この夜で君たち2人を救いたい   作:ハメット

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話の順番戻しました、今後の話の辻褄を加味したらこっちの方が初見さんも理解しやすいと思うので。


4 無限ループの直路:前編

「可笑しな噂ねぇ、なにかあったかしら...」

 

「本当に些細なものでもいいんです、なにかありませんか?」

 

「そうねぇ、あっそういえば!」

 

「何かありました?」

 

「『無限ループの直路』っていう可笑しな噂聞いたのよ」

 

「詳しく聞かせてもらっていいですか?」

 

「私も知り合いから聞いたんだけどね.. 結構昔からある噂らしくて、夜にこの辺の道を歩いてると一直線の道に迷い込んじゃうらしいの。

 本当に可笑しな話よね、一直線の道で迷っちゃうなんて。その道は一直線なんだけど同じ景色がずっと続いてて、一回入ったら戻っても同じ景色が続いてるから出られなくなっちゃうんだって。それでずっと同じ場所にいると後ろからお化けに追いかけられるらしいの」

 

「なるほど、出られた人とかいたりするんですか?」

 

「さぁ?でも出られてる人がいるからこの話が出てきたんじゃないかしら。本当に誰かが流した噂って可能性もあるかも知れないしね」

 

「ありがとうございます!他にはありませんか?」

 

「私はもう知らないわね〜、あっでもこの辺りの町内会の会長ならなにか知ってるんじゃない?あの人情報通だし」

 

「分かりました、色々教えて頂きありがとうございました!」

 

「大丈夫よー、それにしても若いのこの街に取材なんて珍しいわね?」

 

「大学のサークル調査なんで、色んなところを回るのは当たり前ですよ」

 

「でも頑張ってるみたいね、話聞いてるとこの辺で色々聞いてるみたいじゃない。前にもそういう子がいたからその子と似たようなものを感じるわ」

 

「へぇ、僕より前にも何かの取材にきた人がいたんですね」

 

「その子が来たのは2年くらい前の話だけどね..その子も色々何かについて聞いてたらしいんだけど、その子急にいなくなっちゃったみたいよ」

 

・・・!

 

「・・・一応その子がいなくなっちゃったことについても聞いても良いですか?」

 

「それが私あまり知らないのよ、その子が来た時に近所の1番最年長の〇〇さんが『⬛︎⬛︎⬛︎ちゃんが帰って来た!』ってはしゃいでいたから元々ここに住んでたらしいってことくらいかしら?」

 

「その〇〇さんって今どこにいますか?」

 

「残念ながら〇〇さんは少し前に亡くなったの、その人が1番長くこの街にいたからもう聞ける人は少ないと思うわ」

 

「そうですか..」

 

「でもさっき言った今の町内会会長さんが今の古株だからやっぱり会長さんに会うのが良いんじゃないかしら」

 

「ありがとうございます、早速行ってみようと思います!大変お時間頂きました」

 

「良いのよ、調査頑張って」

 

 そうしてアパートのおばさんと別れた、『無限ループの直路』と『2年前に消えたコトリという少女』...ね。この2つの情報に共通するのは『行方不明』になっているということ。

 この情報でコトリ様と行方不明者の関係は薄まる可能性が出てきたな、この『無限ループの直路』を調査しない限りコトリ様が妹を攫ったか分からない。この噂は今夜中か明日には調査しないといけないな...

 そして僕は一回伸びをしたあとアパートから出て町内会会長に会いに行った・・・

 

 

———「少女」———

 

 こんなに早くお兄ちゃんが目を覚ますなんて予想外だった、もっと後に目を覚ますと思ってた、でも違った..お兄ちゃんは私の予想より早く目を覚ましてしまった。更には全てを説明する前にユズちゃんがその事実を知ってしまった。

 いまのお兄ちゃんにはユズちゃんとの記憶がない、お兄ちゃんを『昔の状態』に戻すということは『今の記憶』が消える、つまりユズちゃんとの記憶も消えるということだ。

 分かってた、分かっていたはずなのに...説明するのが怖かった、ユズちゃんがショックを受けちゃうんじゃないかって..だから落ち着いた辺りで話す筈だった...だけどそれはただの逃避で、愚かな自分のミスだった..もっと早くに説明していれば...

