最悪なところで更新が止まってしまい、本当に申し訳ない。(ブレイク博士)
夜闇の中で、自分の影に引きずられて歩いていた。行き先など決めていない。ただ、何もかもがなくなってしまったあの場所にいることが辛くて、その残骸に背を向けて逃げてきたのだ。身体が痛む。だがそれ以上に息苦しくて、どこか遠くに行ってしまえば楽になれる気がした。当てもなく寂れた砂の街を歩き続け、——気付けばギラギラとした街明かりの中、家の前に立っていた。
「お帰りなさい、チカゲさん。帰りが遅くなりそうだったので、お迎えに上がろうとしていたところでした」
不意に背後から声をかけられ、私はようやく我に返る。
数拍遅れて振り向くと、そこには影法師のように黒い顔に同じく黒い背広を着た男、形式上私の親ということになっている存在である『黒服』がいた。
車を出そうとしていたのか、これまた真っ黒な車から降りてくる。帰りの遅い娘を案じて車を出す父親の様に見えるが、そんなことはない。怪しい研究と人を騙すことが大好きな碌でもない奴だ。
だがそんな彼も今、私にとって頼ることができる唯一の大人である。気付けば私はその『頼れる大人』に縋りついていた。
「先輩が、ユメ先輩が死んじゃったんです!」
「ええ、そうでしょう」
「お願いです!何とかしてください!あなたならできるでしょう!?」
必死の懇願に対し、黒服は顎に手を当てて暫く何かを考える素振りを見せた。とはいえ、彼が死者蘇生だなんて奇跡のようなまねが出来るかは分からない。ただ何となく彼ならそれが出来るだろうという信頼と、それしか方法が無いと思ったからである。私は彼が口を開くのを今か今かと待っていた。
「いいでしょう――」
その答えに思わず破顔する。——しかし、彼の言葉はそこで終わらなかった。
「ですが、私があの『昏きオシリス』を生き返らせるとして、それだけの奇跡の対価は誰が支払いますか?あなたでも、『暁のホルス』でも、私としてはどちらでも構いませんが、あなた方の持っているものはそう多くありません。それこそ、あなたの『全て』を対価にしてもです」
彼の言うことを理解するのに、私はかなりの時間を要した。人を助けるのに対価が必要、
それでも黒服を頼れば、契約通り助けてくれるだろう。ただし、大きすぎる対価を以て。3年生になったホシノちゃんはそれでアビドスの借金と引き換えに、その身を差し出す。彼女は単なる労働契約としか思っていなかっただろうが、彼にとって
つまり、もし私がユメ先輩を救えたとしても私が犠牲になる。そのことに気が付いてしまえば恐怖と保身が脳裏をちらついて、最早そんなヒーローみたいな自己犠牲を選ぶことは出来なかった。それもまた嫌気が差して、私はどうすることもできずにその場に座り込んだ。
「ええ、よく考えることです。……そんなことより、今日はあなたに会わせたい方々がいまして、着いてきていただけますか?」
黒服は私の様子など気にするでもなく私の手を取り、車に乗るように促した。どうやらこれから予定があるらしい、それも私を伴って。だから態々車を出してまで私を迎えに行こうとしていたのだと、この時になってようやく合点がいった。彼の言う『会わせたい方々』とは、おそらくゲマトリアの大人たちのことであろう。これまで彼らとは会うことがなかった。黒服からそれを求められることはなかったし、私としても態々会いたい連中でもない。だが、もうそんなことはどうだっていい。私は今求められている。ただそれだけのことで黒服の手を取り、促されるままに彼の運転する車へと乗り込んだ。
「付いてきなさい」
サイドガラスから見える景色が、とあるビルの地下駐車場になったところで不意にそんなことを言われた。ここはおそらくアビドスとは別の自治区。そこで黒服は車を降りると、どこかに向かって歩き出した。私はそれを慌てて追いかける。向かった先にはエレベーターがあり、二人でそれに乗り込んだ。彼が不自然な順番でエレベーターのボタンを押すと、エレベーターはさらに地下へと下り始める。狭い空間でお互いに無言だったためとても気まずかった。
ほどなくして、チンと音を立ててエレベーターが止まる。ドアが開くと、そこは想像してた通りの薄暗い空間だった。その廊下を黒服に続いて歩いて行くと、まだ半ばで彼は突然立ち止まり、一つの扉を指差した。
「あなたはそちらでお待ちください。……ククク、きっと面白いものが見られますよ」
