この夜で君たち2人を救いたい   作:ハメット

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もう最近現実が忙しくてやってらんねーですわ


3 『ごめんなさい』

 え?記憶が無くなるってどんな感覚か?そんなの僕にだって分からないですよ。ほとんど無意識ですね、普通の人だってそうでしょ?重要なことからどうでもいいことまで全て覚えてる人なんていないんですよ、大体は知らない内に『あれ?これなんだっけ?』ってなるんです。でもそういうパターンはすぐに違和感を感じて失った記憶を思い出します。記憶喪失はその現象の失う記憶が複雑になってしまうパターンです、なので中々思いだせないんです。

 例えばある男性が記憶を失ったとして、自分の家族について忘れてしまったとします。普通なら『家族に関する記憶』以外の記憶が違和感を発信して思い出させます。ただこれが記憶喪失と判断される場合だと自分の家族やその他の記憶を見境無く消してしまう為、違和感を発信出来なくて中々思い出せなくなるんです。ようは自分の記憶を穴だらけにしてしまうんですね、不完全な記憶から完全な記憶は戻らないということです。

 だから分からない、現に僕も最初は知らない内にほとんど記憶を忘れてましたしね。でも今思うとあのときの方が幸せだった気がするんです。今は中途半端に記憶を取り戻してるせいでこの違和感(地獄)がずっと頭に響いてるんです。何もかもが満たされない、どんなに嬉しいことがあっても胸の空白は埋まらない。今だってたまに声が聞こえるんです。

『いつか来るその時まで、あの場所で待ってる』ってね。

 

———「ユズ」———

 

 

 初めはただお兄さんを止めるつもりだった、お兄さんを信じてなかった訳でもない。本当にお兄さんを説得するために私は学校まで着いてきた、でもお兄さんは私が本気で説得しても楽しそうに笑うだけ。

 

 妹さんに会いたい、その気持ちは分かる。私もそうだったから、お姉ちゃんがいなくなってからの1年間、お姉ちゃんと会いたいと思わない日はなかった。勇気を出しても虐めは完全には無くならないから、心が折れそうになったときはお姉ちゃんに会いたくなる。今は虐めに飽きてきたのか、もう虐められることはなくなった。でも友達はできないし、お父さんは常に仕事だから寂しくて、いつも一緒に居てくれたお姉ちゃんを恋しく思う。

 でもお兄さんは私より、家族は居ないし、心配してくれる人もいないと聞いてしまった。そのことを話すお兄さんの顔は寂しそうに微笑んでいるはずなのに目は底が見えないくらい真っ黒で、思わず後退りしそうになった。本気なんだと、そう思った。嘘でもない、妹の為なら命は要らないという言葉は本気だということを思い知らされた。

 そのことを知ってしまったら、もうお兄さんを止める言葉を口から出すことは中々出来なくて..だから私も覚悟を決めることにした、最悪の場合に備えて..できる限りの説得をしても、お兄さんは全く顔を変えない、全く考えを変えるつもりがないことが分かった。

 

そして来てしまった、その時が..

 

「ごめん、ユズ」

「まってッ!」

 

 行っちゃう、行ってしまう...お兄さんはまた私に全部を言わずに置いていこうとする。お兄さんを止められるのは私しかいないのに、私じゃ止められない..それなら..

 ごめんなさいお兄さん、約束破ります。お兄さんにとっては私を心配してあんな約束をしたのかもしれない、でも..それでも私は...

 

勇気を出して私、今行かなきゃまた後悔する!

 

 そして私はお姉ちゃんから教えてもらったおまじないを唱える。勇気が出てくる不思議なおまじない。目を閉じて、静かに心の鈴を鳴らす。

 

しゃりーん、しゃりーん...

 

 

「お兄さん!」

「ユズ!?」

 

 私はお兄さんに抱きついていた、もう引っ張ることは出来ないほどお兄さんの体は倒れている。でも離さない、今度こそ助けるって、後悔しないって決めたから!手を離さないを私を見てお兄さんも気づいた、落ちる寸前に見えたお兄さんは怯えた表情をしていた...

 

 

 

 

「ん..あれ?」

 

 気がつくと私は辺りが真っ白な場所にいた。可笑しいな、お兄さんと一緒に屋上から飛び降りたはずなのに...普通ならあの森に行くはずなのに、お兄さんも居ないし、もしかして..