 

すると状況が分からないお兄ちゃんが私に話しかけてきた。

 

「もしかして俺、何か悪いことしたのか?ていうかなんで俺は大人になってんだ?」

「・・・お兄ちゃんは悪くない、悪いのは私..お兄ちゃんにも説明しなきゃ駄目だよね。お兄ちゃんはどこまで覚えてる?」

「どこまでって言われても..あっでももうすぐ“あの儀式の日”だから明日海を久々に見るってお前と約束して、そのまま寝たところまで覚えてる」

 

そこからか..まだ“これ”をくれる前だな..

 

「わかった、じゃあ聞いてお兄ちゃん」

 

 私は説明する、今はもう10年経った世界であること、ユズちゃんとお兄ちゃんは最近知り合ってとても仲が良かったこと、訳あってお兄ちゃんの今の記憶を消したこと、今の記憶を消してしまったのでユズちゃんとの記憶も消えてしまったこと。その他全てのことを話した。なぜ記憶が無いのかは省いた、お兄ちゃんにとってはあの日のことはまだ知らないことだからだ。

 お兄ちゃんは意味が分からない、といった顔でずっと話を聞いていた。そりゃそうだろうな、お兄ちゃんからしたら次の日に起きたら10年経ってることになってるんだから..

 

少し困惑しながらお兄ちゃんは聞いてきた。

 

「じゃ、じゃあ今の俺は19歳なのか?」

 

「多分ね、私も正確な年は分からないけどそれくらいだと思う」

 

「そうか、そうか..!」

 

「???」

 

 何故かお兄ちゃんは嬉しそうな顔をした、本当に嬉しそうな顔をしていた。だけどそれも一瞬で、すぐにまた疑問を浮かべたような表情をした。

 

「でもじゃあなんでお前は小さいままなんだ?俺が大人になってるのになんでお前は昨日のままなんだ?」

 

「それは..今から思い出しに行く記憶で分かるよ、その為にお兄ちゃんのこの10年の記憶を消したんだから」

「本当になんで記憶を消したんだ?そこまでしなきゃいけない理由はなんだ?」

 

「それは教えられない、知ったら後悔するよ」

 

「わ、分かった..」

 

そして私はユズちゃんの方に向かおうとした、でもお兄ちゃんに呼び止められた。

 

「おい」

 

「どうしたの?」

 

「・・・理由は分からないけど、お前が悪い訳じゃないと俺は思う。お前はいつも優しいから、色んなことを心配して責任を感じてることが良くある。だから気に病まないようにね」

 

「・・・うん」

 

 やっぱりあのときのお兄ちゃんだ、私のことをいつも心配してくれて私のことをちゃんと見てくれてる、優しいお兄ちゃんだ。でも今の私には...

そして私はユズちゃんに向き直った、ユズちゃんはずっと下を向いて喋らないままだった。

 

「ユズちゃん..」

 

なにも喋らなかった、ただずっと下を向いていた。

 

「本当にごめんなさい、もっと早くに説明すれば良かった..」

 

「・・・あなたは、お兄さんが記憶を忘れてるってこと知ってたの?」

 

「うん...全部知ってた...」

 

「・・・なんで言ってくれなかったの?」

 

「・・・怖かったの、ユズちゃんがショックを受けるの分かってたから..」

 

「そっか...」

 

 ユズちゃんは顔を上げてくれなかった。それから私はどうしたらいいか分からなかった..

