テンプレ…まじで?(リメイクしてみた) ※現在このすば!編 作:onekou
今回はとある幼女といつもの幼女が活躍する回となります。
「招待状?」
「おう。ベルナーゴ神殿って所かららしい」
「ふぅん、でも何でまた?」
「ハーディって神様が呼んでるんだとさ。ほんとに神様っているんだな」
目の前にも居るよ、とは言い辛いので口には出さずに置いておく。
私が神だと目の前で言いだしても頭の痛い子でしかないからな。それに見習いが外れたとはいえそれっぽいことをしたことも無いし。
さておき、あの会見の日から早数日、色々と問題を残してきてしまったが再びアルヌス駐屯地へと戻ってきた俺へと先輩から聞かされたのが先の言葉だ。
いやぁ、会見後は世界中が荒れに荒れてしまったようでなんとも申し訳なく思うよ。俺を生贄にしようとしたらしい総理大臣を除いて。
会見の後、まず問題となったのが型月関係者だった。
どうにも色んな国やらが狙い始めたのだ。
俺を狙う事が出来ないからと周囲を狙い始め、それも出来ないからと今度は関係ありそうなところを狙ってきやがった。
確かに俺はサーヴァントとして召喚されてここでも契約状態だけども、設定を考えた型月さん方まで狙うとは言語道断である。
しかし、こんな事もあろうかと俺は事前に対策を取っていた。
その方法というのが、双子龍を型月さんの所に配置すること。
べ、別に生贄とかではない。
型月さんからの要望で、守られるのなら自衛隊員とかよりリアル幻想な俺を寄越してほしいとか言われた結果、俺じゃない幻想種を送り出しただけなのだ。
それに二人だけを送り出した訳ではない。恋ドラ人形も一緒だ。
まぁこっちはFate世界でなんとか覚えた使い魔の術式を使用して視覚共有しているだけの戦闘力皆無な文字通りの操り人形だけどさ。自分の事をしながら他の身体も操るのは難しいのだ。
そして捕まえた奴は一緒に持って行ってもらった一条祭りに放り込んでもらっている。
そろそろ各国も学んでほしいものだ。うちのエンゲル係数の為にも。
けど、型月さんがたに直接ではないとはいえ会うことが出来たのは一ファンとしてかなり嬉しい出来事ではあるし、多少の事は目を瞑ろう。
次に大きい出来事というと、拉致されていた望月紀子さんとそのご家族に会いに行った際に一悶着有ったことだろうか。
望月一家に会う際、国の庇護下にある彼女たちに会うには相応の許可が必要だった。
その為狭間陸将経由で国に打診してくれていたのだが、何を思ったか総理がその場にマスコミを同伴させて一つの美談としてプロパガンダにしようとしたのだ。
拉致被害者が居て、その人を救出できたのは確かにその通りだ。額面だけ受け取れば確かに美談かもしれないしマスコミもよく食いつくネタだろう。
でも、紀子さんは日本に戻って日が浅く、一緒に拉致された彼氏の死亡が確認されたことなどに未だ整理がついておらずテレビとかには出たくないと彼女自身から事前に聞くことが出来た。
そのためそっちの出演は不幸な事件により延期となった。どこぞの出版社の社長さんとかの不祥事が突然リークされたらしいけどなんでだろうね。特に関係は無いけど駒門さんとアドレス交換しておいて助かったよ。
ちなみに、国の庇護下に在る筈の紀子さんの心情を何故事前に知ることが出来たかというと、日本に戻り次第で狭間さん経由のメルアド交換をしたからだ。
まぁそんなこんなで最終的には俺だけで望月さんとそのご家族に会うことが出来た。
ちなみにだが、御家族はあの銀座事件の際に銀座で行方不明となっていた紀子さんに関して情報提供を求めるチラシを配っていたそうだ。
だから俺があの場でしていたあれこれをバッチリ目にしており、というか俺が直接助けた人達だった。どうりで会った際にデジャビュを感じたはずだ。
そういったこともあり、ものっそい感謝された。
何とも面映ゆいね。涙ながらに感謝されるってのは。
けどその反面、なんだか胸が温かくなった。
何というか、パワーを貰った感じだ。
まぁそんなこんながあったがどうにか俺は再び先輩の居るアルヌス駐屯地へと戻ってこれた。
