『再会するために夜を越える』
気がついたら住宅街の真ん中にいた。どこか少し古びた塀や石垣に囲まれた住宅街は夕陽が沈みかけて顔を暗くしている。赤色に染まる空はまた1日の最後の変化である夜へと顔を変えていく。
「・・・」
とりあえず“彼女”を探そう、時間がない!
「確か、ハルが言うには彼女は最後この山のあの場所で..」
そして僕は、これからまた更けていく夜を越えるために走り出した。
2年という月日は、改めて見る街の風景になんの変化ももたらさなかった。前から少しも変わってない、だからこそ良い。変わらないこの景色があるからこそ、あの頃が鮮明に思い出せる。僕はもう2年もこの街を離れていた。何故なら先生の仕事を代わりにするようになってからこの街には来なくなったから。この仕事を引き受けてからこの街に帰ることはほとんどなかったけど、僕にとって思い出のようなものがこの街には確かにある。
その瞬間、少し出て来た寂しさが風が肌を伝うようにフッと身体を撫でた。
「本当は一緒に来たかったな...」
なんて、僕には似合わない、そんなどうでもいいことを考えながら暗い木々に覆われた山に向かった。
※
どれくらい走っただろう、息を切らしながらなんとかさっきの山道まで戻って来ていた。ここくらいから山の木々はどんどんなくなって街全体の風景が見下ろせる形で現れる。その道を進んでいくと一本だけ木々から孤立して異質な存在感を放って聳え立つ巨大な木の下までやってきた。
そこには赤いリボンで髪を束ね、黒のスカートを風で揺らした少女が、赤いリードの輪っかに首を通そうとしていた。
「はぁっ...!」
ようやく会えた、僕が探していた人物。僕はこの子を助けるために戻ってきたんだ。
そして僕は一呼吸を置いて目の前の少女に声を掛ける。
「待つんだ!君はいま、死のうとしてるんだぞ!」
しゃりーん、しゃりーん
私は月明かりの通らない暗い森の中にいる。
目の前でハルが怯えてる。
なんで?私はもっとハルと一緒にいたいよ..なんでハルも私から離れていくの?
さびシイよ、ハル
しゃりーん、しゃりーん
巨大な洞窟に私とハルがいる。
ハルは泣きながら私に謝っている。
なんで?悪いのは私なのに..なんでハルが謝るの?
ごめんね、ハル
しゃりーん、しゃりーん
太陽が沈んで消える頃、巨大な木の下でハルが木の向こうに広がる景色を眺めている。
ハルは泣きそうになりながら微笑んで「またね」と言ってチャコと背を向ける。
なんで?とは言わない、ハル..また会えるよね...
またね、ハル
そうして暖かい風が私のスカートを優しく揺らす。
しゃりーん、しゃりーん、しゃりーん、しゃりーん...
『・・・・・・』
『・・・・・・』
『・・・・・・』
でも・・・
もし、やり直せるなら・・・
もし、戻れるのなら・・・
※
「一緒に..!」
「・・・」
「あれ...」
私は地面から急いで飛び起きていた。息は途切れ途切れ、身体は震えて、目からは涙が出ていた...
「いまのは..夢?」
夢、とは言うには怖いくらい綺麗で、異様なほど鮮明に見えていたいまの景色はなんだろう...
