この夜で君たち2人を救いたい   作:ハメット

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ちょっと聞きたいんですが私の話ではユズは原作から1年後なので小学4年生ということになってます、そしてユイやハルやこともちゃんは原作で詳しい年齢が言われていなく小学低学年では?という声が出ています。でも私はこの3人の年齢はユズと揃えたいと考えていまして、3人はユズと同じ小学4年生ということにしてもいいですかね?
話の中で年齢を意識するつもりはありませんが今後の為に年齢に差は出したくなくて...


2 望む願いはずっと叶わなくて

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『いつまでここにいるつもりなの?まさかこのままこの2人をずっと面倒見なきゃいけないの?私絶対嫌だからね!?』

 

『俺だって嫌だよ!でもあいつらは姉さんが気にかけてるしあいつらになにかあれば姉さんは怒り狂うに決まってる。それにあいつらは一族の不思議な力がある、あいつらは祭事のために必要なんだ。うちの一族に力を持つ人間がいなくなれば住民は俺たちを見放すだろう、そうなったら俺たちはここで暮らしていけなくなる。仕方ないだろう?』

 

『だからって嫌よ!あんな小汚くて気味悪いガキ!なんで私たちの子には力が無いのにあんなガキには力が宿るの!?なんでお義兄さんたちは私たちに子供押し付けて何処か行っちゃったの!?さっさと見つけて返してきてよ!大体なんでこんな面倒な神社の宮司なんて引き受けたの!?』

 

『引き受けたらここで住まわして貰えるって条件だったろ!?一応俺かって一族の1人だからな、金がないんだから住まわして貰えるだけ有難いだろ!』

 

 延々とそんな怒鳴り声が、隣の部屋から聞こえる。

“俺”は部屋の隅で耳を押さえている妹の体をさする。そりゃあそうだろうな、聞きたくないことが壁を貫通して全部聞こえるからな。

もう毎晩あの人たちはこの話題で喧嘩している、その内容をまともには聞かない。聞いても良いことがないから。

 

すると妹が顔を上げ、俺の腕をそっと掴んで言った。

 

「お兄ちゃん..私もう嫌だよ...」

 

 顔に表情はないが、その目は悲しみと絶望で染まっていた。腕には痛々しい傷があるのを見逃さなかった。

 

「また、あの息子どもにやられたのか?」

 

「...お兄ちゃんのその眼、本当に意地悪だね」

 

「答えろ、どうなんだ」

 

「うん、『貧乏神は出ていけ!』ってね。石投げられたよ」

 

「...」

 

「最近学校でも良く虐められるようになってね、噂で『呪術を使うやばい魔女』って言われてるんだ」

 

 俺は怒りの感情が湧いてくるのを感じた。何回も追い払ってるのにまたあいつらは俺が見てない所でやり返さない妹を狙ってたのか..明日こそは痛めつけてやらないと気が済まない。

 

「駄目だよお兄ちゃん、顔に出てる」

 

 そこで妹の静止が入る、顔を向けるとさっきの感情は変わらないが決意がその目に現れていた。

 

「そろそろやり返さないとお前が酷い目に遭う」

 

「いいよ、お兄ちゃんがまたやり返してそれ以上にあの人たちからやられるのが嫌なの」

 

「はぁ、お前は本当に..」

 

俺の為、か..敵わないな。こいつの優しさには頭が上がらない。

 

「わかったよ、抑える。でも俺から離れるな、あいつらは俺がいないときを狙ってお前を襲うからな」

 

「うん、分かってるけど..」

 

 わかってる、ずっと2人で一緒にいられるなんて無理だ。あいつらは学校のクラスから離れるだけでも妹を狙ってくる、本当にどうしたらいいんだろうか。

 

「とりあえずちょっと待ってろ、隙を見て持ってきた包帯巻くから」

「ん、ありがとう」

 

 そう言って妹の傷に傷薬を塗り、絆創膏を貼る。その間お互い無言だったがお互いにこの2人でいられるこのときだけが安心できる時間だった。

 

「明日学校行くのか?流石に明日は行かなくて良いんじゃないか?」

 

