テンプレ…まじで?(リメイクしてみた) ※現在このすば!編    作:onekou

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どうもonekouでございます。
皆様いかがお過ごしでしょうか?

ついにイリヤがハートキャッチ(物理)されてしまいましたね。
そしてその後にあったラブコメの波動。
浄化されるかと思いました(死んだ目


さておき、stage42をどうぞ!


『stage42:昨日はお楽しみでしたね?』

 

 

 

 目が覚める…。

 とても心地よい微睡から徐々に意識が覚醒していく。

 俺はそれに合わせて体を起こした。

 

「ん…」

 

 自分が起きた事でセイバーも起きたかと思ったが大丈夫だったようだ。

 改めてセイバーの顔を見る。

 決戦が間近だというのは分かっているつもりなんだが、どうしても嬉しさがこみ上げる。

 このまま見ていたいのは山々だが、そうも言ってられない。

 仕方なく布団から出て服を着る。

 

「士郎…?」

 

 どうやら、セイバーを起こしてしまったようだ。

 

「あ、ごめん。起こしちゃったな」

 

「大丈夫です」

 

 セイバーはそう言い、布団を出る。

 だがまあ、あれの後なので当然セイバーも服を着ていないのでセイバーの白い肌が目に写る。

 

「「あ…」」

 

 俺は慌てて目を反らし、セイバーは急いで服を着始める。

 

 昨日(実際は今日だが)互いに見たというのに改めて見ても互いに視線を外してしまう。

 表現のしがたい気恥かしさだ。朝になって日の光があるから余計にだろうか…。

 

「お、俺、先に行ってるからっ」

 

「は、はいっ」

 

 恥ずかしさでいたたまれなくなって部屋を出る。

 

「朝ごはん…いや、その前に―――」

 

 

 頭を冷やすためにも少し外に出てみるか。

 このまま行っても弄られるだけだしな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 玄関を開け、外に出る。早朝故に辺りは薄く朝靄が掛っている。

 

「……~♪」

 

 どこからか歌が聞こえる。

 口ずさむようなその歌はリズム程度しか聞こえないが、それでも歌っている者が楽しげなのは伝わってくる。

 

「中庭の方か?」

 

 足をそちらへ向ける。

 すると、聞こえていたものがやがてしっかりと耳に入り、やはり歌だという事が分かる。

 でも誰が?

 中庭へと出る角を曲がる。

 だがやはり誰も居ない。

 

「――♪」

 

 よくよく聞くと、どうやら声は上からしてくる。

 屋根の上か…。

 今居る場所からでは屋根の縁の所為で上は見えないので、少し移動する。

 とはいえ場所と、そしてしっかりと聞こえ始めた声で誰かは分かった。

 そして見える位置まで行くと、やはり大きな帽子をかぶった不思議な少女、コウジュが居た。

 屋根の上で目を瞑りながら、彼女は楽しそうに体を揺らして歌っている。

 その楽しげな様子もあり、歌とかはあまり聞く方ではないのだが思わず聞き入ってしまう。

 何の歌だろうか?

 

「っと、うんうん、やっぱりいい歌だねぇ。って自分で歌っていうとナルシっぽくていやだなぁ。でも前じゃ思いっきり歌えなかったしなぁ。声的に」

 

 聞き入っている内に終わってしまったようだ。

 もう少し聞いていたかったが残念だ。

 そんな風に少し物足りなく思っていると、コウジュはどういう意味かは分からないが、そう言うと閉じていた眼を開いた。

 そして俺と目が合う。

 途端に真っ赤になっていくコウジュの顔。

 コウジュはそれに気づいたのか、帽子を思いっきり顔まで下げて隠す。

 

「えっと…、聞いた…?」

 

 帽子の奥からくぐもった声でそういうコウジュ。

 

「あー…、おう」

 

「っ~~~~!!」

 

 つい本当のことを言ってしまった瞬間、帽子の向こうから声にならない叫びが出てきた。

 ごめん。悪気は無かった。

 

「あ、でもほら上手だったぞ! それもあってつい聞いちゃったというか。コウジュって歌が上手いんだな」

 

「ちがっ、いや、うん、ありがとう……」

 

