「また人をここに連れてきてたの?」
・・・・・・
「いいの?君は人間が嫌いなんでしょ?」
・・・・・・
「・・・コトリ様が怒ってるのは知ってる。人を守りたいのはいいけど君が心配だよ」
すると突然少年の頭に言葉が浮かび上がる。
・・・・・・
「優しいんだね・・でも、気をつけてね。いくら君でも心配だから」
・・・・・・
「うん、うん、今日は“いまの人”じゃないんだね。わかったよ」
・・・・・・
「じゃあ、行ってくるよ」
そう言い残し、少年は先の見えない道を歩き始めた。
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落ちる感覚、上も下も分からない、なにも見えない暗闇の中、ただ一つ出てきた目の前の映像を朧気に見ていた。次から次に現れる兄と何者かの会話のような映像。実際には兄の声しか聞こえず、ただの独り言のようにも聞こえるがその相手は確かに存在している気がした。
これはなに?あれは、お兄ちゃん?誰と話してるの?
まだ目の前の景色に理解が追いついていないのにも関わらず、次は横に『あの森』と2人の少女が現れていた。
1人はヒトミ自身だった。そのヒトミはもう1人の少女を見つめながら心配そうに、それでも励ますように話しかけている。そのヒトミが話しかけているのは、ヒトミと同じくらいの背高で、セミロングの髪を下ろした少女だった。だがその少女は突然ヒトミに怒鳴ったような仕草をしたあと、走り去るように消えてしまった。幻のヒトミは追いかけようと手を伸ばしたが、諦めて手を下ろしたあと同じように消えてしまった。
「やだな・・・」
思わず目を背けるといつの間にか反対側に10年後の兄の虚像が現れていた。
ここにきて初めて見た10年後の兄の姿を見てもヒトミはなに一つ顔色を変えなかった。もうここではなにが起きてもおかしくないと悟ったからだ。メモを書いたときの兄がここに現れたのだと、ただ短めにそう思った。少しの間ヒトミの隣に考えるような仕草で現れていたが、霧が舞って晴れるように消えてしまった。
ここまで知らない幻や見知った記憶を見た後、最初から最後まで残っていた兄と『誰か』が住宅街の道で会話する映像に視線を戻した。まだこの映像は残っていた。他の記憶はすぐ消えたにも関わらず、これだけはずっと残っていた。ヒトミは呆然と、そっと手を伸ばす。
もううんざりだった。
自分なりに出来ることを考えてるのに、ここから出ようとしているのに。出口は見えないし、出てくるのは幻想と忘れたい記憶だけ。今はただちょっとでも何かに縋りたい思いだった。幻だとしても、目の前に兄がいる。自分が唯一頼れる兄がいる。それを見せられたら、返事が返ってこないと分かっていても・・・。
もう少しで兄に手が届くというとき————
まるで時が止まったような、不気味な緊張感がヒトミを襲った。どこからかとてつもない凍るような視線を感じていた。
その視線を追って、落下中の動きにくい体を動かして、後ろを振り向くとそこには大きな目があった。その目の持ち主の全身は白くて長い体毛に覆われていて、ヒトミより何倍も大きかった。その姿はまるで———
「狐・・・?」
巨大な狐の暗闇で光る感情が感じられないその目はじっとヒトミを捉えていた。
(あの神様じゃない・・・)
ヒトミは少し体が強張るのを感じる一方で少し安堵していた。いまコトリ様に会うことだけは避けたかったから。だが安心出来る訳じゃない、いまは何も出来ずに落下している状態なのだ。コトリ様じゃないにしろ、いつ目の前にいる謎の狐に襲われてもおかしくないのだ。
「きゃ!?」
すると急に視界が本当の真っ暗になった。正確には何かに目を手で覆われた。ずっとヒトミは落下しているにも関わらず・・・。その手は人の手で、大人ほどの手はしていない子供の手であることがヒトミに理解出来ることだった。
「誰!?」
『暴れない』
「えっ、その声・・・」
『今は余計なことは考えない。静かに、集中して、ここに来る前の道を思い出せ』
「でもそんな———」
『急げ!』
そう声に急かされ、ヒトミは急いで目を閉じ、先ほどまで自分が立っていた直路を思い出す。その手の平に覆われた瞼の裏にはさっきまでヒトミ自身が体験したことと、それと何故か青年が直路で体験したであろう光景が走馬灯のように流れては消えていく。それを見てなにかを思う余裕がヒトミには無く、ただ呆然と見ていることしか出来なかった。