「とても悲しい夢だった...」
一旦落ち着こう、いまのは夢だ。
そうして辺りを見渡す。今は夕方で、ここは山の奥、そしてこんもりとした土に石が建てられている。それを見たとき自分がなぜ眠っていたのかを思い出し、気分も暗くなった。
「そうだ..私、昨日ハルをお化けから助けて...」
振り返れば振り返るほど良い言える思い出なんか出ては来なくて、出て来るのはハルを助ける為にお化けが溢れるこの街を命からがら逃げたことだけだった。そして大きな出来事が起きてしまった。
クロが死んでしまったことだった。
ハルを助けるためにあのお化けに立ち向かったとき、クロは私を助ける為に洞窟の穴に“落ちてしまった”。どう見ても助からない高さであること、ハルを助けるので精一杯だった私はハルを連れてお化けから逃げるのが限界だった。
そこからは記憶が曖昧だ。ハルを無事助けられたことは良いことだった。でもその代わりに、同じくらい大切な家族を失ってしまった。それにハルはもうすぐこの街からいなくなってしまう。私の大事な家族や友達はどんどん私から離れていく。そのことがショックで受け止めきれなかった私はただ歩くことしか出来なかった。でも時間が経つごとにそのことを受け止めることしか出来なくて、最後にクロに何かしてあげたいと思ってこの山に帰ってきた。それで私の1番最後にしてあげられたことはクロのお墓を建てたこと。
そこから私は・・・
「私は..クロのお墓を建てたあとに泣き疲れて寝ちゃったんだ...」
ただでさえまだ完全に受け止められていない私にとって、それは追い打ちでしかない。また目が涙を流そうとして、止めようとしても言うことを聞いてくれない。すると誰かが私を呼ぶ声がした。
『ユイ』
・・・ハルかな..?
もう目も虚で光を映さない。足は昨日から走り回って痛いなんてものじゃない。でも、それでもハルが呼んでいるのなら、私はいかないといけない。
もうわたしにのこされているのは、ハルだけなのだから・・・
「いかなくちゃ・・・」
※
ユイー?どこにいるのー?
「まっててね、ハル。いまいくからね」
ユイ?そこにいるの?
どんどん、どんどん進んで行く
「うん、わたしはここにいるよ」
助けてユイ!木から降りられなくなったの!
どんどんどんどんおくにすすんでいく
「だいじょうぶ、わたしがたすけてあげるからね」
そこにある箱を持って来て!
気がつけば巨大な木の下にいた。
「うん、ここにあるはこをもっていけばいいんだね?」
意味有り気に置かれている箱をなにも考えずに木の下に持って行った
うん!この箱に乗って赤いリードを木の枝に掛けて輪っかを作って!
「うん、わかったよ」
箱に乗り、木の枝でリードの輪っかを作った
あとは輪っかに首を掛けて思いっ切り箱を蹴ってみて!
「わかったよ、ハル」
輪っかに首を掛ける
「これで、いいんだよね?」
そうして私は思いっきり箱を蹴ろうと、足に力を入れようとした。でも・・・
「待つんだ。君は、いま死のうとしてるんだぞ?」
急に男の人の声が聞こえた。
私はそこでやっと気が付いた。自分がいま、何をしようとしているか...
もう少しで取り返しのつかないことをしでかす所だった、その事実に恐怖してしまい、思わず後ずさって箱から足を踏み外してしまった。
「痛いっ!」
「大丈夫か?」
急に聞こえた男の人の声にビクッとしながら後ろを振り向いた。
そこにはこの時期に似合わない緑色のコートを着て、革のショルダーバッグと少し古いフィルムカメラを肩から下げた、高校生くらいのお兄さんだった。
「あっ、だ、大丈夫です..」
そう言いながら慌てて立ち上がる。
正直全然大丈夫じゃない..いまのしようとしていた行為や今まで聞こえていた“声”...またあの声が聞こえた..もう聞きたくなかったのに...
でも、この人がいなきゃ私はあのまま死んでいた..だからせめてお礼は言わなきゃ。
お礼を言うため改めてお兄さんを見る。
お兄さんは私のお父さんより少し低いくらいの身長で、なんというかとても不思議な感じの人だった。
なんだろう、知らない人なのに何処かで会った気がする...
でも今はお礼をいうためその疑問を振り払う
「あ、ありがとうございます」
「いや、大丈夫だよ」と端的に言ったあと、
「それよりいま君は死にたくて自殺をしようとした訳じゃないんだな?」
と実に冷静に聞いてきた。
私は少し返答に困ってしまった..