 

するとお兄ちゃんがユズちゃんに話しかけた。

 

「ユズちゃん、俺もごめん。知らない内に君に悪いことをしたみたいで...本当にごめん..なるべく思い出せるようにする..だから..」

 

「待ってお兄さん、私気持ちの整理がついてないだけで妹さんに怒ってもないし、お兄さんも悪くないよ。確かにショックは受けたけど、妹さんも私のことを想って言わなかったのも知れたので大丈夫です」

 

 そしてユズちゃんは顔を上げた、その顔には悲しみの表情はない。覚悟を決めた顔をしていた。

 

そしてユズちゃんはお兄ちゃんの顔を見て言う。

 

「お兄さん、忘れちゃったなら思い出して。私はお兄さんを手伝うって決めたの!あの時約束したから、お兄さんは私にとっても大事な人だから..だから約束して下さい!ちゃんと私のこと思い出すって」

 

「・・・わかった、ユズちゃんのことちゃんと思い出すよ。よっぽど俺と君は仲が良かったんだな。あと『お兄さん』はやめてほしい、今の俺からは同じ歳の子にしか見えないしな。シオンって呼んでくれ」

 

「私も『ちゃん』はいらないよ、ユズって呼んで下さい。シオンお兄さん!」

 

「お兄さん入ってるし..まぁいいか。よろしく」

 

 一通りお兄ちゃんとの会話が終わってユズちゃんが私に向き直った。

 

「1つ聞いてもいい?昔のこと思い出せたら、私のことも思い出してくれるの?」

 

「あ..うん思い出すよ..ちゃんと全て思い出すはずだよ..」

 

「わかった、じゃあ大丈夫だね」

 

「本当に、それで大丈夫なの?私はユズちゃんを傷つけるようなことしちゃったのに..」

 

「私の為だったんだよね?それじゃあ私はなにも言わないよ、私の為にしてくれたことなのに怒るなんて出来ないよ。たまたま上手くいかなかっただけ、そうでしょ?」

 

 「えへへ」と言ってユズちゃんは笑顔を見せた。

 

 思わず私は目を抑える。やだなぁ、なんて優しい子なんだろう。もっと昔にこの子と出会えていたら私たちはどれだけ救われていたんだろうな...

 

「ありがとう、ユズちゃん」

 

「大丈夫だよ、それよりあなたはヒトミちゃんでいいの?」

 

「あっ...」

 

 そういえばお兄ちゃんが私の名前を呼んでいた、長いこと忘れていた自分の名前、なにか足りなかった私の一部が戻ってきたような感覚がした。

そうだ、私の名前は...

 

そして私は笑顔で言った。

 

「うん..!私の名前はヒトミ!ヒトミで良いよ、よろしくね!」

 

———「ヒトミ」———

 

 

 10分後、私たちはビルから出て目的地である河川敷まで向かっていた。河川敷は私とお兄ちゃんの大切な場所なのでそこから進むことになった。

 前を歩くお兄ちゃんは懐中電灯を持ちながらユズちゃんと話している。お兄ちゃんは目が良いのでお化けをすぐに見つけられるし、お兄ちゃんが自ら「男の俺が前を歩く」と言ったので先頭を任せている。懐中電灯はさっきビルの上で持ち物を確認したときにお兄ちゃんの鞄から出てきたものだ。記憶をなくす前のお兄ちゃんには申し訳ないけどいまはありがたく使わせてもらうことになった。でもなんで懐中電灯があるのかは誰も分からなかった。

 

私は2人の会話に耳を傾ける。

 

「私びっくりした、シオンお兄さんって昔は『俺』呼びだったんですね」

 

「10年後の俺が『僕』呼びなのに驚いてるよ。もしかして結構性格違うのか?」

 

「喋り方は違うけど性格は優しいままですよ、私にこれをくれたのもシオンお兄さんです」

 

そう言ってユズちゃんは貝殻のついた首飾りを見せる、お兄ちゃんはそれを見て嬉しそうに笑う。

 