 俺の言葉に何故か慌てて帽子から顔を出してそう言うコウジュ。

 最後の方はやはりまだ恥ずかしいのか、ボソボソと消え入りそうな声ではあったが…。

 

 しばらくして落ち着いたのか、コウジュが軽い身のこなしで下へと飛び降りてきた。

 猫が着地する時みたいにしなやかに、音も軽く着地する。

 

「たまたま外に出たら歌が聞こえたからつい来ちゃったんだが、ダメだったか?」

 

「ああ、いや、外で歌ってる俺が悪かったさ。くそぅ、いつのまにかそんな時間か…。気を紛らわせるためにずっと歌ってたから気付かんかったぜ」

 

 不貞腐れるようにそう言うコウジュ。

 ずっとっていつからだろう?

 流石に昨日の夜に別れてからではないと思うけど、でもそれなりに長い時間だったのだろうか。

 まぁでも時間つぶしに歌う位だから歌が好きなのだろう。

 聞いている方も楽しくなるくらいに、コウジュ自体が楽しんでいると分かるくらいだし。

 

 そう思い、素直に感想を言ってみることにした。

 

「そこまで不貞腐れなくてもいいじゃないか。聞いている方も楽しくなるくらいだったし、また聞かせてもらいたいくらいだ」

 

 そう言うや否や、コウジュはまた顔を真っ赤にして俺に詰め寄り、俺の腹を殴ろうとしてきた。

 それを思わず避けてしまう。

 

「避けるな!」

 

「避けるよ!?」

 

 理不尽にそう怒るコウジュ。

 

 何故殴られそうになったんだよ俺。

 本当のことを言っただけなのに。

 

「士郎はいつもそうやって…! ってか俺にそういうこと言うな!! 俺は堕とされないから!!」

 

「そういうことってどういうこと!?」

 

「だから! ……いや、もう良い。どうせ言っても無駄だし」

 

 よくわからないが諦められた。

 解せぬ…。

 

「はぁ、それでどうしたん?」

 

 よくわからないが何故か疲れたような表情でそう言うコウジュ。

 

「いや、特に要は無いんだけど外の空気を吸いに来たんだ」

 

「ああ、色々頑張ったもんね、色々と。寝技の練習とか」

 

 何故かコウジュが辛辣だ。

 

「まあいいんじゃない? やっとの思いが叶ったんだし。俺も陰ながら応援した甲斐があるってものさ」

 

 先程までとは違い、今度はからかうような笑みを浮かべながらそう言うコウジュ。

 ほんと、コロコロと表情が変わるよな。

 でもそれがまた彼女らしい。

 そんな彼女に、からかわれている俺としては苦笑を返すしかなく、笑ってごまかした。

 そこで、コウジュが部屋を出ていく時に気を利かせてくれたのを思い出した。

 

「そういえば悪いな。様子を見に来てくれたのに追い出したような形になっちゃって」

 

「あやまんなって。俺は嬉しいんだぜ? 少なくともお前さんらが望んだ結果じゃないか」

 

「ああ、それだけは確実だ」

 

 それだけは確実に言える。

 

「なら、いいのさ。ハッピーエンドの為にはそういうのが無いとね」

 

 コウジュの言葉にすかさず答えると、そんな俺を見て、彼女はそう寂しげに言った。

 その様子がどうも引っかかった俺は、つい言葉にしてしまった。

 

「そういやコウジュはハッピーエンドにこだわるけど、何か思い入れがあるのか?」

 

 その問いに、コウジュは刹那の間ではあるが虚を突かれたように動きが止まる。

 だがすぐにいつもの楽しげな笑みを浮かべ、俺を見た。

 

「ううん、特には無いんさ。あー、でも、あえて言うなら今まで無かったから見てみたいと思ったってのが正直なところかな」

 

 え? 今まで無かったって、それはいったい・・・。

 俺はすぐにそう聞こうとした。

 だが、言葉に詰まる。

 

 英霊は聖杯に何かの願いを託してサーヴァントとして召喚されると聞いた。

 セイバーは変えられない過去を変える為に聖杯を求めている。

 じゃあコウジュは何を求めてこの戦争に参加するのだろう? そこを俺は知らない。

 だけど、もしかすると今の言葉の中にその答えがあるのではないだろうか?

