テンプレ…まじで?(リメイクしてみた) ※現在このすば!編    作:onekou

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どうもonekouでございます。

いつもながらのぎりぎり日曜日以内の投稿。
お待たせいたしました。


『stage14:地球へ』

 

 

 

 特地における自衛隊の前線基地、その中でも指令室に当たる部屋に3つの存在があった。

 中に居るのは伊丹耀司、コウジュ、そして特地方面派遣部隊指揮官である狭間陸将の3名。

 その3名を包む雰囲気はとても重苦しいものだ。

 

「伊丹二尉、もう一度聞こう。彼女の名前は?」

 

「えー、コウジュです」

 

「そうか、では君が懇意にしていたこの写真の少女の名前は?」

 

「コウジュスフィール・フォン・アインツベルンです」

 

「そうか。何とも面白い偶然があるものだな」

 

「あははは…、そうですね……」

 

 引き攣った笑いを浮かべる伊丹の横で、今まで沈黙を守っていたコウジュがビクリと身体を振るわせる。

 そのコウジュの表情は硬く、俯き気味だ。普段の彼女からは考えられない程に。

 

「コウジュ君、だったね」

 

「は、はいっ」

 

 コウジュの姿を見て、嘆息する狭間。

 狭間の姿に何か間違えたのかと怯え始めるコウジュ。

 その姿を見て表情を渋くする。

 

「そう怯えないでほしい。何も君を取って食おうとは思っていないんだ。ただ聞きたいことがあるだけなのでね」

 

 取り直し柔和な笑みを浮かべる狭間の姿に少しだけ警戒を解くコウジュ。

 それでも未だに表情はどこか硬いものだ。

 

「聞きたいこと、とは何ですか?」

 

「君にも聞きたいのだ。この少女と君は何か繋がりが在ったりはしないかね?」

 

「えっと……」

 

 狭間の言葉にコウジュは言い淀む。

 狭間が手にして見せている写真、そこに写っているのは明らかに銀座事件の中で動いていたコウジュ自身の写真だ。ネット上に上げられている物とは違い鮮明に映し出されており、横顔ではあるがその容姿は当然の事ながらコウジュに瓜二つである。

 その写真を見せられたうえで、どう答えるべきか考える。

 伊丹とコウジュの計画では、内部に協力者を作るのはもう少し後にする予定だった。

 しかし、アルヌスに戻り地球へと戻ろうとする寸前に狭間陸将からの呼び出しを受けたためにここに来た。

 そしてその時の呼び出しには、“一緒に居る銀髪の幼い少女と共に来るように”との言伝が付属していた。

 その言い回しから考えるに、コウジュと伊丹はバレていると悟った。

 ただ、何かの流れで火龍とのことを聞いただけの可能性もあるから銀座での事との繋がりまではバレていないかもしれないなんていう希望的観測も二人の中にはあった。まぁ今の言葉で確実にそれは幻想だったことが証明されたわけだが。

 そもそも何故秘密にしようとしているのかというと、一旦落ち着いているコウジュを捕獲しようとする動きが再び活発化しないようにだ。

 確かに、正体を明かし自衛隊内の上層部で認められれば動きやすくはなるだろう。

 だが現状の子狐の状態でもそれほど不自由なく動けてはいるし、それ以前にコウジュに関してはチートがあるため本気で逃げようと思えば幾らでも方法はある。

 だから正体を明かすことのメリットと言うと実はそれほど無いのだ。

 しかしここに来ての早い身元バレ。

 コウジュは悪いことをした訳もないのに嫌な汗が流れていくのを自覚する。

 

 そんなコウジュを見かねてか、狭間がゆっくりと口を開く。

 

「関係が無いのならそう言ってくれれば良い。言いたくないことがあるのなら別に言わなくても良い。だが、これだけは言わせてほしい」

 

 そう言いながら狭間は陸将としての表情を見せ、コウジュの目を見ながら続けた。

 