自身が長い直路を歩き、少年の幻や崩れた直路の底に落ちる光景を見る。
青年が様々な変化を繰り返す直路をなんとか掻い潜り、過去の青年自身と出会う光景を見る。
それはまるで誰かが見ているような、第三者が監視するような視点。その時間は長いようで短く感じ、永遠のように続いた。そんな光景をヒトミは声が出ないほど長い間魅入っていた。
すると急に足が地面に触れる感触がした。底に落ちてからずっと落下する感覚を味わい続けていたヒトミにとってそれは驚き以外感情をとることは出来ず、思わずフラついて膝と両手を地面につけてしまった。目を開けるとそこには先ほどまで落下していた暗闇の空間や謎の狐の存在は無く、元の直路に戻っていた。
「なんなの・・・?」
そのとき、ヒトミは自分の後ろに誰かが立っていることに気づいた。
『いつか、お前も来るんじゃないかって思ってた』
振り返ると、そこには———
『家に居ろって、言ったのに・・・』
右腕に本を持った過去の姿そのものの、正真正銘の兄が苦い表情に少し笑ったような顔をして立っていた・・・。
※
「お、にい、ちゃん・・・」
それは10年前、ヒトミが一緒にこの街で育ち、一緒にこの街から出ると約束し、あの運命の夜で最後に目に映した幼少期の兄だった。
「なんで・・・?」
『俺も言いたいよ、なんでお前がこんな夜に・・・」
多分兄の言いたいことは“どうしてここにヒトミがいるのか”ということだろう。だがヒトミが言いたいことは違った。
(どうして10年前のお兄ちゃんがいるの?)
ヒトミは返事を返すことはなく、ただそのことについて考えていた。確かにヒトミは10年という時を過ごした。それは少し前、成長した兄や随分と変わってしまったこの街を歩きながら自分の目で見たことがなによりの証拠だ。
でも今目の前にいるのは明らかに幼少期の兄だ。若返りなんてある筈がない。しかもユズが一緒にいないことも謎だった。
(私がお兄ちゃんと会いたがったから?ここはそんなことも叶えてくれるの?でもなんで昔のお兄ちゃんが———)
『ヒトミ』
その時、ヒトミはシオンに抱きつかれていた。ヒトミはいきなりのことで素っ頓狂な声を上げた。
「ひゃ!?」
『ほら、触れられるだろ?』
「・・・え?」
『多分お前は初めてここに来て、色んな怖いものを見て...多分たくさん嫌なことを見たと思う。それで次は助けてほしいって何度も思ったんじゃないかな。でもそう思っても全部幻で、怖くて、寂しくなったと思う』
「・・・」
ヒトミは静かに聞いていた。抱きつかれているせいでシオンの顔は見えないが、その声は優しく、暖かかった。
少し間を空けて、またシオンが喋り始める。
『でも今はこうやって、俺たちは出会えて、触れられてる。ちゃんと“同じ場所”にいる。だから俺は幻なんかじゃないし、俺はちゃんとお前の目の前にいる。ヒトミを無事にここから出してあげる。俺を信じれない気持ちも分かる。でも、だからいまは、俺を信じてくれないか・・・?』
「お兄ちゃん・・・」
そう無意識にヒトミは呟いていて、兄を抱き返そうと腕を回そうとする。
だが・・・。
「ッ・・・!」
ヒトミは腕を引っ込めていた。
「・・・そう言って、“また”期待させるの?」
『そうなるね』
「“また”私に、希望を持たせるの?」
『そうかもしれないな』
「ずっと助けて欲しかったのに、お兄ちゃんは来てくれなかったのに・・・」
ヒトミは震える心を抑えて、溢れそうになる涙を抑えて、寂しかった体を暖めてくれる兄を抱き返したくなる腕を必死に抑える。
いま目の前にいる兄を前にしてようやく思い出した、あの夜の約束。全てあの夜に誓ったことを守るために、なんとか全てを抑える。だが前にいる兄はそんなことを知らない。だから容赦なく優しくしてくれる。
(自分に負けないって言ったのに、まだお兄ちゃんを頼らないって決めたのに)
『大丈夫だよ』
そう兄は言う。その言葉には優しさの感情にどこか自信を感じさせる信頼感があった。
『ここは不思議な場所。心で思ったこと、言葉に出したことが本当に起きる不思議な場所。だから怖いと思ったことも、嬉しいと思ったこともここでは本当に起きる。そしてここにはもう一つ、不思議なことが起きる』
そこでやっとシオンはヒトミを離して、少し儚げに笑いながら答える。