 例えば、何か悲願をハッピーエンドとして終わらせるため…とか。

 そう考えてしまえばもう続きを聞くことが俺には出来なかった。

 どう聞けばいい?

 本来叶えられないものを叶えるために聖杯を求めているはずだ。

 それほどのものを聞いても構わないのだろうか?

 コウジュならば普通に答えてくれる気もするが、コウジュほどの能力を持ってしても叶えられなかったその願い。

 それは決して軽くは無い筈。

 そうして躊躇っている内に、俺が口を開くよりも早くコウジュは次の言葉を続ける。

 

「そういやそろそろご飯だよな?」

 

 誤魔化すように口早に言うコウジュ。

 その姿がまるで何かから逃げるようで、どこか痛々しかった。

 

「なぁ士郎、聞いてるか?」

 

「え? あ、ああ、今からだ」

 

「そか」

 

 そう言って玄関の方へ向かうコウジュ。

 歩きながら鼻歌を歌っている。

 先程の物とは違うのか、今度は優しい曲調だ。

 

「歌、好きなんだな」

 

 結局俺が出せた言葉はそんな当たりさわりのない言葉だった。

 

「うん、まぁね。音楽を聴いてると感情が豊かになる気がするし、歌えば感情を出すことが出来る」

 

 そう言う彼女は昔を思い出しているのか、目を細め空を見る。

 その姿に、先程までの影は無かった。

 良かった、と安堵する。

 さっきみたいな彼女は見たくない。

 

「それに、前はよくカラオケに練習とか行ってたからつい懐かしくてなー」

 

 カラオケ…? 英霊ってカラオケ行くのか!?

 異世界だから!?

 ってちょっと待ってくれ、先程までの俺のシリアスを返して!?

 

「よく妹とか先輩とかと行ったもんだぜ。点数勝負とかな。上手くいけばお昼代が浮くんだよなぁ」

 

 妹!? 先輩!?

 新事実が続々と発覚なんですがそれは!? 

 というか、えらく所帯じみてないか!?

 お昼代って…いや、コウジュが食べる量から考えたら切実な問題か…?

 いやいやいや、そいう問題じゃないだろ今は!!

 

「か、カラオケとかあったんだな…」

 

「いや、普通街にはいくらでもあるじゃん」

 

 何当たり前な事言ってんの?という顔をするコウジュ。

 これって、俺がおかしいのか!?

 そう叫びたいが、コウジュは既に中へと入って行った。

 仕方なく、もやもやしながらも俺はそれに続いた。

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 士郎を庭に置き去りにし、一足早く居間まで来た俺。

 丁度食事の準備を始める所のようで、俺は手伝いをしながら先程の事を考えていた。

 

 いやぁ、ほんと危なかったんですよ。

 士郎に何でハッピーエンドに拘るのかって聞かれた時はどう答えたもんか悩んだぜ。

 いやだって、特に重苦しい過去がある訳じゃないからな。

 だって元一般人だし。

 咄嗟に作り話が出来るほど頭の回転が良い訳でもないし、そもそもそういうのは言いたくないし。

 その結果が誤魔化すという回答なんですがね!

 士郎、誤魔化されてくれたかねぇ? なんか悲しげな表情で見られてた気がするけど…。

 はっ!? まさかハッピーエンドハッピーエンドばっかり言ってるけど特に何もないことに気付かれた!?

 最近の士郎はやたらと察しが良いからなぁ、ありえる。

 色々なものに気を回しているというか、いや、前から気を使うのは上手だったけど、それとは違って周りをよく見てるというか…。

 あかん、何言ってるか分かんねぇや。

 まあ悪いことではないと思うし、別にいいんだけどさ。俺の中身が特に何もないってことについて気付かれてたとしてもさ。

 だって、昔に何かが無ければ幸せを望んじゃダメって訳でもないだろう?

