テンプレ…まじで?(リメイクしてみた) ※現在このすば!編    作:onekou

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どうもonekouでございます。

今回はサブタイ通りにそれぞれがどうしていくかを臭わせる回です。

では、どうぞ。


『stage29:それぞれの行方』

 

 

 

「皇帝陛下、この惨状をどうなさるおつもりか?」

 

 老年の男の声がその場に響く。

 男の名はカーゼル。地位は侯爵だ。

 元老院議員である彼は、玉座に居る皇帝モルトに言葉を続ける。

 

「このような恥辱、帝国始まって以来のものでございましょう」

 

 手を広げ、他にもこの場に居る元老院議員や有力貴族に改めて認識させるように周囲を見る。

 一言で言えば廃墟。

 そう言い表すことが正しいであろう惨状の場所だ。

 壁は風通りがよすぎるくらいに崩壊し、清々しい青空が視界いっぱいに見えるほど天井だったものは無くなり、そもそも中にあったはずの調度品を探すことが困難な程に全てが瓦礫の下だ。

 なんとか議員席を掘り越したが、それを議員席と呼ぶのは滑稽な程に埃まみれだ。

 

 ここは数時間前までは議事堂と、そう言い表されていたはずの場所。

 そしてつい数時間前に自衛隊航空部隊によって打ち砕かれた場所だ。

 

「答えてはいただけないのですかな?」

 

 挑戦的に目を向けるカーゼル侯爵。

 しかし皇帝は黙して語らず、ただ鋭い視線を送るのみであった。

 

「ならば私めが知る限りの成り行きを語りましょうぞ」

 

 皇帝の態度を見てカーゼルは皇帝から直接成り行きを聞くのを諦め、自分が集めた情報を他の議員へと語ることに決めた。

 カーゼルは玉座を囲うようにして座る議員たちへと視線を送り、口を開いた。

 

「事の始まりは我が帝国が門を使い戦を仕掛ける前、現地より幾人かを連れてきたことが始まりだ。ご存知の通り門を建造したのは我々帝国であり、事前に敵戦力を計るのは当然であろう。だから事前にそれを行った。しかし使節の者はそれを知るや否や化け物を謁見の間で暴れさせ破壊し、それどころか陛下の御前で皇子殿下にすら手を掛けたのだ」

 

 カーゼルの言葉にその場に居た議員たちは息を飲む。

 それが本当であれば下手人は当然の事ながらその一族郎党さらし首にすらする必要があるからだ。

 それは絶対王政を敷いているのならばどの国でも同じだろう。

 国の象徴である存在が(ゾルザルは皇子ではあるが)害されたとなれば国の威信に傷が付き、それを野放しにしたとあっては周辺諸国から侮られる。

 如何に周囲でも類を見無い程の強大な群を持っている帝国であっても、いや帝国であるからこそ由々しき事態である。

 

「見よ皇子殿下の御労しい姿を。まるで幼子のようではないか」

 

 その声に合わせて議員たちが件のゾルザルの方へと目を向ける。向けたくなかったが。

 むしろ今まで意識して視界の外へと追いやっていた。

 そこへ目を向けてしまった。

 

 皇帝と同じ黄金の髪は老人のように白くなっている。

 傲岸不遜な瞳は視点が合っておらず強姦された少女の様だ。

 2メートル以上ある身体は恐怖に震え、自身の身体を抱きしめるように縮こめている。

 そして何よりも、今までにも何人もの人間を容易く殺めてきた口が、『大丈夫、付いてる、まだ男だ、付いてる付いてる』と譫言の様に呟いている。

 

 もうダメだろうこれ、と全員が思った。

 傍若無人が服を着て歩いているような存在であり馬鹿のフリをしているつもりになっている馬鹿という評価だったが、違う意味でバカになってしまったようだ。

 

