テンプレ…まじで?(リメイクしてみた) ※現在このすば!編    作:onekou

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どうもonekouでございます。

今回は皆さんお待ちかね(?)の、サブタイ通りのウサミミさん回ですよ!


『stage30:ウサギ耳は素敵耳!!』

 

 

 

「あなたが・・・・・・、あの子達のお母様?」

 

 素敵耳さん、もとい兎耳さんからの第一声がそれだった。

 

 ことの始まりは望月さん(拉致されていた女性だ)をアルヌス駐屯地へ送り届けて一段落した際のことだ。

 自室として使用している部屋へと戻るなり、置いてあった段ボール箱から双子龍こと紅音と碧依が飛び出してきた。

 そんで双子が言うには俺に会いたいって人が居るから来てもらえないかってことで、俺は段ボール箱の中に入った。

 先輩は自衛隊の仕事で望月さん関係のことをするため別行動を取っていた為、双子を伴った俺が会うことになったんだ。

 そしてその人に会うなり言われたのが先の言葉だった。

 とりあえず双子は俺のマイルームに兎耳さんを案内してくれていたので、俺は対面に座る形で臨むことにした。

 

 でも、この人は誰だろうか?

 全く以て覚えがない。

 こんな素敵耳の人が一条祭りの中に居て見逃すはずがない。

 

「えっとどちら様でしょうか?」

 

「私はテューレ、ゾルザル様の奴隷の一人よ」

 

「ゾルザル?」

 

 待って、そのゾルザルという人が誰なのかが俺にはわからないんだけど……。

 

「何で首を捻っているのよ。帝国の第一皇子よ」

 

 首を捻っている俺を見て補足してくれるテューレさん。中々良い人だね。

 そういやあの傲岸不遜な大男がピニャさんのお兄さんだって話だったけど、あれが第一皇子だったのか。

 というかあれが第一皇子って大丈夫か帝国は。

 そしてその第一皇子とやらの奴隷だったテューレさんが俺に何か用があると。

 

「なるほど、あの人がゾルゾルさんだったわけですか」

 

「ゾルザル様よ」

 

「ああ、ゾルザルさん。でもそんな人の奴隷さんがどうしてこの中に?」

 

「あなたが原因でしょう!?」

 

 いや知りませんが?

 俺が再び首を傾げていると、兎耳さんも荒げてしまった声を押さえるように口をふさぎ、そしてそのまま何かを考えるように首を捻る。合わせて揺れる兎耳が可愛い。

 

「あなたが原因じゃないの?」

 

「えっと、記憶の限りでは」

 

「でもあの場にあなたは居て、そしてここの責任者はあなたなのよね?」

 

「そうっすけど……」

 

 テューレさんが言うあの場ってのは謁見の間でのことだろう。

 そして彼女の言う通りに俺はあの場に居たし、テューレさんが居たかまでは覚えてないが何人もの奴隷さんが引きずられてきていた。

 しかしその時は水中から空を見る様な曖昧な意識の中で必死に狂化の力に耐えるのが限界だった。

 だから、先輩に令呪を使ってもらったその後に関しては記憶がない。

 ひょっとして俺って暴走しただけでなく他にも何かやらかした結果テューレさんを一条祭り送りにしちゃったとか?

 無意識のうちに兎耳を欲してた……みたいな。

 いやいやいや、俺ってケモ耳好きだけどそこまで狂っちゃうほどに執心してないはず。いや狂ってる状態ではあったけどさ。

 

「まあここに来た経由はどうでも良いわ。むしろ救って頂いたことに感謝します」

 

「あ、え、ありがとうございます……?」

 

「何であなたが感謝するのよ」

 

「何となく?」

 

 考え事をしながらピョコピョコ揺れる兎耳に目をやっていると、唐突に感謝すると言ってきたテューレさん。

 特に意識してではないがありがとうと返してしまうと彼女は苦笑する。

 しかし彼女はハッと表情を戻す。

 別に表情を緩めてくれても良いのにね。

 まぁ見知らぬところに連れて来られた訳だから警戒してるのかもしれないな。

 

