テンプレ…まじで?(リメイクしてみた) ※現在このすば!編 作:onekou
気づけばこんな時間、11月も最終日ですね!
「どうするかなぁ、これ……」
あの要領を得ない待機中にこれ幸いと片づけるつもりだった書類を前にして首を捻る。
待機の理由自体は後輩が遠出する間の俺を安全地に居させるという契約の為だったと分かり、後輩と話も出来たからこっちへ戻ってきたのだが、一難去ってまた一難というべきか。
なんとかロリコン疑惑を回避できたのに、次から次へと頭の痛い問題が出てくる。
残った書類もこれが最後だというのに、面倒な……。
アルヌス共同生活組合、コダ村難民を始めとしていつの間にやら肥大したグループ。彼らはその名の通りにアルヌスにおける生活を相互に助け合うことを目的にした組合である。
当初は家財道具すら無く自衛隊からの配給などによりその日を暮らしていたが、飛龍の鱗などを譲り受けそれを売ることで資本金とし、今では自衛隊と商取引した商品を売買している。自衛隊もまたそれによって得た特地の貨幣を元手に様々な方面へと手を伸ばすことが出来ている。
異世界同士、互いの世界に無い物を得ることが出来る中々に理に適った取引だと言えるだろう。
だが、それが最近では問題となりつつある。
特地には無い斬新な商品、高い技術によって作られた品物が注目を浴びて話題となっているのだ。
ダース100円で売っているような鉛筆一つとってもこの世界では考えられないほど高い技術で作られた品物となってしまう。ナイロンでできた雨合羽など魔法の布扱いだ。言っておくけどそれも100円(税抜き)だよ。
故に、それらの品に考えられない値段が付く。
自衛隊側から組合には人件費の利益や運送なども込みで多少高くはなっているが、お土産価格程度の相場で売っている。
組合もまた買いに来た他都市の商人達に自分の利益は勿論出るようにしてはいるがそれほど値上げして売っている訳では無かった。
しかし、需要に対して供給が追いついておらず、物によっては金に糸目をつけない貴族が欲しがるために転売業者まで出る始末だ。安いサテンでも、貴族の御令嬢からすれば自慢の種にするには充分な技術が含まれているそうだ。
だから現状では一部だけに利益が出るのを防ぐために卸し量の調整や金額も多少高値にするなどして調整している。
結果どうなるかというと、組合に入る金額が大きくなる。
自衛隊としても、特地で売れるものなどを常に調査して仕入れの数を増やしたりと対応しているためその内に値崩れしてくるだろうとは思うが、現状ではそれも見込めない。
それに対して商人は留まるところを見せず、次から次へと商機を見出してアルヌスへと集まる一方である。
そしてさらに、それによって新たに生まれてきた問題がある。卸している店の規模が集まる商人の数に対して足りていないのだ。
アルヌス内に作られたPXはちょっとした商店並みのサイズがある。
だが、今の状況であればスーパー並みのサイズであっても良いかもしれない。
何せ一部には路上販売までしている始末だ。
まぁ、実際にスーパー並みのサイズであったとしても次は店員が足りないんだけどな。だからこそ後輩が出張っているわけだし。
「ここはやっぱり、例の帝都支店を視野に入れて行くしかないか……」
ピニャ皇女の御陰で講和への布石は徐々に打つことが出来ている。
未だ帝国の中枢までは手が届いていないが、それももうすぐだ。
後輩の御陰もあって数多く居る銀座事件での捕虜、それを出汁に元老院議員へと講和を持ちかけており、外務省の菅原さんがピニャ皇女と同道して下地を作ってくれている。
この待機明けには講和派を集いパーティを開くことになっており、それが講和会議への第一歩となる。