『ここを出た人はみんな、ここのこと、ここで起きたことを忘れちゃうこと』
そして言った。この場所の真実を。
「それって・・・」
『本当だよ。俺は何回もここに来て色々調べたし、沢山の人がこの場所に誘われて、ここから出るのを手伝ってきたからね』
『だから・・・』と一息つけてシオンは言葉を続ける。
『ここだったら、いまだったら、好きなだけ頼ってもいいんだよ。ヒトミはまだ俺が本当のシオンか疑ってるのか俺を頼りたくないみたいだけど、ここを出たら俺もヒトミも、ここで起きたことは忘れる。だったらさ、いまだけはいつもみたいに頼ってみて欲しいな』
「・・・」
「・・・本当にここのこと、忘れるの?」
『そうだよ』
「・・・そっか」
「———ッ!」
『おっと』
次の瞬間、返事より先に今度はヒトミがシオンに抱きついていた。
「助けてっ!シオン!!」
目の前にいるお兄ちゃんは“今のお兄ちゃん”じゃない。だからこれも、再会じゃない。私が思う本当の再会は、お兄ちゃんに自信を持って「私、頑張ったよ!」って言えるもの。目の前にいるお兄ちゃんに言っても意味がない。本当の再会の時に思いっきり今までの想いを打ち明けるって決めてた。
でも————
「さびしかったぁ・・・」
でも今だけは・・・
長い間ずっと我慢していた気持ちを、今だけは———
シオンは少し驚いた表情をしていたが、優しく笑ってヒトミの頭を撫でる。
『全く...お前はずっと、変わらないな』
※
少しして落ち着いたヒトミはシオンと2人で、もうすっかり見慣れた直路を歩いていた。シオンと歩いているとさっきまでの怖さは嘘のように晴れて、全くの別の場所に見えた。歩いてる途中ヒトミはシオンにいきなり質問をされた。
『それで、なんでお前は夜に出歩いてるんだ?』
「うっ、それは、、お兄ちゃんが心配だったから、、、」
ここはあらかじめ嘘をついた。ここまで自分の経緯を説明したところで納得されるはずがないし、本人を困惑させるだけだ。
『でも珍しいな、ヒトミが自分から夜に外を歩くなんて』
「うぅ...ごめんなさい、、、」
『ははっ、謝らなくていいよ。俺も一緒だから』
少しだけシオンは笑ったあと、足を止めてヒトミのほうに振り返った。
「お兄ちゃん・・・?」
シオンは全てを見透かしたように眼を細め、言った。
『ごめん、ヒトミ。実はもう一つ、聞きたいことがあるんだ』
「・・・なに?」
そしてヒトミはシオンの眼に気づく。その眼はいつも兄が疑ったり、確信を得るときにする眼。
シオンはそのことを気にせず、会話を続ける。
『ヒトミはもう知ってるかもしれないけどここは、色んな時間が歪んで混ざり合った不思議な場所なんだ』
「・・・うん」
『だから、ここには色んな時間から人がやってくるんだ。昔からも、今からも、それと...先の時間からも』
「お兄ちゃん・・・」
ヒトミは察した。兄が言いたいことも、これから兄が言うことも。
シオンはヒトミの反応を視て確信を持って言う。
『ヒトミ、お前は...俺の知ってるヒトミか?』
「・・・」
「・・・」
「・・・」
ヒトミは答えるか迷った。だがすぐに意を決したようにシオンの目を真っ直ぐに見て言った。
ここでまた嘘を吐くなら、兄からの言葉と信頼を裏切ってしまうと思ったから。それに————
「・・・違う、違うよ」
「やっぱり、お兄ちゃんの“眼”には嘘はつけないね」
『てことは・・・』
「私は目の前にいるお兄ちゃんを知ってるけど、お兄ちゃんは私のことを知らない・・・。つまり私は...未来から来たってことだと思う」
それを聞いてシオンは多少驚いたもののすぐに大体のことは納得してきていた。
友達から聞いた情報の一致。自分の知っている妹にはありえない夜の出歩きと反応。時が経てば人は変わる、それにこんなケースは何度もあった。例え妹で起きてもおかしくない。納得できることは色々ある。
だが————
なんで見た目は変わっていないのか
数年?それとも1年以内の未来から来たのか?でもそれじゃあ身長とは違って性格が変わり過ぎてる気も・・・。
『なぁヒトミ、お前はどれぐらい先から———』
「———言いたいことは分かるよ」
そこでヒトミは声を遮った。
聞かないんじゃない、聞かれるのは嫌だから。これは例え忘れることだとしても言えない。それは...お兄ちゃんも悲しくなるから。
