テンプレ…まじで?(リメイクしてみた) ※現在このすば!編    作:onekou

46 / 162
どうもonekouでございます。

皆様GWはいかがでしたでしょうか?
私はずらして取ったので明日までがGWなのですが、仕事の日より予定が詰まってる分身体が疲れるのはやっぱり自業自得なのでしょうかね?w

さておき、44話です。どうぞ!


『stage44:思い…出した…!!』

 

 

 俺とセイバーはコウジュに言われたように言峰の後を追おうとするも、教会を出たところで目的地を変更した。

 一度態勢を立て直すため、家へと向かうことにしたのだ。

 コウジュに貰っていた回復用のカードがあと一枚しか無い。これではどちらかしか回復できない。

 このカードはコウジュが持つアイテムをカード化したものなんだが、宣言をすれば対象一人を規定値まで瞬時に回復してくれる。

 これをいくつかコウジュに貰っていたのだが、出来ればセイバーと共に回復しておきたい。

 内心、このまま言峰を追いたくて仕方が無いがそれで死んでしまっては元も子もない。

 それに、先にセイバーを回復しようとしたらセイバーは俺に使おうとして話が進まなさそうだったので、もう家に戻って万全の状態にした方が良いという話に落ち着いたのだ。

 あと、家には他のサーヴァント達が居る。

 戦闘能力が大幅に下がっていると言っていたが、それでも助力を得られれば格段に勝率は上がる筈だ。

 とはいえ時間は刻一刻を争う。

 俺たちはとにかく急いで屋敷まで走った。

 だが、家が見えてきたところで異変に気付く。

 それはセイバーも同じようで、二人ともに屋敷を前にして足を止める。

 

「士郎、気を付けてください。何かおかしい」

 

「ああ。でもこの違和感は何だ?」

 

 ゆっくりと、警戒しながら屋敷へと近づく。

 入口である門の前、そこまで来ると先程感じた違和感の正体に気付く。

 いつも我が家を包んでくれていた結界、更にはキャスターが張っていた結界までもが消失しているのだ。

 遠目には屋敷に異常はないし荒れた様子も見られない。

 だが、静かすぎる。

 少なくとも遠坂やサーヴァント達は朝の時点では居たのに、だ。

 

「とにかく中へ行こう」

 

「はい」

 

 門を潜り、玄関扉をも潜り屋内へと踏み入れる。

 勿論警戒を怠らず、何があってもすぐ動けるようにしながらだ。

 だが、入ってすぐに感じた異臭、そして暗がりに見えたものに思わず立ち止まる。

 

「なんだ…これ…」

 

 俺の目に飛び込んだのは、嵐が通ったのではないかと思えるほどに荒れた自分の家だった。

 そして、そこら中に飛び散っている血痕。

 嫌な想像が頭を巡る。

 この家に居たはずの遠坂達は何処へ行ったのか。

 

「遠坂!! 皆!!」

 

「士郎待ってください!!」

 

 靴を脱ぐのも忘れ、走る。

 血痕はどうやら居間の方に向かうように付いている。

 

「こっちか!?」

 

 壊れるほどの勢いで戸を開け、居間に入る。

 

「遅かった…じゃない…の……」

 

「遠…坂…」

 

「凛…」

 

 そこに居たのは脇腹を押さえ、普段着ている赤の服を血で更に染めて、床には血で水溜りを作った遠坂だった。

 

「まさか…綺礼が…ゲホッ…っ…コウジュが隠すわけ…ね」

 

「遠坂もう良いしゃべるな!! セイバー、タオルと洗面器を!!」

 

「はい!!!」

 

 血を吐きながらも何かを言う遠坂。

 その姿は今にも消え入りそうだ。

 とにかく止血をしないといけないと思った俺はセイバーに流れ出る血をどうにかするため、タオルと洗面器を持ってくるよう頼む。

 俺はその間、何とか無事だった包帯を使って止血をしていく。

 

「士郎…回復カード持って…ない…?」

 

「あ、ああ!! ある!!!」

 

 焦っていて忘れていたが、後一枚だけだがコウジュに貰ったモノが残っていた。

 それを慌てて使って遠坂を回復する。

 

「うぐ…」

 

「どう…だ?」

 

「え、ええ…かなりマシになったわ…」

 

 少し辛そうな顔をしたが、カードの効果で先程までからは考えられない位に血色のよくなった顔を見て安心する。

 血も止まっているようだし、失った血液までは戻らないが一先ずは安心と言ったところか。

 

「ふぅ…ありがと衛宮君。ホントに死ぬかと思ったわ」

 

「士郎!! タオルを…もう必要なさそうですね。よかった」

 

 そこへ、物を取りに行ってもらっていたセイバーが戻ってきた。

 部屋に入り、遠坂の顔を見てどうにかなった事に気付き、張りつめた空気を霧散させる。

 

「ふふ、ありがと」

 

 遠坂もそれに答えるように柔らかに微笑みながら礼を言った。

 

「それにしても一体何があったんだ?」

 

 それを聞くと、一気に遠坂の顔が曇る。

 そして、苦虫を潰したような表情になりながらも語り始めてくれた。

 

「ごめん…イリヤを守れなかった。綺礼の奴に連れていかれちゃった…」

 

「イリヤが!?」

 

「しかも言峰にかやっぱりこっちに来たんだな…けど何でイリヤが?」

 

「イリヤはね…聖杯を降臨させるための器なのよ」

 

「器…?」

 

「ええ…」

 

 それって、キャスターが桜を器にしようとした(演技だったけど)みたいな感じか?