それだけを言うと彼は廊下の一番奥にある、いかにもな扉の中へ消えていった。私は薄暗い廊下に一人取り残される。今からでも付いて行こうか迷ったが、呼ばれてもないのにお邪魔しても碌なことにならないだろうし、そもそも好き好んで会いたい連中でもない。だからといって黒服の言う『面白いもの』も信用できない。こんな場所にあるものが真っ当に面白いはずがないのだ。碌でもない連中と碌でもないもの、悩んだ末に私は後者を選んだ。
ゆっくりと扉を開けると、そこからは悪い大人のアジトには似つかわしくない明るい光と声が漏れ出した。
「やはりおかしいと思わないかい?何事にも往々にして意味があるものだ。いや、運命論的な話ではない。例えばパズルというものはピースが全て揃って初めて絵になるものだ。一つでも欠けてしまえばそれは美しくない。あるいは僕らがただ一人であったならばそれはそういうものとして見ることができる。しかしそれを鑑みて今の状況はどうだ。僕たちは既に三人集まっていて、未だ三人しかいない。これでは美しい絵にならない。役者が足りない。つまりは最低でもあと一人以上はいないということはあり得ないということだよ」
「あり得ないと言われましても、もう時間が随分たってますわよ」
「その話、五回目……」
聞こえてくる楽しげな話し声に驚きつつ恐る恐る扉を開けると、そこには
「おお、ようやくお出ましだ!いつまでもそんなところに立っていないで中に入りたまえ」
わけも分からないうちに彼女たちの一人、金髪の少女によって部屋に招き入れられた。
「さて、新たな同胞に自己紹介をしようではないか。僕の名前は
その少女、皇シオンは金色の髪を後ろに流しており、整った中性的な顔立ちとスラリとした体型からまるで若い貴公子のような存在感があった。あるいは慇懃無礼な態度と恭しい言葉づかいによってそう見えるのかもしれない。もっとも、その実態はご機嫌な様子で絶えず言葉を紡ぎ続けるお喋りであり、沈黙とはあまり縁のない人物だった。
「わたくしは
次に名乗った少女、魚口ホムラは燃えるような紅い髪をツインテールにしており、同じくらい紅い瞳を持つ吊り目から気の強そうな印象を受けた。いかにもあのベアトリーチェとは相性が悪そうではある。彼女の言う通りアリウス分校の制服である白いモッズコートを身につけていたが、バニタスとは正反対そうな雰囲気の彼女にはあまり似合っていないように感じた。
「……ショウコ」
最後の小柄な少女が発した言葉が、彼女の名前であることを理解したのはややあってからあった。水色のおかっぱ頭に大きな丸眼鏡という見た目で言葉数の少ない、いかにも陰気な少女。私がこの部屋に入ってきた時にチラリと一瞥をくれて以降、まるで興味なんてないかのように彼女はずっと手の中にある本を読んでいる。
そんなショウコの様子にシオンが不快そうに顔を顰め、心底呆れたといった様子で溜め息をついた。
「全く……、それだけかい?彼女は
「うるさい……」
全く口を開く気のないショウコに代わってシオンが彼女の紹介をした。そのやり取りを見るに二人の仲があまり良好とは言えないようだ。
「さて、我々の自己紹介は終わったよ。次は君のことを教えてくれるかい?」
シオンがやけに期待に満ちた眼差しを向けてくる。私は未だこの状況を飲み込めていなくて、取り敢えず彼女たちに倣って挨拶をすることにした。
「いつも————いえ……私は
しまった。あの男をなんと説明したものか。あの男はまだ『黒服』ではない。こんなことなら、彼が他のゲマトリアのメンバーからなんと呼ばれているのか訊いておくんだった。数ヶ月一緒に暮らしていて未だ名前を知らない男のことに頭を悩ませていると、ホムラから甲高い声が上がる。
「パパ!?あなた、あの黒服のことをパパだなんて呼んでますの!?」
「待って!まだアイツは黒服じゃなくて!それ、に……」
彼女の言うことを否定しようとして言葉が止まる。おかしいのだ、あの男はまだ『黒服』と名乗り始めていないのに、彼女はそれを知っている。さらに、そのことを私に話しても
「驚いたかい?そうさ、僕たちは彼が黒服であることを知っている。いや、もっと正確にいうなら——」
私は開いた口が塞がらなかった。まさか私と同じような者がいるとは夢にも思わなくて、その事実に沈みかけていた意識が強引に引き上げられた。
「未来に起こり得る、この世界の物語を知っている。そしてそれを唯一共有出来る僕たちは特別な存在なんだ!」
「違う。ただの呪い、だよ」
「……ともかくっ、同じ特別な力を持つ者同士、同じ神話を起源に持つ者同士、こうして出会えたことは間違いなく運命だ。仲良くしていこうじゃないか」
