宣伝も兼ねて、『東方奴像劇 -幻想入りする奴ら-』に投稿予定だった作品を、シングルカット的な感じでお出しします。


以前、短編として投稿していた『見た目でレミリアお嬢様と謁見叶う夢なし大学生って奴』もこちらに統合しておりますので、良かったらどうぞ。
https://syosetu.org/novel/351187/

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河童とのリモート会議でたぶん寝転んでる奴

 幻想郷が誇る技術屋集団、河童。

 屋根の修繕からロケットの打ち上げまで手広くやるその技術力と発想力は、今では幻想郷になくてはならないものとなっている──それがトラブルのタネとなる事もしばしばだが。

 

 

 そんな河童たちの中でも一際存在感を放つ「河城(かわしろ) にとり」は、外の世界で普及していると言う技術をこの幻想郷へ持ち込む事に成功した。

 彼女の自室では、自作のカメラとモニターを楽しそうにセッティングする姿があった。

 

 

「画質は……うん、問題なし。あとは人里や妖怪の山との通信が上手く行くかだけど〜……」

 

 

 カメラとモニターは勿論だが、今叩いているキーボードも、動かしているマウスも、それと繋がるパソコンもケーブルも全て、にとりが外の世界の物を見よう見まねで再現したものだ。

 モニターには四角いウィンドウが表示され、そこにはカメラを通した自分の姿が映されていた。

 にとりは手を振り、映像に不具合がないかを確認する。

 

 

「よぉし、よしよし。カメラの精度も抜群、ラグもなし。本当にあとは通信次第で実用性の確認は終了かな〜……おっと! そろそろ約束の時間だ!」

 

 

 にとりはマイクを用意してから、軽く咳き込みして喉を慣らす。

 その直後、モニターにもう一つウィンドウが表示され、そこに白い壁を背にした男の顔が映される。

 

 

「……えーっと……どうだい? 私の声、聞こえるかーい?」

 

 

 少し遅れて、男が口を開く。

 

 

『あ、はーい。聞こえまーす』

 

「おぉ! どうやらそっちの機械の調子も問題なさそうだね!」

 

『はい。大丈夫そうです』

 

「操作に手間取らなかったかい?」

 

『全然大丈夫でした。と言うよりパソコンって、僕らの世界だったら当たり前と言うか……』

 

「あぁ、そっかそっか! 君たちの世界じゃ当たり前の技術だったね! 素人が専門家の心配するようなもんだね、こりゃ失敬!」

 

 

 お互い、モニター越しに笑い合う。

 にとりが言っていた通り、彼女が話している男は外来人だ。その証拠に今、モニターに映っている彼の胸上の姿は、外来人の仕事着であるスーツ姿だ。

 雑談がてら、にとりがそれに触れる。

 

 

「しかし災難だったねぇ、盟友(めいゆう)! なんでも、将来を決める大事な試練の最中に幻想入りしたんだろ?」

 

『あー……就活ですねぇ』

 

「そうそう、そのシューカツって奴。大事な時期なのに大変だね?」

 

『んまぁ〜……まだ大丈夫です。新卒カードはまだ使えるんで』

 

「はっはっは! いやぁ、外の世界の言葉回しは面白いねぇ! シンソツカードってのも初めて聞いたよ!」

 

 

 そこでにとりは雑談を止め、今回のこの会議の意図を伝え始めた。

 

 

「さてと……確か、『五路(ごろ) 吾郎(ごろう)』くんだったね」

 

『はい。五路吾郎です』

 

「今回のこの……ええと、盟友の世界だったら『リモート会議』?……って言うんだっけ? その技術の再現実験と言う事で、君のいる人里にもリモート会議セットを送って、君と試しでこのリモート会議してみたんだけど……うん。通信の遅れはなさそうだね」

 

『いやでも、これ凄いですよ。僕の持っている奴より高性能です』

 

「おっ! そうかい?」

 

『はい。カメラの具合とか、声の聞き取りやすさとか、ノイキャンも邪魔してないですし』

 

「ちょっとその、のいきゃん? と言うのも、君から聞いた話で私が『こうかな?』って付け加えてみた機能だけど」

 

『いやぁ〜、凄いと思います。なんだったら僕、これ持って帰りたいですね』

 

 

