラートにというかそういうの苦手だから喧嘩売ってるみたいに聞こえたらゴメンな。

 今日は、楽しかったか?」

 

「あぁ…」

 

「セイバーに楽しんでもらえたか?」

 

「…あぁ」

 

 楽しいと言ってくれた。

 それにあの微笑みが嘘だとかそんなものじゃなく、心の底から楽しんでくれた。

 

「…伝えたのか?」

 

「……」

 

 ああ、伝えたよ。

 でも俺の言葉じゃ…。

 セイバーに届かなかった。

 

 

「伝えたんだな……。

 

 

 

 俺の言葉を使って」

 

 

 コウジュの…言葉…?

 

「悪いな、見てたんだ。全部ってわけじゃぁないんだけどな」

 

「見て…た? でも何で…」

 

 俺は慌てて起き上がる。

 顔の事とか諸々忘れて、コウジュの真意が気になって起き上がってしまう。

 

「あ……」

 

「~~~~っ!!」

 

 起き上がって目にしたのは先程と同じものだった。

 コウジュは俺の正面で胡坐をかいて座っていた。

 そして暗闇の中で見えてしまった中身。

 それに気づき慌てて顔を背けようとする。

 

「っ!!!!」

 

「!?」

 

 だが俺はそれより早く壁まで吹き飛ばされた。

 勢いよくぶつかった俺は、壁を背にして何が起こったのかを確認する為、突然のことに瞑っていた眼を開けた。

 

 ――トスっ――

 

 ついでに首の辺りに何かが刺さる音が聞こえた。

 

「斬り落としてやろうか…両方…」

 

 斬り落とす!? 両方!? ドコとドコ!?

 

 コウジュの物騒な言葉と共に、目に入ったのは何やら物騒なものが俺の首を固定している様子だ。

 目に映るのは先が二つに分かれ俺の首をはさみこむように固定する、赤よりも紅い血のような色の槍。

 一度コウジュに見せてもらったロンギヌスの槍だ。

 何故にロンギヌス!?

 有名な彼のロンギヌスとは違うらしいが、それでもあらゆる防御を貫く概念を持つというものらしい。

 コウジュいわくこれでランクB。

 この禍々しさと宝具特有の神聖さがこれでもかと俺に圧迫感を与えているこれが、だ。

 

「おい…俺は真面目な話ができねぇ呪いでも掛ってんのか? やっちゃいけねぇってのか? どう思うよ」

 

 槍の柄を持ち、帽子のせいでよく見えないが目が据わっているのは確実なコウジュが問うてくる。

 

「い、今のは俺が悪いと思うので謝ります…。ごめんなさい…」

 

 首の左右に伝わってくる冷やりとした金属独特の温度がぴたりと俺の首を挟んでくれていることを告げてくれている。たぶん1ミリでも首を動かせば危ない。 

 変わりとばかりに頭の中で土下座を敢行する。深く深くだ。

 槍が無かったらもちろん実際にやっている。多分額が擦り減る位に…。

 確かに下着を見てしまったからというのもあるが、何故かそうしなければならない哀愁をコウジュが漂わせているため、せずにはいられない。

 

 コウジュは、最近よく見るため息をまた1つ吐いて今までの空気を霧散させた。

 

「いいさ、どうせ俺のせいだもん…」

 

 なんでだろうか、遠坂と一緒に泣いているデフォルメされた絵が後ろに見える…。

 

「…悪い。話を戻すぞ」

 

 コウジュはロンギヌスを抜き、どこかへと消した。

 

「何だっけか…、あーそうだ、理由だったな。

 気になったからってのが一番大きいかな。一応護衛とか他の理由もあったりはするんだけどさ。

 やっぱり、俺が助言した訳だし? 気になるっしょ。

 尾行してた事については謝罪するよ」

 

 尾行された事自体はそんなに怒りとかは湧いてこない。

 コウジュの言う『気になった』というのも恐らくだが、興味ではなく心配から来たものからだろう。

 普段からお茶らけた態度ばかりだし、真剣という言葉がこれほどまでに似合わない子なんていないと思うが、それでも、真剣に心配してくれる優しい子だというのは分かってきた。

 あの遠坂もコウジュの秘密主義的な部分を、だからこそ怒るに怒れないと言っていた。

 本人は否定するだろうけど、優しいってのは俺も分かる。

 

「尾行は…ちょっと恥ずかしいけど怒ってないさ」

 

「そっか…」

 

「それに、謝るのはこっちの方だろ。コウジュは言わないで欲しいって言ってた言葉を使ってしまったんだからさ」

 

「俺も…別に怒ってないよ。理由は前にも言ったけど恥ずいからだし。

 でもまぁ、士郎があのタイミングで言うのはちょっと予想外だった。

 恋は盲目っていうか、よっぽど気が急いていたのか…」

 

「そう…なのかな…」

 

 焦り…。

 聖杯戦争はもう終わったという。

 そしてあとは、聖杯を、ギルガメッシュをどうにかするだけ。

 それが終わればもう、セイバーは居なくなってしまう。

 セイバーが新たな人生を拒否している以上、聖杯を壊してしまったらセイバーと別れなければならない。

 いくら俺が望んでも…。

 

 ってそうだコウジュなら。

 

「なあコウジュ!! セイバーが望んだら、コウジュなら他のサーヴァントみたいに聖杯が無くても二回目の人生って歩めるのか!?」

 