 でも、それだと遠坂の言い方からして違うし…。

 

「コウジュが言い辛そうだったから言わなかったけど、イリヤはその為に作られた存在なの」

 

「作られたって事は…ホムンクルスってやつか?」

 

「そうよ。それもただの…って言い方には語弊があるけど、普通に作られたホムンクルスではなく聖杯降臨の為に特化されている筈よ。魔術師っていうのは魔術回路を持った人間のことなんだけど、イリヤは魔術回路を人間にした子なの」

 

 遠坂は続けて言う。

 

「イリヤの体調が悪くなったのっていつだったか覚えてる?」

 

「イリヤが…」

 

 いつからだっただろうか?

 前々から行動が一定しなかったからよく覚えてない。

 

「以前から時折体調を悪くしていたようですが、完全に起きてこなくなったのはランサーが来た日です」

 

 セイバーは覚えていたようでそう告げる。

 確かにランサーが来た日からイリヤの事を見ていないな。

 

「聖杯を召喚させるために必要なのは大聖杯と小聖杯。大聖杯は膨大な魔力の受け皿なんだけど、それはたぶん柳洞寺のどこかにあるわ。あれほど召喚に適した霊地は無いから。

そして問題は小聖杯。これがイリヤに当たるわ。

役目は6騎のサーヴァントの受け皿。理屈は今は省くけど、簡単に言えば鍵みたいなものなのよ」

 

 そうか…今分かった。

 イリヤがずっと寝ていたのは内側にあるサーヴァントの力の所為だったわけだ。

 コウジュは風邪だって言ってたけど違ったんだな。

 

「しかし…、それでは何故コウジュはこちらに来たのでしょうか?」

 

 あ、確かに。

 コウジュがその事を知らない筈がないし、最初は主従関係だったかも知れないけど、長年一緒に居た家族の様な仲の良さだった。

 それこそ姉妹のような。

 そんなコウジュがイリヤを放って言峰教会に来た理由って何だ?

 

 いや、でもそういえばこっちには──、

 

「そういえば、此処に居た他のサーヴァント達はどこへ行ったんだ?」

 

「そういえば、屋敷の中に他の気配がありませんね」

 

 俺に続けてセイバーが言った。

 それに対し遠坂は、一瞬キョトンとした後に口を開いた。

 

「ランサーは多分あのバゼットって人を避難させてたはず、ライダーには桜を連れていってもらったけど…、後は分からないわ。士郎達の方に付いてると思ったんだけど」

 

 ってことは、アーチャー、アサシン、キャスターが行方知らずか。

 

「そういえば、今の言い方だとコウジュはそっちに行ってたみたいだけどどこに居るの? 聞きたい事があるんだけど…」

 

「えっと…」

 

 コウジュなら大丈夫だと思う。

 けど、コウジュ自身が言った事とはいえ置いてきたという事実は少し言いづらい。

 

「凛、コウジュは私達を逃がすためにギルガメッシュと言峰教会で闘っています」

 

 そんな俺を見てかセイバーが代わりに答えてくれた。

 

「コウジュは言峰を追えって言って俺たちを逃がしてくれたんだ。けど途中で、念の為に回復してから万全の態勢で行った方が良いって気づいてこっちに帰ってきたんだ」

 

「それで私がこのザマで、最後の一枚を使わせたってわけね…。ホントに選択を失敗したかな…」

 

 選択って、何か失敗したのだろうか。

 ん? 今チラッと短剣の柄の様なものが遠坂の後ろで見えたような気がしたが…何で隠すんだ?

 そんな疑問を俺が持った事に気付いたのか凛がこちらを向いて言う。

 

「こ、こっちの話だから士郎は気にしないでっ。それにしても、士郎がねぇ…」

 

 俺の疑問は解消されずに、遠坂はそれを誤魔化すように目を細めながらニヤニヤとこちらを見る。

 前半は例のうっかり関係の事なのだろう。

 ツッコムのは可哀そうなことなんだろうな。

 だからと言ってこちらにシフトチェンジはやめていただきたい。

 その笑みは嫌な予感しかしない。

 

「士郎が一度引く事を選ぶなんてね。少し前なら一直線だったのに、これはコウジュさまさまかしら」

 

「む…」

 

「ふふ、すねないの。良い兆候だって褒めてるんだから」

 

 褒められた気がしないのは俺だけじゃない筈だ。

 さておき、だ。

 

「そろそろ行くか」

 

 話している間にそれなりにだが回復出来た。

 数十分とはいえ、それだけあれば俺の中にあるセイバーの鞘が回復してくれる。

 全快には遠いし、身体はまだ重たいが強化の魔術で何とかなるはずだ。

 遠坂が求めてたくらいだからもうカードのストックも無いのだろう。

 それに、イリヤが拐われたんだ。

 これ以上はただの時間の浪費となるだろう。

 

「はい」

 

「ええ」

 

 俺が立ちあがると、セイバーと遠坂も立ち上がる。

 って遠坂!?