 

「もしかして、私..死んじゃった?」

 

 そういえば飛び降りる前に、空を見ていなかったことに今気づいた。もしかしてそれのせい?手順を間違えた?だがさっきの光景を思い返すほど不安は膨らんで、絶望に変わっていく。

 

「そんなぁ..」

 

 あんなにお兄さんを1人にしないって決めたのに私が死んじゃうなんて思ってもいなかった。思わず目から涙が出る。どうしよう...

 

「大丈夫、君は死んでないよ」

「え!?」

 

 その声は突然聞こえた、さっきまで周りには誰もいなかったのに。でもそれ以上に驚いたのはその声がとても聞き馴染みのある声だったことだ。

 その声は1年前に聞いたあの声のままで、この1年間聞きたくて聞きたくて仕方なかった声だった。そして私は静かに振り向いた。そこには...

 

「やぁユズ、こんな形で会いたくなかったけどまた会えて嬉しいよ」

「お姉ちゃん!」

 

 姉が小さく笑いながら立っていた。

 

 

----「少年」----

 

 

アノバショデマッテルアノバショデマッテルアノバショデマッテルアノバショデマッテルアノバショデマッテルアノバショデマッテルアノバショデマッテルアノバショデマッテルアノバショデマッテルアノバショデマッテルアノバショデマッテルアノバショデマッテル

 

うるさい..

 

コッチニオイデコッチニオイデコッチニオイデコッチニオイデコッチニオイデコッチニオイデコッチニオイデコッチニオイデコッチニオイデコッチニオイデコッチニオイデコッチニオイデ

 

うるさいよ...

 

ハヤクキテハヤクキテハヤクキテハヤクキテハヤクキテハヤクキテハヤクキテハヤクキテハヤクキテハヤクキテハヤクキテハヤクキテハヤクキテハヤクキテハヤクキテハヤクキテハヤクキテ

 

静かにしてよ...

 

・・・・・・

 

 

 

「あ、あれ?」

 

 僕は気が付けば周り一面木々で覆われた中の開けた空間で倒れていた。僕はなにを...あぁそういえば森に行く為に屋上から飛び降りたんだっけ...でも見た感じここは森で間違いなさそうだな..

 

「そういえばユズは!?」

 

 そうだ、あの子も一緒に飛び降りたんだ!あれだけ危険に巻き込まないと決めたのに、結局巻き込んでしまった。急いで見つけないと!

やっぱり僕は...

 

「あの子は無事、ちゃんと生きてるよ」

 

 ふと気づくと目の前に女の子がいた、目の前のその少女は黒のシャツの上から白のロングカーディガンを羽織りショートパンツを履いていた。

 

特に服にはなにも思わなかったが顔は...

 

「あっ..もしかして..もしかして君は..!」

 

 ずっと昔に見ていた懐かしい顔、声..全てがあの子と一緒だ..!

 

そして少女は夜空のようなロングヘアーをなびかせながら一言小さく笑いながら、言った。

 

「久しぶり、お兄ちゃん。私の顔“だけ”は忘れてないようで良かった」

「あ、あぁ..」

 

 ようやく会えた、僕が人生を捧げてずっと探し続けていた妹だった。涙が出てくる。

 話したいことも聞きたいことは色々ある、でも1番聞きたいことがある。なんで僕から離れて行ったんだ、なんで急にいなくなったのか、沢山ある。

 

だが目の前の妹は僕が先に話す前に話し初めていた。

 

「やっぱり覚えてないんだね..」

「え?」

 

 覚えてない?何を?妹がなにを言ってるか分からない、だが何故か僕は冷や汗を流していた。

 

「僕?何が、覚えてないの?」

 

妹は悲しみを隠すように、言った。

 

「ほとんどだよ、お兄ちゃん」

「???言ってる意味が分からない..どういうこと?」

 

そして妹は続ける、僕が知らない事実を、話した。

 

「お兄ちゃんは私のことはなにも覚えてないってことだよ」

「え....」

 

僕は妹のことを知らない?なにを..言って、るんだ?