「もし、もし君が銀座事件の少女と知り合いならばこう伝えてほしい。我々の上層部は確かに君の存在を欲した。だがそれは本意ではない。付け加えて言えば、あの日以来あの少女の事を行政機関などに聞いてくる民間人が増えた。その人達は興味本位で情報を聞こうとしているのではなく、感謝の言葉を伝えたいとの言葉が大多数だ。そして我々自衛隊も、言わなければならない言葉がある。ありがとう、民間人を救い我々の仲間をも救ってくれた少女に最大限の感謝を」

 

 言わなくていいと言いつつ、その言い方は完全にコウジュが銀座の少女と同一人物であると確信しているものだ。そして、同時に頭を下げた。

 その姿に、コウジュは戸惑う。

 ここで偶然居合わせただけだと答えるのは簡単だ。

 だがそれでは、狭間が気を利かせてくれている今までの言葉を無駄にする。

 コウジュは口を開いて閉じ、どう言葉を返せばいいか悩む。

 チラリと、助けを求めるようにコウジュは伊丹を見た。

 すると伊丹は静かに頷きながら笑みを返す。

 それを見て、コウジュは言う言葉を決めた。

 

「その写真の少女とおr……私が一緒かは分かりませんが、きっとその子はこう言うと思います。たまたまそこに居ただけで助けることが出来る術があったからそうした。自分がやりたいことをしただけで、感謝されるのはむず痒い、と」

 

 コウジュの言葉に、狭間は笑みを浮かべながら会釈する程度にだが再び頭を下げる。

 しかしその会釈には最大限の感謝が込められているのを伊丹とコウジュは感じた。

 そして再び顔を上げた狭間は唐突に破顔した。

 

「何とも写真の少女は恥ずかしがり屋なのだな」

 

「そうみたいですね」

 

 狭間の雰囲気が先程までとは違い比較的軽いものになったことで伊丹とコウジュは胸を撫で下ろし、表情を釣られる様に柔らかくした。

 しかし油断したところへ爆弾を落とされる。

 

「それにしてもこの写真の少女が銀座事件の裏の立役者だとよく知っていたね。この精度の写真は一般には出回っていない筈なんだが」

 

 ビキリと、伊丹とコウジュの表情が固まる。

 そして二人一緒にたらたらと汗を流し始める。

 その様子を見て、狭間は声を荒げて笑い出した。

 

「ははははははっ。すまない、冗談だ。許してほしい」

 

 そう言いながらも笑いを我慢しきれないのか、その後も何度か笑い声を漏らす狭間。

 それを見て安堵の息を漏らす伊丹と、どこぞの魔女嫁さんのようなやり辛さだとジト眼を向けるコウジュ。

 二人の様子を見てゴホンと狭間は咳払いを一つし、次の瞬間には真剣な表情へと戻ったため再びこの部屋を重苦しい空気が包む。実力でもって成り上がった老獪さを無駄な場所で示してみせた瞬間である。

 

「嘘吐きになれとは言わんが、君達はもう少し感情が表情にでないようした方が良いかもしれんな」

 

「大人って汚い・・・・・・」

 

 狭間の言葉にうへぇとあからさまに嫌な顔をするコウジュ。

 そんなコウジュを横目で見ながらボソリと伊丹は呟いてしまう。

 

「お前もう40越えてるだろうに」

 

 その呟きを聞きコウジュはギンっと伊丹を睨む。

 コウジュの耳は文字通りの獣耳。どれだけ小さかろうとこの距離ではその呟きを拾ってしまう。

 

「誰がエタロリだごらぁっ!」

 

「誰も言っとらんわ!」

 

 そうして始まったいつものじゃれ合い。

 ヘタレだのうっかりだのと罵りあってはいるが、狭間から見ればただの痴話喧嘩だった。

 やれやれと首を振る狭間にも気付かず二人は舌戦(?)を繰り広げていく。

 それも次第に言う言葉が思いつかなくなってきたのか低レベルなものへとシフトしていく。

 だが流石にこれ以上は話が進まないと狭間は止めることにした。

 

「話を振っておいてなんだが、痴話喧嘩は余所でやってくれ」

 

「「痴話喧嘩じゃないですっ!」」

 

「すまない私が悪かった」

 