 

「と、遠坂!? その傷で行くつもりか!?」

 

「何言ってるのよ。回復してもらったから今のあなた達とそう大差は無いわ」

 

 そう、どこかあの紅い弓兵に似たニヒルな笑みを浮かべながら言うが、辺りに散乱した血液を考えると、余裕があって浮かべてるものとは思えない。

 あのコウジュのカードは回復とは言っても時間回帰のように全てが戻ってくる訳じゃない。 つまり失血した分や疲労感は拭えない。

 回復出来ていてもやはり遠坂はまだまだ動くべきではないのだ。

 だけど彼女は気丈にも肩に手を当てぐるぐると回しながら無事をアピールする。

 

「そうは言っても凛…」

 

 セイバーがその事について言おうとする。

 だがそれを遮るように遠坂が言う。

 

「待った。さっきも言ったけど、今のあなた達と変わらないわ。それに、今は一人でも多い方が良いでしょ? 他のサーヴァント達が当てにできない以上ね」

 

 確かにそれはそうだが…。

 

「ほらっさっさと行くわよ!! 一発あいつを殴らないと気が済まないわ」

 

 俺がどうやって説得しようかと考えていたら遠坂はさっさと玄関の方へ歩いていってしまった。

 

「実際、凛が居るだけで勝率は上がります。説得は無理でしょう」

 

 セイバーが俺にそう言うが、心配なものは心配だ。

 本当ならセイバーにも闘って欲しくない。

 男が女の子の後ろに隠れてなんて俺は嫌だ。

 むしろ守りたいと思う。

 けどそんな甘い考えでは勝てないと知った。

 だから俺は選んだ。

 共に戦うことを。

 共に在ることを。

 それは大切な人を危険に晒すことかもしれない。

 けどそれで救えるものもあると知った。

 いや、教えてもらった。

 

 だったら───、

 

「そうだな、行こう。イリヤが待ってる」

 

「はい、マスター」

 

 自分の中の思いを整理し、現状優先されること、聖杯の破壊とイリヤの奪還について考えたら遠坂の手は必要だと覚悟を決める。

 

 さあ、あの外道神父と慢心王を倒しに行こう。

 そしたら晩御飯だ。

 今では二桁にも上る衛宮家の食卓の人数だが、だからこそ腕が鳴ると言うものだ。

 

 そのためにも勝つ!!

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

『やだね』

 

 言峰教会のその地下、禍々しい様相を呈しているその場所で、俺は幽霊の子達に生き返りたくないかと聞いた。

 今のはそれに対する返答だ。

 

「何故…だ……?」

 

 その返答が予想外だった俺は、困惑する。

 俺は、この子達が生き返りたいと言うと思っていた。

 でも違った。

 

『俺達はさ、もう疲れたわけよ。おっさん臭い言い方だけどな』

 

『確かに生き返るのも良いかなーとは思うけど、私達はもう眠りたいのよねー』

 

『ま、俺達はもう死んじまってる訳でさ。それでいいんだよ。それに居場所がない』

 

「居場所なら何とかして…」

 

『そういう意味じゃないよ。戸籍とかそんなんじゃないんだ。俺達はもう死んだと納得した。納得して今まで幽霊として存在し続けてしまった。これで生き返っても、俺達は幽霊のままだ』

 

 晴れ晴れとした笑顔でそんなことを言う。

 

「意味が…分からねぇよ」

 

『あーもう何であんたが泣きそうな顔してんだよ』

 

『普通逆でしょ?もう…』

 

 だってさ、俺は……。

 

『あーもうほんとに泣き出しちゃった。あのね? 生き返らせてくれるって言ってくれたこと自体はホントに嬉しいのよ?』

 

『けど俺達の望みはそれじゃなくなっちまった。今の俺達が望んでるのは解放なんだよ』

 

 

『そうそう。私たちはちゃんと死にたいのよ。向こうで親も待ってるだろうしね』

 

 そんな…悲しい事言うなよ…。

 何でそんなに笑ってられんだよ。

 くっそ、あのマーボー神父と金ぴかめ。

 こんな良い奴らに死ぬ事を望ませるなんて。

 

『ほらほら、そっちはそっちでやる事あるんでしょ?』

 

「ある…けどさ…」

 

『ならさっさとそっち行けよ。どうせあの神父と金ぴかの奴んとこだろ?』

 

「ああ…」

 

『だったらサクッと俺たちをやって行っちまいな出来るんだろ?』

 

「できるけど…さ…ホントに良いのか?」

 

『良いの良いの。俺たちはもうほんとに良いのさ。十分十分。だからあんたは俺達を気にせず行け。

あれだ…えーっと、立って歩け、前へ進め、あんたには立派な脚があるだろう』

 

『それなんか違う』

 

『あ、そう? じゃあえーっと、呪いのように生き、祝いの様に死のう』

 

『うっわ、今の私たちにぴったりスギじゃん?』

 

「それエロゲ―じゃねぇか。未成年」

 

『良いんだよ。幽霊に年齢なんて関係ない。っていうか、俺が知ったの格ゲーの方からだから本編知らねぇし』

 

 そうふざけながら言う彼らの瞳は本気だ。

 本気で、いま終われるのならば終わりたいとそう思っている目だ。

 その瞳を見て、俺は胸が苦しくなる。

 死ぬことが彼らの幸せだという、その事実が俺には受け入れられない。

 でもそれを拒否する権利は俺には無い。

 俺はハッピーエンドを求めたんだ。

 なら、これ以上彼らを引き留めても俺の我が儘でしかない。

 

「よし、分かった。来いコクイントウホオズキ」

 

『奇跡も魔法もあるんだよ』

 

「またネタか!? …いや、それ知らねぇや」

 

『なんだよ血貯まり知らねぇのかよ』

 

 こいつらの事だからネタだろうとは思ったが、ホントにそうだったとは…。

 物騒な言葉が聞こえた気がしたがそっちはスルーしよう。

 

『じゃあこれだな』

 

『ザワ…ザワ…』

 

「ホントブレねぇなお前ら!!」

 

『なんですかもぅ』

 

 分かりづらいネタやめぃ。

 それあれだろ。茜色に染まる…なんだっけ…。

 とにかくそこに出てくる歯ブラシを武器に戦える不思議っ娘だろ?