 

「そんな訳..ないだろ?ちゃんと妹のことは覚えて..る..ぞ...」

 

いま、なんて言った?僕は妹を名前で言おうとしたはずだ..なのになんで..『妹』って言ったんだ..?

 

「お兄ちゃんなら目を見れば嘘じゃないか分かるはずだよ、私は嘘は言わないってことも忘れてるみたいだね。じゃあお兄ちゃん、さっき私の服見て何か思わなかった?」

「それは..」

「何も思わなかったでしょ、じゃあこれのことは?」

 

 すると妹は表情を変えずにカーデを捲り、腕を見せてきた。腕には肘辺りには包帯が巻いてあり、手首には貝殻が中央についたブレスレットが通っていた。

 貝殻は綺麗で今日ユズに渡した首飾りみたいだ。だが妹との記憶はそれを見ても思い出さなかった。

 

「分からない..」

「ほら、何も分かってない。やっぱり記憶がないんだよ」

「でも、でも君のことを忘れてるなら『妹がいたこと』も忘れてるはずだ..!」

「それは『妹のこと』を覚えてるだけ、『私のこと』じゃないの。お兄ちゃん、今までユズちゃんと話してて私を名前で呼んだことあった?ずっと『妹』呼びだったでしょ」

「...!」

 

 僕は言葉が出なかった..思えばそうだった、いつもユズには『妹』と言っていた。心の中でもいつも『妹』としか言わずに名前を呼んでいなかったことに気付いた...

 

僕は座り込んで頭を抱えた。

 

「嘘..だ...嘘だ...!」

 

信じられなかった、ずっとお前のことは忘れていないと思っていたのに...

 

「やっぱりこれはまだ再会じゃない」

 

 妹はそう静かに言った、顔を上げると遠くを見つめていた。だがすぐ僕の方を見て悟ったように言った。

 

「お兄ちゃん、今はまだ再会じゃない。色々話したいことはあると思うけどいまのお兄ちゃんが聞きたいことは全部『昔のお兄ちゃん』が知ってる。だから思い出して、お兄ちゃんが全てを思い出してやっと私たちは再会できる」

「ま、待って!じゃあまた別れるのか!?せっかく会えたのに!記憶はないけど僕は君と離れる訳にはいかない!」

「ダメだよ、私たちが出会うことは神様にとって良くないことなの。だから今すぐ離れなきゃいけない」

「神様?コトリ様のことか?でもなんの関係が..」

「それも『昔のお兄ちゃん』が知ってるよ」

 

 妹は落ち着きながら言った、だが妹は僕の返事を待たずに素早く続ける。

その顔は覚悟を決めた目をしている、まるでいまからなにかをしようとしているような..

 

「お兄ちゃん聞いて、今のお兄ちゃんは『今の記憶』が邪魔をして『昔の記憶』が思い出せない状態なの。だから『昔の記憶』を思い出す為にはお兄ちゃんを『昔の状態』に戻すしかないの。だからね..」

「なにを..何するんだ..」

 

 妹は一歩、また一歩と近づいてくる、僕は思わず座り込んだまま後ずさる。妹が言ってる意味が分からない訳じゃない、妹が今から僕にやろうとしていることが怖くて仕方ない。

 

「やめてくれ..嫌だ..もう嫌なんだ..記憶が消えて苦しむのは..」

 

 なんでこうなるんだよ..僕に残された最後のやるべきことをする為に来たのに..記憶すらも..残してくれないのかよ..!

 

妹は本当に目の前まで来ていた、あれだけ会いたかった妹が今は怖くて仕方ない..

 

「ごめんなさいお兄ちゃん、『昔の記憶』を思い出したら『今の記憶』も一緒に思い出せるから。それにお兄ちゃんが記憶を思い出してくれないと私が寂しいし、再会する意味が無くなるから。大丈夫、今日は私もいるから」

 

そして妹は僕の胸に手を当てる。

 

ドクン、ドクン...

 

 急に動悸が激しくなる、それと同時に今までの記憶が次々にフラッシュバックし消えていく感覚がある。思わず横に倒れてしまう。

 

嫌だ..嫌だ...