駒門さんとの交換条件はそれなりに面倒なものとなったが、まぁ仕方ない。
しかし戻って来るなり何やらまた面倒事の臭いだ。
今は先輩の部屋でお茶を飲みながらのんびりしている所だ。
他にもテュカさんやロゥリィさんも居る。
やったね先輩ハーレムだよ! 俺を数に数えたら怒るけど。
「ハーディってどこかで聞いたような……」
「ハーディとは冥府の神。死した魂を冥府へと誘う役目を持つ」
「レレぺディアは何でも知ってるなぁ」
「……? 何でもは知らない知っていることだけ」
「あんたはどこぞの委員長か!」
何故そのネタを知っているのか。
たまたまかもしれんが、少なくとも気に入って多用している俺よりもマッチしてますね。
それにしてもほんとにレレイは色々知ってるよな。それに勤勉だ。
アルヌスにおける語学等の知識を一番活用できているのもレレイだろう。
俺も色々と教える役目を負っているが、それもそろそろ限界だ。
数十年分の現代知識があるとはいえ、学生として知識を貯め込んだのなんてその何分の一だろうか。
当然劣化もしている為、レレイに伝えるのも一苦労だ。
チート関係に関しては感覚的に使っている部分も大きいし、あまり顔色を変えないが明らかに不満なレレイには悪いことをしている。
そんなことを思いつつレレイの方を見れば何故みられているのかと首を傾げる彼女。
それに苦笑していると、今度はロゥリィさんが口を開いた。
「それより耀司ぃ、ほんとぉにベルナーゴ神殿へ行くのぅ?」
「というよりは行かなければならないみたいだ。どうやら後輩の戦果である炎龍討伐の報奨として各地の偉いさん方から感謝状やら何やら色々と届いててな。その内の一つに招待状が紛れてたんだ。上としても特地における友好的な所との繋がりは強化したいらしくて、こっちの神様直々の招待状となれば尚の事な。第三偵察隊を引きいて後輩と共に行くように命令が下されたよ。まぁ行くにしても帝国との講和が成ってからだろうけどさ」
ってか、俺もですか……。
思わず渋い表情になってしまう。
神様というと俺の知る神はエミリアに化けていた中間管理職の社畜神くらいだが、そのハーディって神様もきっと一癖も二癖もある人物(神物?)に違いない。
それに用向きも無く呼ぶわけがない。
招待状とは名ばかりで、絶対に何かある。そんな気がするのだ。
「そんな顔するなよ後輩。サッと行ってサッと帰ってこよう。でもなんでロゥリィまで同じような表情してるんだ?」
その言葉に俺もロゥリィさんの方を見ると確かに苦虫を噛み潰したような顔をしていた。
俺は見たのに気付いたのか、彼女は俺を見て口を開いた。
「ハーディは苦手なのよぉ……。自分の物になれって求愛してくるしぃ……」
「も、モテモテですね」
「コウジュぅ?」
「……ごめんなさい」
いつになく力の無い言葉に思わず茶化してしまうとロゥリィさんにもの言いたげな目で見られてしまったのですかさず目を反らしながら謝る。斧で両断されそうなので。
「まぁ良いわぁ。ちなみにぃ、その時は私も一緒に行って構わないかしらぁ? あいつの領域に真正面から乗り込めるなんてそうそう無いしぃ、目の前で嫁になる気は無いって言ってやりたいのよねぇ」
「ああ、多分構わないぞ。道すがらの現地民との友好関係も構築するようにって言われてるし、むしろ来てくれると助かる」
「ふふ、決まりねぇ」
「ってこら! 抱き付くな!!」
言うと同時に先輩に飛びついたロゥリィさんは、何が気に入ったのか最終的に先輩の胡坐の上に収まった。
むぅ、羨ましい。
あ、ちなみに先輩が羨ましいだけだから。
美少女を膝の上に乗せるとか中身男な俺からすれば垂涎ものである。
「あ、ずるい! 私も行きたい!!」
先程までじっと俺の代わりにと何処からか手に入れてきた大きいぬいぐるみを手放しテュカさんも先輩へと抱き付いた。完全に抱き付き癖が構築されてしまっている。
「ベルナーゴ神殿に行くのならば道中にある学都ロンデルにも寄ってほしい」
そう言いながら先輩の方へとそそっと近寄って服の端を掴むのはレレイだ。
おいなんだよこのガチハーレム空間。
そしてなんで三人は俺の方を見てるの?
