この夜で君たち2人を救いたい   作:ハメット

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本編の少し前に当たる過去編です。夜廻三の小説の内容を含みます。そしてこの話で深夜廻の時間軸が夜廻三の後ということになっていることが分かりますが、時系列は私の解釈で決めているのでそこはご了承下さい。


コトリ様調査記録編
1 答えを求めて僕は歩く


[20〇〇年 〇月〇日

 

 

この日私は〇〇市にある〇〇街で古くから伝わる『コトリ様』に関する調査を開始する。この街で起こる現象は以下の通りだ。

・この街では人が行方不明になるという事件が多発している。

・この街の夜は時おり死者が徘徊し、未知なる存在が姿を現す。

・この街には『コトリ様』という神がこの地に存在している。

 

『コトリ様』は全ての時間軸を見通し、あらゆる場所に出現する。そしてとても大切にしている鈴があるということ、この行方不明事件に関係していることだけがわかった。この街で行方不明になった人で帰ってきた人物はいない。これ以上のことは現地での調査が必要だと私は判断した。この神隠しの真相を調べ、夜の正体を明し、これ以上犠牲者を増やさないようにするのが今回の私の目的だ。これから私はこの調査のために2週間この街に滞在する予定だ。収穫があることを祈る。これから調査記録を残していくつもりだ。]

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

ここまでノートに綴ったあと、車内アナウンスが流れた。

 

「次は〜〇〇駅、〇〇駅〜」

 

 そして僕は降りる準備を始めた。持って来たスーツケースを下ろし、バッグに飲みかけのペットボトルを入れ駅の到着を待つ。しばらく窓からの景色を眺めていると綺麗な海に繋がっている港町が目に映る。

幼少期以来のその眺めにしばらく見惚れてしまった。

 懐かしい..ただそれだけの思いを胸にしたあと、駅が見えたので席から立ち上がった。そして少しだけ車内を見渡す、人が少なくみんな年寄りで、静かだ。

 〇〇〇を見つけ出す、そう心に決めて僕は夏の日差しに晒されながら列車のドアを潜った。

 

 

 20分後には予約していた宿にチェックインを入れていた。2週間滞在する宿は港街に近く、少し古い感じの見た目で僕の好きな雰囲気が出ていた。街は予想通り閑散としていて出歩いている人は数人程度、古くからある街だが別に対して観光スポットとして人気があるわけではないらしい。もちろんコンビニやスーパーなどはあるが、やはり田舎というべきか品揃えも都会よりは少なく、やや古い商品もあった。

 だが嫌いにはならない特有の雰囲気がある。それは時おり風に乗ってくる潮の匂いのおかげだろう。

 

「さっそく、始めるか」

 

 時間が2週間しかないのだ、悠長にしている場合ではない。昼飯も買ったのでいよいよ『コトリ様』に関する調査を始める。と言ってもすることは最近の事件や言い伝えなどの聞き込みからだ。いきなり神社などに行っても情報があるか分からないし、直近の事件や噂を知っていそうな住民から聞くのが調査では一般的だ。

まずは近くの港町の住人から話を聞きにいくか。

 

 

2時間後...

 

 

 結果から語るなら、コトリ様に関する情報は得られなかったが興味深い話が上がった。それはある日を境に漁業が豊作になったという話と、ずいぶん昔に行方不明になった客船が近くの島に打ち上げられていたという話だった。だが長いこと行方不明になっていた客船は音信不通であり、レーダーにも映らず、見つかる前日までその島には形すらなかったにも関わらず、突如として姿を現した。そして当時客船に乗っていた乗客の遺体は1人も見つからなかったという。また不思議なことに漁業が豊作になり始めた時期と客船が見つかった時期は奇しくも同じ去年の7月後半だと言う。

 周辺調査をした結果、港町から少し外れたところに海の怪物を鎮めるために作られたという神社があるとわかった。その神社で祀っている怪物は度々海を荒らし、人々を恐れさせていたところを神を鎮める力を持つ行者が街近くの洞窟に封印したことにより、その怪物を海の神として祀り、豊作を願う為に神社が作られたという。