 いつの間にか外野にされてしまった狭間は、これなら大丈夫かと一人あきらめにも似た納得をすることにした。

 元々、狭間がこの場に伊丹と少女を呼び出したのは注意をするためだった。

 しかし伊丹とコウジュの二人を見ていると案外何とかなりそうな気がしてきたのだ。

 今までにも何度となく世話になってきた直感が、この二人なら大丈夫だと告げている。

 いやむしろ変に考えると疲れそうだと心のどこかで囁いていた。

 経験上的にもこういう人種はある程度自由にさせておいた方が後々の為になる。

 

 ふむ、と狭間は思案する。

 この後、伊丹は門を再び潜り参考人招致への参加が決定している。

 内容は自衛隊の特地派遣に関するものだだろう。厳密に言えば伊丹率いる第三偵察隊が関わった炎龍討伐に関することだ。

 その際に数人の死者が出ている。

 コラテラルダメージだと捨て置くつもりはないが、それでも炎龍に関する報告書を見た上で狭間はよくやったとしか言えない。

 ただ問題は報告書と実際が違うという事。

 報告書では自衛隊の火器による成果となっているが、実際に見ていた元コダ村住人からの情報ではとある(・・・)少女が吹き飛ばしたとあった。

 一応あまり言いふらさないようにと言われていたようだが、その情報源の住人を責めることは出来ない。彼らも明日を生きるための糧を欲しているのだから。

 だがその情報が既に一部に出回ってしまっている。参考人招致においてその辺りをつつかれるのは確実と言える。

 

 狭間は考えを纏め、改めて二人を見た。

 伊丹とコウジュの二人は一応の決着をつけたのか、双方ともに何故か落ち込んでいた。どうやら互いに言葉のクロスカウンターを打ち合い諸共に沈んだようだ。

 その二人を見て、狭間はニヤリとした笑みを浮かべた。

 今から二人に伝えることはメリットデメリットの両方があるが、この二人が上手く切り抜ければ色々と掃除(・・)が出来る。そしてそれが出来ればこの二人も多少は生きやすい世の中になるだろう。

 そんな思いから、少しばかり二人には苦労してもらおうと考え、狭間は口を開いた。

 

 

「さて、話が付いたようなので少しばかり聞いてほしいことがあるのだが良いかね?」

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

『俺は、帰ってきた!!!』

 

「やかましい!!」

 

 くー!と俺の頭の上で甲高い鳴き声を上げながら、念話でも叫ぶ子狐状態の後輩。

 久しぶりの地球だからってテンション上げ過ぎだ。

 罰として俺は、後輩をテュカへと預けることにした。

 念話で『裏切り者ー!』と届くが知ったことではない。テュカの後ろでは黒川も待っているから大人しくしてなさい。

 

 さて、俺達第三偵察隊と後輩、テュカ、レレイ、ロゥリィ、そしてピニャ皇女と御付として縦巻きロールが素敵なボーゼスさんを加えたメンバーは門を潜り地球へと来ていた。

 何故ピニャ皇女達がここに居るかというと、まぁこれも後輩の所為だったりする。

 それは何故かというと、イタリカで後輩がキレてしまったことがどうやらピニャ皇女にかなりの焦燥感を与えてしまったからの様なのだ。まぁ客観的に考えれば炎龍やその他を使役している幼女が怒ってたらどうにかしないとまずいと思うよな。

 だから、イタリカで後輩が落ち着いてすぐにピニャさんは俺へ謝罪の言葉を告げると共に部下のボーゼスさんを際どい格好で俺の部屋へと送り込んできた。

 だがそこには後輩と、後輩が産みだした恋ドラモードと名付けられた姿の女性が居る状態であったためボーゼスさんは見るなり慌ててすぐに帰ってしまった。どうやら後輩と恋ドラモード(炎龍)の姿にトラウマが生じてしまっているらしい。

 何故ボーゼスさんが俺の部屋に来たかはまぁ察しが付くが、正直嬉しくない……というかそんなことをされると殺されそうなので勘弁して欲しい。

 なので俺はピニャ皇女にそんなことはしなくても大丈夫だと告げに行ったんだが、何故か泣かれてしまった。

 話を聞けば、俺が断りに行ったことで謝罪を受け取ってもらえなかったと思われたようだ。

 さすがにそのままにするわけにもいかず話し合いをし、とりあえずお偉いさんの方と話を付けてもらうことにした。

 人はこれを他人任せというかもしれないが、俺が決めて良い問題でないのだから仕方ない。いやー、ほんと申し訳ないなー、俺には決める権限が無いから上の人に任せるしかないんだよなー。