 俺の問いに、コウジュは顔色を曇らせながら答える。

 

「んー、多分難しい…かな。セイバーの状態っていうか、世界との契約時のことって聞いたことある?」

 

「いや、ないけど…」

 

 一応、夢を通してみた事はある。

 契約に至った経緯も。

 でもコウジュが言う状態っていうのが分からない。

 

「セイバーはな、厳密にいえばまだ生きてる(・・・・)んだ」

 

「生きてる?」

 

「セイバーは生前…と言っては微妙だけども、致命傷を受けた。そして今にも死にそうになっている時に後悔し、願ってしまい、それを世界が契約を対価に聞き届けてしまった。

 サーヴァントは本来呼ばれた後は座に還る。けど、セイバーはその契約した時点へ還り、そしてまた呼ばれる。

 つまり、セイバー自身の時がその契約の時点で止まってるんだよ。

 凛が言ってなかったか?

 サーヴァントが前回の聖杯戦争の事を覚えてるのはおかしいって。

 けどセイバーが覚えてる。それは特殊だからなんだよ」

 

「そう言えば…」

 

 確かに、いつだったかそんな事を遠坂は言っていた…気がする。

 

「俺のは死んだ瞬間に生き返らせるからな。だからセイバーには現状(・・)どうしようもない」

 

 そっか…。

 

「そ ん な こ と よ り!!

 まず仲違いをどうにかしろよ」

 

「うぐ…」

 

 言い返せない。

 

「なあ士郎。士郎は結局セイバーにどうして欲しいんだ?」

 

「俺は、セイバーに今を生きて欲しい。王としてじゃなく、セイバー自身の生を…」

 

 頑張って頑張って、自分を殺してまで尽くして、それでも報われないなんて嘘だ。

 

「だったらそれでいいと思うんだけどね。俺の言葉なんか使わなくてもさ。大事なのは士郎の気持ちなわけで、まぁセイバーの気持ちも大事だけどさ。

 少なくとも俺の気持ちは極端にいえば二人には関係ない。

 はぁ、当事者同士の問題に茶々入れた俺の判断ミスかねぇ…」

 

 深く深くため息をつくコウジュ。

 

「そういや、仲違いの原因ってそれ位か?」

 

「えっと、大まかには…そうかな。

 あ…」

 

「何さ?」

 

「士郎にだけは言われたくないって…」

 

「その辺聞いてないな。どういう事?」

 

「俺が、セイバーは闘う事に向いてない。もう自分の為に生きて欲しいって言ったんだ。自分の事を考えて行動しないあなたにだけは言われたくない…って…」

 

 後半はだんだん尻すぼみになってしまう。

 

 死者の考えだとまで言われてしまい、あの時は自身も気が高ぶっていたからそうでもないが、今改めて反芻するとダメージが大きい。

 しかも好意ある人物に言われた訳だから…あ、軽く泣きそう。

 

「おい、ヘタレて自分の世界入るな」

 

「へ、ヘタレてないぞ!?」

 

 男としてそれだけは否定させてもらう。

 

「はいはい。それでなんだけど、それは言われても仕方ないと思うぜ?」

 

「そ、そうなのか?」

 

「そりゃそうでしょ。自分の行動を考え直してみたら分か…らないか。だからやってるわけだし。士郎だし」

 

「うぐ…」

 

 またしても言い返せない。

 それに、胸に何かが刺さったように胸が痛い。

 男として泣いては駄目だと思う。

 けど――、

 

 思わず手で目元を触る。

 良かった。まだ泣いてない。

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

「話をしよう…あれは――――」

 

 

 シリアスシーン? 何それ美味しいの?

 

 さておき、え~、今から士郎の中の意識改革を始めようと思います。

 その為のお話。

 OHANASHIじゃないよ?

 ちゃんとした?お話だ。物語ともいうね。

 

「それはある一人の魔王のお話。優しい優しい、黒の王の―――――」

 

 話すのはとあるシスコン魔王のお話。

 

 妹の願い『優しい世界』を作るために世界に喧嘩を売って勝っちゃう話です。

 ある少女と出会い、王の力を得た少年は世界を一度ぶっ壊し、作り替える。

 

 その最後はその身に世界中の恐怖を集めて―――死ぬ。

 

 かくして世界は平和になったのでした。

 

「そんな奴がいたのか…」

 

「異世界の話だよ。あくまで…」

 

 Fateの世界があるんだ。無いとはいえない。

 ちょっと詐欺っぽいが、気にしてはいけない。

 

「けどな、世界は救われたけど、その話は決してハッピーエンドじゃない。めでたしめでたしで終わらない。というか終わっちゃいけないと思うんだ。何でだと思う?」

 

「…分からない」

 

「その魔王の妹の本当の願いはな、兄と共に暮らすことだったんだ。仲良く、のんびりと…。

それに、魔王に力を与えた少女だって、残された。

そして、魔王自身が救われていない」

 

「………」

 

「自身を勘定に入れないなんて、まるでどこかの誰かさんみたいだな」

 

「………」

 

 士郎は何も答えない。

  当然だろう。士郎の中の“正義の味方”というのは自身を犠牲にしてでも誰かを救うというもの。

でも、それじゃあ救われない人も居る。

 

「…は―――」

 

「んあ?」

 

 士郎がぼそぼそと何かを言い始める。

 それが聞き取れなくて聞き直す俺に、士郎は真っ直ぐ瞳を向けて改めて口を開いた。

 

「…コウジュは…どうなんだ…?」

 

「俺?」

 

 ふふん、そんなの決まっている。

 

「俺がハッピーじゃねぇハッピーエンドなんか許さねえ!」

 

「っぷ…」

 

 何故笑うし…。

 

「何かおかしいか?」

 

「いや、あまりにもコウジュらしいと思ってな」

 

「ぐぬっ…」

 

 なんかすんげー良い笑顔で言いやがる。

 やけにすっきりした顔だ。

 くそぅ、なんか恥ずかしいじゃんか…。

 

 けど、元気になってもらいたくて俺は来たわけだしこれで良いのかな? 