 ここまで調べたが残念ながらコトリ様に関する情報は出てこなかったので調査は中断した。だが気になる情報は見つけた。7月後半..去年のことはさておき、この時期は人が最も行方不明になった時期と重なっているのだ。

 ここへ来る前の事前調査で行方不明になった人物をリストアップしてわかった事実だが、その全員が7月後半から8月中盤の間に行方不明になっている。

そしてここに祀られている神は人を攫うことはなく、海を荒らすという性質から今回の件とは無関係であることは間違いない。

 

「良い情報だな、調子が良い」

 

 確信的な情報ではないが有力な情報だ。そして港町にはコトリ様に関する情報はもうないのでもうこの辺の聞き込みはいいだろう。

 

「ふぅ...」

 

 神社の境内のベンチに腰を下ろす。疲れた..2時間とはいえ睡眠時間を削った朝起きからこの街に移動してすぐの聞き込み2時間はきつかった。

最近はバタバタしていたので疲労も溜まっていて、精神も削られてた。

だがそれでもこの調査に来たのは先生の言葉に従ったからだ。この調査は長年僕がやりたかった念願の調査だ、あいつのためにも絶対この機会に見つけてみせる。

 

 僕の、大切な妹を...

 

 

 

 

 そして神社で昼食をとった僕は港町に続いている住宅街に来ていた。そこは田舎特有の雰囲気はしないものの、都会のような立派な建物がなく、まるで僕が育った街に似ていた。出歩く人はたまに見るくらいで、車はそもそも所有している家自体少ない。そんなとこも似ている。

 

「よしっ」

 

 そして僕は聞き込みを開始した。一軒一軒にインターホンを鳴らし、住人に街の地理調査だと嘘をついて昔のこの街について聞いたり、今度は治安調査だと嘘をついて最近起きた事件や噂を聞いて周った。嘘をつく理由は率直にコトリ様について聞いても知らない人が多くいると判断したからだ。港町で聞き込みをした際にコトリ様について聞いてもなにも情報を得られなかったのがなによりの証拠だ。

 

2時間後...

 

 いつの間にか僕は住宅街の外れにある神社にまでやって来ていた。そして疲れた足を休ませる為に賽銭箱の前の石階段に座る。ここは嫌いだったが、景色は思い出があるので立ち寄りたかったのだ。調査のために来たわけではなく思い出に浸りたくて立ち寄ったのだ。

 

「はぁ...」

 

 聞き込みは苦難だった、流石に全部の家を周るのは難しいので人気のある場所や人が多く住んでいるマンションやアパートを優先したがそれでもキツい。事件はまだ得るものがあったのでいい、だがそもそも地理に関しては詳しかった年配の方などがもうほとんどいないようで情報が得られないことはしょっちゅう。噂は関係ないものがほとんどで無駄だった。でも気になる噂もあった。

 主に行方不明事件について進展があった。その情報は最後の行方不明者になったコトリという少女について。彼女の名前は行方不明者リストを作ったときに覚えていたが、行方不明になるまでの詳細は知らなかった。

 彼女は4年前にこの街から引っ越したあと、2年前にこの街に唐突に帰ってきたあと姿を消したという。いなくなる前の彼女はなんとあらゆる人物に街の伝承や神様に関する噂、そして『森』についてを聞いて回っていたらしい。まるでそれは今の自分のように。彼女もコトリ様について調べていたのだろうか、2年前に彼女はその調査の果てまで突き止めたまではいいが踏み入れすぎたために帰って来られなくなったのだろうか。『森』とはなんなのか。

なんにしろ彼女はいなくなる前、何かしら確信的な『なにか』を見つけたのは確かなようだ。

 

「『森』か..」

 

