「あついなぁ」
カッ。カッ。とコンクリートの地面を下駄で鳴らしながら青山くんが言う。
「うん」とだけ僕は返す。青山くんはずっと笑顔のままだった。
8月も終わりになり、僕。坂上亮と青山くんは思い出作りに夏祭りに行くことになった。
誘ったのは僕じゃない。青山くんがいつも遊びに誘ってくれる。
毎日ポケベルの108410(電話して)のメッセージをうずうずと待ちながら過ごしていた夏休み。彼からのメッセージは遂に来た。こうして僕達は男2人で夏休みにいる。
「これが彼女と一緒だったらね」なんて言ってみる。
「そういう事言うなよ~。男同士でも楽しいもんは楽しいだろ?」
彼は僕の横で笑う。
そうだよ。そういう所だよ。
僕が誰とも話せなかった時、僕にずっと話しかけてくれた。
僕は話しかけるという事がどうしてわからなかった。
誰かに話しかけようとすると真っ暗になってしまって、言葉が出てこない。
でも、そんな僕にずっと話しかけてくれたのが青山くんだった。
喋らなかった僕は何も考えてないやつだと思われていた。
そんな僕が思いを溜め込んでいる事に気づいて、優しくしてくれたよね。
最初は友達だった。友達の中の尊敬だった。
けれど14歳の時にボーリングで一緒に遊んだ帰り道で、あれ?と思った。
友達っていう気持ちじゃない。凄くドキドキする。
こんなのダメだ。友達なんだ。でも、このドキドキする感じは間違いなくそうだった。
それから友達として青山を見ようと頑張った。でもそう思えば思うほど、ドキドキがどんどん増えていった。
そうして、今日の夏祭り。りんご飴を美味しそうに食べる君の横顔が、今まで見た中で一番綺麗だった。
短髪で男らしいキリッとした目。華奢で細い体と眼鏡の僕とは正反対の鍛えられた体。バスケ部でエースをやっているのも納得だった。
夏祭りも花火が終わり、人がいなくなってきて帰ろうという話になり、町に戻っていく時、僕達は風鈴に包まれた通りを通った。
木の骨組みの中に大量の風鈴が吊るされている。オレンジ色の照明はその風鈴を輝かせていて、カラカラともキンキンとも聴こえる音が僕達2人の体を包みこんでいた。
「きれいだな~」
青山くんは楽しそうに上を見上げている。
見上げた時の青山くんの顔。それがあまりにも美しくて。
僕は青山くんに抱きついてしまった。
身長は青山くんの方が大きい。だから僕の頭は青山くんの胸に覆いかぶさる。
「うおっ。どうした急に~寂しくなっちゃったか~?」
あぁ。こうやっていきなり抱きついても、そうやって優しくしてくれるんだ。
僕が君に好きって言ったらどうなるんだろう。
でも、この世界はそれを許してはくれない。
青山くんはとっても優しいから。とっても明るいから。きっと僕がそう言ったとしても「そうなんだ」って言って、僕が最大限傷つかない言い方で友達でいようとしてくれる。
そしてずっと友達でいてくれる。僕達は友達だと「思わせてくれる」。
青山くんの浴衣を涙で濡らしてしまう。そうさせてしまっている僕の事が自分でも嫌だった。
けれど、口から出る言葉は止められなかった。
「あおやまのこと、すき」
言ってしまった。どうして言ってしまったんだろう。誰とも話せなかった僕が。遊ぼうなんて言えなかった僕が、どうして好きと言えてしまったんだろう。
もう、一緒にはいられない。僕は青山から早歩きで立ち去ろうとする。
「待って」と僕の細い腕の先を掴む青山。
僕がそれに引っ張られて振り返るとその瞬間、青山は僕の唇に軽いキスをした。
「・・・え?」
固まる。そして「なんで?」と口から言葉が漏れる。
「気づいてた。ずっと前から」
青山くんは前からとっくに僕の思いには気づいていた。
当たり前だよね。だってこんなにも頭が良いんだもん。運動ができて誰とでも仲良く話せて要領が良くて。君はそういう人だから、僕の思いなんてとっくにバレてるんだ。
「でも今は・・・これがせいいっぱいだ。続きは大人になってからな」
そうやって僕の手を恥ずかしそうに繋いで、風鈴の通りを抜けて僕達は祭りの会場から離れていった。
じゃあなと別れてから114106(あいしてる)とポケベルに入れてみる。
999(サンキュー)と青山くんは返してくれた。
僕の人生にとって一番キレイな時間だった。
あの風鈴の通りの景色のなんと綺麗な事だっただろう。
キンキンとしたガラスの音の中で、彼の横顔を見れた事はなんと幸せだったろう。
ぼくたちの恋は、いつか許されるモノになるのだろうか。
いつか。いつかその時が来たら、僕は彼と本当の恋がしたい。
儚い夏の夢のような恋
いつかそれが本物になりますように
風鈴と君の横顔を思い出してしまう
いつか僕の恋が、本物になりますように。