 

すると自分がいつしか忘れていたであろう記憶が蘇ってくる。

 

鈴守送覧祭(れいしゅそうらんさい)がもうすぐだからな、祭りの準備をしとけよ』『〇〇〇を守ってあげてね』『兄として、男としてあの子を守ってやるんだぞ』『だからって嫌よ!あんな小汚くて気味悪いガキ!』『出ていけこの疫病神!』『お前らが来たせいで俺たちは不幸なんだ!』『俺がお前を守るからな』『約束、守れなかった...』

『ごめんなさい』『ごめんなさい』『ごめんなさい』『ごめんなさい』『ごめんなさい』『ごめんなさい』『ごめんなさい』『ごめんなさい』『ごめんなさい』『ごめんなさい』『ごめんなさい』『ごめんなさい』

・・・・・・

 

・・・・・・

 

・・・・・・

 

『いつか必ず迎えに来てね、いつか来るその時まで..あの場所で待ってるから』

 

最後に響いたのはその言葉だった...

 

----「ユズ」----

 

 

「お姉ちゃん!」

「おっと、久々だなぁこの感じ」

 

 そう言いながらもお姉ちゃんは嬉しそうに言いながら、私を抱きしめてくれた。私も返事をするように強く抱きしめる。ちゃんと触れる、それに暖かい...死んだのが嘘のように思えるほどお姉ちゃんは生きているみたいだった。

 

「ユズ、ちょっと長くない?」

「あっ、ごめんなさい..」

 

 私はちょっとしょんぼりしてしまった、会えないと思っていたお姉ちゃんにまた会えたんだ、今の内に触れられるだけ触れて起きたかった。するとそれを察したのかお姉ちゃんは私の手を握ってくれた。その手は暖かくて幸せだった。

 

「ユズ、ごめんだけどゆっくりはしてられないよ。ここは生きてる人はあまり長くいたらいけないんだ」

「そうなの?」

「うん、ここは死んだ人が生きてた頃の記憶を消して、成仏する為の場所なんだ。だから生きてるユズがここに長くいると、そのままユズも記憶が無くなって死んだことになっちゃうんだ」

 

 私は思わずゾッとした、こんなに何も無いだけの場所がそんなに怖い場所だとは思わなかったから予想外だった。

 

「私はユズを森まで案内するために来たんだ、だから一緒に行こう。森から出る方法は覚えてる?」

「大丈夫だよ、今度はちゃんと覚えてる。ありがとうお姉ちゃん」

「そっか、じゃあ着いてきて」

 

 お姉ちゃんは少し笑って私の手を引いて歩き出した。そのお姉ちゃんに私も着いていく。

 私は聞きたかったことを聞いた。

 

「お姉ちゃん、なんで私こんな場所に来ちゃったの?前に屋上から飛び降りたときは森に着いたのに」

「それはユズが中途半端に飛び降りたからだよ、神様のあの森とこの場所は詳しくは分からないけど似たような場所なんだ。ユズはあのお兄さんに抱きついて森に行こうとしたけど、あの腕に掴まれていなかったからあの手がお兄さんを森に連れて行く途中に落っこちてこの場所に来たんじゃないかな」

「そうだったんだ..」

 

 でも後悔はない、お姉ちゃんとこうやって話が出来たから。

 そのあとはしばらくお互いなにも話さなかったけどようやくお姉ちゃんが話し始めた。

 

「私、死んでからもずっとユズを見てたよ」

「うん」

「料理に失敗してるお茶目なユズも..道で石を踏んで転んじゃうドジっ子なユズも..私とムギのお参りを毎月ずっと来てくれてる優しいユズも..どれだけ泣きそうなことがあっても、我慢して、前を向いてる強いユズのことも..あのお兄さんを助けようと頑張るユズも全部見てた」

「うん...」

 

 最初はちょっと恥ずかしかったが段々とお姉ちゃんは私を見てくれてることを知れて嬉しくなった。お姉ちゃんは優しく私を見た。

 

 

「偉いね、あんなにぽやっとしてたユズがこんなに強くなって私は嬉しいよ」

 

 

 私はそれを聞いて泣きそうになる、やっと頑張っていたことが認められた気がして、報われた気がして...

