ドラルクの提案により半田、カメ谷も同行して調査を行なうと…?
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年々遅くまで残るようになった猛暑がようやく収まりつつある秋の中頃。この日は事務所にて待機の夜だった。
「すみません、こちらで依頼というか相談に乗って頂けると聞いたのですがよろしいでしょうか。吸血鬼が関係しているのかはわからないのですが…」
「あぁはい、どうぞお入りください。どのようなご相談でしょうか?」
ひとりの中年女性が依頼人としてロナルド吸血鬼退治事務所へ訪ねてきた。内心(何でも相談所じゃねえんだけどな…)などと思ったのだが、おくびにも出さないよう努めながらロナルドは対面に腰を下ろす。
「実は今は空き家となっている実家にあるウワサがたっているみたいなんです」
「ウワサですか?」
ドラルクに出された紅茶をひとくち美味しそうに飲んだ彼女は静かに語り始めた。
「私が結婚して以来、実家には両親が2人で住んでいました。でも7年前に母が他界してしまい、それからは父が1人で。『一緒に暮らそう』と提案したのですが母との思い出が詰まったあの家から離れたくないとの一点張りで。その父も昨年あの世へ旅立ちました」
そこで1度言葉を切ると再び紅茶を飲み、カップに残ったオレンジ色の表面を見つめる。懐かしむような、けれども寂しそうな表情で。
「本当は中に遺されている荷物を整理したり処分しなければいけないのは分かっているのですが、どうしても気が進まなくて…。時々家には行きますけど、家全体の空気を入れ替える程度、様子を見る程度で帰宅してしまっていたんです。そしたらつい先日訪れた時にたまたまご近所の方にお会いしまして『深夜に青い光がフヨフヨと家に出入りしているのを見た』って言うウワサを教えてもらったんです」
「青い光…って“火の玉”ってことですか?」
「うーん、この場合は“人魂”といったほうが良いのではないのかね?ちなみにお嬢さんはご覧になったことは?」
『お嬢さん』という言葉に一瞬気恥ずかしいそうに目を瞬いたものの、首を横に振った。
「私自身は普段離れた場所に旦那と子供たちと暮らしていて、夜中は出歩かないために直接目撃したことはありません。ただあの地区担当の新聞配達員さん、真夜中に帰宅なりランニングなりをするご近所さん達が何度か目撃していたようで。ただなかなか昼間に向かう私と行き会うタイミングが無くて…先日ようやく私自身がウワサに辿り着けたんです」
「フム、それだけ目撃情報があるとするとただの見間違いというのは考えにくいですな。しかも外を漂うだけではなく中にも入り込んでいるというと心配になるのも分かりますな」
ドラルクは腕組みをし指を顎にあてながらウンウンと頷くと、依頼人も深く頷いてロナルドに向き直る。
「そうなんです。人魂でも怖いんですが万が一吸血鬼関連だったらと思うと余計に心配で…。ロナルドさん、調査して頂けませんか?」
「お任せください、お嬢さん。この偉大なる吸血鬼ドラルク、ロナルドくんを使って調査して解決に導いてさしあgェブアッ!」ドムスナァヌー!!
「お前が返事をするなクソ砂!ゥホン、失礼しました。確かに吸血鬼の可能性も有りえますから調査いたしましょうか」
ロナルドより先んじてさぞ自分が上の立場かのような態度で返事をしようとしたドラルクを拳にて制止したものの、ロナルドが依頼をキチンと受けると分かると彼女は至極安心した様子で礼を言って『住所の紙と予備の鍵』を預けた。
そして翌日の深夜、現場近くに赴いたロナルド…そして。
「なんでお前がいるんだよ、半田!!そしてカメ谷!ってセロヴェッババビャー!」
「阿呆面なロナルドが火の玉調査でビビる姿を拝むために決まってるであろう馬鹿め〜。あと静かにしろ、近所迷惑になる」
「俺は週バンのネタにいいかな〜って。ガチの人魂でも吸血鬼の術でもロナルドの醜態でもどんと来いだぜ。あと半田、いい加減にしてやれ、近所迷惑になるぞー」
回収したセロリを鞄に仕舞う私服姿の吸対職員・半田と首からかけたカメラで既に何枚か撮っているカメ谷をロナルドが涙目で睨みながら不在のドラルクにラインで詰問するも。
『ごめーん、業ちゃんとクソゲー探しワゴンの旅に行く約束してたの忘れてたから行けないや[テヘペロ]。半田くんに聞けば吸血鬼いるか分かるだろうから頼んでおいた。帰ったら顛末教えてねー ΘゝΘ』
などという文面だったため“ガチで幽霊だったら帰ってからコロス”と返信して依頼人の実家だという空き家に視線を戻す。
件の“人魂”がいつ現れてもいいように、3人は家の正面全体を見張れるよう向かい側の路地に待機していた。
事前に近所の方々には依頼人から話してくれたようで、特に咎められることもなく堂々と隠れての張り込みだ。
そこそこ大きい平屋の戸建て住宅だが、きちんと手入れがされていたのかそこまで荒れている感じではない。
『
「半田、今のところはどうだ。吸血鬼の気配するか?」