それと同時に帝都内へ組合の支店を置き、文化侵略とまでは行かないがこちらとの取引で得ることが出来る物の覚えをしておく名目でそこから品物を流す。
そうするだけでもアルヌスのPXまで来る商人の数は大分減るだろう。
「うし、これで良いだろう」
帝都支店を視野に入れた組合の発展計画。それを書類に書き込み印を押す。
ぶっちゃけて言えば後回しにしただけの内容だが、しかしそれ以外ではどうしようもないのもまた事実。
あくまでも帝国と日本は未だ敵国同士でしかないのだ。
ふぅ、と一息つき肩を回す。
慣れない書類仕事にどうにも肩が凝って仕方がない。
そういえば後輩はマッサージが上手だったな。梨紗も良くしてもらっていたと記憶している。
後輩曰く、マッサージが上手な人は何処をマッサージされると気持ち良いか体感して知っている人らしいが、後輩もマッサージしてもらったことがあるのだろうか。見た目でいえば幼女なので肩が凝るようには思えないが……。
しかしそこでふと後輩の一部について思い出す。
「っと、疲れてんのかな。これ以上のロリコン疑惑は勘弁だ」
そんな独り言を呟いてしまっている時点でお察しだが、疲れている時ほど自然と声が漏れてしまうのは誰しも一緒だろう。
幸いにも、俺の呟きを拾った人間は居ないようだ。
今更だが、今居る駐屯地内の事務所にはそれなりの数の隊員が居る。
周りを見れば第三偵察隊の人間だけでなく、他の部隊の人間も書類仕事に勤しんでいる。
各自使用した物品・弾薬についての書類など、脳まで筋肉で出来ているような奴らは似合わないデスクで悪戦苦闘していたりする。
かくいう俺も脳筋では無いが違う意味で書類仕事は苦手な為、それなりに時間が掛かってしまった。
時計を見れば、後輩と別れてからそれなりに時間が経っていたようだ。
そろそろ夕食時だし、丁度良い。
提出するべき書類を纏めてファイルに入れ、席を立……とうとして違和感に気付く。
なんかこう、ドドドドドといった風に言い表すべき音が聞こえてくる。
しかもそれがドンドン近づいてくる。
一体なんだ?
いや待て、こんな非常識な音を立てながら近づいてきそうな人物に一人心当たりがある。
そこまで思い至ったところで音は爆音に代わり、そしてバンッと音を立てながら扉が叩き開けられた。
事務所内の全員が音に気付いていたようで、開く前から見ていたが犯人を目にして各々が作業に戻った。
あ、後輩の扱いってもうそんな感じなのな…。
ともかく、入ってきたのは後輩だ。
息を荒くし、そして俺を見つけるとそのまま跳躍して天井を蹴って俺の前に降り立つ。
無駄に身体能力使わず普通に来いよ。
しかし俺が文句を言う前に、後輩は俺の腕を掴んで震えた声で叫んだ。
「先輩! 出来ちゃった!! どうしよう!!?」
『ぶほぁっ』
事務所内の全員が吹いてしまった。俺も吹いた。
いきなり何言っちゃってるんですかねこの子は!?
あ、いや、待て、真剣な顔で言うものだからつい出来ちゃったイコールで赤ちゃんの方へ持っていったが、後輩の事だからただ言葉が少ないだけかもしれない。
だから、思わず吹き出してしまった空気を取り戻すために深く息を吸い、後輩に聞く。
「待て待て、出来ちゃったって何がだよ。また何か作ったのか?」
「いや、そうじゃなくて、子どもが」
ジーザス。
マジで子どもらしい。
『伊丹ィィィィィっ!!!!!』
「ちょ、待って、そんな出来るようなことしてないから!!!!!」
事務所内の屈強な男たちが一斉に立ち上がって、いや女性陣も立ち上がって今にも俺を殺しに来そうな形相で見ている。
いやでもほんと後輩とそんな出来るようなことをしたことないよ俺!?