「あはは!未来の俺はまだこういうやり方しかサプライズの方法知らないんだな、俺らしいな。気に入ってくれた?」

 

「私の大切な宝物だよ!もらってからずっと着けてる!」

 

「そりゃ良かったよ」

 

 自信満々に言うユズちゃんにお兄ちゃんは嬉しそうに返す、記憶を無くしてもこの2人は仲が良いな..記憶がなくなって2人の関係も壊れてしまったと思ってたけど、もう2人は以前と同じくらい仲を深めていた。いや、あのときのお兄ちゃんは隠し事があった分、今のお兄ちゃんとユズちゃんの仲の方が深そうに見える。

 良かった..それに尽きる。もう2人の仲は直らないんじゃないかと心の中で思ってた、いくらユズちゃんに許されたとしてももう一度2人が仲良くなるとは限らないから心配だった。でも心配いらなかった、2人は楽しそうに会話をしている。これなら私がいなくても...

 

そんなことを考えたとき後ろからお兄ちゃんに呼び止められた。

 

「おい、どこ行くんだ?ここを曲がるって言ったろ?」

「あ、ごめん。考え事してた!」

 

どうやらいつのまにか2人を追い越してしまったらしい、慌てて2人の元に急ぐ。先に道を曲がった2人に着いていくと、すでに2人は20メートルくらい先にいた。

 

「待ってよ!2人共速いよー!」

「お前が遅いだけじゃないのか?」

「ごめんヒトミ、もうちょっと後ろ見れば良かったね..」

 

 私が声を掛けると2人は街路灯を超えた辺りから振り返って待ってくれていた、私そんなに鈍臭いかな?と思ったけど考え事をしながら歩いていた私がノロマなだけか。

 その後も変わりようも無く3人で喋りながら歩いていた、今と昔のお兄ちゃんの違いについての話題や、ユズちゃんとお兄ちゃんが出会ったときの話などを話した。

 

 だがその道は一向に曲がり道がないのでずっと前に歩くしかなかった。ずっと街路灯の続く一本道を歩き続けていた。流石に私たちは違和感を隠さずにはいられなかった。

 

「ねぇお兄ちゃん、なんかこの道長くない?道間違えた?」

 

「そんなはずないと思うんだけどな..いつもならこの道進んだら十字路が見えてくるはずなんだけど..」

 

「私はこんな道知らない..ずっとこの街に住んでるから分かります、もう結構歩いてるのに全然終わりが見えない...」

 

 そうユズちゃんが言った、それを聞いて私たちは改めて先を見る。道は延々と奥まで街路灯と共に続いていて、突き当たりは見えなかった。

 

 どう考えてもおかしい..!いくらなんでも終わりが見えないほど道が長いなんておかしい!

 

「これは..明らかにおかしいな..戻った方が良い」

「私もここから先は進まないほうが良いような気がします、なにか嫌な予感がする...」

「うん...これは明らかに『なにか』の領域に入ってる。すぐに出た方が良いね」

 

 そして私たちは引き返す為に後ろを振り返った、すると...

 

「なにこれ...」

 

 なんと後ろは前と同じく道の奥が夜の闇に飲まれるほど途方もなく道が続いていた、明らかに今歩いてきた距離よりも何倍もある。

 

「そんな..私たちまだこんな距離歩いてないのに...」

 

 ただの霊現象の想定ならしていた、こういうおかしな事象に巻き込まれることは予想していた。だけどこれは予想外だった、こんな一般の住宅街の路地で巻き込まれるなんて...

 私は2人にこれからのことを確認しようと振り返らず声を掛けた。

 

「2人とも、どうする?」

 

「・・・」

 

 何故か2人からの返事がない、私は思わず振り返る。

 

「2人とも?・・・え?」

 

 最初はなにかあったのかもしれないと思った、ビルから出発する前に何かあったらすぐに報告すると3人で決めていた。報告も無く、無言。それは1番良くない、何故ならそれときすでに手遅れかもしれないからだ。

 夜の街はなにが起こるか分からない、だから互いの安全は確認し合うようにしていた。だが...