「そういえば救って頂いてってことは、テューレさんも攫われたくちなの?」

 

「……似たようなものよ。居たくて居たい場所でも、成りたい物でも無いわ」

 

「そう……っすよね」

 

 奴隷、か。

 俺にとって“奴隷”というものは当然ながら馴染みのないものだ。

 知識ではどういうものかは知っている。

 もう遠い過去の様な気もするが元々は一般的な大学生だ。

 地球の古代には奴隷制度が当然であったことも、日本にも奴隷に似た制度があったことも知っている。

 しかしそれは所詮伝聞形式の上辺での知識でしかない。実際に体感したわけではないのだから。

 

 悪所で初めて奴隷となった人達を見た際も、俺は何とも言えない気持ちになった。

 同情、憐み、悲哀、どの言葉で言い表せば良いかは分からなかった。

 あの時は双子龍も居たから比較的浅い位置しか通らなかったが、あの時に知り合った娼婦のお姉さん曰く、もう一歩踏み入れれば更に酷いものなのだそうだ。

 それこそ、そこに行けばまた感情を爆発させてしまうかもしれない。

 でも、今の俺にはどうすることもできない。

 よくあるテンプレ異世界転生物の話をするのもおかしいかもしれないが、不憫に思った奴隷を奪い幸せにしたとしてもその制度がある限りは他の誰かが“そこ”へ行くだけだというのは良くある話だ。

 俺も悪所を目にして実際にそう思った。

 今の俺では、どうしようもない。

 

 それに奴隷制度とは、胸糞悪いが人を主の財産とするものだ。

 奴隷が可哀そうだからと助けたつもりでも、客観的に見ればそれは人攫いや強盗と何ら変わりないのだ。

 

「ってあれ、そうなると今の俺って皇子様からテューレさんを強奪した大罪人って扱いじゃぁ……」

 

「私以外の奴隷も居るわよ?」

 

「Oh……」

 

 これってやばくない?

 状況的にさっき考えてたテンプレ粛清パターンじゃない?

 

「タイム」

 

 俺は席を立ち、少し離れて携帯電話を取り出す。

 テューレさんは何事かと首を捻っていたが、すかさず双子龍が飲み物とお菓子を持って来て場を取り持ってくれた。

 めっちゃええ子やぁ……。

 ってそんな場合じゃない!

 手に持った携帯電話で、俺は御馴染みの番号を呼び出し通話ボタンを押す。

 そして何回かのコール音の後、繋がる。

 

『はいもしもし伊丹だけど、どうしたんだ後輩』

 

「先輩先輩! 俺犯罪者になっちゃったかも!!?」

 

『いきなりうるさいわ!!』

 

「あ、すんませんっす」

 

『……とりあえずなんだ?』

 

「えっとっすね―――」

 

 慌ていたのもあってつい声を荒げて話してしまったため怒られてしまった。

 しかし先輩は仕方ないなというニュアンスを込めて俺が慌てている聞いてきてくれた。

 流石先輩!

 俺は改めて事の次第を先輩に伝えて行った。

 

『あー、奴隷さんな。そういや何人か居たんだっけ……』

 

 どせいさんみたいなニュアンスやめーや。

 というか、やけに歯切れの悪い言い方をする先輩だ。

 何かあったのだろうか?

 

「先輩は何か知ってるんですか? 俺は狂化しちゃったからその辺全く覚えて無くて」

 

『うーんとだな、あれだ、意識の無い中でもきっと奴隷の人達を助けようと思って一条祭りの中に取り込んじゃったんだじゃないかきっと』

 

 きっとを二回言ってるよ先輩。

 でもこの言い方ってことは先輩もよくは見れてなかったってことかな?

