しぶころ投稿作品です

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副題:くっそ情けない振られ方(DV彼氏に貢いだ挙句捨てられた)友人と飲みに行くだけの話。



荒地にて救難求む。

 ……さて、この状況をどうしてくれようか。

 女二人、程よく雰囲気の良いバーの端にて壁の華。

 客を潤す古今東西の酒瓶たちが、品良くお座りして見下ろしてくる。

 

 許されることならひとつふたつご指名して、華を癒す潤いとなって頂きたいところであるが……机の上は御覧の有様。新しく客を迎え入れる状況では到底ない。

 そんな荒地もかくやという惨状の中、大地の主が大きく口を開いた。

 

「振られたぁーーーーーーーー!!」

「はいはい、どまどま。相手に見る目がなかったんだよって」

「でも好きだったんだよぉおおおお……本気と書いてマジの恋だったんだよぉおおおお……あたしのどこが悪かったんだよぉおおおおお……!!」

「そういう面倒くさいところじゃね」(相手が軽薄だっただけだって)

「友達にも振られたよぉーーーーーーー!!」

 

 はいはい無限ループ無限ループ。

 私はこの嘆きを何度聞けばいいのだろうね。

 途中でうっかり本音と建前が逆転していたが、お互いに酒が入っているのだ。多少の無礼は目を瞑ってほしい。

 

 まあ、現状を簡単に言えば。

 私をこの場に誘った元凶、もとい、大学の友人はつい先日彼氏に振られたのである。

 それ自体はかわいそうだねー、次の恋があるよーと慰めるつもりだったのだけれど、まあ今の発言でもわかる通り非常に面倒くさい女なのである。

 

 よくよく話を聞いたらいろいろと情緒が拗れてしまったのだ。

 

 なんでも元カレはとんでもねぇDV野郎で日常的に彼女に手を出していたらしい。

 クソ野郎ぶっ殺してやれ寧ろ振られて正解だったじゃんとかそれはもうめちゃくちゃ言ってやった。

 

 愛があろうとDVするパートナーはゴミカス。殺しておけ。

 

 友人としてそれに気づけなかったのは情けないが、今日はそのお詫びも兼ねて奢りに来ているのだ。

 そうしたら出るわ出るわ元カレの愚痴愚痴愚痴。

 

「金づるとしか見られてなかった」

「デート代出さないと舌打ちされた」

「機嫌によってスキンシップしてくれない」

「でもめっちゃ可愛い好きって囁いてくれた」

 

「うん、お前本当に馬鹿だよ」

 

 どっからどう見ても都合のいい女扱いじゃないですかやだー。

 そしてこれは相手には恋人すら思ってもらえてないやつだな……と我が友ながら頭が心配になった。

 

 一体あのゴミクズの何がよかったんだ。

 

 一応聞いてみると、この馬鹿はなんと答えたと思う?

 

「顔。声。仕草ぜんぶイケメンだったんだよお……めっちゃめちゃ大好きだったんだよお……!!

 でもさー全部あたしにお金がないのが悪いんだよぅ。ほしいグッズ買えなかったらイライラするじゃんよぅ……。

 あのときはきっとどうしようもない嘆きとか苦しみとかを昇華しようとしてたんだよぅ……」

 

 クソボケが。

 

 悲劇のお姫様頼んで自分に酔ってんじゃねーですよ本当に。

 せめてらしく気取りたいなら一つに収めておけと、怒りに任せてグラスを呷る。ああ、勿体ない。

 

「でもなあ……なんだかんだ一緒にいて楽しかったんだあ……はぁあ~~すきやっぱ好きだわ振られたのきついよおおおおお」

 

 とうに素地の白さを失った頬は真っ赤にゆるんでおり、今はなき元カレへの好意を垂れ流すスピーカーとなっている。もはやその有様は妖怪だ。

 店主にはよい迷惑だろうが、その分注文は弾むので許してほしい。

 

 ザクザクに焼いたチーズを口に放り込む。

 平べったく焼かれたチェダーチーズの上に、塩味と胡椒のはじけるような刺激が踊っている……これは罪だわ。

 ついでに自分の分のお姫様に口をつけて気分転換終了、ハイ落ち着いた。

 また一人麗しの乙女を注文したいところだけども、気分は水が欲しいところ。アメリカ生まれの日焼けした黒が蠱惑的な彼を水割りで注文する。

 

 妖怪はハイボールを注文していた。お前はそろそろ飲むのやめとけ。

 荒地に佇む大小さまざまなグラスが冷たい目でお前を見ているぞ。

 

 届いた新しい生贄をすぐさま荒地の住人に加えるな。

 

 この女、恐ろしいことにここまで飲んでてまだ正気である。否……妖怪だから酔わないのかもしれない。

 

 ああ、本当に。いまだにクソ野郎のことを忘れられない妖怪スピーカー女は放っておきたいところだが、一応の友人としてはそうもいかない。

 

「忘れられないのはよーくわかった」

「わかってくれたぁ……? やっぱりあなたは大親友」

「黙れ妖怪。まあ逆転の発想よ。今日一日で全部酒に流してどうでもいいやつだった、まる。で終わらせよう。

 つーか酒がうまかったで終わろう。そのほうが絶対良い」

 

 荒地にやってきた新参者を一口。

 ああ、抜けるのど越しはやはり水。後から重さはくるけども、身体を潤すのなら断然こっちだ。

 

 早口で飛ばした水分を取り戻すように氷が揺れる。

 水音交じりのそれは、すぐさまからころと乾いた音を立てていた。

 

「んー……それで終わるならあたしはそっちの話とか聞きたいなあ……」

「うげ」

「あたしばっかり話してるのフェアじゃあないでしょお。なんかないの。面白いやつ」

「あんたの話聞いた後だと全部霞むんだよボケが」

 

 まあ、我々は女子大生である。

 妖怪ーー友人の話は強烈かつ奇天烈だったゆえに認めたくはないが、恋バナは大好物だ。

 ……でもこの話を聞いた直後に語る気は絶対に起きない。

 

「聞きたい~~話せ~~教えろ~~」

 

 一瞬訂正したけど撤回する。

 やっぱりこいつ妖怪の類だよ!!

 

 ああ、これが自業自得か。

 

 S・O・Sーー荒地にて救難求む。

 誰か私の代わりに妖怪の生贄になっておくれ。

 

 

 やれやれ、と。生贄達の成れ果てがため息をついたような気がした。


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