「あまり休みたくないな..折角叔母さんがお金払ってくれてるから..」

 

「叔母さんなら休んでも良いって言ってくれるはずだよ、自分を傷つけてまで学校に行く必要はない。もちろんお前が行かないなら俺も行かない、なによりお前に傷ついて欲しくない」

 

「...」

 

 妹は悩んでるみたいだった。こいつは優しい、他人の善意を無下には出来ない性格なのは百も承知だ。正直俺は学校が嫌いだ、行ったとこでなにかを学ぶ余裕すらないし、楽しくもない。そしてなによりこいつと距離を離されてしまう。距離を離されたらまたこいつは虐められてしまう、それがなにより嫌だった。

 

そして僕は続けて妹に言った。

 

「明日は海を見に行かないか?」

 

「海..か..」

 

「お前好きだったろ?でも最近行けてないじゃないか、それにもうすぐ“あの儀式”の日だから今のうちに行っておきたい」

 

「・・・わかったよ、うん!もう一回お兄ちゃんと海行ってみたいし、気持ち切り替えなきゃだしね。また今度叔母さんに謝らないと」

 

「じゃあ約束だな」

 

「うん!約束!」

 

 俺と妹は少し笑顔で言った、久しぶりに笑顔を見せてくれたな。そして今日も俺たちは2人無事に1日を乗り越えられたことを神様に感謝して眠りに着いた。妹が笑ってくれる、それが俺にとっての唯一の幸せだ。大人になってこの街を離れることが出来たらもっとこいつを幸せに出来ると考えると、俺もこの嫌な人生に希望が持てる。

 

『〇〇〇を守ってあげてね、〇〇〇。それと、⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎...」

『俺たちがいなくなっても兄として、男としてあの子を守ってやるんだぞ。⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎...』

 

母さんと父さんに言われた通りに、妹を守り続けると...

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「・・・」

 

 僕は宿のベッドで目を覚ました。何故かとても特別な思い出を見ていたような気がする。でもいくら頭を使っても思い出せない。

 

なんだったんだろうか...とても大切な思い出だったような気がする。

 

だが何度頭を使っても出てくるのは違和感だけで、ただ時間だけが過ぎていた...

 

 

 

 

 仕方なく着替えを済ませ、宿の朝食を済まして僕は日課の散歩で浜辺にきていた。ちょっとやりたいことがあったのでいつもより少し早めに来ていた。

 もうこの街に来て7日目になる。まだ7日目だがコトリ様についての調査の方は驚くべきスピードでまとまってきていた。2週間は長かったかな..そりゃそうだ、まさかの初日にコトリ様について良く知っているユズと出会ったからな..コトリ様の見た目、呪い、特性や性格などの情報がユズのおかげで知ることが出来た。

 そのため、調査記録はほぼ完成したと言っていい。本当にユズには感謝だ。だがまだ本来の目的を果たせていない、未だ妹の行方は分からないままだ。

 

「やっぱり“あの方法”を使うしか...」

 

 思わず呟いていた。昨日目的の調査に行き詰まった末にこの方法をユズに相談してみたが、ユズは断固として反対した。そのときは仕方なく引き下がったが、もう他に手が無いのだ。聞き込み調査、この街の文献や資料、この街の歴史なあらゆる調査をしたがどれも目的の答えに繋がる成果は得られなかった。ユズも文献を調べたり、聞き込みを手伝ってくれたが良い情報は見つからない。

 予想より多く時間が余ったとはいえ時間は限られているので少しずつ焦りが出てくる..やはり...

そう考えていると横から声が聞こえた。

 

「おはよう、お兄さん!」

「おはよう、まだ9時なのにいつも早いね」

 

 そこにいたのはユズだった。初めてユズと出会ってからの7日間、僕たちはとても仲良くなっていた。ユズは毎朝僕に挨拶しに来ながら、僕の日課の散歩に参加するようにもなっていた。まぁ元々は散歩をしながら調査をしたいとユズが言い出したことで始まったんだけどね。

 1番変わったのはユズの喋り方が柔らかくなった。少し敬語は減って、まるで少し前のユイに近付いたようで僕はそのほうが好きだ。 

 