 新しい単語だ、自分がここにいたときは聞かされもしなかった。やはり“嫌われていた”のだろう。そして僕はコトリという少女について考える。

 当時16歳だったという、生きていたら18歳、僕より1つ年下だ。彼女は両親の離婚という形で引っ越し、父親と妹をこの街に残し、母親に着いて行ったというところまでは聞けた。原因は母親だそう。そしてその母親も4年前にこの街で行方不明になっている。このこともリストで覚えていたので聞いた話を合わせるとコトリはいなくなった母親を追ってこの街に帰ってきたことが伺える。

 

「まるで僕みたいだな..」

 

 苦笑いを浮かべた。家族を追い、神を追い、いなくなった少女。僕も彼女のように消えるのだろうか。頭にはいつの日か楽しく笑いあった妹の顔が浮かぶ。

 そういえば妹がいるところも同じだな。コトリの妹は姉がいなくなったことをどう思っているのだろうか、やはり辛いのだろうか。家族がいなくなる辛さは僕も知っているから簡単に想像出来てしまう。少なくとも僕はたった1人の家族だった妹に会いたい。会ってまた話がしたい。

 

・・・・・・

 

・・・・・・

 

・・・・・・

 

「会いたいな..」妹に。

 

 もう10年近く会ってない..一体どこに行ったんだろうか。分かるのはいきなり一夜で行方不明になったことだけ。聞き込みのときに妹についても聞いていたが10年前に行方不明になった女の子について誰か知っているはずもなくなにも手がかりは見つからなかった。

 時刻を見るともう4時半だ、そろそろ宿に帰るかな。そう思って立ちあがろうとしたとき、前から声をかけられた。

 

「あの、大丈夫、ですか?」

 

「ん?」

 

 見ると前に小学生の女の子がいた。紺黒色の髪のショートヘアーにピンクのウサギの鞄を背負っている。

 

「あの、泣いていたから」

 

「え?」

 

 本当だ、いつのまにか泣いていた。言われるまで気づかなかった。この場所に来て気持ちが揺らいだのか..

 

「ごめんね、大丈夫だよ」

 

 急いで涙を拭いながら笑顔を作る。だが目の前の女の子にはその嘘はバレているようで、不安の表情を変えなかった。

 

「なにか悲しいことでもあったんですか?」

 

何故かこの子の声は優しく感じて、嘘をつきたくない気持ちになった。なので少し本音を口にする。

 

「ちょっとね、家族に会いたくなったんだ」

 

「そう、なんですか..」

 

 予想以上に重い話だったのか、女の子は困った顔をした。まるで自分がなにかしなくてはという感じであたふたしている。

だが心に決めたように聞いて来た。

 

「その、家族の人には会えないんですか?」

「どうだろうね、もう会えないかもしれないけど僕は会いたいな。でもどうしてそんなことを聞くの?」

 

女の子はまた困っているようだったが、なんとかその言葉を口に出すことができた。

 

「ほっとけなかったから..お兄さん、無理してそうな顔してたから」

 

優しいな、そう思った。

 

 人が困っていたら自分が困ってしまう。人の問題を自分の問題のように抱えてしまう、そういう子なのだろう。

 ならここは心配させない言葉を言わないとこの子の負担になってしまう。その方がいい。

 

「大丈夫だよ、確かに無理はしてるけどもうちょっとで休めるから。それより君はなんでこんな時間にここに?」

 

「私は..学校が終わったから飼ってた猫とお姉ちゃんのお参りする為にお花を採りにきたんです。ここにはお姉ちゃんが好きなお花があるから..」

 

驚いたな、君もなかなか重い話を持ってるじゃないか...