 だけど次のお姉ちゃんの言葉で泣くことはなかった。

 

「もうユズは私が見ていなくて大丈夫そうだね..」

「え?それって..」

 

 お姉ちゃんは答えない、ただ寂しそうに笑うだけ。どういう意味かは流石の私でも分かる。

 きっとこれが最後なのだろう..いや、これを最後にするつもりなんだろう。

 でも寂しくはない、私は決めたんだ、もう泣かないって、1人でやっていかなきゃ、お姉ちゃんが満足に成仏出来ないんだ。

 

「大丈夫だよ、お姉ちゃんに見てもらわなくてももう私は大丈夫だから..だから..心配しないで」

 

 お姉ちゃんは私の言葉を聞いてビックリしていたが、少し目に涙を浮かべて微笑んだ。

 

「ははっ..そう言いながら、ユズも寂しいんじゃないか」

 

 

 そして少し歩いたあとお姉ちゃんは止まった、そこは境界線のようなものがあり白い空間と森が広がる空間がきっぱりと別れていた。ここでさよならみたい。

 

「それじゃあ、私が着いていけるのはここまで。ここからは1人で行くんだ、お兄さんは多分あの最初の所じゃないかな。お兄さんには『大丈夫だよ』って言っといて」

「うん、ここまでありがとうお姉ちゃん!」

 

 そう言って私は森の方まで歩いて行こうとした、だが手を引っ張られた。

振り返るといきなりお姉ちゃんに抱きしめられた。

 

「いってらっしゃい!ユズは私の自慢の妹だよ!元気でね!」

 

 珍しかった、お姉ちゃんはいつも大人しい性格で中々慌てたりすることも、感情的になることはなかったからビックリした。

そして私も元気に抱きしめて言う。

 

「いってきますお姉ちゃん!今までありがとう!私頑張る!」

 

お姉ちゃんは満足そうに笑った、そしてお互いに手を離した。

 

 

 

 

 そして私は森に入った、相変わらず冷たくない雪が地面に積もっている。私は真っ直ぐに道を歩く、後ろは振り返らない。また涙が溢れるかも知れないから。あの時から何も変わっていない、時間がバラバラになっているのは覚えているけど景色はなにも変わらないらしい。

 

 しばらく歩いていくと見慣れた岩の側にうずくまるお兄さんがいた。

慌てて私はお兄さんに駆け寄る。

 

「お兄さん!お兄さん!大丈夫!?」

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

 

いくら話しかけてもお兄さんは下を向いたままうわ言のように『ごめんなさい』と謝ってる。

 

「何があったの?」

 

 私が初めて森に来たときでもお兄さんのようにはならなかった、まるでお姉ちゃんが呪いにかかったときみたいに..

 とりあえず今は森から出ないと、もし呪いにかかってたとしても解き方が今回は分からないからいまは出ることを考えよう。

 

 そうしてお兄さんをなんとか担ごうとした、すると声を掛けられた。

 

「今はそっとしておいてあげて」

「え?」

 

 するといつの間にか後ろに女の子がいた、夜空のような髪をなびかせながらカーディガンがとても似合う子だった。女の子は確かめるように言った。

 

「初めまして、ユズちゃん..で良いかな?私はこの人の妹だよ。お兄ちゃんから話は聞いてると思うけど」

「あなたがお兄さんの妹..?」

 

 想像以上に綺麗な姿をしていて、予想以上にすんなり会えたことに私は驚いていた。でもお兄さんはなんでうずくまってるの?妹さんに会えたとしてもこんな状態には普通ならないはずだ..

 

「そうだよ、私がお兄ちゃんがずっと探してた妹。お兄ちゃんがお世話になってます」

「あ、いいえ!そんな..」

 

 そう言ってぺこりお辞儀をした、とても礼儀正しい...本当に全てが完璧みたいな子だった。

 とりあえずお兄さんの妹と名乗る女の子にずっと疑問に思っていたことを聞いた。

 

「あの、やっぱりあなたは死んでるの?」

 

 見たところ私と同じくらいか1つ下の歳だ、お兄さんは妹がいなくなったのは10年前と言っていたがこの森の時間はあやふやなので本当のことは分からない。

 

「多分死んでるんじゃないかな..私たちが9歳の時に私はここに来てお兄ちゃんがこんなに大きくなってるってことは結構時間が経ってるから死んでると思う」

「そうなんだ..」

 

 お姉ちゃんが1年であれだけ苦しんでたんだ、10年もここにいた人が生きてる可能性なんて無いに等しいことは分かってた。でもやっぱり少し残念な気持ちだった..