「でも言えない、これだけは・・・。これを言っちゃったら、私はお兄ちゃんに全て責任を押し付けちゃう...だから言えない。だから、私も信じてもらうしかない・・・。私を見て、私の目を視て、私の心を知って...私がどれくらい本気なのか、全部知って、信じてもらうしかないの。ごめんなさい、お兄ちゃん」
『いいよ』
シオンは迷うこともなく返事を返していた。
シオンはなんとなく分かっている。ヒトミが元から言う気だったのであれば、既に言っているはずだと...理解していた。
そしてシオンは言う。優しく笑って、ヒトミの目をあえて視ず、気持ちを受け止めて・・・。
『俺が最初に信じて欲しいってお願いしたんだ。だったら、俺も信じる立場にならなきゃいけないもんな。それにヒトミのその言葉は眼を視なくても、俺にはちゃんと伝わってるよ』
そんなシオンに対してヒトミも、そう言ってくれるだろうと、兄を信じていた。だからこう言えた。いまの兄にこれからのことを知るには早過ぎるのだ。
ヒトミもシオンの気持ちが嬉しくて、ニッと笑う。
「ありがとう、お兄ちゃん」
シオンは頷いて、直路の先へと目を移す。
『さぁ、そろそろ行って。出口がどこにあるのか、もう分かってるだろ?』
「うん」
そうしてヒトミは目を閉じる。そして思い浮かべた。
ここは心で思ったこと、言葉に出したことが本当に起きる不思議な場所。だから怖いと思ったことも、嬉しいと思ったこともここでは本当に起きる。
もし思い浮かべたことが本当になるのなら、出口の扉は—————。
「出口は、心の中にある」
目を閉じて、真っ暗なはずの視界に、白く輝く扉が現れる。そのまま目を開けると————。
「本当だ・・・」
ヒトミの少し前には自分の身長の2.3倍もある白い扉が現れていた。その横にはシオンが手を振って待っていた。
『ちゃんと出来たな』
「お兄ちゃんのおかげだよ」
『じゃあ、これでお別れだな』
「だね・・・」
・・・・・・
2人の間にはしばらくの沈黙。ここでの2人はここでお別れ。ここから出たら、もう会えないということ。
「お兄ちゃん...私、ここでのこと忘れたく...ない...」
『散々忘れたがってたのに、今更だな』
「だってここのお兄ちゃんのことを忘れるのは、嫌なんだもん」
『無理だな。俺でもここを出たらここのことを忘れるんだから』
「そんな・・・」
『・・・でも忘れないようにすることは出来るのかもしれないな』
「ほんと?」
『ほんとだよ。俺は、ヒトミなら忘れないんじゃないかって思ってる』
「私?」
『ヒトミは特別だからね』
「それってどういう意味?」
『さぁ?』
そう言うとシオンはベロを出した。
「もうっ」
『あははっ、でも意味がない訳じゃないよ』
そしてシオンは改まった様子でヒトミを見つめる。その表情は笑っているが、眼差しは真剣だった。
『これは、運試しだよ』
『兄ちゃんを信じてくれないか?』
「・・・」
「はぁ、お兄ちゃんはいつもズルいんだから」
ついさっき「信じる」と言った手前、断ることは出来ない。そう、忘れるならこんな会話もなくなる。覚えていられなくなる。今になって「忘れたく無い」が通用するはずもないのだ。それなら、兄の謎の自信に賭けたほうがマシだ。
そしてヒトミは数歩、前に進み、扉のノブに手を掛ける。でもやっぱり開くのが惜しくなる。ここから離れたく無い自分がいる。でも行かなくてはならない、自分には会わないといけない人たちがいるのだから。
「お兄ちゃん」
『なんだ?』
後ろから優しく、でも少し呆れるような感情の乗った返事が返ってくる。
ヒトミは振り向かず、その言葉に返すように言葉を綴る。
「これから何日経っても...何年経っても...例え私たちが離れ離れになったとしても...希望が見えなくなったとしても、何があっても私を———』
そしてヒトミは振り返る。目には涙を溜めて、その目をギュッと瞑って、涙を拭って、なんとか笑顔を作って、こう放つ。
「————私を、忘れないで?」
恐らく兄は、この言葉を理解は出来ていないだろう。現に本人は驚いたのか反応は薄いが言葉には詰まっていた。
理解されなくて良い、理解しなくていい。つい出てしまった本音だから。でも少し思う。こんな小さな願いが叶ってくれたら、どんなに嬉しいかって。
でも、そう思うくらいはバチは当たらないでしょ?
