「雪、か」
屋根の修繕中にふわりと降り始めた白色を確認して、欠伸を一つして釘を打つ。温帯に属するロンドンでは、山間部を除き雪が積もることは殆どない。それでも夜中に溜まった雪が屋根を伝って部屋の中に垂れることはあるので、今の内に修繕しておくのが通常の流れだ。
ジャックの屋敷は終わり、カルーラの店も問題無かった。今やっているレオンハートの家も、一人で考えている間に終わろうとしている。
「シェリダンさーん!」
家の下から声をかけてくる孤児院の後輩に、一区切りを付けて梯子を下りる。
「どうだった?」
温めたミルクを持った
「少し修繕する部分はあったが、もう終わった。このまま年越しを迎えても良いだろう」
「そっか!ありがとう~!あ、ちなみにぃ~料金とかって~」
「いらん……と言いたい所だが、良いものを持ってるじゃないか。少しそれを分けて貰えれば助かるな」
「わかった!持ってくるね!」
近くのベンチに座り、白い息を吐く。すぐに戻ってきた彼女からコップを受け取り口を付ける。
「あ、そういえばルイスちゃんがカップ割っちゃったって言ってたよ」
「ルイスが?ならアーサーに頼んでおくか」
「いや!い~や、また直ぐに割れちゃう物は良くないんじゃないかな~って!あとほら、ルイスちゃん12/24が誕生日なんだって」
「誕生日プレゼント、か。……そうだな、ルイスには世話になっている。必要なものを渡すのは当然の流れだな」
「そう!そうなんだよ!」
何故か必死な彼女を横目に、これからの予定を頭に浮かべる。ーーー充分に時間はある、な。
「丁度丈夫な樫の木も入った所だ。私程度のもので良いかはわからんが、24日に合わせて送ることにしよう。ありがとう、良い切欠になった」
「うん!修理もありがとうね」
家に帰り暖炉に火を点け、樫の木片を拾い彫刻刀で刃を添える。樫は素材が重く、ロンドンにある木材の中でも硬い方の木だ。多少持ち手を薄くしても、底を薄くしても素材の力でなんとかしてくれる個人的には好きな素材でもある。……硬すぎて初心者には向かないが。
彫刻刀で型を取った後はノミと槌で粗削りを行い、また彫刻刀で角を取る。
今回作るのはフィンランドで作られていたマグカップ、ククサ。持ち手が長くしっかりとしており、落としても割れにくいのが良い。
内側を掘り抜き、ヤスリでひたすら研磨し、研磨し、研磨する。
持ち手に指を通す穴を開け、ひたすらに研磨する。ルイスの指、しっかりと見た覚えは無いが小さかったような記憶がある。自分の指は通らないそれが、彼女の手に収まる様子を想いながらひたすらに削る。荒いヤスリから、細かいヤスリに。細かいヤスリから、紙ヤスリに。これ以上は滑らかにならないと思ったら塩水で茹でる。大体1日といった所か。どうせ暖炉に火を点けるのだから、燃料は気にせずに。自然乾燥したら完成。
12月24日、年内最後のアルカナの定期集会。そこでの帰り道、ルイスに声をかける。
「ルイス、今日が誕生日だと聞いたが」
「っ!はい、そうです、ね。シェリダン殿」
「良かったら貰ってくれ。不要なら捨てれるような物だから、気楽に受け取って貰えると嬉しい」
彼女に包みを渡し、帰路に向かう。
「あ、ありがとうございます」
後ろから聞こえる声に、ゆったりと手を振り答える。その日は、少しだけ雪が積もっていた。