 前の人生はハッピーエンドもバッドエンドも無い、ただただ普通の生活だったと思う。

 普通の学生生活の中に、適度に人付き合いがあって、そこそこに笑いのある人生。むしろそれなりの物だったと思う。

 そしていつからかはまり出したゲームや漫画にラノベ、それらの空想世界ってものにあこがれを抱いていた。

 楽しかった。

 厨二病なんてものに掛かっていろんなものを妄想して、空想して、物語を考えて…。

 でもそれはきっと日常があるからこそ、出来たものなんだろう。

 改めて考えても、好きな人生だったと思う。

 でも、こんな状態になって、イリヤのサーヴァントになって、そして彼女を守りたいと思った。それも事実。

 そして、どうせ関わってしまったのならハッピーエンドにしてしまいたいと思うのは誰でもそうだろう。

 自分からバッドエンドを目指すなんてドMでもしないだろう。あ、いやドMはそれがご褒美になるんかもしれんけどさ。

  ともかく、このFate/stay nightと前の世界で呼ばれていたここで、俺はハッピーエンドを目指すと決めたんだ。

 今となったからこそ分かる。

 前の、20年と少しではあるが過ごした生活はありふれた日常だった。それがとても大切なものなんだって。

 それを皆に体感してもらいたい。

 イリヤが学校に通って友達と話すところが見てみたい。

 サーヴァントの皆がそこらの商店街やそこらで暇つぶしをしている所が見てみたい。

 士郎や凜ちゃんが大学に行って他愛無いことで盛り上がったり講義について話すところを見てみたい。

 桜ちゃんが士郎に講義の事で分からないところがあるからなんて言いながら教えてもらって、それを凜ちゃんが嫉妬してるところとか見てみたい。

 

 うん、やっぱり楽しそうだ。

 これこそハッピーエンドってやつだろう。

 

 失って始めて気づくなんてよく言うけど、ほんとそうだよな。

 他愛無い日常だったけど、あれが幸せってやつだったんだろう。

 あそこに戻りたい。

 けど、ただ戻るだけじゃダメだ。

 もう俺はイリヤたちに関わった。

 だから、彼女たちと一緒に、俺はハッピーエンドってやつを迎えるんだ。

 

 

 

 

 だから―――、

 

 

 

 

 

 だから、早くご飯を食べよう!

 腹が空いては戦は出来ぬですよ!!

 

 え、俺がたくさん食べる分余計に用意しないといけない…ですか?

 

 サーセン。

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 朝食を食べ終わり、一息ついた後、俺は外出することにした。

 言峰教会に用があるのだ。

 一昨日、言峰に聞いた黄金のサーヴァントについての情報、少し調べると言っていたから何か追加情報がないか気になったため足を向けることにしたのだ。

 念のためセイバーと共に向かう。

 このタイミングでサーヴァントを連れずに歩いて、最悪殺されるなんて事になったら全てが水の泡だ。

 というか、むしろ身内の人間にぶん殴られる。

 殴られる程度で何をと思うかもしれないが、それは甘い。パフェに砂糖を並々振り掛けたものより甘いというものだ。

 考えてもみてくれ。基本全員サーヴァントだぞ?

 他の遠坂や桜だって油断ならない。

 遠坂は中国拳法を使えるし、桜だって最近魔力の使い方とかをサーヴァント勢に教えて貰ってるみたいで身体能力が格段に上がっている。

 ついでに言うと桜にはもれなくライダーが付いてくる。下手をすれば姉の遠坂も…だ。なにそのコンボ。

 そういえば、気づいたらライダーがナチュラルに居間に居て食事をしてたんだが何故誰もツッコまなかったのだろうか? いつもの“気にしたら負け”というやつかな…。

 

 まあ一旦それは置いといて、実は先程勝ち抜けで腕相撲をしたんだ。ちなみに魔力の使用は可だ。

 どうなったと思う?

 

 一位:コウジュ

 二位:ライダー

 三位:セイバー

 四位:ランサー

 五位:桜

 六位:アーチャー

 七位:遠坂

 八位:俺

 

 といった感じだ。

 キャスターは不参加なんだが、これをどう思う…?

 男勢全員で崩れ落ちてしまったのは言うまでもないだろう。

 それから、改めて思うがツッコミどころが多すぎる。

 まずコウジュ。あの子は力だけで絶対に世界を落とせる。

 ライダーとセイバー以外ピクリとも動かせなかったんだぞ?