 

「とにかく!! 俺が言って良い事かは微妙だけど、自分を勘定に入れろ! それで救われる人がいるんだから“正義の味方”だっていうなら自分も救ってみやがれ」

 

「………」

 

 俺の言葉に再び口を噤む士郎。

 ああもう! だからなんでそこで悩んじゃうんだよ!

 俺が単純に考え過ぎてるだけなのか?

 違うよな。そうじゃない筈だ。

 中身が一般人だから、本当の悲劇というものを知らないからこそ俺はそう思ってるだけなのかもしれない。

 でも、イリヤを目の前にした時、あの子を救いたいと思った。死なせたくないと思った。

 それで良いじゃねぇか。

 そう思うだけならタダだ。

 それを実行するのは本人の責任だ。

 だったら最後までやり通せよ。救いきれよ。

 俺が好きな正義の味方ってのはそういう奴だった。

 やらない善よりやる偽善。

 自分の気に入らない現実を否定して、好きなだけ救いきって、最後はみんなでハッピーエンドじゃダメなのかよ。

 

 熱くなってる自分の頭を振り切るように一度大きく振る。

 

 これは押しつけだな。

 自分の好きなものを押し付けてる。

 でも、悲劇を乗り越えて立ち上がる主人公を見て感動する気持ちとは別に、その悲劇すらも起こさずにすべてを救う夢想は誰でもするはずだ。

 

 意を決する。

 これも偽善だ。

 でも、やっぱり士郎にも救われて欲しい。

 

 改めて俺は口を開いた。

 

「士郎の夢は?」

 

「“正義の味方”だ」

 

「じゃあ聞くけど、士郎は正義の味方になりたいのか? それともならなきゃいけないのか?」

 

「それ…は…」

 

「質問を変える。士郎は何のために正義の味方になりたい? “人助け”をしたいからか? それとも“贖罪”がしたいからか?」

 

「………」

 

 士郎だから全部だろうな。

 確か、士郎の中ではあの大火事の中で助けを求められても助けられず、自分だけが助けられた事の贖罪と、その助けてくれた人との約束がかなり大きかった筈。

 

「俺は別に士郎の根幹を否定するつもりはない。とは言っても肯定するつもりもないが…」

 

「どっちだよ…」

 

 苦笑気味に士郎は俺に返す。とはいえ、先程までの士郎よりは少し楽な顔をしている。

 ふむ、士郎の中で何かのヒントになったかな?

 それなら嬉しいが…。

 

「俺は士郎じゃないし、士郎が通って来た道を()ってはいても知らない。

だから俺からはこうした方が良いんじゃないかとは言えてもこうしろとは言わないし、言いたくない。

 士郎も嫌だろ? 知りもしない癖にあーだこーだ言われるの。

 まぁ、俺が言ってる事も既にそれに値するかもしれんけどさ」

 

「そんな事はっ!!……ないと思う…ぞ?」

 

「なして疑問形?

 まぁいいけど。さておき、あー、つまりだな。士郎は別に正義の味方になりたいんだからなればいいと思うけど、やり方を間違えんなよって話」

 

「けど、間違えたやり方って言われてもな…」

 

「簡単じゃねぇか。誰か泣かしたら“間違い”だ。簡単だろ?“間違い”じゃなくても少なくとも正解ではないじゃんよ」

 

「ははっ、確かにな」

 

「笑っていこうぜ? 皆で助け合えたら万々歳だ」

 

「ああ、それは確かにハッピーエンドだ」

 

「だろ? さっきの魔王の言葉を借りるなら“救って良いのは救われる覚悟のある奴だけだ”ってね」

 

「はは、なんだよそれ」

 

「う、うるさい! 自分でも微妙だと思ってんだからツッコムな!」

 

 さてと…。

 俺は障子戸の方へ向かう。

 

「そろそろお姫様を迎えに行く時間じゃないか?」

 

「や、やばい!! もうこんな時間か!!」

 

 現在はもう夜が更けって、深夜とまでは行かなくても良い子なら寝ていてもおかしくない時間だ。

 

 士郎は慌てて立ち上がり、俺の横を抜けようとする。

 

 その士郎の手を掴み、少し引きとめる。

 

「コウジュ?」

 

「さっきの、お前が助かる事で救われる奴の中には俺も含まれてる。だから、似合わねぇし、ボキャブラリーの少ない頭を使って言ったんだ。それだけは――――」

 

「ああ、こんな小さい子にまで言われたんだ。皆で笑えるようにしてみるよ。

じゃあ行ってくる」

 

「そっか…って、おい!! 誰が小さいかぁぁぁぁ!!!」

 

 はぁ、もう居ねぇーし…。

 

「ほんと口下手だなぁ俺…」

 

 もう居ない士郎が走っていった方を向きながら、呟く。

 

 

 

「口下手という割に、えらく何かを指し示す事を言っていたと思うがね?」

 

 士郎が走っていった反対側の廊下、そこには壁にもたれるようにして赤の弓兵が居た。

 こいつ聞いてやがったな。

 後一つ言うと身長がアレなんで似合わないぜ?