 皇帝もこれにはほとほと参った。

 何せ皇帝という座にはゾルザルを着かせつつも実権を後ろで握るつもりであったモルトだ、

 しかしこれでは対面的にも玉座にまともに座らせることすら出来るか怪しいではないか。

 

「御労しや……」

 

「どれほどの悪夢を見ればこうなるのか……」

 

 あまりにもあまりなゾルザルな姿に議員たちはそれぞれ呟きながら目を反らしていく。

 

「ニホンの特使は帝国との講和を望んでたと聞く。会合も幾度と開催されたそうだ。しかし自国の民一人のためにこれほどの所業はどういうことか。その奴隷が王族であったという事も無かろうに。誰か事の次第を知る者は居らぬか? 何故ニホン国はたった一人の女の為に殿下を打擲するに至ったのか知る者が居れば是非説明していただきたい」

 

 カーゼルの言葉に誰もが顔を見合わせる。

 それも当然だ。

 あの場に居た者でこの会議に参加できる者など限られている。

 一人は黙して語らず、一人は茫然自失。

 となると、最後の一人であるピニャの名が挙がるのは当然の流れであった。

 

 

 

 

「は? 妾が彼らについて知る事……ですか?」

 

 300人からの視線に晒される事となったピニャは、聞かれたことに若干間の抜けた声を出してしまった。

 

 ピニャはこの議事堂へと訪れたのは生まれて初めての事となる。

 皇位継承権も10位であり(めかけ)の子のため、国の中枢であるこの場所へと入ることは叶わなかった。

 その為、議事堂へと召喚されたことに初めは何を問いただされるのかと戦々恐々としていた。

 実際にピニャとしても思い当たる節があるので余計にそう思ったのだ。

 今回の事件に関して下手人であるニホンの特使たちを招き入れたのはピニャ自身だ。

 それも伊丹達自身から敵国の皇宮内へと入るのは大丈夫なのかと事前に言われていたにも関わらず無理を承知で共を頼んでしまったのだ。

 しかし蓋を開けてみればニホンの者達に関しての情報が欲しいということであった。

 それを聞き、一気に気が抜けてしまったピニャ。

 本来であれば国の重鎮たちの目に晒され声を震わせてもおかしくはないが、炎龍やその他の瞳に比べればひよこにも等しい優しい眼差しでしかない。

 

 ピニャは軽く咳ばらいをし、自身が辿ったニホンとの出会いについて語り始めた。

 

「彼らと出会ったのはイタリカが最初であった―――」

 

 ピニャは語る。

 イタリカにおいて何があったかを。

 

 元々コウジュや伊丹の方から秘匿すべき情報とそうでもないものは教えられていた。

 そのためピニャは自衛隊の戦力もそうだがコウジュの能力に関しても伝えることにした。

 まず伝えたのは自衛隊の戦力に関してだ。

 銃、戦車、戦闘機、帝国の戦力が如何に強大であろうともその常識を覆す戦力がそこにはある。

 ピニャの言葉に議員達も息を飲む。

 しかしピニャから告げられる恐るべき真実はそれだけにとどまらなかった。

 炎龍を打倒し使役、それだけに留まらず大狼に大狐をも操る少女。その少女こそが謁見の間で暴れた存在だと言うではないか。

 そしてゾルザルをアレにした存在は炎龍が化けた姿だという。

 何の喜劇かと議員たちは鼻で笑う。

 自衛隊の装備に関してだけでも理解したくはない話だ。

 しかしそれに関しては園遊会で議員の中でも力を持つキケロ卿をはじめ多くの者が体感している。

 だがいくらなんでもその少女に関しては空想の話だと言うしかない。

 それをピニャは乾いた笑みを浮かべてしまう。

 

「ピニャ殿下、何か可笑しな事でもありましたかな?」

 

「いや何、知らぬというのはこれほどまでに幸せなのかと思っただけだ」

 

「……言葉が過ぎますぞ?」

 

「ああ、ならばあえて言おう。言葉が足らなかったな」

 