「今日は何をするの?」

「うーん、最近は手掛かりを見つける方法がなくなってきたからね..今日はまだすることはないかな」

「じゃあ街をぶらぶらしませんか?散歩にもなるし、まだ紹介出来ていないところもあるんです」

「それじゃあユズに任せようかな、毎日調査していても疲れるしね」

「はい!じゃあまずは..」

 

そこで僕は自分がやりたかったことを思い出し、慌ててユズを止めた。

 

「あ、ちょっと待ってユズ」

「どうしたの?お兄さん」

 

 ユズはきょとんとした顔で振り向いた。僕はショルダーバッグからあるものを取り出してユズに差し出した。

 

「これ、ユズにあげるよ」

 

するとユズはびっくりした顔で僕に聞いた。

 

「いいの?」

「いいよ、ユズは調査も頑張って手伝ってくれてるしなにかお礼がしたくてね」

 

 そしてユズの首に通した。それは綺麗な巻き貝をミサンガの紐で通したペンダントのような、首飾りのようなものだった。本当はもっと綺麗で丈夫な貝殻を見つけたかったけど時間がなかった。だが心配はいらなかった。

ユズは「わぁ!」と嬉しそうに貝殻をしばらく見つめたあと、そっと握りしめた。

 

「ありがとうお兄さん!大切にします!」

「気に入ってくれたようでなによりだよ、ユズがこの前見せてくれた宝物の巻き貝を見て思いついたんだ」

 

 しばらく目を輝かせていたユズはちょっと落ち着いてきたのか、ゆっくり僕に顔を向けた。

 

「私、家族がバラバラになってからはあまりこういうの貰ったことがなくて..だから、とても嬉しくてついはしゃいじゃいました」

 

 ユズはちょっと恥ずかしそうに言った、そこまで気に入ってくれるとは徹夜した甲斐があったなぁ..

 

「ははっ、子供が嬉しいことがあってはしゃぐことは恥ずかしがることじゃないよ」

「えへへ」

「そろそろ行こうか、あまりここにいたら時間がなくなっちゃうからね」

「はい..!」

 

 ユズは首飾りをまた見つめると、笑顔で頷いて前を歩き出した。僕は一度カメラで青い空の下で潮風が吹き静かに波を立てる海をフィルムに収めたあと、ユズのあとを着いて行った。

 

 

 

 

 時刻は17時に差し掛かっていた。まだ夏の最初らへんなので空はまだ明るい。今日は沢山歩いた気がする、僕はユズが行きたいと言った場所全て回ってきていた。色んなことをした、商店街のたい焼きを2人で食べたり、港街近くの神社に出向いたり、最近出来たというショッピングモールで沢山の店を回った。もう夕方になる頃だったので今はユズを家まで送っていた。

するとユズが話しかけてきた。

 

「楽しかった?お兄さん」

「楽しかったよ、最近は少し余裕がなかったからこういうのもありだね」

 

 その言葉を最後に僕はしばらく無言になってしまった、その間ユズの表情は見えなかったが僕の少し前を歩いていた。

 

「...」

 

 話すなら今しか無い、もう一度あのことを話せる最後のチャンスだ。そして僕は口を開こうとしたが先にユズの家についてしまった。

 

「お兄さん、送ってくれてありがとうございます..また明日調査を手伝いに行ってもいいですか?」

「あぁ、うん..大丈夫だよ...」

「じゃあまた明日!バイバイお兄さん!」

「じゃあね、ユズ」

 

 そう言ってユズは振り返らず家の中に入って行った。結局言いたいことは言えずにユズと別れてしまった。ついに今日、最後まであのことについてユズに話すことが出来なかった。つくづく僕はこういうところで勇気が無い、仕方なく僕は来た道を引き返した。

 

「これが最後の後悔にならないといいけど..」

 

 そう呟いて僕はある場所に向かった、背後から着いてくる小さな影には気付かずに..

