クロック・パーミッションは最強のデッキだからね 作:人生ローキック
オリジナル:現代/冒険・バトル
タグ:TCG クロック・パーミッション クロック・パーミッション最強 クロック・パーミッション主人公
こんな環境で生きるにはそれしかないと思うんだ。
―皆さんは“クロック・パーミッション”という言葉をご存知だろうか?―
恐らく、この質問にYESと即答出来る人はトレーディングカードゲームに馴染みのある人の中でもある程度限られるだろう。
ここで言う“クロック”とはゲーム終了までのカウントダウン、すなわち相手プレイヤーに直接攻撃を仕掛けるモンスターカードを指し、“パーミッション”とは相手プレイヤーが使用するカードを許可制にすること、すなわち妨害カードのことを指す。
通常、ビートダウンやアグロと呼ばれるデッキを相手よりも先にゴールテープを切ることを、コントロールやロックと呼ばれるデッキが相手のゴールテープをなるべく遠くに押しやるデッキだとしたら、この“クロック・パーミッション”は“相手よりも少しだけ先にゴールテープを切ること”を目的としたデッキだ。
一見、このデッキは攻守共にバランス良く、最強のデッキに思えるかもしれない。けれど実際には、攻守共にそれを専門とするアグロやコントロールに劣るため、どちらも中途半端な器用貧乏になる印象だ。(もちろん、極端な不利が付くわけではない。そこも良くも悪くも器用貧乏だ)
それでは、なぜそんな中途半端なデッキが世に生まれたのかと言われれば、その理由は第三の選択肢、すなわち“コンボ“の存在に行き着く。
アグロとコントロールを、それぞれ“相手より速くゴールするデッキ”と“相手のゴールを遅くするデッキ”とするなら、コンボデッキは“何かしらのズルをしてアグロよりも更に速くゴールするデッキ”という位置付けだろう。そのゴール方法は徒競走なのにバイクを用いたり空を飛んだり、果てはどこでもドアを用いたりと節操がない。
こういったコンボに、アグロは基本無力だ。コンボが台頭してきた時点でアグロとのスピード勝負に勝つ目算が立っているということでもあるけど、何よりアグロにはコンボのズルを止める手段が無い。
じゃあコントロールは?と思うかもしれないけれど、こっちは妨害カードを投入している分まあアグロよりは大分マシ。けれど、実際にはコントロールもコントロールで最終的にゲームを終わらせるためのカード―俗に言うフィニッシャー―だったり、対アグロで重要となるモンスター破壊カードを入れたりと、無打牌は意外と多く、そうなると一枚二枚でゲームを終わらせてくるコンボに隙を突かれて敗北する未来が割と見えている。
ここまで聞くとコンボこそが最強のデッキに聞こえるかもしれないし、事実凶悪なコンボデッキが台頭した環境は環境が荒廃に荒廃を重ねた末にキーカードの禁止をもって終焉を迎えるのが常だ。
―そんな無法地帯を泳ぎ切るためにプレイヤーが開発したのがこの“クロック・パーミッション”なのだ―
クロック・パーミッションは軽量で良質のモンスター少量と非モンスター呪文妨害や一定量の火力カードで構成されていて、コンボの準備が整う前にクロックを着地。攻撃開始と共に妨害札を構えて相手のコンボ始動のみを的確に止めるという立ち回りを取る。
結果、コンボ前にゲーム終了までのカウントダウンが始まり、更にコンボ始動時には複数枚の妨害を乗り越えなければいけないという、一枚二枚のパーツに依存したコンボデッキにとっては死ぬほどきつい環境が整うことになる。
―ぼくはそんな“クロック・パーミッション”が最強のデッキだと思っている―
いや、“考えている”なんて生易しい感情ではない。“信奉し、信仰している”と言っても過言ではないだろう。
なぜそこまで“クロック・パーミッション”を偏愛しているのか?たかがトレーディングカードゲームに対してと気味悪がる人も多いだろう。或いは同じカードゲーマーなら“同じアーキタイプばっかりで飽きない?”と不思議に思うかもしれない。けれどもしも、もしもだ、
「クケケケケ! 貴様ガコノ町デ最強ノ決闘者、鱸昇太ダナ! 我コソハ牛山コーポレーション四天王ガ一人、“不死”ノ美尊王!! 牛山コーポレーションニ逆ラウ不届者ヨ、我ガ不滅ノデッキニテアノ世ニ送ッテヤロウ!!」
「どう考えてもリアニメイトデッキ使いじゃねえか!? そこまでするかてめーら!?」
こんな状況になれば、ぼくと同じ思考と嗜好になる人間は少なくないと思うんだ。
この世界、地球とよく似ているけどディティールに大分差のあるここは、世界の殆どがカードゲームで決まる世界だ。
日常の遊戯はもちろん、親子のしつけもカードなら、果ては世界経済を牛耳る大財閥や政府関係の外交すらカードゲームが絡むという有様で、はっきり言ってデッキを所持していなければまともに日常生活すら送れない有様だ。
そんな世界であれば、当然のように犯罪関係もカードゲーム絡みになる。具体的には強盗もカードゲームで脅し、狙うのもカードなら、警察官が取り出すのも拳銃ではなくカードのデッキだ。
しかも何が最悪って、
「先攻ハ我ガ貰ウ!」
「てめっ!?」
これである。なんとこの世界、先攻後攻が完全に言ったもの勝ちなのだ。往来で突然勝負を仕掛けてきて、当然の様に先攻宣言。最悪である。
ターン制のゲームは基本的に先攻が大きく有利な構造になっているのはある程度知られた話だろう。これはトレーディングカードゲームに限った話ではなく将棋なんかも同様で、囲碁なんかは先攻後攻のハンデのために何目か差をつけるルールになっている。
そんなゲームと知りながら、往来で突然勝負を吹っかけてきた上に恥ずかしげもなく先攻を毟り取っていく。最悪だ。しかも、
「ククク、コノ一撃デ貴様ヲ抹殺シテヤロウ!!」
しかも、カードゲームがナイフや拳銃として機能する世界。すなわちゲームは基本一本先取のBo1。最悪極まりない。
「出デヨ!! 奈落丿王、死神ハデシュキガル!!」
しかも、こんな環境で当然のごとくリアニメイトやチェーンコンボ、果ては初手ロックと強豪プレイヤーはどいつもこいつももわからん殺しに余念がない。つくづく最悪極まりない!!