 むしろよく覚えてたな俺。

 

 はぁ、これはあれか、元気づけられたのかね?

 でもまあ、いつまでも俺が泣いてるわけにはいかねぇよな。

 この子達とはほんの数時間前に会っただけだが、それでも笑顔が似合う子達だと分かる。  だったら俺は笑おうじゃねぇか。

 笑って送り出してやる。

 

 

「まったく、ぶれなさすぎだよ…。

よし、んじゃいくぜ。こいつは死者の国に渡る際の渡航証と言われてる。こいつを使ってあんた達はちゃんとした死を迎えられる筈だ」

 

『おお、俗に言う冥界に行けるのか』

 

『幽々子お姉さまに会いたーい』

 

『こまっちゃんの横で一緒に昼寝したい…』

 

『やっぱドゥだろjk、ヤマザナドゥ希望!! いや、ヤマザナドゥドゥ?』

 

「そんな機能ねぇよ!!! ってか誰だよヤマザナドゥドゥ! 一個多いよ!」

 

『いや、よくわからないけど電波が…』

 

「何の電波!?」

 

 ってか、東方系のゲームもあんのかよ。

 いっぺんこの世界のメディア関係を確認すべきか…。

 そんなことを考えながら苦笑する。

 そして俺はコクイントウを腰だめに構える。

 これ以上間を空けると決心が鈍りそうだ。

 だから振り切るように、概念を強化し、そして願う。

 どうせならこの子達が言うような東方勢が居る冥界に繋がりますように。

 

『んじゃ、かたき討ちよろしく〜』

 

『ぼっこぼこにしといてね〜』

 

『ド派手に逝くぜ!!』

 

『おいなんか一人バギー船長混ざってるぞ。例の赤鼻のやつ』

 

『『誰が赤鼻だぁッ!!?』』

 

『増えてるし…』

 

「はは、じゃあいくぞ? 要望通りにド派手にだ。送るぞコクイントウ!!」

 

 要望に答えるために構えを変える。

 折角だからこっちもネタを使おうじゃないか。

 前にも一回使ってるから出しやすいし。

 コクイントウを頭上に構え直し、───振り下ろす!!

 

「月牙…天衝ぉぉっ!!!!」

 

 

 

『『『斬魄刀…だと……』』』

 

 

 

 え、これもあるの…?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺の目の前には崩れた教会がある。教会を潰すのはどうかとも思ったが、穢れが酷すぎたし、それ以前に金ぴかと戦った時にはもう致命傷だった。

 あの子たちの身体に傷をつけないようにした結果、教会が被害を受けてしまったのだ。

 月牙をできる限り手加減したがそれでも無理だったなんて事はない。

 だから仕方ないと自己完結する。

 事故完結ではないのであしからず。

 これは俗に言うコラテラルダメージなのさ。

 

 俺は合わせていた手を離し、閉じていた目を開ける。

 

「ホントに面白い奴らだったな…最後の言葉が『斬魄刀…だと…』ってなんだよ」

 

 今まで数十分かけてホンの数時間の出会いを反芻した後、最後の言葉に対してボソッとツッコミを入れてしまう。

 最後まで俺にツッコミさせるとはな。

 そう苦笑していると、突然俺の横に気配が生まれる。

 

「良かったの?」

 

 空間から溶け出るように現れたのはキャスターだった。

 

「見てたのかよ…。ま、もちろんさね。あいつらがちゃんと死ぬことを選んだんだ。それがあいつらにとってのハッピーエンドだっただけのこと」

 

「あなたが良いのなら私は良いのよ。ただ…泣くのか笑うのかどっちかにしなさいな」

 

「泣いてねぇよ…」

 

 泣くわけにいくか。

 笑って送るって決めたんだからな。

 

「そう…」

 

 それだけ言うと、キャスターは俺の頭にポンと手を乗せた。

 いつもなら俺はそれを振り払う所だが、出来なかった。

 したくなかったというべきか。

 恥ずかしいとかよりも、そのキャスターの優し気な手が帽子越しなのにやけに暖かく感じ、それがとても居心地良かった。

 しばらく無言の時が流れる。

 

 それからしばらく経つと、キャスターが再び話しかけてきた。

 

「そろそろ行くわよ。日が暮れてきたわ。ギルガメッシュは貴方を殺したと思ったからかセイバー達を待って行動に移ることにしていたみたいだけど、そのセイバー達が柳洞寺に着いたわ」

 

「ん…、了解だ」

 

 なら急がないとな。

 多分セイバー達だけでも勝てるだろうけど、ハッピーエンドの為には少し足りない。

 さてさて、ハッピーエンドを始めに行こうじゃないか。

 