 するとそんな私を見て女の子は悪戯っぽい顔をして言った。

 

「なんでユズちゃんが悲しむの、私たちまだ会って5分くらいしか経ってないと思うよ?」

「だって、あなた死んでるんだよ?誰だって死んじゃったら悲しいよ..それにお兄さんはあなたを探してずっと..」

「そうだね、確かにお兄ちゃんは悲しむんじゃないかな..」

 

そう言って女の子は悲しい顔をした、でも私を真っ直ぐに見て言う。

 

「でもこうしないといけなかったから、仕方ないと私は思うな」

「どういうこと?」

 

 こういうこと?ってなんだろう。そもそもなんでこの子はいなくなったのかを聞くためにお兄さんと探していたんだ、今なら聞けるかな?

 だけど女の子は分かっていたのか口に人差し指を当てて喋り始めた。

 

「それは言わない、誰だって聞かれたく無いことがあるんだよ」

 

「でも・・・」

 

 

いまもずっとうずくまってるお兄さんを見る。

 

いまのお兄さんの様子は明らかに変だ、もしこれが呪いのせいならお姉ちゃんのときより呪いが進むのが早い..どうして?

 

「お兄ちゃんのは呪いじゃない、ユズちゃんも呪いにかかってないよ」

「え?どうして?じゃあなんでお兄さんは..」

「今回2人は神様を怒らせるようなことはしてないからね、お兄ちゃんのことは..必要だったからとしか..とりあえず今はこの森から出た方がいいね」

 

 私は女の子を見た、なんかずっとはぐらかされているようだ。理由を口から言わないのは何か意味があるのかな?

 聞きたいことは沢山あるけど多分はぐらかされると思うし、お兄さんが心配だから早くここから出なきゃ...

 

「とりあえずお兄さんを運ばなきゃ..」

「私も手伝うよ」

 

 なんとか2人でお兄さんを担いで、出口を進み始める。お兄さんはもううわ言すら言わなかった、でも息はしてるから死んでは無い。

 すると女の子が話しかけてきた。

 

「あなたはまだお兄ちゃんに着いて行くの?」

 

「・・・私はお兄さんがこの街を離れるまで着いていくつもりだよ」

 

「・・・私が言いたいのは森から出てもお兄ちゃんと一緒にいるのかってことだよ。目が覚めたらお兄ちゃんは...」

 

「???どんなことが起きても私はお兄さんを1人にしないって決めたから、今日はお兄さんの体調が良くなるまでずっと側にいるよ」

 

「そっか..ユズちゃんは優しいね」

 

 なにか意味ありげに言う女の子を少し見たあと、いよいよ次に聞きたかったことを聞く。

 

「あの、あなたの名前はなんて言うの?ずっと名前を言ってくれないから気になっちゃって」

 

すると女の子は切ない表情をして、こう言った。

 

「ごめんね、実は名前忘れちゃったんだ」

「え!?そうなの?」

「うん、もう長いことここにいたらしいし随分名前を呼ばれてないから..」

 

 言われてみればそうだ、10年もこんなところにいたんじゃ色んなことを忘れていても仕方ない。なんならまだお兄さんのことを覚えているだけ凄いのかも知れない..

 

「ごめんなさい..」

「大丈夫だよ、自分のことを忘れてる私が1番ドジだから..これじゃあお兄ちゃんのことは言えないな..」

 

 最後に何か言っていたみたいだけど聞き取れなかった。申し訳ない気持ちになった、デリカシーのない自分にちょっと怒る。

 

 すると女の子が止まった、前には出口に繋がる青い鳥居がある。いつの間にか到着していた。

 

「着いたね、でもここを通る前にちょっとここで目を瞑ってくれる?」

 

「どうして?」

 

「多分私はもう幽霊だから、ここから出ちゃうとユズちゃんには見えなくなると思う。それにこの街の夜はお化けが沢山出る、だからお化けが見えるようにユズちゃんの目におまじないをするの」

 

「前に森から出た時はなにもしなくてもお化けが視えたけど、そんなことができるの?」

 

