原作が原作なのでボーイズラブタグいれましたが全然そんなことはない二次創作。
きっとあの世界、泣いてる女の子もいると思うんです。だからといって都合良くくっついたりはしないと思うけど。
書いたの随分前なので、原作との乖離は激しいと思います。
この世界ではびっくりするほどよくある、男が彼氏を紹介する現場。悩んだけど、やっぱりこいつが好きなんだ、とかそんなきらきらした顔で言ってんじゃねえよ目の前の女の顔見てみろ真面目に泣きそうな顔してんだろうが。お前が背中押してくれたおかげだ、とかとどめ刺さないでやれよ俺が気の毒になってくる。
「お前も好きな奴出来たら言えよ、絶対協力するからな!」
はいこいつマジ残酷~。鈍感って罪~。涙目でも笑顔を保っている名も知らぬ彼女は偉い。いやマジで偉いよ、お前は頑張った。ところでとりあえずお前らどいてくれませんかね、俺そこ通りたいんだけど通れねえだろコレ。
そんな俺の声に気付くことなく、彼氏を伴ったイケメンはその場を去り、残された彼女は崩れるように壁に寄りかかった。無意識なんだろう、丁寧にリップの塗られた唇から声にならない声がおちる。
「またなの……何なのよこのせか、……」
い、と彼女の口が動いたところで目が合う。世界、と彼女は言った。それはつまり、もしかして。彼女も、気付いているのではないだろうか。この世界では数少ない、顔の造詣がはっきりしている、同じ大学生であろう彼女。
数秒間無言で見つめ合い、俺はゆっくりと頷いた。そうするしかなかった。
そしてそれを見た彼女は、信じられないものでも見たかのように俺に詰め寄り、思いっきり俺の腕を引っ張ったのである。
「飲みに行くわよ!!」
どうやら俺に断るという選択肢はないらしい。
*
「本当にもう何なのよこの世界!!」
ビールジョッキを一気に空にしたそいつは完全にやけになって叫ぶ。
「気付いてたわよ、有望株のイケメンの隣には必ず別の男がいるんだもの!! 珍しくフリーかと思ってアプローチしてても絶対こいつとくっつくんでしょって奴が用意されてるし!! 当て馬にされた数なんてもう覚えてないわよ、自分でも懲りろって思うけどだって諦めきれないんだから仕方ないじゃない!! 私だって恋がしたいって思って何が悪いのよ!!」
「はいはい、お前は悪くねえから声落とせな。あっすみませんねこいつ酔ってまして」
困った顔で営業スマイルを作る店員さん(イケメン男、ただし薬指に指輪あり)に軽く謝り、適当につまみと水を追加する。
たいして飲んでもいないのに目が据わっているこいつは酒に弱いのか単純に酔いたいのか。いやまあ確実に後者だろう、大ジョッキ一気出来る女が酒に弱いとも慣れていないとも思えない。
「酔ってないわよ! ビールおかわり!」
「わかったわかった、水入れてからにしろな」
何で俺は名前も知らない酔っ払いの面倒を見ているのだろうか。しかし一緒に来てしまった以上他の人に迷惑をかけるわけにもいかない。やれやれと思いながらジョッキを取り上げて水を目の前に置いてやる。
そいつは反射的にその水をまた一気飲みし、酒じゃないじゃない、と文句を垂れた。いやだから水飲んで落ち着けっつってんの俺は。
「もう飲まなきゃやってらんないの! 何なのよもう、私だって同性愛は全然おっけーだと思ってるけど私は私で恋がしたいしイケメンの彼氏が欲しいだけなの!!友達は薄い本が厚くなるとか何とか喜んでるけど!!」
あーお友達はそっちのひとか。そういうひとにとってはもしかしたら素晴らしい世界なのかもしれない。いや題材にされる側にもなってほしいってか俺は絶対に題材にされるような状況から逃れてみせるけど。
いっそ私もその境地に至れれば幸せなのかしら……とか死んだ目で言い始めたそいつを、改めてまじまじと見る。
緩く巻いた髪は軽く色が入れられ、化粧も(詳しくないからたぶんだが)ちゃんとしているし、身だしなみには気をつかっているのだろう、耳元で揺れるピアスがよく似合っていた。彼女なりに相手の気を引こうと努力をしてきたのだと思う。
しかも彼女は好きな男に彼氏を紹介された状況でもかろうじて笑顔を保ち、涙目ながらも祝福してみせた。口ではいろいろ言っても、自分より相手の幸せを考えられる人間でなければできないことだ。
そんな彼女すらも当て馬扱いされ失恋を重ねてしまうこのBL漫画の世界、さすがにちょっと残酷が過ぎるような。しかし逆に考えれば、これは俺たちにとって奇跡にも等しい出逢いなのでは、とふと気づく。
彼女が欲しい俺と彼氏が欲しい隣の彼女。需要と供給は一致している。
「……彼氏欲しいの?」
「欲しいわよ! アンタと違って一度も彼氏出来たことないんだから!」
「いや俺もないですけど!?」
「嘘! 男と男がくっつくのが当たり前の世界で有り得ないでしょ選り好みしすぎなんじゃないの贅沢者!!」
「的外れな嫉妬やめてもらえますかね?」
おっと話がそれた。つまり俺が何を言いたいかと言うと、だ。
「……俺で妥協する?」
少しだけ距離を縮め、失恋と酒で赤くなってしまった目を正面から覗き込む。彼女は驚いたようにひとつ瞬きをしたが、すぐにテーブルに突っ伏して呻いた。
「私彼氏はイケメンがいい!!」
「言ったな貧乳コノヤロウ」
「誰が貧乳よ!!」
この日から俺と彼女は週一ペースで飲む、紛うことなき「ただの」友達になったのである。
初めて公式を拝見したとき、一通り笑い通した後、「きっと泣いてる女の子もいるんだろうなあ……」と思って書いたものです。ラブコメにはならないけど友情はたぶん芽生える。しかし周囲から誤解されて面倒なことにはなる。