 

「なんだか曖昧な言い方ですけど、先輩もよく見れてなかったとか?」

 

『そ、そう! そうなんだよ! 俺も撤退するために色々あったからな!』

 

 ってことは俺の所為か。

 俺が狂化してる途中で菅原さん達は撤退してたっポイし、そうなると最後に残ってたのは俺と先輩だけ。

 そして俺は先輩に止めてもらったから意識を無くしてしまったわけで、そうなると俺というお荷物を持った先輩一人で撤退しなければならない。

 

「改めて申し訳ないっす先輩」

 

『……いやすまん、お前の所為ではないさ』

 

「でも守るって言った俺がお荷物になってたら世話無いですよ」

 

『そういう意味じゃあないんだが……、まああれだ、奴隷の人達に関しては皇帝直々に許可を貰ってるから多分大丈夫だ。だから早いうちにお前さんの方で上手いことやってあげてくれ』

 

「マジですか!?」

 

 何かを言い淀んだ先輩が少し気になったが、それよりも衝撃的な事実が先輩から告げられた。

 皇帝直々に奴隷を貰う事を許されるとか先輩凄すぎるんですが……。

 先輩ってそんなハイスペックだっけ?

 いや無駄にハイスペックだったか。何とか徽章ってのをいくつか持ってるらしいし。

 まぁでもとりあえずはこれで不安の種が無くなったか。

 

「さす先」

 

『さす兄みたいに言うんじゃねぇ』

 

「さーせん」

 

『……令呪を持って命じる』

 

「ほんとごめんなさいありがとうでした!!!」

 

 先輩に声が低くなったのを感じて電話を切る。

 危ない危ない。

 強制召喚はともかく、直接命令を聞いちゃったら俺の能力の所為でどんな割り増し効果が出るやら。

 まぁ冗談だとは思うけど……。

 冗談だよね?

 

 俺はとりあえず、頭を振り気を取り直してそもそもの目的だった話の内容をテューレさんにするために戻ることにした。

 下手に考えても怖くなるだけだしね!

 

「テューレさん朗報だよ。奴隷から解放だってさ! 皇帝直々の許可もあるって!!」

 

「……え?」

 

 双子龍に挟まれて何やら飲み物も食べ物も遠慮していたらしいテューレさんに本題を伝える。

 しかし俺の言葉が思いもよらなかったのか、キョトンとするばかりだ。

 

「まぁ驚くのも当然だけど、俺の先輩がどうやら交渉してくれたみたいでね。晴れて自由の身だよ! あ、紅音と碧依は悪いんだけど、他の奴隷さん達にも開放されたって伝えてもらってきて良い? 後は自由にしててくれていいからさ」

 

「分かったよママ!」

 

「……合点、承知」

 

 俺の言葉に、テューレさんの横から瞬歩でも使ってんじゃないかと言わんばかりの速さで動いた二人。

 そしてそのまま目にも止まらぬ速さで部屋から出て行ってしまった。

 そこまで急がなくてもいいんだが、俺からのお願いがどうにも嬉しいらしい。

 良い子すぎてほんとにあの子たちの正体が龍なのか疑問に思うわ。

 これは今度何かご褒美上げないとね。

 

 そんな双子から目線をテューレさんに戻す。

 すると彼女は未だに状況が理解できずにいるのか、キョトンとしたまま「え……」だの「嘘……」だのと呟くばかりだ。

 

 俺はそんな彼女に思わず悲しくなった。

 奴隷としての生活が当たり前になってしまっていたのだろう。

 だから今の解放されたという状況に頭が付いてきていないのだろう。 

 喜んでいい筈だ。笑っても良い筈だ。

 でも、今の状況こそに違和感を覚えているのだろう。

 

 俺は無意識にテューレさんの背後に回って、頭を抱きしめるようにして優しく抱きながら頭を抱いた。

 人肌が一番人を安心させるという事を聞いたことがある。 

 それを思わず実行したのだろうか。

 

