感情×1.62m/s^2   作:ORC機関

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筆が進まない、ヤニが足りないのか…?
着地点が上手く纏まらない今日この頃。
これだから見切り発車は良く無いんだよな。
終わるのか…コレ…(頭を抱えて)


約38万km先のお兄ちゃん

結局あの後華恋とつかさと一緒に情報サイトをひたすら見て過ごした。

別れた後はよく覚えてない。

イヤホンから絶えず流れるニュースが戦況を伝え、気がつけば最寄駅に着いていた。

イヤホンを外しスマホをロックする。

私は夕暮れの街を行く。

足取りは重い、脳内はお兄ちゃんの安否や不安で一杯だ。

何とかお姉ちゃんのお店に辿り着く。

扉を開けるとそこに彼女の姿はなく、お姉ちゃんの友達である楓さんが出迎えた。

「店長、先に帰りましたよ?」

和服の彼女が小首を傾げ、姉の所在を教えてくれた。

多分お姉ちゃんもニュースを見たんだ。

「そうですか」

私の声は今にも消えそうだった。

「店長もそうだけど、何かあったの?妹ちゃん」

普段は糸目の彼女が目を見開いて問う。

「お兄ちゃんが…戦争に…」

「お兄ちゃんって敷島さん?」

彼女がハッとして受付にあるテレビのチャンネルを回す。

報道番組が緊急速報で戦況を伝えている。

死傷者の人数を表示して専門家が当たり障りの無い解説をしていた。

「敷島さんはどこ配属なんですか?」

彼女がテレビ近くの椅子に座り問いかけた。

視線は画面に注がれている。

「今映ってる部隊」

例の対戦車戦闘を行っている前線映像が再度流された。

「FOB-OT6」

楓さんは心配そうに映像を眺めると口を開いた。

「店長もラジオの速報を聞いてから帰宅したんですよ」

「美紀ちゃんも辛いだろうけど、早く店長の所に行ってあげて」

楓さんが椅子から立ち上がり私を抱きしめた。

彼女の温もりに泣きそうになりながら、腕を回して強く抱きしめ返す。

彼女の手が私の頭を優しく撫でる。

「ありがとう、楓さん」

私は彼女から離れるとお礼を言って店を飛び出した。

ここから家はそう遠く無い、街路を走り抜けて自宅へ急ぐ。

日は沈み切り、夜が迫っていた。

門を飛び越え、玄関に手をかける。

鍵は空いていた。

自宅に入れば薄暗い廊下が出迎える。

廊下を抜けてリビングに飛び込んだ。

電気も点けていない薄暗い部屋でお姉ちゃんはパソコンの前で項垂れていた。

「お姉ちゃん…!」

私の呼び掛けにゆっくりと振り返った。

彼女と視線がぶつかる。

彼女は顔を歪ませると大粒の涙が滾れ落ちた。

「美紀…ケンが…!」

彼女の言葉に最悪のシナリオが思い浮かぶ。

そんな筈はない、テレビで生きてる姿が流れていたんだ。

何かの間違いだ。

「意識不明の重体だって…!」

まだ、生きてはいる。

しかしそれはいつ死んでもおかしくはない状態。

パソコンを覗き込む、親族用の安否確認サイトが開かれていた。

彼の状態は戦傷、左大腿部の中度貫通熱傷、右上腕の重度貫通熱傷、失血による意識不明の重体。

現在の所在地は月面医療センター。

送信時間は日本時間の18時。

今から1時間前だ。

「私が帰った時にはまだ大丈夫だったんだ」

「でもすぐに更新が入って…」

そこで言葉は途切れた。

何故なら確認サイトの記載に更新が入ったからだ。

私達は小さな画面を覗き込む。

緊急手術を実施、内容は右上腕の切除。

開始は19時10分、今だ。

足に力が入らない、世界が回っているような感覚がする。

「お兄ちゃん」

私は立っていられず、床に座り込んだ。

「美紀!大丈夫?」

お姉ちゃんは辛そうに顔を覗き込む。

私が首を振るとお姉ちゃんはソファーまで付き添ってくれた。

ソファーの前にある机にパソコンを置くとお姉ちゃんはキッチンへ向かう。

お姉ちゃんが夕飯を作り始めた。

気分を紛らわせるために私はテレビをつける。

毎週この曜日にやっているバラエティ番組が何事も無いように放送されていた。

戦争でお兄ちゃん達が辛い思いをしているのにまるで遠い国の出来事のように変わらない日常が広がっている。

私は嫌な気持ちになったのでチャンネルを回す、ニュース番組が同じ映像を繰り返し様子を伝える。

オクソラ・ヒルは奪還され、一時停戦状態になっていた。

装甲車に攻撃が命中し爆発する様子をドローンが撮影したのだろう。

最後にニュースを見た時と違う映像が流れ始める。

まだ、20分しか経っていない。

テレビを消してリモコンを机に放り投げた。

なんだか落ち着かなくてソファーから立ち上がる。

ふと、窓の外が明るい事に気づいた。

私は窓に近寄り外を眺める。

白い月が明るく私を照らしていた。

誰か、私を月へ連れて行って。

お兄ちゃんのそばに行きたいよ。

私は窓を開けて手を伸ばした。

届かない事は分かっていた、それでも手を伸ばす。

少しでも届く事を祈って。

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