アーマード・コア フェイク・イリュージョンってタイトルだったと思うんですが、それの主人公のリャノンがもし「例のレイヴン試験」に放り込まれてたとしたら、という奴です。
なお、ゲームをやったことがある人ならわかると思いますが、チュートリアルとか言う軟弱な代物など一切なしでいきなり戦闘が始まります。フロムが丸くなる前の作品ですしね。
アーマード・コアという兵器のことを語るならば、一語で終わる。
つまるところ、あれはモジュール化を推し進めた兵器であり、コアと呼称されるコクピット部分すらもモジュール化し、統一規格とすることで成功したものだ。
では、なぜ成功したのか。それは、つまり。
レイヴンと呼ばれる、薄汚い傭兵たちが居たからだ。レイヴンになりたいのか。秩序の埒外で強者として振る舞い、栄光を手に入れたいのか。そう問われて、命を賭してすべてを投げうつ無様な愚か者たちが居たからだ。
ゆえに、私は問おう。
“Wanna be a RAVEN?”
操縦の説明すらされないうちに、コクピットに座らせられる、という経験は、なかなかできるものではない。は、は、と息を吐くが、それでも落ち着かない。彼は、リャノン・シードルと「レイヴンズネスト」に登録したその瞬間、ハンガーに案内されて「戦え」と命令された。ブートアップされたアーマード・コアに乗っている彼は、すなわちレイヴンであった。その実態が、クソと小便を垂れ流しそうになっている無様な青年であったとしても、だ。
百年計画は破たんし、無秩序な「繁殖」を繰り広げているこの地下世界の最大級の都市であり、最大の権力を握っている『クローム』という企業の本拠たる『アイザック・シティ』において、彼はレイヴンとなった。薄汚く、そして『自由』な傭兵にだ。
だが、彼がレイヴンとなるには、ある関門があった。それが、これだった。
「これが……」
衝撃が機を襲う。逆関節、つまりかつては存在していた「鳥」と同じ関節構造を持つ『シュトルヒ』と呼ばれる機が発砲したのだ。
操縦桿から手が離れ、ハーネスすら締めていないリャノンは、コクピットシートに頭を打ち付ける。揺れる意識の中、ハーネスを探していたが、それもまた次の弾丸でさえぎられた。
「くそ……!」
もう、いい、とばかりに操縦桿を握り、機を歩行させる。だが、そうしないうちに再び衝撃。敵の散弾が装甲を打ち据え、そしてオートバランサーが転倒防止のためにたたらを踏ませる。その衝撃に全身を打ち付け、リャノンは絶望の叫びをあげた。
「武器、武器は……」
慌てて武器のトリガーを引くが、左のブレード、つまり高火力のレーザートーチが敵機も何も居ない空間をイオン化させ、切り裂き、ロックオンサイトが一瞬消える。振り切る寸前、またもう一撃もらい、左腕が初期位置に戻った
「なぜ……?!」
どうして何も言わずに発砲してきたのか。混乱する頭で、今度はフットスイッチを踏んでしまう。ブースターから噴煙を吹き出し、そのリャノンは、衝撃で操縦桿を後ろに倒してしまった。ごっ、という鈍い音とともに再びシートに頭を打ち付け、そして試験場の壁面に衝突。視界が白くなり、暗転。
声もなく、音もない。リャノンは頭を振りながら、目を覚ます。目の前には、サーボモーターのきしる音と、砲撃音を響かせるシュトルヒが写っている。そのカメラアイのぎらぎらとして光に、思わず悲鳴を上げた。
ごうんっ、という音が、コクピット内に入力される。右腕のライフルが発砲しているのだ。ロックオンサイトが赤く染まり、照準補正が機能する。薬きょうが排出され、次の弾薬が装填、発砲。敵の装甲を跳ね飛ばし、サーボモーターの油圧装置からはオイルがこぼれ、そして爆炎を上げながら、擱座。
「あ……あ?」