 ピニャは言葉と共に悟りを開いたかのような清々しさすら感じさせる素晴らしい笑みを浮かべた。

 そのピニャの姿に議員たちは圧倒される。

 それは皇帝ですらも変わりは無かった。

 そこに居るのはただの小娘ではなく、何かを乗り越えた者だ。

 

「あの娘には剣は効かぬ、弓も効かぬ、斧も槍もトロルの一撃すら効くかは分からぬ。聞けば炎龍は一太刀だとか。空も飛ぶぞ? 瀕死の者を癒すぞ? 他には何があったか……、ああ、そういえば恐ろしい獣の姿にもなったな」

 

 皇子だけでなく皇女までどうしてしまったのか。あの騎士ごっこをしていただけのお飾りの皇女はどこへ?

 議員たちはそう思わずにはいられなかった。

 

「これを……」

 

 ピニャは議員たちの様子に気付かず続ける。

 そして言いながら懐から一冊の冊子を取り出す。

 それをカーゼル侯爵へと渡した。

 

「こ、これは……」

 

「今まで秘めていたことをお許しいただきたいが、それはニホン国にて捕虜となっている人物の一覧です」

 

「なんと!?」

 

「わしの甥が出兵していたのだ! 見せてくれ!!」

 

 捕虜の一覧だとピニャが告げるのとほぼ同時に議員たちは冊子を持つカーゼル侯爵へと砂糖菓子を前にした蟻の如く群がった。

 そして奪い合う様にしてその冊子を見ていく。

 探していた名がある事に安堵する者、幾ら名を探しても無いことに涙を流す者と各々が一喜一憂していく。

 その中で、探す者の居ないカーゼル侯爵は冷静であり続けることが出来、あることに気付く。

 

「ピニャ殿下、一つお聞きしたいがこれら全てが捕虜なのですかな?」

 

「うむ。亜人部隊は抜かれているがな」

 

「何と言う数か……」

 

 そう、カーゼル侯爵が気付いたのは捕虜とされている者の数だ。

 出兵6万、亜人部隊を含めると相当数に上る。しかし捕虜となっている者の数は万は越えているように思える。

 つまりはそれだけの数を無力化されたという事。それだけの戦力差があるという事。

 

「ニホンには奴隷という習慣は無く、身代金の有無に関わらず安全は保証されるそうだ。故に彼らの心配は一先ず置いておいてほしい。しかし問題は我らが帝国は彼らの逆鱗に触れてしまった」

 

「で、ではどうするのですか!? 我が子をこのまま見捨てよと!!?」

 

 議員の一人がピニャに掴み掛らんばかりに詰めよる。

 それをヒラリと躱し、ピニャは自らの父、皇帝モルトへと顔を向けた。

 

「父上、講和を急いでいただきたい。それから他にもニホン国から拉致した者が居る様子ですのでその消息もお教え願いたく存じます」

 

「ふむ……」

 

 ピニャの堂に入った姿に皇帝は感心する。

 今この場を支配しているのはピニャと言っても過言は無いだろう。

 大胆不敵な笑みを浮かべながら言葉を紡ぐ姿に今までの皇女という肩書だけと言われた様子は微塵も見えはしない。

 何がこうもピニャを変えたのか。 

 そして辿り着くのは当然ニホン国。

 なるほど、類を見ない強敵を前にしてピニャは一皮むけるどころか大いに成長したようだ。

 モルトは半分捨て置いた自らの娘に再び関心した。

 

「良かろう、講和を進めるが良い。お主が中心に進めよピニャ」

 

「はっ」

 

 皇帝の言葉にピニャはすかさず膝を付く。

 後ろで騒いでいた議員たちも慌てて姿勢を正した。

 

「これ以上の戦は帝国に害を齎すのみである。其の方らも早急に対処せよ」

 

『はっ!!』

 

 斯くして、日本と帝国の争いは終わりを見せ和平へと進み始めることとなった。

 