「えっと、俺はお邪魔みたいだからお暇しよう…かな?」
「逃げるのぉ?」
「むぅ……」
「……」
「俺を置いていくな後輩!!」
それぞれが何かしらの思惑を持って俺を見ている。
いやホント何で3人娘さんは加わらないの? と言いたげな目でこちらを見ているのか。ロゥリィさんは挑発気味だし。
ついでに先輩は若干涙目でこちらへと何かを訴えかけるが俺はナニモミテイナイ。
「こ、こんな部屋に居られるか! 俺は部屋に帰らせてもらう!!」
フラグっぽい言い回しだが、ほんと居づらいので俺は帰ることにした。
三十六計逃げるに如かずってね。
◆◆◆
帝国の名門貴族から元老院の重鎮やその家族までと錚々たる面々だ。
そしてその中に、幾人かの日本人も混ざっていた。
特地問題対策副大臣たる白百合玲子、外務省官僚の菅原浩治、そして講和交渉団として選ばれた幾人かの官僚と第三偵察隊+αの面々である。
何故敵同士である帝国と日本の人間が同じ場に居るのか。
それは今から行われるのが日本と帝国の講和、その第一歩となる捕虜の返還を行うからだ。
「これで漸く講和が進むわね」
「ええ、喜ばしい限りです」
各々が用意された料理に舌鼓を打つ中、溜息を吐くように疲れた声を出した白百合副大臣。それに相槌を討つのは菅原だ。
二人は部屋の隅に置かれたソファーに座りながら会話を続けた。
「それにしても不思議な物ね。前に聞いた時は男性の正装がトーガの様な物だと耳にしたのに、女性方は娘の見ていたアニメでも出てきそうな服装ばかり。どうしてかしら?」
「さ、さぁどうしてでしょうね……」
白百合の疑問の答えを知るも、伊丹らにより広まったアニメや漫画の煌びやかな服装が特地女性に受けているとは言えず言葉を濁すしかない菅原。
しかしそれに気づかず、ただ疑問を口にしただけであったのもあってか白百合は話を移ろわせた。
視界に入れたのは日本で今最もテレビを騒がせていると言っても良いコウジュだ。
今回はいつかの園遊会とは違い、正装とも言えるいつもの服装でこの場に居り、礼服を着た第三偵察隊の面々と共に話をしていた。
それを遠巻きに見ながら、白百合は話し始める。
「あの子……と言ってもそれほど歳は離れていないのでしたわね。アインツベルンさんもこの場に呼ばれていたのね」
「皇帝直々の指名だそうです。炎龍の方は皇子が呼ぶように言ってきたとか。まぁどちらも刃先一つ立ちませんので心配はご無用かと」
「異世界というのは本当にフィクションの様な現実がそこかしこにあるわね。魔法もあるのでしょう?」
「はい。私も実際にこの目で見ましたが今でもその理論に見当もつきません」
「その中でもアインツベルンさんは飛び抜けているわよね。サーヴァント……と言ったかしら? 過去現在未来、どこかから召喚される英雄がそうなると聞いたのだけど、彼女は何をして英雄となったのでしょうね」
「それは伊丹さんも知らないそうです。なんでもコウジュさんが言いにくそうにしていたとか」
「そう……」
英雄となるには対する悪や事件が必要だ。それを解決し、人にとって益となることをした者に与えられる称号と言える。
つまり幼い少女に見える彼女もまたそうであるのだろう。
しかしすぐそこで朗らかに笑う少女がそうだとは思えない。
そこまで考えて白百合は小さく首を振る。
情報としてコウジュが持つ戦力の幾らかを白百合は聞いていた。
それを振るわなければならない状況に陥ったからこそ彼女は英雄となったのだろう。
そう思うと、白百合の胸の内には少しの憂いが生まれた。
