疲れて掛かり気味の天動さんと、それを止めようとする鈴村さんの話。

 ※Pixivにも同内容投稿しています。

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天、動く

 

 TRINITYAiLE。当時所属していたバンプロダクションの強いバックアップによりデビューしたそのグループは、ライブバトルで連勝、その記録は無敗記録を持っていた長瀬麻奈にあと一歩迫るところまであった。

 

 NextVenusグランプリでは惜しくも準決勝敗退という結果に終わってしまうが、その実力は高く、アイドル業界のみならず芸能界から一目置かれるほど。

 

 目立った大会では力を示せてはいないものの、直近ではBIG4に次ぐ、Venusプログラム五位の相手を破ったということもあり、新進気鋭のアイドルである。

 

 そんなTRINITYAiLEことトリエルは、トリニティの名が示す通り、三人のアイドルで成り立っているグループである。

 

 元人気子役タレントとして、数々の番組やドラマに出演していた経験のある、奥山すみれ。

 

 とある大企業の社長と、現役の大女優を両親に持つ生粋のサラブレッドであり、参謀役の鈴村優。

 

 そして、その二人を率いているのが、歌、ダンスの全てにおいて完璧と言われた絶対的なセンター、天動瑠依。

 

 百年に一人の天才とまで言わしめ、圧倒的なパフォーマンスで見るもの全てを虜にしてきた彼女は今。

 

 

 

あの男(マネージャー)を犯す」

 

 

 

 絶賛掛かり気味であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 天動瑠依という人物は、疲れ切ったときにいきなり寝落ちしたり、どんな食べ物にグミを入れたがるグミ狂であったり、人の物を強奪して勝手にプレゼントという扱いにしたり、仕事という名目でキスを迫ったりなど、多少お茶目な一面があるものの、普段の振る舞いは優等生そのものである。

 

 貞操観念には問題があるものの、それでも一線は弁えており、いくら相手が信頼のおけて好みの相手でも、決して無理して迫ったりなんてすることはない。

 

 そんな彼女が掛かってしまったのはいくつか理由があった。

 

 その中でも、全国公演で肉体的にも精神的にも疲れていた、というのがやっぱり大きな理由にはなるだろう。

 

 札幌から沖縄まで、全国各地を回ってライブや番組出演を行っていたトリエル。しかし、その疲れを一切見せずやり遂げた彼女たちだったが、やっぱり事務所という落ち着いた場所に戻ってくると安堵から遅れてその疲れがやってきた。

 

 また、最近では同じ事務所のアイドルが自分らより先にBIG4になったという焦りもあり、精神的なストレスが掛かる機会も多かった。同じ焦りは優やすみれも持っていたものの、二人から見ても実質的なリーダーであった瑠依の焦りはそれ以上だったように思える。

 

 それに加え、最近はマネージャーに構ってもらえないことが多かった。全国を飛び回っていたから会えない機会が多くなるのはわかる。それでも、もうちょっと私にも連絡してくれてもいいじゃないか。電話で話したいこともいっぱいあったのに。

 

 瑠依は、星見プロの子たちとのメッセージでのやり取りを見るたびに、そんなことを思っていた。

 

 ここまではよかったのだ。精神的に色々と疲れて、想いが溢れ掛かっている状態。でも、ここまでは我慢できていた。一番の問題は事務所に戻ってきてから存在した。

 

 昼過ぎ、丁度昼休憩の時間に事務所に戻ってきた瑠依が見たものは、ワイシャツの胸元を開けて椅子にもたれかかるように眠っているマネージャーの姿。

 

 天動瑠依は限界だった。

 

 あれはどう見ても誘っている。疲れて帰ってきた私へのご褒美に違いない。

 

 そして前述に戻る。

 

 

 

 

 

あの男(マネージャー)を犯す」

 

「待って瑠依ちゃん」

 

 瑠依の様子を一足先に見抜き、そしてその行動を防いだのは、トリエルの頼れる参謀。鈴村優だった。

 