童貞は捨てちゃっているが、結婚歴もある成人男性(三十路)ならまぁ普通だろう。
しかし、後輩とはそういうアレではない。
昔から邪推するやつは数多く居るし、某掲示板でもなんか色々言われているが、それでも俺はやっていない。
「出来る……?」
「後輩も何か言ってやれ! 何かの誤解だろ!? なっ!!?」
自分の発言から何故こんな状況になっているのか理解できていない後輩は首を傾げながら疑問を口にする。
この反応は絶対違うやつだ。長年の経験から分かったが、やっぱり言葉が少なくてややこしくなっているだけのやつだ。
このままでは俺のロリコン疑惑が確定に変わってしまう。それだけは阻止しなければならない。
子どもは可愛いとは思うがそういったアレではないし、さっきも言ったが後輩と仲は良いが、それは単なる趣味仲間的なサムシングだ。
だから、慌てて後輩に言う俺。
だが、後輩は今更ながら自分が言ったことからどうしてこうなったかを理解したようで、一気にその雪のように白い肌を真っ赤に染め上げる。
「あ、いや、ちが、あの、ご、ごきゃいっす!!!」
噛んでる噛んでる!
でもそんな事にも気づかない位テンパってしまったのか、漫画的な表現をするなら目をぐるぐるさせながら、そしてワタワタと手を動かしながら続ける。
「子供が出来たというのはですね、なんかこうできちゃったというか、意図してできた訳じゃなくて、事故というか、いやでも可愛いんですけど、でもそうじゃなくて――――」
説明が説明になってない。
というかそれだと余計に誤解が深まるだけなんだが!?
「後輩! そうじゃなくて、そもそも俺達子ども出来るようなことしてないよな!?」
そう、それさえ言ってもらえればとりあえずこの場は収まる筈だ。
視線だけで人が殺せるのなら俺は今この瞬間に何回死んでいるだろうか。きっと第5次バーサーカーがエクスカリバーで一気に命のストックを失ったが、それどころじゃない位に俺は殺されているに違いない。
それくらいに今この事務所内の殺気が半端ない。
特にそこの黒川さん!? 養豚場の豚を見るような目って表現があるけどその目を俺に向けないでくれませんかねぇ!!?
だから、縋る思いで後輩に言った。
そして後輩は、俺の言葉に天啓でも得たと言わんばかりに、ワタワタするのを止めて、声を張り上げて言った。
「―――っハ!? そ、そうっすよ! そもそも俺まだ一回もしたことないし!!!!!!!!!!」
殺気が止んだ。というか時間が止まった。
何秒か、何分か、どれくらいかは分からないが、確実に全員の動きが止まってしまった。
暫くすると、ただでさえ真っ赤だった後輩の顔は真っ赤なのはそのままに涙目になり始めた。
そして、誰かが止まったままだった腕からペンをデスクに落とした音が響く。
それと同時に後輩が回れ右してそのまま歩き出し、静かに扉の向こうへと消えた。
バタン。扉の向こうへ後輩が消えると同時に事務所内の時間が元通りになり、全員が動き始める。
確かに俺の誤解は消え去っただろうが、どうしようこの空気。かなり居辛いんですが。
俺が手を出していないと分かりヤケににやけるごつい男たちが何人か。お前らサムズアップすんな。
ほんとあいつは事あるごとに爆弾を落としていくから困ったものだ。
俺は、いつの間にか落としてしまっていたらしい書類を入れたファイルを拾い、歩き出そうとし……たところで再びドアが開いた。今度は静かに、立て付けが悪いのでキィと音は鳴るがその程度で、先程とは段違いだ。
しかし、その音に再び事務所が一斉に静かになる。
そしてやはり、扉を潜って入ってきたのは後輩だった。
戻ってきた後輩は赤面したまま、何も言わず、今度は静かに歩いて俺の元まで来て裾を掴んだ。
そして引っ張って歩き出す。
「あ、おい」
「良いから!」
「……分かったよ」
その有無を言わせぬ在り様に、仕方ないと俺は着いてくことにした。
よくよく考えれば後輩はあまりこの事務所には近づかないようにしていた。
仕事の関係では仕方ないが、やはり部外者である以上は気軽に入るべきではないと自重していたのだ。
それに気を付けていた後輩があれほど慌てて入ってきたことを思うと、何か理由があるのだろう。
そう思ったからこそ、俺は着いていくことに決めた。
後輩はなんだかんだとその辺りの通すべき筋は通す性格だ。
たまにうっかり忘れていたり、今回みたいにすっぽ抜けてしまうこともあるようだが、内面に秘めたそれに対してかなり几帳面だ。
何気に、掃除洗濯料理と、一般レベルではあるようだが家事全般も出来たりする高スペックだったりする。ちなみに、たまーにやたら美味しい料理やお菓子が出てくるが、それは裏技らしい。
「先輩」
「何だ?」
事務所の扉を潜り廊下に出て暫くしたところで、後ろ手に俺の裾を引っ張りながら前を行く後輩が前を向いたままそう言ってきたので軽く返す。
おっと、さっきの説明か?