 だがそれがピニャ皇女にはとてもうれしい事だったらしく、また泣かれた。

 上層部に直接話をさせてもらえるなんて何ともありがたいだとか言われかなり良心が痛んだが、まぁ本人が喜んでいるのだから良いという事にしておこう。

 そんなわけで、ピニャ皇女はボーゼスさんと一緒にこちらへと来たわけだ。

 

 あとのテュカ・レレイ・ロゥリィの3人に来てもらったのは国会招致で少し手伝ってもらおうと思ったからだ。

 今回の国会招致では数人の現地住人を共に連れて来るよう言われていた為、この3人に協力してもらうことにした。

 最初は上手く後輩に演技してもらおうと思っていたのだが、狭間陸将との話でそれはやめておいた方が良いと言われてしまった。

 後輩の写真は狭間陸将だけでなく各国含めての一部上層部にも出回ってしまっているらしく、別の問題が発生するだけだとのこと。

 だが、その際に別の案を提示された。

 内容に関しては未だに大丈夫なのかと思う部分もあるが、後輩に関して大体の事(報告書に書いていないことも含めて)を言った上で提案されたので恐らく大丈夫だろう。

 一応狭間陸将からやりたくなければやらなくても良いと言われたが、後輩自身がそれを了承してしまった為、俺からは何も言えなくなってしまった。

 しかし逆に考えればこのタイミングで特地における自衛隊のトップを味方に付けることが出来たのはかなり大きいだろう。

 俺自身が組織に属している以上、ある程度はその規律を守らなければならないのは確かだ。

 その辺りの便宜を狭間陸将自ら融通すると言ってくれたのだからむしろ良いこと尽くめの気もする。

 実際、後輩の事に関しても“特地における協力者”ではなく“異世界に関しての助言者”として協力体制を敷くことが出来たと上層部に上手く報告してくれるそうだ。

 そして上手く行けば後輩も今より自由に動けるようになるし各国の動きも多少牽制できるとのこと。そのためにも、国会招致で後輩には頑張ってもらう必要がある。

 そう、狭間陸将は告げた。

 

 

『先輩! 難しい顔してないでいつもの喫茶店行こうぜ! さもないとモフられ過ぎて意識飛んじゃう!』

 

 俺の思考を遮るように、後輩からの念話が届く。

 後輩の方を向けば、いつの間に仲良くなったのかテュカと黒川が仲良く後輩を弄りまわしていた。物理的に。

 黒川はともかくテュカに関しては何やら後輩(子狐モード)に触れていると安心感が得られるそうで、暇があれば後輩に子狐モードになってほしいと告げていたりする。

 特地では狭間陸将との話以降は比較的元の姿で居ることが多かった後輩だが、国会が終わるまでは暫く元の姿にはならない様に言われているので現在は子狐モードな後輩だ。だから久しぶりに触る分、余計にモフり倒したいのだろう。

 しかしながらこのままでは二人して全く前に進みそうにないので、今度はレレイに預けることにした。

 レレイは後輩とよく話をしているしその中身は魔法がどうとかの話なので、とりあえずモフられる心配はないだろう。

 ロゥリィでも良かったんだが、後輩はロゥリィに少しばかりの苦手意識を持っているようだからやめておいた。

 ロゥリィ自身はコウジュの事に興味があるようだが、彼女の話を後輩に持ち出すと若干難しい顔をするのだ。

 

 とりあえず、前へと進む準備が出来たので(若干2名の鋭い視線を受けながら)俺は敷地の外へと出るための手続きをしに行くことにする。

 しかしそこで何やら近づいてくる人影があった。

 

「伊丹二尉、情報本部から参りました駒門と言います。皆さんのエスコートを仰せつかっております」

 