 

「誰のせいだ!!」

 

「ナチュラルに心の声を読むな」

 

「顔に出ていた」

 

 おっと…。

 

「正直気付かなかったぜ。どこから聞いてた」

 

「どこからだったか…。君が可愛らしく顔を染めたらしい所は聞いたな」

 

 ほぼ全部じゃねぇか。

 

「って誰が可愛くだ。まったく、諜報はアサシンの仕事だろ?」

 

「バーサーカーの身で何度もしている君に言われるとは思わなかったよ」

 

「……」

 

「何かね?」

 

「ひねくれ者」

 

「では私は君にツンデレという言葉を贈ろう」

 

「誰がツンデレだ!! というか、どこで知ったし!」

 

「いやなに、ライダーが君の事をそう言っていたのでね。あと、イリヤと凛の事も」

 

「そっちが本物だ。俺は違ぇよ」

 

 否定しつつも自分がしている事を反芻すると、若干ツンデレっぽい事をしている気がして胸の内で何とも言えないものが生まれるのを感じていると、アーチャーが静かに話しだした。

 

「私は…間違っているのか?」

 

「何が?」

 

「知っていて聞くのかね?」

 

「こりゃ失敬。んー……さあ?」

 

「さあって…おい…」

 

 いつもの口調が崩れてまでツッコミをするアーチャーに内心笑いつつ俺は続ける。

 

「俺には分からねぇ。さっきも言ったが俺は所詮他人だ。交友関係とかそんなのは抜きにして、他の人なんだ。そいつ本人の事なんて本当の意味で知らない。

 ただまぁ、俺理論で行くと、泣く人が居る以上間違いに近いだろうな」

 

「泣く人が居る…か。まったく、痛みいる言葉だ」

 

「所詮は俺理論だけどね。あと、絶望的なお知らせ」

 

「…何かね?」

 

「過去の自分を殺した所で恐らくあんたが為した事は消えない」

 

 アーチャーの表情が凍る。

 

「タイムパラドックスって知ってるだろ?」

 

「ああ」

 

「あれ、多分あんたには適用されないぜ?」

 

「何?」

 

「もう既にあの士郎とあんたは別人だ。証拠は簡単、俺が士郎に話した事をあんたは士郎として記憶にあるか? ないだろ?」

 

「確かに…ないな。しかし何故?」

 

「知らねぇよ。推測はいくらでも立つがそれが本当かなんて根拠を知る方法を俺は知らねぇ」

 

 根拠がない以上それはただの過程だからな。意味はほとんどない。

 

 それに、俺は衛宮士郎には他のルートがある事を知っているから余計にこの世界の士郎を殺してもアーチャーが消えるとは思えない。

 

「そう…か…」

 

「とはいえ、前にも言ったがあんたは第二の人生を歩んでるわけだし、新たな正義の味方を探すのもありなんじゃねぇか?」

 

「……」

 

「どうするかは自由だって前にも言ったが、俺っていう可能性に賭けてくれると嬉しいね」

 

「そうだな…。どちらにしろ、自由と言いながらとりあえずの目標を潰された気がしないが、心惹かれるものがあるのは確かだ」

 

「うぐ…」

 

 だからこういうの嫌いなんだよ。

 

「悪い…」

 

「クク、冗談だ」

 

 からかわれただけかよ!!

 まぁ、今の笑いはいつもの皮肉気なものではなく本当の笑みな気がしたのでまあいっか。

 実際に俺も悪かったしな。

 

「実際の所はな、あの二度目の生を受けた後の話の時点で君のハッピーエンドに引かれてはいた。その後にも、とある言葉がきっかけで考え直した部分もあるしね」

 

「きっかけ?」

 

「いつだったかな、とある女の子が『自身が辿った道を、救ってきた命に後悔はしてほしくない。良かれと思って救ってきた命なんだ。最後に国は滅びたかもしれないけど、その中で皆が感じる事が出来た幸せまで否定してほしくはない。そんなのって悲しいじゃん?』とね…。私に言われた言葉じゃないが、胸が痛かったよ。

 どうしたのかね?」

 

 俺は胸元を押さえながら必死に恥ずかしさで死にそうなこの気持ちを抑えてんだから、少し そっとしておいてくれ!!いや、してください!!

 うわーうわー!!

 他人から聞くとこうも恥ずかしい事をいっていたのか俺は!?

 ホントもう穴があったら入ってそのまま埋めて欲しい。

 アーチャーがじゃん?って俺のマネをして言った部分にツッコミを入れられない程度には恥ずかしい!!