 

「お参りって、お姉さんと猫ちゃんは..」

 

 女の子はゆっくり頷いた。その目は悲しみの色を持ちながらいつまでも想い続ける決意の色がある。そうか、君は家族を失う辛さを乗り越えたのか。

すると女の子は予想外の言葉を放った。

 

「良かったら、会いに行きますか?猫のお墓、すぐそこにあるんです」

 

「え?良いの?」

 

「はい、お兄さんが良かったら」

 

 流石に断るわけにはいかない、彼女の想いを無駄にはしない。ここで断ったらそれは人として最低だ。

 

「じゃあお姉さんのお参りも行っていいかな?」

 

「え?」

 

「ダメかな?」

 

「ダメ..じゃないです、お姉ちゃんはお墓が無くてここから少し離れたところにあるのでそれでも良いなら・・・」

 

「良いよ、君には心配させてしまったからね。それくらいはさせてほしい」

 

「分かりました、ありがとうございます!」

 

 そして女の子は「じゃあついて来てください」と言って離れの横の草むらに向かって歩き出した。我ながら自分らしくないことをしてしまった。普段なら疲れたらすぐ休むようにして他のことを後回しにしていたはずの僕が、疲れている状態から他人のことを進んでするなんて..知らず知らずの内に重ねてしまったのかもしれない、家族を失った者同士として...

そして僕は女の子の跡を追った。

 

 

 草むらを抜け、少し進むと青い花が咲いた広場の真ん中のところに土に刺された棒のお墓があった。女の子は青い花を数本摘んでくるとお墓に供えた。なるほど、採りに来た花はスミレの花だったのか。そして2人で静かに手を合わせる。

 

僕はちらっと女の子の足元を視た。

 

 僕はこの猫と女の子がどれだけの関係だったかは分からないが、女の子は長い間真剣に手を合わせていた。それほど大切な猫だったのだろう。すると女の子は顔を上げて鞄から一枚の写真を取り出して見せてくれた。そこには嫌そうな顔をする白猫を笑顔で抱きしめる幼い頃の女の子が写っていた。

そして女の子が話し始める。

 

「この子、ムギって言うんです。お姉ちゃんが小さい時から家にいて、よく散歩をするのが好きな気分屋で、でも私が不安な時とかはいつも側にいてくれる優しい子なんです」

 

 そう語る女の子は楽しそうに笑っていた。ムギと過ごした日々が宝箱から溢れ出す宝物のように様々な日々を語っていく。その話を僕は静かに、たまに相槌をうちながら聞いている。その時間は止まっている様に感じて、僕も楽しく聞いていることを自覚する。

だが段々と女の子の声のトーンは落ちていく。

 

「ムギは家族のみんなから好かれてて、いつも帰ってきたら、ムギを抱っこする為に早い者勝ちで私はいつもはなにも出来ないのに、この時だけは私が1番で、それで、それで...」

「うん、うん、とりあえずゆっくり深呼吸しよう。落ち着かないと話したいことも話せないからね。」

 

涙を流しながら語る少女を宥める。そして少女は息を整えて、心の整理をつけて僕に謝る。

 

「ごめんなさい、私ばっかり喋ってしまって..」

「気にしないで、その様子だと誰にも話せなくて寂しかったんだろう。気持ちは分かるよ。」

 

 そしては僕は写真を少女に返した。少女は懐かしそうに写真を見た後、大事にしまった。そして前を向いて言った。

 

「そろそろお姉ちゃんのところに行かないと、あまり遅くなったらダメだから」

「そうだね、君はまだ子供だからね。遅くなる前に行こうか」

「はい、ついて来て下さい!またね、ムギ」

 

 そう言って少女はまた花を数本摘み、来た道を歩いていく。まだ語りたいこともあっただろう、確かに幸せな思い出だったのだろう。だが今となっては戻らない日常の記憶、それにお姉さんも出てくる思い出とあれば思い返すだけでも彼女の心をボロボロにしてしまう。大切な思い出ほど、思い返すと心を傷つける凶器になる。だが彼女はその思い出を忘れないようにたまに思い出して傷つき、また強くなる。

 

 強い子だな、純粋にそう思った。僕には到底無理だ。 そこまで思ったあともう一度ムギに別れを言い、彼女に着いて行った。

 

