ボッチの俺が、個人VTuberとして地味に活動していたらいつのまにか人気になっていた~とある変態リスナー(義妹)が推し(俺)と付き合うまでの話~   作:わんた

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学校一のSランク美少女に嫌われた

 コース料理はすぐに始まって、前菜やスープが運ばれてくる。

 

 会話は美紀恵さんと父さんが中心にしている。俺の前に座っている舞衣さんは顔を真っ赤にさせながら、一心不乱に食事をしていてちょっと様子がおかしい。

 

「体調が悪いの?」

 

 先ほど店員を呼ぶ時に地声を出してしまったし、今さら他人用の声に変えても意味がないと諦め、配信の時と同じようにいつも通りに話しかけた。

 

 舞衣さんが俺の配信を見ている可能性はほぼゼロだろうし、声だけでVTuberをやっているなんて気づかない。俺が困る事なんてないだろう。

 

「え、うん。元気だよ? えへへ」

 

 個室に入った時の警戒心マックスな様子は消えていた。逆に人懐っこい猫のような顔をしていて男心をくすぐってくる。これが一ヶ月に複数人を振った美女の破壊力か。

 

 人を一瞬で虜にする力がある。

 変態コメントばかりしてくるメメさんとは真逆だ。

 天然の美人とは、ここまですごいのかと思わされてしまった。

 

「舞衣? 酒なんて飲んでないよね?」

「当たり前でしょ!」

 

 血のつながった母親から見ても、今の舞衣さんはおかしいらしい。

 

 どうしたんだろう。

 

「ねぇ、ねぇ」

「なに?」

「これから家族になるんだよね。苗字だとわかりにくいから、下の名前で呼んでいい……かな? 優希くん」

 

 願ってもない提案だった。まさかあの舞衣さんに名前を呼ばれるとは!

 

 振られた男たちに自慢したら刺されてしまうだろうか。それとも悔しがって涙を流すか? どちらにしろ強い優越感を得られそうだ。

 

 興奮のあまり、一瞬だけそんなバカなことを考えてしまった。

 

「それじゃ俺も下の名前で呼ぶね。舞衣さん」

「っっっっ!!」

 

 声にならない叫びというのを初めてみた。

 

 目がキョロキョロ動いていて挙動不審だ。体が小刻みに震えている。何かに耐えているような、でも我慢できてないような、なんとも不思議な光景だった。

 

「ちょ、ちょっと、トイレに……」

 

 慌てて立ち上がったけど、赤ちゃんのヨチヨチ歩きよりも危なっかしい。

 

 テーブルを回ってドアの方へ向かう。

 

 俺たち三人はハラハラしながら見ていると、運悪く大皿を持った店員が入ってきてぶつかってしまった。

 

 バランスを崩した舞衣さんは、ぺたりと座り込んでしまう。

 

 腰が抜けているのか立ち上がれないみたい。

 

 店員さんは大皿を落とさないようにバランスを取っているため動けない。俺が近寄って手を取る。

 

「大丈夫?」

「だ、だだだ大丈夫」

 

 手が叩かれてしまった。舞衣さんは壁に寄りかかりながら、なんとか立ち上がる。

 

 ものすごく苦労したのか、息は乱れていた。

 

「はぁ、はぁ……あまり近づかないで……お願い…………」

 

 助けようとしたら嫌われてしまった、のか? 眉間にシワが寄っていて険しい顔をしている。少なくとも好意的には見られていないらしい。

 

 ズキっと心臓が締め付けられるような痛さを覚え、自己嫌悪に陥る。

 

 無意識のうちに、学校で有名な美少女に好かれるなんて都合の良いことを考えてしまっていた。先ほどの人懐っこい顔だって、父さんに向けていたと考えれば納得だ。

 

 勘違いするな。舞衣さんが好かれたい相手は俺じゃないんだよ。

 

 美紀恵さんと一緒に入ってきた時、機嫌悪そうにしていたじゃないか。

 

 食事になってから普通に話していたけど、あれは空気を読んで対応してくれたに過ぎないのだ。

 

 特に俺は同級生かつ男だ。さらに新しい家族になるため同じ家で暮らすことになる。最も警戒しなければいけない人物には違いないのだ。

 

 少なくとも俺が女ならそう考えるし、舞衣さんと同じように近づかないでと言っただろう。色々と納得した。

 

「うん。ごめんね。もう近づかないから。安心して」

 

 倒れそうにしているのは心配だけど、俺にはどうしようもない。何かあったら美紀恵さんに任せよう。

 

 くるりと反転して席に戻る。

 

「あっ……ちが……」

「メインの肉料理をお持ちしました!」

 

 入り口で待っていた店員が、大きな声でステーキが乗った皿を次々と配膳していく。

 

 舞衣さんがぶつかってきたことを根に持っているのか、置き方がちょっと雑だ。ホテル内のレストランなら接客の質も高いと思ったんだけど、これも俺の勘違いだったようだ。

 

「舞衣は早くトイレ行かないの? お肉が冷めちゃうよ?」

 

 壁に寄りかかったままだった舞衣さんが、美紀恵さんの言葉を聞いて個室から出ていった。

 

 ふぅ。緊張感から解放された気がする。

 

 肉には手をつけず、背もたれに寄りかかる。

 

「うちの娘がごめんなさいね。普段は落ち着いているんだけど今日は変みたい」

「見知らぬ男と家族になるんだと言われたんですから、色々とあったんだと思います。気にしていません」

 

 なんでこれを父さんじゃなく俺が言っているんだと思いながら言った。

 

「辰巳さん聞いた? 優希くんはすごく賢いわね」

「俺に似てな」

「まー。あなたったらっ! もう素敵!!」

 

 驚いたことに美紀恵さんは立ち上がって、父親の膝の上に座った。腕を首に回して抱きついている。

 

 何が悲しくてイチャイチャしている親の姿を見なきゃいけないんだよ。

 

 これからの食事、どうするつもりだ。

 

 再婚だから盛り上がりやすいのはわかるけどさ、せめて息子がいない場所でやってくれよ。

 

「はぁ、早く帰りたい」

 

 地声を披露してしまった上に舞衣さんには嫌われてしまった。なんだか今日はついてない。

 

 これ以上、悪いことが起こるのは避けたいので、黙って食事を進めていく。

 

 トイレから戻ってきた舞衣さんも俺と同じく一切喋ることはない。やはり俺を警戒しているのだろう。

 

 顔合わせは両親のイチャイチャする姿を見るだけで終わってしまったのだった。

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