シオンがそう言って同意を求めるように話しかけてくるので、私は思わず首を縦に振っていた。しかし残りの2人にとってはそうでもないようで、どうにも冷めた態度である。そのうちの一人、魚口ホムラはこちらをまじまじと見つめると私に問いかけてきた。
「ねぇ、ずっと気になっていたんですけど、あなた何でそんなに血塗れなのかしら?それってアビドスの制服ですわよね、アリウスでもそんな怪我滅多に見ないわよ?」
彼女に言われて自分の格好を見下ろすと、確かに制服は所々破れ血が滲んでいた。顔だって腫れているかもしれない。彼女に指摘されてようやく、私はそのことに気付いた。それはホシノちゃんに殺されかけたからで、もっといえばユメ先輩を死んでしまったせいで————
「……あの日、ユメ先輩が死んでしまったんです」
「へぇ、それで?」
「それでって、なんですか」
「な、なによ。当たり前じゃない」
「お前っ!!」
ホムラの物言いについカッとなって掴みかかろうとしたところでシオンに止められる。
「まぁまぁ、落ち着きたまえ。僕たちにとって『あの日』梔子ユメが死ぬことは知っていた事だし、何もおかしいことじゃない。だけど本当に何があったかは知らないんだ。そうだろう?何せ語り部がいなかったのだから。もし君が知っているのなら、聞かせてくれないかい?『あの日』何があったのかを」
そう、シオンの言う通り未来の物語を知る私たちにとって『ユメ先輩』が死んでいるのは当たり前のことであり、すでに過去なのだ。だからそれが当たり前のこととして扱われるのは当然のことで。分かってはいる、ただ納得ができないだけで。だから私は何があったかを全部話してやることにした。
「……ユメ先輩と始めて出会ったのは4月上旬頃、満月の夜のことでした」
「えっ、そこから話しますの!?」
黙って聞け。ユメ先輩がどんな人で、私たちがこれまで何をやってきて、そして『あの日』何があったか。
「……知らなかったんですもの、わたくしは悪くありませんわ!」
私が全てを話し終えたとき、魚口ホムラはそう言い放ってそっぽを向いた。だがまたいきり立ったりはしない。話しているうちにある程度気持ちの整理がついていたし、そっぽを向いた彼女の表情が非常に苦々しいものだったからだ。ざまあ見ろ。
「成程。まさかセトの憤怒がここで出てくるとはね。それこそ神話の通りってわけだ」
「神話ってなんですの?」
皇シオンが興味深そうに私の話を総括すると、ホムラはその話に便乗するように問いかけた。どうやら話を変えたいらしい。シオンは彼女の質問に対し、待っていたとばかりに朗々と語り始める。
「そう、エジプトのオシリス神話だよ。オシリスは王の座を弟のセトではなく、息子のホルスに譲ろうとする。それに怒ったセトはオシリスを殺して王位を奪いとろうとするんだ。この場合、オシリスが梔子ユメ、ホルスが小鳥遊ホシノ、そしてセトがセトの憤怒だ」
「確かに今の話にそっくりですわね」
「やがてホルスは他の神々と協力してセトを倒し、オシリスからホルスに王位が継承される。……まぁ、神話ならその過程でオシリスが生き返ったりするんだけどね」
「でも、そうはなりませんわ」
そう、アビドスの物語は小鳥遊ホシノがアビドスの生徒会長になるまでの神話を再現したもの。だけど、神話とは違って青春の物語ではオシリスは生き返らない。彼女たちの運命が神話のとおりだというのなら、生き返るところまで再現してしまえばいいのに————
「……そうか、そうだ!だったらいっそ、神話にしてしまえばいいんですよ!」
思わず立ち上がって高らかに声を上げた。
「へぇ、つまり?」
「正体不明の化け物を倒して終わりじゃない。オシリスの復活のようにユメ先輩も生き返らせて、最高のハッピーエンドにしてしまえばいいんですよ!」
「そんなこと出来っこないですわ!だって、『先生』にだって出来なかったじゃないですの」
「『先生』は試そうともしてないじゃないか!まだ誰もやったことないんだよ!」
「当たり前ですわっ!」
光明が見えてきたことで、気持ちが一気に高鳴る。私の発言に一々ケチをつける煩わしい女のことも全く気にならない。
「いいね、それ。もし君が良ければだけど、手伝わせてくれないかい?」
希望は見つけた。しかし具体的にどうするべきかアレコレ考えようとしたところで、シオンが思いがけない提案を持ちかけてきた。その平然とした態度も相まって彼女の言うことは全くの予想外で、私は目を丸くする。
「いやなに。僕はね、この世界に存在するからには何か大きなことをしたいと常々思っていたんだよ。そこで君のやろうとしていることは、僕の望んでいた舞台に申し分ない」