 俺は最後にもう一度教会へ振り返り、そして懐からカードを出す。

 教会はまだ崩れただけで、地下聖堂にはまだあの子達の亡骸がある。

 だから、最後にここを消し飛ばす。

 もちろんド派手にだ。

 このカードは以前に何となくで作って見た目だけ整えただけのものだ。

 外側だけ整えたものだからそれほど威力は無いし戦闘用なのに戦闘にはほぼ使えないレベルという代物。

 だけど、最後までネタ好きだった彼らの手向けには丁度いいだろう。

 

 送り出した彼らに響くように、俺は宣言する。

 

 

 

 

「紅符『不夜城レッド』!!!!」

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

「歓迎しよう、衛宮士郎」

 

 俺とセイバー、遠坂は今、柳洞寺まで来ていた。

 それは勿論この聖杯戦争を本当の意味で終わらせるため、最後のサーヴァントとそのマスターを倒すためだ。

 そんな俺達を迎えたのは言峰綺礼。

 今回の元凶にして、前回の聖杯戦争で一つの街を焼いた男だ。

 

「見たまえ、これが聖杯だよ」

 

 そして、言峰の後ろには黒い球体が浮いている。

 こんなものが聖杯?

 黒とは言えない黒、純色ではなくあらゆる色を混ぜてできた黒の様で不快感を湧き立たせる。

 それは空中に出来たような穴からとめどなく泥を溢れ出させ瘴気や災いが形となって吹き出ているようだ。

 そうとしか表現できない泥。

 そしてその中心にはぐったりとしたイリヤが埋め込まれるようにして存在している。

 遠目にも荒い息をしている事は分かるがとても無事とは言えない。

 この状況は考えられる限りで最悪だ。

 

「この時をどれほど待ち侘びた事か。頃合いも良い。今丁度聖杯に穴があいた所だ」

 

 言峰の横にはギルガメッシュが現れる。

 疲弊した姿ですらなく、悠然と言峰の横に並んだ。

 そのことに動揺する。

 あいつが無事だということは必然的に―――、

 

「嘘…、コウジュはギルガメッシュの所に行ったって士郎は言ったわよね…?」

 

「ああ…」

 

 遠坂が俺に聞いてくる。

 当然だ。

 俺は遠坂に、コウジュは俺達の代わりに言峰教会に残ったと言ったのだから。

 しかし、この場にギルガメッシュが平然と居るその事実は当然のごとくある事を俺達に思い浮かばせる。

 なんだかんだであの子はハチャメチャな子だったけど、あの強さは本物だ。

 何か目的があって負けるならまだしも、コウジュが負けるなんて考えられない。

 実際コウジュ1人で十分に聖杯戦争を終わらせる事が出来るほどの力を秘めていた筈だ。

 しかし、この場にコウジュはおらず、ギルガメッシュが居る。

 

「コウジュ…ああ、あの混ざりものの小娘の事か」

 

 変わらず悠然とした態度で、混じり物、そうあいつは嘲るように口にした。

 

「あの小娘は我が殺してやったわ!! ふははっ、はははははは!!!!」

 

 我慢しきれぬと言った風に、高笑いをするギルガメッシュ。

 

「そんな馬鹿な…」

 

 セイバーもコウジュが勝つと確信していたからか、思わず声を漏らす。

 

「ふん、それほどまでにあの小娘が勝つと思っていたのか。しかし、容易かったぞ? 天の鎖(エルキドゥ)…」

 

 ギルガメッシュが横へ手を伸ばす。

 すると虚空からいつものごとく宝具が現れる。

 現れたのは鎖だ。

 俺達を教会で縛り付けたあの鎖。

 

「これは対神宝具でな。神性が高いほど拘束力が増す。コウジュなどという神族は聞いたこともないがそれなりに神性が高かったのであろうよ。ピクリとも動かんかったぞ? 後は不死殺しの概念を持つ宝具で串刺しにしてやった。それだけで死んでいったわ。(ケダモノ)が混ざっていたらしいアレには丁度良かろう」

 

 嘘だ…。

 あのコウジュが神性を持っているとかは別に良い。

 そもそも、俺達はイリヤに別世界の英霊であると聞いているのだから、知らないのは当然で、聞いても意味は無い。

 しかし不死殺し、これで貫かれたら…。

 コウジュは自分で不老不死だと言っていた。

 実際に生き返る所をこの目で見ている。

 その不死性を殺す宝具で貫かれたら、いくらコウジュでも…。

 いや、けど…。

 俺はその事実をどうしても受け入れられない。受け入れたくはない。

 それはセイバーと遠坂も同じようだ。驚愕と苦悶の感情を混ぜ合わせた表情をしている。

 サーヴァントとはいえ、数日とはいえ、俺達は家族のように衛宮家で過ごした。

 秘密を持っているとはいえ、聖杯戦争をハッピーエンドで終わらすと語ってくれた。

 普段のコウジュは、見た目の割に大人びた事を言ったり、かと思ったら年相応に見える事をしたり…そんな子が死んだ。

 受け入れられる筈が無い。

 今から闘う事すらも思考から抜け落ちて、今後取るべき行動すべてが頭の中で整理できないで居た。

 どうせまた、そこら辺からヒョコッと現れるのではないかと思ってしまう。

 しかし、ギルガメッシュが持つ鎖が、数多の宝具が、その存在感を俺達に感じさせる度に、コウジュが死んだという事実が俺達の中に染み込んでくる。

 

「先程までの威勢はどうした? まぁ良かろう…」

 

 ギルガメッシュはこちらの事などお構いなしに言葉を続ける。

 とはいえ、相も変わらずその目に移しているのはセイバーだけのようだが。

 