そう思ったが、どうやら違ったようだ。
「ホント童貞ちゃうから!」
「あ、うん、そうね」
性別的に確かにそうではないよな。
どっちにしても、そういうことにしておこう。
そう思った今の俺の表情はきっと、今までにない位暖かい眼をしているに違いない。
◆◆◆
うわあああああああああああああああああああ!?
恥ずかしい恥かしい恥かしいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!!!
あんな大勢の前で童貞です宣言とか恥ずかしすぎる!!
あ、いや今は性別が女だから処女?
いやでもどっちにしろ人前で素面で言えることじゃねぇ!!
く、黒歴史だ。これは間違いなく人生でベストテンに入るくらいに黒歴史に違いない。
他のランクインはアイドル擬きしちゃったりゲームのヒロインになっちゃってたこととかこの間の国会で転生チート幼女だってばれたことだが、ほんとそれくらい恥かしい。
なんかさっきから先輩の眼も生暖かいし、もうね、死んじゃいたい。すぐ復活するけど。
とりあえずそんな叫びたい衝動をホントに外へと出すわけにはいかないので脳内で抑える。
だってさ、今の俺が本気で叫んだなら物理的な攻撃になっちゃうからね。
何せドラゴンの因子まで手に入れたからマジ叫びが咆哮になっちまう。
だから我慢。
というかつい最近も似たような闘争をした覚えがあるが、あの時もよく我慢できたものだ。それなりに叫んだ気がするが、壁が壊れたりはしてなかったしセーフだろう。
恥ずかしさのあまり基地が吹き飛ぶとかシャレにならんぞおい。
さて、そうこうする内に俺の部屋まで辿り着いた。
俺は鍵を開け、先輩を連れて中へと入る。
いつだかのように、部屋の中央のスペースを空けて、そこに例の段ボールを置き、挟むようにして座る。
「後輩、これっていつものやつだよな?」
「うぃっす、この中に居る存在がさっきの、まぁ、子ども発言になる訳っすよ」
先程の事を再び思い出し顔に熱が集まるが思考をずらして阻止する。
俺は一息ついて、段ボールの蓋を開ける。
見てもらうのは当然、例の幼女二人だ。
「ほうほう、ってあれ、なんか紅と蒼の幼女が居るんだけど、誘拐?」
「失敬な。この二人は討伐に行って捕まえた炎龍の二匹っすよ。ここに居れて置いたらいつの間にか幼女になったんです」
「お前の段ボールって中に入れた生き物を幼女に変えるの!? ってことはこの間の軍人もみんな幼女に!?」
「いやなってないのこの間確認したでしょうが」
「それもそうか」
筋肉ムキムキマッチョメンがいつの間にかみんな幼女とか嫌だよ俺。いやまぁ争い事は絶えそうだけど。
「ま、とりま行きましょうか」
実は先輩の所に駆けこむ前に、一度中に入って二匹と……二人?と話したのだ。
なんとこの元幼龍たちは人語を解すのだ。
それもまぁ、人型になったことに起因するのだが、ここであれこれ言うよりは実際に二人の前に行って話した方が良いだろう。
そもそも、ただ幼龍が幼女になった程度ならあそこまで取り乱さない。
その理由は、百聞は一見に如かずってことで見てもらった方が早いだろう。
俺は立ち上がり、ついでに先輩の袖を引張り立たせる。
「どこへだよ!?」
「ここっす」
言うが速いか、俺は段ボールを指さしながら倒れ込むように先輩と共に中へと入った。
◆◆◆
「ほい到着」
「うおっ!?」
気づけば後輩に御姫様抱っこで抱えられていたが、次の瞬間には地面へと降ろされた。
段ボールへと突っ込んだと思いきや、次の瞬間にはこれである。
俺は一言言おうとするが、そこではたと気付く。
先程は狭い個室だったのに、いつの間にか体育館並みの広さへと変わってる。
壁はSFチックな金属製のもので、光源はどこにあるのやら暑くはないが日の下の様に明るい。
