ボッチの俺が、個人VTuberとして地味に活動していたらいつのまにか人気になっていた~とある変態リスナー(義妹)が推し(俺)と付き合うまでの話~   作:わんた

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舞依の悩み

 不自然に距離を空けたまま舞衣さんは空き教室の隅で立っている。何かを言いたそうな顔をしているけど、口は閉じたままだ。

 

 時間が必要かなと思って残っていたサンドウィッチを食べて待ってみたけど、何も変わらなかった。じっと俺を見ている。

 

「立ったままだと疲れるから座る?」

「うん」

 

 元気なく返事をした舞衣さんは、近くに放置されている椅子に座った。

 

 廊下から話し声は聞こえるけど誰かが入ってくることはなく、みんな素通りしていく。後ろ姿だけじゃ舞衣さんだと気づかないみたいで、誰も注目していなかった。

 

「優希くん……私……ううん、なんでもない」

 

 言いたいことを飲み込み、立ち上がろうとする。

 

「待って」

 

 それを俺は止めた。

 

 兄妹になって間もない俺たちに家族の絆なんてものは存在しない。気軽に悩みを相談できる相手じゃないのは十分理解しているが、誰かに話すことで解決に進むことだってある。

 

 あの時、ミミさんの熱心なアドバイスがなければ、嫌われていると勘違いしたままだった。そのときの経験が舞衣さんを引き止める言葉を発するきっかけになった。

 

「俺でよければ聞くよ?」

 

 役に立てることなんて少ないだろうが、話をするだけで楽になることもある。無理強いはしないが、舞衣さんが言いたいのであれば聞き役に徹するつもりだ。それが義兄ってものじゃないのか、なんて勝手な想像をしていた。

 

 もちろん下心なんてない。弱っている心の隙間に入り込んで、付き合おうなんて微塵も考えておらず、純粋に舞衣さんのことが心配なのだ。

 

「でも、絶対に面倒だなって思うよ…‥」

「俺は気にしない」

 

 本当は家族なんだからとまで言いたかったけど、俺だけがそう思っていたら恥ずかしいので口までは出さなかった。

 

 声を馬鹿にされてから他人と関わるのが面倒になり今まで誰かに踏み込むってことをしてこなかったこともあって、これ以上は強引に聞きだそうとはしない。現時点がギリギリなので、舞衣さんが断ったら引き下がるつもりだった。

 

「優希くん、ありがとう」

 

 体から力が抜けて、ほっとしたような空気を出している。

 

 俺は間違ってなかったのだ。提案して良かったと感じた。

 

「実は最近になって付きまとわれているんだよね。だから陽葵も神経質になちゃって、優希くんに強くあたっちゃったんだ。ごめん」

 

 コインに面裏があるように、美少女というのは良いこともあれば悪いこともあるのだ。今回は裏側である悪い側面が出てしまっているのだろう。

 

「舞衣さんは悪くないよ。謝らないで」

「でも迷惑をかけちゃった」

「気にしてないし、付きまとっている人は誰だか判明しているの?」

「ううん。わからない。手紙や盗み撮りした写真とか、そういうのを下駄箱に置いてるぐらいで、誰も姿は見たことないんだ」

 

 直接手は出さないけど、存在をアピールしている感じか。

 

 戸惑っている姿を見て楽しんでいるのであれば、最低だがまだ許せる。だけどこの手の嫌がらせってエスカレートしていくんだよね。

 

 声が変だって噂が流れると、喋るたびにくすくすと笑われ、次は返事をしただけで嫌味を言われ、最後は俺が教室にいるだけで嫌な顔をされるようになったからよくわかる。

 

 相手が反撃しない、自分は安全圏にいる、そう思った人間は歪んだ感情を遠慮なくぶつけるようになるんだ。元の感情なんて関係ない。それが歪んだ愛情だったとしても同じである。

 

 相手を思いやる心を失った時点で、人間はどこまでも自分勝手に振る舞えるようになってしまう。

 

「怖がらせるわけじゃないけど、そのうちもっと直接的な方法で存在をアピールしてくるよ」

「やっぱり優希くんもそう思う?」

「うん。方向性は違うけど似たような経験はしたことあるからね」

「そうなの!?」

 

 なぜか驚かれてしまった。口をぽかんとあけていて、美人なのにちょっとだけ面白い顔になっている。さらに怒りの表情へ変わっていく。

 

「優希くんに嫌がらせした人、絶対に許せないっ! 誰か教えて。文句言ってくる!」

 

 家族になったばかりの俺のことを本気で心配して、怒ってくれるなんて思わなかった。なんて優しい人なんだ。

 

「もう終わったことだから気にしないで」

「でも……っ!」

「それより舞衣さんのことだ。過去じゃなく今起こっていることだから、ちゃんと対策しないと危ないよ」

 

 話が俺のことにばかり向かっていきそうだったので、元に戻した。

 

「放置してたら今度は接触を図ってこようとするから、諦めさせないといけない」

「どうやって?」

「先ずは相手を知るところからだね。俺が下駄箱を見張って犯人を特定してみるよ。その間、絶対一人にならないで。帰るときも友達といた方が相手は手を出しにくいと思う」

 

 近づく勇気がなく遠回しに存在をアピールするような男は、誰かが近くにいれば接触してこないはずだ。時間は稼げる。その間に犯人を見つければ警告することもできるだろう。

 

 一見すると関係なさそうに見える俺が言うからこそ、仮に犯人が逆上しても敵意はこっちに向いてくる。舞依さんに被害は行かないはずだ。

 

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