 何故それが戦闘でいかせないのかがかなり謎だし…それを言ったらコウジュが泣きそうになったのは別の話。

 まぁ後のサーヴァント勢は良いとして、遠坂姉妹、あなた達何してるんですか!?

 遠坂はまだ分かる。自力なら俺の方が上なんだが、やはり魔術の構成や効率が上手いから魔力有りだとこういう結果になってしまう。

 ただ、問題と言ってしまうと悪いが、桜の事だ。

 五位ってなんでさ!?

 アーチャー六位だぞ!?

 アーチャーがいつもの口調で『やはり女性は強いな…』って言いながら崩れ落ちてたのはかなりシュールだった…。

 まぁ俺もその横で崩れ落ちてたんだけどな…。

 妹みたいな存在である桜にやられた時の悲しさと言ったら…はぁ…世知辛いな…。

 キャスターとコウジュが共同で魔改造した結果こうなったらしいんだが…、うん、逞しくなったな桜…。

 

 

 

 それで何の話だったか…ああそうだ、長い回想になったが今はセイバーと共に言峰協会に向かっているって話だったな。

 

「士郎? 考え事をしていた様ですが…」

 

「いや、何でもないよ。ただあえて言うなら、男の意地って何なんだろうなって思ってさ…」

 

「そ、そうですか…。無理だけはしないでくださいね…?」

 

 考えていた内容を誤魔化そうとしたはずが、内心がポロっと出てしまう。

 若干引きながらも心配してくれるセイバーのおかげで少し元気が出てくる。

 元気がなくなった原因の一人はセイバーだったりするけど、気にしてくれることが嬉しいからまあいいかな。

 

 そうこうする内に俺達は教会の前まで来ていたようだ。

 さてと、何か有力な情報があるだろうか。

 扉に手を掛け中に入る。

 

「言峰…? あれ、いないのか?」

 

 声に出すが出てくる様子はない。

 別にアポイントメントを取ってきたわけじゃないから居なくても不思議ではない。

 ないのだが…、何だこの違和感は…?

 言峰が居ないというだけでどこか変な感じがする。

 違うな、そんな単純なものじゃない。

 自身の奥底から這い出る嫌悪感。

 生理的嫌悪感とでも言えば良いのか、とにかくここに居たくない。

 

「士郎、待ってください。ここはおかしい」

 

「ああ、俺も思った。このドロドロとした粘着質な感じかなり気持ち悪い」

 

 ドロドロとした粘着質――。

 ああなるほど。

 口に出してやっと理解した。

 “言峰”だ。

 この違和感の正体は言峰だったんだ。

 目の前に居ないのに言峰と対峙した時のような感覚。

 

「ホント今日はどこかおかしいな」

 

 どういう事だ…?

 気持ち悪さの原因を考えているとセイバーが訂正する。

 

「違います、士郎。以前もおかしくはありました。それが、今日は前に増して濃い。注意してください、何かあります」

 

 以前より?

 恐らくセイバーが言っているのはセイバーを召喚した夜にここへ来た時の事。

 でも濃いっていうのは?

 俺が気づかなかっただけでここは前からこうだったってことか?

 言峰が居ないから本来のこの空気を感じる事が出来ている?

 けどそれはおかしい。

 ここは教会だ。居る人間があんなのでもここは教会。この空気とは反した位置になくてはならないはずだ。

 

「そういえば以前は言っていませんでしたね」

 

 セイバーはいつもの甲冑をその身にまとい俺の前に出る。

 

「ここはあまりにも空気が澱んでいる。聖なる場所とはかけ離れた所です。そして、今日は特にその澱みが酷い」

 

 戸惑いながらも歩みを進める。

 訳が分からない。どういう事なんだろうか…。

 とにかく言峰を探そうと奥の扉を見つけたので、扉に手を掛けた瞬間―――、

 

 

 ――ドクン…――

 

 

「ぐおっ…!?」

 

「士郎!?」

 

 突然、俺を圧迫感が襲う。同時に子どもがすすり泣くような声が頭に響く。

 頭の中を這いずるように圧迫していく声達、助けて、どうして、いやだ…いくつもの声が俺の中を駆け巡る。

 身体が傾く。

 

「どうしたのですか!?」

 

 セイバーがすかさず支えてくれた。

 頭を押さえて声を聞く。

 