 お互いまた笑い合う。

 肩を揺さぶって笑うにとりに対し、吾郎は生真面目な性格なのか、一切身体を動かさずに笑っていた。

 褒められたにとりは上機嫌に、

 

 

「いやぁ〜。やっぱ外の技術を再現するに当たって、外来人の協力者を付けられたのは幸運だったよ! おかげで制作期間も短期で済んだ!」

 

『お役に立てて良かったです』

 

「……で、この会議をしたもう一つの理由なんだけどぉ……」

 

 

 にとりは困り顔で時計を見やる。

 

 

「……遅いなぁ。君と同じ外来人のハズなのに……」

 

『誰か来るんですか?』

 

「ん?……あぁ! 君には伝えていなかったっけ? 実はもう一台、リモート会議セットを送った相手がいてね」

 

『へぇ〜』

 

「『東風谷(こちや) 早苗(さなえ)』って言う、山の上にある神社の巫女さんなんだけど……なんでも君と、このリモート会議の事言ったら『私もやってみたい』って言って参加したいってんで」

 

『巫女さんですか? いやもう、凄い楽しみです!』

 

「だからその子の家にも送ったけど……操作に手間取ってるのかな。私に限って機械トラブルはないと思うけど」

 

 

 そこで吾郎が、

 

 

『でもビックリです。河童が発明家だなんて。ちょっと僕らの世界のイメージと違うんで……』

 

「キュウリ食べて相撲取るだけが私たちじゃないんだぞ〜、盟友! まぁ、キュウリは好きだが」

 

『頭に皿もあるんですか?』

 

「あーっとあーっと……それを聞くのはレディに失礼だぞ?」

 

『あ、そうなんですね!』

 

 

 身体を動かさずに笑う吾郎。

 つられてにとりも微笑んだものの、すぐにその吾郎の挙動に少し違和感を感じて眉を寄せた。

 

 

「……ん?」

 

『どうしました?』

 

「……あぁ、いやいや、なんでもないよ! それより盟友、実は私、もう一つプロジェクトを抱えていてねぇ」

 

『そうなんですか』

 

「そうなのだよ。なんか……霧の湖のお嬢様が宴会やるから〜って、私になんかイベント事を依頼して来てさぁ」

 

『あっ。プランナーって奴やるんですか?」

 

「んまぁ、そうだね。そこで盟友にもアイディアを聞きたくてね!」

 

『僕で良いんですか?』

 

「まぁ君自身のアイディアでも良いし、外の世界にはこう言う催しがあるよって言うのを教えてくれるだけでも良いから!」

 

 

 にとりに意見を求められ、吾郎は首だけを俯けて考え込む。

 身体を動かさないので、またしてもその違和感からにとりは眉を寄せる。

 

 そんな彼女の様子に気付く事なく、前に向き直った吾郎はアイディアを話し始める。

 

 

『やっぱ、宴会でもリラックスするのが大事だと思うんです。だからリラックス出来るような、雰囲気作りが大事かな思うんです』

 

「ん? うん……雰囲気作りね……」

 

『だからリラックスして貰う為にぃ〜……なんやろ。音楽を流したりとかするのも良いかもです』

 

「あぁ〜……」

 

『あとはなんか、マッサージとか出来る人呼んだりとか。あと僕らの世界だったら、焚き火を眺めるのもリラックス効果があって良いって話もあるんです』

 

「…………」

 

 

 違和感の正体に気付きつつあるのか、にとりは吾郎の提案そっちのけで彼の姿を凝視する。

 その間も彼はお構いなしに話を続けていた。

 

 

『だからキャンピングファイアーみたいなんも良いかなって思います』

 

「…………あのさ」

 

『あと、リラックス出来るアロマとか焚くのも手だと思います』

 

「……いや……あの……」

 

『まぁでも僕、あんまアロマ詳しないですけど……ラベンダーとかぐらいしか知らんかなぁ……』

 

「ちょっと」

 

『まぁなんか、そう言うのの匂いを焚いたりとか』

 

「盟友。あのさ、ちょっと……ちょっと良い?」

 

『え? はい? なんです?』

 

 

 とうとうにとりは彼の話を遮り、尋ねた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………寝転んでる?」

 

 