 ただ、問題があるとすれば今回の会議において少しばかりのすれ違いがあったことだろうか。

 

 例えば、ピニャは別に成長したのではない。

 ピニャを父としてよく知っていたならば皇帝は気づけたのであろうが、ピニャは周囲の議員を物ともせず微笑んでいたのではなくここ最近の経験によって色々と諦めただけなのだ。

 顔は確かに微笑んでいたかもしれないが、目をよく見れば遠い目をしていることに気付けたはずだ。

 俗に言うレ○プ目である。

 他にも本来のピニャから考えられない憮然とした態度に色々と勘違いされているが、知らぬは本人ばかり。

 

 そして、今回の事で議員たちはピニャの姿に未来を見てしまった。

 現実を見、逸早く日本との懸け橋になろうと動いたピニャに議員たちは感嘆の声を上げるしかなかった。

 実際問題として自らの血族を救うための手立てを持つのはピニャのみだ。

 議員たちはピニャに頼らざるを得ない。

 ピニャの投遣りな態度が奇しくも求めていた講和派を増やすことに成功したのだ。

 

 しかし、それを面白く思わない存在が居た。

 次兄、第二皇子たるディアボである。

 

 彼は元々兄であるゾルザルが次期皇帝とされていることに疑問を抱き続けていた。

 その為、裏で議員達へと手を回し、自身も元老院議員となっていた。

 そして後援者を集め、自身こそが皇帝にふさわしいと思っていた。

 そこへ来てのこれである。

 急遽元老院が開かれた際は何事かと思ったが、ゾルザルの様子に自らの時代が来たことを感じたディアボであった。

 しかし実際は後から呼ばれたピニャが思わぬ才覚を見せ、周囲を圧倒して見せた。

 これではまずいとディアボは考える。

 場は既に講和派が主だ。

 そしてその為には仲介役をしてきたピニャが中心となる必要がある。皇帝すらもそう口にした。

 このままでは帝国を救ったピニャが皇女となる可能性が高い。

 ディアボはギチリと噛み締める。

 何か、何かないのかと、ディアボは必死に考える。

 

 暫く思考を煮詰めて、ふと思い出した。

 以前に怪しげな醜い男が声を掛けてきたことがあった。

 その時はあまりのも胡散臭い姿に歯牙にも掛けなかったが、今は贅沢を言ってられる場合では無い。

 

 それに思い至ったディアボは、苦々しい表情を浮かべながら誰にも悟られぬようにその場を去った。

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 ん…、んあ?

 目が覚める。

 って、目が覚めるという事は俺は眠っていたのだろうか?

 

 目をシパシパと瞬かせながら、ぼやけていたピントを合わせる。

 ふむ、やけに体が軽い。今なら空を飛べそうだ。いや飛べるのか。

 それよりもここは何処だろう?

 どうやら寝ているのはベッドのようだが……。

 

「起きたのか?」

 

 声のした方を見れば、すぐ近くに先輩が座っていた。

 先輩の前にある机には書類があり、俺が目覚めるのを待ちながら書類仕事をしていたようだ。

 

 先輩は書いていた手を止め、こちらへと身体ごと向ける。

 

「おや先輩、おはようございます?」

 

「疑問形にしなくてもちゃんとおはようで合ってるよ。今は朝の九時だ」

 

 ああよかった。

 カーテンから光が入ってきてるのは分かるが昼過ぎとかだとどうしようかと思った。

 

「ってそうじゃなくて!」

 

 そうだ、何を寝ぼけたことを言っているのだろうか。

 俺はあの女の人を見て暴走したじゃないか。

 そして薄らとした意識の中で色々殴り飛ばした後、なんとか先輩に止めてもらった筈だ。

 その後一体どうなったのだろうか?

 自分の事で精いっぱいで、拉致されていた女性とか一緒に来ていた菅原さんや富田さん栗林さんは無事だろうか?

