テンプレ…まじで?(リメイクしてみた) ※現在このすば!編 作:onekou
今回は前回についてのちょっとした捕捉みたいなものと題名通りの内容となっております。
ではどうぞ。
「あ奴め、餌を漁っただけで満足して帰ってきよったぞ」
「しかし無駄ではありませぬ。ゾルザル殿下があの場へ赴いた意味を理解する者も居ましょう」
「ふむ、一先ずはそれで良しとしよう」
帝国内謁見室、その中でも最も高い位置にある玉座に座る男、現皇帝モルト・ソル・アウグスタス。
そしてモルトに向かって膝を付き、忠誠を示しながら言を返すのはその腹心たるマルクス伯。
ピニャの兄であるゾルザルが皇室庭園での園遊会に姿を現して暫く、そのゾルザルを送り出したマルクス伯の報告が今行われていた。
「まったく忌まわしい限りだ。連合諸王国軍もまるで役に立たないとはな」
「第一目標は達せられました。諸王国の軍は壊滅し、我らへと牙を立てる力すらありませぬ」
「それを奴らに感謝するのは業腹だがな」
皇帝の言葉に、マルクス伯が静かに頷く。
連合諸王国軍、それは帝国に敗れ属国となった国々により組織され、自衛隊が特地へと訪れた際に戦った軍隊の事だ。
開門後、銀座事件が起こり日本は早急な対応が求められた。
そして、内閣に変動を起こしながらもついに自衛隊はついに門を潜り特地へと渡った。
そんな橋頭保をアルヌスに作った自衛隊を襲ったのが連合諸王国軍。
しかし彼らは、帝国の増援として呼ばれたわけでは無かった。
名目上は確かに帝国への増援ではあった。
だがその実態は、自衛隊に大敗した帝国が周辺諸国にクーデターを起こされない為に兵力を削ぐことが目的だった。
この際には帝国の大敗は知らせず、門からの侵略者として自衛隊と戦わせるまでもを行った。
皇帝にとって属国や同盟などというものはどうでも良いのだ。
帝国を存続させるために有用であるかどうか、それだけが彼の中にある。
「それで、諸王国軍の様子はどうだ? なにやら敵の兵器によって病に伏せるものが多数と聞くが」
「はい。突如地面が破裂するとともに浴びた黒い靄が原因と思われますが、毒の類いではなくありふれた病に罹ったものが数多く居るようです。現在では体調も改善しているようですが、体力の低下が著しいとのこと」
「ふん、厭らしい手を使いよるわ。生きた怪我人ほど進軍の邪魔になるものはあるまいて。しかし幸いにもその黒い靄を浴びた者は我が軍にはおらぬ。その靄への対抗策を考えておけ」
「御意に」
了承と共に面を下げるマルクス伯。
そのマルクス伯を見ながら、皇帝はさらに続ける。
「後は元老院だ。ニホンとやらは我が軍の者を捕虜として捉えていると聞く。奴らは必ずそれを利用してくるぞ」
「でありましょうな。講和会議が始まれば尚の事でありましょう。元老院の親族にもあの戦に加わって居た者が居る以上、軽く見積もっても約半数が講和へと進むでしょう」
「会議など踊らせておけばよい。その間に元老院どもを黙らせておけ」
「御意。では、ゾルザル殿下はどういたしますか?」
「適当におもちゃを与えて遊ばせておけ。どうせあれは頭を使って動くことなどできん。頭を使っているつもりになっているだけだからな。まあまた今回の講和派の元へ行かせたようにあやつを送るのもいいかもしれんな。どうやらニホンはこちらとの直接的な交戦を望んでいないようだ。アレが遊んでいるだけでも場を掻き乱せるであろう。詳細は伯に任せる。余は1ビタの金も1ロムロの土地も渡すつもりはありはせぬ」
「はっ。御身の御心のままに」
◆◆◆
園遊会から数日後、俺は帝都に来ていた。
いやー、それにしても似てない兄妹もあったもんだねホント。
最後の最後まで料理を食い散らかして何か満足気に帰って行ったよピニャさんのお兄さん。
美味い美味い言ってくれるのは良いけど、兵隊さん共々散らかしていくわ子ども泣かせていくわ、好き放題してくれちゃってまぁ。
まぁでも何とか無事に園遊会は成功に終わったし目的達成ってことでいいのかな。