 こんな声聞かなければ良いはずだ。

 だが同時に何故か聞かなければならないと俺の中の違う俺がそう囁く。

 

 ――あっちだ…――

   ――行くな…――

 

 行くように言うのも俺だし、止めるのもまた俺だ。

 いくつもの哀しみの声が、二つの声が、俺をどんどん満たしていく。

 自然と足が前へ、教会の奥へと進み出す。

 意図したものではない。

 だが進んでいく。

 ゆっくりと、確実に、俺に何かを訴える“何か”に。

 

「士郎!! しっかりしてください!!」

 

 肩を貸してくれていたセイバーが俺の前に出てきて止める。

 でも、俺は多分奥に行かないといけないんだ。

 

「セイバー…俺、行かないと…」

 

「……」

 

 口に出した時点で俺の脚は前へ進も始めている。

 セイバーは俺の顔を見て無駄だと悟ったのか、はたまた別の何かを感じ取ったのか、俺を制止するのを止め、何も言わずに再び俺に肩を貸しながらついてきてくれる。

 

「ごめん」

 

「謝らないでください。しかし、一体何がそこまであなたを?」

 

「わからない。でも呼んでるのだけは分かる」

 

 俺とセイバーは教会の礼拝堂に当たる部分を通り抜け、中庭を囲うようにしてある通路を歩いていく。

 

 ――奥へ…――

  ――やめろ…――

 

 それなりに奥行きのある通路を歩いていくと、下へ降りる階段があった。

 

 ――降りて…――

  ――引き返せ…――

 

 俺たちは二人して階段を降りる。

 

 ――ようこそ…――

  ――まだ間に合う…――

 

 階段を降りていき、日の光のない地下へと入っていく。どんどん頭に響く声は大きくなる。

 

「ぐ…」

 

「っ…!?」

 

 降りていくと、そこそこ広い場所に着く。

 けど、ここじゃない。

 俺とセイバーは鼻を押さえる。ひどいにおいだ。

 臭いはすぐそこに見えるもう一つ奥の部屋からだろう。

 そして俺の目的地もどうやらそこのようだ。

 

 そして俺達はその目的の場所へと足を踏み入れた。

 

「何だ…これ……」

 

「澱みの原因はここですか…」

 

 あまりにもな光景に思考が止まる。いや、止める。

 止めたくなる光景がそこにある。

 セイバーも、冷静に言っている様には聞こえるが、わずかにだが声が震えている。

 俺達を包むのは単純な忌避感。

 今すぐこんな場所など離れたい。

 だが同時に足がその場に張り付いたように動いてはくれない。

 それほどに目の前の光景は眼について離れない。

 

 眼前には石で出来た台座がいくつも奥に向かって規則正しく並んでいる。

 そしてその上にそれぞれ死体が乗っているのだ。

 日本は火葬だが外国では土葬にするそうだし、死体を一時的に預かって安置しているとかであるのならばあるかもしれない。

 だが、それは確実に違うと言える。

 目の前の光景はあまりにも異常で、異質で、とにかく日常にあってはならない光景だ。

 いや、日常でないものを何と定義するにしてもあってはいけないものの筈だ。

 なぜなら、台座の乗る死体達は1つとして通常の人の形を保っているのはない。

 かろうじて人であったであろうというものばかり。

 そう、かろうじてだ。

 俺が人の形を知っているから、部分部分を見て、人の、更に言うと子どもだったのであろうと分かる。

 それほどに身体を構成していたであろう四肢が、胴が、頭部が、内蔵や筋肉、血管に至るまでがバラバラとそこに並べられている(・・・・・・・)

 極めつけはどの死体も妙に生々しいこと。

 先程まで聞こえていた悲しみの声が、怨さの声が、よりクリアに聞こえてくる。

 目の前にあるのは明らかに死体だ。

 バラバラになったものをとりあえずといった感じに纏められただけ。

 そして何年もそのままだったのであろうか、腐敗はかなり進んでいる。

 なのに、明らかに死に体であるのに、生々しさがある。

 まるでまだ生きているような……。

 声も、その原形など忘れてしまったのではというほどに崩れた声帯からだしているような……。

 

 

 