 

 あ、ちょっと落ち着いてきたな…。

 

「って、あんたいつから盗み聞きが趣味に「あの時の私は食事の用意が終わって、君のマイルームに戻っていた。ついでに言うと君が拒否しない限り、外の様子を見ることが出来るモニターがあるのは気のせいだったかね?」そうでした……」

 

 自業自得じゃねぇか…。

 

「それで、君の言うハッピーエンドの為に必要なのはあと何かね?」

 

 俺の落ち込みようからか、話を反らしてくれるアーチャー。

 

「とりあえずは…やっぱり士郎の強化が先決だな。細かい事はキャスターが準備してくれてるし、金ぴか達の事もたぶん戦力的にいけると思う。聖杯は俺が喰らえば良いしね」

 

 うん完璧だ。

 金ぴかを丸ふりしても大丈夫そうな位にこちら側の戦力は充実してきている。

 その上で士郎には因縁に決着をつけてもらう。

 つまりは、聖杯の事は俺に任せて先に行けと言いつつ金ぴかを押し付ける作戦。

 なんていう外道。

 でも、現状それが一番成功確率高そうなんだよなぁ…。

 

 自分の不甲斐無さに内心で涙していると俺を何故か残念な子を見る目でアーチャーは見ていた。

 

「前から言おうと思ってたのだが、その喰らうとか聖杯を弄るだとかの表現はどうにかできないものなのかね?」

 

「ムリダナ。この表現が一番合ってるし、俺が使う宝具的にもな」

 

 きりっと答える俺にアーチャーはやれやれとでもいう風に首を横に振った。

 

「分かった。言うだけ無駄だという事がな」

 

 失礼な!

 

「あ、そういえば。アーチャーに見てもらいたいものがあったんだよ」

 

 俺は手に魔力を集中させ、ある魔術を発動させる。

 

「これ…は…『投影』…まさか、無限の剣製から?」

 

「おうよ。なんとかね。ってか難しすぎるでしょこれ?」

 

「難しいとかどうとか以前の問題だとは思うが…、いや、しかし何故それなのかね?」

 

 アーチャーの問い、それは俺の手の上に現れたものが剣ではないからだ。

 では剣ではなく何が現れたのか?

 アンサー、たい焼き

 そりゃツッコまれるか。

 

「いや、練習をこれでしてたからつい…」

 

 UBWをラーニングで覚えたとはいえ、投影自体も練習したかったんでやってみたんだけど、予想外に難しかった。

 ラーニングで覚えたとはいえ、エミヤシロウの『投影』はUBWからの派生だしいけるとは思ったんだけどね。

 やはりラーニングはそれ其の物を技能として覚えるだけでそこからの応用は努力次第だから扱いづらい。

 さておきなんでたい焼きかというと、とある桜がきれいな島の魔法を思い出して、あれって投影っぽくねとか思いながらやったら何故か出来たんでそのまま練習に…。

 最初は、何でUBWの派生の練習の筈なのにこっちの方が軽くできちゃうの?とか、腹ペコキャラ確定?とか、無限の菓子製?とか考えたけど美味しいから良いやと納得した。

 だって俺ってば獣人だし! 食べることの方が親和性高くてもおかしくないし!!

 その後に一応剣もできたしね。

 

「む…少し、というかかなり疑問はあるが、その『投影』がどうかしたのかね?」

 

「いやー、士郎に自分の中の物を自覚してもらおうかとね」

 

「君が教えると?」

 

「だって、アーチャーが士郎に教え「断固として拒否する」――だろうと思ったからね。ヒントとしてかね? ヒントさえあれば俺が士郎に渡してあるあれ(・・)でどうとでもなるだろうしさ」

 

「ふむ、なるほど…」

 

 なるほど…とか神妙に呟くアーチャーをニヤニヤしながら見る。

 どうせ、見るに堪えんとか言いながらなんだかんだで修行の手伝いをしてくれるんだろう。

 比較的少ない許されてる男のツンデレだもんねこの人。

 

 そんなアーチャーにほっこりしつつ、まだやるべきことが残っているから話を終わらせる。

 

「さてさて、俺もそろそろ行こうかね」

 

「どこへ?」

 

「決まってんじゃん。金ぴかいじり…ごほん、さっそくヒントを渡しに行こうかと思ってね」

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

「ふふ、ははははは、アハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!」

 

 さも愉快だと言わんばかりに、地面に倒れる俺たちを高笑いしながら見る男。ギルガメッシュ。

 正直なところ、慢心していたのだろう。英雄王ギルガメッシュという存在を。

 その存在を、多少強くなった程度でどうにか対処できるなどとは思い違いも甚だしかった。

 

 コウジュに諭されてから、とにかくセイバーに言いたい事があって、伝えたくて、橋まで戻った。

 そこにはまだセイバーが居てくれて、自分の思いを改めてぶちまけて、まだまだ言いたい事はあったがセイバーの手があまりにも冷たかったからひとまず家に戻ろうとした。

 

 その矢先だった。

 

 ―――どこに行く? それは我の物だ―――

 

 そう言いながらあいつが現れたのは。

 

 最初は俺が囮になっている間にセイバーに逃げてもらおうと思ったが、コウジュに言われたことがふと脳裏を掠めた。

 これではまた同じではないか。

 だからセイバーと共に一当てした後、体勢を立て直そうかと思ったのだが、奴はそれすらも許してはくれなかった。

 

『ゲートオブバビロン』

 