あの後俺は、講和派の人達をピニャさんのお兄さんに見つからないように送り出した先輩達と合流した。
その合流地点が帝都内にあるピニャさんの屋敷だ。
勿論、古田さんも一緒ですとも。
まぁ俺はあくまでメイド役としてあの場所に居たので、最後まで古田さんの手伝いをして普通にあの場を辞した。やり切りましたよ俺。手伝ってくれたメイドさん達にお菓子のお土産を渡したらめっちゃ喜んでくれたし、割と楽しかったかもしれない。
あ、講和会議を進める役人として来ている菅原さんも最後まであの場に居たので同道した。
ちなみにどこでもドアは使っていない。
緊急時は使っても良いけど、交渉相手である講和派とはいえ敵に態々手の内を知らせる必要はないとの判断だ。
まぁよくよく考えればあれってかなりチートだしね。厳密には“どこでも”ではないとはいえさ。
だから俺と古田さん、菅原さん、そしてピニャさんは普通に馬車で帝都内へと入った。
元々ピニャさんと行動を共にして講和派の味方を増やすべく挨拶周りみたいなのを行っていた菅原さんはともかく、俺は帝都内へ赴くのは初めての為ちょっとだけわくわくしていた。
そのためここ数日は帝都内を散歩するのが日課だ。
先輩と一緒に居なくても良いのかとも思うだろうが、例の如く便利な令呪もあるし、それにほらなんというか……いざという時に帝都内の地理を理解していないと何かあった時に不利じゃん?
ごめんなさい、ぶっちゃけ暇なだけなのですよ。
だってさ、皇女であるピニャさんの屋敷に居る以上おいそれとお偉いさんであってもちょっかいはかけられず、先輩率いる第三偵察隊はピニャさんと菅原さんを警護するのが現在の役目なのだから俺は仕事が無いのだ。
そのピニャさんと菅原さんにしても、園遊会も終わったところなので暫くは手紙などで外堀を埋めて行くのが中心となり暫くは屋敷内にて過ごす予定だ。
警備をしても良いのだけど、御屋敷付きの帝国の兵士さんが居るし、他にもピニャさん率いる薔薇騎士団の人達も居る。そして第三偵察隊も居るわけだから、ぶっちゃけて言えば俺がうろちょろしても子どもは大人しくしてなさいってなものだ。実際に俺の正体を知らない兵士さんに言われたし。
だから俺も暫くはピニャさんの屋敷内で大人しくしていたのだが、ぶっちゃけて言えばすぐに飽きた。
この身体になってから、ジッとしているのがとても辛いのだ。
せめて娯楽の類いがあればいいのだが、そんな物すぐに底をついてしまった。
漫画やらもアイテムボックスやマイルームにあるが、一度読んだ物をまたすぐ読んでも仕方がないし、ゲームの類いも積んであった分は既にやり終わった。
マイルームにはパソコンもあるからネット(何故か繋がる)をしたりもしたが、それもずっとやっていたら飽きてしまった。出来ないことも無いが特地に来てまでヒッキーは嫌だ。
例の如くPX帝都支店の手伝いに行こうともしたが、常駐する訳でも無いのですぐに正職員が集まりお役御免と相成った。
そんなわけでとにかく何かして動きたかった俺は、帝都内を散歩することにしたのだ。
というか、今まさに俺は今帝都内を歩いている最中だったりする。
帝都支店の周りからぐるーっと順番に実際に帝都内を歩いているのだが、これが中々に面白い。
ファンタジートリップものでありがちかもしれないが、帝都の様相は中世ヨーロッパの世界観と言えばそれで事足りるだろう。
だが、それは知識や映画などから得た認識でしかなく、実際にその中を歩くとなるとまた違った趣がある。
例えば、この帝都にもコロッセオがある。
流石に中にまでは入らなかったが、外から見るだけでもこの世界の技術でどうやって作ったのか、ちょっとしたスタジアムほどの大きさがあるうえにその壁面には細かな彫刻が成されていた。
人も大勢訪れており、時折中からは身体に響くほどの歓声が聞こえてきていた。
他にもテルマエ……じゃなかった、帝都民用の共同銭湯などもあったし、帝都の外になってしまうが龍騎兵用の駐屯地とか、帝都の中を走る大きな川なんかもある。