現在、日本はコウジュの力を利用している形だ。
コウジュ自身もそれを分かっていて、力を貸している。
しかしそれはとても危うく、歪だ。
各国もコウジュが居るからこそ手をこまねいている部分があるが、もしコウジュが
だがそれを止められないのが現状の日本だ。
目の前で笑う少女を見て白百合は思う。
ああして楽しげに笑う彼女をどうして再び矢面に立たせなければならないのか。自分にもう少し力があれば。
だがそれも思うだけに留めるしかない。
それもまた現状だからだ。
そこまで考えて、白百合は違うことを考えることにした。
今から自分が行わなければならないこともまた多くの人を助ける一助となる。
それに、ここから上手く講和が進めばひょっとするとコウジュが矢面に立つ必要が無くなるかもしれない。
だから、まずは自分の仕事に集中するべきだ。
「まぁコウジュさんも伊丹先輩の為にも早く平和を作りたいと願って頑張っているようですし、ああ見えて中々に強かですよ」
白百合の表情を見て悟ったのか、菅原はそう言った。
そんなに分かりやすい表情をしていたかしら、と疑問に思うもそれを置いて気になる部分が出来た。
「ファーストネームで呼ぶなんて仲が良いのね」
「あー、それはですね、本人からそう言うように言われまして……」
苦笑しながらそう言う菅原。
それに対してつい訝しげな眼を向けてしまう白百合。
何せコウジュの見た目が見た目だ。
白百合の頭の中に少女愛好者という文字が浮かび上がる。
そこへ、菅原にとって運悪く追い打ちを掛けるようにとある人物が現れる。
「スガワラ様! 御無沙汰しておりました!」
現れたのは可愛らしいドレスを着て、親譲りのブロンドを頭上で結った少女だ。
名前はシェリー・テュエリ。カーゼル候の類縁であるテュエリ家令嬢だ。
年齢は12歳。
かつての園遊会でテュエリ家との関係を結ぶためにそこの御令嬢へと菅原は真珠のネックレスをプレゼントしたのだが、その御令嬢こそがシェリーだ。
「菅原君……?」
「ご、誤解ですっ」
コウジュは見た目はあれだが実年齢は40を越えるという。
しかし今度は明らかに10代も前半と言える少女が菅原へと声を掛けてきた。
それを目にし、先程までの疑念もあって白百合は疑いの目を菅原へと向けた。
即座に否定するも、こういったものは一度疑念に思われると中々に晴れないものだ。
「白百合副大臣、少し失礼しますっ。シェリーさん、少しこちらへ」
このままそこで誤解を解こうとしても避けにややこしくなるだけだと判断した菅原はシェリーを伴い白百合の傍を離れた。
しばらく歩き、下手に人の目に着かない場所に行くのもまた痛くない腹を探られると考えた菅原は、人は居るが多少声を落とせば聞かれることも無さそうな庭の一角へと移動した。
「シェリーさん、今は公務中です。後にして頂けませんか?」
「まぁ、私との会話は私事としてくださるのですね! 嬉しいです!」
輝かんばかりにそう言うシェリーに菅原は溜息をつく。
御家との関係を取り持つためにと少女にプレゼントや日本語について教えたりもしたがどうしてここまで懐かれるのかと疑問に思う菅原。
最近では婚約者だとまで言い出すではないか。
これではロリコンのレッテルを張られてしまう。
そうなれば出世の足枷となる。
それを覆すために、菅原は何とかシェリーへと言い聞かせようと再び口を開いた
「シェリーさん、私は白百合副大臣と来られている貴族の方々との仲を取り持たなくてはなりません。そのためにも私は一人の方と話をしている訳には行かないのです」