 その言葉と共に現れたのは何とも胡散臭い男だった。

 恐らく、調査を主な仕事とする公安調査庁の人間だ。

 

『何この胡散臭い人』

 

 お前も大概胡散臭いからな。

 後輩の念話に頭の中でツッコミを入れながら、俺はその胡散臭い人と話を続ける。

 

「おたく公安の人?」

 

「んふふ、分かりますか。さすが二重橋の英雄は違いますな」

 

「運が良かっただけだよ」

 

 本当に運が良かっただけだ。

 実際、ほとんどの敵兵を無力化したのは後輩だ。

 俺は偶々目につきやすい位置に居た。それだけの話。

 

 そこからは少し駒門さんと話をした後、いくつか情報交換をしてバスに乗り込んだ。

 その際に駒門さんが調べた俺の経歴について栗林がSAN値を削られたかのように騒いだが、まぁ置いておこう。

 

 そのあとはバスに乗り込み、現在の服装のままテュカ達を国会に参加させるわけにもいかないので近くのスーツと言えばなあの店でテュカ用の服を買った後いつもの喫茶店へと訪れた。

 

 

「いやー、ここも久しぶりっすねぇ」

 

「まったくだな。あの日もここに来てたっけか」

 

 感慨深げに言う後輩。

 その姿は元のものへと戻っている。

 この喫茶店へは昼食を取るために来たので、さすがに子狐状態のまま食べるわけにも行かず戻っているのだ。

 

「ちゃんとメールしといたんで、もう料理は出来てると思うっすよ」

 

「ちゃっかりしてるなぁ。でもひとり500円までだぞ?」

 

「あはは、残りは俺が出しますよ。地球にいらっしゃいませってことで」

 

 そう言いながらがま口の財布を取り出す後輩。

 お前はいつの時代の人間だ。

 そうツッコミそうになるが不思議と似合っているので言葉にはしなかった。

 容姿は完全に日本人じゃないのになぁ……。

 

「いらっしゃいませコウジュちゃん。準備は終わってるわよ」

 

「ありがとうございます!」

 

 店の前に居たのに気づいたのか、いつもの店員さんが中から出てきた。

 後輩は我先にと中へと入っていく。

 このままだと後輩に全部食べられてしまうかもしれないので、俺達も続いて中に入る。

 

「へぇ~、何だか落ち着く場所ねぇ」

 

「おいしそうな匂いがする」

 

「ほんとだわ。私お腹すいちゃった」

 

 ロゥリィ、レレイ、テュカはそれぞれ感想を言いながら、店内に入り周りを見渡しつつ俺に続く。

 先導しながら奥へと進めば、後輩がカウンター席でマスターと楽しげに話をしていた。

 

「あ、先輩こっちこっち。いつものテーブルに準備してくれてあるってさ」

 

 後輩の言葉を聞きいつもの席へと目をやればいくつもの美味しそうな料理が並んでいた。流石に一テーブルに全員は座れないのでその隣の席などにも置かれている。

 無意識に俺の腹が鳴る。

 後ろには聞こえなかったようだが、後輩がニヤついていた。

 この野郎、とジト目を向けると同時、全員に聞こえるほどにグゥーと音が聞こえた。

 見る間に真っ赤になる後輩。

 とりあえずニヤニヤしておく。

 帽子を深く被り顔を隠す後輩、その姿を微笑ましく見守っているマスターに顔を向けて会釈する。

 

「マスター、いつもすいません」

 

「いやいや、伊丹君とコウジュ君の頼みだ。いつでも構わないよ。それにまだ準備時間だ。周りを気にする必要もない」

 

 マスターをこそロマンスグレーと呼ぶべきだと思う。

 歳は既に六十を超えているそうだが、顔に出来た皺は衰えを現すのではなく、過ごしてきた人生の重みを感じさせるものだ。

 コーヒーを点てることが趣味だと言うマスターは、柔和な笑みを浮かべながら親指を立てる。

 後輩の紹介で訪れるようになった喫茶店だが、このマスターには頭が上がらない。

 今回も、人目に付かず食事する為に急遽お願いしたのだが快く了承してくれた。

 店の2階が家なのだそうだが、それでも開店前の準備もあるだろうにほんと申し訳ない。

 ただ、前に聞いたんだがこの店が潰れそうになった時に後輩が何か手助けしたらしく、そこから家族の様な付き合いをしているそうで祖父と孫のような関係になっているそうだ。だからマスター自身から遠慮は無用とは言われている。