 コウジュは確かそう呼んでいた。

 そこから出てくる無数の宝具。

 その宝具たちは真名解放などしてはいなかった。

 だが結果は散々たるものだ。

 俺は胴や、全ての手足を撃ち貫かれている。 

 セイバーは撃ちだされた宝具は避けたが、ギルガメッシュが取り出した、エアとかいう禍々しい歪な形状をした剣を真名解放しセイバーに瀕死の重傷を負わせた。セイバーもエクスカリバーを真名解放したのに…だ。

 

 セイバーやコウジュを相手に修行をした。

 だから、勝つことはできないと知ってはいるが、逃げる程度は出来るだろうと踏んだ。

 それが間違いだった。

 

 

「セイ…バーっ」

 

「ぐっ、士郎……」

 

 俺のすぐ傍に飛ばされてきたセイバーに話しかけるが、セイバーから返ってきた言葉は弱々しく、身体の至る所から流れ出る血が瀕死である事を俺に容易く分からせる。

 

 だというのに、彼女は俺を心配そうな瞳で見る。

 

「あなただけでも…逃げて…ください…」

 

 そしてセイバーはかすれる声でそう言った。

 

 だがそんなことは出来るわけがない!

 

 コウジュは言った。誰かを救うなら自分も救えと。

 だけど、誰かを救わず自分だけが救われるなんてのは違う!

 ああ、そうだ。

 今セイバーがしていることこそが俺がしていたことなんだ。

 だったら、セイバーが俺を救おうとするのなら俺がお前を救おう!

 

 自身の身体に鞭打ち何とか立ち上がる。

 穴の空いた部分からは、力を入れたせいでブシッと勢い良く血が吹き出る。

 

 それがどうした!!

 良くも悪くも稽古の時に痛みには少なからずの耐性はできた。

 それ以前に、ここで倒れていてはせっかく気づいた意味が無い!!

 

 何とか立ち上がり、武器を作りだす。

 最強の剣、あの時投影したあの剣を!!!

 

「トレース・オン!!」

 

 投影(イメージ)するのはコウジュと戦った時のあの黄金の剣!!

 手にしっかりとしたあの時の剣の重さが伝わってくる。

 成功だ。

 それを構え―――、

 

「『投影』…か…。つまらぬまねをする」

 

 そんな俺を見てギルガメッシュは何かを取り出す。

 それは黄金の剣。

 奇しくも俺が投影したそれとよく似たものだ。

 

「お前の持つ、王を選定する岩に刺さった剣は、北欧の支配を与える木に刺さった剣が流れたもの。これは更にその源流」

 

 何…? それじゃあ…。

 疑問を持っちゃいけなかったのに、俺は思い浮べてしまった。

 

「どう足掻こうが、複製が原典には――――」

 

 次の瞬間には奴は俺の前に居て―――、

 

「勝てん」

 

 そして俺は剣ごと胴を逆袈裟に斬られ、軽くふるわれただけのそれは、俺の胴に紅く太く線を残してもあまりある威力で俺を再び後ろへ吹き飛ばす。

 

「が…は…」

 

 痛い。熱い。

 その二つが全身を駆け巡る。

 それの所為で思考そのものが乱される。

 

「士郎―――で―か――!?」

 

 セイバーが何か言ってきてくれているが良く聞こえない。

 自身の血の音がうるさいのだ。

 ドクドクと何かが流れ出るように、心臓が早鐘を打つ。

 うるさい。

 そう思ったからだろうか、ズボンの右ポケットの辺りが熱を持ったと思ったらその心臓の音が少し静まった。

 同時に、全身を支配していた痛みも熱も少しずつではあるが引きはじめる。

 何…だ?

 いや、今はそんなことはどうでも良い。好都合だ。

 

 少しずつではあるが、身体を起こす。

 

「士郎! それ以上無理をしてはっ」

 

「だいじょ、…ぅぐっ」

 

 セイバーの声に無理をして返答しようとしたからか、口から大量の吐血。

 それを見てさらにセイバーが悲痛そうな表情をする。

 ああ駄目じゃないか。セイバーが今にも泣きそうだ。

 これではコウジュに言われてしまう。

 誰かが泣いているのならそれは間違い。

 俺はまた、何かを間違えたんだろう。

 

「士郎…」

 

 未だに立てない俺を自分もボロボロなのになんとかその小さな体躯で守ろうとするセイバー。

 やつはそんな俺たちを冷ややかな目で見ながら話していく。

 

「セイバー、早く我の物になれ。さすればその小僧を助けてやらん事もない」

 

 な…に…?

 

「我は寛大であるからな、野良犬程度は捨ておいてやる」

 

 その言葉を聞き、セイバーは俺を見た。

 その表情は彼女には似合わない、諦めを帯びた今にも泣きそうなものだ。

 

「わかりまし――」

 

 俺から目を離し、自分を殺して了承しようとする彼女にすべてを言わせる前に俺は叫ぶ。

 

「そんなのは駄目だ! 答えるな!!!」

 

 いつの間にかあれ程うるさかった血の音も静かになっており、身体も少しだけ回復したため、俺は再び立ち上がる。

 だがやはりというか、すこしは回復したとはいえ身体中に穴があいている事実は変わらない。

 

「何をしているのですか!? もう無理です止めてください!! こんな事であなたに死なれたら私は―――」

 

 この期に及んでまだ俺の心配をするのか。

 ははっ、コウジュの言っていたことが改めて身にしみる。

 しかし、今はそんなことは置いておく。

 

「うるさいっ、少し黙ってろ…」

 

 俺は怒鳴るようにセイバーに言う。

 その声に驚くセイバー。

 

「し、しかし、私は……」

 

「俺には!! セイバー以上に欲しいものなんてない!!」

 

「士郎…」

 

「俺の中にはお前の代わりになるものなんて一つもないんだ!!」

 

 

 腹が立つ。

 ああ、本当に腹が立つよ。

 セイバーにこんな思いをさせてしまう俺の弱さにも。

 あくまで俺を助けようとするセイバーにも。

 そして何よりもセイバーにこんな思いをさせている英雄王に!!