しかしその言葉に、シェリーは我が意を得たりとでも言うように、満面の笑みを浮かべて話し始めた。
「そう邪険にしないでくださいませスガワラ様。その為に私は声を掛けたのですから」
「……どういうことですか?」
「今、帝国内ではニホンの女性は亜神の様に強かであるとの噂が立っているのはご存知ですか?」
「いいえ、知りませんが……」
「ご覧ください会場を。帝国の者は興味深げに日本の方々を見るばかりで近づけずに居ます。それは粗相でもすれば何をされるのかと警戒しているからなのです」
確かにシェリーの言う通りに帝国の人間と日本の使節陣との会話はなされていない。
しかしそれがどうシェリーに関わるのかと菅原は疑問に思った。
「私を利用してくださいスガワラ様。まずは私をシラユリ様にご紹介頂くだけで良いのです。未だ以て帝国からすれば日本は優れた技術や兵器を持つ未知の国でしかありません。だからせっかくの交流の場であるというのに会話一つ出来ていないのです。しかし私の様な少女が話をし始めればその警戒も大いに薄れるでしょう」
侮れない少女だと、菅原は思った。
確かに目の前の少女の言には一理ある。
しかしかような少女に言い包められて、そのままこれを実行してしまって良いのか。
そうも思うが、メリットを考えれば実行するべきだと冷静な仕事人としての自分が言いもする。
暫く考え、菅原は再び溜息を吐いた。
「……分かりました。それではお手伝い願っても良いですかシェリーさん?」
「はいっ!」
結局、菅原は現状を打破する為の手段として少女の言う手を使うことにした。
ほんとに侮れない。
12歳と言えば日本ではまだまだ小学校高学年と言ったところだ。
それがどう間違ってこうも強かになるのか。
見た目が少女だとしても気を抜けない異世界はほんとに恐ろしい。
「……実は2回目の人生だったり、数百才だったりしませんよね?」
「はい?」
「いえ、なんでもありません」
コウジュやロゥリィを思い出して思わず呟いた言葉が微かにシェリーに聞こえてしまったようですぐに何でも無いと誤魔化す菅原。
伊丹さんに毒されたかな、と脳内で嘆息する。
そして、この少女を紹介する上で何と言えば自身の被害を最小限に出来るか考えながら、シェリーと共に菅原は歩き出した。
◆◆◆
「モルト皇帝陛下並びに皇太子ゾルザル殿下、ディアボ殿下、皇女ピニャ殿下の御入来!!」
その言葉と共に入ってきたのはいつしか見た皇帝に皇子、そして見たことないイケメンにピニャさんの4人だ。
全員が豪奢な衣装に身を包み、緩やかに歩を進める。
道の両端には兵士や大臣たちが立ち並び、礼を尽くす。
そしてその間をしばらく歩き、やがて部屋の中心に居た白百合さん達の下へ辿り着いた
「よくぞ参られたニホンの方々」
「本日はお招きに与り感謝します、陛下」
皇帝の言葉に白百合さんが礼と共に答える。
そしてその言葉を皮切りに、暫く会話が始まった。
俺はそれを壁際から見ているんだが、ふと目を反らすと紀子さんを引きずってきた例の皇子がこちらを睨みつけるように見ていることに気付いた。
心がざわつく。
だが、それもすぐに収まった。
よく見ればその視線は俺ではなく、俺の横に居る恋ドラ人形へと向けられていた。
俺は首を傾げながら何でだろうと考えていると、皇子はそのまま周囲の制止も聞かずこちらへと歩いてきた。
そして恋ドラ人形の前へ来て止まった。
「……話がある」
何だろうか?