 

「2人とも..どこに行ったの?」

 

 だが振り返った先には、2人の姿は消えていた。

 

 あの2人はこんなときに悪戯をするような性格じゃない、ましてやこんな危険な場所に私を置いて離れるようなことをするほど薄情じゃない。だとするとこれは・・・

 

「離された...?」

 

 分断された、もしくは全員バラバラにされた、そういうこと?こんなところに隠れる場所はないし、見えなくなるほど距離をこんな短時間で離せるわけがない。

 

「・・・」

 

 私は2人が心配になった、2人は私が急にいなくなったと思っているだろう。心配される側なんだろうけど、2人が大丈夫か確認したかった。だがそれと同時に寂しくなった。

 およそ10年ぶりに会えたお兄ちゃん、初めて友達と呼べるような仲になれたユズちゃん。2人は私の10年の孤独を紛らわしてくれた唯一無二の存在だった。久々に人と会えたことで少し気が緩んだのかもしれない。

 

私は頬を両手で叩き、首を振った。

 

 なに考えてるの?10年も1人だったんだ、今更寂しがらなくてもまた会えるはず!それに2人ともきっと無事なはず!2人とも私よりよっぽど勇敢なんだから!今はこの状況をどうにかしないと...

 

「とりあえず進むしかないか...」

 

 私はまた前の路地を見る、相変わらず夜の闇のせいで奥が見えない。2人がいなくなってしまったいま、孤独感が少しの恐怖になる。だがそれを振り払い、前に踏み出そうとした。すると...

 

「ん?」

 

 すぐ近くにある街路灯の下にメモのようなものが落ちていた。最初はただのゴミかと思ったが、だがそのメモには見覚えがあり、慌ててそれを拾った。

 

「これ..お兄ちゃんのメモだ!」

 

 出発する前、持ち物を確認したときにお兄ちゃんが持っていたものだった。これはそのメモの一枚だ。そのメモには文章が書かれていた。

 

『どうやら[無限ループの直路]に遭遇したらしい、彼女からすでに情報は得られたが、一応の為調査しておくことにする。もし僕より後にこの直路に迷い込んだ人の為にメモにも記録しておこう。

 そしてメモは僕の記録を残すため、道に置いておく。もしかしたら僕も出られないかもしれないからな。このメモが今後の被害者の為になればと思う』

 

 紛れもなく兄の字だ。そしてこのメモは私たちが来るより前に置かれたものであり、このメモはお兄ちゃんが私と会う前に置かれたものだ。ユズちゃんからある程度『今のお兄ちゃん』について聞いていたので知っていたが“調査”と言ってこの道を調べていることからこのメモを書いていたときのお兄ちゃんは幽霊や神様のことを調べる仕事をしているときの記憶があることが分かる。でも...

 

「なんでお兄ちゃんがここに?」

 

 つまりお兄ちゃんは『今の記憶』を失う前にこのおかしな道に迷い込んでいたことになる。いや、正確には『見つけた』の方が正しいのか。何故この道の調査をしているのか、そしてお兄ちゃんは私と普通に会っていたからどうやってこの道から出られたのか。

 色々謎が深まるばかりだ..正直なところ、記憶を消す前のお兄ちゃんは私が思ってる以上に謎だ。私と別れたあの日までの記憶は無くなってるし、その記憶喪失も一部本人も理解出来ていなかった。

 

 私と別れた後に一体なにがあったの?なんでお兄ちゃんは私たちが迷い込むときより前にこの場所に入ってるの?お兄ちゃん...

 

お兄ちゃんは、なにがしたかったの...?

 

———「ヒロト?」———

 

6日前の晩...