 今の僕から見た夏の夕陽は、最初にビルから見たときの街を綺麗に写し出すあの眩しい夕陽とは違い、寂しい住宅街の影を照らし僕の闇を際立たせる孤独な夕陽だった。

 

 

 

 

 10分もしないくらい歩き続けて僕は目的の場所に着いていた。そこは十数年経っても変わらない僕がまだ覚えている唯一場所、小学校だった。ここだけはあの時からなにも変わってない、グラウンドも、ウサギ小屋も、学校の外見も。でもなんの感情も湧かない、思い出もなにも僕には残っていないから。覚えているのは『小学校』というただその場所についての記憶だけ。

 そして僕は昇降口のドアを見てみるがやはり鍵がかかっている。流石にそんな簡単には入れないか。仕方ない、忍び込めるような場所はないか探してみるか。そして学校の周りを見ていると恐らくトイレである場所の小窓が開いていた。ギリギリ通れるし、少し高いが僕なら通れる。

 

「よっと」

 

 窓の縁を掴んでなんとか足から入れた。ここは女子トイレのようで、僕は女子トイレの小窓から入って来たようだ。

 

すぐさまトイレから出る。

 

 夕方の校舎内は夕陽でとても明るくなっているのと同時に、中がとても暗く感じた。景色として見るなら放課後の学校らしさが出ていて最高だ。人の気配はない、教師や警備員はいないようだ。普通この時間なら誰かしらはいてもおかしく無いがこの学校は夜になる前に人は誰一人としていなくなる。まるで夜を避けるように...今の僕にとっては好都合だ、せっかくだからゆっくり校内を見て行こう、これが最後かも知れないしね。

でもまずは職員室から鍵を取って来なくては..

 

 職員室についたがここには鍵は掛かっておらず、鍵も分かりやすく職員室の壁に掛けてあった。

 

「もし不審者が入ったらどうするんだろうかこの学校は..」

まあ僕も不審者なのだが。

 

 鍵を入手した僕は2階に上がっていた。南校舎の階段は一つしかなくいつも学校に来た生徒は「教室に行くまでが長い!」と良く文句を言っていた。昔の僕はそこまで気にした記憶はないが、今の僕はそう思う。

 南校舎は特になにもないので僕は渡り廊下から北校舎に向かった。久しぶりに来た北校舎も昔からなにも変わらない、この学校は生徒の数が少ないので比例して教室も少ないというのが特徴だ。

 

 すると3年生の教室の前に白黒の少女が誰かを待つように壁にもたれ掛かる仕草をしている。その少女..の..姿は...

 

「君は!?もしかして!」

 

だがその少女は教室のドア越しに誰かと話すような仕草をした後、図書館に向かって走りだして消えた。

 

「幻覚、だったのか?」

 

 消えたといことはそういうことなのかも知れない。一応図書室に行ってみたが鍵が掛かっていて入れなかった。

 

「...」

 

仕方ないので僕は3階に向かって歩き出した。

 

 

 

 

 3階は唯一教室が多い階だ、4.5.6年の教室がある。そして僕は真っ直ぐ4年生の教室に向かった。ここは必ず見ておきたかった、鍵は持ってきてある。1番手前の教室だったのですぐに入ることが出来た。

 そして僕は彼女の席を探した。見つけた、1番後ろの席の少し汚れた机。ユズの席だ。一生懸命に落書きを消そうとしたあとがある。完全には消えていないが新しい落書きは見当たらない。少なくとも彼女はまだ虐めを受けている様子はない。ロッカーも中は見ないが汚されていない。

 昔から何故か虐めだけは許せないタチだったので、ユズが虐めを受けていると聞いたとき本当に心配した。良かった、とりあえず安心だ。気になっていた心配事は晴れた。もういいだろう。

 

そして教室をあとにして僕は屋上へ向かった。

 

 

 

 

 そして僕は屋上の扉を開けた。最初に飛び込んできたのはもうあと少しで落ちる夕陽と相変わらずごみごみとした機械や通気口だった。

 

「...」

 

 僕は無言で屋上の奥に向かう。この学校は街の高所に建っているのでここからの景色はあの廃ビルと同じくらい良い。でもなにも感想を言う気になれなかった。夕陽が綺麗なはずなのに、ビルで見たような綺麗な景色なのに..なにも感想は出て来ない。

 そして僕は屋上のフェンスが破れた場所にまで出てきていた。ここが森の入り口、ユズやコトリが通った場所。下を見ると下は焼却炉、ここから飛び降りたら確実にあれに当たるだろうな。

 不思議と怖く無い。だから僕はユズが行ったという手順を思い出す。ここから上を向いて、飛び降りる、簡単だ。

 そして僕は深呼吸をして上を向こうとした、だがそれは急に聞こえた声に止められてしまった。

 

「ダメっ!!」

 

ハハ..やっぱり、止められちゃうか...