「うん、昔からそういう不思議なことが出来るんだ。安心して、効果は朝までにするから。ユズちゃんは大丈夫?止めるなら今だよ?」

 

「大丈夫、前にもお化けは見たしお兄さんを助けたいから」

 

「わかった、じゃあ目を瞑ってね」

 

 そして私は言われた通りに目を瞑る、すると女の子が私の目に手を重ねた。じんわりと手が暖かい、まるで眠たくなる優しい暖かさだ。

 

少しこの状態が続いたあと、声が聞こえた。

 

「もういいよ」

 

 そして手が離れた、もう少しこのままが良かったけど仕方ない。ゆっくりと目を開けるとさっきとあまり変化は感じなかったけど少し目が良くなった気がした。

 

「これで大丈夫、じゃあ行こっか。ちゃんと目を閉じて歩いてね」

「う、うん!」

 

そうしてお兄さんをまた担いで目を閉じながら鳥居を潜った。

 

 

 

 

 気がつくと私たちはビルの屋上に着いていた、今度はお兄さんもちゃんといるし、女の子もいた。夕陽は少し前に沈んでいまは月明かりが街を照らし出していた。

 女の子は少しビルからの景色を嬉しそうに眺めていた。それはそうだ、10年もあの森から出ていないから懐かしいんだろうな..

 

「久しぶりだな...」

「・・・」

 

 いまは邪魔したくない、だけど女の子は少し残念そうに目を閉じたあと私に向き直った。

 

「ありがとう、君のおかげでまた街を見ることが出来たよ」

「私は何もしてないよ、お兄さんがいたからあなたはあそこから出られたんだよ!」

 

 女の子は優しく笑った、その直後別の人の声がした。それはさっきまでずっと苦しんでいたお兄さんの声だった。

 

「あれ..ここは..?」

 

 お兄さんはゆっくり立ち上がる、そして辺りを見渡す。女の子が予想外なことだったのか真っ青な顔で慌ててお兄さんに言う。

 

「あ、あのねお兄ちゃん..そのね..」

「なんでこんな暗い時間にこんな変なビルにいるんだ?なんで“ヒトミ”もいるんだ?それにヒトミお前、身長低くくないか?」

 

 私は慌ててお兄さんに声をかける。

 

「お兄さん、大丈夫!?私がいないときになにがあったんですか?」

 

 お兄さんはじっと私を見た、その目は今まで私を見ていた優しい目じゃなくて疑問を持つような目だった。

 

 なに..?今までのお兄さんじゃないみたい...

 

そしてお兄さんは言った、その衝撃的な一言を...

 

 

「君は..誰だ?」

 

「え?」

 

え?どういうこと?訳が分からないよ..私のこと忘れちゃったの?

 

「え?お兄さん..私のこと忘れちゃったの?ユズだよ..覚えてないの?」

「知らないな、君と“俺”は会ったことあるのか?」

「待ってお兄ちゃん!最初から説明するからちょっと待って!」

 

 そして女の子はショックを受けてる私にそっと話しかける。

 

「お兄ちゃんが目を覚ます少し前に全て話すはずだったの、でもこんなに早いなんて思わなかった...本当にごめんなさい..だからね、いまのお兄ちゃんは、その...」

 

 女の子は必死に説明しようとしてるけど私は全て聞く余裕がなかった、回らない頭の中からやっといまのお兄さんに聞きたい言葉を口に出すことが出来た...

 

「じゃあ..いまのお兄さんは、ヒロトお兄さんじゃないの..?」

 

するとお兄さんは困惑した様子で私に言った。

 

「ヒロト?俺の名前は...」

 

そしてお兄さんは理解が追いつかない私を見ながら言う、本当のことを...

 

「俺の名前は、シオンだけど...」

 

 その言葉はいまの私にはショックで立てなくなるぐらい、私の深いところまで突き刺さった。シオン?お兄さんはヒロトって名前じゃ...

 その横で見ていた女の子は必死に何かを言おうとするが、なにも言えずに見ることしか出来なかった...




さぁやっとここから鬱展開始まりますよー!自分で作ってる話なのにオーサムシティクラブの勿忘聴きながらユズとコトリが別れるシーン作ったら泣きそうになってしまった..
次回は知らん!
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