 彼女は瑠依の前に移動し、その先には行かせないとばかりに立ち塞がる。

 

「優、止めないで。あれはどう見ても誘っているわ」

 

「確かにうちかてそう見える。でも、きっとマネージャーさんのことやから無自覚でやってるんよ」

 

「優、据え膳食わぬは男の恥、なんて慣用句があるわ。これは私のプライドに関わることよ」

 

「いや瑠依ちゃん女の子やんか。そんなところにプライドを使わんといてください」

 

「優、わかるでしょ?私は本気よ」

 

「ちょちょ瑠依ちゃん!ほんまあかんて!」

 

 立ち塞がった優に向かって一歩一歩近づいてくる瑠依。このままじゃ強行突破もあり得ると感じた優は、助けを呼ぶことにした。

 

「す、すみれちゃん!瑠依ちゃんを止めるのを手伝ってくれへん!?」

 

「うーん?」

 

 一方、奥山すみれは事態を飲み込めずにいた。瑠依ちゃんが疲れているのもわかる、でも、おかすってなんだろう?マネージャーに何をする気なんだろう?

 

 すみれは天動瑠依という人物を信頼している。だから、マネージャーに危害を加えることはまずないと思っているし、彼が嫌がることもしないと思っている。だから、優ちゃんがここまで必死になって止めている理由がさっぱりわからなかった。言葉の意味もわからなくて、せいぜい甘えるくらいの認識だった。

 

「別にいいんじゃない?」

 

「すみれちゃん!?」

 

「すみれ、ありがとう。あなたがトリエルに居てくれてよかったわ」

 

「えへへ、こちらこそありがとうだよ、瑠依ちゃん!」

 

「いやいやこんなところで絆を感じるの止めてくれへん!?」

 

 頼れる最年少は純粋さ故に戦力にならない。優はそのことに頭を抱えながらも、どうすれば瑠依ちゃんを止めれるか必死になって考える。

 

 予定表が書かれたホワイトボードを横目に見るが、この時間事務所にいるのは、マネージャーである牧野一人のみ。月のテンペストの子らがまとめてオフになっていたりはするものの、オフに事務所に来ることはないだろう。つまり、助けが来る可能性は低い。

 

「優、私はあなたのことも大切に想っているわ」

 

「瑠依ちゃん……」

 

「だから、二人でやりましょう」

 

「……いやいや巻き込まんといて!」

 

 優は一瞬考えて、すぐさまかぶりを振った。優とてマネージャーのことはそういう目で見たことはあるし、瑠依ちゃんのことも好きだ。でも、ダメだ。ひと時の感情に任せたらきっと後悔する。優の理性がそう語っていた。

 

「お願いよ。今度チョコもんじゃのお店に連れて行ってあげるから」

 

「デートのお誘いは嬉しいけど、お店チョイスが最悪やから心惹かれんわ……」

 

「レタス味のグミもつけるわ」

 

「それで喜ぶの瑠依ちゃんだけやね……」

 

「わかったわ。特別にデラックスグミパフェを奢るわ。二つよ」

 

「いや要らへんし、二つも食べたら胃がもたれてまうわ」

 

「……優、見損なったわ」

 

「そんなこと言われてもダメなものはダメです」

 

 例え瑠依ちゃんに嫌われようと、瑠依ちゃんの想いと貞操は守り通す。それ故の覚悟だった。

 

「……わかったわ。覚悟あってのことなら、私も遠慮しないわ」

 

 瑠依ちゃんの目が変わる。それはいつの日か瑠依ちゃんと本気でバトルした時と同じ瞳で……。これは本気で挑まないと止められないかもしれない。優は静かに息をのんだ。

 

 その時だった。

 

 ちゃりん、と事務所のドアのベルが鳴る。

 

「あぁ!」

 

 助かった、と優は思った。さすがに人がいれば瑠依ちゃんとて自重するだろうし、そうでなくとも止めてくれる仲間になってくれるに違いない。

 

 期待を込めて、ドアが開いた先を見る。

 

