ボッチの俺が、個人VTuberとして地味に活動していたらいつのまにか人気になっていた~とある変態リスナー(義妹)が推し(俺)と付き合うまでの話~   作:わんた

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舞依:リスナートラブル(物理)

 笹木先輩と話し合うため保健室に入った。

 

 この時間は誰もいない。先生が戻ってくるのはしばらく先になるので、その間に決着をつけないと。

 

 握っていた腕を放して少し歩いてから振り返る。

 

 何が不満なのかわからないけど、笹木先輩は腕を組んで私を見ていた。

 

「やりすぎです」

 

 私に迫ってきた盗撮した男の子を取り押さえてくれたところまではよかったけど、そのあとが酷い。なんで投げ飛ばしたの?

 

 もっと穏便に終わらすことだって出来たのに。

 

「大罪人には、あのぐらいしないと」

「先輩、それは言い過ぎ……」

「だって百合に挟まる男なんだよ!? 時代が時代なら死刑なんだから!」

 

 話が通じなくて頭が痛くなってきた。

 

 アニメや漫画は好きだから笹木先輩が何を言いたいかわかるし、現実に置き換えても同性愛者に異性愛者が入ってくるのはよくない。けどね。私は異性愛者なんだよ。なんでそこをわかってくれないのかな。

 

 普段は冷静で楽しくおしゃべりできる頼れる先輩なんだけど、一度でも興奮すると止まらないのは困る。

 

 特に私に関わることだと文字通り目の色が変わる。

 

 先輩や友達の域を超えて家族や恋……!?

 

 点が繋がって線になった。飛躍した発想ではあるけど当たっている確信がある。

 

「もしかして定期的に私の写真や百合の手紙を下駄箱に置いたのは……笹木先輩ですか?」

 

 にやっと笑うだけで答えはなかったけど、犯人だと確信した。

 

 これなら正々堂々とラブレターを送ってくれた男性の方がマシだよね。勝手な思いだけじゃなく歪んだ妄想までも押しつけてくる彼女は恐ろしい。

 

「何度も言いますけど私は男性が好きです。推しがいることは笹木先輩もご存じですよね?」

「もちろん。あなたがメメさんだってのもね」

「学校で言わないでください。キラキラJDさん」

 

 そう、私たちは銀河聖夜くんの常連リスナー。配信中はお互いにコメントで盛り上げ、同じ人を推している。

 

 共通点も多く話もあったので、前にオフ会を開催して出会ったら同じ学校に通っていてビックリしたんだよね。そこから話すことも増えてきたんだけど、私が女の子に告白されている場面を見てから見る目が変わってしまった。

 

 百合発言もそのころから始まって、今回のように暴走することもちょこちょこ出てきている。距離は取りたいけど笹木先輩から近寄ってきて、拒否することも出来ずにいる。

 

「推しは別腹だから大丈夫。聖夜君は神だから!」

「神なのはわかるけど、そんな区切り方でいいんですか?」

「何言っているの? あたりまえじゃない。推しは偶像だから直接会える人間とは違うんだよ」

 

 大きなメガネの奥にある目が怪しく光っている気がした。

 

 もし優希くんが、私たちの推しだって知ったら何をするかわからない怖さがある。家族になったことは当然として、銀河聖夜くんだとも絶対に教えられない。守るために隠し通さないと、強く思う。

 

「ねぇ、私が目覚めさせてあげようか?」

 

 どろっとした感情を向けられてしまった。

 

 ネット上だと性格はよく、話もあったんだけど、どうして変わってしまったんだろう。

 

 オフで会ってしまったことが悪かった?

 私の外見が好みだから?

 同性だからと油断してボディタッチしたことが勘違いを加速化させた?

 

 どれもありそうで怖い。

 

「そういうのが目的なら二度と私に話しかけないでください」

 

 ピクッと動いて笹木先輩が止まった。

 

 この脅しは使えるみたい。

 

「それは困るよ」

「でしたら恋愛には口を出さないでください。それだけが私のお願いです」

「……わかった。今のところは引き下がるね」

 

 敵役っぽいことを言うと、笹木先輩は保健室から出て行った。

 

 ドアが閉まって私だけになる。

 

「はぁ~~~~~」

 

 深いため息と共に全身から強い疲労を感じた。立っているのもつらいので、無許可でベッドに横たわる。

 

 体調が悪いと言えば保健の先生は許してくれるからどうとでもなる。周りは気にせず目を閉じると聖夜くんのイラストが浮かんだ。

 

 私は彼の声が聞ければよかっただけなのに、色んなことが起こりすぎだよ……。

 

 感情が爆発しそうで授業を受けられる状態じゃない。気持ちを切り替えなきゃ。

 

 スカートのポケットにこっそり入れていた無線のイヤホンをつけると、スマホを操作してダウンロードしていた動画のアーカイブデータを再生した。

 

「メメさんこんにちは! 今日も来てくれて嬉しいよ!」

 

 脳がとろけてしまう声で全身に電撃が走った。

 

 私も声が聞けて嬉しい!

 

 一瞬にして笹木先輩に感じていた感情は吹き飛んで、頭と心は聖夜くん一色になる。

 

 目を閉じて音に集中し、テンポが速めのBGMを聞きながら10分ぐらいアーカイブを垂れ流しにしていると、なんだか物足りなくなってきた。

 

 声は素敵なんだけど、もっと強い刺激が欲しい。

 

 私だけに語りかけて。

 

 欲望は際限なく広がっていき止まらず抗えない。私は弱い女だ。目を開けるとスマホを操作して、パスワードを入力、禁断のアプリを開く。ここにはママが優希くんに頼んで収録した、とっておきの音声データがあった。

 

 私を鍛えるために作ってくれたんだけど、今日は違う目的で使う。

 

 ごくり。

 

 つばを飲み込み、震える指でタップする。

 

「大好きだよ」

「っっっっっ……!!」

 

 体がビクンと勝手に動いた。もう100回以上は聞いているけど飽きることはなく、毎回興奮してしまう。

 

 呼吸が浅くなってじんわりと汗が浮き、下半身が熱くなる。普段は意識して気を強く持つようにしているんだけど、今だけは無防備になる。もう、何があっても受け入れるからっ!

 

「愛しているよ。一緒に住もう」

「もう住んでりゅ~~!」

「大きなベッドに二人で寝よう。夢の世界へ連れて行ってあげる」

「イく! イきましゅ~~!!!」

 

 声を聞いただけで意識が飛ぶほどの快感が駆け巡った。足の指がピンと伸びて太ももが痙攣する。その直後、一気に脱力した。

 

「はぁ、はぁ、んっ」

 

 小さい快楽の波がきて、ぶるりと体が震える。一度ではなく二度、三度とくる。

 

 余韻がすごい。

 

 誰もいなくてよかったけど、別の問題が発生しちゃった。フルマラソンをした後のように力を使い果たして動けない。

 

 部活で鍛えているのに私は聖夜くん……うん、違う。今の会話は優希くんだ。その声に耐えられなかった。

 

 完全に屈服した気持ちになったけど、それがまた心地よかった。

 

 笹木先輩がどんなことをしてきても絶対にあの声は手放さないんだから。

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