 抱きしめられたテューレさんはというと、一瞬びくりと身体を強張らせるもすぐに力を抜き、そして声を噛み殺しながら嗚咽の声をもらし始めた。

 俺は、そんな彼女をそのまま暫く胸に抱きしめ続けた。

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「あ、コウジュちゃん……と兎耳さんっすよ隊長!!」

 

「倉田やかましい!! ってあれ、あいつ何してるんだ?」

 

 前日の皇宮での一件に関して報告書やら色々と手続きをしていた俺は後輩とは別行動をしており、それもやっと一段落付けたので少し遅めの昼飯に行くことにした。

 ついでに道中で装甲車の整備などで遅れた倉田を見つけたので一緒に食堂へと来た。

 そうして二人して歩いていたのだが、俺達が食堂まで辿り着いたら丁度後輩とヴォーリアバニーの女性が歩いてきたのだ。

 ヴォーリアバニーの女性は恐らく件の奴隷の一人だろう。

 一条のやつが食料としてもらっていくとか言っていたから気になってはいたんだが、後輩がお風呂にでも入れて上げたのかあの汚されていた肌は綺麗になっており、回復も掛けてもらったのか傷も無い。服もちょっとコスプレっぽい部分もあるが綺麗なドレスだ。恐らく後輩の持ち物の一つだろう。

 

「おや先輩、奇遇っすね。倉田さんも。お昼ですか?」

 

「そうなんだが、そっちもか」

 

「ういうい。ちょっと話……とかしてると遅くなっちゃって。部屋で食べても良いんですけど、折角解放されたんだから外食の方が良いかなって」

 

「なるほどね」

 

 俺達に気付いたのか後輩が小走りに駆け寄ってきた。

 話云々で間が空いたことから何かあったんだろうけど、まぁ言わないのなら俺が知る事でもないんだろう。

 

「それで後輩、そっちの方は例の?」

 

「そうですよ。さっきの電話もそのことでだったり。どうにも話があるとかで双子経由で声を掛けてくれてたんですけど、時間も時間だし先にお昼にすることにしたんですよ」

 

「なるほどな」

 

 先程後輩から掛かってきた電話の理由はそれか。

 そういえば奴隷の人達を一条が取り込んだのも後輩が気絶してからだし俺も色々あって後回しにしていたから後輩自身はあの段ボールの中に彼女たちが居ることを知らなかったんだよな。

 そりゃ驚いて電話も掛けてくるか。

 

「そういうことなら店の前で話をしてないでさっさと入るか。折角だし一緒に喰おうぜ」

 

「ですです」

 

 折角だしこのメンバーで食べようかと提案し、そのまま店に入ろうとする。

 しかし待ったが掛かった。

 

「隊長! 彼女の名前が聞きたいであります!!」

 

「……大人しくしていると思ったのにそれかよ」

 

 後輩と話している間、何やらコウジュの後ろに隠れるように――身長差で全く隠れてはいないが――して後ろに居た兎耳の女性を、俺の横に居た倉田が何やら見ているなと思ったが、どうにも名前が知りたかったらしい。

 そういえばまだ聞いてなかったな。

 でもシュバッと音がしそうな程に手を振り上げなくても良いだろうに。

 

「倉田さん、ペルシアさんに言っちゃうよ?」

 

「な!? それは裏切りだコウジュちゃん!! 素敵耳を前にして何もアクションを起こさないとか逆にあり得ないでしょう!!?」

 

「た、確かに……」

 

「お前ら何なの……」

 

 ニヤニヤしながら後輩がペルシアさん――フォルマル家所属のキャットピープルのメイドさんだ――に告げ口すると言う。

 確か倉田はそのペルシアさんに色々と贈り物をしたりと熱を上げていたはずだ。

 後輩もペルシアさんとは仲良くなっていたし、思わずちょっかいを入れたくなったのだろう。

 しかし倉田の思わぬ返しに言い負かされる後輩。

 ほんと何なのこのケモ耳好き達……。

 

「それで、結局彼女の名は?」

 

「ああ、彼女の名はテューレさんです」

 