 にとりがそう指摘するのも無理はない。

 この吾郎、リモート会議が始まってから、首から下が殆ど動いていないのだ。

 それ以外にも良く見たら、後ろの壁かと思っていた物にシワが寄っている気がする。布団の上で寝転がっているのだろうか。

 

 にとりに「寝転んでる?」と指摘された吾郎だが、彼はとぼけた顔で、

 

 

『え? ねこ? 猫の声入ってました?』

 

「いや、猫じゃなくて……寝転んでるかって聞いてさ?」

 

『ねころ……誰がですか?』

 

「いや君なんだけど……ちょっとなんかさっきから違和感が凄くて……良く見たら顔もなんか……むくんでるって言うか……後ろに引っ張られているように見えるって言うか……」

 

『いや……寝転んでないですけど……?』

 

 

 本人からの否定を受け、にとりも「気のせいかな」と首を傾げる。

 

 

「うーん……カメラのせいなのかなぁ……カメラと言うか、画角?」

 

『でも、凄い画質綺麗ですよコレ』

 

「あぁ、そう? ありがとさんね……うん。私の勘違いかな。ごめんね盟友?」

 

 

 そう言って謝るにとり。吾郎は気にしていないと首を振る。

 その際にも違和感があったが、にとりは「気のせい」と割り切った。

 

 

「それで……えーっと……あ、イベントの相談の途中だったね。他にはなにかないかな?」

 

『他ですか? 他ぁ……えぇ? 他かぁ……』

 

 

 アイディアを出しあぐねて、上を向いたり俯いたりする吾郎。

 やはり身体が一切動かない。なんなら上を向いた際に、着ているスーツの肩が壁に張り付いているかのように動いていなかった。

 

 

『うーん……他ですかぁ……』

 

「ちょっとちょっと盟友、やっぱ、あのさぁ」

 

『はい?』

 

「寝転んでるよね?」

 

 

 耐え切れずまた聞く。

 吾郎はやはり、とぼけた顔をして、

 

 

『ねころ……ねこ……え? あ。さっきなんか近くで赤いリボンみたいの付けた、尻尾二本ある黒猫見ましたよ』

 

「だから猫じゃなくてさ……しかもその猫、火車(かしゃ)だと思う……いやそうじゃなくて、寝転んでるよねって言ってるの」

 

『いや……寝転んでないですよ』

 

「……ホントに?」

 

『はい。ちゃんと今現在、座ってますよ?』

 

 

 そうは言われても、にとりは自身の中にある違和感を打ち消せない。

 そこで彼女はとある提案をする。

 

 

「じゃあさじゃあさ、盟友! なんか近くに飲み物ない?」

 

『飲み物……ですか?』

 

「うんうん。ほら、私もこうやって準備しているからさ!」

 

 

 にとりは湯呑みを手に持ち、それを飲んでみせた。

 もし本当に寝転がっていないのなら、普通に飲み物を飲めるハズだ。

 

 吾郎は少し辺りを見回した後、

 

 

『えーっと……僕が外の世界から持って来た、フロストボトルの水ならあります』

 

「ふろすとぼとる? まぁ、なにか水筒みたいな物かな。それでも良いよ、見せて」

 

『はい』

 

 

 そう言って彼は透明なプラスチック製のボトルを出した。

 それを見たにとりは、

 

 

「いやいやいや。寝転んでるでしょ君、やっぱ」

 

『猫ですか?』

 

「そろそろそのとぼけ方白々しいよ君。ほらその、水筒。入ってる水のね、空気の溜まりがさぁ、こっち向いてるんだよ」

 

 

 彼女の指摘する通り、飲み口から入り込んだ空気の泡が、にとりの方を向いていた。普通に立てているのなら飲み口に出来る。

 しかし吾郎は、

 

 

『あー! にとりさん知らないんですか? 外の世界の水はこんな感じなんです!』

 

「なワケないよね? 水なんてどこの世界も同じだよ。私、水に関しては専門家だから。そんな言い訳通用しないから」

 

『寝転んでないですよ』

 

「まぁまぁまぁ、良いよ。蓋開けて飲んでみな」

 

 

 頬杖を突いて、若干意地悪な半笑いで成り行きを見届けるにとり。

 吾郎はまず、頭頂部が見えるほど頭を下げて、

 

 

『なんだこの蓋! 固いぞ!!』

 