帝都の中でも一番大きな商店街なんかでは買い食いをしまくったのは良い思い出である。
そして今日は、帝都に置いて悪所と呼ばれる場所に行くのが目的だ。
悪所は、帝都に置いて一番低い位置にあり、貧民街と化している。
そして様々な種族が集まり人種の坩堝となっているここは、一般市民は決して近づかない犯罪の温床と化している。
しかし、悪所は悪所なりのルールがあるらしく、そこに住む者や地元マフィアに筋を通して自衛隊はその中にも事務所を設立しているそうな。
今日の目的は悪所の中でもそこに行くのが目的でもある。
実はそこには第三偵察隊の中でも黒川さんをはじめとした数名が仕事に赴いていたりするので、前々から見に行きたかったのだ。
というのも、これまたよくある話だが悪所は色町やマフィアもあるからか帝都内でも色々と噂が聞こえてくる場所らしく、低料金で検診や物資(避妊具とか薬らしい)の提供などをすることで代わりに情報を得ているのだとか。
先輩はそういう所にお前は行くなと言っていたが、行くなと言われれば行きたくなるのが世の常というものだ。
というか先輩はちょっと過保護すぎる。
確かに見た目は幼女だが、中身はこれでも四十過ぎなのだ。自分で言って何やら悲しくなるが。
だから奴隷やらその辺を見て正義感に溢れて色々暴れたりなんぞしない。しないったらしない。
確かに奴隷という身分に思う所はあるが、この世界には犯罪奴隷というものもあるし、そうせざるを得なかったという人も居るだろう。
騙されて奴隷堕ちしたなんてのもあるだろうが、それが本当か判断できない以上、下手に動く訳には行かない。
それにいち日本人(内心では)である俺が奴隷を持つ訳にもいかないだろう。
確か法律的に奴隷は駄目なんじゃなかったっけ?
まぁ何にせよ、折角うまく講和が進みそうなところで事を起こすわけにはいくまい。
そもそもそこで何かしても文化としてそれがある以上、一時的にはいいかもしれないが根本的な解決にはなりゃぁしない。
だから思う所があっても、事を荒立てる訳には行かないのだ。
さて、そうこうする内に悪所へと繋がる門の所まで来た。
一応警備の兵士は立っているが、欠伸をしているくらいだから立っているだけでしかないのだろう。
それに、なんだかんだと人の出入りは多く、しかも明らかに目つきが怪しい奴も居るが完全スルーだ。
これなら俺が通っても何も言われないだろう。
ちなみに今の俺は変装の意味もあって恋ドラモードだ。銀髪美女だぜ。俺自身なのでなにも嬉しくないが。
そしてついでに言えば、同行者が居たりする。
それが誰かというと―――、
「ねぇママ、ここで良いの?」
「臭う…、です」
「いやだからここは子どもが来るところじゃないんだってば」
「でもママの正体も小さいよ?」
「……チビママ」
「いやまぁそうだけど、中身は大人なの。でもお前らは中も外も子どもだろう? ってか小さい言うなし」
そう、例の幼龍の二人だ。
あまりマイルームの方にばかりいる訳にもいかないし、炎龍とはいえまだ子どもな二人を放置する訳にも行かず最近の散歩では共に行動していた。
人の営みやら常識を知ってもらう為にも、ストレス発散ついでに散歩に連れていたのだが、さすがに悪所に連れて行くのはマズいと思ってる。
戦力的な意味では俺含めての三人でこの帝都を落とせるくらいの力があるが、先にも言ったが事を荒立てるわけにもいかないし、折角人の生活を見せているのにここで奴隷やらを見せるのは教育的に駄目だろう。
……教育ママ的な思考に陥っている気がするが、あくまでも大人として駄目なんじゃないかと思っているのだ。
だが、その説得も中々に芳しくない。
「ママも、私たちを見捨てるの……?」
「寂しい…、です」
「うぐっ」
なにせこれだ。しかもめっちゃ涙目になるんだよ。
炎龍の姿のままだったらそれほど気にならなかっただろうが、流石に幼女二人に泣かれたのでは堪ったものではない。罪悪感がぱないの。
というか、なんでこんなに感情豊かなのさ。
元炎龍でしょ? 正確には古龍だっけか?