 

 腹が立つ!!!!

 

 

「だから俺は、こんな奴にセイバーを渡してたまるものか!!」

 

「たわけ。それは貴様には過ぎた宝だ」

 

「失せろ英雄王!!! お前にセイバーは渡さない!!」

 

「雑種が…。セイバーの存命に手間がかかるがお前を潰すか」

 

 英雄王があの歪な剣を持っていない左手をこちらに向けて軽く振る。

 その後方にゲートオブバビロンが開き、その中身が顔をのぞかせる。

 それらが、こちらに射出される。

 

 こうなったら、あの壊れない概念を持つ剣を一旦出して…。

 そう思いカードを素早く出し剣を具現化させようとするがそれよりも早く、辺りに轟音が響いた。

 

 ――――ガガガガガガガガン!!

 

 英雄王が放ってきた剣達は横から飛んできたな何かに弾かれ、こちらに届く事はなかった。

 

「誰だ!!?」

 

 英雄王が自らの剣群の進行を邪魔した何かが飛んできた方向へと叫ぶ。

 俺も応用にそちらを向く。

 そこに居たのは、小さくも頼もしい狂戦士のクラスであった少女だった。

 

 

「じゃっじゃーん。真打ち登場!!」

 

 

 何故か、あのいけすかないアーチャーのものに似た赤い軽鎧と外套に身を包んだ姿ではあったが。

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 いやー、ちょっとビックリした。

 何故かっていうと、ギルガメの行動が記憶にある原作と微妙に違う。

 むしろ、今までが一致してるのがおかしかったのかもしれないが、本当に焦った。

 本来なら士郎が新たな力を顕現して、ギルガメのエヌマ・エリシュを押し返す筈だったのに、まさかゲートオブバビロンの方を使うとは。

 しかも来た瞬間にはその状態だったから、慌てて、俺も『投影』品を撃ちだして横から撃ち落とした訳だ。

 二人ともボロボロだ。

 失血死してもおかしくないほどに衣服には血の赤が見える。

 はぁ、二人にはすまないことをしちゃったなぁ…。

 いや今は反省している時じゃないね。そして落ち込んでいる場合でもない。

 自らの能力の弱点は心理状況に影響されること。 

 まずはあいつをかるーく退けようじゃないか!

 そして同時に、士郎にはもう一歩先に進んでもらおう。

 そのために、これ(・・)を着てきたのだから。

 赤原礼装。

 これはアーチャーが身に纏っている軽鎧の名前だ。

 PSPo2にはアーチャーが着ているその赤原礼装が存在するからそれを改造して着ているわけだ。

 ただやはりというか、まことに残念ながら赤原礼装は赤原礼装でも女物に改造してある。

 いわゆるアチャ娘だ。

 PSPo2をしている時、俺が育てていたKoujuは女の子であったため。性別制限があって着れなかった赤原礼装を着れるようになって嬉しくは思うが、アチャ娘であるため、嬉しさが急暴落というのはまた別の話である。

 さておき何故このような姿なのか?

 それは今からアーチャーとして動く必要があるからだ。

 

「また貴様か小娘!!」

 

「小娘言うな!! このデコっパチ!!」

 

「なにぃ!!?」

 

「ずっとオールバックにしてると広くなるぞこの予備軍め!!!」

 

 なんて、どこかで聞いた事実なのかどうか良くわからん事を言って金ぴかを弄りながら士郎達との間にまで跳んで降り立つ。

 

「コウ…ジュ…」

 

「話は後だ。士郎、俺が今から時間を稼ぐ。その間にお前は勝てるものを作れ」

 

「勝てる…もの?」

 

「そうだ。簡単だろ? 勝てるものを作るだけだ」

 

「だが…」

 

「俺が渡した剣、あれを使ってくれ。今の士郎が強化も用いれば、きっと届くはずだよ。さて、トレースオンっと」

 

 そう士郎に小さい声で伝えると、俺は手に白黒の双剣、干将莫耶を取り出す。

 

「いくぜっ!!」

 

「捻りつぶしてやる!」

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 勝てる…もの…?

 

 

「ゲートオブバビロン!!!」

 

「―――停止解凍(フリーズアウト)全投影連続層写(ソードバレルフルオープン)っ!!!」

 

 目の前では剣の撃ち合いが行われている。

 振るわれることを主目的とした武器ではあるが、目の前の様相はそう評するほか無い。

 ギルガメッシュは原典を、コウジュは投影したものを、それぞれの違いはあるだろうがまさしく剣の撃ち合いだ。

 いくつもの宝具のぶつかり合い。

 その一発一発に信じられない程の威力と神秘を内包しているのはいつものように目を通して得る情報が無くとも分かる。

 

 ただ、その中でもコウジュが産みだす物に目が行く。

 なぜだろうか、妙に既視感がある。

 同じ『投影』だから…?