よく見れば、アニメでよくありそうな巨大人型兵器でも置いてありそうな格納庫の様だ。
「ママ!!」
「かあさま……」
「うおっと」
俺が辺りを見回していると、上から何かが降ってきて後輩へと飛びついた。
後輩は声とは違って、危なげなくその二つの影を抱きとめる。
紅と蒼の影、先程段ボール越しに見た元幼龍らしい幼女だ。
ただ、幼女が二人の幼女を抱きとめている訳だが、見た目だけでは微笑ましい物なのに何やら二人が言った言葉がおかしいものだった。
今、後輩に向かって言葉は違うものの母だと言いながら飛びつかなかったか?
ちなみにママと言った方が紅い長髪に紅い裾が短い浴衣の様な物を着ている見るからに元気が溢れているといった感じの幼女だ。
かあさまと物静かに言いながらもダイブした子が蒼い長髪に青い同じような浴衣を着ている。
それぞれ浴衣の下に薄いインナーと短パンを履いているようで、浴衣の様な上着で動き辛そうに見えたが存外動きやすそうだ。
というかこれって、たまに後輩が自分の家で着てなかったか? あいつは白だったけど、何だかジャージに次いで楽だからとちょくちょく着てたはずだ。ミヤビカタとか言っていたか……。
ということは、後輩が二人に着せたのだろう。
「後輩、えらく懐かれてるな」
「そうなんすよ、これがさっきの発言の原因っす」
辟易とした様子の後輩、その姿に思わず苦笑いだ。
どうしてこうも懐かれているのか。
しかしそれを聞く前に、二人が一斉にこちらへと牙を剥きながら威嚇してきた。
「ママが何だか辛そう! お前がやったのか!!」
「かあさまの敵なら、食べて良い人間?」
いえ駄目です。というか疲れてるのは君たちの所為だと思うぞおじさんは。
それにしても、幼龍とはいえ元炎龍だと聞いても幼女二人が威嚇してくるだけでは何も怖くない。
後輩があの姿で色々やらかしているが、どうもその本人の容姿も相まってコミカルにしか見えないことが多いのだ。
というか、この数か月で慣れてしまったのだろう。
「やめい!」
「「はーい」」
「この人は俺の恩人だから、食べちゃダメな人間。というか人間は食べちゃダメ。分かったか?」
「「分かりましたぁ……」」
「ならよし」
おおぅ、これ本人に言うと殴られそうだけどめちゃくちゃ母親っぽい。
歯をむき出していた二人がシュンと一瞬で沈んで大人しく後輩のいう事を聞いた。
普段は粗野なのに無駄に女子力高かったりするし、割と向いているんじゃなかろうか。
それにしてもなるほど、これが“できちゃった”発言に繋がる訳か。
しかしなんでまたこんなに懐かれているのだろうか?
「それで、何で後輩はこんなに懐かれているんだ?」
「それがどうも、例の炎龍がこの子達の母親らしいんすよ。そんで俺からあの炎龍の匂いがするらしい。一応俺は倒した方って言ったんだけど、匂いはするしご飯も上げたしで母親認定されたらしくて」
「匂いねぇ……」
思わずクンと鼻で吸うがよくわからん。
「さすがに恥ずかしいんでやめてほしいっす」
「あ、すまん」
少しムッとする後輩に素直に謝る。
見た目は幼女とはいえ女性にすることでは無いしな。
とりあえず、人間では分からない匂いなのだろう。
しかし説明したのにそれでも母親認定とはよく分からん状況だな。
「前のママ、私たちを置いて消えちゃったし、次のママはご飯を全然くれないもん。でもママは変なのも一緒だったけど遊んでくれたし、美味しいご飯もくれたから大好き!! 最初のママも好きだけど、おんなじ匂いがしておんなじみたいな姿になるママの方が好き!!」
「……うん。美味しい、です。それに……、お洋服面白い、です」
シュンとしていた幼女たちが顔を上げて後輩へとそう言う。
たぶん、最初のママってのがその生みの親であり後輩が倒した炎龍だよな。
でも次のママってなんだ?