何とも自分勝手な理由であった。しかし私はこれから誰もやったことがない死者蘇生を行うのだ、それにはおそらく知恵も手も足りない。どんな理由であれ、手をかしてくれるなら吝かではなかった。
「それに、何でも一人でやろうとして、また失敗したくはないだろう?」
それは脅しであり助言。ようするに、私一人でやろうとしても
「はい、よろしくお願いします」
私は迷うことなく満面の笑みで彼女の手を取った。私は協力者を得られる。彼女は趣味を堪能できる。お互いにWin-Winな実に良い取引である。しばらく私と彼女はニコニコと笑みを浮かべて、わけもなく見つめ合っていた。
そうと決まれば他の二人も協力者として欲しい。私は彼女たちを見渡した。ホムラはまるで不気味なものでも見ているかのような表情で私を見ていた。だからもう一人の物静か少女から先に外堀を埋める。
「諦めないの?」
意外なことに、声をかけてきたのはショウコの方からであった。さっきまでまるで興味を示していなかったのに、じっとこちらを見つめ、端的な言葉で問いかけてきた。表情が薄くまるで意図は掴めないが、本気で訊いていることは分かる。彼女に対し私は大きく頷いた。
「……いいよ、手伝ってあげる」
「いいんですか?その、何か理由でも」
「…………別に」
それっきり彼女は私から視線を外し、また自分の本に興味を戻した。結局真意は分からなかったが何はともあれ協力的ならそれで良い。いつか教えてくれる日もくるだろう。多分、きっと。
さて、最後に燃えるような赤髪の少女に目をくれる。
「わたくしはやりませんわよ!死者蘇生なんて、どう考えても悪役のすることじゃありませんの! そんな計画に加担したら、わたくしまで悪役じゃありませんの! だから絶っっっ対に嫌ですわ!」
私が何かを言う前に彼女は先んじて拒絶の姿勢をみせた。
「そんなに悪いことですか?」
「はぁ?!だってまさか、あの『先生』が死者蘇生に協力してくれるはずもないでしょう?だったら『先生』と敵対することになる。そしたら私たち、立派な悪役ですわ!」
ホムラの言わんとしていることは理解できる。『先生』に人間を生き返らせる外法に協力してくれと頼んでも、おそらく応じてはくれないだろう。だからきっと『先生』とは敵対することになる。つまり
彼女の言い分からは悪役になることに対する忌諱感、言い換えるなら正義
「お人好しの善人の命を救うことがそんなにいけないことですか?救えるかもしれない命を見捨てることが本当に正しいことですか?理不尽じゃないですか、『先生』の選択だけが正しいだなんて」
「うっ……」
まずは彼女の正義感に語りかける。それだけで彼女の信念は大きく揺らぎ、たじろいてしまう。だが、まだ懐柔の手を緩める気はない。
「それに、この先誰かと対立したり、理不尽に遭ったときにどうするつもりなんですか?例えば、あのベアトリーチェとか」
「そ、そんなものっ、わたし一人でも何とかしてみせますわ!」
彼女は威勢よく啖呵を切ってみせる。しかし、すでに隠しきれないほどには声も心も震えていた。
「ふーん。でもそうやってアビドスの生徒会長が、キヴォトス最高の神秘が、ミレニアムの会長が、ティーパーティが、連邦生徒会が、多くの責任を負う者たちと、……そしてこの私が失敗したというのに?」
つい先ほどの受け売りだがこれはホムラへの脅し文句であるとともに、自分への皮肉でもあった。結局私のやったことも、未来の失敗たちの焼き直しでしかなかったわけだ。その自嘲と、揺さぶりが上手くいっていることに対する笑みを浮かべて彼女の耳元で囁く。
「この世界でどう生きていくにしても、仲間は必要ですよ?だったら、お互い秘密を共有しあえる私たちと協力した方が、身のためなんじゃないですか?」
「うぅ……、あぁもう!分かったわよ、やるわよ!手伝えばいいんでしょう!?あなたに騙されてあげるのも今回だけですからね!」
ホムラは逃れるように身を離すも、やけっぱちな言い方で協力を認める。全くもって手玉にとりやすい奴だ。それを彼女も感じているのか拗ねた様子でそっぽを向いていた。紆余曲折はあったが、これで全員揃った。
「だがどうする?いくら神話にのっとった死者蘇生をするとして、皆んなが納得出来るそれなりの
シオンが当然の疑問を投げかけてくる。それもそうだ、神話でそうなるからといって、放っておけば生き返るならそもそもこんなことにはならない。だからそれ相応のアプローチが必要なのである。私は頭を悩ませた。何せ死者蘇生なんてやったことがないのだから。