正直言って今この瞬間にもボコボコにしたいくらいの皇子だが、この場でそんなことをすればこの講和がご破算になるのは確実なので我慢しているというのに相も変わらずな皇子様だ事。
というかその恋ドラ人形は俺が操っているだけの文字通りの人形なのだが、何をしたいのか。
そして俺の方は全く見ず、言うだけ言うと皇子は人気の無い方へとあるいて行った。
「仕方ないか」
あの皇子が恋ドラ人形に何かできるとも思えないし、そもそも攻撃されても通用しないだろうし、場を乱さない為にも俺は恋ドラ人形を視覚共有モードにして皇子の後をついて行かせた。
そうこうする内に会は進んでいたようで、気づけば全員が杯を掲げていた。
俺も慌てて近くのメイドさんが持っていた盆から一つを受け取り、同じように掲げる。
「皆の者、杯は持ったな? 祝杯だ!」
そう皇帝が言うに合わせて全員が杯を傾ける。
ふむ、こっちのお酒は変わった味だね。
甘いけど、その中にちょっとだけ漢方みたいな風味が入ってる。
まぁでもその苦みもほんの少しだし、ちょっとアクセントみたいなものだろうと俺は一気に飲み干した。
そして空になった杯を机の上に置こうとした時、ガシャンと何かが割れる音の後、何かが倒れる音が続き、そして悲鳴がこだました。
「陛下っ!!!?」
「いやああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」
「衛生兵!!! 衛生兵はいずこか!!!」
どうやら何かが起こったようだ。
俺は慌ててその騒動の中心へと足を運ぶ。
「ちょ、ちょっとごめんなさい!」
身体が小さいのを利用して人の隙間を縫ってその場を見れる位置に何とか辿り着く。
そして目にしたのは、床に倒れ伏す皇帝だった。
「どういう状況さねこれ……」
見れば皇帝の横には割れたグラス。
そしてそこから零れるのは祝杯用の酒だ。
「毒、か……?」
大量の汗をかきながら苦しむ皇帝。
その周りには人だかりができ、皇帝の周りには兵が詰め寄っている。
日本の人達は遠巻きにそれを見ることしかできていないが、それも仕方ないだろう。
下手に近づけば何を言われるか分かったもんではない現状となってしまったのだから。
だが、良い感情を持てない皇帝とはいえ見殺しにするのもアレだ。
とりあえず俺は行動することにした。
「えっと、カジューシース」
手に出したのはとある
それを手に、俺はさらに皇帝の近くへと近づく。
「近寄るな小娘!」
俺に気付いた兵士の一人が俺を押しのけようとするがそれをヒラリとかわして皇帝の横へ行く。
「レジェネ、あとレスタ」
言うと同時に杖を振るう。
すると俺から溢れ出た魔力が光となって皇帝を包んだ。
これで良し。
「貴様皇帝に何を!!」
唖然と見ていた兵士の一人が我に返って俺へと詰め寄る。
それもするりと躱し、皇帝へと目を向ける。
足りないかな?
そう思うも、ちゃんと効果はあったようだ。
「う……むぅ…、我は何を……」
何事も無かったかのように起き上がる皇帝。
俺はそれに満足して周りを見る。
しかし皆は口を開いて固まっていた。
「あれ?」
どこかでブホッと吹く音が聞こえた気がした。
いかがだったでしょうか?
ゲート編でやりたかったことパート2。
レジェネで治る状態異常編でした。
原作とは違う部分がそこここに出ていますが、原作を知っている方なら最後に吹いたのが誰か思いつくかもしれませんねw
そして半ばにあったシェリーの腹黒さが垣間見える部分。
あんな幼女が実際に居たら怖いですよねw
でも今時は低学年でブランドの物の話をしたりする時代らしいですし、変ではないのでしょうか……。
まぁさておき、話は再び前へと進みました。
ハーディへ出会う前振りも済みましたし、さてさて今後はどうなるやら。
では、またよろしくお願いします!
P.S.
感想返しに関してなのですが、リアル事情等もあり遅れ気味となっております。申し訳ありません。
近いうちに纏めてお返しできると思うので、もうしばらくお待ちください。