感情×1.62m/s^2   作:ORC機関

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君と私、青い星と白い星
通常業務


「もうやめてもいいんだよ。」

記憶の彼女が酷く心配そうに言った。

遠い空の向こう、星々の中に青い故郷が見える。

白い鎧の中、人工空気に満たされた狭い空間。

バイザーを開ければ即座に死亡する。

音一つしない空間に自身の呼吸音だけが響いていた。

視線を手元に落とせば見れば白く塗られた小銃。

安全装置を確認し、バッテリー残量を確認する。

「こちらCP、定時確認を行います。」

ヘルメット内のスピーカーからの声が静寂の中に響いた。

「デルタ-1」

「はーい」

「デルタ-2」

「問題なし」

「デルタ-3」

「異常なし」

孤独な空間に仲間たちの声が響き僅かな安心を感じた。

外気は真空中なので気が狂うような静かさで、そんな場所に居ると酷く不安を感じていた配属時が懐かしい。

「デルタ-4?」

どうやら、私の番が来ていたようだ。

無線の向こうで心配そうな声色のオペレーターに応答すべく私は大きく息を吸い込んだ。

「ごめんなさい、問題ありません」

私の声が虚しく響いた。

 

大型の兵員輸送車に揺られ私は窓の外を見ていた。

装甲モジュラー車両の兵員エアブロックの座席から白銀の砂漠を眺めている。

友人達は他愛もない話をしている。

故郷の話や家族の話、そんなことを聞いていると故郷に残した人を思い出した。

私の先輩には妹がいた。

帰りの遅い両親を妹と共に待っていた。

先輩が高校に上がったころ、バイトを始めた彼女の代わりに妹を私の家族が預かったのが始まりだった。

お隣同士仲が良かったこともあり、彼女たちの第二の家となるまでそう長くはかからなかった。

「お前は除隊したら何かしたいことある?」

懐かしい記憶から現実に戻ると、除隊後の話題に移っていたようだった。

「除隊後か」

考えていなかった。

とりあえずお金が必要だった。

先輩の妹、美紀は姉の影響もあって音楽の道を目指していた。

しかし、夢をかなえるにはお金がいる。

「今日を生きるので精いっぱいですね」

私自身、夢を叶えられずに挫折を経験した手前、彼女の夢を応援したかった。

彼女の夢路に掛かる旅費程度の足しになればと私は軍へと入隊した。

命の危険はあれどお給料は高い。

負傷、殉職の手当ても厚く、遺族への手当てもある。

「ほら、旅行したいとかさ」

楽しそうな顔の彼を眺め視線を宙へ向ける。

そういえば、ここに配属になり早二年が経とうとしていた。

定期的な長期休暇で故郷に戻れてもすぐにとんぼ返りだ。

「そうだね...家でゆっくりしたいな」

家族とゆっくり過ごすのも久しいものだ。

不定期で美紀から送られてくる演奏会の録音は基地内でも好評だった。

最近の音楽部はギターも弾くのかと驚きつつ聴いたのはいい思い出だ。

「たしかに、ゆっくりしたいな」

しんみりとした空気がエアロックに広がる。

少し湿った空気を除湿するべく、私は音楽プレイヤーを起動した。

美紀の声とロックな音色がエアロックの人工空気を震わせた。

暗い空の向こうで、今日も彼女は弾いているのだろうか。

 

今日の哨戒業務は終了し、我々は宿舎へと戻ってきた。

重たい白い鎧の閉塞感から開放され、シャワーを浴びた。

清々しい気分で今日の報告書を片付け、穏やかな時間を過ごしている。

「連絡船が来たぞ」

騒がしい廊下に顔を出すと皆嬉しそうに食堂へ急いでいた。

「ほら、郵便だぞ。」

同じ所属の仲間が小走りでやってきて横を通り過ぎていく。

「早く来ないとお前のラブレター音読しちまうぞー」

去り際に聞き捨てならないことを聞いた気がするので、上着を羽織って部屋を飛び出した。

食堂につけば皆、故郷からの郵送物でにぎわっていた。

「ケン、任期満了時の手続き書と空野さんから」

分隊長から郵送物を受け取る。

ビデオレターと録音データ、きっと演奏会の録音だろう。

「お?彼女か?」

いつも陽気な同期が横から覗き込むとニヤニヤとこちらをうかがってきた。

「先輩とその妹、ご近所さんでね」

「あの演奏は妹さんの方だっけ」

きっと録音データの事だろう。

「ビデオレター撮るとき呼べよ、録音データのお礼がしたい」

娯楽の少ないこの場所では定期演奏会や音楽データは貴重だった。

いつ敵の攻撃があるのかわからない、何かの拍子で外壁が壊れれば皆無事では済まない。

そんな不安のを抱えながら勤務している我々に与えられた小さな至福のひと時となっていた。

「新作、聞かせてくれよ」

皆、楽しみにしていたのか飲み物やつまみを用意している。

私も楽しみにしていた。

記念すべき新作の1再生目が月面基地に響いた。

 

「お兄ちゃん、元気ですか。」

「月のウサギは捕まえられたかな?」

「まあ冗談は置いておいて」

「この間のメッセージ見ました」

「基地のみんなも気に入ってくれてよかったです。」

「サークルのみんなも喜んでくれて…」

「この調子ならバンドデビューできちゃったりして」

「ははは…何を話せばいいかわからなくなっちゃった。」

「まだまだ話したいこと、聞いてほしいもの沢山あるんだけど」

「これだけ、最後に伝えます。」

「早く、無事に帰ってきてね。」

 




CODGのキャンペーンモードの宇宙戦や東方の月面戦争をリアル志向で描いた大先輩方々の影響を多大に受けている。
だれか宇宙服着てドンパチするFPSゲーム出して…(欲望)
あ、誤字があったら報告ください。
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