「ハハハ、恐レ慄ケ!!」
まあ、
「ハデシュキガル丿効果デ、墓地ニ置カレタモンスター丿効果ヲ全テ使用スル!!」
コンボだらけと分かっているなら、
「コレデ“身を削るもの”ト“知識を削るもの”丿効果ヲ併用!! デッキヲパワーニ変エ、パワーヲダメー「あ、その前に“邪悪な復活”に“除外”です。ハデシュキガルは戦場に着地せず、そのまま墓地です」エ?」
手はいくらでもあるんだけど。
「ア、アノ……」
「それじゃあ、ぼくのターンで“浄化の女神テオトル”を召喚。コストを払ってハデシュキガルを墓地から追放してターンエンド」
「ラ、ライフヲ払ッテ“死者の知識”ヲ」
「じゃあターンを貰って“検閲”を。ハンドを見せてください」
「ウゥ……」
「あ、“邪悪な復活”がありますね。じゃあこれ捨ててください」
「ハイ……」
「テオトルでアタックしてターンエンド」
「ドロー……エンド」
「エンド時にテオトルの効果を起動して墓地のカードを三枚追放します」
「ハイ……」
「じゃあターンを貰ってドロー。アタックしてエンドです」
「……エンド」
「エンド時に“巡る知識”でデッキトップ三枚を確認します……一枚引いて残りを下に。ターン貰います」
「……」
―――
――
―
こうして8ターン後
「負ケマシタ」
「はい、ありがとうございます」
戦場のテオトルが墓地を荒らしながら、延々と相手をどつき回して勝利した。
「イヤ、オ強イッスネ」
「そうでもないですよ」
いや、ほんとに。
「ソレジャアコレデ……」
「はいはい」
明らかに肩を落としてすごすごと立ち去る仮面マントを見送りながら、ぼくもデッキを仕舞ってこの場を後にする。基本、コンボに振り切ったリアニメイト相手だったのもあって妨害は殆ど受けなかったから、まだお昼には間に合うはずだ。
◆
さて、こんなカードゲーム脳に侵された世界に住まうぼくは実は異世界からの転移者だ。あ、そこ引かないでほしい。いや、脳はおかしくなってないからね?