まぁご飯をあまりくれなかったって位だし、世話をしなかったのか出来なかったのか、どちらにしろ考えても詮無い事か。
何せ後輩が帰って来てからまだ数時間しか経ってないのにこの懐きようだ。よほど前の環境が悪かったのだろう。
それにしても困惑しながらも遊んであげるとは中々後輩も子ども好きなのだな。本人も見た目は子どもだけど。
見た目が似たようなもんだからこそチャンネル的なものが合うのだろうか?
そんな本人に失礼なことを考えていると、後輩がジトっとした目をこちらへ向けていた。
「言っとくけど、遊んだってのは討伐に行った時の事ですからね。途中から俺自身が炎龍化して戦ったのがこの子達には遊んでもらったように感じたらしいんすよ。ご飯はまぁ、ついおいしそうに食べるのを見て色々上げちゃいましたけど」
「……なるほどな」
「おいこっち見ろや」
考えていたことが顔に出ていたのか、それを悟られたようで思わず顔を背ける。
そんな俺の姿を見て、後輩は溜息を一つ、説明を続けた。
「次はこの子達がなんで人化したのかの話をしますね」
「あ、そうだよそれ。これもお前が何かやったのか?」
「いんや俺自身は何もしてないっす。でも、俺が原因ってのはある意味正解かも」
何だか要領を得ない言い方だ。
俺が内心で首を傾げていると、後輩が再び口を開く。
「俺がいつも使ってる影みたいな泥みたいなのあるじゃないっすか」
「ああ、あの剣になったり触手になったり忙しいやつな」
変身する時に使ったりと後輩がよく使っているのを目にするアレか。
前は燃料にもなっていたし、割と何でもありな不思議物質だ。
後輩曰くそれなりに制限があるらしいが、それを補って余りある多様性だと俺は思う。
しかしあれがどうしたのだろうか。
「いやぁ、あれって聖杯の泥を俺がラーニングして願いを叶えるって性質が滲みついちゃったみたいで、それがまぁ段ボールからたまに出てる触手の正体でもあるわけで、それを食べちゃったみたいなんすよこの子達」
「はあああああああああああああ!!!!?」
聖杯の泥!? それって滅茶苦茶危険な代物じゃないか!?
しかもこいつが参加した聖杯戦争って第五次だったよな!?
もろに穢れてるやつじゃないか!!!!