 

 

 

 後輩が彼女の名を言った瞬間、ゾクリと寒気が走る。

 

 

 

 

 

「テューレ……?」

 

 

 

 

 

 

 そして小さな声なのに驚くほどに耳に入ってきた呟き。

 それは食堂の中からしたものだ。

 俺達はすかさず食堂の方へと目を向ける。

 

「いま、テューレって言った?」

 

 キィ、と特有の擦れる金属音を出しながら食堂のウェスタンドアが開かれる。

 いつもならその音に歓迎の意を感じ取るのに、今日に限ってもやけにうすら寒いものに感じてしまう。

 そんな音を立てながら現れたのは、デリラだ。

 彼女はフォルマル伯爵家の紹介でアルヌスに来たヴォーリアバニーのメイドさんだ。

 後輩から給仕長を引き継ぎ、持ち前の快活さとそのプロポーションで食堂のマドンナとなっていた。

 しかしその快活さは鳴りを潜め、表情の抜け落ちたうすら寒い顔で出てきた。

 

「どうしたのデリラさん?」

 

 後輩がそのただならぬ雰囲気に何かを感じ取ったのか、あえてあかるくデリラへと話しかける。

 しかし話しかけられたデリラの目に後輩は映ってはいなかった。

 デリラが見るのは後輩の後ろに立つテューレさんのみだ。

 

「デリ……ラ……」

 

「はは、マジで居やがるよ。裏切り者が」

 

 困惑の表情を浮かべるテューレさん。

 その表情は、死んだと思っていた者の生きている姿を目の前にした様な、それほどの驚きようだ。

 そしてデリラは、裏切り者と呼ぶわりには歓喜の表情を浮かべていた。

 それは長年夢見てきた願いを達成できる瞬間を目の前にしたような―――、

 

「まずい! テューレさんと逃げろ後輩!!」

 

 俺は嫌な予感がしてデリラの方へとすぐさま駆ける。

 しかしそれをデリラはヒラリと躱し、下着が見えるのにも構わずめくり上げてその中から何かを取り出しながら後輩たちの方へと飛ぶように走り出した。

 あまりの速さに目が追いつかなかったが、きらりと光ったことから刃物だと思われる。

 俺はすぐに身を翻して追いかけるが追いつくどころの話ではない。

 そしてそれほどの距離があった訳でも無いため、すぐにデリラは後輩たちの元へと辿り着く。

 

「テュゥゥゥゥレェェェエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

「ハマノコテ!」

 

 後輩を避けてテューレさんへと迫ろうとするデリラ。

 それは許さないと、後輩もまた何かを空間から滲み出すように腕へとまとわりつかせる。

 デリラはそれを見て、邪魔をするならお前からだと言わんばかりに目標を変更して後輩へと刃を振りかぶる。

 振りかぶると言っても大きな動きではない。

 小ぶりな刃物であるのも手伝って、その速さは尋常ではない。

 しかし後輩はそれに向かって今腕に纏わりつかせた何かをぶつけた。

 

「なっ!?」

 

「先輩は来ちゃだめだ!!」

 

 ガンっと金属同士がぶつかる甲高い音を立てると同時、デリラの振り下ろした手が後ろへと弾かれた。

 それと同時に衝撃が空間を伝う様に身体にぶつかり足を止めてしまう。

 後輩の叫びが無くてもこれでは近づけない。

 しかし何が起こった?