 

 そんなことを考えていると頭に突然衝撃が走った。 

 

「うわふっ、って、何するんすか先輩!」

 

「大丈夫だ。とりあえずは……、まぁ、無事に全員脱出したから」

 

 突然俺の頭を軽くチョップした後、そう優しく告げる先輩。

 何かを言い淀んだ様子だったが、何かあったのだろうか?

 でも実際に俺はここに居て、先輩もここに居る。

 それに先輩もこんなことで嘘はつかないだろうし、言ってる通りに無事は無事なのだろう。 

「それよりも自分の事を心配しろ。アレの後遺症とかはないのか?」

 

「一応無い筈っすけど……」

 

 暴走、俺にとっての狂化。

 それ自体にリスクは無い。

 ただリスクは無いが、それ以外の代償が大きすぎる。主に周囲の。

 

「というか、見られちゃいましたね」

 

 使うつもりは無かった、なんてのは言い訳に過ぎないだろう。

 実際に俺は暴走してしまったのだ。その事実は変わらない。

 以前に使った時は理性を吹き飛ばしても止めてくれる人が居た。そういう作戦も事前に立てていた。

 しかし今回は突発的な感情の揺れによってなってしまった。

 

 俺の能力は感情に左右されてしまう。

 俺が出来ると思えばできてしまうし、出来ないと思えば簡単なことでもできないようになってしまう。

 当初はチートを貰ったからと素直に喜んでいた。

 しかし次際はどうだ。

 少し能力を使い始めればすぐに気付いてしまう。感情如何で能力はマイナス方面へも力が働く事は。

 だから日頃から激情を持たない様に気を付けていた。

 

 なのに―――、

 

「って痛!? 何するんですか何回も!!」

 

 考え込んでいた頭に再び衝撃が走った。それも先程より強く。

 俺は痛む頭を押さえながらすかさず下手人へと目を向ける。

 すると下手人こと先輩は真剣な目でこちらを見つめていた。

 

「見られたからって何なんだよ。一人辛気臭い顔をして」

 

「いやだからですね、俺は暴走を……」

 

「暴走したから何なんだ? バーサーカーだから暴走するもんじゃないのか?」

 

「いやまぁそう言われればそうですけど、本来なら理性で抑えられる筈……だと思ってたんですけどねぇ……って痛!? 何でそうポンポン叩くんすか! 脳細胞が死んじゃうっすよ!」

 

「叩けば治るかなって思ってな。というかお前不死身なんだろう?」

 

「確かにそうですけど……、あれ、脳細胞もふっかつするのかな? ってそれは叩く理由じゃないっすよね!?」

 

 なんて先輩だ。可愛い後輩をポンポンと叩くなんて。

 あ、可愛いってのはナルシ―的な意味じゃなくて比喩表現で……って俺は誰に言い訳してるのだろうか。

 

「あのなぁ後輩。一つ言っておくがお前がしていなかったら俺があの皇子を殴っていた。もしくは栗林がな。それにお前はあの場で誰も殺していないから気にするな。後はこっちで上手く処理するさ」

 

「でもそれは先輩が止めてくれたからで……。それに皇宮から逃げる時とか完全に足手纏いじゃないですか。先輩は俺が守るって言ったのに」

 

「だから気にするなって言ってるだろうが。それにお前の御陰であの女性は助かったんだ。望月紀子(もちづきのりこ)さんというらしいが、お前さんに感謝してたぞ」

 

「あ……」

 

 そっか。無事だったのか。

 俺はその事実を客観的に聞かされたことでつい間の抜けた声を出してしまう。

 そして同時に恥かしくなってしまう。

 俺は暴走してしまったという事ばかりに気が向いてあの女性の事に気が回っていなかった。

 俺は前の世界で何を学んだんだ。

 目先の事に囚われず、事実をしっかり見ようと決めたじゃないか。

 