どちらにしろ、これではもうただの幼女だ。
知能の方も結構高く、特地で現地民への教育等に使用するために物資として送られていた教科書とかを使って色々教えたのだが小学校レベルの物はほぼほぼ終わってしまった位だ。
だから基本的に俺の言う事もちゃんと聞くし、最近は先輩を見ても噛みつこうとかはしない。パパと呼ぶのは勘弁してほしいが。
あと、第三偵察隊の人達に会ったら挨拶もするし、人を食べようとはせず、普通に俺達が食べるような食事を共に食べている。
だがそんな二人も、俺と離れることを極度に嫌がる。
本人たちも言っていたが、人の姿を取れるようになったことで感情というものの幅が広がった気がするらしいし、俺の泥を食ったことでただ人の姿を取れるようになっただけでなく、人そのものに近づいているのだろうか?
しかしそれが故に俺もこの二人に対しての距離感を未だ掴みきれていない。
正直に言って、すごく良い子たちなのだ。
幼龍とはいえ炎龍の為か少なくなってきてはいるが思考は未だ捕食者のそれに近いが、俺に懐いてくれているし我が儘もこれと言っていう訳じゃない。
流石に自由にさせる訳には行かないから一条祭りから外へ出るときは俺と一緒に行動を共にしてもらっているが、その時の二人の嬉しそうな顔と言ったら思わず頭を撫でたくなるレベルである。
はっ!? 思考が既に毒されている!!?
けどこの二人の感情を無視して動くのもなぁ……。
「どうしても着いてくるの?」
「うん!」
「はい、です!」
俺の後ろで仲良く返事をする二人。
お揃いのデザインで色だけが違う、それぞれ赤と青を基調とした浴衣なようなミヤビカタを着ているのだが、嬉しそうに飛び跳ねている。
しかし着いてくるとなると、やはり俺一人はともかくこの二人を連れて行くのは難しい。
「うーん、じゃああっちに行くのは止めようかなぁ……」
悩んだ挙句に出た答えがそれだった。
だってこの二人を連れて行けないのなら行かないようにするしかない。しょうがないじゃないか(ENR感
しかしその答えもまた幼女二人にはお気に召さなかったようで、途端にシュンと落ち込む。
「私たちの所為で、行けないの?」
「私たち、邪魔、なのです……?」
「や、やっぱり行こうかな!!!?」
即座に俺はそう答えてしまった。
世のお母さんたちどうやったら上手いこと出来ますかね? 俺にはどうもこの二人を裏切ることは出来ないです。
しかし、言ってしまった手前もう行かざるを得ないだろう。
仕方がない。
さっさと目的地である事務所内まで行って、あまりうろうろせずに帰ろうか。
「うし、行こうか
「うん!」
「はい、です!」
紅音と碧依というのは俺が咄嗟に付けた名前だ。
見た目からあまりひねりの無いものを付けてしまったが、二人は大層喜んでくれた。
どうやら二人にはトワトとモゥトという名前があったようなのだが、それは二人目のお母さんが勝手につけたものらしく、あまり好きじゃないとか。二人目のお母さんェ……。
あ、語感的に某VOICEROIDを思い浮かべてしまうが、別にどっちかが関西弁を喋ったりはしない。
色合いとかで咄嗟に思い浮かんで口に出してしまったものをそのまま二人が気にいっちゃったのだ。
漢字は違うし許してほしい。
まぁそんなわけで、紅音と碧依の二人とはぐれない様に手を繋ぎながら、結局俺は二人を連れて門を潜った。
・
・
・
ピニャさんの屋敷に戻ってきた。既に夜である。
いやぁ、途中で若干迷子になっちまったよ。
というのも、子連れの若いお母さん(恋ドラモードなので普通に美人)がのんびり歩いているように見えたようで絡まれる絡まれる。誰がお母さんか。