「いやいやいや白々しい白々しい。そうやって水溢さないよう開ける為に隠してるんだろ」

 

 

 その後すぐ、吾郎は顔を上げて、飲み口に口を付け飲んでいる姿を見せる。

 飲んだのは一瞬。ただしボトルが画面から消える寸前、口から水がちょっと溢れてしまう。それが頬を横切って流れ落ちる。

 

 

「ほらほらほら。水が頬を横切ったじゃんか。普通にしてたら顎の方へ滴るだろ」

 

『はい。飲めました』

 

「もう一回やって。次、首動かさないで」

 

 

 こうやるんだよと、にとりは湯呑みだけを傾けてお茶を飲む。

 根を上げるかと思っていたにとりだが、吾郎は言われた通りにボトルを口元に近付けた。

 

 物凄く手が震えている上、辿々しく口を窄めている。

 そのままチュルリと水を吸うと、急いでボトルを下ろしてしてやったり顔でこちらを見て来る。

 

 

「いや水筒傾けてなかったから。溢れるギリギリのところで水吸ったじゃん。良くそんなドヤ顔出来るね」

 

『信じて貰えました?』

 

「寝転んでるよね? 絶対。もう確信したよ」

 

『猫なんかいました?』

 

「その誤魔化し方やめよっか盟友? そろそろちょっとキレそうになっちゃうからさ」

 

 

 そんな折、このリモート会議にもう一人の声が入って来た。

 

 

『すいませ〜ん、遅れました〜……』

 

 

 丁寧な口調の少女の声。すぐににとりは、早苗が来たと息を吐く。

 

 

「やっと来たのかい……」

 

『すいません……私がいた頃とはパソコンの仕様も変わってて……』

 

「えーっと……あれ。カメラの映像が出てないな……早苗さーん。今声だけ入ってる状態だからぁ。カメラ起動してくれる?」

 

『カメラですね? カメラ、カメラ……あ、これか。ちょっと待ってくださいね〜』

 

 

 早苗がカメラを起動するまでの間、にとりは困り顔で吾郎に言う。

 

 

「ほら盟友! ゲストが来たからちゃんと座りなよ!」

 

『座ってます』

 

「もう、だからホント……なにがあんたをそう駆り立てるんだい?」

 

 

 もう説得は諦めて、このまま早苗を迎え入れる事にした。

 まぁ彼女ならこの吾郎の態度に大激怒、なんて事にはならないだろうとにとりは考える。久しぶりに外の世界の人間と話せるだけあって、大目には見てくれるハズだ。

 

 

『あ、起動出来そう……あ、出来ました〜』

 

 

 にとりと吾郎の下にもう一つウィンドウが現れる。

 そしてやっと早苗の姿が映った。

 

 

 

 

『はーい、お待たせしました〜。守矢神社の、東風谷早苗です〜!』

 

「寝転んでるじゃんっ!!!!」

 

 

 映った瞬間、にとりのツッコミが入る。

 

 

 

 早苗も吾郎と同じ画角で、しかし彼よりも分かりやすい感じで映っていた。

 

 

「ぜっっったい寝転んでるじゃん!!」

 

『……え? なんです? 猫なんていませんけど?』

 

「なんであんたも同じ言い訳すんのさっ!? 寝転んでるだろ早苗っ!!」

 

『いやいやいや、なに言ってるんです? 久しぶりに外の世界の人と話すのに寝転ぶ訳ないじゃないですか!』

 

「だったらその髪束ねているところなんだよっ!! 思いっきり後頭部に向かって垂れてるじゃないかっ!!」

 

 

 にとりが指摘した通り、彼女の顔の左側にある髪を一房束ねた箇所が、完全に後頭部側へと流れていた。

 

 

『あ、これですか?……あー……ちょっと重力が後ろに……』

 

「んな訳あるかい。あったとしたら異変だよ」

 

 

 まだ気になる所はある。

 

 

「それと、あの……盟友は男だからアレだけど、早苗は女だからさ。もう、胸が……あの、おっぱいがさ、重力で潰れちゃってんのよ」

 

 

 その指摘の通り、やけに早苗は鳩胸だった。

 少し早苗は気恥ずかしそうにしながら、

 

 

『あらら……下着のサイズ、合ってないっぽいです。そろそろ買い替えなきゃいけませんね……』

 