 そうして落ち込んでいると今度はポスンと、もはや被り慣れた帽子が乗っていない頭を先輩が撫でてきた。

 

「先に本部へ連絡して彼女について調べてもらった。どうやら望月さんが拉致されてから捜索願いが出されていたそうでな。御家族とも連絡が付いた」

 

「そう、ですか。それは良かった」

 

「話はそれで終わりじゃないんだよ。あの日、銀座事件が起こった日、あの場所で望月さんの御家族は行方不明の家族を探すビラを配っていた」

 

「え、でもさっき連絡を取ったって」

 

「そう、あの日お前が救った人の中に望月さんの御家族も居たんだよ。望月さんの事を伝える際に本部の人がお前さんが救ったと告げたら『家族で救われたことになります。直接感謝の言葉を伝えたいのですがどうすればいいですか?』と言われたそうだ。正義の味方だな」

 

「は、はは、俺じゃあ正義の味方には力不足っすよ……」

 

 でも、そうか。暴走してしまったのは変わりないけど、救えていたのか。

 

「後輩の中で暴走というものがどういうものなのかは知らん。聞いてないからな。けどお前さんが持ってる力で救えた命は多いにある。俺だってそうだ。だから辛気臭い顔をせずに胸を張れ」

 

 そう言いながら先輩は笑みを浮かべた。

 それを見て、俺も釣られてしまう。

 

「はは、ほんと成長しないなぁ俺は。学んだつもりだったのにまた教えられてしまった」

 

 そんな俺の言葉に、先輩はニヤリと笑う。

 

「俺は先輩だからな。教えて当然だ」

 

「当然っすか」

 

「おう、当然だ」

 

 うん、暴走してボコボコにした人には悪いけど、それで救われた人が居るのなら俺は謝る訳には行かないよな。

 

 俺は正義の味方じゃない。

 紅い弓兵の様に割り切れるほど器用でも無い。

 だから偽善と言われても救いたい人を救いたいと誓ったはずだ。

 そうあの子に誓った。

 世界が変わっても、俺がやることは変わらない。

 

「すまないっす先輩。ちょっと弱腰になってた」

 

「まぁあれだ。とりあえずもう少し俺に力のことを話してくれ。上手く行けば今回の事も良い方向に持って行けるかもしれんしな」

 

「はいっす先輩」

 

 色々と俺自身分かっていないこともあるから言っていなかったけど、先輩にだけでもやっぱり言っておいた方が良いよな。

 数も多いから使う時に言えば大丈夫かななんて思ってたけど、それだと今回みたいな場合に対処しきれない。

 一つ一つの能力がチートだからと思考が偏っていた。

 もっと柔軟に、多種多様な力を持った武器もあるんだから自重せずに使わないといけないよな。

 やるならとことんだ。

 

「先輩」

 

「何だ?」

 

「俺もっと強くなるよ」

 

「そっか……」

 

 俺は改めて決意する。

 ここから先、今更だけど自重は無しだ。

 最近は少し保守的だった気がする。

 そんなの俺らしくないじゃないか。

 慣れないことはするものじゃない。

 前の世界と違って、事前知識がある訳じゃない。原作があるかどうかも分からない世界だ。

 なら、先にやれるだけの事はやっておこう。

 何を以てハッピーエンドかは分からない。

 そもそも物語と違って終わりなんてものは無いんだ。

 だからこそ、少しでも楽しく過ごせるように頑張ろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっと待って、もう強くならなくてもいいんじゃない?」

 

「あの、俺の決意に水差さないで下さいっす……」

 

 

 




いかがだったでしょうか?

なんかアレになっちゃったゾルザル。
なんだか悟っちゃったピニャ皇女。あ…(察し
そして、おや、ディアボの様子が……。

さぁこれからどうなっていくんでしょうかね!


ではではまた次回もよろしくお願いします!


P.S.
ゾルザルイケメンになりすぎやろ……。
でもイケメンだからこそ殴りやすい(え

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