 

 もうとっくに陽は沈み、月が住宅街に小さな明かりを送る。

 

 思わぬ収穫を得て、ユズを家まで送り届けた僕は疲れた足取りで宿を目指していた。もう足が痛い、朝から動かし続けた僕の体はへとへとだった。ただでさえ直近は忙しかったのにユズを送り届けるという無茶もしてしまった。

 だが小さな女の子を1人夜に帰らせる訳にいかないので進んで送り届けることにした。それにこの街は...

 

 僕は遠くから奥の道の様子を伺った。するとそこには黒い影のような幽霊や白い頭の唸り声を上げる霊が街をそこらじゅうに彷徨っていた。やはりだ、この街も僕が育った街や調査に行った地域のように夜に霊が溢れる性質がある。もちろんあの霊は一般人にも視えるだろう、その証拠に出歩いている人は1人も見かけない。なぜ昼間の聞き込みで教えてくれなかったのかは隠していたのか、それとも知らなかったのか...

 今まで色んなところに調査に行ったが夜になると霊が溢れる地域がちらほらあった。そのどの地域にも共通して言えることはとても大きい力を持つ存在がいること。大昔から存在している名のある神が祀られている神社や、同じく大昔に厄災をもたらしたと言われる大妖怪が封印されている地でこの現象が起きている。

 

 つまりこの現象は大きな力を持つ存在の霊力が漏れ出したことが原因で、その霊力に誘われた霊が力を強め、姿を現しているのではないかと昔に先生と仮説を立てていた。

 

 だがこの仮説“も”生者側の例”だけでは立証のしようがないということで調査は中断していた。この仮説の通りに行くなら、この街も大きい力を持つ存在がいるということだ。その『大きい力を持つ存在』がコトリ様なのかは定かではないが...

 まぁ今日は思ったより疲れたので夜の調査は明日に回そう、今日の収穫をレポートにまとめないといけないしな。

 

 そして僕は慣れた仕草で霊を避け、宿の近道であろう路地に入った、そのとき———

 

 

 クスクス、クスクス

 

 

 そんな複数の笑い声が聞こえた。誰かいる?そう思い辺りを見回す、しかし周りに人の気配どころか霊の気配すらしなかった。だが・・・

 

「道が...」

 

 その先の道は見たことないくらい奥まで続いていて、先が闇で見えない。まるであの世の入り口のように...こんなに長い道は普通あり得ない、まるで高速道路より長くこの道は直線に続いている。こんな長い道は地形的に見てもあり得ない、あり得るわけがない...

 

そして僕は確かめるように後ろを振り返る、そこは...

 

「これは..笑えないなぁ...」

 

 今この道に入ったばかりだというのに後ろは前方同様奥まで道が続いていた。幻覚かもしれないが実際に見てしまうと普通の人ならパニックになるだろうな。だが僕はこういうことは何回も経験しているので冷静だった。一直線に続く道に閉じ込められる、つまりこれは...

 

「無限ループの直路...」

 

 人が行方不明になるという最初の方で聞いた噂だ、一度入ると真っ直ぐの道に閉じ込められ、出られた人はいないという。行方不明になるという点でコトリ様に共通していたので近い内に調査しようと思っていたがまさか今遭遇するとは...

 

「行くしかないかぁ」

 

 さっさと今日は帰りたかったが仕方ない...こうなった以上はしっかり調査してやる。

 

「まだやらなくちゃいけないことがあるんだ、絶対にここから出なきゃな」

 

 ユズと明日会う約束も、忘れてしまった先生との約束も、この地でしたであろう妹との約束も果たさなくちゃいけない。入ったら最後の場所であろうと、絶対に脱出してみせる。

 

今度こそは、約束を...

 

 そう心に決め、僕は暗い闇に続く道を歩き出した...




無限ループの直路はちょっと8番出口をモデルにしてます。ただ真相は別でちゃんと考えてあります。
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