「我は今までずっと考えていたのだ。嫌がるお前をどう組み伏せ、この泥を飲ませようかとな」

 

 恍惚とした表情で語り始めるギルガメッシュ。

 その身に宿すおぞましい感情が辺りに充満する。

 直接向けられているセイバーはどれほどのものか。

 その空気に触れ、俺達はやっと闘わなければならない相手だと再認識し、気を入れ替える。

 コウジュが居ない。

 でも、俺達が勝たなければならない事実は変わらないのだから。

 

「泣き叫ぶお前を踏みつけ、その腹が身籠るほどの泥を飲ませ、耐え切れず我の足元にすがりつく…」

 

 ギルガメッシュが言の葉(ことのは)を、感情を乗せて発する度に空気は歪むように穢れていくように感じる。

 

「その穢れきった姿を早く見たいものだ!!」

 

 瞳孔が開ききった目でセイバーを見るギルガメッシュ。

 それに対し、既に再び戦闘態勢を取っているセイバーも言葉を叩きつける。

 

「そのようなおぞましい事を考えられていたと思うだけで身の毛がよだちます!! そのような言の葉を述べた事を後悔しなさい!!」

 

 黄金の聖剣をその手に構え、ギルガメッシュに向ける。

 

「ああ、それで良い。それで良いぞセイバー。そのお前を組み伏せてこそだ!!」

 

 その言葉と同時に、セイバーとギルガメッシュは互いに距離を縮め、剣をぶつけあい始める。

 そして剣の応酬を続けたまま、この場を離れていった。

 

 残されたのは、俺と遠坂と言峰、そしてその後ろにある聖杯と埋め込まれたイリヤのみとなった。

 

「私も、ギルガメッシュではないがこの時をどれほど待ち望んだ事か。ましてや、あの忌々しい衛宮切嗣と遠坂の血筋の者がこの場に居るとはな、喜ばしい限りだ」

 

 言峰が厭らしい笑みをして話し出す。

 確か、遠坂にとって言峰は兄弟子に当たるんだったな。

 

「綺礼、さっさとイリヤを解放しなさい」

 

 自身としても聞きたい事は山ほどあるだろうが、それを置いてイリヤの事を聞く遠坂。

 

「それはできない相談だ。聖杯は現れたが、まだ不安定だ。接点である彼女にはその命が続く限り耐えて貰わねばならん」

 

「お前は何が望みなんだ!?」

 

「聖杯よりうみ出る力、際限なく溢れ災厄を巻き起こす。この中にはあらゆる悪性、人の世をわけ隔てなく呪うモノが入っている」

 

「それが何だってのよ!!」

 

「人というものは死の瞬間にこそ価値があると思わんかね? 生存という助走距離を持って高く飛び、空へ届き、尊く輝く。私はその輝きこそを見たいのだよ」

 

 興奮冷め止まぬといった風に声を上げ、離し続ける言峰。

 

「10年前の火災は悪くなかった。あのような地獄にこそ、魂は炸裂する。人における最高の煌めきがなぁ。無念のまま朽ちてゆき、叫ぶ人間に胸打たれるものがあっただろう?

歪な形ではあるが、私ほど人間を愛している者は居ない。

故に、私程聖杯に相応しい者も居ない」

 

 悦に浸った言い方で自身の望みを言いきった言峰を俺は、溢れんばかりの怒りのこもった目で見ている事だろう。

 自分自身こうやって自己評価できるのが不思議な位に腹が立っている。

 いつだったかコウジュが言っていたな。『心は熱く、頭は冷静に』、と。

 自分の事でなんだが、心が熱くなったら頭が冷静でいられる事は無いと思っていたが、案外あるもんだ。

 俺は今あまりの怒りに一周回って冷静になったのであろう。

 隙を探せと頭が考える。

 けど、今すぐに近づいてぶん殴りたい自分も居る。

 許せるか? あの大火事を自身の欲望の為に起こしたこの男を。

 許せるか? “人”という存在をここまで自身の為に貶める男を。

 放っておけるか? 破壊という形で人の輝きを見たいと、バカげたことを言うこの男を。

 俺は許せない。

 正義とか、悪とか、俺はまだしっかりと答えが出たわけじゃない。

 けど、これだけは言える。

 こいつが居ると、また大多数の人間が不幸になる。

 だったら俺はこいつを倒す。

 倒さなければならない。

 最初からその事実は変わらなかったが、今、俺の中で再認識する。

 こいつは倒すべき“悪”だ!!

 

「…遠坂」

 

「…ええ、援護するわ」

 

 小声で隣に居る遠坂に声をかける。こちらの考えに気づいてくれたようだ。

 

「ふむ、来るか。あの小娘さえいなければこちらの優位は動かん。だが、聖杯が完成するまでしばらく猶予があるな。よろしい、時間を潰そうではないか」

 

 言峰がそう言い切る前には俺は走り出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁぁッ!!」

 

「この程度なのか? 衛宮切嗣の遺志を継ぐ者が…」

 

 

 俺は、言峰に干将・莫耶で斬りかかる。

 それを言峰はギリギリのところで回避し、拳を打ち込んでくる。

 それを凌ぎ、払い、時には回避し、再び、斬りかかる。

 遠坂は俺の後方から、ガントや宝石魔術でこちらを駆使し、俺の援護をしてくれる。

 だが攻めきれない。

 先程からその繰り返しだ。

 その原因は言峰の背後にある聖杯の所為である。

 