「ゲマトリアが、私たちを作ったみたいな……?」
「そう!それですよ!」
ショウコの呟きに大声で振り向くと、提案した本人は驚いたのかビクッと震える。本当に申し訳ない。だが、彼女の考える通り、ゲマトリアが神秘の力で私たちという存在を生み出したというのなら、その力で人が生き返るくらいなんてことないだろう。そうと決まれば善は急げ、私は部屋を飛び出してまた別の部屋に飛び込んだ。
「たのもーっ!」
その部屋には何故かやたらと薄暗い部屋で卓を囲んでいる大人たちがいた。
しかし、そんな容貌違わず危険人物な大人たちといえど突然の乱入者には驚いたのか、その招かれざる客を見て動きを止めていた。彼らの前衛的な見た目を相まって悪趣味な現代美術の展示品のようである。そんな彼らの様子を鑑賞するのも面白いが、今はそんな時間も惜しい。私はその中で最も見慣れた展示物に近づいた。
「ねぇパパ、パパのことだから私たちを作ったときの研究資料みたいなの色々持ってるんでしょう?全部見せてくださいよ」
「……チカゲさん。あそこで待っているように言ったのを忘れましたか?」
「そうでしたっけ?最高に面白いものが見れて忘れちゃいました。それより、私たちを作ったときのデータあるんでしょう?」
ついさっきまでと比べて明らかに機嫌の良い私の様子にか、いきなり現れてとんでもないものを要求してきたことに対してか、表情は読み取れないが黒服は少し困惑しているようであった。
「確かに持っていますが、アレは非常に価値のある研究資料です。そう簡単に見せれるものではありません。そもそも、なぜそんなものを?」
黒服の言葉はここに至るまでに粗方予想していた通りである。彼はいつだってそうだ、契約と対価とそういうのに殊更厳しい。だがそんなことは分かっていたし、とっておきの方法がある。こんな時に便宜してもらうために、「親子」だなんてらしくもない関係を態々作ったのだから。
「自分が生まれたときのことを親に聴くのは当たり前じゃないですか。それに、たまには自分の子供に教育を施すのも親の役目だと思いますけど?」
なんて都合のいい理屈を述べてみるも、当然黒服はあまり乗り気ではないようであった。ならば相応の利益を提示してやればいい。崇高の探究者である彼にとってもさぞ興味深いことだろう。
「パパが色々教えてくれたら、きっと面白い神話の続き、見せてあげる」
「……いいでしょう。但し無闇に見せびらかすことのないように」
「分かってますよ。誰がこんなもの見たいって言うんですか」
誰が好き好んで悍ましい実験のデータなんて見たがるんだ。と思ったが黒服に一笑に付された。私?それはそれこれはこれである。
ともかく、黒服がタブレットを持ち出し何やら操作をすると、私の端末に着信が鳴る。
「データを送りました。期待が裏切られないことを願っています」
「ありがとパパ!大好き!」
そう言って立ち去ると彼は面食らったようにしていた。ちょっとした悪戯だ、可愛らしいものだろう。
真っ赤な貴婦人が面白いものが見れたと口の端を歪めながら背広を着た影法師を揶揄う。
「あら、随分と仲良くやってるみたいね」
「……ええ、そう言われたのは初めてです」
私は黒服から送られてきた研究資料を開封しながら元いた部屋へと戻る。飛び出したときに開けっぱなしの扉から明るい光と声が漏れてくる。
「……一番確実なのは、『先生』にユメ先輩を助けてもらうこと」
「まあそうだね、その方がこの世界の在り方としては正当かな。だがその『先生』にそう思わせる舞台をどうやって用意するべきか」
「もう素直にお願いすれば良いんじゃないですの?」
そこに居るのは性格に難があってイマイチ信用ならないが、頼りになる新たな仲間たち。
「おや、思ったより早かったね。その様子だと上手くいったようだ」
私に気付いたその内の一人の言うことに首肯して、彼女たちの輪に加わる。観劇者として期待する者、どこか物憂げな者、若干不機嫌そうな者、私は彼女たちに笑いかけて宣言した。
「それでは始めましょう。私たちの
うわー!なんか急にオリキャラが増えたぞ!?一体
ところで、あくまでifとして!バッドエンド思いついたんだけど、いります?
折角なら書きたい気持ちと、あんまりひどい話を書きたくない気持ち、心がふたつある〜
バッドエンドifいる?
-
いる
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いらない