 

 行く途中、少女は無言だった。その目は不安の色。だが決して逃げない、なぜなら手に持つ花を強く握っているから。僕は少女の顔を隣から伺いながら無言で着いていく。

しばらく着いて行くと古い、もうとっくに使われていなそうな廃ビルについた。そこで気になって少女に問いをかける。

 

「ここにお姉さんが?」

「はい、屋上にいます。大丈夫です、もうここは使われていないしお姉ちゃんもちゃんといます」

「わかった、君に着いて行くよ」

 

 そして2人でビルの中に入り、錆びた階段を登る。手すりは欠けていたり窓は割れている。だが疑わない、少女が嘘をついているようには見えなかったから。

 そして階段を上がり切り、屋上のドアを開ける。すると目にはもう少しで沈み始める太陽の光が飛び込んできた。目が慣れてきて僕はその屋上から広がる景色を見た。街全体が夕陽に照らされ、1日の終わりを告げる。海は夕陽に呼応するように小波を立てる。住宅街は夕陽を反射し、1日を終わらせないようにしているように見える。

 

絶景だった。

 

こんな景色は見たことない、僕は思わず声に出してしまった。

 

「綺麗だ...」

「綺麗ですよね..ここ、私も大好きです」

 

そう言って少女も静かに横で景色を眺める。僕は思わず持ってきたフィルムカメラで景色を納めていた。そして満足したので少女に話しかける。

 

「ごめんね、時間がないのに足止めしてしまって..」

「良いんですよ、ここは私もいつものことを忘れられるから何度も来るけど全然飽きないです」

 

 そして少女は屋上の先へ進む。すると屋上の先に小さな祠のようなものが見えて来た。その先には少し萎れた青いスミレの花が横向きに置かれていた。少女はその花を手に取り、持って来たスミレの花を屋上の先の部分に供えた。

 

「これは、何だ?」

 

「私も聞いた話だから分からないけど..」

「『コトリ様』って知ってますか?ここは『コトリ様』の呪いでよくカラスの死体が落ちてくることがあったみたいで、それを鎮める?ために作られたものらしいです」

 

『コトリ様』!まさかこんなところでこんな小さな子からその言葉を聞くなんて!そしたらお姉さんというのは...

 

「君のお姉さんは...」

 

 そして少女は鞄からさっきとは違う写真を取り出して渡して来た。それは目の前の少女と緑髪の少女が2人でシャボン玉を飛ばす写真だった。

繋がった、やはりこの子のお姉さんは2年前に行方不明になったコトリ!

 リストで顔写真も見ていたので顔もわかっている。なんとなく察してはいたがやはりこの子はコトリの妹だったのか...

 

「お姉ちゃんは私がまだ小さいときに引っ越しをして、離れ離れになったんです。でも2年前にお姉ちゃんは帰って来たんです...そしたら」

「コトリ様が関係してる、かな?」

 

そう返すと少女は驚いたように僕を見る。

 

「なんで知ってるの!?」

「それはね..」

 

今日この子と出会えて良かった、そしてこの子から聞かなきゃいけない。コトリ様について。だからこちらも本当のことを話さなくてはならない。

 

「僕が神霊、神領の研究をしている者だからだ」

 

「神霊、研究?」

 

「そう、僕は今日『コトリ様』について調査をする為に、そして10年前に恐らくコトリ様のせいで行方不明になった妹を探す為にこの街に来たんだ。だからコトリ様のこと調べる為にこの街での行方不明者であり、君のお姉さんであるコトリさんについても調べていたんだ」

 

「そう、だったんですか」

 

少女は結構驚いた様子で同時に混乱している。そりゃそうか一気に沢山のことを話してしまったからな。だが頭の整理が出来たのか僕を見つめて聞いてきた。

 

「お兄さんは神様のことをよく知ってるってことですか?」

 

「分からないね、神様っていうのはまだ人には理解できない存在だからね。でもわかる範囲では知ってるよ」

 