 

 そのとき、ドクンっと何かが脈動したような気がした。

 その原因であろうものを取り出す。

 真力『エクスキャリバー』。

 剣というには刃もなく、剣の形状をしてはいるが儀式剣と言われた方がまだ納得のいく黄金の剣。

 

「士郎?」

 

 いつの間にか、すぐ近くまで来ていたセイバーが心配気にこちらを見てくる。

 

「なんでもない。それより、勝てるものを作らないといけないらしい」

 

 そしてそのためにはこのカードを使えばいいらしい。

 カード名を宣言。

 そうすればカードに描かれていた黄金の剣が生まれる。

 

「士郎それは?」

 

「コウジュがこれを使えって…って、うわ!?」

 

 一瞬、エクスキャリバーが光ったかと思うと、全身の傷が回復した。

 一体何が…?

 身体の奥底にある何かが一瞬熱を持ったような感覚があったが、それか?

 

「士郎…、まさかあなたがっ…」

 

 そんな俺の様子に驚愕を浮かべるセイバー。

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 くっ、難しいっ!!

 多重投影等を用いて金ぴかの宝具を撃ち落とすが、純粋な投影のみで行うのは中々精神をすり減らす。

 PSPo2武器を使えば楽になるのかもしれないが、それでは投影ではなくなってしまう。

 そしたら士郎の眼にヒントとして映らない可能性がある。

 だからやっているのだが…。

 

「ああもう!!」

 

 金ぴかの宝具を続けて投影したもので撃ち落とす。

 

「I am the bone of my sword(身体は剣で出来ている)!!」

 

 前方に、虹色に光る花弁の様に展開する盾を展開する。そこへ金ぴかの宝具が降り注ぐ。

 きっつ…!! だけどやらせねぇ!!

 その状態で展開している盾に後から後から魔力を注入して、展開させ続ける。

 後ろでは、士郎とセイバーが何かを話しているようだが、まだか!!

 

 そう俺が内心で悲鳴を上げた瞬間、光が辺りにあふれた。

 ちらりと後ろを覗き見る。

 そこには片手にエクスキャリバー、もう片手にエクスカリバー、そしてその眼前に紡ぎ出したのは光り輝く黄金の鞘。

 勝った! そう確信する。

 向けていた眼を、再びギルガメッシュへと戻す。

 

天地乖離す(エヌマ)―――」

 

 な!? いつの間に!?

 

 盾の向こう側では金ぴかがゲートオブバビロンから宝具を射出しつつもこちらへと乖離剣エアの真名解放しようとしていた。

 お前そんな器用な事出来たのかよ!!!

 

「―――開闢の星(エリシュ)っ!!!!!!」

 

 くそっ!! 何とかこのアイアスで止め―――

 

「コウジュ!! 避けてください!!!」

 

 ―――ようかと思ったが、セイバー達の準備はバッチリの様だ。

 

 士郎が投影した“黄金の鞘”の後ろに2人それぞれがエクスカリバーを持って構えている。

 なら、邪魔者は避けようじゃないか。

 俺は瞬時にアイアスを消し、横へ力の限り飛ぶ。

 うげはっ、勢いのあまり壁へと激突してしまったが、そんなことを気にしている余裕はすぐに無くなった。

 辺り一面を昼間かと間違うほどの、いや、すべてを白一色に塗りつぶすほどの光がそこに顕現する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちっ…」

 

 しばらくすると、爆発で舞い上がった土煙やらが晴れる。

 それと同時に金ぴかの方は何か不都合が起きたのか霊体化をして消えていく。

 よっしゃ!!

 思ってたのとは若干違うがこれでまた前に、ハッピーエンドに進んだ。

 いっえーい!!

 思わず手を上げながら飛ぶように喜んでしまう。

 この身体になってからは感情が出やすくなってしまったが、こんな時くらいは素直によろこぼう。

 この喜びを誰かと分かち合おうと、ひとまずは士郎達の方へ向く。

 

「あ…」

 

 だが二人を見た瞬間に俺は固まってしまう。

 

 

「士郎…あなたが私の鞘だったのですね…」

 

 

 2人は抱き合っていた。

 そんでもっていい雰囲気。

 

 

 

 とりあえず、俺は上げていた手を静かに下ろした。

 

 




いかがだったでしょうか?

TS物なのに原作主人公といちゃコラすることなく流行りの壁ドンをするコウジュはいかがだったでしょうか?
槍使って対象を壁ドンしたけどこれも壁ドンですよね!

さておき、前回、実習生さんやら新人さんやらと言いつつ何故か文字数が増えるという不思議。
まぁ両方ともいい子だったので助かりました。
いやぁ、なんか若いって良いですねぇ。見てるとほのぼのします。
反応が初々しくて。
まぁそんなわけで、ただでさえ遅い更新速度を遅くする必要は恐らくなさそうです。

というわけで、また次回、よろしければまたお越しくださいませ!

P.S.
日曜アニメ多すぎて朝から見てても気づけばお昼な件について。

P.S.2
家族でよく麻雀するんですが、この間は半荘2回やって、2回目の時に嶺上やったり国士無双やったりとよくわからないほど引きが良かったけど一回目で妹にボロボロにされたせいで結局収支が±1という…orz

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