「よく来たな衛宮士郎、そしてセイバー」

 

 動けないでいる俺たちに声が響く。

 

「言…峰…」

 

 悠然と部屋の奥から歩いてくる言峰は、人を不快にさせるだけの笑みをその顔に張り付けて近寄ってくる。

 

「いくら教会とはいえ、勝手に奥まで入ってくるのは考えものだがね」

 

 いつもと同じその口調がやけに俺を腹立たせ、止まってしまっていた脳が一気に熱を持ち始める。

 

「これはなんだ!!」

 

 未だ平然とした態度を取る言峰に言葉をぶつける様に発する。

 

「ふむ、そういえば君も可能性はあったわけか、呼ばれたのだろうか…。さて、これらが何かという質問だったな。しかし見て分からないかね? 死体だよ、少し特殊ではあるが…」

 

 だがそれでも態度は変わらなかった。

 

「特殊…とは一体何の事を言っているのですか?」

 

 今度はセイバーが聞く。

 言峰は歩みを止め、笑みを静かに深める。

 そして、そんな言峰と俺との間に、俺を守るようにして前へ出るセイバーに言峰は答える。

 

「これは食事だよ。彼のね」

 

 彼? 一体、誰の事を言ってるんだ…?

 こんな醜悪なものを、平然と眼の前に出来る存在が居るというのか?

 俺はそう思ったが答えはすぐそこに居た。

 

「昨日ぶりよなセイバー」

 

 言葉と共に部屋の奥から出てきたのは、あの黄金のサーヴァントだった。

 

「ギルガメッシュ…? 何故お前が…」

 

 今までも空気は重く、最悪だったが奴が来る事で一気に圧が増す。

 それに屈する事が無いようとにかく疑問を口に出す事で抵抗しようとしたが、ギルガメッシュは俺など視界に入って居ないかのごとく無視し、話を続ける。

 

「昨日の今日で我に会いに来るとは中々に殊勝な心がけだ」

 

「戯言をっ…!」

 

 セイバーはエクスカリバーを構え、いつでも戦闘を開始できるようにする。

 それに対しあの黄金の鎧をまとってはいるが余裕の態度で対峙するギルガメッシュ。

 

 何故こいつがここに居る?

 改めて考えてみたが、ははっ、そんな疑問に意味はないじゃないか。

 いい加減認めろよ、俺。

 奴がここに居る、それが何よりの証明。

 

「言峰…お前がギルガメッシュのマスターだった訳か…」

 

 だが、それに対し言峰は少し予想外だというように、一瞬笑みを消した後、より深い笑みをして言葉を返す。

 

「ふむ…? 聞かされていないのかね?」

 

「何が言いたい…?」

 

 突然何だ…?

 

「あの銀の髪の少女だよ。あの子は私の事を知っているようだったが?」

 

「だから何が言いたいっ!!?」

 

「いやなに、私は君達が手を組んでいると思っていたのだが…予想が外れたようだ」

 

 は…?

 思考が一瞬止まる。

 何を言っているんだ?

 コウジュの事を言ってるんだろうけど、あの子は当然仲間に決まってる。

 でも、コウジュはここの事を知っていた?

 なら何故それを教えてくれなかった?

 刹那の疑問。

 だがそれはすぐに脳裏から消え去った。

 俺に言わないのは何か理由があるんだろう(一瞬無い気もした)。

 普段から隠し事の多い彼女だがこれを許容できる子じゃないことは短い間に知った。

 だから、余計なことを考える必要はない。

 言峰はおそらく、俺達の不和を狙ってこんな事を言ったんだろうが失敗したな。

 雰囲気に呑まれそうになっていた身体が一気に軽くなる。

 余程焦っているようだな言峰。

 お前とはそれほど相対した回数があるわけじゃないけど、あまりにもらしくない。

 俺の前に居るセイバーも少し気負いが取れたように感じる。

 セイバーも同じことを思ったようだ。

 

「おそらくあの子は聖杯を横からかすめ取るつもりではないのかな? 獅子身中の虫とはこの事だ。どうだ衛宮士郎? 私と取引しないかね?」

 

 俺たちにお構いなしに続ける言峰。

 

「取引?」

 

「そうだ。私の役割は聖杯の持ち主を見極める事。君は既に勝者だ。資格は十分にある。

しかし、彼女が邪魔だ。聖杯を召喚するのは私がやっておこう。その間に君は――――」

 

「ははは…」

 

 思わず笑いを我慢できずに漏れ出す。

 これもコウジュに助けられたって事になるかな?