「ほら、次だ。この世全ての悪(アンリマユ)をその身に浴びろ」

 

 触手が、泥の塊が、俺と遠坂に向かってくる。

 言峰が操っているのであろう、聖杯。

 いや、アンリマユと呼ぶべきか。

 アンリマユは俺達を飲み込まんと人一人に対して過多な量でこちらに触手として迫って来る。

 時に泥を自身で飛ばして、時に言峰がその手で巻き上げてこちらへと飛ばす。

 弾幕、とまでは行かなくても当たる訳にはいかない以上、そう易々と潜り抜けられるものではない。

 直感的にあれに触れてはいけないことは分かるが故に、一発も受けないようにしようとすると決め手に欠けてしまう。

 唯一の救いはそれほどスピードが無い事か。

 

「っぜぁぁぁ!!!」

 

 絡みつこうとする触手を俺は剣で弾き(・・)、横へ跳躍する。

 本来なら出来ないのであろうが俺が今持っている干将・莫耶はコウジュに見せて貰った方だ。

 こちらの干将・莫耶の効果は凍結。

 斬りつけた場所が凍りつき、固体となった触手を弾く事が出来る。

 出来るとは言ったがほんの数瞬だ。

 凍った場所をすぐに後から後から違う泥が覆い、再び俺を追う。

 だが、その刹那の間に避ける程度の事はできる。

 

「投影か…。それにしてもよく避ける」

 

 予想の範疇と言わんばかりにこちらの抵抗を見物する言峰。

 くそ…、やはりアンリマユが邪魔で近づけない。

 

「さて、次はそっちだ」

 

 今度は泥の触手を遠坂の方へ向わせ始める。

 しかも、今までより数も大きさも段違いとなっている。

 

「きゃっ!?」

 

 遠坂は魔術で弾きながら避けようとするが、一本が遠坂に当たり動きを止める。

 何とか障壁で弾いたようだが、咄嗟の事で大きく体勢が崩れてしまっている。

 そんな遠坂を待ってくれるはずもなく、残りの触手が迫った。

 

「ちっ!!」

 

 遠坂の方へ走りながら手元に在った干将・莫耶を遠坂の方に投げる。

 だがその程度ではせいぜい数本かすった所を凍らせるだけだ。

 

投影開始(トレース・オン)!!」

 

 続けて凍結の方の干将・莫耶を投影し投げる。

 2回、3回と続け、最後は自身で遠坂の前で触手をいくつか凍らせ、遠坂と共にその場を離れる。

 

「ごめんなさい、助かったわ」

 

「お互い様だ」

 

 言葉の通り、先程から言峰に迫る時に、後方からの遠坂の援護で助かった部分が多々ある。

 

「私はここだ。早く来たまえ」

 

 手でクイッと、掌を上にしてさっさと来いと言わんばかりに手招きして言峰が挑発してくる。

 悔しいけど奴のいう通りだ。

 距離を一向に縮める事が出来ない。

 次はどう動くべきか…。

 コウジュ達鍛えられたからか、余裕はないが余力はある。

 そんな風に次の行動をどうするか悩んでいると―――――。

 

「うぐっ!!?」

 

 俺達の前に誰かが飛びこんでくる。

 

「「セイバー!?」」

 

 その誰かはセイバーだった。

 地に伏すセイバーを急いで抱き上げ、状態を見る。

 

「ぐっ、すいません士郎。思いのほか飛ばされてしまった…」

 

 俺の腕の中から起き上がるセイバー。

 よかった…、見た目に反してダメージは少ないようだ。

 

「ギルガメッシュ、どうした?」

 

「いやなに、そろそろセイバーに泥を飲ませようかと思ってな」

 

「ふむ…、そうだな。聖杯の方もまもなく完成のようだ。頃合いか…」

 

 言峰の横に着地して現れるギルガメッシュ。

 状況は変わらず最悪か。

 でもまだ終わりじゃない。

 セイバーも立ち上がり既に戦闘態勢。

 遠坂も先程のダメージからは復帰している。

 俺も、多少の疲れはあるが余力を残している。

 意思もまったく陰りはしない。

 陰る訳が無い。

 

 なら、あきらめる要素がどこにある!!?

 

 不利な事は変わらない。

 確か、この聖杯はアンリマユとなってはいるが、元来地脈からのマナを吸い上げ貯めこみ、その魔力を以てして願いを叶える。

 それが穢れているのだったか。

 そしてその泥がギルガメッシュと言峰の中にあるわけだ。

 ジリ貧。

 まあ、そんなものは最初から分かってるさ。

 

『勝てるものを幻想しろ…』

 

 頭に浮かぶのはいつものごとくあいつの言葉。

 ピンチになったら助けてくれる正義の味方―――じゃないが、何故かこういった場面で脳裏に浮かぶ紅い弓兵。

 なんでだろうな。

 またお前かと言いたくなるが、今は妙に心強い。

 そして――、

 

『読むべき時に読め。その時になったら分かる…はず…』

 

 最後が頼りなかったが、コウジュの言葉も思い出す。

 同時にポケットに入れていたカードを取り出す。

 その取り出したカードを通して俺の身体は熱に浮かされていた。

 真力『エクスキャリバー』、このカードが指し示してくれる。

 最初に渡された時はもう一本剣が必要だという、そのもう一本が何か分からなかった。

 以前使った時は意図せずして出てきた黄金の剣と鞘。

 あれでは、ダメだ。

 あれでは勝利とは言えない。

 だけど、今なら分かるぞコウジュ。

 どういう風にこれを使えばいいか。

 

『ヒントは俺の闘いの中にあるかもね?』

 

 その言葉はギルガメッシュに殺されそうになった時、助けに入ったコウジュが俺に向かって言った言葉。

 全部分かってて言ったのかコウジュ。

 だったらとんだ策士だ。

 一つ一つが布石で、今、俺の中で結ばれた。

 

 今度こそ、このカードを自分の意志で使おう!!

