ボッチの俺が、個人VTuberとして地味に活動していたらいつのまにか人気になっていた~とある変態リスナー(義妹)が推し(俺)と付き合うまでの話~   作:わんた

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引っ越したら豪邸だった

 舞衣さんは気絶した日から引越の手伝いには来なかった。

 

 父さんが言うには向こう方でも受け入れ準備をしていて忙しいらしい。

 

 荷物の整理をしているのかな?

 

 女性が二人で暮らしのところに男が入ってくるんだから当然の対応だよな。ちょっと考えればわかることだったのに、俺は言われるまで気づかなかった。これじゃノンデリカシーと言われても反論はできない。

 

 もう少し女性に対しての扱いを学ばなきゃとは思ったものの、相談できる相手は変態リスナーの三人だけ。話す分にはすごくいいけど、感性が少し変わっているから参考にしたら大火傷しそうだ。

 

 クラスメイトの女性に聞いたら舞衣さんにも伝わる可能性もあって、学校で聞くのも躊躇われる。

 

 結局のところ、俺が友達を作らず配信を優先していたから、こういった時に頼れる人がいないんだよな。

 

 仕方がないか。因果応報じゃないけど、選んだ結果のであれば素直に受け入れて、自らの力で解決するしかない。

 

 とりあえず思いついたこととして、お風呂やトイレは気をつけよう。少なくともノックをしてから入れば致命的な事故は防げるだろう。

 

 そう難しくはないはずだ。

 

 * * * * * *

 

 引越し当日。先に業者がダンボールを運んでくれたので、俺と父さんは手ぶらで豪邸の前に来ていた。

 

 高い塀に囲われていて監視カメラが付いている。強盗やストーカーが忍び込むのは難しそうだ。もちろん警備会社とも契約していていて、玄関のところにはシールが貼られている。他人を拒絶するような要塞にも思え、これから毎日過ごす場所となるのに緊張してしまう。

 

 ごくりと喉を鳴らしてしまった。

 

「ただのでかい家だ。気にするな」

 

 父さんは俺の背中を軽く叩くとインターホンを押す。反応はないけど家から来訪者の姿を確認していることだろう。

 

 見られていることを意識して背筋を伸ばして立つ。

 

 しばらくしてインターホンから美紀恵さんの声がした。

 

「ようこそー! 舞衣を迎えに行かせますね」

 

 ブツっと音が途切れた。

 

 待っていると門が開かれて舞衣さんが顔を覗かせる。

 

「遠くからよく来ていただき……」

「舞衣ちゃん、それはかたいよ!」

 

 他人行儀な挨拶を始めたところで、父さんが笑いながら突っ込んだ。

 

「ええ、でも、その、年上ですし?」

 

 戸惑いながらも答える麻衣さんは、俺の存在に気づいても機嫌は良さそうだ。

 

 最後に会ったときから時間が空いて落ち着いたのだろうか。今ならチャットのIDを聞いても答えてくれそうな気がする。ミミさんのアドバイスを無駄にしないためにも、タイミングを見てお願いしてみようか。

 

 いつもと違って行動的になっている自分に驚きながらも、嫌な気分ではなかった。

 

「だがなぁ。新しい父親……になるんだからさ、もーちょっとだけ砕けてくれないかな?」

 

 ウィンクまでしたのでドン引きしたかなと思ったけど、意外とウケは良かったようだ。舞衣さんの口元が緩んでいる。

 

 血のつながった息子から見ても父さんは、なかなかのイケオジだから許されたんだろう。これがお腹の出ている脂汗が浮いているような相手なら通報……って、その前に再婚はしてないか。

 

 そういえば美紀恵さんは、父さんのどこが気に入ったんだろうか。

 

 見た目は悪くないからある程度、外見は気に入られているとして、他には何があるんだ。軽めな性格、昭和の親父っぽい頑固さ、とかかな?

 

 身内からすると、どれも良い点には思えないんだけど、他人だと違った見え方があるのかもしれない。

 

「おーい。ぼっとしてないで行くぞ」

「え、うん」

 

 父さんのいいところを探していたら、二人とも豪邸の敷地内に入っていた。

 慌てて俺も中に入ると門が閉まる。

 

 目の前には手入れされた庭が広がっていて、切り揃えられた芝生と植えられた木が目に優しい。公園っぽい雰囲気があってレジャーシートを敷けば、ピクニック気分でお弁当が食べられそうだ。

 

 豪邸の一階は大きなガラスがあってリビングが覗けるようになっている。大開口窓だ。周囲を塀で囲んでいるからこそできたんだろう。他人の目を気にしなくていいのでカーテンを閉める必要はなく、大きな赤いソファや壁掛けのテレビ、ガラスのローテーブルなどが見える。

 

 どれもちょっと変わった見た目をしているので、デザイナーズ家具で高そうだと思った。

 

「すごく大きい家だね」

「移動に時間がかかるから、忘れ物した時は大変だよ。今から覚悟しててね」

 

 舌を小さく出した舞衣さんが、大きい家の不便さを教えてくれた。

 

 前に話したときは何かに耐えるような表情をすることも多かったけど、今は友達と話しているときのような自然体だ。表面上は俺を嫌っているとは思えない。

 

 今ならまともに話せそうだ。

 

 会話を続けて、やり直しの一歩を踏み出そう。

 

「3階建てだから階段も大変そうだよね」

「エレベーターがあるからそんなことないよ。意外と便利なんだよね。めちゃくちゃお金かかるけど」

 

 違うかもしれないけど、パンがなければケーキを食べればいいじゃないと言われた気持ちになった。

 

 庶民とは何もかもが違う。圧倒的な格差だ。

 

 アメリカは貧富の差が大きいと聞いていたけど、日本も目立たないだけで実は結構あるんじゃないのかなと思わされる。

 

「お掃除や食料の買い出し通いの家政婦さんがやってくれるし、忘れ物以外はそんな不便じゃないよ」

 

 今はスマート家電もあるしね、と付け加えてくれた。

 

 別世界すぎて何もいえず、隣にいる父さんの脇腹をつっついて小声で話かける。

 

「どうして結婚できたの!?」

「俺の顔だ。良かったな。イケメンの息子に生まれて」

 

 その自信はどこから出てくるんだよ。

 

 呆れてしまって声が出ない。

 

 絶対に違うと思うから、今度、美紀恵さんに聞いておけばいいか。

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