でもまぁ幼女二人も贔屓目に見てもかなり美幼女だ。
御陰で変な所を触られそうになったり変な薬嗅がされそうになったり何やかんやと路地裏に連れ込まれそうになったり、色々と大変でした。
ただまぁその辺の薬じゃぁ俺達には効かないし、そもそも臭いや気配である程度は事前に察知できる。上手い事忍者みたいに忍び寄って引っ張られそうになったこともあったけど、恋ドラモードな俺は体重が数トンどころではないので引っ張った人の腕が脱臼した。
あ、触ろうとした輩は咄嗟に上空へぶん投げてしまい、慌ててキャッチしたが、漏らしながら逃げて行った。
そういったことが何度もあったために変な所へ迷い込んで、それで更に絡まれたりしてと、結局何度か暴力沙汰になってしまった。
流石にそこらの人達に負けるわけもなく、無傷で事務所へと辿り着くことが出来たが、その頃には既に辺りが薄暗くなり始めていた。
何気に今日一日で色々あったが、まぁそこそこ面白い場所もあったし、途中から幼女二人も参戦してなんと手加減を覚えたので結果的にはちょっとプラスだと思う。最初はスプラッタトゥーンになっていたから慌てて被害者(?)を治療したりした。
そんなわけで、事前に先輩へと念話で遅れる旨を伝えたうえで漸く帰ってきた。今も着くなり、念のための帰ったよ念話を送っておいた。
俺の念話は一方的だから先輩の返事を貰えないのだが、何も言わないよりは良いだろう。
無線も事務所にはあったが、『今から帰ります。少し遅くなります』なんてものを任務用の物を使ってまで伝えるのもおかしな話だ。
そう思っていたのだが、何やら俺達が屋敷に着くなり先輩が慌てて出てきた。
何だろうか?
けど緊急事態時には令呪があるし……あ、紅音と碧依が一緒に居るのは知っていたし遠慮してくれたのだろうか? 緊急転移に二人は着いてこれないからなぁ。
まぁともかく話を聞けばいいか。
そうこうする内に先輩は目の前だ。
「後輩っ、はっふぅ、地震、が、来るっ」
全力疾走してきたからか息が切れている先輩。
しかし地震とな。
何とも物騒な話だ。
でもなんでそんなことが分かったのだろうか?
俺が疑問に思い首を傾げているのに気付いたのか、息を整えた先輩が言う。
「悪所に居るハーピィ種の子が地揺れの発生を感知したみたいなんだ。地元に火山があるらしく、その影響で揺れる前と似た感覚だとか。だけどこの辺りには火山は無い」
「だから地震だと」
「そういうこった」
なるほどねぇ…。
ってあれ、悪所のハーピィって……。
「ひょっとしてテュワルって名前だったりする? そのハーピィの子って」
「よく分かったな。知り合いか?」
「うい。さっき知り合ってね。俺達が普通じゃないって気づかれた」
「それは……、すごいな」
つい先ほどの話だ。
悪所にある自衛隊の事務所に行った際に、俺達が入った瞬間にかなり怯えた子が居たのだ。
それが娼婦をやっているハーピィの少女、テュワルちゃんだ。
プルプルワルイヨウジョジャナイヨ(俺は大人状態ではあったが)的な感じで自分含めて紅音と碧依は怖くないと伝えつつ理由を聞けば、ドラゴンを前にしたような恐怖を感じてつい怖がってしまったと謝られた。大当たりです。
ただまぁ最終的にはお菓子を上げたりしている内に慣れたらしく、子どもたちの良い話し相手になってくれた良い子だ。
そのこともあって遅くなったのだが、確かにあの子ならあり得るかも。
どうやら種族的にか、テュワルさんは感覚が鋭敏らしく、その為その地震の予兆というのも感じたのだろう。