「下着のサイズの問題じゃないって。そう手を加えた感じじゃなくて、自然の法則に従って潰れているから」

 

『それより、外の世界の方とお話したいのですが……』

 

 

 早苗が吾郎に注目する。

 

 

『あっ。あなた様が例の?』

 

『あっ、はい。五路吾郎です』

 

『ほーん……なんと言いますかあなた……その手のベテランさんだったりします?』

 

『いやそんな、全然ですよぉ』

 

『私もまだまだかなぁ……でも、絶対追い抜いてみせます!』

 

『ぜひ頑張ってください!』

 

「寝転びのクオリティの話してるだろ」

 

 

 にとりが遮る。

 

 

「絶対寝転びのクオリティを褒めただろ」

 

『ちょっとにとりさん……さっきからなに言ってるんですか?』

 

「いやまぁ、あんたの後に盟友見たら寝転んでないって錯覚してたかもしんないけど。そんくらいクオリティに差があるけど!」

 

 

 にとりとしても絶対に認めさせてやろうと思い、二人を試し始めた。

 まずは早苗の方に注目し、

 

 

「じゃあさじゃあさ、早苗さん。ちょっと身体を横に揺らしてみてよ。メトロノームみたいに」

 

 

 お手本として左右に揺れるにとり。

 

 

「出来ないんですかねぇ?」

 

『で……出来ますよ!』

 

「じゃあ、どうぞ。やってみて」

 

『……分かりました』

 

 

 言われた通りに左右に揺れる早苗。

 まず身体がそんなに動いていないし、彼女の長い後ろ髪が壁に引っ付いている。

 

 

「寝転んでるじゃん。髪の毛が取り残されてんじゃん」

 

『ちょっと今日……静電気が凄いですね』

 

「静電気な訳ないって。あんたの髪が砂鉄で、壁が磁石じゃなきゃ説明付かないからその髪の動き」

 

『あ、分かりました? 今日ちょっと髪に砂鉄を練り込んでみたんです!』

 

「なにちょっとお洒落したのに気付いて貰えたみたいな感じでめちゃくちゃ言ってんのさ。練り込める訳ないだろ」

 

 

 次に吾郎に対して、

 

 

「じゃあ吾郎くんはさ? そのネクタイの端を摘んで、カメラの前まで持ち上げてみてよ」

 

『こうですか?』

 

 

 言われた通り、ネクタイの端を持って見せつける。

 

 

「じゃあその状態で、指離してみてよ。普通に座ってるんだったら下に落ちるよね?」

 

『……分かりました』

 

 

 やけに緊張した面持ちで、ネクタイを摘む手に集中する吾郎。

 次の瞬間、手を下に振りながら指を離してみせた。

 

 

『ほら、出来ました』

 

「寝転んでるじゃん。もうそれ、指を離したって言うか、下に放ったんだよ」

 

『寝転んでないです』

 

「じゃあさっきの水筒でさ。もう一回水飲んでみてよ。今度はちゃんと傾けて、五秒くらい」

 

 

 そう言われて吾郎はまた、「蓋が固い」事を理由に開ける瞬間を見せないようにし、飲み口に口を付けてチュルチュル吸う。

 

 

「傾けてないから。ほら、底がこっちに見えるくらいまで傾けなって」

 

 

 こうするんだよと言わんばかりに、にとりは湯呑みの底が見えるほど傾けて、お茶を飲み切る。

 少し戸惑いを見せたものの、意を決したように吾郎はボトルを持ち上げた。

 

 

 水が飲み口から氾濫し、吾郎の顔にかかる。

 むせながら吾郎は飲むのを中断した。

 

 

「おーおーおー! 意外とガッツあるんだねぇ盟友!」

 

『ゲホッ!! ゴホッ!!』

 

 

 むせる彼を楽しそうに見るにとり。

 吾郎は濡れた顔を拭いながら、

 

 

『あー……ちょっと勢いあまり過ぎました』

 

「寝転んでるからそんな盛大に溢れたんだよ。もう後ろの壁濡れてるし」

 

『あー! 壁まで水飛ばしちゃったなぁ!!』

 

「いやもう無理だって。なんでまだ粘るんだよ」

 

 

 再びにとりは早苗に、

 

 