あ、ごめん、幼龍の二人。驚かせちゃったな。
でも驚いても仕方がないんだ。それほど危険な代物なのだから。
いや悪いとは思ってるから睨まないでくれ。
「あ、安心してください。元の悪性は取り除かれてるんで、言ってみれば純粋な力の塊なんですよ。……まぁ俺が悪意持っちゃうとアレですが」
「ボソッと言ったの聞こえたぞおい」
あ、でもよく考えれば後輩はあの泥を結構使っているし、実際に触れた人が何人も居るが、何か異常が出た人を見たことは無い。
「大丈夫っすよ。それなりに理性はあるつもりだし、暴走でもしない限り泥が暴発することは無い筈です」
でもお前バーサーカーじゃん……。
そう思ったのが分かったのか、後輩は苦笑いしながら説明を続ける。
「大丈夫っす。先輩には令呪がある。俺は特性上令呪の効果を普通より強く受けるみたいなので、先輩が使ってくれりゃぁ大丈夫っすよ」
「っ……、そもそも暴走しない様にしろ馬鹿後輩」
「はは…、ですよね」
後輩はサーヴァントかもしれないが奴隷じゃない。
建前上は令呪での制御が出来ているという上辺が必要だから令呪をそのままにしているが、無くても後輩が居続けられるというのなら今すぐにでも契約解消したいくらいなのだ。
それを知っているからか、後輩は俺が言う言葉に嬉しそうに笑う。
まったくこいつは……。
それよりも問題は、その泥を食べたって二人だ。
触れるのはともかく、食べて大丈夫なのかそれって。
「まぁさておき、二人はその泥を食べてしまったわけです。ここの防衛機構としていつの間にか働いてくれていた触手さんが、暴れようとした炎龍達を抑えようとしたみたいなんですけど逆に食べられたってのが顛末みたいっすね。んで、その後で格納庫に放置されたこの子達はどうやらその方向性の無い泥に願っちゃったらしいんすよね。『人みたいな小さい姿ならここから出て行けるのかな。ママともっと遊べるように人の姿にもなれるようになりたい』って」
「なるほどなぁ……」
その願いを、叶えた結果がこれか。
でもそれでいくと食べてスーパーサ○ヤ人になりたいとか狙ったら髪が黄金になるのだろうか。
俺がそんなことを考えていると、静かにしていた幼女二人がガバりと顔を起こして口を開いた。
「ママに遊んでもらってた時にママは二匹になったり人になったり龍になったり楽しそうだったの!」
「……実際楽しい、です」
驚愕すべきは後輩の泥の性能か、それともこの子達の発想か。
まぁでもこれで、子どもが出来ちゃった訳はわかった訳か。
合点が行った俺は、これからこの子達をどうするつもりなのか聞こうと後輩へと顔を向けるが、当の後輩はなんというか『あ、やっべ』みたいな顔をしていた。
おい何やらかした。
場合によってはこの子達の事を狭間陸将に伝えなきゃならんのだからこれ以上の厄介事は勘弁だぞ。
「まだ何か問題があるのか後輩」
「いやぁ、この子達を回収した後に住処にしてたっぽい洞窟で倒れてる女の人を見つけたんすよ。どうにもこの子達に掛かり切りですっかり忘れてたなぁと」
一人きりで見知らぬ場所に放置とか大問題じゃないか!
「それって結構不味くないか? 炎龍に襲われそうなところを助けたにしても、流石に一人ってのは……」
「なんか空腹で倒れてたっぽい感じだったのでご飯を置いておいたらいつの間にか起きてたみたいで無くなってたから結構な量を足してきたんですよ。だから見知らぬ場所に混乱してってことは無いと思うんですけど……」
「それなら……いや駄目だろう」
「やっぱ駄目っすかねぇ……」
まったくこいつは……。
要救助者を、空腹で倒れていただけっぽいとはいえ放置はマズいだろう。
後輩は回復魔法的なのも使えるみたいだから緊急性は無いとはいえ、帰って来てから結構な時間が経っている。
「今から行くのか?」
「ういです。ここから部屋はすぐなので一旦向かいましょうか」
「分かった。すぐに向かおう」
後輩は離れたがらない二人を何とか言い包めて、俺と二人で格納庫を出る。
そして慌てて二人して通路を後輩の先導で向かう。
そこでふと、気になった問いが出てきたので聞くことにした。
「ちなみにどんな人だったんだ?」
俺の言葉に、前を走る後輩が答える。
しかしその後輩の言葉に、俺は言葉を失った。
何故なら―――、
「えっと、竜人って感じの人ですね。あ、後なんか白ゴス着てた」
おま、それ、ロゥリィみたいな亜神ってやつじゃないのか!?
いかがだったでしょうか?
色々詰め込んでいる内にこんなことに……。
今回もあまり話が進みませんでしたが、結構今後に関わる要素も入れてみました。
なので、今回の布石で今後も楽しんで頂ければと思います。
ではでは!
P.S.
段ボールが幼女製造機と感想で頂きましたが、軍人さん達はほんとに幼女になってませんからね!
まぁ、触手食べて幼女になりたいって願えば知りませんが……。