そういえば、日本での大地震直前にも鳥が一斉に飛び立つなんてものも目撃されたらしいし、第六感的に鳥類はそういった微細な振動か何かに鋭敏なのだろうか。
「地震がいつ来るか……までは分かんないよねぇ?」
「ああ。一応連絡が来てすぐに避難を開始したから大体が安全な場所へと移動した後だ。悪所に居る黒川たちも避難が済んだらしいし、緊急事態の為帝都内へ避難勧告も既に出し終わってるよ」
「ほむ、それなら安心っすね」
「だからお前らが最後ってこった」
それは悪いことをした。
遅くなるって伝えた後だったし普通に晩御飯を食べたり寄り道しながら帰ってきてしまった。
「そいつはすみませんっす。このまま避難場所に向かえばいいですか?」
「おう、俺も屋敷内のチェックとかは終わったから一緒に行くぞ」
俺達に言うと同時に、無線で恐らく避難済みの隊員の誰かに今から向かうことを伝える先輩。
短く伝達を終えた先輩は改めてこちらを見る。
「走れるか?」
「最悪飛べるので大丈夫ですよ。乗ります?」
「あーばよとっつぁん!」
言った時には既に走り出している先輩。どれだけ嫌なんだよ。
とりあえず置いて行かれる訳には行かないので、大人しく横で事の成り行きを聞いていた紅音と碧依を抱きかかえてジャンプし、身体を地面と水平にした瞬間に空を蹴る。虚空瞬動擬きだ。
でもそれをしたおかげですぐに先輩に追いついたので、今度は先輩の横を並走するに切り替える。
「待てぇールパーン逮捕だーって言うべきでした?」
「はっや!? そんなに俊敏なとっつぁんは勘弁だ!!!」
「確かに」
俺が瞬時に追いついたことに驚きつつもツッコミを入れてくる先輩に苦笑しつつ返す。
結構な速さで走ってるのにツッコミを入れる余裕があるってのは流石特戦群ってことなのだろうか? わりと先輩ってマッチョメンだし。
なんて特戦群の人に失礼なことを考えていたら、先輩がボソリと言う。
「そういやなんで悪所に居るはずの娼婦と知り合いになったんだ?」
「あ、えっと……」
おうふ、気づかれた。
俺もさっき普通に答えちまったけど何の反応も無いから、流してくれたもんだと思ってたのに。
咄嗟に答えられずに居ると、走りながらも先輩はチラリとこちらを見た。
完全にジト目だ。
その目にさらされて、思わず冷や汗が出てくるのが分かる。抱えてる二人ごめんね。
はぁ、これは説教コースだ。
で、でもここはとりあえず!!!
「あばよとっつぁーん!!!!」
逃げることにした。
いかがだったでしょうか?
前回の話にてゾルザルが園遊会で好き勝手していたことで、勘違いをさせてしまった方がいらっしゃったようで申し訳なかったです。
確かにあの流れでは原作未読の場合解り辛かったと思います。
一応今回の冒頭における皇帝とマルクス伯の会話で捕捉できたと思うのですが、まだ足りない様でしたら言って頂けると幸いです。
ここでも簡単に言えば、帝国との講和を望む日本(実働は菅原さん)がピニャ皇女と共に引き込んだ講和派へ更にプレゼンをしている所へ、講和が進むと困る皇帝の意を汲んでマルクス伯が脳筋のゾルザルを送り込んだという流れです。
何故ゾルザルが送り込まれることで釘をさすことになるかというと、ゾルザルはあまり考えてないので、講和→弱腰→売国奴→死刑みたいなかんじになるし、次期皇帝と噂されているために講和派にとっては爆弾みたいなものになる訳です。
今話ではその説明を入れづらかったのもありここでも捕捉していますが、SS内だけでは解り辛いとの意見が多いようでしたら改めてどこかの話ないで説明していけたらと思います。
それでは、次回!
『ゾルザル死す(大嘘』をお楽しみに!