「あの、じゃあ、私にも出来ることは、ないですか?」

 

「え?」

 

「私もコトリ様のこと全部は分からないです。実は私、まだお姉ちゃんが死んじゃったことまだ納得出来てないんです。お姉ちゃんはなにも悪いことなにもしてないのに!呪いも解いたのに!なんで私の家族がこんな目に会うの!他の人が私たち(私の家族)みたいに不幸になって欲しくないんです!だから私にも手伝わせてください!」

 

 それは少女の心の叫びだった。訳もわからずに家族を奪われ、とり残された者の嘆きだった。その気持ちは痛いほど良く分かる。だからここで否定など出来なかった。

 

「わかった、だけど君に危ないことはさせられない。僕は君を危険に巻き込みたい訳じゃないからね、あくまで調べることだけ。約束できるかい?」

 

「ありがとうございます!私頑張ります!」

 

「じゃあまずは君の名前を教えてくれるかな?ずっと『君』呼びは嫌だからね」

 

「私は、ユズ。ユズです。お兄さんは?」

 

「僕は..」

 

・・・・・・。

 

「僕はヒロト、よろしくねユズ」

 

そして僕は膝をつき、ユズの目線に高さを合わせる。

 

「これから君には僕の調査を手伝ってもらう、そして僕は君の目的を手伝う。絶対君の目的を叶えてあげる、だからユズも手伝ってくれるかな?」

「はい、私もお兄さんの力になれるように頑張ります!」

 

良い返事だ、ならもう率直に聞かせてもらうよ。

 

「じゃあ早速、ユズのお姉さんに何があって、ユズに何があったのか聞かせてくれるかな?」

「お姉ちゃんと私に起きたこと..」

 

 最初は迷っていた、だがすぐに向き直って語り出した、事の顛末を。

コトリ様には呪いがあり、その呪いは大切な記憶を消していきながら、コトリ様の手足となる化け物に変えていくこと。最初は母親が可笑しくなり、そのせいでコトリとユズは離れて暮らすことになってしまったこと。その後、母親がこの街に帰って行方不明になったこと。

 そしてその2年後、母親の行方を探すために帰って来たコトリと再会するが、4年前では幼過ぎたユズには姉であるコトリのことが頭から消えてしまっていたこと。その後コトリは学校の屋上から飛び降り、『森』に行き呪いにかかったこと。コトリは呪いを解くことが出来ず、ユズに鈴を2つコトリ様に返して呪いを解かないといけないことを伝えたこと。だがユズは友達から嫌われたショックにより、コトリの呪いを解くことも忘れてしまい、1年が経過してしまったこと。

 そして去年の今日、ユズは学校の虐めに耐えられなくなり学校の屋上から飛び降りようとしたところ『森』に辿り着き、自分も呪いにかかったこと。再会したコトリと別れ、思い出の場所を巡り、記憶を思い出し、なんとかもう一つの鈴を見つけ、コトリの元に届けたこと。なんとか『森』にもう一度行き、コトリと一緒に鈴を返し呪いを解いたこと。

そして、コトリは手遅れで一緒に帰って来れなかったこと。

 

全てを話し終えたユズは疲れ切った様子で、後悔の表情を浮かべている。

 

「大変だったんだね」

 

 それは驚きの内容だった、僕の調査で上がった議題の答えがすぐに出てくる。そしてユズ自身も呪いにかかっていたことにも驚き、解呪したこと、街での異変を解決したこともこの子であることがわかった。こんな小さい子が夜を1人で廻り、おばけや霊が溢れる夜の街に立ち向かったのだ。それは決して良い思い出にはならないだろう。

 思い返すのは辛かっただろう、いじめを受け、助けれたはずの姉を1年も待たせ、助けることも出来なかった。それはとても言い表しようのない後悔ばかりだったろう。彼女にとっては得るものもあったが、失ったものが大きかっただろう。僕はそれ以上言葉が出なかった。 