ゆっくり僕は後ろを向いた。

 

「ユズ...」

 

 そこにはさっき別れたはずの少女が涙目で立っていた。興奮しているのか息が切れぎれだった。僕は本来ならここにいるはずのない少女に聞いた。

 

「どうしてここにいるんだ、君は帰ったはずじゃないか」

「お兄さんを止める為に来たんです」

 

そう言ってユズは続けた、今日ずっと隠していた胸の内を語り始めた。

 

「私、昨日からずっと考えてました。お兄さんが『森に行きたい』って言ったこと。私、その時お兄さんがお姉ちゃんに見えたんです。2年前、お姉ちゃんが私に『学校に連れて行って欲しい』って言った時と同じに感じたんです。だから怖かった、お兄さんが森に行って帰って来なくなるんじゃないかって...あの時のお姉ちゃんみたいに、私のせいでお兄さんがあの森に行っちゃうんじゃ無いかって..

 だからなんとかお兄さんを止めたかった。だから楽しいことがあればお兄さんも昨日のこと忘れてくれるかなって思って、だから今日はお兄さんを散歩に誘ったんです。でもお兄さんは今日の朝も、暗い顔をしてて..それからもずっと心から笑ってるようには見えなくて...まだ昨日のこと考えてるのはすぐ分かりました」

 

ユズは僕を真っ直ぐに見た。その目の色は、決意と怒り。

 

「だから、別れるとき、なにも聞かないようにしたんです。私が話を聞かなかったら、お兄さんは諦めてくれると思ったんです。でもお兄さんは、1人で森に行こうとした、私になにも言わないで!だから私、怒ってるんです!死んじゃうかも知れないんですよ!どうしてそこまで...」

「...」

 

 僕は黙っていた、まさか全部バレてたなんて思わなかった。まさかこんな小さな女の子に全て見透かされていたなんて。

はは、僕は追い詰められているこの状況が無性に可笑しくて堪らない。

 

「はは..あはははは!」

「お兄さん?」

「うんうんなるほどねぇ、あはは!ごめんね、ユズ。本当に可笑しくて、はは!僕は君を子供扱いし過ぎてたみたいだよ」

 

 僕の考えてることを全て当てて、しかも僕の行動まで全部理解しながら僕を諦めさせようとしてきていたのか。ユズは僕が思っていた以上に賢かったみたいだ。

 全部、ユズにはバレていた。本当に、笑わせてもらったよ。

僕は困惑しながらも僕を見ているユズに答える。

 

「妹に会いたいからだよ」

 

「・・・」

 

「僕の願いはそれだけ。妹に会えるなら僕は命だっていらないよ」

 

僕は真っ直ぐ真剣な顔でユズに言った。

 

 ユズは言ってる意味がまるで分からないと言ったような顔で僕を見た。そしてユズは口を開く。

 

「あの森に行ってもお兄さんが妹さんと会えるか分かりません、それにお兄さんのことを心配してる人もいるはず——」

「いないよ」

 

僕はユズの言葉を遮って言った。

 

「え?」

 

理解出来ない、と言いたげな顔をしているユズに話し始めた。

 

「僕を心配してくれる人はいたよ、ちょっと前までね。その人は僕の命の恩人でね、僕を大切に思ってくれてたし、僕が唯一信頼していた人だよ。でもその人は3年前にいなくなったんだ、僕のお父さんやお母さんや妹のように理由も言わずに突然ね」

 

そう言って僕はユズから目を逸らす。

 

「その人が..僕の..最後の希望だったんだ...」

 

 僕の話す声は口から出すのが精一杯で、目は少し霞んで前が見えなくなりそうになる。

 