 そこにいたのはベージュ髪の縦ロールの少女。月のテンペストの白石沙季だった。

 

「あぁ……」

 

 思わず優の口から落胆の声が漏れる。

 

 いや、沙季ちゃんが悪いというわけではないのだ。むしろ、普段の沙季ちゃんはしっかりもので真面目でダメなものにはちゃんとダメだって指摘してくれる人物。私生活だって、ストイックな瑠依ちゃんを見てきた優でさえも感心してしまうものだった。

 

 けれど、こと恋愛事が絡むと話が変わる。頼りにならないどころか、文字通り硬直してしまうのだ。動かない相手にどう頼ればいいのだろうか。

 

 でも、見方を変えれば恋愛事と捉えさせなければいいのだ。そうすれば助けになる。そう思った優は声を掛けた。

 

「さ、沙季ちゃん!瑠依ちゃんを止めるの手伝ってくれへん?」

 

「沙季、お願い。優を離してくれないかしら?」

 

「え?えっと、とりあえず二人とも落ち着いてください」

 

 沙季は、瑠依と優がお互いに密着している状況に困惑していた。何やら様子がおかしいし、もしかして喧嘩しているのかもしれない。

 

「何があったか説明をお願いできますか?」

 

「簡単よ。今から私はあの男(マネージャー)をレ〇プしにいくの」

 

「え……」

 

「あぁ……」

 

 白石沙季はその言葉を明晰な頭脳で反芻し、そしてその意味に気づく前に脳が限界を迎えシャットダウンした。

 

「レ〇プ?」

 

「すみれちゃんは知らんでええよ。沙季ちゃんを連れて先に寮に戻っとき」

 

「うーん?わかった」

 

 よくわかってなさそうな表情で、けれども自分がお邪魔になっている空気を感じてすみれは頷く。

 

「あ!寮に月ストの子がおったら事務所に連れてきてもらえへん?」

 

「わかった」

 

 すみれは原因がわからずとも、優の必死な言動にとりあえず従おうと再度頷き、白石沙季像を連れ、事務所を後にした。よくできた子である。

 

 とはいえ、依然として事態は変わっていない。

 

「瑠依ちゃん思い直して!こんなことバレたらトップどころかアイドル活動自体が続けられなくなってしまいます!」

 

「安心して。私もマネージャーも口は開かないわ。それとも、優、あなたが語ってしまうの?」

 

「うっ……そんなことはありませんけど、ダメです!とにかくダメなんです!」

 

「何がダメなのかわからないわね。悪いわね、行かせてもらうわ」

 

「あぁ!」

 

 優がかぶりを振った一瞬の隙に瑠依は優の脇を潜り、マネージャーのもとに向かいだす。

 

 優は必死に考えた。どうすれば瑠依ちゃんを止められるか。乱暴に止めるのはやりたくないし、すみれちゃんに頼んだ増援もまだ時間がかかる。とはいえ、自分の声は一向に瑠依ちゃんに届かない。

 

 待った。自分の声は?ならば瑠依ちゃんの大切な相手なら届くんちゃう?

 

 そう思った優は慌てて携帯電話を取り出すと、急いでその相手に着信ボタンを押す。

 

 幸いにもその相手はすぐさま電話に出てくれた。

 

『鈴村、どうした?私も忙しいのだが』

 

「朝倉社長!すみません、瑠依ちゃんが大変なんです!電話変わるんで止めてください!」

 

『わかった』

 

「瑠依ちゃん電話!」

 

 そう言って優は瑠依の手に自分の携帯電話を握らせる。何のことかわかって無さげの瑠依だったが、その携帯電話を耳に当てた。

 

「もしもし?」

 

『瑠依か。……悩みがあるなら聞こう』

 

「パパ?……いえ、悩みなんてないです。ただ、もしかしたら家族が増えるかもしれません」

 

『……そうか。赤飯を用意しておこう』

 

「ありがとう。じゃあまた」

 

『あぁ達者でな』

 

「えぇパパも」

 

「なんでーーーーー!!!!!」

 

 瑠依から丁寧に携帯を返され、優は切れた。未成年の現役アイドルの娘がそういうことをしようとしていたら止めるのが親ってもんでしょう!しかも家族が増えるってどういうことなん!?そこまでやる気なん!?