リャノンは、ブースターを吹かす。そうだ。気絶などしていても、殺されるだけだ。これは『殺し合いをその生業とするレイヴンたりうるか』という試験なのだ。シートに体が押し付けられ、敵機との衝突コースを取っていることをAIが指摘する。
「お、おおおお!」
危機感とその他のすべてがないまぜになった叫び。それを喉の奥底からほとばしらせながら、左腕のレーザートーチを振る。その途端、ブースターが機を急速機動。補正。
トーチが振りぬかれ、シュトルヒの右側の砲を溶解、切り飛ばす。だが、左の砲はまだ健在だ。
衝撃とともに、頭を再びシートに打ち付ける。ぬるり、という感触が、ほほと額に伝う。だが。
「くたばれッ!」
着地し、機がたたらを踏むタイミングでブレードを振る指示信号を送る。その途端、再び機の強制補正が実行される。ブレード誘導とよばれる「パイロットをカクテル」にする機動だ。
ごっ、という音とともにひざを敵のカメラアイにぶつけ、そしてその勢いで左腕を突き立てる。レーザーブレードが作動しつづけ、溶融した装甲がぶちまけられ、機を染め上げる。
そのさなかにも、敵は砲撃をやめない。しかし。
アーマード・コアのコンデンサが尽きる寸前、そう、本当に寸前で、敵機は動くことをやめた。
「……は……あ?」
エネルギーがつき、チャージング警告がディスプレイに点る。はあ、はあ、と荒い息をつきながら、リャノンは我に返った。
そして、通信機がピッという音を、立てた。
「認めよう、君の力を」
そして、万古不易。レイヴンにとって最も重要な契約の言葉が、平板な声で発される。
「今この瞬間から」
そうだ、リャノンは『勝った』のだ。彼の命を、この『戦い』であがなったのだ。
「君は」
そう、それは、契約の言葉。彼らが何者であるのか示す言葉だ。
「レイヴンだ」
レイヴン。薄汚い傭兵、と皆は言う。いや、それは違うのだ、と彼は理解していた。
このすべてが計画され、予定され、そして決められている地下世界において。ワタリガラスである。レイヴンである、ということは、何よりも重い。
飛び続けられる鳥は少ない。だが。飛び続けられる鳥は、何よりも強い。
彼は、何からも自由なのだから。
リャノン・シードルという男について語れることは、いくらかはある。レイヴンとしてある時期、活動していたということ。そして、クローム社を打倒し、ムラクモ・ミレニアム社に勝利を与えたということ。だが、そんなことは表面の瑣末な出来事であり、本当の重要事態ではない。
記録によれば、彼はレイヴンズ・ネストというレイヴンを派遣する企業を打倒したのだ。そう、すべてを操り、すべてが予定されていた社会を作り上げていた、ある「もの」を破壊したのである。
それは『管理者』と呼ばれていた。AIたる彼と彼女はナインボールを使い、世界を維持していた。だが、強すぎる力、彼のような「イレギュラー」要素には、一歩及ばなかった。
しかし、その代償は極めて大きかった。確かに、レイヴンズ・ネストによるくびきを確かに彼は打倒し、自由を得て見せた。それは、間違いようのない偉業であり、疑いようのない正義であったといえよう。
そのために流れた血の多さを無視すれば、とも言い換えられる。そう、秩序が壊れれば、どうなるか。少しの想像力があればわかることだった。彼には、その想像力はあっただろう。だが、状況がそれを許さなかった。ために、ネストは破壊された。
その結果が、大深度地下戦争である。地上は汚染されつくしており、居住に適さない。クロームとムラクモ。この巨大な力がともかくも秩序を維持していたところに、それ以外の何かがやってくれば、当然の帰結ともいえる。
だが、この瞬間の彼は、ただの一レイヴンでしかなかった。みっともなくクソと小便を漏らし、口の端から垂れるよだれをぬぐい、吐き気をこらえ、頭を血でぬらす。
そう、ただのレイヴンでしか、なかったのだ。