 

「私、なにもお姉ちゃんにしてあげられなかった!小さかった頃からずっとお姉ちゃんにはしてもらってばっかで、なにもしてあげれてない!もっと色々お姉ちゃんにしてあげたかった!助けて、あげたかった...」

「お姉ちゃんに会いたい..」

 

目から涙を流し、後悔を口にする。その果てしない後悔は彼女を蝕んでいく。でも、だけど、君のせいじゃない。

 

「ユズのせいじゃない」

 

「でも...」

 

「違うよ、ユズ」 

 

僕は自身の長年の想いをユズに向ける。

 

「僕も妹に会いたい、お母さんに会ってみたい、父さんにも会ってみたい...普通の生活がしてみたい」

「えっ?」

 

ユズは驚いたようだ。まあそうだ、初めて人に言った僕の本音だからね。

 

「さっき会いたかったのは妹って..」

 

「まあね、でも本当はお母さんともお父さんとも幼い頃にいなくなったんだ。正確に言うなら、僕がまだ3歳のときに2人とも居なくなってしまったんだけどね」

 

「そんな...」

 

「良いよ、気にしないで」

 

「僕はユズと同じくらいのときに妹が居なくなったんだ。そのときは記憶がなくなるほどショックでね、1日中妹を探し回って倒れたこともしょっちゅうだったんだ。父も母もすでにいなかった僕にとっては唯一の家族だからね。後悔も死ぬほどしたよ、もっと沢山遊んであげたら良かった〜とか、もっと一緒に寝てあげれば良かった〜とか。でもね」

 

そうやって、夕陽が沈んでいく街の景色に目を移す。ユズは心配そうに僕を見ている。

 

「突然夢に妹が出て来たんだ。ショックを受けていた僕は夢すらまともに見れなかったのにね。夢の中の妹は出てくるなり、なにも言わなかった。

喋りたかったけど声が出なくて、まるで金縛りにあったみたいで。そしたら妹は少しだけ喋ったんだ」

 

「『もう大丈夫だよ、お兄ちゃん。今は大丈夫、また会えるから』そう言ったんだ。どういう意味かはすぐわかった、妹は自分のことを諦めて欲しかったんだ」

 

「諦めたんですか?」

 

「諦めてないよ、だから僕は今も妹を探してる。でもどう考えても妹が生きてる可能性がないことはわかってる。でも僕は忘れたくなかった、諦められなかった」

 

「だから..」と続けてユズに向き合う。

 

 ユズは黙って聞いていた。その目はどこか昔の妹に似ていて、妹と重ねてしまう。

 

「だから妹のことを忘れないようにする、そう決めた。生きている人が亡くなった人に出来る唯一のことはその人が生きていた証を残していくことだと、僕は思った。

だからユズもお姉さんやムギのこと、お母さんのこと、忘れないであげて。それだけできっとお姉さんたちも嬉しがると思うよ」

「...忘れないです..お母さんも、ムギも、お姉ちゃんもみんな忘れない!お姉ちゃんとの思い出も、お姉ちゃんが教えてくれた勇気が出るおまじないも!全部忘れない!」

 

なんだ、やっぱり君も辛かったんだね。でももう乗り越えたようだ。その目にあるのは全てを受け入れる覚悟の色、そうそう見れるものじゃない。

 

「じゃあ色々教えてくれたユズに僕からも1つ良いことを教えてあげよう」

 

「良いこと?」

 

「それはね気持ちの整理がつかないとき、色んなことがごちゃごちゃして困ったとき。そのときの自分の気持ちを紙に書いて、その紙を紙飛行機にして高い所から風に飛ばすんだ。これは僕が育った街で流行った遊びでね、子供がよくやる遊びだったんだけど、結構僕は気に入っててね。これをすると一気に心の整理が出来て、焦った気持ちを落ち着かせてくれるんだよ。やってみるかい?」

 