 さっきまでは雰囲気に呑まれてしまっていたが、今では言峰に対して感じるものは特に何もない。

 

「どうした? 何かおかしなことを言ったかね?」

 

「ああ、言ったよ」

 

「まったくですね」

 

「何…?」

 

 セイバーと二人、笑みを浮かべる。

 そんな俺達に怪訝な表情の事峰。

 

 こいつが何を目的としているのか、聖杯で何をしようとしているのか俺は分からない。

 分かるのはろくでもない事だろうという事くらいだ。

 だがそれで十分。

 こいつは敵だ。

 今それが分かった。

 そしてコウジュは、こいつをどうにかする為に色々していたのだろう。

 コウジュに秘密? それがどうした。

 必要ならやればいいと思う。

 というか、知っていたら俺は即ここに特攻していたと思うから、それを予想しての事だと思う。

 あの子は人を御人好しと言うがあの子こそ御人好しだろう。

 そんな彼女をこいつは排除したいと言った。

 よほど、コウジュの存在が邪魔なのだろう。

 

 それにしてもコウジュはその場に居なくてもエアブレイクを出来るんだな。

 未だこの部屋に居るのに一気に空気が和らいだ気がする。

 いつもは困りものだが今はありがたい。

 強張っていた身体が軽くなった。

 

「あんたよっぽど焦ってるみたいだな。あんたの事に詳しいわけじゃないが、それでもこれだけは分かる。今のあんたはらしくない」

 

「士郎の言う通りです。余程焦っていると見える。それほどにあの子は脅威ですか?」

 

 心に余裕が出てきたので、いつも俺がされる側だった皮肉気な言い方をする。

 そんな俺の言葉に、一気に言峰の笑みが消える。

 図星みたいだな。

 ふと疑問に思ったんだがコウジュってひょっとして言峰の目的とかも知ってるのだろうか? 知ってるんだろうな…。

 少し、ほんの少しだけ、言峰がかわいそうになった。

 

 とりあえずこの部屋の理由はコウジュに聞くとしよう。

 そのためにも今は目の前のこちらをどうにかすることが優先だろう。

 

「ギルガメッシュ…」

 

「滑稽だな言峰よ。まぁよい。この状況でうすら笑いが出る小僧には少し腹が立っていた所だ」

 

 ここに来て言峰のあの気持ち悪い空気が強くなる。

 

「殺すなよ。あとで使う」

 

「分かっている」

 

 それだけ言うと言峰は部屋の奥へと消えた。

 そして周囲には無数の武器が出現し始める。

 

「小僧、軽く死んでおけ」

 

 そう言いながら手を掲げるギルガメッシュ。

 周囲に浮かぶ武器群は今にも飛んできそうだ。

 えっと、コウジュの御陰で気は楽になったけど、これ、どうしよう。

 

 

 

 

 

 

 そう考えた時、どこかからコウジュがくしゃみをするのが聞こえた気がした。

 

 




いかがだったでしょうか?

長くなったので分割したのですが、ちょい足ししてたら結局1万字越えてしまいました。
この前もうすぐ終わるって書いたのにクライマックスにたどり着けていない…orz
流石に50話にはならないと思いますが、まぁテンポ良く行けるようにゴールデンウィークで書き溜めようと思います。

それではまた次回!!

P.S.
予想外にZeroを書いてほしいという声が多くてびっくりしました。
他にもISとかゼロ魔とか、あとハイスクールD×Dとか…。
実は他にもあったりするんですかね…?

感想の方でも書かせていただいたのですが、以前に短編で書いたものはもう少し進まないと使えないスキルとかを使ってるので、書き直せたら出すかもしれません。
新しく書く場合は、一度書いてみてそれなりの文字数になったら出す…かもしれません。

執筆力やら想像力やらのすくない私をお許しください<(_ _)>


P.S.2
Sジャンプが30Mて…orz
欲しかったけど諦めました…。

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