 そう疑問に思い、後輩の左手を見れば、そこには黒く歪な籠手があった。

 『ハマノコテ』、後輩は確かにそう言ったな。

 手の甲の辺りに白い光玉をはめ込み、そこから肘までを覆う部分と肘の辺りからは突き出るように出ている部分に分かれて形成されている籠手というには大きなものがあった。

 突き出ている部分には血文字の様な物が掛かれており、“ハマ”という割には若干禍々しい代物だ。

 

「邪魔だ!!!!」

 

 デリラは驚愕したのも一瞬、ナイフを翻して籠手を避けるようにして後輩へと突きを放つ。

 しかしそれも分かっていたかのように後輩は甲高い音を立てながら弾いた。

 

「くそ!!」

 

 デリラは気にせず、何度も後輩へとナイフを振り下ろす。

 それを後輩は冷静に弾いていく。

 大きな籠手を操っているとは思えない程の速度だ。

 しかもここまで後輩からはしかけていない。

 どれもデリラが攻撃したものを弾くのみだ。

 

 サーヴァントの神髄を見た、という事だろうか。

 

 後輩がやっているのは結局のところ全てが後出しだ。

 しかし後輩はその大きな籠手でナイフの全てを弾いていく。

 それがどれだけ難しい事か、少し考えれば誰でもわかるだろう。

 確かに後輩はサーヴァントだ。

 それだけでは考えられないほどの力も持っている。

 だが先程デリラが見せた動きも今見せている動きも、勝るとも劣らないものに見える。

 なのにその全てを捌いていく。

 

「どうしてっ!! 邪魔をっ!!」

 

「俺の前で殺させるものか! 落ち着けっての!!」

 

 そう言い合う間にもデリラはそのナイフで斬り掛かり、後輩は対処する。

 気づけば食堂の周りに居た者達も静かに成り行きを見るのみだ。

 いや、俺も含めてそれしかできないというのが正しいだろう。

 憤怒の表情を浮かべながら斬り掛かるデリラの気迫に飲まれてというのもあるだろうが、下手に手を出せるレベルの戦闘ではない。

 何故こんな状況になったのかなど疑問は多いが、容易くどうにか出来る状況じゃない。

 

 しかし、そんな状況も思った以上に早く終わりが来たようだ。

 

「ちっ」

 

 デリラのナイフがついに耐え切れずに持ち手から砕けてしまう。

 地に落ちた刃先を見れば、壊れる以前に刃物としての体を成していない程にひん曲がっている。

 それでも先程までの戦闘を続けられたのはデリラの技量が高いが故か、それとも後輩が上手く反らしていたからか。

 どちらにしろ、これでこれも終わりか。

 

 だがナイフが折れたところでデリラには関係なかったようだ。

 

「武器が無くても!!!」

 

 どれほどの執念だろうか。

 デリラはついに武器も持たず後輩の後ろのテューレさんへと突っ込んだ。

 

「はぁ、何が何だかわからないけど、悪く思わないでくれよ!!」

 

「がッ!!?」

 

 迫るデリラに、後輩は先程までと同じように籠手を当てる。

 ガンっとまたしても音が響いた。

 しかし先ほどまでと違って、後輩が籠手を当てたと同時に眩い光が走った。

 そして、デリラは弾かれる様にして飛んでいき、暫く空中を横に滑空した後、地面を転がった。

 というか結構な距離を飛んで行った。

 

 

 

 

「あ、ちょ、ちょっとやり過ぎた!!! レスタレスタ!!」

 

 

 

 先程までの華麗な盾さばきは何処へやら。

 後輩は籠手を消して杖を出し、慌てて飛んで行ったデリラを追いかけて行った。

 

 




いかがだったでしょうか?

さぁさぁ何となくでコウジュはテューレを食堂へと連れて行ったわけですが、当然ながらデリラの目に留まりこんなことに。
しかしコウジュの華麗なディーフェンっ!
結果飛んで行ったデリラ。

デリラの運命や如何に!

それはさておき、前も書きましたがやはりテューレに関しては意見も色々なようですね。
まぁでもストマックブレイカーのコウジュに関わるという事で色々お許しいただければ嬉しいです(土下座

そして次回辺りでテューレ関係の事は一旦締めることが出来たらなと思います。

ではでは、また次回!!


P.S.
いよいよ、ケモn…ゲフンゲフン…サモナーが導入!!
待ちきれません!
それに早く東京でデンライナーをぶち壊したいな!!(錯乱

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