そしてユズにメモ帳の一枚を渡し、ボールペンを渡そうとする。だがボールペンは返された。

 

「ペンならあります、私のお気に入りの鉛筆なんです」

 

 ぎこちない微笑みでそう言ってウサギの鞄からとても短くなった鉛筆をとりだした。いくら本人の手が小さいと言えどもまともに持てないほど短い。でも彼女がここまで小さくなっても使い続けるこの鉛筆にはとても大事な思い出があるのだろう。

書き始めたユズはたまに困ったような表情をしたり、少し悲しい顔をしたりしていたが無事書けたようだ。

 

「出来ました!」

「じゃあこの紙を紙飛行機にして、ここから飛ばしてみて」

 

 そしてユズは一生懸命に紙飛行機を作っていた。メモ用紙じゃちょっと難しかったかな?少し自分で反省する。するとユズはぎこちないが紙飛行機を完成させて持ってきた。

 

「これをここから飛ばすんですか?」

「そうだよ、やって見て」

「分かりました」

 

 そしてユズはゆっくりと紙飛行機をビルの屋上から飛ばした。その紙飛行機はもう消えて無くなりそうな夕陽の中を飛び回り、潮の匂いがする風に乗って遠くまで飛んでいく。時々急降下し落ちそうになるがなんとか立て直しながらゆっくり飛んでいった。ユズと僕は見えなくなるまで紙飛行機を静かに見守っていた。するとユズが話しかけてきた。

その顔はどこかスッキリしていて、さっきより表情は明るい。どうやら効果はあったみたいだ。

 

「ヒロトさん、ありがとうございます。大分落ち着いた気がします、このことも忘れないです」

「どういたしまして、僕も良くこれで気持ちを落ち着かせるんだ」

 

そう言っている間に辺りは暗くなっていく、それそれ宿に戻らないとな。

 

「そろそろ、帰ろうか。もう暗いからね、明日僕はこの街の図書館にいると思うから話が聞きたいならそこに来て」

「はい!必ず行きます!」

 

 そして僕たちはお姉さんに別れの挨拶をして、この場を離れる。そして前を歩くユズの背中をそっと見る。

 

 ユズ、君はこれからも1人だと思っているのだろう。きっとこれからも1人で過去を背負う覚悟なんだろう。

 でもね、ユズ。君は決して1人じゃないんだよ。ふとユズの隣を歩く白猫を視る。まるでいつまでも一緒だ、というふうにユズと歩いている。僕はユズと最初に出会った時から視えていた。神社のときも、ここへ移動していた時も、ここでユズがメモを書き、飛ばし、帰ろうとしている今までずっとユズの隣でムギはユズを見ていた。

 そしてゆっくり僕は振り返る。すると後ろに少女が立っていた。サマーコートを着ながら、肩からカメラを下げた緑髪の少女、コトリだ。コトリはユズとここで会話をしているときから視えていた。コトリは幸せそうに、そして少し寂しそうにユズの背中を見ている、そして僕に向き直るとペコリと頭を下げた。視えていないように振る舞っていたはずだったが、どうやら最初からバレていたらしい。そして僕も頭を下げて、コトリに向かって言う。

 

「ユズは強い子ですよ」

 

 コトリはなにも言わない、だがその顔は当たり前でしょ?と言いたげな表情をしている。そして僕はコトリに背を向ける。

ほらね、ユズ。君は1人じゃない、君にはそばで見てくれている大切な人がいる。

 

「では、また」

 

 そう言って僕はユズの元に走り出した。今日は初日なのに沢山のことがあった。そしてこの子と出会えて本当に良かった、調査も進展し、妹の出掛かりも知れた。思えば僕らはどこか運命のようなものに惹かれあっていたのかも知れないな、まるで出会うことが必然だったように。この運命には本当に感謝しかない。

 

あとはどう妹と会うかだ。




この章はヒロトくんの過去、ユズやこの街との関係を一気に進めるために結構重要になってくると思います。
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