「お兄さん...」

 

「その人以外で僕を心配してくれる人を僕は知らない、いるとすれば..ユズと同じくらいの年の子がいてね。その子たちかな..?でもその子たちも子供だ、子供ならすぐに僕なんて忘れるだろう。だから僕の心配をする人はいないと思う」

 

「そんな...」

 

 ユズは悲しそうな顔で下を向いた、そしてしばらく考えたあともう一度顔を上げた。その顔には悲しみの表情はなく、また決意の色の目をしている。

 

そして静かに言った。

 

「私は、お兄さんが大事です..!」

「・・・」

「私はいなくなったら寂しいです!この7日間、短い間だったけど楽しかったし、たい焼きを買ってくれたり、貝殻の首飾りをくれたり、私に色々優しくしてくれました..それに...」

 

ユズは一呼吸いれて続けた。

 

「お兄さんは、お姉ちゃんみたいだから」

 

「え?」

 

「お姉ちゃんみたいなんです..優しくて、大切なことをなにも言わずに居なくなるところとか、私が嬉しくなるようなことをしてくれるところ、あとお姉ちゃんと同じように森に行こうとしてるところ。全部お姉ちゃんとそっくり。だからお兄さんがお姉ちゃんと同じように帰って来なくなるんじゃないかって、思ったんです。だから今度は同じ失敗はしたくないです!お兄さんに森の行き方を教えたのは私です、だから絶対にお兄さんには行かせたくない!」

 

 僕は何も言わなかった、まさかユズの迷いを消すことがここまで厄介なことになるなんて思わなかった。こうなったらユズはもう引き下がることはないだろうな、7日間彼女を見てきたから分かる。ユズの心の強さは本物だ、目には決意と責任の色がある。きっと彼女なりの優しさと僕に森の行き方を教えてしまった責任を取りたいのだろう。だが僕はそれでも止める気は毛頭無い。

 

 僕は静かに、覚悟を決めた目でユズを見る。ユズは何かを察したようだ。

 

「・・・」

 

「おにい..さん..」

 

 ようやくここまで来たんだ..妹がいるかもしれない場所にもうすぐ行けるんだ..不完全な記憶の『答え』の全てがそこにあるんだ..このときのために何年も待ったんだ..それが知れるなら僕は...!

 

そして僕は静かにユズに向かって微笑んだ。

 

「ごめん、ユズ」

「まってッ!」

 

 ユズは気づいて走ってきた。それより先に僕は、ユズの方を向きながら上を向いた。もうすぐ陽が沈む空からなにか手のようなものが蠢いているのが見えた。これが2人が見たという『手』。少しだけ体が震える、だがその震えをなんとか僕は打ち消す。それはゆっくり僕の体を巻き付くように捉えたと同時に体が背中から地面に向かって倒れていく。

その時だった。

 

「お兄さん!」

「ユズ!?」

 

 なんとユズが僕の体に抱きついて落ちるのを止めようとした。だが遅かった、もう落ちるというとこまで体は倒れている。だがユズは手を離そうとはしなかった。

 まさか..そこでやっと僕は察した、察してしまった、ユズのやろうとしていることを...あぁダメだ、ユズは危険に巻き込まないと約束したのに..

 

「なんで..?どうして..?ユズ..」

 

「今度は絶対に後悔したくないって決めたんです、お兄さんが1人でいこうとするなら私もお兄さんについていきます..!」

 

そう、小さく聞こえた。

 賢くて、勇気があって、優しい..本当に君は...死んだらコトリさんに謝らないと...

 そうして僕らは2人一緒に屋上から飛び降りてしまった、それとほぼ同時に地平線に広がる夕陽が完全に落ちた。




本当はもうちょっと散歩の中の話とか書きたかったんですが時間の都合により泣く泣くカットです...あと結構今回ユズの感情激しめでユズの印象変わりまくりでちょっと失敗したかなぁとか思ってます..
あと今更ですが、私の話って夜廻の新作で過去作品の時系列深掘りされたら設定破綻しますよね...
そして気づいた方いると思いますので、告白するとなんと『この夜で君たち2人を救いたい』にはもう一つ章があります。
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