そしてシオンが頷く。
『あぁ、分かったよ』
「ふふ・・・」
そしてヒトミは扉を開けた。扉の先を一面真っ白な何も見えない空間。きっとこの先に、私が戻るべき世界があるのだと感じた。
「じゃあね!お兄ちゃん!」
『じゃあな、元気でな』
そしてヒトミは前を向き、その一歩を踏み出した・・・。
※
ヒトミが扉の先に消え、そこにはシオン1人が残された。シオンはなにも言わない。ただヒトミが潜って行った扉があった場所を見つめるだけ。その見つめる時間は静かで、さっきまで会話がまるで嘘のように思えるくらい、静か。そうやって長い時間見つめて、やっと言葉を吐く。
「忘れない、忘れる訳ないよ。例えヒトミが居なくなっても、絶対に・・・」
「忘れるなんて、有り得ない」
・・・・・・
・・・・・・
・・・・・・
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
眩しい
目を閉じても、光は瞼を貫通して目に入ってくる。手で目を隠してやっと収まるくらい眩しい光だった。
しばらくして、恐る恐る目を開けるとそこは————。
見慣れたようで見慣れていない入り組んだ住宅街。目の前には見覚えのある十字路。自分の体でようやく入れるくらい狭い路地。ごみごみとした住宅街の中の小さなスペースに作られた公園。
—————正真正銘の元の世界だった。
そして記憶は・・・。
「ある...あるよ!」
ちゃんと覚えてる!あの道のことも、お兄ちゃんと話したこともちゃんと残ってる!
「良かった・・・」
本当に...本当に良かった...
思わず膝をついて安堵の言葉を溢す。
そしてしばらくしてようやく落ち着き、改めて辺りを見渡す。
辺りはとても静かで、他の存在の気配も感じない。当たり前だが人の気配はない、動物の気配もない、そして...霊の気配も・・・。
「・・・」
「・・・あれ...?」
“何かが、おかしい”。
するといきなり人の走る靴音が聞こえた。それは2人くらいの人たちが走る時にカッカッカッという音。その足音はこっちに向かって近づいてくる。そして十字路の前方の道から現れたのは—————。
「お兄ちゃん!ユズちゃん!」
現れたのは、ちゃんと体が成長している10年後の兄とユズちゃんが走って来ていた。
だが2人の表情はとても緊迫した様子で、私を見つけた2人はなぜか恐ろしいものを視た様に引き攣った顔をした。
「どうしたの?2人とも・・・?」
そして兄が十数メートルほど先で叫ぶ。
「ヒトミ!逃げろーッ!」
・・・え?
思わず、2人の視線を追って振り返る。
おかしいと思ってた。この街の夜に霊の気配が何一つないなんて、普通の霊が避けるくらい強力なナニカがいてもおかしく無いってわかってたはずなのに・・・。
そこには私が1番会いたくなくて、1番見たくない存在がいた。
そいつは大きな感情の見えない目をギョロッと動かして私を睨む。私は掠れるような声で、絞るようにその存在の名前を言う。
それは————
「コ...トリ...様...」
大きな鳥の化け物の姿をしたコトリ様だった・・・。
改めて、2ヶ月以上遅れて申し訳ありませんでした。これからは月一を守れるよう努力します。
そして報告として今回にて無限ループの直路は終わりですがまだ白い狐の謎や青年視点ではどうなっていたのか、この直路の正体はなんなのか、まだまだ謎な部分が多く残っています。ですが、それはまた番外編という形で明らかにしていこうと思います。
いやぁそれにしてもこんなタイミングでニンダイから夜廻の新作というか後継作品らしきものが発表されるとは思いもしませんでしたね!楽しみです!因みに私は普通の限定版買いました!