昔の人は夜目が利いた。
そんな話を聞くことがある。
確かに時代劇を見たり昔話を聞いたりすると、提灯の明かりだけで歩いていたり、夜の山道を何の明かりもなしに走って家まで帰っていたりする。
俺の爺ちゃんは夜目が利くのかお祭りの帰りによく俺の手を引いて家まで帰ったものだ。
当時から歩道の整備は始まっていて、爺ちゃんが住んでいる地域では電気などの比較的費用がかかるものよりも、ガードレールなどが優先的に設置されていた。
俺は幼かったから、夜道を歩くのが怖かった。
「爺ちゃん、今何時?」
「そうだな・・・・・・大体7時半ってところだな」
「え!?わかるの!?」
「ハッハッハ!」
そうやって俺に時間を聞かれて答えたり
「ねえ、あとどれくらい?」
「そうだな・・・・・・もう2、3個信号を渡るくらいだな」
こうして家までの距離を答えてくれたりしていた。
俺が高校生になると、爺ちゃんはあることを暴露した。
「お前が小さい頃、祭りから帰る時に、あとどれくらいで家に着くか聞いてきたことがあったな。あれは昔ここらへんの信号の数が少なくて、数を覚えててな。それで信号って光ってるだろ?それでちょっと計算してたんだ」
というふうに言われた。
「そうだ。ちょっと近所に野菜を届ける約束をしていたんだった。ついてくるか?」
そう尋ねる爺ちゃんに返事をして、俺は爺ちゃんについていった。
俺が小さかった頃と違い、整備された歩道には等間隔に街灯が設置され、信号も増えている。昔のような暗闇はすでに無くなっていた。
確かに便利にはなったが、かつてのあの恐怖や手を引く爺ちゃんの格好良さも無くなったと思うと、少し寂しさを感じる。
「爺ちゃん、どれくらいで着くの?」
「そうだな・・・・・・まあ20分も歩けば着くな」
そこはやはり田舎。
近所が遠い。
車通りも無く虫の声も聞こえてこない、静かな夜道。こんな時間に歩道を歩いているのは俺と爺ちゃんの2人くらいだ。
「お、そうだ。ここ右に行くと近道だぞ」
「え?」
爺ちゃんが指差した道は街灯が無い、所謂裏道だった。
「なんだ?怖いか?」
「いや、だって前が見えないでしょ」
「いやあ、見えなくてもいけるさ。手ぇ繋いでやろうか?」
「いやいいけどさ・・・・・・」
渋る俺をよそに爺ちゃんは暗闇を進んでいく。
「おーい、どうした?」
「爺ちゃん、懐中電灯とかないの?」
「無いなあ」
「じゃあ、なんでそんな歩けるのさ!」
困惑した声を出すと、爺ちゃんは口角を上げながら戻って来た。
「覚えてるっていうのもある。でも、これ」
そう指差す先には、点字ブロックがあった。