「死にたかった訳じゃない、んですけど..」
私はあのお化けの“声”のいうことを知らない間に聞いてしまっていた。でもこんなこと説明しても納得してくれるかどうか...
するとお兄さんが少し暗い顔で言った。
「やっぱり、“声”が聞こえたのか?」
私はびっくりしてしまった、まだ話してもないのに“声”のことをお兄さんは当ててきた。
「もしかしてあの“声”のことを知ってるんですか!?」
「あぁ、良く知ってる。うんざりするほどね」
そう言ったお兄さんの顔は曇っていた、そして鞄からノートを取り出してなにかを記録?しながら後ろを向いた。
まるで私に興味が無いみたいだ。
あの“声”のこともうちょっと聞きたかったんだけど、この雰囲気は答えてくれる気がしない。
それにしても怖い..明らかにハルの声じゃないのに私はその声をハルのものだと信じてた。その声を使って私を自殺させようとしてきてた。もしお兄さんがいなかったらと思うとゾッとする。
オシカッタオシカッタオシカッタオシカッタオシカッタオシカッタオシカッタモウチョットダッタノニモウチョットダッタノニモウチョットダッタノニ
またあの声だ..段々とさっきの恐怖感が体全体を伝っていくのがわかる...足が震えて立っていられないし目も開けてられない...怖い...
オイデオイデオイデオイデオイデオイデオイデオイデオイデオイデオイデオイデオイデオイデオイデオイデオイデオイデオイデオイデオイデオイデ
「も⬛︎すぐあの声が⬛︎る、そ⬛︎そろコ⬛︎⬛︎⬛︎様にきても⬛︎うか」
コッチニキテコッチニキテコッチニキテコッチニキテコッチニキテコッチニキテコッチニキテコッチニキテコッチニキテコッチニキテコッチニキテ
お兄さんの声が僅かに聞こえたけど大量の声と恐怖で全然聞こえない...
あぁ..嫌だ..楽になりたい..もう死んだほうがマシなのかな...?
そう思ったとき、またお兄さんの声が聞こえた
「ユイ..いま僕の声が聞こえるのならこれを握って、そして声に出して『もう嫌だ!』って叫ぶんだ」
お兄さんの声が小さく聞こえる..言ってる意味は分からないけど、いまは頼れる人がお兄さんしか居ないし、お兄さんなら、信じれる気がする..
私はお兄さんに渡されたものを握って大きく叫んだ。
声の主である、お化けに向かって。
「もう..嫌だ!」ジャキン!
そう叫んだ途端、目の前から金属音が鳴り響き、声の嵐が止んだ。
私は恐る恐る目を開けた、すると目の前にはお兄さんが何故か寂しそうに笑いながら1人で立っていた。
手のひらにはバラバラになった明るい赤い服を着ていたはずのウサギの人形が乗っている。
「良く耐えたね、お疲れ様」
その言葉を聞いた瞬間、声から解放された安心感からかふっと身体の力が抜けた。お兄さんが身体を支えてくれる。
まるで倒れるのがわかっていたように...
「少しの間休んだ方がいいね、あとは僕がなんとかするから休むといい」
「ありがとう..ございます..」
そう言って私は意識が落ちていく...
そんな状態になって私はようやく肝心な疑問に気づく。
『そういえばなんでお兄さんは私の名前を知ってたんだろう...』
『なんでお兄さんは私が死のうとしたときあれだけ冷静だったんだろう...』
『なんでお兄さんはあの“声”がもう一回来ること知ってたんだろう...』
「・・・・・・」
あれ?
『私、昨日なにしてたんだっけ?』
そこで意識が完全に落ちてしまった...
しゃりーん、しゃりーん...
今回の夜: 謌先棡縺ェ縺オ
眠いなか書いたのでユイらしい発言じゃなかったり、もしかしたら誤字やら言葉が可笑しかったりすると思うので気づいた方は報告等よろしくお願いします!