「ん……かすかにだが、いる気がする…が弱すぎて分からんな」
「え、それって下等吸血鬼がいるとかじゃなくて?」
そう言いながらきょろきょろと周りを見渡すが特に何も発見できない。そしてそろそろ丑三つ時になろうかという頃だった。
「…!!なんだ、先程の気配がちょっと強く、そして近くなったぞ」
「え?でも特に何も見えない……あっ!!おいアレ!」
半田が吸血鬼の気配をハッキリと感じ取り、目を凝らしていたところそれは現れた。
その動きは確かに“フヨフヨ”という音に合うようなゆったりとした飛び方で“火の玉”に見えなくもない。そいつは玄関前から中庭、屋根の上と移動していき、そして再び一階に降りてきたかと思うと奥の縁側から家の中へ戻っていった。
「中へ入ったぞ。ロナルド、おれらも入るぞ」
「お、おう…マジで人魂じゃん…」
現場での動きをビデオで撮影中であるカメ谷以外のふたりは先に玄関に近付くと、あらかじめ解錠しておいた玄関扉をそっと開いた。
当然ながら中は暗闇が広がっていてスマホの小さなライトで照らす。依頼人から聞いた話のとおり靴箱・飾り棚にアレコレと両親の思い出の品が飾ってあるようだ。
「お邪魔しまーす…。なぁ、気配はアイツ?からしたのか」
「あぁ、動きに合わせて気配も移動していた……。おい居たぞ、奥に気配がする。行くぞ」
半田が気配を感じた方向に向かい静かに歩を進めていく。少しギッと床鳴りする廊下を進み、いくつもドアの前を通り過ぎていく。
「ココだな。ハッキリと分かる」
「ココは、和室だな」
あとから来たカメ谷も追いついたところでそっとスマホの灯りを消して襖を開けてみる。
両親の居間だったのだろうか。中央に置かれたちゃぶ台と壁際にある背の低い和箪笥が暗闇に慣れてきた瞳に飛び込んで来た。
そして、先程の小さくて青い光がふわふわと部屋を飛び回る。幾度も幾度も誰かを探しているかの如く。そして。
「ヒュルヒュル ルリリッ」
高く澄んだ鳴き声をあげながら和箪笥の上に移動したかと思うと、小さかった光がぶわぁっと膨らんでいく。
そのまま和箪笥に着地したその光は鮮やかな青い羽をもつ小鳥の姿になり、その青い瞳でしばらくの間部屋の宙空を眺めていた。
「なんかキレーな鳥だな…」
「なんかあの鳥に似たやつ見たことあるな。たしか『ルリビタキ』っていう名前で“日本版幸せを呼ぶ青い鳥”として人気だとか」
ポツリと呟いたロナルドの言葉にカメ谷が解説をさり気なく入れてくれる。
『たしか小さい頃ヒマリが借りてきた本の中に“幸せの青い鳥”てのがあったなぁ…アレの日本版なんだ〜』
ロナルドがひとり懐かしんでいると、だんだんと光は収縮してきて、最後に“コトン!”と音を立てて光が消えてしまった。
3人は顔を見合わせ頷くと静かに襖を開けて和室へ足を踏み入れた。そのまま壁際の和箪笥まで向かい、状況確認をしてみる。
先程まで“青い光の鳥”が居たところには『ガラス製の小鳥の置物』がさもずっとそこに飾られていたようにちょこんと鎮座していた。その瞳にはサファイアらしき石がはめ込まれており、ライトで照らすとキラリと青く輝いた。
「…半田、これ吸血鬼、なのか?ガラスの置物にしか見えないけど。ちょっと触るのこえー」
「ふん、俺はダンピールだぞ?吸血鬼の気配を間違えるわけなかろう。ただこいつの実体は確かにガラス製だな。力加減が出来んやつは不用意に触らんほうがいい。特にオマエとかなロナルド」
普段ドラルクにも“ゴリラ”呼ばわりされているロナルドはカチンとするも反論ができない。
「そうなるとコレはツクモ吸血鬼、ということになるのか?どうする、コイツ」
うーんと唸りながら半田が指先でそっと鳥の背中を擦るように撫でると、“青い鳥”はくすぐったかったのかビクッと一瞬震えるように動いた。ゆっくりとぱちりと1度瞬きをし、『しまった』と言わんばかりに3人を見上げて、再び置物のフリに戻った。
「本物の鳥みたいだな…。とりあえず俺は依頼人である娘さんには報告しないと。カメ谷は映像か写真撮れたか?コッチにも寄越してくれ。半田、VRCに連れてくか?」
「いくらなんでもこのまま素手では持ち運べん。箱と緩衝材を持ってこさせよう」
吸対へ連絡した半田は、自分を見つめる“青い瞳の青い鳥”へ語りかける。
「…オマエを傷つけたりしないから安心しろ。一度移動するがまたココに戻してやるから」
そうして家を後にしたロナルドにより顛末を報告された依頼人。カメ谷から受け取った映像を見せられると、その光景に涙ぐんだ。
「あぁコレはその昔、両親が結婚記念日の時に訪れた旅行先で母がとても気に入ったとかで買ってきたガラス像です。目のサファイアも母の誕生石ですし…。きっと母が亡くなって以来、父がまめに話しかけたりしてたのかもしれませんね…」
しばらく経つが未だにその部屋は手付かずのまま。
そして今宵もサファイアの瞳を持つ“幸せの青い鳥”は家の中を優雅に浮遊する。
かつてそこに暮らしていた亡き主人との思い出を懐かしむように。