 それでも気にしてしまうのが日本人というものだろう。 

 

「ほらほら、料理が冷めてしまうから先に食べてしまいなさい。食後にコーヒーも淹れよう。お嬢さん方は紅茶の方が良いかね?」

 

「あ、俺はココアが良いです!」

 

「分かった。いつものだね」

 

「まったくお前は……」

 

「ふふふ、構わないさ。普段頼ってくれないから嬉しい位だよ私は」

 

 そう言ってくれるマスターに再び会釈。

 それに対してマスターはニコリとするのみだ。

 

 ちなみに、後輩曰くココアも絶品だそうで、いつも後輩はココアを頼んでいる。

 そしてその後輩は、カウンター席からいつもの窓際の席へと移動した。

 マスターが言ってくれているのに続けるのも失礼なので、俺も皆を適当な席へと誘導し、自身もいつもの後輩の前へと座る。

 すると、奥から店員さんが残りの料理を持って来てくれた。

 スープ等の温かいものは出来立てで食べられるようにしてくれたようだ。

 そして準備が終わり、店員さんは礼をして奥へと戻った。マスターも気を利かしてくれたのか、奥へと入っていく。

 その二人に感謝しつつ、俺は後輩へと目を向ける。

 

「良いのか?」

 

「何が?」

 

「まぁ、色々だよ。もう後戻りはできないぞ?」

 

「うん、分かってる。でもこれで俺の周りの人に迷惑が掛からなくなるなら俺はするよ」

 

 良い事言ってるのに目が料理にしか行ってないぞお前。まったくこれだから残念娘と言われるんだ。

 いや、よく見れば頬が微かに紅くなっている。

 なるほどただの照れ隠しか。

 それに気づかなかったフリをして、俺は目線を外へと向けた。

 

「無理はするなよ」

 

「分かってるっすよ先輩。でも、ありがとう」

 

 その言葉に、何やら俺も照れくさくなる。

 誤魔化すように俺は声を上げた。

 

「さて、腹も減ったし食べるか! 皆、ここはコウジュの奢りだそうだから好きなだけ食べて良いぞ!」

 

「え、全部!? いやまぁ良いけどちょっと足りないかも……。ひーふーみー……」

 

 慌てて財布を取り出す後輩。そして中身を確認しだした。

 

 他の席ではそれぞれ料理に舌鼓を打ちつつ食事を開始したようだ。

 俺も、目の前の料理へと手を付けていく。

 

「あ、ずるい! えっと、いただきます! って熱っつぃ!?」

 

 財布から目を上げた後輩が俺達が先に食べ始めたのに気付いて追いかけるよに箸へと手を掛けた。

 だが後輩が最初に口にしたのは現在進行形でジュージューと芳ばしい音と匂いをさせているステーキプレート。

 お前また猫舌なのを忘れてたな……。

 それでも負けじと涙目でステーキを口へと運んでいく後輩。

 相変わらず食べ物に関してはいつも全力だよな。

 その姿を見て、俺は思う。

 

 

 

 

 国会でこいつの生贄になるのは誰なんだろうなぁ……。

 とりあえず、被害が最小限になることを切に願う。

 

 

 




いかがだったでしょうか?

今回は国会前までを一気に書かせていただきました。
前回の触手事件で被害を被ったボーゼスさんのその後もチラッと書かせていただきましたが、どうやらトラウマになってしまった様子。
癖になったなんてパターンもありかと思ったのですが、まぁ諸事情で抜きました。

ちなみに、コウジュは回復魔法(レスタ)が使えるので伊丹先輩の嬉し恥ずかしなメイドさんハーレムはキャンセルとなりました。
ざまぁ見やがれ。

さてそれでは、次回は国会中継編ですね。
また御読みいただけると幸いです。
生贄はいったい誰になるんでしょうかね?(ゲス顔

ではでは。

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