 

 思い出せ!

 

 聞こえてきたあの詠唱を思い出せ!!

 

「―――I am the bone of my sword(身体は剣で出来ている)!!!!!!!!」

 

 俺は2人の前に出る。

 

「士郎!?」

 

「避けてください士郎!!」

 

 遠坂とセイバーが俺に声を掛けてくれる。

 当然だ。

 俺達の目の前には、泥を飲ませるというギルガメッシュの意を汲んでか、または言峰の気が済んだからか、先程まで触手として俺達を苦しめていた泥が今は奔流として俺達を飲み込もうとしている。

 この量じゃ避ける事はもう不可能だ。

 下手な防御も意味は無いだろう。

 だが、そんなものは今の俺には関係ない。

 勝つんだ!!!!

 

「真力『エクスキャリバー』!!!」

 

 右手にずしりとした重みが加わる。

 剣から溢れんばかりに力が流れ込む。

 勝てるものを幻想しろ!!

 今はこの泥が邪魔だ!!!

 

 盾を!!!

 

 俺達三人を守る為の盾を、城壁のごとく俺達を守る壁を強く望む。

 するとどこからともなく頭に思い浮かぶ盾のイメージ。

 これは光の花弁?

 いや、今はこれが何かなんて関係ない。

 俺の可能性だって言う位だから今の俺が知る由もないだろうしな。

 頭に浮かんだ盾を思い浮かべ、投影する!!

 

熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)!!!」

 

 俺の目の前に光で出来た七枚の花弁が展開する。

 

「何っ!?」

 

「馬鹿なっ!!?」

 

 壁の向こう側から驚愕する声が聞こえる。

 防がれるとは思ってなかったのだろう。

 投影した花弁は俺達を飲み込もうとする泥を弾くように防ぎ続ける。

 やがて泥は量を少なくしていき、遂には迫っていた泥は消える。

 同時に投影していた光の花弁が割れて消える。

 

「す、すごいじゃない!! 士郎!!」

 

「ロー・アイアス…、ギリシャの英雄アイアスが用いたとされる盾」

 

「そういうものだったのか、今の」

 

「知らずに使ったの!?」

 

「その剣のおかげ…ですか?」

 

 セイバーが俺が黄金の剣を持っている事に気付いたのか聞いてくる。

 

「ああ。コウジュがくれたとっておきってやつだ」

 

 そういえば、遠坂達の疲れが吹き飛んでいる…というか、活力が湧きでている様に見える。 俺自身も同様だ。

 力が溢れると同時に思いが強くなっていく。

 それもこの剣の効果なのか?

 今の俺に、負けるイメージなどどこにも浮かばない。

 

「言峰、泥を増やせ。我があの生意気な盾を突き破る」

 

 淡々とそう言いながら、ギルガメッシュは自身の周囲に数多の宝具を

 今度はギルガメッシュもくるのか!!?

 俺は再び前に出て、盾を投影しようとする。

 が――、

 

「あ…れ…?」

 

 足がふらつく。

 頭はもうろうとするどころかハッキリとしていて、心は戦おうと、勝とうとしているのに身体が付いてこない。

 どうなっているんだ…?

 

「「士郎!!?」」

 

 セイバーと遠坂が俺を支えてくれる。

 何で俺の身体は動かない?

 まるで自分の身体では無くなったような感覚。

 早く盾を出さないと…。

 何をすればいいのかは頭に流れてくる。

 だが、身体がその動きを追いかける(トレース)することが出来ない。

 ギルガメッシュが浮かべている宝具がこちらへ向かい始める。

 その後ろには再び波となってこちらを飲み込もうとする泥が控えている。

 

「貫け」

 

 だが、無情にも俺の心に反して身体は動かず、宝具の軍勢が迫り始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「―――停止解凍(フリーズアウト)全投影連続層写(ソードバレルフルオープン)………!!!」」

 

 しかし、迫る宝具の軍勢は、俺達の後方から飛来した数多の剣によって全て弾かれていく。

 身体を動かす事が出来ないのでそちらを見る事は出来ないが、聞こえてきた二つの声は知っているものだ。

 あの男と、そしてもう一つはひどく予想外の少女のもの。

 

 どうしてこの二人が…?

 

 そんな疑問も、目の前の爆撃とも言える宝具の応酬の中に消えていった。

 




いかがだったでしょうか?

サブタイに深い意味はありません。ええ。
士郎君は『綴る!』なんてことはしませんので!
さておきかっこよく立ち上がったと思いきやすぐに倒れてしまった士郎君。
その前に現れた男と少女の正体とはいったい!!?

というところで、また次回お会いしましょう!
ではでは!


P.S.
以前に言ってた書き溜め分ですが、次話を修正が終われば明日の日が変わるまでに投稿できると思います。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。