 

 鈴村優は限界だった。こうなったら最終手段や、と優はマネージャーの下に駆けだした。

 

「優?もしかして一緒にやる気に……」

 

「そんなことしません」

 

 優は一足先にマネージャーの下に近寄ると、その肩を揺する。最初は軽く、しかしマネージャーが中々目覚めないのを見て、勢いよく揺すった。

 

「優!何やっているの!このままじゃマネージャーが起きてしまうわ!」

 

「起こしてはるんよ!マネージャーさんもいつまでも寝てないで起きてください!」

 

「……ぅ……ん?あれ、優どうしたんだ?」

 

「あぁ!マネージャーさん!瑠依ちゃんが大変なんです!後、服もちゃんと整えてください!」

 

「え?あ、あぁすまない。瑠依がどうかしたのか?」

 

「あ、あぁ……」

 

 ワイシャツのボタンが締められ、先ほどまで覗いていた胸元が見えなくなる。瑠依の口から落胆の声が漏れ出した。

 

「いや、まだよ。私はまだ諦めない」

 

「えっと、瑠依?どうしたんだ?」

 

「マネージャーさん逃げてください!襲われてしまいます!」

 

「襲われるって何に……うわっ!」

 

「あーーー!!!」

 

 止める暇もなく、瑠依はマネージャーに飛び込んだ。マネージャーに抱き着き、その胸元に頭を寄せている瑠依ちゃんの様子に、優は思わず声が出てしまう。

 

「瑠依ちゃん!ダメや!ほんまあかんよ!」

 

 優は慌てて二人を離そうと近づき、気づいた。

 

「あれ、瑠依ちゃん?」

 

 マネージャーの胸に飛び込んだ瑠依は何をすることもなく、そのまま止まっていた。もしかして瑠依ちゃんに何かあったんやろうか、なんて考えが優の頭をよぎる。

 

「すぅ……すぅ……」

 

「あ、寝落ちしてはる」

 

 マネージャーの胸の中で寝息を立てる瑠依の姿。瑠依ちゃんは疲労が限界を迎えると自動的にシャットダウンする。元より疲れている状態ではあったのだ。マネージャーに抱き着き安心してしまったのだろう。その体質に今まで困ったこともあったけど、今回はありがたかった。

 

「ゆ、優?俺はどうすれば……」

 

 マネージャーは困惑した様子で、瑠依ちゃんと優を交互に覗く。

 

 その様子に優は少しイラッと来た。一番の元凶の癖に何を呑気にしてはるん。マネージャーさんがあんな誘うような恰好せんかったらこうなってないんです。しかも瑠依ちゃんに抱き着かれとってなんでそんな冷静なん?

 

 けれどもそんな様子はおくびにも見せず、優はにこにこと口を開く。

 

「そういやこの後月ストの子らが事務所に遊びにくるみたいやで。楽しそうでええね」

 

 そう言って、優はマネージャーに背を向けた。

 

「え!?ま、待って!俺はどうしたらいいんだ!?」

 

「瑠依ちゃんとなかよーやっといたらええやん」

 

「こんなとこ見られたら――」

 

 ガシャン

 

 優はその言葉を聞く前に事務所の扉を潜り、扉を閉める。

 

 ちょっと意地悪しすぎたかもしれない。でも、この件を誘いにデートに行く口実にするのもいいかもしれんなぁ。

 

 そのときはうちも甘えてみよか、しばらく会えへんで寂しかったし、できれば夜に二人っきりで……なんて。

 

 そんなことを考えながら優は寮へと帰っていった。

 

 

 

 

 

 

 翌日、牧野は月スト経由で伝わった星見プロ全員に詰められ、落ち込んでいた。

 

 

 


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