太陽をテーマにしたホラー短編小説

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偽の陽

消えない日差し

 

静かな田舎町、陽村(ひむら)。そこには奇妙な伝説があった。「陽村の太陽は決して沈まない」という話だ。村の住人たちは口々に言う。

 

「陽村に夜は来ない。ここでは常に昼だ。」

 

初めてこの村を訪れた記者の田中陽子は、その話を信じていなかった。地方新聞の若手記者として、陽村の「奇跡」を取材するよう命じられたが、当初はただの観光誘致の噂だと思っていた。しかし、村に足を踏み入れた瞬間、彼女の考えは変わった。

 

村には確かに「夜」がなかった。時計の針が夜中の2時を指していても、空には燦々と太陽が輝いている。奇妙なことに、太陽の下で草木も人々も昼と同じように活動していた。陽子は思わず眉をひそめた。

 

「何かがおかしい…」

 

 

不自然な村人たち

 

陽村の人々は陽子に友好的だったが、どこか違和感があった。全員が同じような笑みを浮かべ、会話はどれも通り一遍のものばかりだった。

 

「ここでの生活は最高です。太陽のおかげで、いつでも働けて、いつでも楽しめます。」

 

同じ言葉を何人もの住人が繰り返す。陽子は取材メモを取るふりをしながら、村の異常性を感じずにはいられなかった。夜がない生活に不便を感じている様子は誰にもないように見えたが、彼らの目の奥には不安と疲れの影がかすかに揺れていた。

 

村の中心にそびえ立つ神社にたどり着いたとき、陽子は不思議な感覚に襲われた。その場所だけが村の他の場所と異なり、薄暗く冷たい空気が漂っていた。神社の中央には大きな鏡が置かれていた。古びた鏡面には奇妙な文様が彫られており、陽子が手を触れた瞬間、鏡に映る「太陽」が激しく揺らめいた。

 

 

真実の光

 

「何をしている!」

 

突然、村の長老が現れた。彼の表情は怒りと恐怖に満ちていた。「その鏡に触れてはならん!」

 

陽子はすぐに手を引っ込めたが、鏡の中の「太陽」はすでに形を変えていた。それはもはや光り輝くものではなく、まるで人間の目のように村を見下ろしていたのだ。

 

長老は震える声で語り始めた。

 

「この村の太陽は本物ではない。かつてこの地は闇に包まれていた。村人たちは光を求め、神に祈り続けた。その祈りに答えたのが…“あの存在”だ。」

 

“あの存在”とは、異界から現れた何かだった。村に光を与える代わりに、それは村の人々の魂を少しずつ喰らっていたという。太陽の下で暮らす限り、村人たちはその餌となる運命から逃れられない。

 

「鏡の中に映る“太陽”がそれの正体だ。あれが村を見守るふりをして、すべてを監視している。」

 

偽物の空を超えて

 

陽子は鏡の前に立ったまま震えが止まらなかった。記者として真実を知る使命感が湧き上がる一方で、そこから逃げ出したい気持ちがせめぎ合う。

 

「でも…放っておけない…!」

 

意を決した陽子は鏡に再び触れた。すると、村全体が揺れ、空の「太陽」が次第に崩れ落ちていった。村人たちの悲鳴が響き渡る中、鏡の中から巨大な何かが現れ、陽子を見つめた。それは光でも影でもなく、人知を超えた異形の存在だった。

 

陽子はその存在に飲み込まれそうになったが、最後の力を振り絞り、鏡を割った。轟音とともに村は暗闇に包まれた。しかし、それは本当の夜の始まりだった。

 

本物の太陽

 

数日後、陽子は目を覚ました。陽村は跡形もなく消えていたが、新聞にはこう記されていた。

 

「陽村、突如行方不明に。記者の田中陽子だけが生還」

 

彼女はまだ暗闇が訪れた村の最後の光景を思い出していたが、その闇の中には、確かに新しい朝の気配があった。


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