元々、トレーディングカードゲームこそ存在するものの、あくまでごく普通の紙でできたテーブルトップを遊んでいたぼくはある日突然、対戦中にカードから発せられた光に飲み込まれて、この不条理極まりない世界に降り立ったのだ。今でもその時のことは克明に覚えていて、
―なんだあ? てめぇ……―
なんか、北◯の拳に出てきそうなモヒカン数人が明らかにそこら辺のサラリーマンと思われるおじさんを放置していたのだ。
ただし、ナイフの代わりにカードを突きつけて
正直、あまりにもあんまりな光景に絶句していると―
その時は運良くデッキ相性差に助けられて勝利したけど、その後サラリーマンのおじさんにこの世界のことを聞いたぼくは即座にカードショップに駆け込むと、そのまま持っていたデッキの大半を売払い、今のクロック・パーミッションを組んだのだった。
正直、言ったもの勝ちの先攻ゲーでBo1というクソ環境でビートダウンを握る勇気はぼくには無かった。
こうして、この世界に適応していったぼくだけど、すぐに次の問題にぶち当たることになった。
まず一つ目はこの世界が“ぼくがかんがえた最強デッキ”の押し付け合いを至上とするソリティア大好きマンだらけの世界だったということだ。
このおかげで、カウンターカードは“つまらない”と毛嫌いされていて、デッキに入れるのは“格好悪い”と忌避されるのが常だった。いやほんと変だとは思ったんだよね。“絶望神ホープレス”のカードがそこそこの値段になったのに、手札をコストにカウンター出来る“除外”がワンコインもせずに購入できたし。おかげで付いた渾名が“
けれど、それ以上に問題だったのが、この世界がカードゲーム至上主義の世界で、メタ上の立ち位置の良さによって連戦連勝を重ねると、この世界の偉い人たちに目を付けられるようになってしまった。
それは政府の高官であったり、悪の組織の首領であったり、果ては世界を裏から支配しようとするカルト宗教であったり。
そういった人達は実力調査や勧誘や排除といった目的で、ご自慢のスーパーカードを投入した最強デッキを片手に次々とこっちに突貫してくるのだ。ぼくの実力に目を付けてる=当然アーキタイプを把握来た上で。
情報アドを取られた状態で、コンボデッキを握る勇気は当然ぼくには無い。そうした事情からぼくは最早クロック・パーミッション無しには生活できない体へと成り果ててしまった。おかげで寝るときすらデッキを握っていないと安眠できない。最悪極まりない話だ。
―よくやりました我が信徒昇太。これで次こそは新たな信徒を獲得出来るでしょう―
「ええ、女神様……」
そんなぼくの耳元に不意に女性の声が響く。その声の方を向けば、“浄化の女神テオトル”……ではなく、“除外”のカードに描かれていた名もなき女神がこの上ないドヤ顔を晒していたのだった。
そう、彼女こそこの世界でも異質とされる存在、“カードの精霊”であり、ぼくをこの世界に呼び寄せた張本人ならぬ張本
この世界にはカードの精霊と呼ばれる不可解な存在がいて、しかも、最も自分と相性のいい人間と組んで日夜覇権争いをくりひろげているのである。
そんなカードの精霊がなぜ異世界人であるぼくを呼び寄せたのかと言えば、この世界の人間に原因がある。
この世界はアヘアヘソリティアゲーマニアの集うBo1世界。当然、それを邪魔するカウンターカードの人気は最底辺。どう足掻いても、“除外”と相性のいい人間など誕生しようがないのである。
初めは彼女を恨んだりもしたけれど、今となっては昔の話。というか、欲しい時にだけトップデッキ出来るカウンターとか、手放せる訳がないのである。
ただまあ、そんな彼女を使いまくった結果、ぼくの渾名は―
「あ、昇太兄ちゃん!!」
「ああ、勝斗くん。こんにちは」
と、つらつらと考えながらカードショップへの道を歩いていると、不意に背後から元気のいい声に呼び止められた。振り返った先にいたのは燃えるような赤い髪を逆立てた見るからに元気の良さそうな男の子。本名を
「今日も牛山コーポレーションの奴らに絡まれたんだって?」
「ああ、うん。耳が早いね?」
「かーちゃんがさっき写真を送ってきたんだよ。ほら」
「あー……」
そう言って勝斗くんが掲げたスマホには確かにカードを握り対峙するぼくと例のリアニメイト使いの姿があった。
「兄ちゃんカード苦手なんだから無理しちゃダメだぜ?」
「あはは、そうだね」
ちなみに、ぼくと彼の対戦成績は3:7。竹を割ったような性格の通りに火属性の速攻を操る彼にはぼくの“クロック・パーミッション”は基本的に手も足も出ず轢き潰されるのが常だ。というか、彼もぼくほどではなくても様々な襲撃を受けてたはずなのによくもまあ純正アグロできりぬけているものだ。
「勝斗くんはこれから双六屋?」
「おう! 今日は月イチの大会だからな!」
「じゃあ、ぼくも行こうかな」
「へへ! そうこなくっちゃ! あ、対戦になったら負けないぜ?」
「あはは。そうだね。こっちももちろん負けないよ? なんてったって
クロック・パーミッションは最強のデッキだからね」
そんな会話をしながら、ぼくはギュッとカードデッキを握る。この世界に来てから、唯一純粋にカードを楽しめる店舗大会。そこに向かう足は知らず知らずのうちに少しだけテンポを早めていた。
●鱸昇太
概要:カードの女神により異世界転移してしまったカードゲーマー。元はオリジナルのファンデッキを好んで使っていたが、勝手に先攻、ソリティアコンボの横行、Bo1というクソ環境な上に敗北すれば命すら落としうる世界観に早々にギブアップ。愛用のデッキを売っぱらってクロック・パーミッションを組んだ。現在好きな言葉はカウンター、ピーピングハンデス、そして墓地対策。
バリバリのメタデッキだが、それでも怖くて今日もカウンターに祈る日々。
●西強勝斗
概要:多分、この世界の本当の主人公。コンボ環境の中で、火力とモンスターだけを武器に連戦連勝を重ねる天才少年。
デッキ相性もあって、主人公()には大幅に勝ち越している。
●除外
概要:カードの精霊。あまりにも低い自分の人気をどうにかするため主人公()を異世界から召喚した。
なお、モンスターではなく、その補助となるスペルカードである。