「早苗はなんか、飲み物はない?」

 

『飲み物? 飲み物はちょっと……あー……用意してないですねぇ』

 

「じゃあなんか、お菓子ないの? ほら私なんか、輪切りにしたキュウリあるし」

 

 

 そう言って輪切りのキュウリを摘んでポリポリ食べるにとり。

 早苗は辺りを見渡してお菓子を探す。

 

 

『あ……人里でいただいた金平糖(こんぺいとう)がありました〜』

 

 

 その金平糖が入った袋を手に取って見せ付ける。

 にとりは意地悪そうにほくそ笑みながら、

 

 

「じゃあそれ、袋開けて食べてみて」

 

 

 そう指示する。

 早苗は少し戸惑いを見せたものの、緊張した面持ちで袋を開け始めた。

 

 

 開いた途端、ポロポロと金平糖が溢れて、早苗の顔に落ちる。

 

 

「寝転んでるじゃん。もうこれ確固たる証拠じゃん」

 

『わぁっ! 凄いっ!! 奇跡ですっ! 奇跡が起きましたっ!!』

 

「金平糖が顔に向かって落ちて来るってどんな奇跡だよ」

 

 

 金平糖をニコニコしながら食べる早苗。

 幾つか、顔に落ちていた金平糖が更にその顔からも落ちて、壁の上を転がった。

 

 

「壁に付いてるから、金平糖。壁って言うか、それシーツだろ。シーツに落ちてるから」

 

『あ……ちょっとこの金平糖、溶けかけでベタベタしてました!』

 

「金平糖溶けないよ、アレ。水飴あまり使ってないから」

 

『ええと、ちょっと……あっ!! 奇跡っ!!』

 

 

 そう言って早苗は持っていた金平糖の袋を壁に付けると言う暴挙に出た。

 

 

「寝転んでるんだよ。ただシーツの上に置いただけだろ」

 

『今日はなんだか、奇跡が立て続けに起きていますね……あらゆる物が壁に張り付いてしまいます』

 

「奇跡って言葉を都合良く使うんじゃないよ。て言うかそれはもう奇跡ってか怪奇現象だろ」

 

 

 吾郎も持っていたボトルを壁に付けた。

 

 

『あっ! 僕にもその奇跡がっ!!』

 

「助け舟のつもりかよ。もう水がさ、私の方に向かって水平になってるんだよ」

 

 

 追及しまくるにとりに対し、早苗が困り顔で、

 

 

『もう、にとりさんったら……私よりずっと長い間幻想郷に住んでいらっしゃるのに、常識に囚われ過ぎじゃないですか?』

 

「少しは常識を知れ人間ども。幻想郷だからってなにやっても良いと思ったら大間違いだぞ」

 

『そうですよ! もっと柔軟になってくださいよっ!!』

 

「後で張り倒しに行くからね君? 顔びっちゃびちゃでなにいってんだ」

 

 

 もうすっかり疲れ果ててしまったにとりは、もう認めさせるだとかは諦めて、とっととこのリモート会議を終わらせようと考えた。

 

 

「はぁ……あぁ、もう……紅魔館でのイベントの件はこっちでやるから……もう私は退室しまーす」

 

『えぇ!? 私さっき入ったばかりなのに!? もう少しお喋りしましょうよ!』

 

「だったら寝転んでる事認めなよ」

 

『寝転んでないです』

 

「はい、お疲れさんしたー」

 

 

 そう言い残し、にとりのウィンドウが消えた。

 画面上に残っているのは今、早苗と吾郎の人間コンビだけだ。

 

 

『……あー……怒らせちゃいましたね』

 

『そうですね』

 

『仕方ありません……少ししかお話していないけど、今日はここでお開きにしましょうか』

 

『そうですね。またの機会があったら、あの、ぜひ!』

 

『あっ! それでしたらまた今度、守矢神社へ参拝に来てくださいっ! お待ちしておりますので!』

 

『あー、良いですね! またお邪魔します!』

 

 

 それから二人それぞれ、ボトルと金平糖の袋を手に持ち、

 

 

『では最後に……私は金平糖を食べますね』

 

『じゃあ僕は水を飲みますね』

 

 

 そう言って早苗は金平糖を、吾郎は水を。

 それぞれ顔に金平糖と水が盛大に溢れてしまった。


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