間に合わなかったので供養
・ご好意で間に合ったことにして頂きましたァッ······!
「…同窓会、かぁ」
冬の12月、クリスマスも来ようかとしている時期だった。その中で男は少し古ぼけたガラケーに入ってきていた『同窓会開催』通知のメールを片目にうんうんとベットの上で唸っていた。
今更、同窓会なんて面倒だという気持ちとせっかくの機会なのだからと思い悩んでいるようだった。既に年齢なんて30を過ぎてしまったクラスメイト達だ。もう何年も会ってない、最近何をしているのか知らないのだ。そんな中で、いまだ独り身のうえ幸せな生活をしているとは到底口が裂けても言えないほどの生活環境。
日々の時間が無意味に消費されていく、生きているだけの社会マンとなり果ててしまった自分が、もし幸せそうなクラスメイトの顔なんか見てしまえば、情けなくて見せる顔がない。
そう思い悩む男に、新しくメールが届く。
「久しぶりに見たなこの名前。…参加表明してないから心配してやったねぇ」
届いたのは、当時仲良くしていた女友達からの『同窓会に参加しろ』という内容のメールだった。当時から女はガサツで粗暴で横暴で、男のような奴だった。だからこそ接しやすく距離感も近い関係で、異性ながらも一番仲の良かった親友だと言っても過言じゃなかった。
それも、結局は当時の話に過ぎなかったが。そんな女にも男は会わなくなって久しい。
「行ってみるか、同窓会。開催日いつだっけ…うわ、今日じゃん。マジかよ、それならあいつももっと早く送って来いよ…」
男は急ぎ身支度を整え、同窓会の開催場へ急ぐ。
見栄を張った左薬指につけた指輪を光らせながら。
開催場は運よく男の住む場所の近くだった。場所は居酒屋らしく、今日のために無理を言って貸し切りにしてもらったらしい。
日々の疲れをかつての旧友と酒を飲みながら、思い出話でもして癒されたいのだろう。開催場のチョイスに歳が漏れ出ているような気もするが。
既にクラスメイト達は集まっているようで、中の様子は騒がしい。こんな自分でも馴染めるだろうか、上手く話が出来るだろうか。そう心配していると急に扉が重く感じるような気がして、開けるに開けられない。
「やっぱり帰ろう…」
「おおっと、そうはさせないぞ。いつまでたってもうじうじしてんな、よくも悪くも変わってなくて安心したわ」
「おわっ!? なんでここに居るんだよ!?」
「いや、今来たからだろ」
やはり自分には無理だと、諦めて帰ろうとした男の背後から。困ったような顔をしながらそう声をかけてきたのは、メールを送ってきた女だった。当時よりも、すこし背も髪も伸びてどことなく女らしさを感じさせる風貌だった。そしてよく見て気づく、女の左手の薬指に嵌められている指輪に。
「…え」
「どうした? ホラ早く入るぞ?」
「いやいい、やっぱかえ、ぐぉ!?」
「はいはい、さっさと入るぞ~」
中に入るとクラスメイト達が女たちの方を一斉に見る。やれ「主役の登場だ」だの「早くしちまえよ」だのと女側を茶化すような言葉が聞こえてくるのと同時に、男は女が今回の同窓会の開催者であるのを知った。
「あー、まぁ…うん」
そんあ言葉に歯切れの悪い言葉を漏らす。
居心地の悪い空気を感じながら、男の同窓会は始まった。
始めは当時、話していた男のクラスメイトに囲まれ質問攻めにあったり、ひたすらにもみくちゃにされた。ただ、やけに指輪を見てにやにやと笑っていたのだけは気にかかった。
次は、女性陣方面からの刺されるような視線に耐えながら、同窓会は終わりの時間に近づいて行った。
「ひどい現場だ…」
男性陣はほとんどが泥酔状態。会計を終えて店を出た時点で足取りがおぼつかない状況だった。
「ほら、おまえらしっかりしろぉ、二次会行くやつは気をつけてな。てか、そいつ明日仕事とか言ってなかったか? 大丈夫かよぉ~」
幹事故か、そうクラスメイト達を束ねる女を見ながら。やはり昔から女のことをすごいやつなんだ、と虚しさを感じながらゆっくりとその場を後にする男。
同窓会でも何故かすごく歓迎されていたが、やはり居心地の悪さを感じていた男にはこれ以上居るのは居た堪れなくなった。それと同時に、女の指輪がずっと頭から離れない。こんなにも女々しいやつだったかと、自分を嘲笑いたくなる。
言いようのない気持ち悪さを抱えながら、帰路についていた。
「……おーい!」
そんな男にまた背後から声をかけるのは女だった。どうやら姿を消した男のあとを急いで追いかけてきたようで肩を上下させながら近づいてくる。
「ど、どうしたんだよ。忘れ物でもあった?」
「い、いやそういうわけじゃないんだけど…そのなんだ、2人で飲みなおさないか?」
「…あー、まぁ会うことも少ないしな。少しくらいなら」
「っ、そうかそうか。じゃあ行こうぜ」
「おぉ…」
女につられてきたのは、またもや居酒屋だった。違うのは少しこじんまりとしているところだろうか。
「ここ私の行きつけ」
そうなのかぁ、と小耳程度に聞く。当時と違い改めて女が酒を飲めるほどに成長していることに驚く。
「あのさ、私まどろっこしいことは嫌いだからさ」
「おぉ、なに?」
「あの時の約束覚えてる?」
「約束? なんかあったっけ、あぁ五百円返すやつ?」
「いやちげぇよ。三十までなっても独り身だったら結婚しよーぜってやつ」
「あぁ」
そんなこともあったなと思い出す
「でもまぁ、お前のそれ。相手いるみたいだし、この話は無しだな。結構わたしさぁマジだったんだぞ、言う勇気なくてあんな風になっちゃけどな」
「それ言うなら、お前もだろ」
「……? あ、あぁーこれか。いや、もういらねぇしやるよ」
「いらないってお前」
「本当はこれな、ん」
そう渡されたのは指輪の箱だ。プロポーズの時によく見るやつだ。ここまで来て察しの悪い男ではないその意味を、ようやく理解する。同窓会の時のアレもそういうことだったのだ
「…マジ?」
「大マジ。意味なくなったけど」
「…っ、あははははは。なんだよそれ、早く言えよぉ」
「おい、笑うなよ。人生初の失恋なんだぞ」
「いやいや、そういうことじゃなくてだな。これやるよ」
「…なんだそれ、そういうこと?」
「じゃあ、するかぁ」
「…私たちらしいかこれも。プロポーズはやりなおせよ?」
「はいはい、わかってるよ」